マジックペンですげ替わり 6

 よく晴れた休日の朝、春奈が待ち合わせの時間の十分前に広場に行くと、既に友人の二人は先に到着して彼女を待っていた。
「二人とも、遅れてごめんなさい」
「いいえ、滅相もございませんわ。わたくし達も今来たところですから、お気になさらず」
 そう言って久美は爽やかに笑った。今日の彼女の格好は夏らしい薄手のシャツとショートパンツ姿で、いかにも快活な印象を受ける。短く切られた髪と子供っぽい表情が、久美を年頃の少女というよりも朗らかな少年のように見せていた。
「ダメじゃないの、奥さん。喋り方がまた元に戻ってるわよ。今の私たちは高校生の女の子なんだから、もうちょっと気をつけないと」
 上機嫌ではしゃぐ久美を、もう一人の友達の智香がたしなめた。しかし、彼女の発言の内容もどこか奇妙だ。
 注意された久美は両手で口元を押さえ、「あらあら、わたくしったら……いやだわ。おほほほ」と、中年女性のような仕草で恥ずかしがる。春奈はそれを見て引きつった笑いを顔に浮かべた。滑稽だが、ただ笑っていられない事情が春奈にはある。
 智香の服装に目をやると、膝丈のスカートと六分袖のカーディガンという、春奈と似通った装いだった。同じような服装でも、春奈よりも上品で大人っぽく見える気がした。
 じろじろ見つめていると、智香はおもむろにポケットから煙草とライターを取り出し、その場で喫煙を始めた。満足げに煙を吐き出す清楚な女子高生の姿に、春奈は目を見開いた。
「チ、チーフっ! 煙草なんて吸わないで下さい!」
「え? ああ、そういえば今はダメなんだっけ。でも、最近の若い子だって、煙草くらい隠れて吸いそうなものだけどねえ」
 智香は悪びれるでもなく、火のついた煙草を地面に落として踏み消した。三人の中でただ一人眼鏡をかけている智香は、春奈や久美よりも真面目な性格で、成績優秀な優等生だという。そんな彼女の両親が、もしもこんな姿を見たら、卒倒してしまうのではないかと春奈は思った。久美も智香も、新しい体にまったく適応していないのがよくわかる。
「じゃあ、揃ったことだし行きましょうか。今日は目一杯遊ぶわよ。何しろ、もう旦那や子供たちの心配をしなくていいんだから、気分が楽ってものだわ」
 出発を宣言する智香に、久美が調子を合わせる。
「そうですね。うふふ、今日はとっても楽しくなりそうだわ。若いお嬢さんの体になって、頭の中まで若返ったみたいにいい気分なんですの。それに、この子の体ってとってもスリムで動きやすくて……ああ、わたくし、もう最高の気分です。おほほほ……」
「奥さん、あんまりはしゃいでると目立っちゃうから気をつけなさい。それと、最近の女の子はそんな喋り方はしないから、それも注意ね」
「はい、わかりました。それじゃあ、北島さんの奥様も参りましょうか」
「え、ええ……」
 戸惑う春奈の手を久美が引き、三人は残暑が厳しい九月の街中を歩いていく。どうしてこんなことになってしまったのだろうと嘆きながら、春奈は会話に花を咲かせる友人たちを眺めていた。
「それにしても、春奈ちゃんの手は本当にすべすべして綺麗ですこと。ああ、こんな素敵な娘さんと入れ替わった奥様がうらやましいわ」
 路上で信号待ちをしていると、久美が唐突に春奈の手を握りしめてきた。春奈はやめろとも言えず、困り顔で嘆息することしかできない。
「いやね、最初は私も娘のミカと入れ替わろうと思ったんですのよ。でも、いくら小生意気な娘でも、やっぱり私がお腹を痛めて産んだ子ですし、あまり可哀想なことはできませんでしょう。それに、せっかく新しい体で人生をやり直すんでしたら、元気で活発なお嬢さんの方が面白いかと思いまして。こんな素晴らしい体をくれた久美ちゃんには本当に感謝していますわ。それに、もちろん今回のことをお膳立てしてくれた直紀君にも」
「そ、そうですか……」
 まるで娘と入れ替わった自分が責められているような気がして、春奈は顔を歪めた。今の自分がこの二人と同類であることは否定のできない事実だった。
 現在、久美の肉体を動かしているのは、彼女とは何の関係もない赤の他人だ。なんでも春奈の昔の友達の母親だとかで、たまたま近所で出会った直紀が面白がって久美と入れ替えてしまったのだという。その話を聞いたとき、春奈になった陽子は驚愕した。
