教室の窓から見える高いビルが突然爆発し、ヒカリは眉をひそめた。 (また……!?) サイレンが鳴り響いて授業が中断した。クラスメイトたちはみな窓の外を見て不安げだ。 「市内の全域に避難命令が発令されました。先生の指示に従い、順番に校庭に避難してください。静かに、落ち着いて、速やかに避難しましょう……」 放送が始まり避難の準備にとりかかる。今月の警報はもう三度目だ。半年前に初めての避難命令が出たときは怯えて泣き出す者もいたが、今では生徒たちもかなり慣れ、さほど混乱は生じなかった。 「順番通りに、落ち着いて先生についてくるんだぞ。お前たちは俺が守るから大丈夫だ!」 と、クラス担任の五郎先生が怖がる生徒たちを励ました。体育が好きで常にジャージ姿の中年教師にヒカリたちはついていき、一旦校庭に集合した。保護者が迎えに来る一部の生徒を除いて、全員が当局の車両で市外に輸送されることになっていた。 ヒカリは誰にも見つからないように体育倉庫の裏に行き、周囲の状況を確認してから呪文を唱えた。 「変身! 魔法少女ブリリアキュート!」 足元に金色の魔法陣が出現し、まばゆい光がヒカリの体を包み込んだ。一メートル三〇センチの小柄な少女は可憐なピンクのワンピースドレスを身にまとい、黒いボブカットの髪はリボンのついたツインテールの金髪に変化した。そして先端に大きな星がついた白いステッキを握りしめる。 天界から聖なる力を授けられた希望の戦士、魔法少女ブリリアキュート。 平凡な女子学生ヒカリは、正体を隠してたった一人で悪と戦い続ける魔法少女なのだ。 「スターライト・ウイング!」 ブリリアキュートが祈ると小さな背中から白鳥のそれによく似た翼が広がり、天高く舞い上がった。風を切って空を駆け、爆発の現場に急行した。 「あれは……やっぱりレギオンのしわざね! みんなを守らなきゃ!」 煙のあがるホテルの前では、真っ黒な人型の怪物が通りの人々を襲っていた。どの個体もまったく同じ体格で目も鼻も口もなく、プラスチックのように表面がツルツルだ。動く黒のマネキン人形という表現が近いだろうか。 このマネキンどもは魔界の秘密結社レギオンの尖兵で、人間とは比較にならない怪力と高い硬度を有している。駆けつけた警官隊が警棒や拳銃で応戦していたが、少しもひるむ気配がない。以前の戦闘では戦車砲の直撃にさえ耐えており、生身の人間が逆立ちしても敵わない化け物だ。 「みんな下がって! スターライト・アロー!」 ブリリアキュートがかざした手から光の矢が放たれ、三体の怪物を次々と射抜いた。ヒトの兵器が一切通じぬ魔界の雑兵は煙をあげて倒れ、ドロドロの黒い粘液になって力尽きた。これが魔法少女の神聖魔法だ。 「やった! ブリリアキュートが助けに来てくれたぞ!」 歓声があがり、人々の顔に生気がみなぎった。この街が魔界の怪物どもに狙われるようになってから約半年になるが、その間、幼い魔法少女は一度たりとも逃げ出すことなく、常に勝利を収めてきた。無辜の人々を守護する小さな女神として、現在では信仰に等しい圧倒的な人気がある。 ブリリアキュートは地面に下り立ち、怪物どもの前に立ちはだかった。そして勇躍、敵陣に飛び込み、白く輝く魔法のステッキでマネキン人形を叩き壊していく。 「よくも罪のない人たちを……許さないから! ええいっ!」 大人の腕力でかかれば容易く折れてしまいそうな細身の娘の体が躍り、強靭な人形の打撃や射撃を紙一重で回避する。軍隊さえ一蹴する魔界の兵が、小さな女児ひとりにまるで歯が立たない。白い少女が美しく舞うたび、黒い怪物はひとつ、またひとつとその数を減らしていった。 観衆がはらはらして見守った時間はものの一分にも満たなかっただろう。 数十体いた邪悪なマネキン人形の一団は残らず融け、地面で悪臭を放つ汚泥と化した。 「黒いのは全部片づけたはずだけど……敵はまだいる……!」 歓呼の声があがる中、歴戦の魔法少女は油断することなくステッキを構え、化け物らの残骸をにらみつけた。正確には、そこに潜む魔性の者を、だ。 魔法少女の声に応えるように汚泥の中から黒い影が湧き上がり、ゆっくりとヒトの形をとった。それは人間ではなく、黒いマネキンでもない。蠢く影が形成したのは一人の女の姿だった。 「やってくれたわね、ブリリアキュート」 非常に整った顔立ちの若い女だ。しかし、その容姿は明らかに人間のものとはかけ離れていた。黒い血が流れる青い肌、ヒトの血の色をした妖しい瞳と切れ長の眼差し、銀の糸と見まごう輝きを放つ長い髪、耳の上から生えた一対のねじくれた黒い角……魔界の住人である悪魔の女だ。 女の名はグレモリー。魔界の秘密結社レギオンの大幹部にして、幾度となくブリリアキュートと刃を交えた強力な悪魔である。 「グレモリー、またあなたね! 街の人たちをこれ以上傷つけるのはやめて!」 「イヤに決まってるでしょ。どうせこの世界はアタシたちレギオンのものになるんだから、人間どもをどう扱おうとアタシたちの勝手じゃない。エサ、家畜、オモチャ……せいぜい有効活用してあげるから、這いつくばって感謝するのね」 グレモリーは挑発するように身をくねらせ、愛用の黒い鞭を構えた。背が高く肉づきのいい肢体を黒いボンデージスーツに包んだその色気は、人間の男たちを魅了してやまない。彼女の正体はヒトの精気を喰らう淫魔、サキュバスである。特筆すべきは胸元で重そうにゆさゆさ揺れる巨大な乳房で、ブリリアキュートの頭に匹敵する異様なサイズだ。 好敵手の両者は、いつもそうしているようににらみあった。 小さな体に可憐なピンクのワンピースドレスを着た、天界の聖なる力を振るう魔法少女ブリリアキュート。 長身で肉感的な青い肢体を黒のボンデージスーツに包んだ、ヒトの精気を喰らう淫魔グレモリー。 「ひどいことをやめないっていうなら、今日もこらしめてやるんだから! 覚悟しなさいっ!」 「生意気なガキが、ザコどもを倒したくらいでいい気になるんじゃないわよ! 出てきなさい、合成魔獣アイコラP!」 グレモリーが呼ぶと、彼女の隣に身の丈三メートルを超える異形の怪物が出現した。人間より上背のある細長い箱が二つ左右に繋がった奇妙な見た目をしており、向かって左側の箱が赤、右側が青に塗られていた。胴体の正面には巨大な目と口がついており、側面と底からは湾曲した棒のような手足が生えていた。まるで子供向けアニメのキャラクターのようにシンプルな外見だ。 レギオンが街を襲撃する際は、こうした合成魔獣を伴うことが多い。魔界をさまよう悪魔の魂を街の無機物に憑依させることで、このような化け物を人為的に生み出せるのだという。先ほどのマネキン戦士よりも腕力や防御力が桁違いに優れているのみならず、素材の特性を活かした特殊能力も有しており、間抜けな見た目に似合わずかなりの難敵である。これまでにも自動車や冷蔵庫など、人々にとって有用な機械や設備が恐るべき怪物となってブリリアキュートを苦しめてきた。 「出たわね、合成魔獣! 今日は何の化け物なの!?」 「今回はアンタら人間がみみっちい手品に使う道具を材料にしたわ。