俺が履くのはキッズサイズのガールズローファー 2


 ホタルはスポーツ全般が得意だ。
 部活は水泳部だが、恵まれた運動神経のせいか、球技や短距離走、体操、スキー、スケートなど、多くのスポーツを軽々とこなしてしまう。体を動かすのが好きなのは子供の頃からで、小学校の運動会では人気者になることもしょっちゅうだった。
 しかし、ホタルの両親や妹のルリにはそうしたアスリートのような傾向は見られない。ホタルだけが突然変異で生まれてきたのだろうと聡一郎は分析している。明るく人当たりが良く、スポーツが好きな女子高生が、聡一郎の恋人だ。
 そんなホタルが、聡一郎に強烈なスパイクをお見舞いした。
「うげえっ !?」
 白いボールが聡一郎の体めがけて打ち込まれ、まともに腹に直撃した。女子小学生用の体操着を身に着けた華奢な聡一郎は後方へと吹き飛び、派手に床を転がった。とっさに受け身をとれたのは奇跡だった。
「大丈夫 !? 聡一郎君!」
 チームメイトの女子らが心配そうに駆け寄ってきたが、痛みと息苦しさでまともに返事ができない。聡一郎は情けなくも目に涙を浮かべ、床に寝転がってしまった。
「ホタル、お前なあ……」
「ごっめーん! 聡一郎、大丈夫 !?」
 コートの反対側にいたホタルも慌ててやってきた。聡一郎にボールが直撃して転倒するのはこれで三度目だ。さすがに辺りの女子たちも、「ちょっとやりすぎじゃない?」とホタルを責める言葉を口にする。バレーボールのゲームは一時中断となった。
「いてて……ホタル、もうちょっと考えてくれよ。この小さな体じゃあんなボール受けられねえよ」
「ごめんごめん。あんたには当たらないコースのはずだったんだけど、手元が狂っちゃって。言っとくけど、わざとじゃないからね?」
「わかってるよ。わかってるけどさあ……」
 聡一郎は痛む手足を叱咤して立ち上がった。チームメイトも相手チームの選手も、みな聡一郎より頭一つ分以上は背が高く、長身の女子であればその差はゆうに五十センチほどにもなる。身長百二十センチ台の小柄な女児の体で女子高生に交じってバレーボールをするのは極めて困難だというのが、この試合から得られた結論だった。たとえ非力な子供の体でも、それを動かしているのが男子高校生の頭だから何とかなると一瞬でも思ったのが間違いだった。
「ああ、情けねえ。女子のバレーでこんな目に遭うなんて……この体じゃやっぱりダメなのか? いてててて……畜生」
 クラスメイトの男子どころか、女子でさえまともに相手にならない。厳しい現実を突きつけられ、聡一郎は暗澹たる気分になった。大勢の視線を浴びる中で目頭が熱くなり、恥の上塗りを重ねた。
「あんた、腕のここが脹れてない? さっきのでぶつけたかしら……」
 ホタルは怪我人となった恋人を憂いた。いてもたってもいられなくなったのか、紅葉のような聡一郎の手を握ってかがみ込むと、憮然とする彼女に背中を向けて密着してきた。
 何をするつもりかと思う間もなく、体重二十キロ台の聡一郎の体が一気に持ち上げられた。前のめりになったホタルの背に自分が覆いかぶさる形で背負い上げられ、聡一郎は慌てふためいた。
「うわあっ !? な、何するんだよ、ホタル!」
「皆、ごめん! 私、聡一郎を保健室に連れていくわ!」
「お、下ろせよ! 俺、ひとりで歩けるって!」
 母親に背負われる子供の姿勢で持ち上げられる聡一郎に、クラスメイトの女子全員が目を丸くしていた。晒しものになる羞恥に頭が沸騰して脚をばたつかせたが、ホタルのしなやかな腕が後ろに回され、哀れな聡一郎が落ちないようにしっかりと支えていた。
「わかったわ。保健室でちゃんと手当てしてもらってね、聡一郎君」
 女生徒たちは口々に見舞いの言葉を述べ、快く二人を見送ってくれたが、肩を震わせ笑いをこらえている者も少なくない。
「見てよ、あれ……完全にお姉ちゃんにおんぶされる妹じゃん。可愛すぎるって」
「ホントに可愛いわねえ……ああ、あたしもあんな妹が欲しいなあ。ホタルに頼み込んだら譲ってくれないかな? あたしも可愛いソーイっちゃんをおんぶしたい。抱っこして頬ずりしてあげたいよ」
 そんなからかい半分の囁き声が背後から聞こえてきて、聡一郎は顔から火が出そうだった。皆の反応も無理はない。テニス部に所属していたクラスメイトの男子生徒が、今は小柄な女子小学生の体になって恋人の女子におんぶされているのだ。たとえ今の聡一郎の外見に好意的な者であっても、沈黙の無表情を保つのは極めて難しいだろう。
「は、恥ずかしい……頼むから下ろしてくれよ、ホタル。自分で歩けるから……」
「今は恥ずかしいとか言ってる場合じゃないでしょ! ほら、早く保健室に行くわよ」
 すっかりホタルの幼い妹に成り下がった聡一郎は、頼りになる姉におんぶされて体育館をあとにした。怪我をしたとはいえ、何もできないまま体育の授業から離れたくはなかった。しかし、これ以上コートに留まって競技を続けても生傷が増えるだけなのは確かだった。
 人けのない廊下にくると、心細くなった聡一郎は恥じらいを捨ててホタルの背中にしがみついた。転んだときに痛めた右腕は、幸い捻挫や骨折はしていないようだった。軽い打撲は確かにある。しかし、それ以上に心の傷が大きかった。現役のテニス部員として間違いなく平均的な男子よりは体を動かせる自信のあった自分が、まさか女子の中でさえお荷物扱いとは。あまりの情けなさに涙が止まらなかった。
「うう、畜生……畜生……」
「ごめんね、聡一郎。あんたにケガさせちゃって……ルリにも後で謝っておかないと」
「グスッ、別にいいよ。これくらい大したことねえから。ホタルはいつも通りにプレイしたんだろ? 皆についていけない俺がダメなんだ。ホタルが謝ることねえよ」
「そんな言い方……聡一郎、ホントにごめんね。次から気をつけるから……」
 傷の痛みと恥ずかしさ、無力感に苛まれる中、ホタルの温かい背中だけが聡一郎の支えだった。自分を担いで歩くホタルが、本当に自分の姉か母親のような気がした。
 そのまま保健室に連れていかれるはずだったが、途中、聡一郎はホタルに懇願し、トイレに立ち寄った。尿意を覚えたついでに、ほんの少しの間だけでもトイレの個室で独りになろうと思った。心配そうなホタルを外に待たせ、ようやく泣き止んだ聡一郎は女子トイレの個室に入り、冷たい便座に腰を下ろした。
「はあ、なんでこんなことになっちまったのかなあ……」
 いまだ毛の生えないつるつるの股間から小水を噴き出し、聡一郎はぼやいた。二週間前のあの日、ルリと体の首から下だけが入れ替わってから、幾度となく口にしてきた言葉だった。入れ替わった原因はいまだにわからず、元に戻るあてもまったくない。
 九歳の女児の体に、十七歳の男の頭部。奇妙奇天烈な外見の女子はため息をつくと、トイレットペーパーを千切って小便の後始末を始めた。股間に本来あるはずのものがないこと、その喪失感は耐え難いものだった。
