啓一と恵 8

 部屋は薄暗く、窓の外からカーテン越しに白い光が差し込んできていた。夏の日差しは朝から容赦なく大地を照りつけ、今日もまたうだる暑さをもたらそうとしていた。
 ――リリリリリ……。
 枕元で目覚ましが鳴っている。四角い置き時計の安っぽい電子音。俺はベッドから音の方向に腕を伸ばし、二、三度手をバタバタさせてからそれを止めた。
「うーん……」
 そろそろ起きないといけないらしい。夏休みに入ったからもう学校はないが、今日は恵と二人で朝から出かける予定だった。最近は俺が部活でなかなか都合がつかなかったから、やっと二人一緒に行けるってあいつも楽しみにしてたっけ。昨日寝る前もソワソワしてたが、そんなところも可愛いと思う。言うと怒るから言わないけど。
 何とか目が覚めた俺は上半身を起こし、寝床の上に座り込んだ。
 外からはセミの鳴き声がやかましく聞こえてくる。梅雨が明けてしばらく雨が降っていないから、地面もすっかり乾ききっているだろう。夕立でもくればいいのにな、と心の隅で思った。
 俺の名は水野啓一。公立高校に通う十七歳の男子生徒だ。部活はサッカー部、一応レギュラー。家族構成は両親と俺、双子の妹の四人。つき合ってる女はいるが、それがその妹、恵だったりするあたりが俺たち兄妹の異常さを物語っているかもしれない。説明すると長くなるが、とにかく色々あったんだ。
 まあそんな訳で、本日は部活もないから恵と久しぶりのデートだ。映画を見て買い物につき合って、一緒に晩飯を食って帰る。綿密な計画を立ててる訳じゃないから適当に、まさに行き当たりばったり。肩の力を抜いて気楽に過ごすつもりだった。
 あくびをして腕を真上に伸ばす。寝苦しい季節ではあるが、部屋のクーラーは涼しげな空気を存分に供給してくれていた。贅沢と言えば贅沢だが安眠には欠かせない。今年は特に猛暑が続くそうだから尚更無いと困る。
「ふあああ――さて、着替えて用意しないとな……」
 珍しく恵の手を借りずに起きれた。というのも妹が起きるのはいつも俺より早く、俺は毎朝あいつに起こしてもらっているのだ。しかし高校生にもなって毎回それではなんか悪いし、もちろん気恥ずかしさもある。たまには恵が来る前に支度しといてもいいだろう。俺は寝床から出ようと顔を上げ――。
 そして、我が身を襲う猛烈な違和感に気づかされた。
「――あれ? ここは……」
 首を振って室内を見回す。まず目についたのは明るい感じの薄いピンクの壁紙だ。きちんと片づけられた部屋の中には、温かい木肌のデザインの学習机やら、参考書や雑誌の詰まった背の高い本棚やら、キャスターつきの姿見やらが整然と並んでいる。
 だが、いずれを見ても今の俺の家具ではなかった。俺の部屋は白い壁だし、本棚に女性向けのファッション雑誌なんて入れてない。姿見も必要ない。それらは全て隣室の、妹の部屋に置いてあるはずのものだった。
 まだろくに回らない頭に手を当て、俺はひとりごちた。
「恵の部屋か。なんで俺がここに……?」
 その声にも驚かされる。口をついて出た音色は俺とは思えないほど高く、綺麗に響きわたった。軽く頭を振った拍子に長く伸ばした黒髪が揺れ、肩から背中にかけてさらさらと流れていく。その繊細な髪に触れるたおやかな手と、見下ろせば嫌でも目に入る豊かな膨らみ。同世代の平均よりは大きいであろう乳房が、白の寝巻きの胸元を窮屈そうに押し上げていた。思わず両手でそこをつかむと、弾力のある肉の塊が心地よい感触を伝えてきた。
「え――おい、何だよ、これ…… !?」
 だんだんと俺の理性が覚醒し、現状を冷静に認識し始めた。
 今俺がいるのは恵の部屋だ。そして俺は妹のベッドで目を覚まし、妹のパジャマを着ている。声は高く胸は大きく、いつもの俺とはまるで違う。つまりこれは――まさか俺は……。
 俺はベッドから飛び上がり、慌てて姿見に駆け寄った。動悸を自覚しつつも鏡の前に立ち、そこに映った自分と目と目を合わせる。思った通り普段の俺、水野啓一の姿はどこにも見えなかった。
「――お、俺が、恵…… !?」
 鏡の中の少女がそう口にした。瞳は丸く大きく、真っ直ぐ通った鼻筋と細く小さな唇が愛らしい。背中まで伸ばした髪はよく手入れされており、緩やかに垂れ下がっている。華奢な体型だが胸と尻はかなりのもので、男受けのするシルエットを形作っていた。
 姿見の表面に両手をついて、困惑した表情を浮かべる。そんな顔をしていても充分可愛く見えてしまうのが、ある意味困ったところでもあった。清楚で可憐で優しくて、誰からも好かれる俺の妹、水野恵がそこにいた。
「なんで――どうなってるんだ…… !?」
 俺の唇から出てきた恵の声は、驚きと戸惑いに震えていた。

 ――がちゃっ。
