祐介の妊娠 2


「祐ちゃん、起きて。朝だよ、起きて」
 馴染みの少女の声が祐介の意識を呼び覚ます。祐介は小さくうめいてまぶたを開いた。カーテンの隙間から、柔らかな朝の光が暗い部屋の中に差し込んでいた。
 ベッドに仰向けのまま首を横に向けると、黒い髪をツインテールにした童顔の少女と目が合った。少女は紺のセーラー服の上に、学校指定のジャケットを羽織っていた。近所に住んでいる幼馴染みの森田瑞希が、祐介を起こしに来てくれたのだ。
「瑞希……もう朝なのか。ううっ、重い……?」
 起き上がろうとして、腹に強い違和感を覚えた。女物のサーモンピンクのパジャマを着た祐介の腹部は大きく膨らみ、異様な姿を晒していた。おそるおそる手のひらで腹に触れると、かすかなぬくもりと鼓動を感じる。新たな命が宿った孕み腹だ。
 現在の祐介の身体は、本来の彼のものではなかった。頭部以外は他人の体だ。祐介の首から下の肉体は、斉藤ちひろという妊産婦のものとそっくりそのまま置き換わっているのだ。
(夕べはよく眠れなかった。まさか、俺が妊婦になっちまうなんて……)
 苦労して身を起こし、暗い表情で自らの腹を見下ろす。臨月の腹部はマタニティパジャマの布地を押し上げ、自分が母親になってしまったことを祐介に思い知らせる。一瞬、これは夢ではないかと疑ったが、いつまで経っても夢は覚めない。決して覚めることのない悪夢に祐介は囚われていた。
(畜生。それもこれも、みんなあいつのせいだ。加藤真理奈……あいつ、絶対に許さねえ)
 こんなことになってしまったのは、毎度のことながらクラスメイトの加藤真理奈の仕業だった。人体に多大な影響を及ぼす危険な新薬を入手した真理奈は、いつものようにそれを祐介に使用した。気を失っていて詳しいことは覚えていないが、その薬のせいで祐介の首は胴体を離れ、同じ薬物を摂取して首無しになったちひろの肉体と合体してしまったらしい。本来は別人のものである体のパーツが容易く結合し、一つになってしまったのだ。にわかには信じがたい話だが、祐介の体の首から下がちひろのものと入れ替わってしまったのは、いくら認めたくはなくとも認めざるをえない過酷な現実だった。
「祐ちゃん、どうしたの?」
 変わり果てた己の姿を眺めて落ち込んでいると、瑞希が祐介の顔をのぞき込んできた。恋人でもある異性の幼馴染みが見ず知らずの妊産婦と体を取り替えられてしまっても、瑞希は平然としていた。
 これも、やはり全ての元凶である真理奈の所業だ。真理奈が持ってきた謎のスプレーの中身(おそらく、あれも危険な薬物だろう)を浴び、瑞希は変わってしまった。妊産婦用のパジャマに身を包んだ身重の祐介を見ても、もはや何の疑問も抱かない。「祐介は出産を間近に控えた妊婦」ということを、当たり前の現実として認識しているのだ。
「いや、何でもない。何でもないんだ、瑞希」
 祐介は軽く嘆息して首を振った。自分の身に起きた異変をいくら訴えても、彼の両親も恋人の瑞希も、その声に耳を貸そうとはしない。夕べのやり取りで、祐介はそれを嫌というほど思い知っていた。元の体に戻りたいのなら、自分の力で何とかするしかない。
 ベッドの上に座り込み、これからどうすべきかをじっと考え込んでいると、瑞希が祐介の膝から毛布を剥ぎ取った。
「じゃあ、これから一緒に学校に行こうよ。今日はいい天気で、昨日よりも暖かいよ」
「あ、いや、瑞希……起こしに来てくれたのはありがたいけど、俺は学校には行かないぞ。今日は休むから、お前一人で行ってくれ」
「ズル休みなんてダメだよ、祐ちゃん。ちゃんと学校に行かないとおばさんに怒られちゃうよ」
「あのなあ……こんな体で行けるわけないだろ。制服だって着れないし、このデカい腹はどうやっても隠せねえ。皆の笑いものになっちまうよ」
 前方に突き出た自身の腹部を指し示し、登校は無理だと主張する祐介。しかし瑞希は引き下がらず、彼のか細い手を握った。
「大丈夫だよ。今の祐ちゃん、とっても可愛いから。さあ、着替えて一緒に登校しようよ。祐ちゃんと体を交換してくれた妊婦さんが、その体に合う服をたくさん置いていってくれたんだって。だから、服の心配はしなくていいよ」
「やめろ、瑞希。俺は外に出たくねえんだ。あっ、こら。だからやめろって。おい」
「じっとしてて、祐ちゃん。私が着替えを手伝ってあげる」
 こんな姿で外出できるわけがない──いくら祐介がそう言い張っても、瑞希は執拗に祐介のパジャマを脱がせようとする。真理奈に洗脳された彼女を説得するのは、極めて難しいように思われた。