シンプルな見た目だけど強いわよぉ……さあアイコラP、アンタの力を見せてやるのよ!」 「わっかりましたー!」 奇怪な声を発し、合成魔獣アイコラPの前面が観音開きに展開した。中にあるのは奥の見えない深い闇。そして、闇の中から無数の長い腕が伸びてきて、関節が存在しないであろう不自然な動きで一斉にブリリアキュートを捕捉しようとする。コミカルな見た目に反し、ホラー映画に登場しそうな恐ろしい攻撃だ。 「速い!? でもなんとか!」 アイコラPの無数の腕は、空中で身を翻したブリリアキュートをつかみそこねた。空を切った手がビルの瓦礫や店先の看板を薙ぎ払い、むなしく土煙をあげた。 ブリリアキュートは華麗に着地し、もう一度魔獣と向かいあう。あのマネキンなどとは比べものにならない驚異の動きだが、かわせないほどではない。油断せず戦えば決して不利ではないと思えた。 「ふふっ、避けたご褒美にアイコラPの特殊能力を教えてあげるわ。これを見なさい」 グレモリーが不敵な笑みを浮かべて指し示したのは、運悪く魔獣に捕まった通行人だった。黒いスーツを着た若い女性が高々と持ち上げられ悲鳴をあげる。 ブリリアキュートは戦慄した。まさか人質にするつもりか。 「その人は無関係よ! 放しなさい!」 「イヤに決まってるでしょ。アイコラPに喰われるとどうなってしまうのか、その目でよく見ておくのね」 グレモリーがパチンと指を鳴らすと、女性はアイコラPの半分を構成する赤い箱の中に納まり、蓋がかたく閉ざされた。そして同じように怪物の腕に捕らえられていた赤い首輪の柴犬が、反対側の青い箱に飲み込まれた。アイコラPの中から悲鳴と鳴き声が聞こえたが、もはや助けることは不可能だ。 「今回お見せするのは切断マジック! タネも仕掛けもあーりません! ガチャン、ガチャン!」 アイコラPが左右に体を揺らすと、二つの箱の上部三分の一ほどが一瞬にして組み替わり、市松模様に近い格子状の見た目に変化した。そして中から声が聞こえなくなる。 女性と犬はこの化け物に喰われ、死んでしまったのか。 怒りに身を震わせるブリリアキュートの目の前で再びアイコラPの前面が開き、喰われたはずの女性と犬が放り出された。どちらも怪我はしていないようで、何ごとかと周囲を見回している。 しかし……。 「きゃあああっ!?」 ブリリアキュートの叫び声が街にこだました。 中から出てきた女性と犬が、世にも恐ろしい姿に変わっていたのだ。 「な、なに? いったい何がどうなってるの?」 そう言って気の毒なほどうろたえているのは、青い箱の中から出てきた柴犬だ。撫でまわしたくなるふさふさの毛並みに、カールした尻尾が愛くるしい。そしてその赤い首輪の上には……あの若い女性の頭部が繋がっていた。イヌの体にヒトの首。人面犬と呼ぶべきグロテスクな生き物だ。 「い、いやあああ……私の体どうなっちゃったの? 誰か助けて……!」 一方、赤い箱から出てきたスーツの女性は、恐怖のせいか四つんばいになって震えていた。こちらは反対に頭だけが人間ではなく犬の頭部に置き換わっている。耳の尖った柴犬の頭が女の肩に載り、長い手足を不器用にばたつかせていた。あろうことか失禁したようで、光沢を放つタイトスカートが湯気をたてて濡れだした。 「面白いでしょ? これがアイコラPの特殊能力。こいつは中に取り込んだ人間の頭を、別人のものと挿げ替えることができるのよ。いっつもアタシたちの邪魔ばかりする忌々しいブリリアキュート……アンタもこの犬女と同じようにしてあげるわっ!」 「なんて恐ろしい能力なの……!? 絶対に捕まらないようにしなくちゃ」 青ざめた顔のブリリアキュートにアイコラPの魔の手が迫り、彼女を次の犠牲者にしようともくろむ。可憐な魔法少女は慎重にその攻撃をかわしつつ、魔法のステッキを振り回した。「スターライト・ブレイド!」 ステッキの先端についた星の軌跡が弧状の刃になって、魔獣の細い脚を切断した。アイコラPはたまらず地響きを立てて転倒する。飛ばした腕は高速だが本体の動きは鈍いようだ。 「これでトドメよ、アイコラP!」 ブリリアキュートは秘められた魔力を解放した。魔法少女の足元に光り輝く魔法陣が浮かび上がった。どんな魔獣も撃破してきた必殺技だ。 「ブリリアント・サジタリウス──!」 「甘いわね、ブリリアキュート!」 そこに割って入ったのはグレモリーだ。ブリリアキュートが魔力を溜める隙をつき、強烈な鞭の一撃を見舞った。辛うじて防いだが、ブリリアキュートは大きく体勢を崩してしまった。放とうとした攻撃魔法も霧散した。 魔法のステッキにグレモリーの鞭が絡みついて、色っぽい見た目からは想像もできない怪力で引っ張った。魔法少女は必死で抗い、女悪魔との力比べに挑む。勝負は一進一退。どちらも踏ん張り転ばない。 歯を食いしばって動きを止める天界の戦士に、無数の腕が狙いを定めた。起き上がったアイコラPが、ブリリアキュートを己の中に引きずり込もうとしていた。 魔獣と悪魔の二人がかりの攻撃に、百戦錬磨の魔法少女も逃れられない。ついにその細い四肢がアイコラPの腕に捕まり、魔法のステッキが地面に落ちた。 「しまった!?」 「よくやったわ、アイコラP! そのまま飲み込んじゃいなさい! 絶対にはなしちゃダメよ!」 「わっかりましたー!」 亡霊のような無数の腕が収縮し、ブリリアキュートを魔獣の体内へといざなう。頼みの武器を手放し手足を拘束された魔法少女に、もはや逃れるすべはない。絶体絶命だ。 「やられる……こうなったら、グレモリー!」 ブリリアキュートは最後の抵抗とばかりに小さな手に魔力を集中させめいっぱい伸ばし、グレモリーの腕をぐっとつかんだ。 「ああっ、何するの!? はなしなさいよ!」 「あなたをこうやってつかんでたら、喰われることはないはず──って、きゃああああっ!?」 「いやあああっ!? や、やめなさい、アイコラP! アタシまで一緒に……!?」 ブリリアキュートの予想は外れ、箱型の魔獣は大幹部のサキュバスごと彼女を内部に取り込んでしまった。底の見えない深い闇に飲み込まれ、背後で蓋の閉まる音がした。視界が真っ暗だ。 「何よここはっ!? 真っ暗で何も見えないじゃない! ここから出せえっ!」 「なんでアタシまで閉じ込められるのよぉ!? 許さないわよアイコラP! 早く出せえっ!」 「今回お見せするのは切断マジック! タネも仕掛けもあーりません! ガチャン、ガチャン!」 中の二人の懇願を無視して、アイコラPの不快な声が響いた。 すると……。 「な、なんなの? 私の体が……なんか、ものすごく変な感じ……!」 うまく言い表せない不思議な体験だった。ぷつんと糸の切れるような音がして、ブリリアキュートの首から下の感覚が丸ごと消失した。ぞわぞわした恐怖に襲われる。続いて自分がどこか別の場所に運ばれているような浮遊感があり、そのあと突如として手足の感覚が舞い戻った。 両の手をこわごわと握って開き、四肢の感触を確かめる。やけに爪が伸びていること、前胸部にズシリとした重みを感じることに疑問を抱いていると、大きな音がして後ろから光が差し込み、ブリリアキュートは箱の外に投げ出された。 