 小さな割れ目に柔らかな紙を押し当て、丁寧に拭く。男だった頃は小便の後は軽く竿を振って尿を切るだけで済んでいたのに、随分と手間がかかるようになってしまった。学校側からは女子トイレを使うように言われているが、休み時間のたび女子トイレの前に行列ができるのにも異文化を感じる。女子は面倒、というのが率直な感想だった。
 そして、面倒なのはそれだけではない。現在進行形で、聡一郎に新たな試練が訪れていた。
「え? なんだこれ……血か? どうしてこんな……」
 股間を拭いたトイレットペーパーに赤みを帯びた粘液が付着していたことに、聡一郎は気づいた。腹にバレーボールの直撃を受けたせいかと一瞬疑ったが、決してそうではなかった。
「ホ、ホタルーッ、ちょっと来てくれ!」
 羞恥心も男のプライドもかなぐり捨て、真っ青になってホタルを呼ぶ聡一郎。
 彼女に招かれてトイレの個室の中に入ってきたホタルは、事情を聞くと半裸の聡一郎に大きく股を開かせ、念入りに股間を調べた。
 下の体操着と子供用のショーツを脱ぎ捨て、下半身は靴下だけの姿だった。便座の蓋カバーを下ろしてその上に仰向けになってひっくり返り、ホタルに陰部を披露する恥ずかしい姿勢だったが、それも気にならないほどに聡一郎は動揺していた。
「怪我をしてるわけじゃないみたいね。お股のどこにも傷がないわ。これはひょっとして……」
 ホタルは真剣な顔で、尿の雫が残る聡一郎の女陰を優しく指でまさぐり、出血源を確かめる。排泄と入浴のときほんの少し触れるだけのデリケートな場所を、十七歳の少女の指が這い回った。
「ううん、くすぐったい……こ、これ、血が出てるんだよな? 大した量じゃないみたいだけど、なんでこんなのが……ひょっとして俺、病気なのか?」
「違うわ。これは多分……生理ね」
「生理ぃっ !?」
 幼い女の子になった少年は仰天した。男だった頃は想像もしなかった現象が自分の体に起きていることを告げられたのだ。
「ルリはまだ初潮がきてないはずだけど、始まってもおかしくはない年齢だわ。私は小学六年生のときだったけど、ルリは私より随分と早いみたいね。その体、もう生理がきちゃったのよ。わかる? あんた、赤ちゃんが産める体になっちゃったのよ」
「そ、そんな……ありえねえよ」
 落ち着き払ったホタルとは対照的に、聡一郎は幽霊でも見たかのように震えていた。
 まさか自分に初潮がくるなど、ありえない話だ。しかし聡一郎のものになったルリの体は少しずつ成長を続け、そして本日、女として本格的に機能し始めたのだ。嬉しいとか嫌だとかいった感想はまったく思い浮かばず、ただ目の前の現実が信じられなかった。
「とにかく、ここで待ってなさい。私のナプキンを取ってくるから、今日のところはそれを使ってちょうだい」
「ナ、ナプキンって、生理用品のか? 俺がナプキンを使うなんて……」
「仕方ないでしょ? あんただって今は女の子なんだから、そのうち生理だって始まるわよ。ルリに初潮がきたら家族みんなでお祝いしてやるつもりだったけど、こうなったらあんたに言うしかないわね。おめでとう」
「め、めでたくねえよ。全然めでたくねえ。どうするんだよ、俺……このまま元に戻れないと、ルリちゃんの体でどんどん大人になっちまうぞ」
 想像するのも恐怖だった。初潮が到来し、乳房が膨らみ、股間の土手に黒々とした陰毛が生い茂る。聡一郎の首の下の体はいつか成熟した女へと変貌し、男と性交して子供を産む能力が備わる。今まで平凡な男として生まれ育った身には辛い宣告だった。
「確かにそうね。元の体に戻る方法が見つからなかったら、あんたは一生そのまま女の子として生きていかなきゃいけないわ。私はあんたが女の子でも好きだけど……」
 とってつけたようなホタルの優しさが身に染みる。聡一郎はホタルに貰ったナプキンを下着につけ、初めての経血に対処することになった。
 本来ならば、ルリが迎えるはずだった女の人生の節目を、自分が代わりに体験する。ルリの大事なものを盗んでいるような気がして、聡一郎は罪悪感を抱かずにはいられなかった。
 早く元の体に戻らなければ、自分はますますルリを奪ってしまうことになる。焦り、悲しみ、悔しさのないまぜになった感情を胸に、聡一郎は大人の女へと続く階段を一つのぼったのだった。

 ◇ ◇ ◇ 

「ただいま。ルリ、いい子にしてた?」
 スーパーマーケットの袋を両手に提げてホタルが帰宅すると、ルリはリビングで子供向けのアニメを観ているところだった。一緒に買い物に連れて行こうかとも思ったのだが、毎週この時間のルリは家でお気に入りのアニメを観るのが習慣のため、留守番を任せた。
「お帰り、お姉ちゃん! 今日のご飯はなあに?」
「パスタにしようかと思って。ルリ、カルボナーラは好きかしら?」
「うん! あたし、パスタ大好き!」
 ソファにもたれかかり、嬉しそうにうなずくルリ。非常に機嫌がいい妹の姿に、ホタルの顔もほころんだ。
 今日は両親が外出して不在のため、ホタルが夕食を作ってやるつもりだった。外食できるだけの小遣いはもらっているが、幸い部活動のない日でもあることだし、自炊で節約を図ろうと思ったのだ。腕に自信がなく大したものは作れないが、たまにならいいだろう。
 ホタルはさっそく買い物袋から野菜を取り出し、鍋や包丁の準備にとりかかった。パスタの他にはポテトサラダを作る予定だ。じゃが芋の皮を剥いて熱湯に放り込み、胡瓜や人参を細かく刻む。
 料理は嫌いではなかった。制服のブレザーの上にエプロンをつけて調理に勤しむのも、学校の授業や部活動の水泳とはまた別種の楽しみがある。
「そういえば聡一郎のやつ、お赤飯は食べたかな……?」
 鍋の中のじゃが芋を眺めつつ、ホタルはひとりごちた。ホタルの彼氏だった聡一郎は、幼いルリの体と入れ替わり、本日、初潮を迎えた。思っていたよりも少し早かったが、基本的にはめでたいことだ。
 問題は、二人の体の首から下だけが入れ替わっている奇妙な状況にあった。聡一郎とルリの首が挿げ替わって既に二週間が経過していたが、元に戻る方法どころか、挿げ替わった原因さえいまだにわからない。ホタルも両家の親たちも病院の医師も首をかしげるばかりで、打つ手のないありさまだ。
 首から下だけが九歳の童女になった男子高校生と、首から下だけが十七歳の少年になった女子小学生。奇怪な外見を有する二人もいつまでも自宅に引きこもってはいられず、ときどき顔と髪型を隠して外出するようになった。鬱屈した気持ちも、外に出て陽の光を浴びると多少は改善した。
 聡一郎とルリ、二人の体が入れ替わってしまったことは大勢の目撃者たちによってすぐさま広まり、学校中の噂になっていた。こうなったら今さら隠し通すこともできないため、いっそ開き直り、聡一郎とルリは試しに入れ替わった体で登校してみることにした。
 無論、たちの悪い級友にいじめられたり、取材に来たマスメディアにつきまとわれたりする懸念はあった。もしそうした被害に遭うようならば、二人揃っての転校も考えなくてはならないだろう。
