マジックペンですげ替わり 5

 陽子が家路についたのは、夜の九時を少し回った頃だった。
 本当ならもっと早く帰れるはずなのだが、人手不足の今の職場では余計な仕事を回されることが多く、これより遅くなることもしょっちゅうだ。疲労のあまり帰りのバスの中で居眠りして、寝過ごしてしまうことも幾度か経験した。
 しかし、今日の陽子は仕事の疲れをほとんど気にすることなく、充実した気持ちでバスを降りた。
 首から下が春奈の体と入れ替わったのがその理由だ。若々しい女子高生の肉体になって、肩こりや筋肉痛に悩まされることが無くなったのだから、自然と気分が弾むのも無理はない。無論、娘の体を奪ってしまったことに対する負い目はあったが、それは陽子の愉悦と矛盾するものではなかった。
 住み慣れた自宅のドアを開けると、直紀が玄関まで出てきて陽子を迎えてくれた。
「ママ、おかえりなさい」
「ただいま、ナオ君。春奈はどうしてる?」
 血の繋がらない息子に陽子は訊ねた。首から下の体が陽子のものになってしまった娘が落ち込んでいるのではないかと心配でならない。
「春奈なら、今はお風呂に入ってるよ」
「そう。何か変わったことはなかった?」
「ううん、何も。ご飯は二人で先に食べちゃった。ごめんね」
 直紀は義母の荷物を手に持って詫びた。その神妙な態度に、逆に陽子が気後れしてしまう。
「別にいいのよ。今日は遅かったから……」
 直紀のあとについてダイニングへ向かう。テーブルには子供たちが作ってくれた温かい夕餉が並べられていた。普段と何も変わらない日常の光景に、陽子は安堵する。
「ママ、お腹空いたでしょう。さあ、どうぞ召し上がれ」
「ありがとう。でも、その前に着替えてこないと……春奈のお気に入りのワンピースを汚しちゃったら怒られるわ」
 陽子は自分が着ている桜色のワンピースを指して笑った。直紀も調子を合わせるように笑いながら、「大丈夫だから、早く食べてよ。着替えは後でいいからさ」といって、母をやや強引に席につかせる。スープの匂いが鼻孔をくすぐり、腹が大きな音をたてた。借り物の若い体が旺盛な食欲を示していた。
「あら、恥ずかしい。じゃあ、お言葉に甘えて、温かいうちにいただこうかしら」
 椅子に座った陽子に、直紀が温め直したオムライスの皿を差し出す。よくできた息子だとつくづく思った。
「それにしても、ママが春奈の服を着てるのは面白いね。そういう可愛らしいママの格好、見たことないから新鮮だよ」
「面白いというよりも、変だわ。若作りして恥ずかしい」
 顔を赤らめる陽子に、直紀は首を横に振る。
「そんなことない。とってもよく似合ってるよ。ママはまだまだ若いからさ、今度、春奈とお揃いの服でお出かけしてみたらどうかな」
「もう、ナオ君ったら……大人をからかうんじゃありません」
 口を尖らせつつも、満更ではない表情の陽子。美味い食事と息子の世辞に、陽子は上機嫌だった。
「ところでママ。実は、話しておきたいことがあるんだ」
 食事が終わろうかというとき、ふと直紀が話題を変えた。持って回った言い方だった。
「どうしたの、ナオ君。やけに改まっちゃって」
「ママと春奈の体が入れ替わっちゃった話なんだけど、ひょっとしたら元に戻れるかもしれない」
「えっ、本当? どういうことなの」
 陽子は驚いて直紀を見つめた。信じられない出来事が自分たちの身に起こり、どうしたらいいか困惑していただけに、直紀の発言はまったく予想外だった。
「あれから僕も色々と調べたんだ。もしかすると、二人の体が入れ替わっちゃったのは黒魔術のせいかもしれない」
「く、黒魔術?」