「駄目だって、瑞希。やめろ、やめてくれ。こら、いい加減にしろっ」
「祐介っ! あんた、せっかく瑞希ちゃんが起こしに来てくれたんだから、さっさと起きて着替えなさい!」
「わああっ! お、お袋っ !?」
 不意にあがった怒鳴り声に、祐介は震え上がった。祐介の母親が怒りの形相で部屋の入り口に立っていた。いつまで経っても二階から下りてこない祐介を叱りに来たのだ。
 これが普段ならば母の言うとおり、手早く着替えて支度をするところだが、今は事情がまるで異なる。首から下が妊産婦になってしまった自分が、まともに登校できるわけがない。祐介はそう述べたが、母親は息子の異常な姿を嘆くでもなく、再び彼を叱りつけた。
「いいから、早く着替えて朝ご飯を食べなさい! 今のあんたは妊婦さんだから、ちゃんとご飯を食べなくちゃいけないんでしょう !? ほら、わかったら早くする! 遅刻しちゃうわよ!」
「そうだよ、祐ちゃん。早く着替えて一緒に学校に行こうよ」
「お袋、瑞希……二人とも、なんでわかってくれねえんだよ。畜生……」
 母親も瑞希も、祐介の苦痛をまるで理解してくれない。いくら真理奈に催眠術をかけられたとはいえ、こんな酷い扱いがあっていいものか──ぽろぽろ涙をこぼす祐介の前に、妊産婦用の下着とマタニティドレスが放り投げられた。
「それ、あんたの服よ。あんたと体を交換した斉藤さんが貸して下さったの。さっさとそれに着替えなさい」
「わあ、可愛い。妊婦さんってこんな服を着るんだ。じゃあ着替えようか、祐ちゃん」
(男の俺がブラジャーをして、パンティをはいて、しかもマタニティドレスを着て学校に行かないといけないのか。ううっ、恥ずかしくて涙が出てきた……)
 瑞希の手を借りて、祐介は泣きながらちひろの服を身に着ける。ブラジャーとマタニティショーツを新しいものにはき替え、女物のインナーやロングパンツ、さらに授乳口つきのダークグレーのワンピースに袖を通した。着替えを終えて姿見の前に立つと、妊婦の外出着に身を包んだ少年の姿が映っていた。羞恥で顔が真っ赤になった。
 そうしてダイニングに行くと、テーブルには普段とはいささか異なるメニューの朝食が並べられていた。これはどういうことかと問うと、妊婦は何よりも食事に気をつけなくてはならないという答えが返ってきた。
「食べるものに困る妊婦さんはたくさんいるのよ。子宮が大きくなるから少ししか食べられなかったり、喉が渇くからお水を飲みすぎて妊娠中毒症になったりして、とにかく大変なの。体重の管理も苦労するし。あと個人差も大きいから、体がおかしいと思ったらすぐ私に言いなさい」
「そ、そんなことまで気をつけなきゃいけないのかよ。妊婦って大変なんだな……」
「食物繊維やたんぱく質の他に、鉄分とカルシウムも必要ね。分娩時は出血するから」
 母が何気なく口にした言葉に、祐介は戦慄した。早く元の体に戻らなくては、近いうち自分が産婦人科に担ぎこまれて出産する羽目になってしまう。それだけは何としても避けたかった。
(くそっ、早く元に戻らねえと……加藤のやつ、なんてことをしやがったんだ)
 皿の上の卵焼きに箸を伸ばし、祐介はつくづく真理奈を恨む。何としてでも彼女をつかまえ、元の体に戻してもらわなくてはならない。そのためにも、今日はやはり学校に行く必要がある。人に見られて恥をかくのを我慢してでも、真理奈に会わなくては。
(こうなったら加藤をつかまえて、腕づくででも何でも絶対に言うことを聞かせてやる。相手が女だからって遠慮はしねえぞ、畜生……)
 苦悩する祐介とは対照的に、母親と瑞希は常日頃とまるで変わらない様子でテレビを観ながら談笑していた。苛立ちを抑えて朝食をかきこむと、腹に奇妙な圧迫感を覚えた。はたして母の言ったとおり、三十八週目の子宮に圧迫された妊婦の胃袋は、すぐに新たな持ち主に満腹を知らせてきた。普段の半分の量も食べていないというのに、祐介の朝食はあっさりと終わってしまった。

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 

 それから祐介は瑞希に手を引かれ、二人並んで登校することになった。途中、何度も腹の重みでバランスを崩し、転んでしまいそうになった。祐介はそのたびに妊婦になってしまった己の身を嘆き、元凶である加藤真理奈に対する呪詛の言葉を吐いた。周りの通行人が自分に向ける、物珍しげな視線も辛かった。首から下が二十八歳の妊産婦の身体になった男子高校生の奇怪な外見は、周囲の注目を浴びるのに充分だった。