 ノックもなしに隣室のドアを開ける。そこもやはり同じ大きさの部屋で、家具自体は違うが配置がよく似ていた。閉じ損ねたカーテンの隙間から朝日が侵入し、フローリングの床に白い図形を描いている。
 部屋の隅、シンプルな木のベッドの上には若い男が一人、気持ち良さそうに眠っていた。短く切った黒髪と、それなりに整った凛々しい顔立ち。きちんと真っ直ぐ仰向けになり、行儀良く上を向いている。近づくとそいつの安らかな寝息が俺の耳をくすぐった。
「……おい、起きろ。おい」
 ベッドの脇に立ち、熟睡するその男の体を揺らす。声もかけつつ身を揺さぶること十数秒、男は真上に向けた目を虚ろに開き、ついで俺の方を見やった。
 さて、何と言えばいいやら。眠そうな男とじっと目を合わせながら、こいつにかけてやるべき言葉を考え込む。どう説明すれば、スムーズに事態を飲み込んでもらえるだろうか。妹の腕をパジャマの胸元で組み、顔をしかめて思案にくれた。
「――あ、おはよ……」
「ああ、おはよう」
 答えの出ぬまま声をかけられ、つい平凡極まりない返事をしてしまった。仕方なくそのまま寝床の隣に立ち尽くし、相手の様子を窺うことにする。男は少しの間俺の顔をボーっと眺めていたが、やがて予想通りの反応を見せた。
「あれ? なんで私が――えっ…… !?」
「はぁ……やっぱりか。お前、恵だろ」
 俺の小さな口からため息が漏れる。やっぱり俺の中にはこいつが入ってたか。まあ、他に答えがあろうはずもないが。
 自分の体と俺の顔とを見比べ、男はうろたえている。さっきの俺自身がまさしくそうしてたことだが、先に状況を理解した俺にとってはその仕草がもどかしかった。
 しょうがない、説明してやるか。俺は片手を男の肩に乗せ、できるだけ落ち着いた声で告げた。
「恵……俺、お前になってる……それでお前が俺になってる」
「ええ――な、何それ !? どうなってるの !?」
「とにかく落ち着け。落ち着いて状況を把握しろ。いいな?」
 そう言いながら、俺も自分を落ち着けるのに苦労していた。
 それから数分かけ、ようやく俺と恵は平静を取り戻すことができた。
 恵の体になった俺と、俺の体になった恵。なぜか体が入れ替わってしまった二人。突然のことに俺も恵も驚きを隠せなかったが、まあ元々は心がひとつだった俺たちだ。俺の中には女の記憶もちゃんと残っているし、恵の中にも男だった頃の意識があった。だから立場を交換してもあまり困ることはないと思う。
 もっとも俺はこの二ヶ月ほどずっと啓一だったからすっかり男の自分に慣れてしまっていたし、恵も同様に俺の妹でいるのが当たり前になっていたので、多少の困惑はないでもなかった。俺が啓一、こいつが恵って状況に馴れっこだったからな。
「しかしどうなってんだか。どうして今さら俺が恵に……」
 ベッドの上、俺になった恵の隣に座ってぼやく。まだ俺も恵も着替えておらず、どちらも夏用の薄いパジャマ姿だった。今起きたばかりのこいつの髪はところどころ跳ねていて、いかにも寝起きといっただらしない風貌を見せている。自分の顔をこうやって見るのは久々だから、かなりの違和感があった。
 恵は俺の顔と声で天井を見上げ、力のない声を吐いた。
「うーん、どうしてだろ――ねえ、私たち昨日、何か変なことしたっけ?」
「いいや。俺は部活だったし、お前は由紀の家に行ってただろ。他には何も覚えがないぞ」
「そっか……そうだよね……」
 判断材料なし、原因不明。
 だが俺たちには一つだけ心当たりがあった。この異変の原因となりうる存在に。俺と恵の心を自在に操れる、不気味で異様な存在に。
「これってやっぱり……あいつかな」
「啓一もそう思う? 他に考えられないよね、こんなの」
「……あんまり認めたくないけどな」
 俺と恵、ふたりはひとつ。俺たち兄妹は生まれたときから心が溶け合った一つの存在だった。男でもあり女でもある、性を超越した心。そのために俺たちはあいつに心をいじくられ、普通の人間とは全く異なる人生を強制された。
 あいつ、そうだあいつだ。まるで絵画か彫刻の世界から抜け出てきたような美貌。そして爽やかで透き通った笑顔。名前も年齢も、人間なのかどうかさえわからない謎の少年。あいつが俺たちを“暇つぶし”でもてあそぶ犯人だった。神の使いか悪魔の化身か、はたまた宇宙の使者か。とにかくロクでもないやつなのは間違いない。
 きっと今、俺と恵が入れ替わっているのもあいつの仕業だろう。俺たちの心を一つにし、再び分離させ、今度は入れ替える。そして俺たちの反応を見て悦に入る。実験台にされる方からすればたまったものじゃなかったが、だからと言って俺たちが抵抗できるはずもない。何しろあっちは得体の知れない、まさに人智を超えた存在だ。ただの人間である俺たち兄妹に何かができる訳もなかった。