 思いがけない単語に、陽子の声が裏返った。聡明な息子がまさかこんなことを言うとは思わず、戸惑いを隠せない。
「そうだよ。世の中には科学じゃ解明できないことがたくさんあるんだ。今回のことだって、誰かがママと春奈に黒魔術をかけて困らせようとしてるのかもしれない。ううん、きっとそうだよ」
「そ、そうなの。ナオ君がオカルト好きだなんて知らなかったわ。でも、黒魔術なんて……」
 肯定すべきか否定すべきか、陽子には判断ができなかった。とても信じがたい話だが、今、自分たちの身に起きている異変を考えれば、確かに非科学的な領域に原因を求めてもいいのかもしれない。
 しかし、あの直紀が魔術やオカルトを真剣に語るとは──。
 とにかく話を聞いてみようと、陽子は続きを促す。
「で、その黒魔術っていうのを調べたら、私たちの体を入れ替える方法がわかったの?」
「うん、そうなんだ。元に戻す方法も一緒にわかったから、今から試してみようよ」
「本当なのかしら。いきなりそんなことを言われても、とてもじゃないけど信じられないわ」
「ものは試しだよ。とにかくやるだけやってみて、無理だったら他の方法を考えたらいいじゃない。ほら、これを使うんだよ」
 不審げな陽子を説き伏せ、直紀が取り出したのは一本の黒いマジックペンだ。町のコンビニや文房具屋でいくらでも買えそうなありふれた品に、疑わしさはますますつのる。
「それ、普通のマジックよね。なんでそんなものを……」
「いいから、いいから。今からママと春奈を元に戻してあげるから、目をつぶってじっとしてて。『元に戻りたい』ってしっかりお願いしないと効き目がないから気をつけてね」
「え、ええ……」
 戸惑いながらも、陽子は直紀の言うとおりにする。どうせ効き目などないとはわかっているが、満腹になって気分がいいこともあって、しばらく息子の遊戯につき合ってやってもいいと思った。
 陽子は椅子の向きを変えて、直紀と向かい合う。それから言われた通りに目を閉じると、顔に細いものが当てられ、くすぐったい感触が額を撫でた。
「何をするの、ナオ君。もしかして落書きしてるの?」
「落書きじゃないよ。ママにかかった黒魔術を打ち消すのに必要なことなんだ。じっとしてて」
「で、でも……」
 油性のマジックペンで顔に書かれていることが、陽子を困惑させる。あとで洗って落ちるのだろうかと心配になるが、直紀は母の懸念をいささかも意に介さず、軽快にペン先を走らせた。
「よし、これでOK。じゃあいくよ。これからママを元の体に戻してあげるからね」
「ええ……お願い」
 目を閉ざしたままうなずく陽子の前で、直紀が何やらつぶやき始める。陽子の知っている言語ではなかった。何かの呪文のような妖しい響きだ。思ったよりも本格的なまじないの文句に、他愛ない児戯を想像していた陽子は驚きを隠せない。
(何だか怖くなってきたわ。本当に大丈夫かしら……)
 背筋に悪寒がはしり、直感が危険を知らせてくる。それでも愛する息子を信じて陽子は動かなかった。やがて直紀の呪文は終わり、ダイニングルームに静寂が満ちる。
 変化はすぐに起きた。
(ど、どうしたのかしら。何かおかしいわ。頭が……)
 マジックペンで落書きされた額に得体の知れない疼きを感じた。虫が這いずり回っているような不快な感覚に気分が悪くなる。たまらず目を開けると、直紀が端正な顔に薄ら笑いを浮かべていた。
「ふふふ、うまくいったね。喜んで。元に戻ったよ」
「本当なの? あ、あら? 何だか変だわ」
 陽子は違和感を覚えた。自分の声がやけに高く、まるで別人のようになっていたからだ。それも知らない人間のものではない。よく知っている声だ。