 しかし、聡一郎の心配は現実のものとはならなかった。胸に大きなリボンのついた初等部の女児の制服に身を包み、黒い光沢を放つキッズサイズのガールズローファーを履いて高校にやってきた聡一郎を、クラスメイトたちは全員で歓迎し、仲間として認めてくれた。ホームルームにて熱心に議論された結果、元の体に戻るまでの暫定的な措置として、聡一郎の体育の着替えやトイレは女子と同じ扱いということになった。
 それ以来、女児になった聡一郎は学校にいる間は恋人であるホタルと一緒に着替えをし、便所に行き、常に行動を共にするようになった。クラスメイトから信頼のあついホタルが世話をし仲立ちになることで、性転換した聡一郎を皆が受け入れやすくなったのだ。こんな異常事態が起こる前もホタルに何かとリードされていた聡一郎だが、入れ替わってから彼女にはますます頭が上がらなくなった。
 一方、ルリの方も問題なくクラスメイトたちに受け入れられたようだ。身長百七十センチ強の均整のとれた少年の体を所有するルリに、友人の小学三年生たちは特に怯えるでもなく、自然に接してくれているという。聡一郎もルリも、良い友達に恵まれたことを感謝しなくてはならなかった。
 そんな聡一郎に、本日、初めての生理が訪れた。かなり動揺していたようだが、何しろ女子の体になっているのだから、いずれは経験しなくてはならないことだった。首から下が妹の体になった彼氏に、ホタルは様々なアドバイスをして生理用品を手渡し、初潮を迎えた女子の心構えを伝授してやった。
 しかし、果たして聡一郎は元の体に戻れるのだろうか。現状ではその期待はもてず、時間だけが無慈悲に過ぎ去っていく。
 否応なく聡一郎のものになった九歳の女体は、既に大人の女性へと成長し始めていた。やがて聡一郎の胸は膨らみだし、ホタルと一緒にブラジャーを買いに行かなくてはならなくなるだろう。もしかしたら、やがて子供を産んで母親になることもあるかもしれない。少なくとも受精し出産する能力はあるのだから、その可能性だって決してゼロではないのだ。
「聡一郎、いつ元の体に戻れるんだろう……それとも、本当に元に戻れないのかな」
 彼氏だった幼女の顔を思い浮かべて憂いていると、ルリが席を立ってキッチンにやってきた。どうやら楽しく観ていたアニメが終わったようだ。
「お姉ちゃん、あたしも何か手伝うよ」
「ありがとう。でも大丈夫よ。一人で作れる簡単な料理だから……」
 自分よりも背の高い妹を見上げ、ホタルは微笑んだ。聡一郎に生理がきたことを伝えなくてはならなかった。本来はルリが迎えるはずだった記念すべき瞬間を、聡一郎が代わりに体験したのだと。
 話をするために口を開こうとしたホタルだったが、不意に正面からルリに抱き着かれて動きを止めた。
「お姉ちゃん、大好き」
「そう? 私も大好きよ、ルリ……」
 Tシャツとジーンズというラフな格好をした健やかな少年の体が密着し、牡の体臭をホタルに嗅がせた。汗の臭いにかすかに混じる、栗の花に似た妖しい臭いを感じた。
「エプロンをつけたお姉ちゃん、とっても似合ってるね。ご飯を作るお姉ちゃんを見てたら、あたしのおチンチンがピンって硬くなっちゃった」
 ホタルの背中に馴れ馴れしく腕を回し、ルリは己の欲求を率直に言葉で表した。それは食欲ではなく性欲だった。
「ダメよ、ルリ……お姉ちゃんは今ご飯を作ってるの。そういうことはまた後で……ね?」
「そんなのイヤ! あたし、今すぐお姉ちゃんとエッチしたい!」
 聞き分けのないルリは膨らんだ股間をホタルの下腹にぐいぐいと押し当て、男女の交わりを要求してくる。素直でホタルの言いつけには何でも従うルリだが、これに関しては話が別だった。
「もう、仕方ないわね……ご飯が少し遅れちゃうけど、構わないかしら?」
「うん! やったー、お姉ちゃんとエッチエッチ!」
 ルリは大はしゃぎでジーンズのベルトを外し、ボクサーパンツの中から勃起した一物を取り出した。かすかに感じていた栗の花の臭いがキッチンに撒き散らされ、ホタルの股間をしっとりと湿らせた。
(私の体……臭いを嗅いだだけで熱くなっちゃってる。相手は妹なのに、こんな……)
 戸惑いを覚えたホタルだが、嫌悪の情はほとんどない。ルリと聡一郎の体が入れ替わって半月になるが、その間、性欲旺盛な男の体になったルリの性欲処理はホタルの仕事だった。もちろん聡一郎には内緒である。
 ホタルは白いエプロンをつけたままその場にひざまずき、愛する少年のペニスに舌を這わせた。小便に混じった先走りの味もホタルの興奮を煽るスパイスだ。
「ああ、お姉ちゃん、気持ちいいよう……」
 おさげの黒髪の小学生はうっとりした声をあげ、自分に奉仕する姉の頬を大きな掌で撫でてくる。その熱っぽい視線が姉に対するものではなく、魅力的な異性に向ける物欲しげな男のそれだと、ルリは気づいているだろうか。
 人望あつい女子高生は嫌がるでもなく、妹だった少年の性器を一心に舐め続けた。姉が笠のくびれを舌でなぞると、情けなくも可愛らしい声で喘ぐルリ。肉体交換を経ても、幼女の顔と声だけは変わらない。
 聡一郎とルリを診察した医師の話によると、二人の首は根元の辺りで挿げ替えられてしまったらしく、声を司る声帯は切断面よりも頭側についているのだそうだ。首の切断部位がもう少し上であれば、二人の声までもが入れ替わっていたかもしれない。もしもそうなっていれば、声変わりを済ませた男の声で大はしゃぎするルリと、鈴の音のような児女の声で愚痴をこぼす聡一郎という構図になっていたかもしれない。どちらがいいかは判断のつきかねるところだが、ホタルの意見としては、個人の識別は顔によってなされるため顔と声が一致する現状の方が望ましかった。
 ホタルは慣れた手つきでルリの幹をしごきながら、膨張した亀頭を口に含んだ。ルリが男になってから幾度となく繰り返してきた口淫だ。あどけない無垢なルリに自分のテクニックで性の手ほどきをしてやるのが、最近のホタルの日課になっていた。
「ああっ、お姉ちゃんがあたしのおチンチンをくわえてる。気持ちいい、気持ちいいよう」
 ルリの両手がホタルの頭をぐっとつかみ、前後に乱暴に揺さぶってくる。できるだけ自制を教えるよう心がけてはいるが、幼稚な妹は興奮してくるとどうにも抑えが効かなくなってしまうのがホタルの悩みの種だった。単純な腕力でホタルが今のルリに敵うはずもなく、力で押さえるのは極めて難しい。ホタルは仕方なく無抵抗に腕を下ろし、妹の自由にさせることにした。
「うぐっ、ぐうう……うごっ」
 喉奥に突き込まれる頑丈な男性器が、ホタルを苦しめる。聡一郎にもフェラチオをしてやったことはあったが、このような激しい仕方では一度もなかった。軽くえずきながら妹だった少年のペニスを喉でしごかされる被虐が、ホタルに暗い興奮を植えつける。自分に隠れたМの素質があると気づかせてくれたのは聡一郎ではなくルリだった。
「すごーい、お口の奥まで入っちゃう! もう出ちゃうよ、出しちゃうよ!」
「げほっ、ごほっ、うごごご……ごぼっ!」