 ようやく学校の正門前にたどり着いても、そう簡単に中に入ることはできなかった。冬物の学生服かセーラー服を着た高校生の集団の中で、ダークグレーのマタニティウェアを身にまとった祐介の姿はすこぶる目立つ。知り合いにでも見つかれば、晒し者にされる危険があった。
「やっぱり無理だって。こんな格好で中に入るなんて無理だよ、無理。俺、やっぱり帰る……」
「ダメだよ、祐ちゃん。せっかくここまで来たんだから。ええいっ!」
 民家の塀に隠れて尻込みしていると、瑞希が後ろから勢いよく祐介の背中を押した。祐介はふらふらとよろめき、情けない悲鳴をあげた。門の傍らに立っていた教師がそれに気づいた。
「中川じゃないか。どうした? そんなところでぐずぐずしてないで、早く中に入れ」
「い、いや……俺、今日はその、体調が悪くて……」
 自分の体を抱くようにして、女物の服に包まれた柔らかな体のラインを隠そうとする祐介。大して意味のないその行動を不審に思ったのか、教師は大股で彼に歩み寄ってきた。
「なんか様子が変だな。どうした? む、その格好は……」
「い、いやあああっ! 見ないで下さいっ! お、俺、やっぱり帰りますっ!」
 祐介は半泣きになってその場を離れようとする。しかし教師はそれを許さなかった。体育教師の大きな手が、祐介の細い腕をがっちりつかんだ。
「ああ、なるほど。そういえばお前、女になってしまったんだったな。それも年上の妊産婦と、体の首から下の部分を交換したそうじゃないか」
「へ? どうしてそれを……」
 教師の発した意外な言葉に、祐介は面食らった。傍らでは瑞希が二つのカバンを持ち、満面の笑みで性転換した恋人を見守っていた。
「どうしてって……さっき校内放送があって、お前のクラスの加藤真理奈が言っていたぞ。中川が困っている妊婦の女性のために、体を交換して差し上げたってな。偉いぞ、中川。普通の人間には、なかなかできることじゃない。立派だ」
「ええっ! あ、あいつ、そんなこと放送しやがったんですか !?」
 祐介は飛び上がった。教師は腕組みしてうなずく。
「ああ、もう学校中の噂になっているぞ。ん、なにを恥ずかしがっているんだ? お前は間違いなくいいことをしたんだから、遠慮せずに胸を張れ。もっとも、張ってるのは腹の方だが。わっはっはっ」
 教師は中年男らしく豪快に笑うと、祐介の孕み腹を馴れ馴れしくポンと叩いた。どうやら、祐介が妊婦になってしまったことは、既に周知の事実らしい。早くも恥をかく羽目になってしまい、とても平静ではいられなかった。頭に血が上り、目から涙がこぼれた。
「くっそぉ……加藤のやつ、速攻でバラしやがって、一体どういうつもりなんだよ……」
「とにかく、ほら、さっさと校舎に入れ。遅刻してしまうぞ。森田、お前もクラスメイトだったら中川をサポートしてやってくれ。何しろ、身重の体だからな」
「はい、先生、わかりました。それじゃ祐ちゃん、行こっか」
 瑞希は教師に頭を上げ、上機嫌で祐介を先導する。しぶしぶ瑞希のあとについて門を通り抜けると、当然のように周囲の生徒たちから好奇の視線が向けられた。
「見て見て。あの子、首から下が二十八歳の妊婦になっちゃった中川君よね?」
「ふーん。あれがさっき放送で言ってた……へえ、ほおおおお……」
「首から下だけが女の人になっちゃうなんて、信じられない。でも本当だわ……」
「顔は男なのに、あのデカい胸と尻、そしてあの大きな腹……ふひひ、エロいな」
 たちまち注目の的となり、祐介は赤面してうつむくしかない。校門に入ってから校舎にたどり着くまでのほんの数十秒が、数時間にも思われた。下駄箱で用意してきた女子用の上履きに履き替え、階段や廊下をよたよたと歩く間も、すれ違う生徒たちはみな祐介の姿に釘付けになり、多感な十七歳の少年の心を散々に痛めつけた。
 それは祐介が日頃親しくしているクラスメイトたちも同じで、マタニティウェアを着た祐介が教室に入ってきた途端、一斉に歓声をあげて彼を出迎えた。皆が妊婦のために身体を交換してやった祐介の善行を称えていた。
「よう、祐介。お前、マジで妊婦になっちまったんだな! 感心したぜ!」
「偉いわ、中川君。困ってる妊婦さんのために体を交換してあげるなんて……」
「ううっ、ぐすっ。なんで俺がこんな屈辱を……」