「い、痛いっ!? よくもやってくれたわね……!」 地面に打ちつけた後頭部を押さえて、ブリリアキュートは立ち上がった。 どよめきがあがった。魔法少女の戦いを固唾をのんで見守っていた野次馬は、一人の例外もなく目を白黒させ、口々に何ごとか叫んでいた。 「見ろ、あのブリリアキュートの格好……!」 「一体どうなってるんだ! どっちがどっちなんだ!?」 とっさに状況が理解できず、ブリリアキュートは困惑した。少なくとも手足や腹に痛みはなく、戦闘を続けるのに支障はなさそうだ。 しかし、彼女の体はぐらりとよろめく。負傷したためではなかった。履いたことのない高いヒールのブーツでコンクリートの地面の上に立っており、バランスを崩してしまったのだ。 こんなに高いヒールは、魔法少女の靴にはない。足元を確認しようと自分の体を見下ろしたところ、ありえないはずのものを彼女は目にした。視界の下方が巨大な乳房……スイカのような青いバストに占領されていた。重さは左右それぞれ二、三キログラムあるだろう。長くむちむちの手足と豊満な胴は、乳房と同じく人間離れした青い色で、黒光りするボンデージの衣装にきつく締めつけられていた。指先には先ほども訝しがった、不自然に長く尖った爪。丸出しの背にはコウモリを思わせる黒く巨大な翼が生え、巨大な尻の真ん中からは、先端が槍の穂先の形になった鉤状の尾が伸びていた。 「な、なによこれ……いったいなんなのよこれはあああっ!?」 ブリリアキュートは絶叫した。自分の体が小柄な魔法少女のそれではなく、妖艶なサキュバスの青肌ボディになっていたのだ。 「いやあああっ! これはいったいどういうことよ!?」 すぐそばでよく似た悲鳴があがり、ブリリアキュートは顔を上げた。目の前にいるのはサキュバスのグレモリーだった。同じようにアイコラPの内部から放り出されたのだろう。 ただし現在のグレモリーの外見で彼女らしい部分は、肩から上のほんのわずかな領域に限られた。青い顔と赤い瞳、日光にきらめく銀色の長髪、こめかみから伸びる黒い角……そして首から下は、どう見てもヒトの男を誘惑し喰らうサキュバスには思えない。 身長はおよそ一三〇センチ。雪のように白く繊細な肌を自らの小さな手でぺたぺた触り、信じられない様子だ。ところどころリボンのついた可憐な桃色のワンピースを着たその姿は、悪魔の頭を除けば魔法少女ブリリアキュートそのものだ。 「なによこのペタンコの胸はっ!? 手足も短くてちんちくりんだし、服はガキっぽいフリフリで恥ずかしいし、何がどうなってるのよ!? レギオンの女でぶっちきりトップの爆乳はどこ!? ボンキュッボンのダイナマイトボディは!? 魔界のストッキング広告のモデルにも選ばれた長い美脚はどこに行ったの!?」 グレモリーはもともと青い顔をいっそう青くして地団太を踏んだ。そんな彼女を見下ろし、ブリリアキュートは互いの身長が逆転したことを知る。 「グレモリー! あなたその体は、もしかして私の……!?」 「ブリリアキュート!? アンタその体、アタシのじゃないの!? アタシのダイナマイトボディを返せえっ!」 「ああんっ。や、やめてよ!」 飛びかかってきたグレモリーに堂々たる巨乳をわしづかみにされ、ブリリアキュートはうめいた。頭の中に先刻見たばかりの女性と犬の頭部交換の記憶が蘇った。 ブリリアキュートの首から下は魔界のサキュバス。 グレモリーの首から下は小柄で可憐な魔法少女。 どうしてこんな不気味なことになってしまったのか、考えるまでもない。 魔法少女と魔界のサキュバスは、魔獣の風変わりな能力によって互いの首を挿げ替えられてしまったのだ。 「ご命令通りにやっちゃいました、グレモリー様! これでもうブリリアキュートは魔法少女じゃあーりません! オレたちの勝ちっすよー!」 取っ組みあう二人の背後では、嬉しそうな顔をした合成魔獣アイコラPがはしゃいでいた。ブリリアキュートとグレモリーは争いの手を止め、怒りの形相で同時に振り向いた。 「アイコラP……アンタ、よくもやってくれたわね……!?」 同じ台詞を口にして、同じ動作で拳を握りしめた。ブリリアキュートの足元からは禍々しい黒いオーラが、そしてグレモリーからは眩しい白の光が湧き上がり、足をやられて動けないアイコラPを震え上がらせた。 「グ、グレモリー様!? どうしてそんなに怒って……?」 「おどれは何をさらしてくれとんじゃあっ! このクソボケがああっ!」 首から下が入れ替わった魔法少女とサキュバスの動きは、完全にシンクロしていた。激怒した二人の鉄拳は地対空ミサイルが直撃しても傷ひとつつかない合成魔獣の身体をいとも簡単に粉砕し、周囲の目撃者ごと街の一区画を吹き飛ばしたのだった。 ◇ ◇ ◇ 夜、ヒカリは家の前に立っていた。 自宅である。中に入りたかったが、家の鍵を持っていない。仕方なく呼び鈴を鳴らして戸が開くのを待った。 「ヒカリ、無事だったの? 連絡がなくて心配した。随分と探したんだよ」 ヒカリを出迎えたのはいかにも人の良さそうな少年だ。五つ年上のヒカリの兄、コウタ。両親が仕事で長いこと家を留守にしている現在、彼女のたった一人の家族と言ってもいい。 コウタはドアの前で立ち尽くし、自分よりも背が高くなった妹を呆然と見上げた。 「ヒ、ヒカリ? きみ、本当にヒカリなの……?」 「お兄ちゃん……あたし、あたし……!」 ヒカリはどう話を切り出していいかわからず涙ぐむしかない。内気な女の子の首から下は、青い肌の艶めかしいサキュバスの体になっていた。肉親である兄からさえ化け物と罵られてもおかしくない奇怪な姿だ。 「とにかくうちに入りなよ。詳しいことは中で聴かせてもらうから」 怯えて身をすくませるヒカリの手を優しくとって、コウタは妹を慰めた。 ヒカリはこの半年間、兄に事情を説明したことがなかった。 魔界の秘密結社レギオンと戦う謎の魔法少女の正体が自分だということは、兄を含めて誰にも言わなかった。一つには、コウタがこのことを知れば、ヒカリのことをひどく心配するだろうから。そしてもう一つの理由が、ブリリアキュートの正体を敵に知られた場合、ヒカリだけでなくコウタや友達も狙われる恐れがあるためだ。 しかし今は非常事態。ヒカリはやむを得ず兄に自分の秘密を打ち明けた。 話を聴いたコウタは大いに驚いたが、落ち込むヒカリを励まし、自分にできることはなんでもすると申し出てくれた。 「それにしても、僕の妹が世界一有名な魔法少女だったなんてびっくりしたな。いや、今のヒカリの格好にはもっとびっくりするけどさ」 「それは言わないで……。私たちの体を入れ替えた合成魔獣さえ倒せば元に戻れると思ってたのに、それからずっと入れ替わったままなの。私の体になったグレモリーはいなくなっちゃうし、私、こんな体になってもうどうしたらいいかわからなくて……」 「大変だったね。やっぱり、その体じゃブリリアキュートに変身できないの?」 「できるけど、できないの」 訝しがる兄の目の前で、ヒカリは呪文を唱えた。「変身! 魔法少女ブリリアキュート!」 