 これでフィニッシュとばかりに咽頭の奥まで陰茎をねじこまれ、食道に直接射精された。むせかえるような臭いを放つ粘塊が喉に絡みつき、女子高生の粘膜を焼いた。
 ホタルは涙を流し、自制を失ったルリの精液を飲み込んだ。股間の疼きがますます酷くなり、下着が卑しい蜜に濡れるのがはっきりわかる。女の芯が目の前の男を求めていた。
「げほ、げほっ、うげえええ……ルリ、あんた激しすぎ……」
 ようやく解放されたホタルは四つん這いになり、飲みきれなかった唾液とザーメンの塊を床に吐き出した。自分の口の中に立ち込めるイカ臭い牡の香りは、可愛い妹が授けてくれたものだった。
「ごめんね、お姉ちゃん。あたし、やりすぎちゃったかも」
「ホ、ホントよ……苦しくて死ぬかと思ったじゃない。勘弁してよ……」
 抗議の視線をルリに向けると、ルリはにこやかな笑みを浮かべて姉の体に腕を回した。
「でも、お姉ちゃんはこれくらい乱暴にされる方が好きなんだよね? お姉ちゃんのパンツ、もうビショビショになってるよ。いやらしいの」
 スカートの中に男の手が侵入し、太い指でホタルの下着をまさぐってくる。染みができるほど蜜を垂れ流す陰部を直接なぞられ、ホタルは赤面して身をよじった。
「ああん、こらっ、お姉ちゃんに意地悪するんじゃないの……」
「恥ずかしがるお姉ちゃん、とっても可愛い。お姉ちゃんの可愛い顔を見てたら、あたしのおチンポが勃ったまま収まらないよ」
 ルリは照れ笑いを見せ、射精後も活力を失わないペニスでホタルの頬を軽く叩いた。精液まみれの顔を血管の浮き出た陰茎で小突かれ、現在の互いの立場を嫌でも教え込まれる。もはやホタルとルリは仲のいい姉と妹ではなく、従順な牝とそれを飼いならす牡の関係になっていた。
「えへへ、早くおチンポハメたいな。お姉ちゃんのエッチなおマンコにあたしのおチンポをハメハメして、このタマタマのセーエキを全部流し込んであげたいの。この体がそうしたいって言ってるよ」
「もう……ルリったら、どこでそんな行儀の悪い言葉を覚えてくるの? 外でそんなこと言っちゃ絶対にダメだからね」
 口で姉の威厳を示そうとするも、ルリのがっしりした腕に体をつかまれ交接を促されたら、ホタルに逆らうすべはなかった。いや、そもそも逆らう気もなかった。
 芋の煮えたキッチンのシンクにホタルは手をつき、その腰をルリが支え、猛りきったペニスで臀部の割れ目を上下になぞる。制服のプリーツスカートは腰までたくし上げられ、くっきりと染みの浮き出たショーツは足元に落ちていた。もはや男女の合体を邪魔するものは何もない。二人とも、結合の瞬間を今か今かと待ちわびていた。
「後ろからハメてあげるね、お姉ちゃん」
 言うなり、ずぶりと挿入してくるルリ。聡一郎のものだった肉体を完全に支配し、男として大好きな姉を犯すその顔は、可憐で天真爛漫な幼女のものだ。
「ううっ、入ってくる。聡一郎のおチンポが……ああっ、いいっ」
 かつて自分の処女を捧げた若々しい男根に、少女の粘膜は大喜びで絡みついた。子供の頃から常にそばにいた最愛の少年の男性器をホタルの肉体が拒絶できるはずがない。たとえ、そのペニスが自分の妹の所有物になっていたとしても。
 秘所をかき回される心地よい刺激は官能の波動となって広がり、膣に愛液を滲ませる。ルリの体の一部となった立派な男の一物はリズミカルにホタルの中を往復し始め、心がとろけるような甘美な感覚をもたらしてくれた。たまらず満足の吐息をつき、色めいた女の喘ぎ声を放つホタル。歳の離れた姉に求められる品格は既に影も形もなかった。
「あっ、ああんっ。ダメ、声が出ちゃう……ああっ、ああっ、あっ」
「我慢しなくていいよ。あたしもおチンポハメるの気持ちよくて、ハアハア言ってるから」
 ルリはホタルの浅いところをかき回しつつ、時おり変化をつけて奥を穿つ。女子小学生とは思えない巧みな腰づかいだった。聡一郎と首が挿げ替わったその日からホタルが始めた性教育のおかげだった。愛くるしい顔立ちを歓喜と欲情とに歪め、陶然とした様子でスタイルのいい姉の体を貪り続ける。
 パン、パンと男女の体が衝突する音が繰り返し響く。ホタルの初めてを奪った聡一郎のペニスも、今こうしてホタルを可愛がるルリのペニスも、何ら変わるところはなかった。ホタルの膣は二人の肉棒を区別できず、めしべの蜜を垂らして収縮を繰り返した。もしかしたら、ホタルの脳でさえ両者を区別できていないかもしれない。自分を抱いてくれているのが聡一郎なのかルリなのかがわからなくなる。
「ああっ、あんっ。素敵よ、聡一郎……そこっ。そこをグリグリされるのがたまらないの!」
「違うでしょ、お姉ちゃん。あたしはソーイチお兄ちゃんじゃなくてルリだよ。お姉ちゃんはあたしのおチンポをハメられて気持ちよくなってるんだよ」
 幼い妹の声にそう指摘され、ルリと聡一郎の頭部が入れ替わっていることを思い出した。しかし、それはこの素晴らしい快楽と比べたら些細なことでしかなかった。ホタルは惚れた男の名前を言い直し、はしたなく腰をくねらせ、より深い結合を求めた。
 ルリは八つ上の姉の期待を裏切らなかった。熱い潤滑油を垂れ流す膣内を入念に耕し、淫らな音色を奏で続ける。牡と牝が激しく交尾する生臭い香りが、十七歳の少女を高ぶらせた。
「ああっ、ルリ。やんっ、そんな激しい……あっ、ああんっ。ひんっ」
 じくじく疼く肉壺がたくましいペニスに裏側から引っかき回され、ホタルの慎みが容赦なく剥ぎ取られていく。好色な女子高生の嬌声はますます熱を帯び、今や主人となったルリに恥ずかしげもなく媚を売った。硬くなった肉の切っ先が、聡一郎も把握していなかったホタルの奥の性感帯を抉っていた。
「お姉ちゃん、とっても気持ちよさそうだね。あたしもお姉ちゃんにハメハメするの、とっても気持ちいいよ。ずっとずっとこうしていたくなっちゃうの」
「ああっ、今度は一気に……奥までハメられるの、たまらないわ……ひぐっ、ひぎいっ」
 乱暴に進入してきた亀頭に子宮の入口をこね回され、ホタルの目の前に火花が散った。
 歓喜するホタルを蹂躙し、濡れそぼった膣内を奥までみっちり埋め尽くすルリ。先ほどのイラマチオといいこの力任せの挿入といい、彼は暴力的にホタルを征服するのが好みのようだった。やはり思慮や理性が未熟だからなのか、あるいはこうする方がホタルが喜ぶことを知っているからかもしれない。
 聡一郎とのセックスには恋人に対する気遣いが随所に見られた。ホタルとしては嬉しくはあるものの、若干の物足りなさを感じていたこともまた事実だった。もっと乱暴にしてほしいと思いながらも乙女の恥じらいが邪魔をして、ホタルはなかなかそうと言い出せずにいた。そんな折、彼氏と妹の体が入れ替わった。