 めそめそ泣きながら席につき、臨月の腹を抱えて途方に暮れる祐介。どこに行っても晒し者になり、精神的に参ってしまいそうだった。
 そこに新たな放送を知らせるチャイムが鳴り響く。祐介が涙でぐちゃぐちゃになった顔を上げると、教室のスピーカーからかん高い女生徒の声が聞こえてきた。
「はーい、皆さん注目っ! 大事なことだからもう一度お知らせしまーすっ! 昨日、二年C組の中川祐介君が、予定日間近の二十八歳の妊婦さんと体を交換しました。不自由な生活を強いられている妊婦さんを助けてあげるためです。偉いですねえ! なので今日からしばらく、中川君は首から下が妊婦さんの体で学校に来ます。もちろん一日中マタニティドレスを着て過ごすし、トイレも更衣室も女の子扱いになります。見かけたら皆さん、ぜひ携帯で写真とか動画とか撮りながら、『頑張れよ!』と励ましてあげて下さい。それじゃー、これで大事なお知らせ終わりっ!」
「な、何だよあの放送は……あれをさっきも流したのか?」
 祐介は青ざめる。騒々しい放送の主は、やはり加藤真理奈だった。祐介をこんな姿にした張本人が、全校生徒に向かって祐介を辱める放送を繰り返していたのだ。
「お、そういえばまだ祐介の写真を撮ってなかった。おい祐介、こっちを向いてくれ」
「お願い中川君、こっちを向いて。できればその大きなお腹が目立つ角度がいいんだけど」
 放送を耳にしたクラスメイトたちが、さっそく携帯電話のカメラを祐介に向けて撮影を始めた。誰の顔にも同じような微笑みが張りついており、そこにはいささかの悪意も見られない。男子生徒の肉体が妊婦のものと入れ替わるなどという非常識な話に驚くでもなく、真理奈の放送に従って祐介の身を気遣い、笑顔で励ましてくれているのだ。
 教室を覆う不気味な雰囲気に、祐介はただならぬ気配を感じた。
(さっき会った先生も、ここにいるやつらも、皆なんか様子がおかしい。俺が女になっちまうなんてありえない話を、なんでこんなにあっさり受け入れてるんだ? いくら何でも、普通はおかしいと思うだろ。まさか──)
 真理奈がまた何か細工をして、生徒たちを操っているのではないか。そう直感した。
 祐介は立ち上がり、身重の体で教室を飛び出す。急いで目指すは放送室だ。あのふざけた放送を行った真理奈を何としてでも捕まえ、元の体に戻してもらわなくてはならない。このままではちひろの身体のまま、妊婦として子供を産む羽目になってしまう。
「祐ちゃん、どこに行くの? そんな体で走ったら危ないよ」
 後ろからついてきた瑞希に「放送室! 加藤真理奈!」とだけ言い返し、祐介は廊下を疾走する。一歩進むたびに乳腺の発達した乳房が上下に弾み、臨月の腹部が重々しく揺れた。ダークグレーのワンピースの裾を片手で押さえて走る妊産婦の姿に、辺りの生徒たちは一様に目を丸くした。
(加藤真理奈──俺はお前を許さねえっ!)
 渾身の力を込めてドアを蹴飛ばし、祐介は放送室に踏み込んだ。機材に囲まれた狭い部屋の奥に、こちらに背を向けて椅子に座る真理奈の姿があった。真理奈は突然の闖入者に気がつくと、悠然と振り返った。
「ふふっ、来たわね。おはよう、祐ちゃん。お腹の赤ちゃんは元気にしてる?」
「ふざけんなっ! なんだよ、あの放送は !? おかげで俺は学校中の笑いものじゃねえかっ!」
「ふん、笑いものになる程度で済んでることに感謝しなさい。あたしがあの催眠スプレーを学校の隅々にまで振り撒いておいたから、誰もあんたのその異様な格好を見ても大騒ぎしないのよ。ホントならとっくに救急車かテレビ局が来て、今頃あんたは全国の晒し者になってるんだから」
 真理奈は紺のスカートからのぞく長い脚を組み替え、尊大な口調で答えた。自分勝手な言い草が、祐介の怒りをますますあおる。はらわたが煮えくりかえりそうだった。
「てめえ……いい加減にしろよ。今度ばかりは、堪忍袋の緒が切れたぜ」
 祐介は座ったままの真理奈ににじり寄り、部屋の外に逃がさないよう慎重に近づく。ここまで貶められたからには、真理奈を思い切り痛めつけてでも言うことを聞かせるつもりだった。不自由な妊婦の身体だが、男の意地にかけて彼女を押さえ込んでみせる。
「どんなに謝っても、もう絶対に許さねえぞ。お前をギッタギタにして、二度と俺にちょっかいを出さないようにしてやる。覚悟しやがれ──う、うわああっ !?」
 飛びかかろうとした祐介の顔に、突如として白い霧が振りかけられた。目と鼻に鋭い痛みがはしり、祐介はその場にうずくまって咳き込む。涙が止めどなく溢れてきた。