 そう、俺たちに選択肢はない。本来なら嘆き悲しむべき事態なのだが、逆に言うと何をしてもオモチャにされるのは変わらないということだ。こうなったら開き直って現状を受け入れるしかない。考えようによっては気楽な立場だった。
 要はあれだ。図太く図々しく、やりたいように振る舞うのが一番ってことだ。こうでも思わんと、この異常体質で十七年間もやってこれませんって。
 俺は大きく息を吐き、今や自分の兄貴になった恵に話しかけた。
「まあ、とにかく入れ替わっちまったものはしょうがない。今日はこのまま出かけるけどいいよな? お前だって啓一でいても特に不自由ないだろうし」
「うん……わかった。じゃあ今日は私が啓一、そっちが恵だからね」
「ああ。しっかし二ヶ月ぶりに交代なんてな。やれやれ、困ったもんだ」
 この二ヶ月間で俺は啓一でいることに、こいつは恵でいることに慣れきってしまっている。言葉遣いとか細かな仕草とか、完全に今の立場に適応するまで時間がかかりそうだ。俺は苦笑して立ち上がり、着替えをしようと恵の部屋――今はあっちが俺の部屋だ――に戻ろうとした。
 が、そこに聞き慣れた啓一の声がかけられる。
「えーと啓一? あ、今はそっちが恵よね――ちょっと待って」
「ん、どうした?」
「あのね、その……実はね――すごく言いにくいんだけど……」
 啓一は顔を赤らめ、恥ずかしそうにまごついていた。言いたいことをはっきり言えない、そんな欲求不満が見て取れる。しかし今は男のこいつに、こんな表情されても困るんだが。
「何だよ啓一……って、あ……」
 怪訝な顔をして啓一のそばに戻ってきた俺は、こいつの下半身を見て合点がいった。明るい薄緑の寝巻きの下、股の部分にはもっこりした膨らみがある。朝起きたばかりだからこうなるのは当たり前。男の本能が布地を思い切り突き上げていた。
 そう言えばこいつ、男の体は久しぶりだったよな。突然の性別の変化に調子が狂うのも無理はない。俺が啓一だったときは恵に色々してもらっていたし、せっかくだから今度は俺がしてやるとしようか。  俺はニヤリと下品な笑みを浮かべ、ベッドの横にひざまずいた。
「わかったわかった、お前にとっては久々だしな。抜いてやるよ」
 啓一はベッドに座り込み、頬を朱に染めて俺を見下ろしている。昨日まで自分のものだった女の体が淫靡に笑って自分のパジャマに手をかける姿は、こいつの目にどう映っているのだろうか。俺は俺で、久方ぶりに自分の所有物となった細い手や華奢な体に、それなりの興奮を覚えていた。
 そうだ。今は俺が水野恵だ。艶やかな長髪を背中で揺らし、にっこり微笑んで兄に尽くすブラコンの女子高生。俺が望んだ理想の女を、俺自身が演じてやらないといけない。その事実に、つい笑い声が漏れてしまっていた。
「く……ふふ、あはは、ははは……」
「め、恵? どうしたの?」
「いや何でもない。ただ、俺たち変な双子だなって思ってさ」
「そうね……私たち、変な兄妹よね。ホントに……」
 柔らかく優しく、そしてほんの少しだけ悲しそうに啓一は言った。

 座った啓一の両脚を開かせ、その間に右手を差し入れる。いい感じに立ち上がった男性器にパジャマ越しに触れると、こいつは情けない声をあげた。
「あ――やんっ……!」
「おいおい、まだ何もしてないぞ?」
「わ、わかってる……久しぶりだから、ちょっとビックリしただけよ」
 俺もそうだが、こいつも言葉遣いを直さないといけない。すっかり恵の話し方が身についてしまってるから、このままじゃ恐ろしいことになってしまう。まあ今は俺しかいないから別にいいんだが、これから出かけるしな。気をつけないと。
 パジャマの布地の上から触れる、啓一のあそこ。自分についていたときは何にも思わなかったが、こうして触ると硬いようで柔らかいようで、なかなかに不思議な感じだ。そして昨日まで自分のだった顔が急所を握られはじらっているのにも、奇妙な違和感があった。
 寝巻きの下、腰の辺りに手をかけて引き下ろす。丸見えになった黒のトランクスの真ん中は男らしく盛り上がっていて、先端の辺りは少し湿っているようだった。
 ためらいもなく下着の前半分をずり下ろすと、俺の眼前に見慣れた雄の象徴が現れた。啓一は毛深い方ではないが、年頃の男のあそこはやはり生々しい迫力がある。単に他人のものとして見ているからなのか、それとも今は俺が女になっているからか、判断は難しい。
 自分のか細い手を見下ろし、その先をぺろりと舐めあげる。唾に濡れた長い指が伸び、勃起した竿を挟みこんだ。それがまた感じたらしく、啓一が再び声を漏らす。こいつだって啓一の記憶はあるだろうに妙に初々しく、まるで童貞みたいだ。何となく面白くなって、俺は右手の指で肉棒をシコシコこすり始めた。
「んっ――恵、それ……!」
「なんだ、良くないか?」
「ううん、いい……も、もっとして……」