「この声……私、どうしちゃったのかしら。それに、服も春奈の服のまま。元に戻っていないわ」
 直紀の言葉が正しいのなら元に戻っているはずなのに、陽子はいまだ娘のワンピースを着たままでいる。どういうことかといぶかしがっていると、直紀が彼女を椅子から立たせ、ひしと抱きついてきた。
「ああ、よかった。これで何もかもが元通りだね。僕も安心したよ、春奈」
「えっ、春奈? ナオ君、何を言っているの」
 息子の真意がわからずうろたえる。直紀は陽子の髪を撫で、優しく笑いかけてきた。
「何って、大事な妹が元に戻って喜んでるんじゃないか。春奈は嬉しくないのかい?」
「わ、私は春奈じゃないわ。ナオ君、悪ふざけはやめて」
 言いながら、陽子の胸の中で暗い灰色の不安が膨れ上がっていた。
 なぜ自分の声は少女のように可愛らしい声色になってしまったのか。どうして自分の髪は頭の左右で束ねられたツインテールになっているのか。多くの疑問が浮かんできて、陽子は恐怖にわななく。
(私の体、一体どうしてしまったの。これじゃまるで──)
 陽子は直紀から離れた。不安に駆り立てられるようにして洗面所に向かい、鏡をのぞき込んだ。自分の姿を映すはずの鏡の中に、最愛の娘の顔が映っていることに目を疑う。
「そ、そんなっ。どうして私が春奈になっているの」
 陽子の口をついて出たのは、愛娘の春奈の声だった。驚愕と絶望に囚われ、陽子は前のめりの姿勢で固まってしまう。いくら鏡に見入っても、陽子自身の姿はどこにもなかった。
 なぜ、自分が春奈に──陽子はどうしていいかわからなかった。元の体に戻るどころか、残っていた顔と髪型までもが春奈のものになってしまった。もはや今の彼女の姿を見て、陽子だとわかる人間は存在しない。一番近しい家族の直紀でさえ、彼女のことを春奈と呼んだ。陽子は頭部から爪先まで、肉体の全てが春奈になってしまったのだ。
 しばらく呆然としていた陽子だが、ふと背後に人の気配を感じた。直紀が後ろに立って、陽子の肩に手を置いた。
「春奈、急に元に戻って混乱してるんだね。可哀想に。でも大丈夫だよ。僕がついてるから」
「ち、違うわ。私は春奈じゃなくて、あなたのママよ。信じて、ナオ君。私と春奈、今度は体全部が入れ替わってしまったの」
 陽子は慌てて否定するが、直紀は聞く耳を持たない。陽子の肩に顎を載せ、耳元で語りかけてくる。
「春奈、どうしてそんなことを言うんだ? 君は僕の妹の春奈じゃないか。どこからどう見ても、僕の可愛い春奈にしか見えないんだから」
「だから違うのよ、ナオ君。私は春奈じゃない──んんっ」
 発言を遮り、直紀が唐突に陽子の唇を奪った。驚いて硬直している隙に、直紀の舌が前歯を押しのけて陽子の中に侵入してくる。男子高校生の荒々しい息づかいを口内に感じた。
「ううんっ、んっ。うううっ」
(舌が口の中で暴れてる。なんていやらしい動きなの)
 物慣れない少年の行為ではない。直紀の舌は大胆に陽子の内部をまさぐり、逃げようとする彼女の舌に無理やり巻きついてくる。二人の唾液と呼気が混じり合い、胸が苦しくなった。
(だ、駄目。こんなことしてはいけないのに……)
 いくら血の繋がりがないとはいえ、母と息子がこのような淫らな振る舞いに没頭していいわけはない。陽子は離れようともがくが、直紀は万力のような力で陽子を押さえ込んでくる。下品な音をたてて義母の唾液をすする直紀に、男を感じずにはいられなかった。
(ああ、ナオ君のつばが口の中に……すごい。こんな情熱的なキス、初めて)
