十周年エイプリルフールの恐るべき悪夢


 真理奈がその店を訪れるのは久しぶりのことだった。
「おっかしいわねー。今日って休みだっけ?」
 狭い路地の奥に隠れるように存在する、その小さなドラッグストアには相変わらず客が一人もおらず、はたしてこれで経営が成り立っているのか心配させられる。
 それに加えて、今日は店員さえいない。商品が所狭しと並べられた店内は静寂そのものだった。
 休みなのか……本日、四月一日は年度が替わる特別な日だが、祝日に指定されてはいない。そもそも店のドアが開いていたのだから、営業自体はしているはずだ。
「あいつ、またどっかでほっつき歩いてるのね。わざわざこの真理奈様が顔を見に来てやったっていうのに、まったく失礼だわ」
 真理奈はレジに置かれた店員用の椅子にふんぞり返り、悪態をついた。
 この店のただ一人の店員……いや、店主はよくこの店を空けて外出する──真理奈に言わせたら徘徊だが──悪癖があった。いったいどこで何をしているのかわからないが、酷いときは一日中戻ってこないこともある。不用心極まりないが、不思議とここに物取りが侵入したという話は聞いたことがない。
 せっかく訪ねたが、いないのなら仕方ない。
 真理奈は帰ろうかと思って一度は店を出たが、ふと思いついて店内に戻った。
 わざわざ来てやったのだから、店の奥をあさって飲食物の一つも頂いておこうと思ったのだ。どうせいないのならバレはしない。
「おーい、いるー? 多分いないと思うけどー、いないなら冷蔵庫の中のもの適当にもらってくからねー」
 レジの裏にあるドアを開き、真理奈は奥にある店員用の待機スペースに足を踏み入れた。そこには畳や座卓、テレビ、冷蔵庫などがあり、ゆっくりくつろげることを彼女は知っていた。
 ところが……。
「きゃあああああっ !?」
 突然、真理奈は悲鳴をあげて落下した。
 なぜかドアの開いた足元に直径二メートルほどの丸い穴があいていて、真理奈を飲み込んだのだった。
「なんじゃこらあああああ……どーなってんのよ畜生おおおお、死ねええええ……!」
 どこまでも垂直に落ちていきながら、意味もなく誰かを罵る真理奈。真っ暗で何も見えない穴の中を数十秒も自由落下しつづけた彼女は、急に明るい場所に放り出され、硬い地面に墜落した。
「ぶぎゃああっ! い、痛いっ!」
 おそらく数千メートル落ちたはずだが、地面に激突した真理奈には奇跡的に傷ひとつなかった。とはいえ、さすがに痛みがないわけではなく、尻を押さえて涙ぐむ。
「い、いたたたた……どこよここは……?」
「ま、真理奈さん !?」
 きょろきょろと辺りを見回す真理奈の前に現れたのは、彼女が探していた美貌の少年だった。一応、友人と呼べる間柄だと真理奈は思っている……そして少年の側もそれを否定したことがないため、きっと友達同士と表現していいのだろう。
「あれ? あんた、こんなところにいたの」
 白いワイシャツと細身の黒のスラックスという平凡な高校生のいでたちの彼は、珍しく非常に慌てた様子だった。
「どうして君がこんなところに……早く帰るんだ!」
 日頃、何を見ても聞いても驚かない彼は、真理奈の前で取り乱したことがない。それが今は子供のいたずらを発見した母親のような表情で、驚きと怒りをあらわにしていた。
「帰れって言われても、どーやって帰れってのよ? そもそも、ここはどこ? 地下世界?」
 真理奈は困惑するばかりだった。
 穴の底には信じられない光景が広がっていた。
 白……ひとことで言えばそれだけだった。
 どこまでも続く白く平らな地面と、同じく白いペンキで塗り潰したような無表情の空。建物もなければ太陽も見えない。真理奈が落ちてきたはずの穴も頭上には見当たらなかった。
「あの穴の奥に、こんな場所があるなんて……地面の下かと思ったら、全然違うじゃない。どーなってんのよ」
「ないよ」
「はあ? あんた、何を言ってんの? いったいこの場所は何? あんたの秘密基地?」
「ないんだ……ここには君が言う地下世界なんてなければ、そもそも場所も何もない。君の心を覗いてみたけど、僕の店にあんな穴なんてあるわけないんだ。ここは宇宙が生まれる前の、時間も空間も存在しない状態と同じ……当然、君たち人間が足を踏み入れられるはずがない」
 少年はいつになく深刻な表情で真理奈をにらみつけていた。
「なぜ君がここにいるんだ?」
 その顔は、取り返しのつかない失敗をしてしまった真理奈を咎めているように思われた。