 切ない息を吐いておねだりする啓一。女々しいですよ兄さんと思わなくもないが、決して不愉快ではない。俺が恵として啓一をリードしているこの状況は、俺に心地よい刺激をもたらしていた。
 手のひらと指四本で竿を押さえ、形のいい女の親指で亀頭をしごく。肉棒からじんわり漏れた我慢汁がさらに滑らかな感触を指に加えた。
「どうだ啓一? 気持ちいいだろ」
「う……うん……」
 真っ赤になってうなずく兄貴。こいつが恵だった頃も乱れっぷりは半端じゃなかったから、きっとこれからは毎日シコシコ、男の体でオナニー三昧に違いない。同じ心の片割れでも俺とはだいぶ違うものだと、つい感心させられる。
 誇らしげな雄姿をさらす啓一の陰茎。このまま手コキであんあん喘がせるのも乙なものだが、やはりこの可愛い口を使わないとな。俺は不敵な笑みを浮かべて兄の股間に顔を近づけると、唇の隙間から濡れた舌を差し出して幹の部分を優しく舐めた。
「あぁっ……んん……!」
「ほれ、ぞーりぞ−り」
「いや……そんなっ……!」
 竿を下から上へ三度撫で、袋を握ってチロチロこする。先の部分はお楽しみ、俺はひたすら啓一の竿と袋を責めたて、舌で突ついたりキスしたりとやりたい放題だった。
 やがて息を荒くした啓一が、泣きそうな声で俺に懇願した。
「やめてぇ……恵、じらさないでぇ……」
「何だよ。じっくりやってやってるのに、こらえ性のないやつだな」
「お願い、くわえて……ちゃんと舐めてぇ……」
 その目はうるみ、実に情けない表情だ。とても人に見せられたもんじゃない。
 まああまりイジメるのも何だし、苦笑した俺は桃色の唇をぱっくり開き、啓一のをくわえ込んだ。恵の口は小さいからいつも一杯になってしまうが、それが男にとってはたまらない快感をもたらすのも俺はよくわかっていた。
 膨張しきった肉棒を半分ほどくわえ、口内で舌をこすりつける。唾液まみれの肉がうねり、亀頭を激しくしごき上げていく。ちょっとしょっぱい性器を味わい、俺は久々のフェラチオに興じた。
「ああっ……あんっ、気持ちいい……!」
「ほのはへひほへはへほ、ふひひは」
「何言ってるかわかんないよぉ……ほらもっと、もっとしてぇ……」
 啓一の両手が俺の頭に這わされる。長いサラサラした黒髪が男の手に撫でられ、ささやかな安心感をもたらしてくれた。右手で袋を揉みながら、舌で竿に奉仕し続ける。
 俺が舐めて、こいつが撫でる。昨日までとは逆の構図に、倒錯した興奮が俺の心を満たしていった。どうやればこいつが気持ち良くなるか、どうすれば感じるか、心と身体に刻み込まれた記憶を思い起こし、一心不乱に口淫にふける。
 俺は肉棒をくわえたまま、上目遣いに啓一を見上げた。そして恥ずかしそうに微笑み、媚びた視線を投げつけてやる。“啓一”は“恵”のこの表情が大好きなことを、入れ替わったお互いが知っていた。
「…………!」
 案の定こいつはドキリとして俺を見返し、興奮した様子で俺の頭をかかえた。
「ゴメン、恵っ……!」
「んっ !? んむぅ、んんっ !!」
 いきなり乱暴に頭を上下させられ、俺の苦しい声が漏れる。喉の奥を亀頭で突かれて苦しいことこの上ない。たまらず悲鳴をあげる妹を無視し、啓一は自分の性器を思うがまま俺に味わわせた。
 こいつ何やってんだ。俺がお前にしてもらってたときもこんなに激しくしなかったのに、ちょっとがっつき過ぎじゃないのか。
 だが俺は完全に啓一に押さえられて逃げることができない。自分の体がこいつより非力なことを改めて実感させられた。肉棒を奥へ奥へと無理やり突き込まれても呼吸困難に喘ぐことしかできないなんて。気がつけば俺の目尻に熱いものがたまっていた。
「んん――んぐっ! ふぐぅっ !!」
「ああっ……出る、出ちゃうっ !!」
 啓一が俺の頭をぐっと押し込み、肉の槍を根元まで飲み込ませた。咽喉の奥、食道まで貫こうかという勢いで性器を突入させ、そこで盛大に射精する。味も臭いもあったもんじゃなく、俺は胃に直接精液を注ぎ込まれて悶えるしかなかった。
 啓一は腰を折り曲げ、しばらく心地よさげに震えていた。いかにも満足したように目を細めて熱い吐息をついてみせる。俺の苦痛を完全になおざりにした、非常に無責任な絶頂だった。
 そこでようやく俺は解放され、思い切り咳き込むことができた。激しく注ぎ込まれた苦しみに、涙と咳が止まらない。啓一はそんな俺を見てやっと我を取り戻したのか、おずおずと俺に話しかけた。
「あ、ゴメン……大丈夫だった……?」
「ごほっ、げほっ! お、お前――かはっ、げへっ !!」
「ごめんね。あんまり気持ちいいからやり過ぎちゃった……」
 両手を合わせて謝ってくるが、そんなことで俺の機嫌が直る訳もない。とりあえず怒りの鉄拳を啓一の頬に叩き込み、俺は逃げるように部屋を出て行った。