(私たちの他にも被害者を出すなんて、ナオ君はいったいどういうつもりなの)
 怒りと悲しみが改めて春奈を襲ったが、無力な彼女に何ができるわけでもない。春奈は暗澹たる思いで、女子高生としての慣れない生活を続けるほかなかった。
 もう一人、春奈と仲の良かった智香も犠牲者に加わった。智香も久美と同じく、一面識もない陽子の職場の責任者と心を入れ替えられてしまい、彼女の代わりに婦人服売場で働きながら、夫と子供の世話に忙殺されているという。高校生になったばかりの少女が、突然子持ちの中年女になってしまうという悲劇に、春奈は胸を痛めた。
 思えば、最近の直紀の行動は、ますます悪魔めいたものになってきている。春奈と陽子の肉体を入れ替えたこと、困惑する二人を巧みに篭絡して性交渉に及んだこと、そして無関係な人間を面白半分でもてあそんでいること。聡明で優しいはずの少年が、一体どこで道を間違ってしまったのだろうか。おそらく、その原因の一端は自分にあるに違いないと春奈は思っていた。
(私が母親としてしっかりしなかったから、ナオ君はあんな風になっちゃったんだわ。ああ、私はこれからどうすればいいの)
 暗い気分でうつむいていると、横断歩道の向こうで久美と智香が振り返って春奈を呼んだ。
「どうしたの、北島さん。早く来ないと置いていっちゃうわよ」
「ご、ごめんなさい、今行きます」
 春奈は慌てて道路を渡った。二人は再び歩きだし、大きな声で楽しげに談笑を始める。
 外見こそ可憐な女子高生の一行だが、今の彼女らの頭の中身は世慣れた中年女だった。有頂天になって笑い転げる久美や智香と街中を歩きながら、陽子の心を持った春奈は良心の呵責に苛まれ続けた。

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 

 友人たちと遊びに出かける春奈を見送ったあと、陽子は直紀の部屋に連れ込まれた。
「ダ、ダメっ。こんな朝からいけないよ……」
「別にいいじゃない。今日は休日だし、春奈は出かけちゃったから、僕たち二人っきりなんだよ」
 嫌がる陽子を直紀は布団に押し倒し、服を脱がせて肌に舌を這わせた。カーテンの隙間からこぼれる朝の光の中、陽子は首筋を伝う少年の舌づかいに悶える。
「待って、お兄ちゃん。まだ食器を片づけてないし、お洗濯だって──ああんっ」
 にわかに強い刺激を感じて、陽子の唇から甘い声が漏れた。強く吸われた胸元に赤い跡が残っていた。こんな姿を春奈にでも見られたら、どんな顔をすればいいのだろうか。陽子は羞恥に頬を染めた。
「いけないよ、ママ。お兄ちゃんと呼んだら駄目だって、何度も言ったでしょ。今の春奈は僕のママなんだから、息子の僕のことは名前で呼んでくれなきゃ困るよ。わかってるの?」
「ご、ごめんなさい、ナオ君。気をつけます……」
 鋭い視線で自分を射抜いてくる息子から顔をそむけ、陽子は蚊の鳴くような声で答えた。
 かつて春奈という名前の少女だった自分が、母の肉体と入れ替わって既に数ヶ月が経っていた。この新しい体にも随分と慣れたが、それでもまだ自分が娘で妹だという意識は残っている。特に直紀と二人きりでいるときは、最愛のこの少年に甘えたいという心情から、つい「お兄ちゃん」と呼んでしまうのが常だった。
「頼むよ、ママ。ママは僕だけのママじゃないんだ。春奈のママでもあるし、それにお腹の中にいる赤ちゃんのママでもあるんだから。自分の年齢と立場を自覚して、三十八歳のおばさんらしい振る舞いを心がけてよね」
「うん、わかってる」
 直紀の言い方は意地悪だった。暗い気分と共に、自然と声のトーンも落ちてしまう。陽子はまだ膨らみの目立たない自らの孕み腹をそっと撫でて、彼の愛情の証を確かめた。
(結局、あれからあたしもママも元の体に戻ってない。もしかして、ずっとこのままなのかな……)
 数ヶ月前に自分たちが入れ替わったときのことを思い起こす。
 母の体で肉欲を貪った愚かな自分は、あれ以来直紀の思うがままにもてあそばれる奴隷と化した。それは彼女と入れ替わった陽子も同じで、陽子だった春奈は主に学校で、春奈だった陽子は家で、それぞれ直紀との相姦を強要され続けている。最初はどちらも自分の体を奪われたことに憤り、互いに激しく罵り合ったものだが、二人揃って直紀に叱られてからは、特に対立することはなく、お互いの立場を交換して生活している。