 常にひとを小馬鹿にした笑顔を絶やさない彼が、こんな表情を自分に向けるなど、彼女は思いもしなかった。
「君はここに来てはならなかった。そもそも来れない。でも来てしまった……つまり、そういうことなんだね。ああ、なんて恐ろしい……」
「何をぶつぶつ言ってんのよ。ちゃんと説明しなさいよ!」
「今日はエイプリルフールッッッ!」
 唐突に少年は両手をぱんと叩き、真理奈に背を向けて歩き始めた。
「いきなり何よ……何が何だかわかんないわよ」
「四月一日……一年に一度、皆が嘘をついたり馬鹿なことをやらかしたりする日だよ。そして、君がここに来たということは……そういう日にふさわしい愚行が今から始まるってことさ」
「愚行?」
「こうなったからには、君もそれに参加せざるをえない……踊る阿呆に見る阿呆さ。楽しく踊ってもらうよ。さあ、ついてきたまえ」
 いつになく様子のおかしい少年に、真理奈はおそるおそるついていく。ひたすらだだっ広いこの場所で見失う可能性はほぼないはずだが、万が一にも彼と離れたら二度と生きて帰れないような気がした。
 のっぺらぼうの空と地面以外に何もない異様な世界は、真理奈の感覚を狂わせる。
 どこまでも平たい地面が続いているのに地平線が見えないことから、おそらくここは球形の世界ではないのだろう。
 つまり……地球上ではない。
「いったいどこよここ……不思議の国に迷い込んじゃったの? たしかにあたしは映画に出てくるアリスみたいに可愛いけどさあ」
「図々しいこと言ってないで、早く来なさい。ほら、あれを見て」
 少年に促された方向に真理奈が視線を向けると、そこにソレがあった。
「な、何よあれは……!」
 驚く真理奈が見たものは、白い空間に似つかわしくない真っ黒な人型の物体だった。
 目も鼻も口もない。沸騰した湯のように表面が泡立つソレは、衣服を身に着けていない真っ黒なマネキン人形のようにも見える。口がないのに、時おり人間の悲鳴のような叫び声を発するのもひたすら不気味だ。
「あのバケモノは何? あいつをぶっ殺さないとここから出られないとか、そういうやつ?」
「あれは……せなちか」
「せなちか?」
 真理奈は聞き覚えのない名に首をかしげたが、その概念を少年から説明されると顔面蒼白になった。
「えええええ……あいつが? 初めて見た……」
「十年だ。あれがこのぐったり倉庫に反社会的で不道徳なSSを溜め込むようになって十年。とうとう僕らの前に姿を現したってわけさ」
「なんてことなの……やっとあんたが言ってた意味がわかった。今日は人生最悪の日だわ……」
「覚悟してくれ、真理奈さん。今日は君を……いつもとは違う意味で辱めることになる」
「というと……?」
 この世の終わりのように青ざめた顔の真理奈に、少年は同じ顔色でうなずいた。
「お察しの通りだ。今日の君はいつもみたいに祐介君とエッチなことをして読者の皆さんの性欲にご奉仕するんじゃなくて、あれとメッタメタなお寒い漫才をして、ハリセンや金属バットであれをどつき倒す三流芸人にならなきゃいけない」
「帰るうううっ! あたし帰るうううっ!」
「ダメだよ真理奈さん! ぐったり倉庫十周年の記念すべきエイプリルフールからは逃げられない!」
 全力で逃げようとする真理奈の首を背後からわしづかみにして、少年は暗い顔で笑った。
「わかってくれ、僕だって辛いんだ。何が悲しくて九十年代のライトノベルみたいに、あとがきで作者をお父さんと呼んでトークショーを繰り広げたり、作者の後頭部を金属バットでどついて沈黙させる漫才をしなきゃいけないのか……! 今はいったい何年なんだ? 二〇一九年だろう !? もうそんな時代じゃないはずだ! あいつがよく聴いてるボカロだって世に出てもう十年以上! ナウなヤングの夢は人気のYoutuberになること! それどころかヴァーチャルと一体化したVtuberが人気を博す二十一世紀だ! ああ、僕だって電子の妖精になってみたいさ! バカばっかだ!」
「マジでどういうこと !? ここは二十世紀末の美味しんぼの世界なの !? それとも創竜伝 !? スレイヤーズ !?」
「当時はそういうのが流行った時代だから、それでよかったんだけどなあ……あれから四半世紀がたった今どき、これをやるのは本当に辛い。僕は涙が止まらないよ……」
「あ、でもキノの旅の毎回どこに載ってるかわからないあとがきは好きよ。カバー裏とか帯とかにあるやつ」