 やれやれ。最初からこれじゃ、俺たちこれからどうなっちまうんだか……。

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 

 静かにドアを開けて中に入り、その場に座り込む。
 レースのショーツを下ろし、ミニスカートの裾をまくる。今日のは膝の少し上くらいまであるやつだから下着がのぞく心配はないが、こういうときはちょっと邪魔だった。
 そして俺は水洗レバーを引くと、そのまま下を見ながら尿道を開放した。
 ――じゃあああぁっ……。
 水が流れる和式の便器に向かって、股間から生暖かい液体が滴り落ちていく。出すというより漏れていく感じの排泄に身を震わせ、軽く息を吐いた。やっぱりこれに限っては男の方が断然いいというか、排泄してるという実感がわく。女の体だといまいち我慢がきかないんだよな。
 トイレットペーパーをカラカラ回し、適当に千切って陰部に当てた。そっと割れ目を撫で上げ丁寧に拭いてやる。油断すると尻の方まで濡れたりするから困ったもんだ。
 ショーツとスカートを上げて戻し、俺は立ち上がった。念入りにもう一度水を流して個室を後にする。水道で手を洗うついでに鏡をのぞき込み、顔や服装をチェック。パッと見た感じでは問題ないようだった。
 女子トイレの外、通路の壁に啓一がもたれて俺を待っているのが目に入った。こいつも小便に行ってたはずなんだが、やはり男は早い。俺は努めて柔らかい笑みをつくり、兄に優しく微笑んだ。
「お待たせ。それじゃ行こっか」
「ああ」
 啓一の左に立ち、隙を狙って腕を組む。恥ずかしがるかと思ったが、こいつはこいつで嬉しいらしく俺に体をくっつけてきた。入れ替わっても相変わらずのバカップルである。
 映画館を出ると昼下がりになっていた。昼食にはちょっと遅いが、空きっ腹をかかえてウロウロなんかしたくない。腕を組んだ俺の方に顔を向け、啓一が話しかけてくる。
「恵、昼飯どうする?」
「んー、何でもいいよ。啓一は何がいい?」
「同じく俺も、何でもいいな。あそこでハンバーガーでも食おうか」
 その顔、その声、その仕草。どこからどう見てもこいつは俺の兄、水野啓一だった。朝、入れ替わったばかりの頃はどうなるかと思ったが、今では立派に啓一が務まっている。まあそれは俺も同じで、こうやって上品で清楚な水野恵を頑張って演じているんだけどさ。
 駅前の半端な繁華街を夏のぬるい風が吹き抜けていく。そんな中、俺と啓一は肩を並べ、向かいのビルの一階にあるハンバーガーショップへと歩いていった。

 夜の八時。手近なファミレスで夕食を済ませた俺たちは、衣類や雑貨の入った袋をぶら下げて家に帰ってきた。
 映画を見てご飯を食べて、服を見て回ったりゲームセンターに寄ったり。まあごく普通の、ありふれたデートだったと思う。映画は馬鹿っぽいアクションものでそこそこ面白かったし、秋物の可愛いブラウスが安く手に入ったし、わりと有意義な一日だった。またこうして二人で行きたいものだ。できればそのときは俺が啓一として、恵をエスコートしてやりたいけどね。
 両親は和室でテレビを見ながらくつろいでいた。風呂に入れと言われたので先に啓一を入らせ、俺も畳の上に横になる。しかし寝転がったときに角度が悪かったらしく、スカートの中が見えてはしたないと母さんに怒られてしまった。うちはこういうとこ、ちゃんとしていると思う。俺たちがどっちも根は真面目なのもその影響に違いない。甘えた声で父さんに今日の話をしてあげると、とても嬉しそうだった。ついでに小遣いをねだっておくとしよう。
 うちの両親はどちらもあまり目立たない平凡な人間だった。人並みに努力して苦労して、人並みに愛し合って一緒になって、子供を生んで人並み以上の愛を注いでくれた。あいにくとその俺たちは平凡どころか世界の中心にいるべき超人の試作品だそうだけど、まあこんなイレギュラーな事態、普通の人間には思いもよらないことだろう。
 部屋の隅にうつ伏せになって、テレビの前に座る両親を見つめる。
 俺と啓一、ふたりはひとつ。両親ですら俺たちの秘密には気がつかなかったが、やっぱり本当のことを言えないのはちょっと寂しい。これから俺とあいつがどうなるかはわからないけど、このままいくと俺たちはお互い以外に好きな異性がいないということで、兄妹でくっつくしかなくなってしまう。そしてそれは近親相姦、世間からは決して認められない仲だ。父さんと母さんにはホントに申し訳ない。
 そんなことを考えていると、結婚式も挙げられずに遠い街へ二人で駆け落ちする将来像が脳裏に浮かび、俺はブンブン頭を振った。いけないいけない、あまり物事をネガティブに考えるとよろしくない。そもそも俺たちは今、人外の化け物に好き勝手されてる真っ最中なのだ。悪い方向に考えるとキリがなくなる。