 真理奈の仕業ではなかった。真理奈は余裕しゃくしゃくの笑みを浮かべて椅子に腰かけたまま、指一本動かしていない。まったく予期していない側面からの奇襲だった。
「げほっ、げほっ! な、なんだ !? 一体誰が、こんなことを──」
「ダメだよ、祐ちゃん。真理奈ちゃんの邪魔をしちゃ」
「み、瑞希 !? まさかお前が……」
 祐介の邪魔をしたのは、彼が一番信頼している恋人の森田瑞希だった。いつの間にか祐介に追いつき、すぐ後ろに立っていたのだ。瑞希の声はどこか虚ろで、まるで何かに操られているかのようだった。真理奈の術にかかった瑞希は、真理奈の忠実な僕と化していた。
「ふふん。甘いわね、中川。今の瑞希はあたしの味方なの。あんたがあたしに手を出そうものなら、命をかけて止めてくれるわ。これが人徳ってやつ? ありがたいわよねー」
「ふ、ふざけやがって。瑞希を利用してこんなこと……う、ううっ」
 祐介を異変が襲った。貧血になったように頭がくらくらし、思考が急激に鈍り始める。瑞希は笑顔で彼に寄り添い、手に持った缶を嬉しそうに見せつけた。それは昨日、真理奈が瑞希に振りかけた、あの催眠スプレーの缶だった。
「祐ちゃん、このスプレーってすごいんだよ。これをかけられると頭がボーっとして、とっても気持ちよくなっちゃうの。祐ちゃんにもたっぷりかけてあげたから、私と同じように気持ちよくなれるよ。くすくす……」
「そ、そんなの嫌だ。嫌なのに──ぐあっ、頭が……!」
 へなへなとへたり込む祐介のもとに、勝ち誇った表情の真理奈が歩み寄った。真理奈の術にかかった祐介に、もはや抵抗する気力は残されていない。耳元で囁かれる真理奈の声に、呆然と聞き入るだけだった。
「うふふ……これであんたもあたしの下僕ってわけね、中川」
「はい……俺は加藤真理奈様の下僕です。何でもご命令に従います……」
 スプレーに含まれる危険な成分が、瞬く間に祐介を虜にする。自由意志を失った祐介は焦点の定まらない目で真理奈を見上げ、女主人の命令が下されるのを待った。
 しかし、真理奈の言葉は意外なものだった。「でもね、違うわ。違うのよ、中川祐介。あたしはあんたをただの下僕にしたいんじゃない。それもまー悪くはないけど、あたしの本当の望みは違うことよ」
「違うこと……?」
「ええ、そうよ。あたしが望んでるのは、あんたを心身ともにいたぶること。あんたが苦しんで心の底から泣き叫ぶ姿が見たいの。だって、あれを見るとすごくゾクゾクするんだもん」
 真理奈はサディスティックな表情で祐介を見下ろし、妊婦の身体を持つ彼の顔に再びスプレーをふりかけた。新たな術をかけようというのだ。
「さあ起きなさい、中川祐介。あんたを解放してあげる。でも、自由にするのは首から上だけよ。ちひろさんのと取り替えたその体は、あたしの命令に従ってもらうわ。いいわね?」
 真理奈は祐介の細い顎に手をかけ、間近から彼の瞳をのぞき込んだ。白魚のような両手を広げて威勢良く打ち鳴らすと、祐介の目に光が戻る。意識を取り戻した祐介は、今まで自分が何をしていたかをとっさには思い出せず、まばたきを繰り返した。
「げほっ、げほっ。い、いったい何がどうなったんだ……?」
「お目覚めね、祐介。さっそくだけど、立ってみなさい」
「か、加藤真理奈っ !? そうだ。俺はお前をボッコボコにするつもりで、ここに……おい、加藤っ! 早く俺の体を元に戻せ! さもないといくら女でも容赦しねえぞっ!」
「そういう月並みなチンピラくさいボケはいいから、とにかく立ってみなさい。ほら」
「うるせえっ! 誰がお前の言うことなんか──あ、あれ? 足が勝手に……どうなってんだ !?」
 持ち主の意思を無視して直立する己の身体に、祐介は仰天した。祐介が動かそうと思っても、ちひろから借りた体は真っ直ぐ立ち上がったまま微動だにしない。まるで自分の体ではないようだった。
「な、なんでだ? 俺の体──い、いや、元はちひろさんの体だけど……でも、いったいどうしちまったんだ。全然動かせねえぞ……」
「そりゃあそうよ。催眠スプレーでそういう風にしたんだから。わかる、祐介? あんたの手足はあんたが自分の意思で動かせるんじゃない。あたしの命令で動くの。ほら、次はそこの椅子に座りなさい」
 真理奈が命じると、祐介の身体はその通りに動いて傍らの椅子に腰かける。祐介の顔を驚愕と絶望が覆った。
「て、てめえ……また変な真似をして、俺をハメやがったな! 元に戻しやがれっ!」