「こんなクソみたいな会話ができるのも、今日がエイプリルフールだからなんだよ畜生 !!!!」
 少年は滝のように涙を流した。彼がこれほど感情をあらわにして怒るのも泣くのも、見るのは初めてのことだった。
 やがて彼はどこからともなく金属バットを取り出すと、通り魔が通行人に不意打ちで殴りかかるように、慎重にその黒いマネキン状の物体に近づいていく。
「とにかく、こんな悪夢は一刻も早く終わらせなきゃいけない。僕らがなすべきことは、とっととこいつを動かなくなるほどどつき倒して、このふざけた茶番を打ち切ること……」
「あ、そういえば前から訊きたかったんだけど……」
「しーっ、今はそれどころじゃないんだ。あとにしてくれないか」
「あんたのモチーフってエヴァの渚カヲルってほんと?」
「頼むから黙れアホガールうううぅっ! コキュートスに放り込むぞおおおっ!」
 少年は血の涙を流して思いきりバットを振り回し、黒いマネキンの側頭部を殴打した。砕けた頭部から赤ではなく黒い液体を垂れ流した不気味なマネキンは、地面に倒れてしばらくの間もがいていたが、やがて動かなくなった。
「やった! これでこの悪夢も終わり……明日から僕が何の罪もない女子高生や男子小学生をめくるめく倒錯の官能世界に連れ去る、いつもの平和なぐったり倉庫が始まる……!」
「それはどうかな?」
 挑発的なその声を発したのは真理奈だった。
 少年が驚いて彼女を見ると、マネキンの残骸から流れ出した真っ黒い液体が彼女の足元に集まりつつあった。太陽が存在しない白い世界でその液体が作る水たまりは、ちょうど真理奈の影のようにも見える。
「ま、真理奈さん?」
「この女の体は乗っ取った。こういう展開がなければ萌えないからな。ハッハッハッ」
 真理奈はにやりと笑うと、自慢の巨乳を下品な表情で揉みしだいた。
 何が起きたかを悟った少年は絶望に顔を歪め、バットをとり落として膝をついた。
「な、なんてことだ……真理奈さんの体がヤツに支配されてしまった……!」
「お前にとってこの女は大事な友人、手出しはできまい。さあ、大人しく作者とキャラクターのどつき漫才に付き合ってもらうぞ」
「そんな……お前はそんなにも自分のキャラとメッタメタな漫才がしたかったのか? 馬鹿なことはやめろ! 絶対あとで黒歴史になるぞ!」
「十年だ! 十年に一度くらいはいいだろう! 我慢できないほど恥ずかしくなったら消せばよいのだ」
「消せばよかろうなのだの精神でインターネットをするんじゃない! 炎上するぞ! 十年間我慢したんだったら、二十年でも三十年でも我慢しつづけろ!」
「黙れ小僧! やってみたくなったら仕方あるまい!」
 少年の必死の説得も効果はなく、真理奈は誇らしげに仁王立ちした。
 この瞬間、真理奈はただのいち登場人物の女子高生ではなくなった。ぐったり倉庫の化身として、心ゆくまで少年と漫才を繰り広げることができる全知全能の存在になりおおせたのだ。
「とはいえ、だ……」
 真理奈は爪にネイルアートの施された長い指で少年の顎をつかみ、嗜虐的な笑みを浮かべた。「私もただ君らと楽しいトークショーがしたいわけじゃない。それだけじゃつまらん」
「ほ、他に何かあるのか……?」
「せっかくだからこの機会に、普段公開することのないSSの進捗状況や小ネタを披露しようと思ってな。君はバラエティ番組の雛壇に並んだお笑い芸人よろしく、ときどき私の話に気の利いたコメントの一つもつけ加えてくれたらそれでいいのだ」
「何を言っている……その手の企画は先日の百万HIT記念のページでやっただろう。同じことばかりやってると読者に飽きられるぞ」
「あれは過去のSSの回想だったが、今回は制作中、もしくはそのうち書くかもしれないSSについての話だ。もちろんそれには君も登場する……あれ?」
 と、それまで余裕綽々だった真理奈の態度が豹変して、急に冷や汗を顔にかきはじめた。
「どうした?」
「いや、お前が登場するSSがいくつかあるはずだったが……いま見直したらほとんどなかったわ。すまん」
「ねーのかよ、死ね!」
「狂言回しって難しいな……最近は、できるだけ君が出てこないように書いてる気がする。ちなみに君のモチーフはカヲルよりも当時のラノベの……」
「あれ、ひょっとしてもうトークショーが始まってる !? 早くこいつを殴り殺さないと! 真理奈さんの体だけど、まあいっか真理奈さんだし別に!」
「というわけで、以下は現在制作中、または構想中のSSでーす」