 それから半年近い月日が経過しているが、直紀は二人を元に戻すつもりはないようで、いつの間にか春奈も陽子も新しい肉体に抵抗を感じなくなっていた。
 無論、元に戻りたいという気持ちが消え去ったわけではない。直紀が元の優しい心を取り戻し、家族三人でまた元通りの平和な生活に戻れたらどんなにいいだろうか、という思いは当然あった。
(やっぱり元の体に戻りたいよ。それに、困ってるのはあたしたちだけじゃない。久美ちゃんも智香ちゃんも、みんなひどい目に遭わされてる。お兄ちゃん、いったい何を考えてるの)
 陽子は憂いの瞳を直紀に向けたが、悪魔に魂を売った少年は陽子の体を愛撫することに夢中で、義母の不安など気にも留めない。日の光に照らされて明るいはずの視界が、絶望で暗くなった。
「さあ、ママ、お尻を出して。こないだ教えたように、自分からおねだりしてごらん」
 直紀に促され、陽子は下着を脱いで布団の上でうつ伏せになった。どんなに嫌がったところで、自分たちがこの暴君に逆らうことは許されない。この数ヶ月の間に、陽子たちは身をもってそれを思い知らされていた。
「は、はい、お願いします。ナオ君のおチンポをママのお尻に入れて下さい」
 豊かな尻を大きく振って、少年の慈悲を乞う。長期に渡って躾けられた義母の浅ましい姿に、直紀は満足げな笑みを浮かべた。
「ふふっ、いい子だ。じゃあ、ママが欲しがってるものをあげよう。たっぷり味わうんだよ」
 直紀の硬い一物が陽子の肛門をかきわけ、直腸に侵入してくる。あらかじめローションを塗ってあるとはいえ、排泄器官に太い肉の棒を突き込まれる圧迫感は凄まじい。口紅に彩られた陽子の唇から、悩ましげな息が漏れた。
「ああっ、ふ、太いよぉっ。お尻の穴がめくれちゃう……」
「すごいね。いやらしいママのお尻が、僕のチンポを飲み込んでヒクヒクしてる。ああ、いい眺めだ」
「い、いじめないで。そんなこと言われたら──あんっ、ああんっ」
 ズルリと音をたてて男性器が引き抜かれ、腸壁を摩擦する。甘美な痺れが下腹部に広がった。
(ああっ、あたし、お尻の穴で感じてるんだ。なんていやらしいんだろう)
 陽子の心に自嘲のかげりがよぎる。妊娠が判明してから、彼女の性器は一度も使われていない。アナルセックスに興味を抱いた直紀によって、陽子の不浄の穴は新たな性感帯にさせられてしまった。有無を言わせず自分の体を開発する悪魔に、陽子はなすすべもなかった。
 たわわに実った尻の肉をわしづかみにして、直紀は母の肛門を穿つ。力強いピストン運動が陽子から理性を奪い、清純な母親を淫蕩な女へと変えてゆく。
「あっ、ああんっ、あんっ。す、すごいっ。お尻が気持ちいいのっ」
「ああ、いい締めつけだ。ママのいやらしい体は、どこの穴でも僕のチンポをくわえ込めるんだね。入れ替わったときからスケベだったけど、今のママはあのときよりもずっと淫乱になったと思うよ。何せ、僕専用の牝奴隷だからね。ふふふっ」
「いやあっ、そんな言い方……あんっ、あああっ。ダメ、おかしくなっちゃうっ」
 直紀の言葉が陽子の心を嬲り、自分が彼に従う奴隷でしかないことを再確認させる。だが、嫌悪の情はまったくなく、愛する男の所有物になった幸福感で胸が一杯だった。
(あたしの体、いやらしいんだ。今までママのせいにしてきたけど、このいやらしい体が今のあたしの体なんだ)
 胎内を前後する陰茎の感触をより深く味わおうと、陽子は鼻息荒く腰を動かす。肉感的なボディを振るって禁忌の快楽を貪る中年女の表情に、半年前まで無垢の乙女だった少女の面影を見つけることはできなかった。
「ああっ、お、お尻、気持ちいいっ。イク、イっちゃうっ。お尻でイクのっ。おおっ、おおおおっ」
 不浄の穴を犯される快感に歓喜しながら、三十八歳の妊婦になった元女子高生は、背筋を弓なりにそらして絶頂を迎えた。頃合いと見た直紀が精を放ち、母の肛門に隷属の証を注ぎ込む。温かで心地よい感触が腹の奥に広がった。
「ママも春奈も愛してるよ。これからもいっぱい僕を楽しませてね」
 なおも直紀は陵辱をやめない。尻の穴に埋め込まれた男性器がみるみるうちに硬さを取り戻し、再び陽子を犯し始める。
 淫らな親子の一日は、まだ始まったばかりだった。


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