「そんなことするわけないでしょ、バーカ。これ以上あたしに逆らうと、素っ裸になってグラウンドを一周してもらうわよ。それでもいいの?」
 脅しの言葉に、祐介の顔が蒼白になった。真理奈なら本気でやりかねないと思った。真冬の寒空の下で全裸にされ、大きな孕み腹をかかえてグラウンドを走り回る羽目になるかもしれない。もはや祐介に拒否権などないのだ。妊婦になった少年は絶句し、絶望した表情で力なく暴君を見上げた。
(ち、畜生。俺、こいつの思い通りになるしかないのかよ。どうしていつもいつも俺はこんな目に……酷い。酷すぎる……)
「さーて、それじゃあんたには、あたしのオモチャになってもらおうかしら。立ち上がってあたしについてきなさい。今日は授業をサボるから、そのつもりでね。瑞希、あんたも一緒よ」
「うん、わかった。えへへ……今から何をするんだろう? 楽しみだね、祐ちゃん」
「み、瑞希、助けてくれ。俺、こんなクソ女にいいようにされるのなんて嫌だよ……」
 祐介は青い顔で懇願したが、真理奈の操り人形である瑞希の耳には届かない。二人は手を繋ぎ、放送室を出て行く真理奈のあとについていった。
 一体どこへ行こうというのか──既に始業時間を過ぎて人影の無くなった廊下を歩き、たどり着いたのは女子トイレだった。真理奈はトイレの中に入って手招きし、祐介と瑞希を奥の個室へと誘った。
「さあ、こっち。祐介は服を全部脱いで、この便器に座るのよ」
「な、何だよそれ。そんな命令、聞けるかよ……」
 と言いながらも、祐介の手は彼が着ているマタニティウェアを勝手につかみ、無造作に脱ぎ始める。思わず悲鳴をあげたが、どうしようもなかった。授乳用のブラジャーとゆったりしたサイズのショーツも脱ぎ捨て、祐介は二十八歳の妊婦の身体を余さずさらけ出した。
「ふふっ、綺麗な体じゃない。ちひろさんのセクシーなボディ、あんたの顔によく似合ってるわよ」
「う、うるさいっ! 黙れっ!」
「口を開くときは、もうちょっと後先を考えてからにした方がいいわよ。あんたの身の安全はあたしにかかってるんだから。ほら、座りなさい」
「ち、畜生。畜生……」
 真理奈の命令に従い、祐介は冷たい便座に腰を下ろす。ひんやりした感触に背中が震えた。
「寒いでしょ? 何せ真冬だもんね。そのままだとお腹の赤ちゃんにもよくないわね」
「わかってるなら、服を着せてくれよ。この子に何かあったら、ちひろさんに合わせる顔がねえ」
「ダーメ。服なんか着せてやらないわ。そうねえ……あんた、今からここでオナニーしなさい。そしたら興奮して少しは体が温かくなるでしょ」
「な、何ぃっ !? そんなこと、できるわきゃねえだろ──ひゃあっ !?」
 叫び声があがった。祐介の両手がひとりでに動き、己の豊かな乳房をわしづかみにしたのだ。ボリュームのある肉の塊に指がめり込み、大きく形を歪めた。
「お、俺の手が勝手に……や、やめろ。やめてくれっ。ああっ」
「ちひろさんと交換したその体も、今はあんたのものなんだから、自分の体のことは隅々まで知っておかないとね。たっぷりオナニーして楽しみなさい。瑞希、あんたもこいつが気持ちよくなるのを手伝ってやって」
「うん、そうする。えへへ……祐ちゃん、おっぱいの揉み心地はどう? すごい大きさだよね。羨ましいなあ。でも、下の方はお腹が邪魔で手が届かないだろうから、こっちは私がやってあげるね」
 狭いトイレの個室の中に瑞希が入ってきて、真理奈と位置を入れ替える。細い手が伸びてきて、祐介の下腹部をまさぐり始めた。ひんやりした瑞希の手の感触に、突き出た腹がぶるぶると震えた。
「み、瑞希、やめろっ。俺はこんなことしたくないんだ。俺は男なんだぞ──あっ、ああっ」
 生い茂った陰毛が瑞希の指先に絡みつき、さわさわと音を立てる。腹が邪魔をして見えない部分を、瑞希の手が容赦なくもてあそんでいた。股間の割れ目を爪で引っかかれると、ぞくりとした感覚が祐介の頭の中を駆け巡った。
「ひいっ、そんなところを……や、やめろ、瑞希っ」
「すごいね、祐ちゃんのお股に女の人のアソコがついてるなんて。ああ、あったかい。アソコの中に指を入れたら、祐ちゃんの温もりを感じるの」
「い、入れるなっ。うっ、ううっ。中で抜き差しするなあ……」
 入念に入口を摩擦したあと、瑞希の指は膣内に侵入してきた。浅いところに指を埋めて引き抜く緩慢な前後運動を繰り返し、祐介の女の部分を刺激する。そのうちに、得体の知れない疼きが秘所に巻き起こった。