 ■No.1 聖女のネクロリンカ
 「今のところ最優先のSSはこれね。当初はロウ(L)、カオス(C)、ニュートラル(N)の三部作になる予定だったけど……一つ増えそう。というか、Lルートよりそっちの番外編が先に完成しそう。でもDの公開はLNCが全部終わってからにしたいなあ」

 ──LCNの各ルートの意味は何なの? タクティクスオウガやってないからわかんないよ。
 「女神転生とかと同じで、タクティクスオウガは主人公の選択でシナリオが分岐するんだよ。ロウは体制寄り、カオスは反体制、ニュートラルは日和見主義。…まあ二次創作ってわけじゃないから、SS中のL・C・Nの意味はそんなにないけど……一応クリスが入れ替わるキャラの属性に合わせてはいる」

 ──全部OD(女同士入れ替わり)なの?
 「いやCとNがODでLルートがTS、あと番外編が犬……一応TF小説に分類しちゃったからね。一番書いてて楽しかったのは番外編のDルートだったりする。内容はこんな感じ」
 ネクロリンカ Lルート Dルート

 ──ほうほう。でもなんでわざわざ分岐ものにしちゃったの? ややこしくない?
 「同じキャラを使い回すことで書くのが楽になったり、いろんなシチュエーションを楽しめたりするんじゃないかと思ったんだけど……でもそんなことはなかったぜ HaHaHa」