ヒカリの足元に金色の魔法陣が出現し、まばゆい光が彼女を包み込んだ。変身の儀式が終了し光が収まると、ボブカットの黒い髪はツインテールの明るい金髪に変化していた。だが変身したのは頭だけで、首から下は悪の組織の大幹部グレモリーのままだった。煽情的なボンデージスーツもまったく変わっていない。 「こんな風に、顔しか変身できないの。魔法のステッキだって出せないし、神聖魔法も使えない。魔法少女の力は全部なくなっちゃったの……!」 サキュバスになったブリリアキュートは、爪の鋭利な両手で顔を覆いすすり泣いた。事態は極めて深刻だ。ヒカリから魔法少女の力がなくなったということは、地上の兵器がまったく通用しない悪魔どもの侵略に対抗する唯一の手段が消え失せてしまったことを意味する。レギオンの幹部はグレモリーだけではない。もしも彼女よりも強力な刺客が襲ってきたら……ヒカリもコウタも震えあがった。 「ヒカリに力を授けてくれた、天界……だっけ? その天界に助けを求めるってのは、どう?」 「そうしたいけど……この体になってから、あっちとは連絡がつかないの。私が魔法少女じゃなくなっちゃったからかもしれない……」 「魔法少女の代わりに悪魔の力が使えるってことはない? その体、強い女悪魔のものなんだろ?」 「そうなんだけど、よくわからないの。確かに羽は生えてるけど飛べないし、グレモリーがいつも使う鞭や暗黒魔法だって、私に扱えるなんて思えないし……それにもしもそんなことをしたら、私の身も心もサキュバスになっちゃいそうで不安なの」 「そうか……そうだよね。いきなりこんなことになっちゃって不安だよね、ヒカリ」 優しい兄はヒカリの肩を軽く叩いた。「難しいことを考えるのはあとにして、とりあえず風呂に入ってきなよ。全身ドロドロに汚れてるじゃない」 「うん、そうするね。ありがとう、お兄ちゃん……」 ヒカリは顔の変身を解いて浴室へと向かった。苦労してボンデージの衣装を脱ぎ捨てると、変わり果てた自分の姿にめまいがする。小さなスイカほどもある爆乳の先端では赤ん坊の指ほどもある乳首が勃起していて、肛門から秘所にかけて剛毛がびっしり生え揃っていた。恋をしたこともないうぶな少女は赤面し、シャワーヘッドを手にとった。 (私、これからどうなっちゃうのかな? もしかして一生このままだったりして。そんなのイヤだよ……) 男の欲望をそそる淫猥な肉体を湯で洗いながら、ヒカリは繰り返し憂鬱になる。ボディソープを手のひらにまぶして泡立て、青い肌を優しく擦る。サキュバスの肌は非常に敏感で、ヒカリは小さな声を何度もあげた。 見れば見るほど奇妙な身体だ。背の中央から巨大な翼が広がり、太く長い尾が生えている。翼や尾に指で触れると、触られている感覚が確かにある。どちらも自分の意思で動かせる。ヒカリの頭とグレモリーの体が首の線を境に完全に結合し、新たな生き物になっているのがありありとわかった。 まだ子供だったヒカリには、巨大な乳や股間の茂みも驚きだった。ボディソープを手にとり盛り上がった乳首をおそるおそるつまむと、今まで味わったことのない電流がはしった。 「な、なにこれ? これをこうやって擦ると……ああっ、きゃうんっ」 荒い吐息をつき、ヒカリは己の秘所に手をやった。鋭い爪で肌を傷つけないよう慎重に茂みをかきわけ、泡のついた指先で肉びらをそっと撫でる。腰が浮き上がり、爆乳がぶるんと弾んだ。 (ダ、ダメ。私、こんなことをしちゃいけないのに……) 幼いヒカリに淫らな知識はない。しかし無知な彼女にも、この行為が決して褒められるものでないことは直感でわかった。速やかに肌を洗い終えなくては……しかし好色なサキュバスの指は止まらない。 右手は垂れ下がった乳房を揉みしだき、左手は下の口をまさぐり漏れだした蜜をすくう。少しずつ熱を帯びる淫魔の体は宿敵の魔法少女を喘がせ、これまで想像もしなかった官能の世界へいざなおうとする。衝動と本能とに突き動かされ、ヒカリはますます昂っていった。 「ああっ、あっ、あひっ。な、なにこれ? おかしくなっちゃうようっ」 スイカほどの大きさがある双丘の頂点では、乳頭が大人の小指ほどのサイズに膨張していた。乳房が張り詰め、熱いものがせり上がってくるのを自覚する。 いったいこの現象は何なのか……戸惑うヒカリが見たのは、黒ずんだ乳首からピュッ、ピュッと飛び出す体液だった。それが己の母乳であることに気づいて、ヒカリは愕然とした。 「ミ、ミルク? 私、おっぱいからミルク出ちゃってる……こんなの、こんなのダメだよう……」 もう忍耐の限界だった。二つの乳首から母乳が勢いよく噴き出し、淫魔になった少女をオルガスムスの高みへと押し上げる。視界が真っ白に染まり、赤い光が明滅した。 「ああっ、いっ、いやあああっ。ひゃあああんっ」 噴水のように母乳を垂れ流し、ヒカリは生まれて初めてのエクスタシーに酔いしれた。圧倒的な高揚と多幸感に、股間からも熱い液体が噴出する。膝がガクガク震えて立っていられなくなった。 「はあっ、はあっ。なによこれ。サキュバスの体ってこんなに気持ちいいの? こんなのってないよ……」 ほんのわずかな間だったが、失神していたことに気づく。シャワーの湯が肌を流れる快い感覚に、ヒカリはようやく我を取り戻した。 (ど、どうしよう。このまま元の体に戻れなかったら、私、毎日こんなことばかりしちゃうのかな……?) 衝撃的な出来事が立て続けに起こり、ヒカリは正常な思考ができずにいた。肉体よりも精神の方が消耗していた。膝をついて壁によりかかり、長い時間をかけて乱れた呼吸を整えようと努力した。 怖かった。自分が自分でなくなってしまいそうな恐怖と、このまま快楽に身を委ねてサキュバスの肉体をさらに探索したいという猥褻な欲望が、ヒカリの心の中で対立していた。 自分は邪悪な悪魔と戦う使命を帯びた天界の戦士、魔法少女ブリリアキュートだ──そう己に言い聞かせても、もはや魔法少女ではないことを思い知らされるだけ。淫らがましいサキュバスの体になって母乳を噴き出し大喜びする天界の戦士が、この世のどこにいるだろうか。羞恥と自己嫌悪に涙がこぼれた。 「うう、ぐすっ。早く元の体に戻りたい……このままじゃ私おかしくなっちゃうよ……」 「ヒカリ、大変だ! こっちに来て!」 兄の慌てた声にヒカリは飛び上がった。急いで浴室を出て、バスタオルを羽織ってリビングへと向かう。いったい何ごとかと不審に思った。 コウタはテレビのニュースを視線で示した。画面下の字幕には、またしても市内の全域に避難命令が発令されたことが示されていた。おそらくレギオンの襲撃だろう。 しかし、画面に映し出されていたのはさらに驚くべき光景だった。 「テレビの前の皆さん、この映像をご覧ください! 魔法少女です! これまで私たちを怪物から守ってくれた魔法少女ブリリアキュートが、なんと街を破壊しています! これは一体どういうことでしょうか!?」 「な、なによこれ……!?」 身長およそ一三〇センチの小柄な体格、白とピンクの可愛らしいワンピースの衣装、背中から生えた大きな白い翼、そして手に握られた魔法のステッキ……街の上空を自由自在に飛び回る彼女は、誰が見ても間違いなく魔法少女ブリリアキュートだ。 