(な、なんだ、この感覚は? 股間の奥がムズムズする。それに胸も……)
 ちひろから借りた体が発情を始めた。湿り気を帯びた膣の肉が瑞希の指を締めつけ、心地よい摩擦をもたらす。祐介の息がにわかに荒くなった。己の乳房を愛撫する手の動きが激しさを増し、白い肌が見る間に桜色に染まった。
「だ、駄目だ。こんなの駄目だ。俺は男なのに──ああっ。な、なんだこれ? この液体は……」
 たわわに実った乳房の先端が硬くなり、とろりとした液体を分泌する。それは母乳だった。出産を控えた女の体は、既に乳を出すことが可能なのだ。男だったはずの自分が女性器を弄ばれ、興奮して母乳を垂れ流している事実に、祐介は気が狂ってしまいそうになった。
「そ、そんなっ。俺の胸からミルクが出てくるなんて……」
「へえ、もうおっぱいが出るんだ。ふふふ……さすが妊婦さんだわ。それじゃあ、あんたのミルクを味見させてもらおうかしら。命令よ、祐介。このデカいおっぱいからどんどんミルクを出しなさい」
「い、いやだ……いやだ……」
「おー、出てくる出てくる。瑞希、あんたも一緒に飲みなさい」
「うん、私も祐ちゃんのミルクを飲みたいな。じゃあ私はこっちのおっぱいを……んっ、んっ」
 それはあまりにも奇妙な光景だった。真理奈と瑞希、二人の美少女が祐介の左右の乳に吸いつき、興味津々の表情で母乳を味わっているのだ。祐介は女々しく涙を流しながら、赤子のようにミルクをねだる二人を呆然と眺めた。
「あああ……吸われてる。二人が俺のミルクを吸って……ああっ、あんっ」
「色っぽい声を出して、可愛いわね。やっぱり、あんたを女にしてよかったわ。これでこそイジメ甲斐があるってもんよ。あー楽しい……んくっ、んくっ」
「あん、ああんっ。や、やめろっ。乳首を噛むなあっ」
 いたずらっぽい表情で祐介の泣き顔をのぞき込み、張り出した乳房に噛みつく真理奈。今や瑞希も学校のクラスメイトたちも、そして祐介の身体までもが彼女の思い通りになっていた。全てを支配した真理奈に抗うすべはない。終わりのない陵辱に歯を食いしばって耐えるしかなかった。
「祐ちゃんのミルク、あんまり味がしないね。赤ちゃんってこんなの飲んで大きくなるんだ」
「そうよ、瑞希。栄養たっぷりの祐介のミルク、たっぷり飲ませてもらいなさい。そうしたら背も伸びるし、そのぺたんこの胸だって大きくなるかもしれないわ」
「うん、そうする。ねえ、祐ちゃん。もっとミルクを出してよ」
「そ、そんなこと言われても……瑞希、もうやめてくれよ。俺、こんなの耐えられないよ……」
「お願い、祐ちゃん。私、もっと祐ちゃんのミルクを飲みたいの。んっ、んんっ」
 瑞希は聞く耳を持たず、祐介の巨大な乳房にむしゃぶりついて生暖かい体液を貪る。いくら祐介が嫌がったところで、乳房を力いっぱい揉まれて吸引されれば、若い妊産婦の体は自然に母乳を噴き出してしまう。乳頭に歯を立てられる刺激が痛みではなく、別の感覚へと変わりはじめていた。
(加藤と瑞希がまるで赤ん坊みたいに、俺のミルクを飲んでる……ああ、おかしくなりそうだ。体が熱くて、頭がボーっとする……)
 ちひろの身体で味わう肉欲が、祐介の思考能力を奪う。出産を控えた女体はホルモンのバランスが崩れてしまうことが少なくない。過剰に分泌された妊婦のホルモンが、祐介の心に変化をもたらしつつあった。
「ああっ、すごい。俺の胸からミルクがどんどん……ああっ、ああんっ」
 祐介の体から漏れ出る母乳は、真理奈と瑞希の愛撫によってその量を増していく。やがて二人は満足したのか、苦しそうに乳房から口を離した。二人とも、顔の下半分が母乳でべとべとになっていた。
「げっぷ。それにしてもすごい量……こぼれたミルクが祐ちゃんのお腹に垂れてるよ」
「ホントだ。いやらしい眺めねえ……瑞希、こいつに幻滅しちゃった?」
「ううん、そんなことない。私は祐ちゃんのことが大好きだよ。ねえ、祐ちゃん」
 瑞希は嬉しそうに微笑み、変わり果てた姿の祐介を抱きしめた。便座に座った祐介の顔が朱に染まる。
「み、瑞希、俺は……」
「祐ちゃん、大好き。いつもの凛々しくてかっこいい祐ちゃんも好きだけど、今みたいに大きなおっぱいからミルクをいっぱい出してくれる、可愛い妊婦さんの祐ちゃんも大好きだよ」
 瑞希は焦点の合わない目で祐介を見つめ、三十八週目の孕み腹をいとおしげに撫で回した。大胆な少女はそのまま祐介の顎を持ち上げ、キスをせがむ。妊婦と女子高生の唇が重なった。
「み、瑞希……んっ、んむっ」