 じきに成人を迎えようというたくましい少年の体になって戸惑い、泣いていたルリに、ホタルは世話と教育の努力を惜しまなかった。ルリが勃起すれば自慰の仕方を教え、そそり立つ陰茎をしゃぶり、好奇心の赴くままにセックスを繰り返した。ルリに犯されるたび、妹に対する家族愛が徐々に異性に対する慕情に変わっていくのを自覚していたが、他の誰にも相談できない性の悩みを自分に打ち明け、助力を懇願するルリを突き放すことはホタルにはできなかった。面倒見のいいマゾヒストの女子高生は、一日三度の精を放っても満足しないルリの欲望のはけ口となり、求められるままに肌を重ね合った。
 ルリとの性交が聡一郎に対する裏切りとは思わなかった。何しろ、今や二人の体は入れ替わっているのだ。小柄な幼女の肉体になった今の聡一郎とホタルが正常な男女の性行為をする方法はない。そのうち元の身体に戻れるかもしれないわけであるし──現状、その可能性は限りなく低いが──入れ替わっている間だけでも聡一郎の体に抱かれることは、聡一郎の心とも繋がっているような気がして有意義に思えた。昼間、学校ではルリの体の聡一郎と行動を共にし、夜、自宅では聡一郎の体のルリと淫らなセックスに没頭する。部活動などの僅かな時間を除けば、ある意味で一日中聡一郎と一緒にいるような幸せな生活をホタルは送っていた。
「おっ、おおんっ。すごい。これ、すごいのおっ」
 将来を誓い合った少年のペニスを根元まで突き入れられ、ホタルは舌を出して喘いだ。焼けた鉄棒のような肉の塊にみっちり秘所を埋め尽くされている圧迫感がたまらない。ルリが力いっぱい腰を打ちつけるたび、ホタルは膝をガクガク震わせて歓喜した。
「えへへ、おチンポの先がお姉ちゃんの奥にある壁とキスしちゃってるね。このぷにぷにした壁はなんていうの?」
 子宮口を執拗に小突きながらルリが問う。理論と実践で性教育を重ねたルリは、とうにその答えを知っているはずだった。だが、あえてホタルの口に言わせようというのだ。自分のものになった女の扱い方を心得ている男の態度だった。
「そ、そこは子宮よ。ルリは今、お姉ちゃんの赤ちゃんのお部屋をノックしてるの……ああ、あひっ」
「赤ちゃんのお部屋? どうしたらここに赤ちゃんが入ってくれるの?」
「そ、それは……ああ、もうダメ、イクっ、イクっ」
 答える前にルリの激しい腰づかいに屈服させられる。再び視界に火花が散った。とうとう立っていられなくなったホタルはその場にくずれ落ち、蜜に濡れた床の上にへたり込んだ。
「はあ、はあ、はあ……すごい、イカされちゃった……」
「イっちゃったの? お姉ちゃん、すっごく気持ちよさそうだよ。うらやましいなあ」
 男の性に目覚めたルリの責めがそれで終わるはずはなかった。まだ挿入してから射精には至っていないのだ。毎日毎日ホタルを犯し続けたルリは、もはや入れ替わった当初のような早漏の少年ではなかった。
 ルリはホタルの大きな尻を持ち上げ、四つん這いの姿勢でまたもバックから挿入してくる。前後の動きに加えて円を描くように腰を揺らし、ホタルの中を隅々まで味わおうとしていた。
「ダメ、ダメっ。これ以上、おチンポでお姉ちゃんの中をコネコネしないでえっ」
「さっきの答え、まだ聞かせてもらってないよ。お姉ちゃんのココのお部屋に、赤ちゃんはどこからやってくるの?」
 ルリはサディストだった。少なくとも、今この瞬間は。今まで想像さえしなかった幼い妹の邪悪な一面を見せつけられ、ホタルは身の凍る思いだった。
「い、言うわ。赤ちゃんは、生ハメしておマンコに射精するとできちゃうの……」
「生ハメ? こういう風に、薄いゴムのカバーをつけないでおチンポをハメハメすることだよね。じゃあ、今からあたしがお姉ちゃんにシャセーしたら、お姉ちゃんのお部屋に赤ちゃんができちゃうの?」
「ええ、できるわ……このまま中出しされたら、私と聡一郎の赤ちゃんができちゃうかもしれない……」
 あるべきモラルがどこにも感じられない不埒な返事に、ゾクゾクした背徳感が湧き上がる。責任をとれる年齢になれば聡一郎と結ばれて子供を授かりたいと願っていたが、今、ホタルの妊娠の可否を決められるのはルリだった。涙を流して牝の喜びに打ち震えるホタルの尻を、ルリの大きな手が打ち据えた。乾いた音と共に、豊かな臀部の肉が弾んだ。
「ああっ、お尻が……お尻が痛い、痛いのお……」
「お姉ちゃんのお尻、赤くなっちゃったね。お猿さんみたい」
 楽しそうに笑い、二度、三度とホタルの尻を叩くルリ。聡一郎との肉体交換以前は、ルリがホタルに暴力を加える瞬間が訪れるとは誰も想像だにしなかった。そんな異常な事態がホタルから理性を奪い、Мの快感に溺れさせていく。
「ひいいっ、お尻……私のお尻があ……お願い、ルリ、もうやめてえ……」
「やめてほしいの? でもお姉ちゃんの顔、笑ってるよ。痛くされるのが好きなんだね、ホタルお姉ちゃんは。あたし、知ってるんだ」
 ルリはホタルの尻を叩くのをやめない。「それで、どうするの? このままお姉ちゃんの赤ちゃんのお部屋にシャセーしたら、赤ちゃんができちゃうんだよね? あたしとお姉ちゃんの赤ちゃんが」
「ち、違う……できるのは私と聡一郎の子供で……ああっ、痛いっ!」
「違うよ。この体は今はあたしのものでしょ? だったら、あたしのシャセーでできるのはあたしの赤ちゃんなんじゃないの? お姉ちゃんは間違ってるよ」
「そ、そんな……その体は聡一郎の……」
「お姉ちゃん、大人になったらソーイチお兄ちゃんと結婚するって言ってたよね? でも今のソーイチお兄ちゃんはちっちゃな女の子だよ。女の子同士だから、お姉ちゃんとソーイチお兄ちゃんじゃ赤ちゃんはできないよ。もしもこのままあたしとソーイチお兄ちゃんの体が元に戻らなかったら、お姉ちゃんたち、いつまでたっても赤ちゃん作れないよ。困ったねえ」
「ああ、そんな奥まで……あっ、ああっ、赤ちゃんのお部屋、そんなにしたら潰れちゃう……あひっ、ひいいっ」
「でも大丈夫だよ。もし元に戻れなかったら、あたしがお姉ちゃんに赤ちゃんをつくってあげるから。こうやって毎日お姉ちゃんにおチンポハメて、お姉ちゃんがニンシンするまでドロドロのセーエキで赤ちゃんのお部屋をタプタプにしてあげる」
 ルリは恍惚の表情でホタルを押さえつけ、将来の受胎を約束させる。何度も絶頂に至って呼吸もできないホタルには、もはや何を宣告されているのかもわからなかった。ただひたすら愛する少年に犯され、歓喜の涙を流すだけだ。
「ああっ、あんっ。妊娠、いいっ。孕まされるのおっ。おおっ、おんっ」
「ホタルお姉ちゃんだけじゃないよ。あたしの体になったソーイチお兄ちゃんも、お姉ちゃんみたいな大人の体になったら、おチンポハメて赤ちゃんをつくってあげるんだ。お姉ちゃんもお兄ちゃんも、どっちもあたしのお嫁さんだよ。二人とも大事にするから、楽しみにしててね」
「おほっ、またイク。またイカされちゃうよう。聡一郎、ごめん……イクっ、イクうっ」
「そろそろあたしもイクね。お姉ちゃんのエッチなお口に、あたしのセーエキをたっぷり飲ませてあげるからね」
 射精を宣言したルリは、ホタルの腰を思い切りつかんで、激しく体を打ちつけた。膨張しきったペニスに子宮が押し潰されそうなほど力強い突き込みに、我を忘れていたホタルは今度こそ昇天させられる。辺り一面に真っ赤な花が広がる幻視と共に、十七歳の姉は果てしなくのぼりつめていった。