 舌で丸めた唾液を口の中に送り込まれ、春奈から借りた体がじわりと熱を帯びる。体温が急激に上昇し、陽子の分別を奪おうとしていた。
「ふふっ、とってもいやらしい表情をしてるね。可愛いよ、春奈」
 ようやく口を離した直紀が、陽子を見下ろして微笑む。陽子はハッとした。いつの間にか、義理の息子との接吻に魅了される自分がいた。
「こ、これは違うの。お願い、ナオ君、私の話を聞いてちょうだい」
「聞かなくてもわかってるよ。体がウズウズして我慢できないんだろう? いけない子だね」
 直紀の手がワンピースの裾から入ってきて、下着の表面を撫で回す。ぞわぞわした感覚が下腹部から這い上がってきて、陽子の体を震わせた。
「や、やめてちょうだい。こんなことをしては駄目よ」
「どうしてだい? 僕と春奈は将来を誓い合った仲じゃないか。春奈は僕のお嫁さんになって幸せに暮らしたいって言ってただろう。僕も同じ気持ちだよ。一生、春奈を大事にする。子供もいっぱい作ろうね」
「ち、違う。私は春奈じゃない……ナオ君、信じて。あ、ああっ、駄目っ」
 どれだけ言葉を重ねても、直紀は陽子の体をもてあそぶ手を止めない。無礼な手はとうとう下着の中にまで押し入ってきた。薄い茂みをかき分け、直接性器をくすぐってくる少年の指に、陽子は声を抑えられない。
「や、やめてっ。そんなところ──ああっ、あんっ。やめてちょうだい」
(ナオ君の指が、いやらしいところをまさぐってる)
 脚が小刻みに震えて、立っていられなくなる。へなへなとその場に崩れ落ちる陽子を直紀が支えた。顎をつかまれ顔を上向かされる。再び唇を奪われた。
「うんっ、んむぅっ。ううっ、うう……」
 直紀は犬のように執拗に、陽子の口内をなめ回した。義理の息子に口の中を貪られる嫌悪と罪悪感が陽子の身を焦がす。理性では駄目だとわかっているのに、愛娘の肉体が歓喜しているように思えてならない。閉じ合わせた太腿の内側がジンジンと疼いてどうしようもなかった。
(体が熱いわ。まるで、春奈の体が欲しがっているみたい……)
 駄目なのに、駄目なのにと思いながら、いつしか陽子は自分から積極的に直紀と舌を絡めていた。視界に薄桃色のヴェールがかかって抗う意志が薄れてゆく。洗面所の鏡の前で息子に抱きかかえられ、十五歳の未亡人は禁忌の法悦にひたった。
 嫌がることをやめた陽子の姿に気をよくしたのか、直紀はますます大胆に彼女の秘所を刺激してくる。処女の割れ目をこじ開けて胎内に侵入してくる人差し指が、陽子を激しく喘がせた。酸素の不足に顔を真っ赤にしていると、直紀が繋げた口から唾液混じりの空気を送り込んできた。呼吸さえも少年に操られていることを思い知らされ、陽子は戦慄する。
(どうしてなの。苦しいのに、ちっとも嫌な気分じゃない)
 自分が直紀に篭絡されつつあることに陽子は気づいていたが、今の彼女には抵抗のすべがない。力では到底敵わず、誰かに助けを求めることもできず、そして心さえも少年に絡めとられる。自制をなくした陽子を、直紀は巧みに自分の支配下に置いていた。
「春奈、好きだよ。愛してる」
 耳元で囁かれる甘い言葉に胸が高まる。二十年以上も前の、乙女だった頃の記憶が蘇った。陽子は何も言わず、とろんとした目で直紀を見上げた。幼かったはずの少年が凛々しい男になっていた。
 直紀は陽子と視線を合わせて微笑すると、彼女の背中と膝の裏に腕を回してかつぎ上げた。狭い洗面所からダイニング、リビングを通って陽子の部屋へと運ぶ。畳敷きの和室には既に布団が敷かれていた。直紀は小柄な彼女を静かに布団の上に下ろし、ワンピースを脱がせにかかる。
(いけない。このままじゃ、春奈の体が傷物にされてしまう)