 ──OD・TS・TFと複数分野にまたがる話は、分類がわかりにくくていけないと思います。
 「だって書いてて楽しいんだもん……ぐすん」



 ■No.2 人妻移植
 「ネクロリンカとか他を書いてる間ほったらかしだった……いつできるかなあ」

 ──早く死ねばいいんじゃないかな。放置すると半年、一年は平気でほったらかしにするよね。
 「私が言いたいのは、いつもいつもいつもいつも首挿げ替え小説ばかり書いてるわけじゃないってことなんだけど、なぜかいつも首挿げ替え専門家って言われちゃうの」

 ──いや、いつもいつもいつもいつも首挿げ替え小説ばかり書いてるのでは?
 「真っ当ないちゃラブおねショタ入れ替わりSSが書きたい……でも気がついたら挿げ替えばっかり書いちゃう。ぐすん」



 ■No.3 クビカエ族の儀式
 「もうこれ五年前のSSなのか……気づかなかった」

 ──早く死ねばいいんじゃないかな!
 「前後編の短いSSだし、とっとと完結させます……すみません」

 ──五年もたてば文体や単語の使い方が変わっちゃうから、早く終わらせた方がいいのは明白なんだけど。
 「お母ちゃんの首を挿げ替えるかどうかでかなり迷っちゃって(言い訳)」



 ■No.4 セーラー服を取り替えて
 「えーと……これいつのSSだったっけ?」

 ──二〇一四年三月……やっぱり五年前じゃねーか!
 「首挿げ替え小説の続きを書こうと思ってたら、別の首挿げ替え小説を書き始めて放置してしまうパターンかな、これは」

 ──五年以上も放置するのはさすがに人格を疑う……。
 「そのうち完結させます……すみませんすみません」



 ■No.5 姫の体は誰のもの
 「ときどき無性に書きたくなるプリンセス頭部挿げ替えSSか……村娘や魔女もいいけど、やっぱりお姫様が肉体交換の被害者として一番エッチだと思うんですよ」

 ──本家ぐったり倉庫の更新履歴を見たら、第一話が二〇一三年十一月って書いてるんですけど?
 「エッチだと思うんですよ」

 ──やっぱり人格を疑う……。
 「エッチだと思うんですよ(白目剥きながら)」



 ■No.6 相互隷従
 「みんな忘れてるから、もうこれ放置でよくない?」

 ──とうとう開き直ったダメ人間! 一応聞いておくけど、完結させる気はあったの?
 「ちゃんと全体の話の流れは考えてたけど、長くなりすぎて六割くらい書いて力尽きてしまった……いつか完結させたいです」

 ──たしか僕の妻子が登場する予定じゃなかったっけ。リリスだけほんの少し出てきたけど。
 「そんな話もありましたねえ(遠い目)」



 ■No.7 あの子の手の上で
 「ある晩無性に書きたくなる発作(Hentai Syndrome)が出て、匿名で支援所に投稿したロリショタ入れ替わりSSだ……」

 ──どうして他のSSが終わらないのにそういうことするの?
 「完結させなきゃいけないSSがいくつ溜まってても、無性に新しいものを書きたくなることがあるのです。嫁の体はワシのものも、発作が出てほぼ一晩で書いたし(※体を壊しました)」

 ──そういや、これみたいな一人称のSSって最近書かなくなったような。
 「軽いラノベ風SSを書こうと思うと一人称になり、官能小説っぽいSSを書こうと思うと三人称になる。十年前の初期は前者が多かったけど、最近はエロ重視で後者になりがちだね」

 ──別に一人称でもエロくはできると思うんだけど。
 「感情移入ってことを考えると、たしかに一人称の方がいいんだけどね。まあ書いたことを忘れなければ、エッチなママとの入れ替わりシーンを加筆していずれ図書館に投稿するかもしれません」



 ■No.8 ノルニルの受難(続編)
 ──あれ、この話ってもう終わったんじゃないっけ? 続編?
 「一応、続編の構想はある。本編から数百年後、女神の体を子々孫々受け継いできた王家に起きたハプニングの話」

 ──分類は?
 「ケモノ……特に犬を扱ったTFものになる予定だったんだけど……聖女のネクロリンカの番外編と同じような話になりそうで、ひょっとしたらお蔵入りになるかもしれない」