「イク、イクのっ。もうダメ……いやあああっ」
「お姉ちゃん、出るよ! お姉ちゃん、好きなの……好きっ、大好きっ、あああっ」
 透き通るような幼い声で咆哮し、九歳の女児だった少年は恋人となった姉の膣に心ゆくまで種つけた。失神したホタルの女性器を、ルリの一部となった濃厚な子種が満たし、子宮の奥にあるはずの卵子めがけて泳いでいく。
 危ない日ではないとはいえ、受精の可能性はゼロではなかった。自分を孕ませるかもしれない膣内射精を受けて、ホタルは夢見心地だった。白目を剥いて涙と鼻水を垂れ流し、後戻りのできないルリとの肉体関係に酔いしれていた。
 ほとんど意識がなくとも、ホタルの体は本能に忠実だった。伴侶のスペルマを認識し、やがてつがいとなるべき牡の遺伝子を一滴残らず子宮で飲み干そうとしていた。身も心も満たされた少女はこれ以上ない幸福の只中にいた。
 全ては聡一郎があずかり知らぬことだった。ルリから貰った幼い女体で不自由な生活を送る聡一郎に対して、聡一郎の体を奪ったルリは日々こうしてホタルとまぐわい、男女の契りを確固たるものにしていた。もはやホタルはルリの姉ではなく、ルリの女になっていた。聡一郎はルリに首から下の身体だけでなく、一生を共にするはずの少女も盗られてしまっていたのだ。

 ◇ ◇ ◇ 

 夜、聡一郎はシャワーを終えると自室に戻った。生理を迎えた体で風呂に入るべきかどうか少なからず迷ったが、体育で汚れた体を洗わずに過ごすのには抵抗があった。結局、シャワーで体をさっと洗い流した。
 風呂上りの彼女が身に着けているのは、襟や裾を沢山のレースとリボンが飾るピンク色の女児用パジャマで、これは言うまでもなくルリから渡された品だった。最初は恥ずかしくて仕方なかった女の子の可愛らしい服にも、この頃はさしたる抵抗もなく袖を通すのが当たり前になりつつある。馴れとは恐ろしいものだった。
「はあ……今日は酷い一日だったな。体育じゃ痛い目に遭うし、生理にはなっちまうし……」
 母がわざわざ部屋に用意してくれた姿見の前で嘆息し、パジャマの前を開いた。昼間の体育でしこたま転倒し、跡が残るような傷ができていないか心配だった。幸い、手足に複数の擦り傷ができているほかは大事な<さそうだった。
 なんと言っても、聡一郎の首から下は自分の体ではないのだ。恋人の歳の離れた妹から預かった華奢な体を痛めつけるわけにはいかない。今日のバレーボールのような事態が繰り返されるようであれば、体育には参加せず見学に回る必要がでてくるかもしれない。元男としては不甲斐ないことだった。
 それだけではない。本日、聡一郎の身に大きな変化が起きた。ルリと体が入れ替わってから最も大きな変化だった。あろうことか、初経が訪れたのである。
 本来、ルリが自分の体で迎えるべき、女の節目となる初めての性器出血。その恐怖も驚きも、ルリではなく聡一郎が彼女の代わりに体験してしまったのだ。ルリの姉であるホタルはめでたいことと評したが、当事者としてはとても喜ぶ気にはなれなかった。
 自分たちは一体いつ元の体に戻れるのだろうか。それを考えると聡一郎の気分は暗くなる。もしもこのまま元の体に戻れなければ、聡一郎はルリの代わりに生理を重ね、否応なく第二次性徴を迎え、心身共に女として成長していくことになるのだろう。もう何年か経てば聡一郎の首から下は立派な女の肉体になり、豊かな乳房や陰部を煽情的な下着で覆い、洗練された女性のファッションが似合う魅力的な体になっているはずだ。
 経血を目にしたときの取り乱しようは既に収まっていたが、女として成長することへの恐れや、ルリの体を奪い取った罪悪感は容易に消えるものではなかった。どうしていいかわからず、鏡の前の聡一郎はただ己のものになった女児の身体にじっと見入るのだった。
「ルリちゃん……まだまだ小さな女の子だって思ってたのに、生理が始まっちまうなんて……」
 ホタルから聞いた話によると、個人差はあるものの多くの女子が小学生のうちに初経を迎えるのだという。高学年である五、六年生で始まることが多いそうだが、中にはルリの体のように二桁に満たない年齢で女の体が機能し始める者もいるという。反対に中学を卒業するかという頃にようやく初潮が訪れる女性もいるそうで、ルリの初花はかなり早い方に分類されるだろう。
 本来そうであるはずがない、幼い女子の体。聡一郎は姿見に映る自分の体をまじまじと見つめた。
 鏡の中の女児の体は聡一郎の頭に支配され、風呂上りのきめ細やかな肌を惜しげもなく晒していた。入れ替わった当初は裸を見るのに多少なりとも心理的な抵抗があったが、それもすぐに消え去った。聡一郎にはホタルという付き合いの長い恋人がいて彼女の裸体をある程度は見慣れていたし、それにルリはまだ子供のため、その体は性的な興味の対象にはならないと思われた。年端もいかない彼女の妹の体を我がものにして、それを鏡で観賞して興奮するというのは、男としてあまりにも情けないことだった。預かりものの大切な体に不埒な思いを抱いていいはずもない。
 ところが、今の聡一郎はピンクのパジャマを脱ぎ捨て、子供用のショーツ一枚になった己の裸体に見入っていた。鏡の中の聡一郎が身に着けている衣類は、尻の部分に子供向けアニメのキャラクターが大きくプリントされた白いショーツだけだ。
「ルリちゃんの体……ずっと子供だと思ってたけど、少しずつ女になってるんだ。生理が始まったし、胸だってほんの少しだけあるような……」
 聡一郎の小さな掌が己の乳房をなぞった。肉づきの悪いただ平たいだけの胸板に、ささやかな膨らみが確認できた。薄い色の乳首がぴんと立って恥ずかしそうにしている。
 脈拍が増加するのがわかった。ルリの心臓が激しく収縮し、聡一郎の脳に多量の血液を供給した。みるみるうちに頬が紅潮し、羞恥とも興奮ともつかない熱い感情が胸を満たす。
 幼い女体を好き勝手にできる立場にいる自覚、そして今自分はしてはいけないことをしようとしているのだという危機感と罪悪感。様々な感情がないまぜになって聡一郎を狼狽させた。
「ルリちゃんの体……今は俺のものだから、ちょっとくらい触っても大丈夫だよな? 変なことはしない、変なことはしないぞ……と」
 これは現状の分析に必要な己の体の探索であり、やましいところは全くない……そう自分に言い聞かせて平静を保とうとしたが、いくらこの行為を正当化する理由を探したところで、それが言い訳に過ぎないことは聡一郎自身もよくわかっていた。
 両手を小さな胸に当て、まだ乳房ともいえない膨らみを優しくこねる。周辺部の刺激は男だった頃とほとんど変わらないが、乳首にはわずかにピリピリした感触がある。ルリの姉のホタルは聡一郎が乳首に吸いつくと甘い声をあげて喜ぶのだが、この体も将来成長すれば同様に感じるようになるのかもしれない。