 わずかに残った理性は危機を訴えたが、逃げることができない。娘の体は直紀との交わりを心待ちにしているかのように動こうとしなかった。すっかり骨抜きになった陽子に、彼を拒絶することはもはや不可能だった。へたり込んだまま、自らの服を脱がされる光景を呆然と眺めるしかない。
 直紀はついに下着を剥ぎ取り、春奈になった陽子の肌を光に晒した。童話に出てくる妖精のようにか細く、美しい裸体が現れる。若々しい生娘の体だった。陽子と直紀は二人して、この場にいない春奈の体に深く見入った。
(ナオ君、私のことを見てる。春奈の綺麗な体をじっと眺めてる……)
 羞恥が女体を燃え上がらせる。股間を熱い液体が滴るのを感じた。無垢な娘の身体を、卑しい母の心が汚してしまったような気がした。頭の左右で頼りなく揺れる二束の髪に、自分は確かに春奈の体になっているのだと改めて実感させられる。
「綺麗だよ、春奈。まるでお人形さんみたいだ」
 直紀が口を寄せて、陽子の首筋に吸いついた。肉づきの薄い部分をついばまれて身をよじった。「ああんっ」と、自分のあげた声の艶やかさに陽子は驚く。
 下では、また直紀の指が股間をまさぐっていた。今度はいきなり性器を責めるようなことはせず、くすぐるように恥丘を撫でて陽子を焦らす。薄い陰毛のさわさわした手触りを楽しんでいるようだ。
(ナオ君、やめて。私たち、こんなことをしちゃいけないのよ)
 いいようにもてあそばれているというのに、心に浮かんだ制止の言葉さえ口にできない。その代わりに陽子はうっとりした声で喘ぎながら、義理の息子の前戯に酔いしれた。
「春奈のここ、いやらしい蜜が溢れてるよ。とってもエッチだ」
「ああっ、あんっ。はああっ、駄目ぇっ」
 くちゅくちゅと下品な音をたてて割れ目を撫で上げられる。もどかしい感触が三十八歳の女心を煽る。操を立てたはずの亡夫以外の男に抱かれようとしていること、その相手が長年可愛がってきた義理の息子であること、そして自分の体が愛娘と入れ替わっていること、全てが背徳の興奮となって陽子を蝕んだ。
 直紀の唇は陽子の首筋から胸元を這い回ったのち、いよいよ下半身に及んだ。細い脚をなめ回して陽子の羞恥心を煽ったかと思えば、股間に顔をうずめて舌を淫靡に蠢かせる。義妹の清い体を隅々まで愛しているようだった。陽子は浅ましい痴態を晒して、直紀に翻弄されるばかりだ。
「あんっ、あふうっ。そ、そんなところをなめないでぇっ」
「ふふ、エッチなおつゆが止まらないね。これじゃあ、とても飲みきれないよ」
 口の周りを陽子の体液で光らせ、直紀が笑う。わざと淫らな言い回しを使って陽子をいたぶっているのがわかった。今まで感じたことのない高揚が陽子の肢体を包み込む。白い肌に桜の色が散った。
 直紀は仰向けになった陽子の両脚を開かせ、その間に自らの体を差し入れてきた。ズボンの中から太い肉の棒が隆起していた。黒々とした茸のような男性器は、立派な牡の象徴だった。
(すごいわ。これがナオ君の……小さい頃とは全然違う)
 陽子は物欲しげな目で息子の陰茎を見つめた。記憶の中にある亡夫のものと比べても明らかに大きく、黒光りする長大な幹が腹側にそり返っていた。ごくりと喉が鳴ったが、体裁を取り繕う余裕もない。
「怖いかい、春奈? でも優しくするから大丈夫だよ。それにエッチなおまじないもかけてあるから、あんまり痛がらずに済むと思う」
(エッチなおまじない……)
 溶かされつつある陽子の理性は、直紀のはかりごとに気づくことはなかった。体の芯が燃え盛って何も考えられなくなる。ただ、火照った体の疼きを一秒でも早く鎮めてほしかった。