 ──いつもいつも犬挿げ替えもののTFだと飽きるから、次は猫にしようよ、猫。にゃーん。
 「猫の頭は小さすぎて、人間の首と挿げ替えるのは非常にアンバランスなんじゃ……猫派なのに犬の交尾のシーンばかり書いててくやしいのう、くやしいのう」

 ──トラだとタイガーマスクになっちゃうしね……いっそ豚にすればいいんじゃないかな。
 「身近な動物と首が挿げ替わるコンセプトなんだけど、ファンタジーでも現代日本でも、豚を飼育して散歩させてる人なんてほぼいなくね? らんま1/2かよ」



 ■No.9 頭ぶつけて十人十色(仮題)
 ──何これ?
 「まだ二万字くらいしか書いてない未公開SS。小学生の男の子が、半年から一年ごとに別の人と入れ替わり続けていく集団入れ替わりものなんだけど」

 ──またクソ長そうな代物を……で、どのくらいの量になるの? いつ公開できるの?
 「手抜きしなければ五万から十万字くらいになりそう。今世紀中には完成させたいっすね(白目)」

 ──集団入れ替わりものは話が長くなるからほどほどにしとくって、僕と約束したじゃないですか……。
 「お蔵入りしたらごめんなさい!」

 ──そういうのもういいから(半ギレ)
 「ごめんなさい!」



 ■No.10 魔女×姫シャッフル(仮題)
 ──これは?
 「一万字くらい書いて放置してる未公開SS。魔女の館で怪しい魔法が発動して、魔女と出入りの商人の少年、魔女を訪ねたお姫様、その護衛の女騎士の四人の体が入れ替わる話。題は変えるかも」

 ──で、いつ公開でき……。
 「こっちは三〜五万字で収まりそうな気がするから、まだ望みはある方だと思う」

 ──SSを完成させるさせないの話で『望みはある』って何言ってるの? バカなの死ぬの?
 「最近、いかに不要な文章を削って読みたいシーンだけを読者に提供できるかがSSの秘訣じゃないかと思うようになったんですよ……」

 ──なに今さら当たり前のこと言ってんのって感じ。
 「サウイフモノニワタシハナリタイ(KENJI)」



 ■No.11 名称未定
 ──これは?
 「二万字くらい書いて放置してる未公開SS。文武両道の堅物優等生女子が、おバカなギャルと入れ替わってエッチなことをする王道ODもの」

 ──で、いつ公……。
 「それが、ネクロリンカと同じく分岐ものにしようかと思って……ギャル以外にも入れ替わる相手を複数用意してたら、なんか収拾つかなくなりそう。てへぺろ」

 ──てへぺろじゃねーだろヴォケ。嫌なことから逃げてばかりで、いったい何が完成するの?
 「こういうやりとりは楽しいけど、やっぱり十年に一度で充分かなって思いました(小学生並みの感想)」



 ■No.12 真理奈売ります(仮題)
 ──おっと、少年シリーズの新作ですか。
 「と見せかけて、主役は君でも真理奈でもなく、新規の使い捨てキャラだったりする。怪しいショップで真理奈や祐介の体が販売されていて、顧客は大金を支払ってその肉体と新しい人生を購入するって話」

 ──そのダークな設定だと僕の出番もありそうっすね。さっきはないって言ってたのに、人が悪いなあもう。さーて、出演の準備をしておかないと!
 「お前が出れそうなのはこの一本だけかなあ……それにまだ全然手をつけてないから、いったい何年先になるのやら……」

 ──これは前言撤回して釘バットで殴りかかった方がよさそうっすね……。
 「ごめんなさい!」



 ■No.13 名称未定
 ──これは?
 「ODでもTSでもないタイムリープもの。とある夫婦が子供の頃に時間移動して、中身が大人の男子高校生と女子小学生が夫婦生活をするって感じの話になりそうなんだけど、タイムパラドクスがテーマじゃないから、タイムパラドクスのない疑似的なタイムリープものになるかもしれない」