目以外を覆い隠す黒い覆面をすっぽりかぶったブリリアキュートが、街の住人や建物を無差別に攻撃し、大きな被害が出ているらしい。ニュースを伝えるアナウンサーの声は、怪物らの襲撃時の十倍は深刻そうだ。大の大人が涙さえ流している。 人間の軍隊では抗いようもない魔界の侵略を今までたった一人で防ぎ続けてきた魔法少女が裏切り、守護してきた人々を攻撃している……この報道が意味することはたったひとつ。人類の滅亡だ。中継をおこなう記者も、スタジオのスタッフも、誰もが絶望に顔を歪めていた。 「これは私じゃない! ブリリアキュートじゃない! きっと私の体になったグレモリーのしわざよ!」 「みんな事情を知らないからね……ああして顔を隠せばブリリアキュートにしか見えないよ。魔法だって使ってるし」 「グレモリー、私の体を悪用してなんてことを……! 早く止めなきゃ!」 ヒカリはいてもたってもいられず、煽情的なボンデージスーツを再び身に着けた。 「無理だよ、ヒカリ。今は魔法少女に変身できないんだろ? そんな状態じゃ戦えない。一方的にやられちゃうよ」 「でもこんなこと許せない! 魔法少女になれなくても、なんとかして止めなくちゃ!」 コウタが引きとめるのも聞かず、ヒカリは家の外に飛び出した。 あの合成魔獣に体を取り替えられてからずっと自覚していた体の違和感が、今はほとんどなくなっていた。バランスを崩すこともなく、高いヒールのブーツで夜の路上を駆ける。ふと思いついて念じると、ヒカリの豊満な体はふわりと空に舞い上がった。コウモリに似た禍々しい翼で羽ばたき、空を飛ぶことができる。魔界の大幹部であるサキュバスの体を、ヒカリは着実に己のものにしつつあった。 (さっきグレモリーが魔法少女の力を使ってたみたいに、私も頑張ればサキュバスの力が使えるんだ……! サキュバスなんてイヤだけど、ブリリアキュートがひとを傷つけるのはもっとイヤ!) 「変身! 魔法少女ブリリアキュート!」 まばゆい光がヒカリを包み込み、顔だけが可憐な魔法少女に変化した。せめて顔だけでも魔法少女になって戦いたかったのだ。 普段の出動と遜色ない速度で街を横切り、ブリリアキュートは中継の現場に急行した。そこではテレビで観た映像と同じように黒い覆面の魔法少女が空を飛び回り、光の矢を放って地上の建物を破壊していた。 「やめてグレモリー! 私になりすましてひどいことしないで!」 「来たわねブリリアキュート!」 魔法少女が覆面を脱ぎ捨てると、サキュバスの青い顔と銀髪が現れた。「アンタの体で人間どもを襲ってたら、きっとやってくると思ったわ。魔法少女の力も使えないくせにアタシを止めようっての? バカな子ね」 「聖なる力を悪用するなんて許せない! 私の体を返してよ!」 「さて、どうしようかしらね? アタシもはじめはこんなちんちくりんのお子様ボディなんて、イヤでイヤで仕方なかったけど……」 グレモリーは自分のものになったブリリアキュートの小さな胸を、挑発的に撫でまわした。「でも考え直したの。この体は凄まじい魔力を秘めているわ。これまでアタシたちレギオンを何度も退けてきた天界の戦士、魔法少女ブリリアキュート……その力がそっくりそのまま、このアタシのものになったのよ。これってすごいことじゃない? アイコラPには感謝しないといけないわね。もうやられちゃったけど」 「もう一度言うわ。私の体を返して! 私はこんなサキュバスの体なんてイヤなんだから!」 ヒカリが右手を掲げると、手の中に黒い鞭が出現した。魔族の大幹部が愛用する悪趣味な髑髏の鞭だ。 好敵手の両者は、いつもそうしているようににらみあった。 長身で肉感的な青い肢体を黒のボンデージスーツに包んだ、ヒトの精気を喰らう淫魔ブリリアキュート。 小さな体に可憐なピンクのワンピースドレスを着た、天界の聖なる力を振るう魔法少女グレモリー。 「どうしても元の体に戻りたいなら、力ずくでなんとかしてみなさい。できるものならね!」 グレモリーは魔法のステッキを振り回した。「スターライト・アロー!」 幾本もの光の軌跡がブリリアキュートを襲った。サキュバスは黒い翼を翻らせ、聖なる矢を次々とかわす。空中で二回転した淫魔は痛烈な鞭の反撃をグレモリーに見舞った。素早くしなるその鞭を、魔法少女はステッキではじき返した。 「グレモリーの動きを止めなきゃ! ダーク・スフィアボム!」 ブリリアキュートの前に複数の漆黒の球体が出現し、弧を描いてグレモリーに向かった。魔力でつくった爆弾だ。見様見真似だが、おそらく本人が使うものに匹敵するはず。 「アタシの技がアタシに効くわけないでしょ! スターライト・ブレイド!」 魔法少女のステッキの先端についた星の軌跡が弧状の刃になって、サキュバスの放った爆弾を矢継ぎ早に切断した。大規模な爆発が起き、二人の視覚を一時的に奪う。 体の首から下が入れ替わった二人は、互いに相手の体と力とを己のものにしていた。 この激しい攻防はテレビで中継されているようだ。近くの高層ビルの屋上にアナウンサーとカメラマンがいて、身の危険を顧みず戦いの様子を全国に伝えているのが見えた。 「ご覧ください! 覆面を脱いだブリリアキュートと、悪の組織の女悪魔が戦っています! しかしあのブリリアキュートの顔、まるで悪魔ではありませんか! そして女悪魔の顔は……なんとブリリアキュートのようにも見えます! まるで体が入れ替わったかのようなあの二人、いったいどちらが本物のブリリアキュートなのでしょうか!?」 「ううっ、こんな恥ずかしい格好がテレビで放映されてるなんて……私、もう魔法少女やめたい」 鋭い音を立てて鞭を振り回しながら、ブリリアキュートは自分の不幸を嘆いた。だが、たとえどのような姿になろうと、彼女が戦わなくては多くの人々がレギオンによって殺されてしまう。テレビカメラの前で数キログラムの爆乳をぶるんぶるんと弾ませ、青いサキュバスになった魔法少女は懸命に戦い続けた。 「はっ、思った以上にアタシの体を使いこなしてるじゃない! アンタサキュバスの才能あるわよ!」 「そんなのちっとも嬉しくないっ! 早く私の体を返してよっ!」 「アハハ、何を言ってるの? 本当におバカな子……」 グレモリーは唐突に攻撃の手を止め、空中で静止した。「さっきから体を返せ返せって……アンタ、まだ元に戻れるなんて思ってるの?」 「どういう意味よ!? 私はみんなを守るために、あなたから魔法少女の体を取り返さないといけないの!」 「いいことを教えてあげる。アタシ達の体を入れ替えたのは合成魔獣アイコラP……入れ替わった体を元に戻せるのはあいつだけなの。そのあいつを、アンタは何も知らずに倒してしまった……まあ、アタシも知らなかったけどね。何が言いたいのか、もうわかるでしょ? アタシたち二度と元の体には戻れないわよ」 「ええっ!?」 ブリリアキュートの顔から血の気が引いた。「そ、そんなの嘘よ……私がずっとこの体のままでいなきゃいけないなんて、そんなの嘘に決まってる……!」 