 やがて風呂上りの啓一がやってきて、俺にも入るよう勧めた。ちょうどいい気分転換とばかりにその場から跳ね起き、俺は風呂場へ向かうことにした。

 そして今、俺の前には啓一がいる。
 場所は俺の、恵の部屋。もう日付が変わる時間だった。
「じゃあ恵……しよっか?」
 クスっと小さく笑って啓一がベッドに近づいてきた。お互いに薄い寝巻き姿で、啓一の半袖からはたくましい腕が伸びている。
「いいぞ。ほら来いよ」
 ベッドに腰かけたままパジャマのボタンを外し、ブラに包まれた胸を空気に晒す。今日の下着はベージュとピンクの中間みたいな色で、見た目より着け心地が気に入っていた。俺の胸は結構デカいから、機能性はとても大事なのである。特に暑いこの季節は、素材や厚さにも気をつけないと快適な生活は送れない。
 ベッドに上がり込んだ啓一は後ろから腕を差し込み、脇の下から俺の乳房をわしづかみにした。まずはブラの上から揉み心地を確かめるように数回握り、法悦の息を吐いてみせる。
「ん……元は自分の胸でも、こうやって触ると気持ちいいわね」
「あー、それわかる。ついつい夢中になっちゃうよな」
 俺は啓一が触りやすいよう両手を頭の後ろで組み、存分に肉の感触を堪能させてやった。それに甘えたこいつがホックを外し、中に手を突っ込む。男の手に直接乳房を揉まれる感覚に、小さな声が漏れ始めた。
「ん、んっ……あっ……」
「あんまり変な声出さないでよ……こっちまで変な気分になっちゃうじゃない」
「む、無理言うな。お前の手つきがやらしいからだろ」
 そんなことない、と怒ったように言い放ち、啓一は乳首をギュッとつねった。それまでの優しい動きから一変、乱暴に揉みしだかれる荒々しさに俺は抗議の声をあげたが、こいつは全く聞く気がないようだった。
 そのまま啓一に押し倒され、仰向けに押さえ込まれた。天井を向いた胸部からブラが剥がされ、そこにかぶりつかれる。俺のかん高い悲鳴があがった。
「ひあっ !? こら、お前――もっと優しく……!」
 またも無視。左の乳房に赤子のように吸いつき、硬くなった乳首を舌でもてあそぶ。一方、右の乳は啓一の手に強く揉まれ、大きく形を変えて跳ね回っていた。半ば無理やり、力任せに責められてるのにちょっと感じてしまうあたりが悔しい。きっとこのエロい体のせいだ。
 一応歯を立てないように気を遣ってはいるものの、こいつは欲望の赴くままに妹の体を貪り、非紳士的な仕打ちで俺を責めたてた。まったく余裕がないというか、やりたいようにやってるというか、入れ替わる前の控えめな態度が嘘のようだ。何とかして欲しかったが、俺はそんな兄に組み敷かれ、抵抗もできずにイジメられるしかない。しかもそれでよがり始めているとなれば、尚更救いようがなかった。
 気がつけば啓一の腕が下半身に伸び、俺はパジャマを脱がされてしまっていた。大胆に前の開いた上衣と、カップが外れて肩に引っかかっただけのブラ。そして下は薄いパンツ一枚という扇情的な妹の格好を、啓一は猛りきった獣の眼差しで見下ろしていた。
 恐怖はあまりない。ただ多少の嫌悪と、どこか呆れ果てた部分が俺の中にあった。
 啓一のやつ、ここしばらく恵でいたから入れ替わってももっと優しくしてくれるかと思ってたんだが、こんなに興奮して余裕を無くすとは思わんかった。ちょっと落ち着けお前は。
「恵……もっと、もっともっと……」
「だから落ち着け、がっつくなって……」
 啓一の指が下着の真ん中に触れ、布地の上から俺の秘所をなぞり上げた。やつの期待に反してそこはあまり濡れていなかったが、構わずパンツをずり下ろす。俺は抵抗すべきか少し迷ったが、結局ため息をついて下着を脱ぎ捨てた。
 照明のもと姿を現した、俺の割れ目。何度も何度も啓一を受け入れたはずのそこは、今日も軽く口を開けて兄との結合を待ちわびていた。
「下も……してあげるね」
「ああ。ゆっくりな」
 全裸に近い半裸の状態でベッドに寝転がる。背中に垂れ下がった髪が体に潰されててちょっと心配だ。髪は女の命ですとまでは言わないが、俺も恵になったからには気をつけないと。
 啓一は俺に覆いかぶさり、先ほどとは逆に右の乳房をくわえ込んだ。そして片手を俺の股間に差し入れ、指先で入口をこすり始める。少しだけ優しくなった気はするが、啓一の責めは絶え間なく、そして執拗に俺を苛んだ。
 夜だというのに外ではまだセミが鳴いている。雄が必死で雌を呼んでいるんだ。野生の生き物のほとんどが特定の時期にしか交尾しないというのに、人間はこうして年がら年中発情期でいられるんだから大したものだ。まったくエロい、エロすぎる。
 そして俺もそんなエッチな動物の雌らしく、雄の手によって存分に鳴かされていた。
「あぁっ、んんっ……ひゃっ、くうぅ……!」