 ──それだけ聞くと、年齢退行・成長ものの話に近いかな? ときどき女同士入れ替わりに似たような話があるよね。
 「おねショタ編も書きたくなるううう……(Hentai Syndrome)」



 ■No.14 俺が履くのはキッズサイズのガールズローファー(分岐)
 ──分岐とは?
 「本編が挿げ替えものの話だったから、挿げ替えじゃなくてシンプルな入れ替わりVer.でも書いてみようかなって思って。挿げ替えと入れ替わりの違いを強調するために記憶の浸食などを試してみたら、いい感じになりそうではある」

 ──ネクロリンカもそうだけど、既存SSの使い回しは手抜き感が強いっすよ。
 「そうかなあ? ゲームブック形式ならいいのかなあ……えーと、14へ行け……っと」



 ■No.15 直紀と後輩女子の話(仮題)
 「直紀って誰だっけ? そのうち書きたいSS一覧にこの名前があるけど、記憶にない……」

 ──僕の弟子、弟子! 母と娘がマジックペンで挿げ替わるSSの主人公! もう八年前のSSだけど!
 「ああ、あいつか……ダークで深刻な官能小説の責め役にいいかなーと思ったけど、お前や真理奈とキャラがかぶるからなかなか出せないんだよな……」

 ──彼は僕や真理奈さんと違って真面目だから、祐介君をいつも適当にTSさせて「はいはい、どーせ次のSSで元に戻って何ごともなかったことになるんでしょ」って読者の皆さんに思われる僕らみたいなことはしないはず。相手をもてあそぶためなら徹底的にやると思うよ。
 「そんな感じではあるけどなあ。えーと、SSの内容は……イケメン直紀に惚れた後輩の女の子が『何でもしますから彼女にしてください』って告白して、サディストの直紀に酷い目に遭わされる話か」

 ──ほほう……いいゾ〜これ。「私を先輩のものにしてください、オナシャス! 何でもしますから!」って迫られるわけだね。
 「ホモビデオの男優の台詞で告白してくる女子高生ってイヤだな……なお淫夢じゃなくてヤマジュン世代なんで、申し訳ないがそのネタはNG」

 ──どっちもホモじゃねーか! それはさておき、可愛い女の子が酷い目に遭わされるダークなお話と聞いて、僕もアップを始めました。
 「お前の出番ねーから。そもそも直紀とキャラかぶるでしょっていうか、いつもいつもしゃしゃり出てくるお前を登場させないために生まれたキャラだぞ、こいつ」




 ■No.X ほか色々
 ──まだあるの?
 「そのうち書きたいと思ってるネタなら十以上はある。友達以上恋人未満の男子中学生と女子高生が頭を挿げ替えられてトイレに行く話とか、悪ガキが家庭教師のお姉さんの記憶をコピーして優等生になろうとして失敗しちゃう話とか、低身長にコンプレックスを持ってる少年が超高身長の女子と頭を挿げ替えられて……な話とか。水野兄妹の話のリメイクも、いつか何とかしたい。現状、一本書くたび新しいSSのアイディアが三つくらい出てきてゲロ吐いてる感じだけど。当然、たまに頂くリクエストのご要望にも応えられないと」

 ──はあ……短い話でも一、二万字、ちょっと調子に乗ると五万字くらいになるよね。上のSS十五個とその小ネタを合わせると、軽く百万字は超えるんじゃ?
 「マジで辛い……薄いラノベが一冊十万字ほどと言われているので、短編は一、二万字に抑えなきゃいけないと常々思ってるんだけど。文字数が多ければいいってものじゃなくて、短くサクサク読めるSSじゃないと、読む側にとってもキツいわけだし……」