「嘘じゃないわ。仮に万が一アンタがアタシに勝てたとしても、元の体に戻る方法なんて存在しないの。アンタはどうあがいても一生サキュバスのまま……あーあ、自慢のダイナマイトボディをとられちゃって、アタシもショックだわぁ……」 グレモリーは自分が着ているワンピースの裾をまくり上げ、白い下着をさらけ出した。「アンタから貰ったこの体はまだちんちくりんだけど、人間はすぐに成長するみたいね。仕方ないからアタシが頑張ってこの体をアタシ好みのセクシーボディに育ててあげる。ボンキュッボンの魔法少女グレモリーなんて、素敵だと思わない?」 「ゆ、許さない……絶対に許さないんだから」 ブリリアキュートは涙をこらえて身構えた。今聞いた話が事実であろうとなかろうと、人々を襲うグレモリーは止めなくてはならない相手だ。これ以上魔法少女の力を悪用される前に。 「絶対にあなたを倒す! 覚悟しなさい、グレモリー!」 「まったく無駄に勇ましいわね、ブリリアキュートは……それとも、ヒカリちゃんと呼んだ方がいいかしら?」 「な、なんでその名前を……!?」 絶対に知られたくない本名を敵の幹部に呼ばれて、ブリリアキュートは震えあがった。 「この魔法少女の身体……変身を解いたら随分と面白いものが出てきたの。学校に通うアンタの私服と持ち物、ご丁寧に名前も書いてあったわ。おかげでアンタの正体も家族も友達も、ぜーんぶアタシにバレちゃった、ってわけ」 「そんな……絶対、秘密だったのに……」 「そうでしょうね。もしもアタシたちにアンタの正体を知られたら、こんなことになっちゃうものね?」 グレモリーはパチンと指を鳴らし、足元のビルの屋上を顎で示した。そこに魔界の尖兵たる黒いマネキン人形がいくつも出現する。マネキンは各々が人間を一人ずつ拘束していた。ブリリアキュートはその全員の顔をよく知っていた。 「お兄ちゃん……! クラスのみんな、それに五郎先生……みんなみんなレギオンに捕まっちゃったの……!?」 「ブリリアキュート、今すぐ抵抗をやめてあそこに下りなさい。それともアンタの目の前で、お友達を一人ずつ絞め殺してあげた方がいいかしら?」 「卑怯だよ、こんなの……許せないよ」 ブリリアキュートは血のにじむほど深く唇を噛みしめ、手にした鞭を投げ捨てた。グレモリーに指示された通り、人質が捕らわれたビルの屋上に下り立つ。レギオンに捕まった皆は泣いて謝った。 「ごめん、ヒカリ。僕のせいでヒカリが……!」 「ううん、いいの。お兄ちゃんは悪くない。悪いのはグレモリーなんだから」 淫魔は無念の表情で魔法少女をにらんだ。「私はどうなってもいいから、お兄ちゃんたちを解放して!」 「別にいいわよ。こんなザコどもなんてどうでもいいもの。あとで自由にしてあげる。アタシが興味あるのはアンタだけだからね、ブリリアキュート」 サキュバスの頭が載った魔法少女は呪文を唱えた。「スターライト・ウィップ!」 グレモリーの小さな手のひらから白い光の鞭が伸び、ブリリアキュートの体に巻き付いた。戦意を喪失した彼女はコンクリートの上に倒された。 「私を殺すんでしょう!? 命乞いなんてしないわよ! 早く殺しなさい、グレモリー!」 気高いブリリアキュートは死を覚悟した。地上を守護する使命と力を天界から授かったときから、いざというときの心構えはできていた。このような卑劣な策で命を絶たれるのは無念だが、最後まで人々を守るために力を尽くせたのはせめてもの救いだ。 ところがグレモリーは優越感たっぷりの顔でブリリアキュートを見下ろすだけで、無力な彼女にとどめを刺そうとはしなかった。 「殺す? そんなことしないわよ。せっかくアンタがサキュバスの体になったんだもの。アンタの身も心も悪魔につくり変えて、アタシたちレギオンの忠実なしもべにしてあげる」 「そんな……そんなの絶対にイヤ!」 ブリリアキュートは絶望にもがいたが、光の鞭は幾重にも四肢と体に巻き付き、起き上がることさえできない。そこにグレモリーが覆いかぶさってきた。 「うんっ!? んっ、んううっ」 グレモリーの唇がブリリアキュートのそれと触れあい、長い舌が口の中に入ってきた。唾液が絡まりあい、口内を隅々までまさぐられる。いやらしい水音が自分の口から聞こえてくるのが信じられなかった。 ブリリアキュートのファーストキスの相手は宿敵のグレモリー。その事実に涙しながら、苦しくなった美少女は魔女の唾液を飲み干した。 「ふふっ、ごちそうさま。こうして見るとアンタもなかなか可愛いわね。具合はどう?」 「な、なにこれ……? お腹の奥が、なんだか変……」 体の芯が熱くなり、激しい衝動が湧き上がってくるのを感じた。乳房が張り詰め、股間が湿り気を帯びるのがありありとわかる。シャワーを浴びて己の体を探索したときと同じ感覚だった。 「今のアンタは人間の精気を喰らうサキュバスなのよ。今からそれをたっぷりとわからせてあげる」 グレモリーの小さな手がブリリアキュートの爆乳を荒々しくつかみ、肉欲を煽るように揉みしだいた。再び女同士の唇が重なりあい、二人は淫らなキスにのめり込んだ。 ブリリアキュートの身体から漏れ出る邪悪な力はますます大きくなり、それにつれて飢えにも似た欲望が胸の奥で鎌首をもたげる。男を知らないブリリアキュートの首の下で、淫魔の肉体が糧になるオスを渇望していた。 「い、いやあ……こんなのイヤ……私、サキュバスになんてなりたくない」 「イヤじゃないでしょ。ここにはアンタのエサになる男がたくさんいるわ。ほら、見なさい。アンタのいやらしい体に誘惑された男どもが、アンタのことをじっと見てるわよ」 グレモリーに促され、ブリリアキュートは人質に視線をやった。ヒカリの兄も、クラス担任の男性教師も、同級生の男子らも、全員が股間を盛り上がらせ、妖艶なブリリアキュートに恥ずべき下心を見せつけていた。 「い、いやあっ! いやあああっ!」 ブリリアキュートの足元から黒いオーラが湧き上がり、狭いビルの屋上に広がった。サキュバスの魔力がコントロールから外れて暴走しつつある。それは破壊の力ではない。他者を虜にして精気を貪る捕食者の力だった。 「さあみんな、いらっしゃい。いやらしいサキュバスになったブリリアキュートを喜ばせてあげるのよ」 グレモリーが合図するとマネキン人形どもは人質を解放し、自由になった彼らがふらふらと近寄ってきた。最初にブリリアキュートの前に立ったのは、ヒカリの兄コウタだ。コウタは熱にうかされたようなぼんやりした表情で妹を見下ろし、ズボンの中から勃起したペニスを取り出した。 「僕のをくわえて、ヒカリ」と、ブリリアキュートの頭を両手で持ち、口に肉棒を突き入れた。魔法少女だった淫魔は呆然としたが、サキュバスの肉体は否応なく燃え盛る。乳首が勃起し、秘所が熱い蜜をこぼしはじめた。 「んぶっ、お兄ちゃん……やめて、苦しいっ、んんっ」 「ああ、ヒカリの口の中は最高だ……なんて柔らかくて温かいんだ。奥、もっと奥に入れたい……」 魔物に心奪われたコウタは、若い陰茎を力任せに突き込んだ。