「はあっ、祐ちゃん……愛してる。んんっ、んっ」
 小学生に間違えられるほどの童顔でありながら、瑞希は舌を祐介の口内に差し入れて情熱的な接吻に没頭する。すぐ隣でにやにや笑っている真理奈を気にすることもなく、二人は舌を絡め合い、互いの唾液を味わった。すっかり理性のタガが外れてしまった瑞希に抵抗することができず、祐介はただ彼女のなすがままになっていた。
「ああ……祐ちゃんの大きなお腹が動いてる。中で赤ちゃんが暴れてるのかな? 羨ましいなあ……私もいつか祐ちゃんと赤ちゃんをつくって、妊婦さんになりたいよ」
「それは無理よ、瑞希。祐介はもう女になっちゃったからね。どうしても祐介に妊娠させてほしいんだったら、そいつと体を取り替えたちひろさんにお願いしないと」
「うん、そうする。私、ちひろさんに妊娠させてもらって、祐ちゃんと一緒に妊婦さんになる……」
 悪魔と化した真理奈の言葉が、瑞希に狂気を注ぎ込む。祐介も瑞希も、もはや身も心も真理奈に支配された操り人形に成り下がっていた。真理奈の気分一つでどんな辱めでも強いられる二人は、蜘蛛の巣に捕らわれた哀れな獲物に過ぎなかった。
「瑞希、駄目だ。妊娠なんて──あっ、ああっ。お、お前、また俺のアソコを……」
「ああ、祐ちゃん……祐ちゃん、祐ちゃん……」
 呪文のように祐介の名を呼び唇を吸いながら、瑞希は彼の秘所を再び責めたてる。度重なる愛撫でほぐれた膣は瑞希の細い指を物欲しげにくわえ込み、さらなる刺激を求めた。指に蜜の絡む卑猥な音がトイレの中に響いた。
 祐介の興奮が子宮にまで伝わっているかのように、腹の中では赤子が手足を突き出し、臨月の腹部を内側から押し上げる。体の内外から責めたてられ、祐介は必死で許しを乞うた。
「や、やめろ。瑞希、やめろお……ひい、ひいいっ。腹の赤ん坊が暴れてるっ」
「すごいよ、祐ちゃん。こうやって祐ちゃんのおまんこを指でかき混ぜると、祐ちゃんの気持ちよさが私にまで伝わってくるみたい。もっと気持ちよくなってよ」
 そう言って、瑞希はたおやかな中指で陰核を弾く。男には存在しない性感帯を責められ、祐介は浅ましく悲鳴をあげた。股間から周囲に広がる熱の波紋が、祐介の女体を昂らせる。突き出た孕み腹をビクビクと痙攣させて悶える恋人に、瑞希はこの上なく満ち足りた様子だった。
「祐ちゃん、大好き。このままイカせてあげるね──ああっ。な、何っ !?」
 突然、驚きの声をあげる瑞希。冬物のセーラー服のスカートがまくり上げられ、女の手が白い下着をまさぐっていた。瑞希の背後に回った真理奈が、彼女の股間を撫で回したのだ。とても高校生とは思えないいやらしい手つきで、真理奈は瑞希の大事な部分を弄んでいた。
「手伝ってあげるわ、瑞希。あんたたちのせいで、あたしも変な気分になってきちゃったの。せっかくだから、大好きな祐ちゃんと一緒にイキなさい」
「や、やだ……ま、真理奈ちゃんの手が、私のアソコを……あっ、ああっ、祐ちゃんっ」
 狭いトイレの個室の中で、瑞希は小さな身体をくねらせて喘ぐ。自分の名を呼ぶ艶っぽい声が祐介の興奮をますます煽った。真理奈の手が瑞希の秘所を愛撫し、瑞希の指が祐介の女性器を出入りする。辺りにたち込める女の汗と体液の臭いが、嗅覚を通して脳を狂わせた。股間を弄ばれて甘い声をあげる幼馴染みの少女の姿に、とうとう理性が焼き切れる。
「み、瑞希っ。もう駄目だ。俺──ああっ、イク、イクうっ」
 視界に赤い光が明滅し、祐介の心ははるかな高みへと駆け上がった。性器と乳房から多量の液体が噴き出し、少年のプライドを粉々に打ち砕いた。
「祐ちゃん、私も──ああっ、ああんっ。イク、イクのっ」
 真理奈に操られた二人の女は快感の頂をのぼりつめ、とろけるようなエクスタシーを堪能する。祐介は瑞希と固く抱き合い、異性の体で味わう絶頂の余韻に酔いしれた。垂れ下がった乳房から漏れ出た白い母乳が、瑞希の制服に染み込んでいった。
 先ほどまで嫌悪していたこの妊婦の体にも、今の祐介はほとんど忌避感を抱かなかった。許容量を超えた淫らな体験に、感性が麻痺してしまったのかもしれない。やがてまぶたが下りてきて、祐介はゆっくりと眠りに落ちていく。目の前の真理奈が得意げな笑みを浮かべていても、まったく気にならなかった。瑞希の手をぎゅっと握ったまま、妊産婦の男子高校生は意識を手放した。


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