「触った感覚は大したことないな……女の子はアソコや胸でオナニーするみたいだけど、やっぱり大人の女の人の体だと気持ちいいのか? ホタルに訊いてみたいけど、さすがにそんなことを訊いたら怒られそうだな」
 そうしてしばらく自分の乳をもてあそんだ聡一郎は、次にショーツを下ろし、鏡の前で中腰になって股を開いた。ルリの体の一番恥ずかしい部分が丸見えになった。
 今日から生理の始まった九歳の童女の体は、聡一郎がそう望めばいつでも股間をさらけ出し、誰にも見せるべきでない女の下の唇を心ゆくまで観察させてくれる。無論、いくら触ろうと制止する者はいない。この幼い体は現在、聡一郎の所有物なのだ。
 聡一郎の視線は秘所に釘付けになった。いまだ陰毛の生えない外陰部は綺麗な肌色をしている。盛り上がってもいない土手の下に、細く小さな割れ目があった。
「これが俺のおマンコ……俺、本当にルリちゃんの体になっちまったんだ」
 つぶやく聡一郎の声は震えていた。
 聡一郎の脳に命令されたルリの指は、ぴったり閉じた割れ目を慎重になぞり上げ、触る感覚と触られる感覚の両方を聡一郎に教えてくれる。少年だった童女は発達していない己の大陰唇をもてあそび、細いクレバスを広げた。
 あの忌まわしい肉体交換の日から二週間が過ぎ、多少はルリの体にも慣れてきた聡一郎だったが、性の対象として自分の新しい体を眺めたことは一度もなかった。相思相愛の恋人であるホタルよりも八歳若い、いや、幼い女児の身体は、今日という日から女としての機能を備えつつある。とても出産に耐えられる体格ではないが、受精して妊娠するだけなら既に可能になっているのだ。
 将来を約束した仲であるホタルと遺伝子を半分共有する女子小学生の体を、聡一郎が所有し支配し、第二次性徴の始まった乳臭い女体を隅々まで覗き見ている。シャワーの余熱が消え去ったはずの白い肌が、再度桜色に染まった。
「やっぱり小さいな……ホタルのとは大違いだ」
 幾度も観察したホタルの陰部を思い出しながら、痛みを感じない程度に己の女陰に指を這わせる聡一郎。未知の感覚への恐怖から彼女は乱暴に触ることはしないが、肉びらをめくって未成熟な小陰唇や陰核の構造をつぶさに観察した。点のような尿道口の下に、わずかに乳白色を帯びた透明な粘液を滴らせる膣口が見えた。臭いはほとんどないが、指先でつつくと赤みのある塊が少しだけこぼれてきた。生理中の聡一郎が垂れ流す経血だった。
「いけねえ、また血が垂れてきた。ティッシュ、ティッシュ……」
 慌てて机の上のティッシュ箱に手を伸ばし、滴る血と粘液を白い紙で受け止めた。初花を迎えたばかりの体調はそう酷いものではなさそうだった。「これからはあんたも毎月、痛くて苦しくて辛い思いをするんだからね」と散々ホタルに脅されたが、幸い、不快感はさして強くない。
 聡一郎にとっては肉体の不調よりも、精神的な衝撃の方が大きかった。健康な男子高校生だった自分が、首から下だけが小学生の女児の肉体と入れ替わり、姿見の前で全裸になって初潮を迎えた己の新しい体を検分しているのだ。いくら今は自分の体とはいえ、こんな現場をルリやホタルに見られたら何を言われるかわからない。妹は号泣し、姉は激怒するだろう。
「このルリちゃんのおマンコが俺のもの……今はまだ小さいけど、これから成長してどんどんホタルみたいになっていくんだ。そのうちチンポが入る大きさになって、どこかの男とセックスするようになるかもしれない。ホタルみたいに俺のチンポをくわえ込んで……ううん」
 聡一郎の脳裏に浮かんできたのは、十七年間自分が保有し続けた自慢のペニスの偉容だった。腹側にまでそり返った太く長大な陰茎が、記憶の中でホタルの膣に出入りしていた。女性として成熟しつつあるホタルのヴァギナははしたなくよだれを垂らし、表面に血管の浮き出た恋人の肉棒を音を立ててくわえ込むのだった。
 淫らな想像が聡一郎の脳からルリの女陰へと伝わり、経血ではない液体が滴った。自分のものになった九歳の陰唇を指の腹で擦りながら、聡一郎は自分のたくましいペニスをここに挿入されることを夢見た。今やルリの体の一部となった長大な陰茎が聡一郎の処女を奪い、子宮を押し潰すほど深々と貫く妄想にふけった。自分でも驚くほどの非常識な妄想だった。
「このルリちゃんのちっちゃなおマンコにチンポをハメてセックス……そうだな、女の子の体だもんな。もうすぐセックスできるようになるだろうし……そのうち妊娠、出産だってできる。俺たちが元の体に戻れるかどうかとは関係ない。この体はどんどん大きくなって、俺の太いチンポをハメれるくらいに成長していくんだ……あっ、ああっ」
 床に垂れないよう陰部にティッシュをあてがいつつ、膣の内容物を指先でかき回した。ルリのものだった幼い肉体は新たな持ち主の興奮を受けて、ますます分泌液の量を増やした。男のときには考えもしなかった、股間の穴の痺れる感覚が聡一郎を喘がせた。
「だ、駄目だ、もうやめねえと……でも指が止まんねえ」
 そろそろ不埒な探索を中止しなくてはならないと理性が訴えかけているにも関わらず、聡一郎の指はいっこうに悪行をやめようとしない。可愛らしい両手で開いた股の奥をいじり、彼女の妹の性器への刺激を続行した。
 自制が効かなくなっている頭に、ルリは自慰をしたことがあるだろうかという疑問が浮かんだ。あの無垢で無邪気なルリが、こうした破廉恥な行為にふけるとは思えない。知識さえないだろう。ならば、これはルリの体が初めて行うマスターベーションだ。ルリが本来自分の体で経験するべき初めての生理も自慰も、聡一郎に持っていかれてしまったのだ。
 九歳の女児の体はお世辞にも敏感とは言えなかったが、精神的な高ぶりは男子高校生のそれと比較しても遜色なかった。異性の肉体の獲得、未熟で無垢な女体の探索、将来への期待と女としての不埒な妄想、そしてこの体が自分を好いてくれる同い年の少女の妹のものであること。平凡な少年が決して味わうことのできない背徳的な興奮に、聡一郎は圧倒された。
「ああっ、駄目、駄目なのに……手も床も汚れちまうよ。あっ、ああっ、ホタルっ、ルリちゃんっ」
 幼馴染みの姉妹のことを思い浮かべると、体の芯が火照って淫らな衝動を抑えられなくなる。ホタルに告白され処女を奪って以来、毎日のようにお互いの家で繰り返した情事の光景が思い出された。
 そんな美人の姉によく似た幼い妹の姿も目に浮かぶ。小児用の白いブラウスの上に羽織った濃紺のジャケットや、ネイビーと白のチェック柄のスカートは、今は聡一郎のものになった。足が大きくなって買い換えたばかりの、黒いキッズサイズのガールズローファーを履いて学校に通うのは、ルリではなく聡一郎だ。
 ルリの可愛らしい服を着る自分、ルリの真新しい靴を履く自分、ルリの首から下の体を奪ってしまった自分、そして借り受けたルリの幼い体で自慰にふける自分……最愛の存在であるはずのホタルの姿がいつの間にか頭の片隅へと追いやられ、代わりにルリのことばかり考えるようになった。
「ルリちゃん、すごいよ。ルリちゃんの体、とても気持ちいいんだ。アソコがじくじくして……うおおっ、すげえっ」