 唾液でベトベトになった乳房を吸い、啓一が俺の顔を見上げてくる。楽しそうに目を細め、劣情のこもった瞳でこちらを射抜いてくる。妹の反応を楽しむ兄に見守られながら、俺は甘い声と熱い息とを撒き散らした。
 濡れそぼった膣口を触られ、男の指が中に入ってくる。既に充分濡れていた俺の肉は苦もなくその指を飲み込んだが、敏感な肉壷をかき回されて平気でいられるはずがない。中で曲げたり伸ばしたり、クチュクチュかき混ぜる音を楽しんだり、啓一はまさにやりたい放題だった。
 その次は顔の横に口を近づけ、耳たぶを優しく噛んでくる。耳の穴に息を吹き込まれて震える俺を、こいつは容赦なく嬲り続けた。
「があぁっ……こら、やめろぉ……!」
「……可愛い。恵、可愛いよ」
 それはいつだったか、俺がこいつに言ったセリフだった。あのときこいつは思いっきり恥ずかしがっていたが、今ならその気持ちがわかる。自分の全てを理解した分身にもてあそばれ、笑顔で見下ろされるというのは気持ち良くも恥ずかしいのだ。
 啓一が責め、恵が悶える。たとえ中身が入れ替わってもその関係は変わらない。それは元々心が同じだからか、単にこっちの体が淫乱なだけか。どちらかと言えば後者だろうと俺は見当をつけた。
 一つだった俺とこいつも、ここしばらくの分裂で多少の違いができてしまっている。俺が男でこいつが女で、という関係でずっと生活していたんだ。自然と俺は啓一らしく、こいつは恵らしく振る舞い、俺たちは本当の兄妹のようになった。もう同じ人格とは言えなくなってしまったかもしれない。どちらかというと俺の方がこいつより真面目だしな。
 きっと今日俺たちを入れ替えた犯人――おそらくあの少年だろう――も、その辺りを確かめたかったんだろう。元々一つだった心が二つに分かれ別人として生活することで、どれだけの差異が現れるのか。それをまた入れ替えることで検証するという訳だ。きっとあいつは今も俺たちのことを見張ってるはず。俺にはその確信があった。
 と、俺がこのように真剣に考え込んでいるうちに、啓一のやつはいつの間にかパジャマの中からそそり立った男性器を取り出していた。朝舐めてやったときよりさらに大きく、表面には血管が脈打っている。とろりと濡れた先端がピクピク動いているのが実に生々しい。
「ねえ、恵……そろそろいいでしょ?」
 お菓子を欲しがる子供のような表情でおねだり。俺はまだイっていなかったが、膣内を指でずっとかき回されていたので中はドロドロ、すっかり結合の準備ができていた。できればもっとお豆を責めて欲しかったけど、もう我慢できないんだろう。
 しょうがないので柔らかく微笑み、肯定の返事をしてやる。
 いそいそとゴムを装着した啓一は俺の体を抱きかかえ、自分の正面に座らせた。俺と同じで下半身は素っ裸、俺よりは濃い体毛が脚や急所に生えている。
 お互い向き合って目を合わせると、昨日まで自分のものだった啓一の顔が俺の視界の中心にあった。男にしてはちょっと柔和な、それでいて優しさを感じさせる表情。自分ではもっと凛々しいと思っていたんだけど、やっぱり中身が違うからだろうか、そうは見えなかった。
 あぐらをかいた啓一が向かい合った俺の太ももを持ち上げ、汁の垂れる陰部がよく見える状態にする。小便をする子供のような姿勢は当然ながら恥ずかしく、こいつの体をつかんでないと後ろに倒れてしまいそうだった。座った啓一の体の中心には勃起した肉棒がそそり立って俺を待ち構えていた。
 そうして俺は両腕を啓一の首に回してしがみつき、対面座位の姿勢でこいつを飲み込んでいった。
「うっ……これ、やば……!」
「入ったね。じゃあ下ろすから……」
「うあっ……あああっ、あひっ、んあぁっ !!」
 太ももを支えていた啓一の腕が抜かれ、自然とこいつの上にへたり込む格好になってしまう。兄貴の肩に顎を乗せ、胸と胸を合わせた膝立ち状態できつく抱きしめる。そうしていないととても耐えられそうになかった。
 普段やらない急な角度での挿入に、俺の理性は焼き切れそうだった。膣の中が締まり、肉棒を思い切り絞り上げているのが自覚できる。ちょっと啓一が動いただけでGスポットをこすられ、俺はあられのない嬌声をあげた。
「ひぐぅっ !! ああっ、ふあぁんっ! ひうぅっ !!」
「恵、いいの? そんなに声出しちゃって、気持ちいいの?」
 何馬鹿なことを聞いてるんだ、こいつは。性感帯をゴリゴリされて感じない訳がないだろうが。しかしこの良さはヤバい。ハマる。また男に戻ったらこいつにもやってやろう。でも戻りたくないな、とか心の隅でちょこっと思ったあたり、俺もなかなか淫乱である。
 啓一は両手をこちらの腰に回し、ゆっくり俺を突き上げた。そのたびに喘ぎまくる妹の口を塞ぐためだろう、俺を抱いて唇を重ねてくる。まあ確かに、あまり騒ぐと下に聞こえるから仕方ないと言えばそうだ。