咽頭を亀頭が小突いてブリリアキュートを苦しめた。これまで概念すら知らなかったイマラチオの苦痛に悶絶しつつも、淫魔の体はますます興奮していく。 やがてコウタのうめき声があがり、ブリリアキュートの食道に濃厚なスペルマが撒き散らされた。人々を守るため何度も傷ついた魔法少女は、白目を剥いて兄の精液を飲み干した。腹の奥がぐるぐる鳴って、まだ飲み足りないことを知らせてくる。グレモリーの内臓がブリリアキュートの脳に淫らな信号を送っていた。 そんな彼女を満足そうに眺め、魔法少女グレモリーはステッキを振る。半ば意識を失ったブリリアキュートの拘束が解け、ボンデージの衣装もバラバラになった。目をぎらつかせた男たちが歓声をあげた。正気を保っている者は誰ひとりとしていない。 「ヒカリ! お前が、お前があの魔法少女だったなんて……先生は嬉しい! 嬉しいぞおっ!」 担任の中年教師はジャージの下を脱ぐと、ブリリアキュートのむっちりした腰を持ち上げ、いきりたったペニスを一気に挿入した。前戯のない手荒な突き込みだったが、既に充分濡れた膣内は容易に肉棒をくわえ込んだ。強い衝撃に腹の底を突き上げられ、ブリリアキュートの目に光が戻った。 「ご、五郎先生、なにするのっ!? 私のあそこが……ああっ、あっ、やめてえっ」 「これがサキュバスの体……ああ、なんて気持ちがいいんだ。絡みついてくる……!」 五郎は繰り返しブリリアキュートの中を往復し、パン、パンと肌をぶつけてきた。野太い肉の柱に蜜壺を埋め尽くされ、少女はかん高い声を抑えられない。 歴戦の魔法少女はなすすべもなく犯され、恐怖で顔をくしゃくしゃにした。日ごろ子供たちに優しく勉強を教えてくれるスポーツマンの五郎が、レイプ魔の顔で自分を凌辱しているのだ。無力な女子学生は涙を流して耐えるしかない。 「ああっ、お腹の奥がズンズンされてるよう。やめてえ……こんなのおかしくなっちゃう。ひいっ、いやあっ」 ブリリアキュートの声色に少しずつ艶が出はじめた。ジンジンとした疼きが股間から波紋のように全身に広がり、未知の快感を無知な少女に教え込む。 ブリリアキュートにとっては初めてのセックスだが、グレモリーの体は当然処女ではなかった。五郎に激しく犯されながら、自分も艶めかしく腰を上下させていることに、彼女は気づいていなかった。飢えたサキュバスの身体は待ちに待った結合に熱狂し、自ずからたくましいペニスを貪っていた。人間のそれとはかけ離れた膣内の無数の肉びらがオスをくわえ込み、獲物を逃がすまいと必死だ。 人間の精気を糧とするサキュバスの肉体にとって強姦は甘美な馳走に等しく、恐怖や背徳感は適度なスパイスだった。知らず知らずのうちに忌避感が薄れ、胎内をかき回されることが嬉しくて我慢できなくなる。汚れのないブリリアキュートの心のキャンバスに、下品なペンキが何度も何度も撒き散らされた。 「せ、先生、すごいっ。お腹の中がヤケドしちゃいそうなのっ。ああっ、あんっ」 「ヒカリ、嬉しそうだな! おっ、おおっ、たまらんっ。先生はスケベなお前のことが大好きだぞおっ!」 「ああっ、これいいっ。先生のおチンポ、もっと、もっとしてえっ。おっ、おおっ、おほおおっ」 もう我慢できない。淫魔の体のブリリアキュートは長い脚を自分から教師に絡めて、浅ましい交合に熱中した。顎に当たりそうなほど跳ね回る豊かな乳を自らわしづかみにして、大きく勃起した乳首から母乳を噴き出す。サキュバスのフェロモンを多量に含んだ体液で青い肌がべとべとになった。 「すげえ……ヒカリ、オレたちも楽しませてくれよ」 学校のクラスメイトの男子らがブリリアキュートを取り囲んだ。ジーンズや短パンの中から小ぶりな陰茎を取り出し、一斉に仰向けの淫魔に突きつけた。彼女の目に暗い劣情の光がまたたいた。 「みんな、私を見て興奮してくれたんだ。嬉しい……お礼に頑張って気持ちよくしてあげるね」 魔法少女だったサキュバスは両手で二本、口でさらに二本のペニスに奉仕した。長く整った指で少年らの皮を剥き、敏感な亀頭を鋭利な爪で軽く引っかく。反りかえった肉の短刀に舌を這わせ、玉袋にキスを繰り返した。 「ああっ、出るっ。ヒ、ヒカリ……顔にぶっかけるぞっ」 あどけない魔法少女の目や鼻に白濁した樹液がぶちまけられ、サキュバスは満足の吐息をついた。月の光で編んだような長い金髪に少年らのザーメンが染み込み、若々しいオスの臭いを放つ。ブリリアキュートは頬についた精液を舌でぬぐい、クラスメイトの遺伝子をためらいなく嚥下した。 サキュバスのボディはいっそう欲望のボルテージをあげ、膣内にびっしり生え揃った魔性の肉ひだで教師のペニスを嬲りつくした。たまらず男は声をあげて射精したが、ブリリアキュートは決して担任を逃がさない。 「えへへ、お腹の奥……あったかい。先生、もっと、もっとちょうだい……」 ブリリアキュートは本命の大人ペニスを堪能しながら、複数の年少男性器を代わる代わる楽しんだ。既に魔法少女の矜持は消え失せ、人間の男を食い荒らすサキュバスの本能に突き動かされていた。あられもない声をあげてミルクを噴き出し精を浴びるその姿は全国のテレビに映し出されているはずだが、それを恥とも思わなかった。 「私、みんなと仲良くなると、とってもいい気分なの。もっともっと仲良くなりたい……」 「いいざまね、ブリリアキュート。アンタサキュバスの才能あるわよ」 ひたすら性交にふける淫魔の前に魔法少女がやってきた。ワンピースの裾をまくり上げた股間にコウタが顔をうずめていた。下着を脱ぎ、コウタに幼い性器を舐めさせているのだ。 「嬉しい……私、サキュバスになってよかったかも」 「いい子ね。ご褒美に、今から元アンタの体と愛しのお兄ちゃんとのセックスを見せてあげる」 魔法のステッキを放り投げ、魔法少女のピンクの衣装を脱ぎ捨てるグレモリー。まだ発達途上の女体があらわになり、陰毛の一本もないつるつるの股間からひと筋の雫が滴った。 コウタはグレモリーに命じられ、直立したまま背後からその腿を持ち上げると、幼児に小便をさせる姿勢で彼女を貫いた。破瓜の血が滴り、寝転がるブリリアキュートの頬を濡らした。 「私の体、血が出てる。初めてのセックス……血が出るんだ」 「そうよ、これが人間の初めてなの。思ってたより痛いけど、悪くないわ。ふふふ……」 グレモリーは額に脂汗を浮かべてきゃしゃな身を揺らし、コウタの若いペニスを味わった。魔法少女の幼い女性器に兄の肉棒が深々と突き刺さった。 「す、すごい締めつけだ。なんてきつい……」 魔法少女の処女を奪ったことにヒカリの兄は罪悪感を覚えるでもなく、グレモリーの軽い体をゆさゆさと揺らして抜き差しを始めた。グレモリーとコウタの喘ぎ声が重なりあい、ブリリアキュートに卑猥な二重奏を聞かせた。 「ああっ、んっ、痛いっ。でも気持ちいい……一度きりの処女喪失セックス、たまらないわあっ」 「くうっ、もう我慢できない。出る、出るよヒカリっ。うおおおっ」 コウタは膝を震わせ、妹のものだった膣内に熱い樹液を撒き散らした。小さなヴァギナから血と愛液、ザーメンの混じった生臭い粘液が勢いよくあふれ出し、横たわったブリリアキュートの顔にふりかかる。