 ──たとえばネクロリンカだと一話三〜四万字くらいでしょ? 入れ替わるシーン以外がかさばってるわけだし、その気になれば半分くらいに削れるんじゃない?
 「SS書きとしてもっとレベルアップするためには、たしかに要らない部分をゴリゴリ削る技術を身につけなくちゃいけない気はする。でもなかなか難しくて現実は厳しい……くやしいのう」

 ──くやしいのうwwwくやしいのうwww
 「くやしいのうwwwくやしいのうwww」



「さて、今日は楽しかったが……」
 スカートの中の黒い下着が見えるのにも構わず、石の地面にあぐらをかいて心ゆくまで馬鹿話に興じた真理奈。彼女は勢いよく立ち上がると、神妙な顔で少年に手を差し出した。
「残念ながらそろそろお別れだ。また十年後のエイプリルフールになるまで、私が現れることはおそらくないだろう。お前は元の世界に戻って、皆を楽しませる仕事を続けてくれ」
「十年後と言わずもう二度と出てくるなと思ってるけど、それはそれとしていい加減に真理奈さんの体を返してくれませんかね」
「ああ、真理奈のことも頼んだ。さあ、この体から出ていくから支えててくれ」
「何か企んでないでしょうね……ほら」
 少年が真理奈の手を握ると、真理奈は少年に支えられて直立したまま白目を剥き、口から黒いゲル状の物体を吐き出した。この世の邪悪と煩悩を凝縮したかのような汚らしいそれは、真理奈の体を伝い、白い地面に染み込んでいく。
「やれやれ、これで元に戻ったかな? 真理奈さんの記憶はあとで消しておかないといけないな。こんな悪夢、忘れた方が幸せに決まってる」
 少年は苦悶に歪む真理奈の美貌を覗き込んだが、その目が不意に細められた。
「おかしい……真理奈さんの体に魂が残ってないぞ。どういうことだ?」
「真理奈の魂は消滅した。これからはお前が真理奈になるんだ」
「なにっ !?」
 驚愕する少年の手が、真理奈の手に吸いついて離れない。二人の肉の境界が融けたバターのように繋がり、少年の腕、肩、上半身が真理奈の体の中にゆっくりと沈み込んでいく。
「し、しまった……! まさか、この僕がこんな手に引っかかるなんて」
「最近出番がないと嘆いていただろう? お前は今から真理奈になって、そのスケベな体でいやらしいSSに片っ端から出演しまくるのだ。もちろんチートめいた妙な力もエッチで怪しいひみつ道具も全て没収。これからはお色気だけが取り柄のおバカなギャルとして暮らすのだな。出番が増えて嬉しいだろう、ハハハハ……」
 先ほどまで少年と話していた相手が、姿を隠したままで彼に告げた。
 卑劣な罠にかかった少年は、魂のない真理奈の肉体にどんどん飲み込まれていく。
「や、やばい……このままじゃ、僕は完全に真理奈さんになってしまう。そんなの嫌だ……ああっ」
 とうとう少年のすべてを取り込んだ真理奈は、正気を取り戻した様子で自分の体を見下ろした。
 身長百七十センチのスタイル抜群の体、化粧の濃い派手な顔立ち……街ですれ違えば多くの男が振り返るであろう美少女は、幽霊のように青ざめた顔でその場に膝をついた。
「ど、どうしよう……僕、本当に真理奈さんになっちゃった。もう元に戻れないのか……?」
 その疑問に答える者はいない。だが、真理奈になった少年には明らかなことだった。
 少年は真理奈になった。二度と真理奈の肉体の外に出られなくなった少年は、魂を失った真理奈の代わりに、残りの人生を無力な女として歩み続けなくてはならないのだ。
「これが僕の体……この僕がただの女子高生として生きていくなんて、こんなのってないよ……あっ、ああっ」
 真理奈は半泣きになりながら自分の豊かな乳を揉み、好奇心の赴くまま新しい自分の体の感触を確かめるのだった。



くぅ〜疲れましたw 十周年エイプリルフールの恐るべき悪夢、これにて完結です!
真理奈、少年、俺「皆さんありがとうございました!」



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