「んんっ! はふっ――んぐぅっ !!」
「んちゅ……んむっ、んんっ……!」
 俺の方も本能のままに啓一の口内を貪り、腰をすりつけて結合部をかき回した。痛いほど抱き合い、ぶつかる体に乳房が押し潰される。その感触がまた気持ち良く、俺たちは男も女もなくよがり狂った。
 時間と共に啓一のが膣内で硬度を増し、ヒダと壁とを摩擦する。朦朧とした意識が勝手に俺の腰を動かして肉と肉とを絡め合った。今までと同様、そして今までにないほどの興奮と快感に兄と妹が乱れていく。
 俺の、恵の体がこわばり始め、全身を緊張が包んだ。その中心部を硬すぎるものでえぐられ、先端を子宮口に叩きつけられたとき、とうとう俺は絶頂を迎えた。
「んん――んうぅぅっ !! んんんんんっ…… !!」
 意識が遠のく感覚に世界が歪んだ。閉じていた目は止めどなく涙を流し、啓一の呼気を吸っていた肺は酸素を求めて痙攣する。愛しい男を包み込んだ女性器は激しく肉棒を締めつけ、精液の噴射を促した。理性も心も、全てショートしてしまって何も考えられなくなる。
 しかし啓一の動きはまだ止まらない。真っ白に燃え尽きた俺の体を抱きながら、ひたすら中を突き上げ続ける。二つの口はもう離れ、俺の腕も力なくグッタリしていたが、こいつはそんな俺を気遣うことなく自分の快楽を追及した。
「んあぁ……あぁっ、ひぃぃっ……」
「ん、まだよっ……私、もうちょっとっ……!」
 心地よい余韻の残った俺の体に、外部から強制的にさらなる刺激が加えられる。もう許容量を超えた俺はすっかりマグロになって、半ば気を失ったまま犯され続けた。

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 

 ――チュン、チュンっ、じい、じいいいっ……。
 外から聞こえてくる鳥とセミの声に起こされて、俺は目を覚ました。
 薄く目を開けると、カーテンの向こうにギラギラ明るい太陽が顔をのぞかせていた。いつ寝たのかよく覚えていないが、もう夜が明けてしまっているようだ。
「う、なんかしんどいな……朝だってのに」
 全身を包む倦怠感に頭を押さえ、誰にともなくぼやく。夕べ啓一にイカされてからも激しく犯されまくったのだろう。体全体にうっすら疲労が残っていた。
 身を起こし何げなく隣を見やる。二人が入るには狭いベッドではあったが、そこには当然のように俺の兄、啓一がグーグー寝ているはずだった。
 が、そこでふと目を見開く。
「――あれ?」
 間の抜けた俺の声。それは昨日自分のものだった女の声、水野恵の綺麗な声ではなかった。
 寝床を見下ろすと一人の女が横たわっている。ほとんど全裸と言っていい、長髪でスタイルのいい女が俺の横でスースー寝息をたてていた。
 黒い髪は肩から背中を通ってシーツに流れ、扇状に広がっている。自然な感じに手足を曲げて、その女は愛らしい寝顔で眠りこけていた。
 水野恵。そう呼ばれる女が俺のすぐ横に転がっている。
「――てことは……」
 俺は慌てる心を抑え、自分の体を見下ろした。たくましい両の腕、鍛えられた胸板と腹筋、そして股間に鎮座する男の象徴。昨日あれだけヤったくせに朝立ちしており、ホントに元気なものだと我ながら感心する。
 ここは恵の部屋だった。そのため今の俺に一番必要なもの、大きな姿見が壁のそばに置かれている。俺は静かに鏡の前に立ち、自分の体を確かめた。
「戻ってる。俺、また俺に……」
 水野啓一。十七歳の男子高校生。両親と双子の妹が一人の、真面目で優秀な若者。その名前の存在に俺は戻っていた。
 最優先事項を確認した俺は、心を落ち着かせてベッドの横に歩み寄った。そこにはあどけない顔で眠っている妹、水野恵の裸体が横たわっている。
「そうか……また入れ替わって、戻ったのか……」
 そっと手を伸ばして恵の頬に触れる。ぷにゃぷにゃ柔らかくて触り心地が良かった。何も言わず妹を見下ろし、そのまま立ち尽くす。まだ目を覚ます気配はなかったが、無理に起こすつもりもなかった。
 ――さて、どうしたものか。今日はこいつをどうしてくれようか。
 表面上は平静を装いながらも、俺の頭はフル回転で妹をイジメる方法を模索していた。昨日あれだけ色々としてくれた訳だから、そのお礼をせずにはいられない。思い切りイカされた体面座位をはじめ、アナル責めでもバイブでも何でもしてやろうという気になっていた。
「ふふふ――くっくっく、ふふふふふ……!」
「ん……ううん……」
 その笑い声がうるさかったのか、恵が声をあげて寝返りをうった。
 とりあえず今のうち縛っておくか。俺は棚の上からビニール紐を取り出し、薄ら笑いを浮かべてみせた。


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