 聡一郎は恋人の妹の名前を呼びながら上へ上へとのぼりつめていく。次から次へと滴る経血混じりの粘液が、ティッシュから溢れて緑青色のカーペットに薄紅の染みを作った。
「これが女のオナニー……俺、ルリちゃんの体でイっちまうよ。ルリちゃん、ごめん。俺イク、おおっ、イクっ」
 姿見の中の女子小学生が小柄な身体を震わせ、思いきり背筋を反らした。少年の昂揚と幼女の絶頂が化学変化を起こし、ピンク色の爆風となって聡一郎を吹き飛ばした。絶え間ないアクメに男子高校生の脳が悲鳴をあげた。呼吸さえできなくなり、一寸先も見えない暗闇に意識を持っていかれそうになる。軽い体が床に倒れて落ちるのが辛うじてわかった。
「はあ、はあっ、はあっ」
 カーペットの上に横たわり、荒い息を繰り返す聡一郎。酸欠と火照りにひたすら喘ぐしかない。せっかく風呂で体を洗ったのに全身が汗だくだった。冷たい水が欲しいと切実に願った。
 初めて体験する女としてのオルガスムスだった。聡一郎がルリからさらに奪い取った行為だ。女陰から赤みを帯びた女の証を垂れ流しながら、聡一郎は時間をかけて自己の呼吸を落ち着かせた。
「はあ、はあ……ああ、やっちまった。俺、いったい何をしてたんだ……」
 ようやく戻ってきた良識と羞恥心が聡一郎を赤面させた。してはいけないことをしてしまった罪の意識が聡一郎を苛んだ。幼いルリの体を好奇心の求めるままにもてあそび、玩具にしてしまったのだ。完全に流されてしまっていた。明日、ルリやホタルと会えば冷静さをなくしてまともに目を合わせることができないかもしれない。
 だが、聡一郎の胸中にあるのは後悔の念だけではなかった。ルリの体で自慰にふけって心と体の欲求を満たしたことがこの上なく魅力的な行為であったことは、やはり否定できなかった。
 聡一郎は嘆息した。異性の肉体で興じる自慰がこれほど熱く激しいものだとは思いもしなかった。ホタルやルリには絶対に打ち明けられない、聡一郎の心の奥にいつまでもしまっておくべき秘密だった。
 幼い小学生の身体でさえ聡一郎が我を忘れるほどの興奮をもたらしたのだ。もしもこれが反対だったら……汚れを知らない無垢な小学生が思春期真っ盛りの性欲旺盛な高校生の肉体を得たら、果たしてどうなってしまうのだろうか。
 聡一郎はルリに思いを馳せた。男になった彼は今頃どうしているだろうか。スタイルのいい女性を見ただけで、異性が振りまく香水の匂いを嗅いだだけで勃起してしまう男子高校生の体になって、ルリは困惑していないだろうか。もしかしたら、自然と男性器が勃起してしまいどう対処していいかわからないルリに、面倒見のいい姉のホタルが性の手ほどきをしてやっているかもしれない。首から上は仲睦まじい美少女姉妹、首から下は恋人同士の男女という二人が毎日同じ部屋で寝起きしていれば、そういうことが起こる可能性だって無くはないだろう。
 聡一郎は首を振り、他愛ない夢想を打ち消した。あの天真爛漫なルリと真面目で一途なホタルに限って、そのような間違いが起こるはずがない。聡一郎と将来を誓い合ったホタルがルリと淫らな行為にふけり、聡一郎を裏切るような真似をするわけがないのだ。いくら仮定にしても失礼すぎる考えだった。
「はあ、とにかく片づけて寝るとするか……今日はいろんなことがありすぎて本当に疲れた」
 下着一枚はいていない自分の姿を自覚し、起き上がってピンクのパジャマを手に取る聡一郎。その表情が突然歪んだのは、半開きになった部屋のドアが目に入ったからだった。
 聡一郎の記憶では、確かにドアは閉めたはずだった。だが、鍵はかかっていない。日頃、無断で聡一郎以外の人物がこの部屋に足を踏み入れることはないため、鍵をかける習慣はなかった。
「兄貴、気持ちよかったか? ばっちり撮らせてもらったぜ、ロリ兄貴のオナニーショー」
 ドアの開く軋んだ音と共に、弟の英二郎が部屋に入ってきた。とうに風呂を済ませ自室でくつろいでいるものと思っていた中学生の弟が、動画を撮影できるスマートフォンを片手に聡一郎を見下ろしていた。
「え、英二郎、お前……!」
「変な声が聞こえてきたから何かと思えば、マジでビックリしたよ。兄貴ってばコソコソとこんなスケベなことをしてるんだもんな。ルリの体で鏡を見ながらオナニーなんて……ホタル姉ちゃんっていう美人の彼女がいるってのに、ルリと入れ替わってロリコンに目覚めたわけ?」
「ち、違う! いいから出ていけ! 勝手に入るな! 俺の裸を見るなあっ!」
「あれ? 俺にそんな口をきいていいと思ってんの?」
 英二郎はにやにや笑って聡一郎にスマートフォンの画面を突きつけた。そこには絶対にホタルやルリには見せられない淫らな光景が音声つきで記録されていた。映像の中で、聡一郎の頭部を有する幼女は己の秘所を指でかき回しながら、自分が口にする下品な台詞に陶酔していた。
「これをホタル姉ちゃんに見せたらどうなるかな? ひょっとしたらケンカになっちゃうかもね。いや、ケンカで済めばいい方か。妹の体をオモチャにされたホタル姉ちゃんが激怒して、別れ話に発展しちゃったりしてね。そうなったら、明日から兄貴の学校生活はどうなっちまうんだろうな? ケガした可哀想な兄貴をおんぶしてくれるお姉ちゃんがいなくなっちまったら大変だ」
「お、お前……まさか俺を脅す気かよ? 俺はお前の兄貴なんだぞ……」
 聡一郎は己の失敗を悟り、唇を噛んだ。
 自業自得だった。聡一郎は一時の衝動に身を任せ、迂闊にも反抗期真っ盛りの弟に弱みを握られてしまったのだ。
「さて、この動画をホタル姉ちゃんやルリに見られたくなければ……ひひひ、どうしてもらおうかな? 普段から兄貴は俺に対して偉そうにしてるもんなあ。自分の方が年上で彼女持ちだからって。子供の頃から、何年も何年も……」
 英二郎は日頃の不満を並べ立て、聡一郎を糾弾した。聡一郎にとっては生意気な弟だが、英二郎にも彼なりに思うところがあるらしい。こうして饒舌に自分の内心を吐露するのは実に珍しかった。
「そんなわけで、今から兄貴は俺の言いなりだからな。逆らったらホタル姉ちゃんとルリを呼んで、この動画の観賞会を開いてやるよ。二人を泣かせたくはないよな? いひひ……」
「ち、畜生……お前がそんな卑怯な奴だったなんて」
 聡一郎の目の前が再び暗くなった。絶頂に至って意識を失いかけた先ほどとはまるで異なる闇が、聡一郎の視界を覆い尽くした。後悔と落胆、罪悪感と絶望に胸が締めつけられる思いだった。
 いくら悔いても悔やみきれない。今の聡一郎には、英二郎からどんな理不尽な要求を突きつけられても拒絶することができないのだ。決定的な脅しの材料を握られてしまったからには、もはやどうしようもない。男子高校生と男子中学生の兄弟の立場は逆転し、二人はこの瞬間から女子小学生と男子中学生のきょうだいになったのだった。


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