「じゃあ、いくよ。今から君の初めてをもらうから」
(私のヴァージンを、ナオ君に捧げる……)
 若い娘のときめきが陽子の胸一杯に広がる。陽子は小さくうなずき、自ら腰を浮かせて直紀を受け入れた。
 血管の浮き出た極太の肉棒が真っ直ぐな陰部の筋にあてがわれ、ゆっくり割り込んでくる。小柄な少女には大きすぎる代物だが、直紀は気にせず腰を押し出し、膣内を広げていく。
 陽子は娘の処女が奪われるさまを夢心地で眺めていた。春奈に無断でこんなことを許していいわけはないのに、直紀を拒絶する気になれない。心の中の歯止めが無くなってしまったようだった。
 そのうちに、引き裂かれるような痛みが陽子を襲う。ズンという重々しい衝撃に少女の体が打ち震えた。十五歳の娘の体が処女でなくなった瞬間だった。
「ああっ、ううう──はあ、はああっ」
 途切れ途切れの苦悶の声が漏れる。太い杭を打ちつけられているような苦痛が、陽子の肺から酸素をしぼり出した。
(ああ……私ったら、春奈の初めてを奪ってしまったんだわ)
 背徳の事実が心地よい刺激となって身を焦がす。取り返しのつかないことをしてしまったはずなのに、後悔よりも満足感の方が強かった。自分の非情な一面を発見させられ、陽子は驚く。しかし、それも一瞬のこと。陽子の意識は、自らの胎内にみっちり埋まった息子の性器に向けられた。
 直紀の男性器は強靭だった。いとも容易く陽子の膣を貫き通し、その奥にある子宮を突つく。無垢な少女を相手に非道な仕打ちだが、直紀は途中でやめることをせず、互いの体をぴったり密着させて満足げに笑う。
「ふふ、奥まで入ったよ。これで春奈も一人前の女になったね」
 腹部を満たした陰茎がドクドクと脈打ち、内側から圧迫していた。自分と直紀の鼓動が重なり、区別できなくなる。義理の息子と一体になる喜びが陽子の頬を緩ませた。
(ナオ君のがお腹の奥まで入ってる。ああ、なんてたくましいの)
 若々しい肉の塊に、女性器が隙間なく塞がれている。はあはあと喘ぐ陽子の口からよだれがこぼれて、顎を伝って落ちた。
「やっぱりすごい締めつけだな。春奈のここ、僕のをくわえ込んで放さないよ」
 直紀が嘆じて腰を揺すった。破瓜の痛みが陽子の喉から悲鳴を引き出す。目頭が熱くなった。
「ま、待って。動かないで……いっ、痛いっ」
 陽子の懇願は無視された。直紀は腰を前後させて、血のにじむ粘膜を摩擦してくる。涙を流して必死に歯を食いしばる陽子の顔は、三十八歳の子供思いの母のものではない。愛しい男性に処女を捧げてむせび泣く十五の娘の顔だった。
 直紀とのセックスは亡き夫のものとはまるで違った。十代のたくましい陰茎が鋭利な槍と化して陽子の秘所を穿つ。若さは力だった。ズン、ズンと力強く膣内に突き込まれるたび、体がバラバラになってしまいそうな衝撃が陽子を揺さぶり、荒い呼吸をせき止めた。
「あぐっ、うう……ひい、ひいっ」
(駄目、こんなの激しすぎる。おかしくなっちゃう。相手は息子なのに)
 今まで陽子は、直紀を我が子のように慈しんできた。子供の頃から手塩にかけて育ててきた少年に、自らの女の部分を蹂躙されていることが、義母の矜持を打ち砕こうとしていた。
「ああ……春奈の中、ぬるぬるして気持ちいいよ。こんなに僕を締めつけて、いやらしいオマンコだ」
「そ、そんなこと言わないで。はあんっ、はああんっ」
 直紀に腰をつかまれ、純潔を失ったばかりの秘部を乱暴にかき回される。激痛がはしっているはずなのに、甘い声が出てしまうのが自分でも不思議だった。
(私、気持ちがいいの? どうして? どうして気持ちがいいなんて思うの)
 亀頭が膣壁にこすられるたび、甘美な痺れが陽子を惑わす。腹の底からにじみ出る肉汁がじゅぽじゅぽと卑猥な音をたてた。とても処女の交わりとは思えなかった。春奈の女性器が最愛の義兄を歓迎しているとしか考えられなかった。
(ひょっとして、春奈の体が喜んでるの? そんな……でも、それなら仕方がないわね。だって、私のせいじゃないんだもの。春奈の体が気持ちいいって言ってるんだから、しょうがないわ……)
 ふと浮かんだ悪辣な考えが、優しい母の心を犯す。かすかに残された理性が自己の正当化を始めた。自分は悪くない、悪いのは全て直紀と春奈なのだという不埒な思考が陽子を支配する。娘の体で性交渉を持ったことに対する罪悪感が、免罪符を得てにわかに薄らぎだした。
「ああっ、あんっ。ナオ君、激しいっ。ああっ、す、すごいっ」
 陽子はだらしなく口を開けて、娘の肉体で肉欲を貪る。よだれが滴って素肌を汚すのも気にならない。
 一旦受け入れてさえしまえば、久方ぶりのセックスは格別だった。ずっと心の奥にしまい込んでいた性の欲求がむくむくと頭をもたげ、更なる快楽を貪欲に要求してくる。陽子は妖しく腰をくねらせ、直紀のペニスを堪能した。
 今の陽子にとって、もはや常識やモラルは邪魔な代物でしかなかった。こんなことになるなら、もっと前から直紀と関係を持っておけばよかったとすら思った。
「あっ、ああっ。ナオ君、もっと──ああ、いいのっ。奥まで届いてるっ」
「春奈、気持ちいいのかい? ふふっ、初めてなのに感じるなんて、いけない子だね」
「ふあっ、ふああっ。だ、駄目っ、そんなところをツンツンしたら駄目ぇっ」
 野太い男性器が胎内を席巻し、銛のような形状の先端で執拗に子宮を打ち据える。こんな部位まで少年にもてあそばれてしまうとは──陽子は戦慄した。背筋の震えが体じゅうに広がっていく。
(ああ……ナオ君ったら、なんて素敵なの。このままじゃイカされちゃう)
 希薄になっていく意識とは対照的に、快感はどんどん強く、そして激しくなっていった。とろけた陽子の瞳に、もはや怯えの色はない。まるで何かに操られているかのように、見苦しく腰を振った。処女とは思えない淫猥な仕草を眺めて、直紀が笑みを深める。
「ふふ、春奈はエッチだね。ああ、僕ももう我慢できないよ。このまま中に出すけどいいよね?」
 陽子の中を肉の棒でかき回して直紀が言った。質問ではなく確認だった。陽子はためらうことなくうなずき、膣内射精を乞い願う。
「え、ええ、いいわっ。このまま中に、中にちょうだいっ」
 長い黒髪を振り乱して射精を求める。直紀は我が意を得たりとばかりに義妹の体を持ち上げ、強く腰を打ちつけた。ぐいぐいねじ込まれる少年の陰茎が陽子を狂わせる。陽子は足の先をぐぐっと丸め、はしたない声をあげて絶頂を迎えた。
「も、もうダメっ。あっ、ああっ、イクっ。ナオ君、イクわっ」
 腹の底から狂おしいほどの衝動が沸き上がり、熱い喘ぎとなって吐き出される。目の前に火花が散り、白と赤の光のコントラスト以外は何も見えなくなった。長い間忘れていた性のうねりが陽子を遥かな高みに持ち上げ、そこから一気に突き落とす。
 どこまでも落ちていくような感覚の中で、陽子は静かに目を閉じた。薄れゆく意識が最後に感じたのは、自分の体の中に染み込んでくる少年の温もりだった。耳元で直紀に何かを囁かれたような気もしたが、とうに限界を超えていた陽子にそれを知覚することはできなかった。


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