青い淫魔はその汚れを舌で舐めとり、満ち足りた表情を浮かべた。 「お兄ちゃんもグレモリーも気持ちよさそう。うらやましいよう……」 「それじゃあ交代しましょ。アンタのお兄ちゃんは譲ってあげるから、しっかり搾り取りなさい」 グレモリーの提案に従い、淫魔と魔法少女は互いの位置を入れ替えた。四つんばいになったブリリアキュートの尻をコウタがつかみ、獣の交尾の姿勢で結合を果たした。 「ああっ、お兄ちゃん、お兄ちゃあんっ」 コウタの若いペニスは中年の五郎のものより硬く、焼けた鉄の棒を突っ込まれているような充塞感だ。ブリリアキュートは犬のように這いつくばり、兄にしつけられて獣の吠え声をあげた。この世で最も大切な家族と雌雄となって交わるのは、彼女にとって最高の体験だ。 一度や二度の射精では終わらない。ブリリアキュートは尻尾を伸ばして先端をコウタの肛門に突き刺し、繰り返し兄の精気を吸い取った。その小さな口は教師の太いモノに塞がれ、貪欲な淫魔の体も大満足だ。 「おおっ、おほっ。おほおっ。お兄ちゃんも五郎先生も最高っ。おほおおおんっ」 雄叫びをあげるその姿は、無垢な魔法少女のものとはあまりにもかけ離れていた。今や身も心もサキュバスに堕したブリリアキュートは、欲望の赴くままに男を貪り、浅ましい醜態をさらけ出した。 一方、グレモリーは脱ぎ捨てた魔法少女のドレスの上に寝転がり、ヒカリのクラスメイトに次々と犯されていた。少年らは純潔を捨てたばかりの魔法少女の膣に交代で挿入し、まだ初潮を迎えていない幼い女体を楽しんだ。 「いい、いいわっ。なかなかよくなってきた……イ、イクっ。子供まんこでイクのっ」 首から下がヒトの精気を喰らうサキュバスになった淫魔ブリリアキュート。 首から上がヒトの精気を喰らうサキュバスである魔法少女グレモリー。 合成魔獣に首を挿げ替えられ互いの身体を交換した二人は、それからも多数の男たちを代わる代わるに相手にして、新しい肉体でのオルガスムスを満喫した。狂った宴は数時間に及んだ。 とうとう男たちの精気が尽き果て、グレモリーとブリリアキュート以外の全員が倒れてしまった。辛うじて死んではいないが、かなり危険な状態である。全身べとべとに汚れたグレモリーは、自分と同じ格好のブリリアキュートの肩を上機嫌で抱いた。 「お疲れ様。どう、ブリリアキュート? まだ元の体に戻りたいって思ってる?」 「ううん、もういい。私もこの体が気に入っちゃった。ずっとサキュバスのままでいいよ……」 「それは重畳。じゃあアタシとレギオンのしもべになるわね?」 ブリリアキュートは返事をしなかったが、無言でグレモリーの小さな体を抱きしめた。それは肯定としか解釈できない振る舞いだ。 グレモリーは最高の気分だった。この半年間レギオンの邪魔をし続けた忌々しいブリリアキュートを淫魔に貶め、忠実なるレギオンのしもべにしたのだ。これでこの世界は自分たち悪魔のものだと狂喜した。 これから愚かで無力な人間どもを残らず捕らえ、家畜やエサにするつもりだ。そんな素晴らしい理想郷がやってくると思うとグレモリーは笑いが止まらなかった。 「可愛がってあげるわ、ヒカリ。これからはアタシが愚かな人間どもの飼い主、地上の支配者ブリリアキュート……レギオンのトップになる日も遠くないわ。ふふふ、ふふふふ……」 「ああ、やっと触れた……私の、魔法少女のカラダ……」 ブリリアキュートは恍惚の表情でグレモリーの肩に接吻した。すっかり彼女の虜になって反抗の意思をなくしてしまったように見える。 「そうね、このカラダはアンタのカラダだったわね。でも今はアタシのカラダよ」 グレモリーは勝ち誇った。「もう元には戻れないわよ。ブリリアキュートはこのアタシ……」 「そうだね、私の……魔法少女のカラダはあなたにあげる。私はずっとサキュバスのままでいい」 気分が高揚しているためか、ブリリアキュートの爆乳からミルクが垂れた。グレモリーの膨らみかけの小さな乳房にサキュバスの母乳が塗りたくられ、甘い匂いを撒き散らした。 ますますブリリアキュートの腕に力がこもった。不自然なほど情熱的なサキュバスのハグに、グレモリーは苦しくなった。 「ちょっと、さすがに痛いわよ。ちゃんと可愛がってあげるから、一旦離れて……」 「私はもう魔法少女じゃない。でもみんなを守りたいの」 耳元で囁かれた言葉に、グレモリーは身をこわばらせた。もはや相手に抵抗の意思はない……そのはずだった。 「な、なに? アンタ、いったい何をするつもり……!?」 「私は大好きなお兄ちゃんを、友達を、街のみんなを守りたい……たとえ私が悪魔でも、エッチでいやらしいサキュバスになっても……!」 抱きあうグレモリーとブリリアキュートの身体が光りはじめ、その足元に直径数メートルの魔法陣が出現した。白く輝くその聖なる力は、地上でたった一人選ばれた魔法少女が天界から授けられた力だ。 「そんなバカな! アタシの力が勝手に引き出されてる!? ありえない!」 「これは私の体だったから、こういうこともできるんだよ……私の体が応えてくれた……」 「はなせっ! このカラダはもうアタシのもの! アタシのものなのにぃっ!」 強力な魔法の予兆を察知して、魔法少女グレモリーは逃れようと必死に暴れた。だが淫魔ブリリアキュートは彼女の小柄な身体をきつく抱きしめ、決してはなさない。そんな二人を取り囲むように、白い魔法陣の外側にもう一つ魔法陣が現れた。こちらは黒……暗黒魔法の媒体だった。 二つの魔法陣から白と黒の光があふれ出した。グレモリーとブリリアキュートの力が融合した、まったく新しい魔法だ。 「これが私が使う最後の神聖魔法よ、グレモリー……」 「アンタまだ堕ちないの!? この魔法はいったいなに!? これでアタシを倒そうってわけ!?」 「違うよ。そんなことをしたら魔法少女がいなくなっちゃう。私が望んでるのはあなた……最後まで一緒だよ」 聖と魔、二つの相反する力が混じりあい、二人の身体を包み込んだ。白と黒の二色の光は自らの意思を持っているかのように絡みあい、二人を囲む巨大な柱を形成した。膨大な魔力が解放されて、魔法少女の肉体を有するグレモリーへと収束していく。 「私の気持ち、受け取って……ブリリアント・ヒカリブラスト!」 「ぎゃああああっ!?」 断末魔の絶叫があがった。 辺りが強烈な光に満たされ、誰もが何も見えなくなる。最後の最後でうまくいった……ヒカリはあらゆる感覚が消失するのを自覚しながら、今までにない落ち着いた心持ちで己の意識を手放した。 ◇ ◇ ◇ 朝、学校のチャイムが鳴り、クラス担任の五郎が教室に入ってきた。 子供たちががやがやするのを尻目に、五郎は黒板にチョークで四文字のカタカナを書き込んだ。 セックス。 「一時間目はセックス実習だ。まずは先生がお手本を見せるからよく見ておくように。ヒカリ、前に出てきなさい」 「はい! みんなエッチなお勉強、頑張ろうね」 名前を呼ばれたヒカリは五郎の前に歩み出ると、黒光りするボンデージの衣装を脱ぎ捨て裸になった。黒髪をボブカットにした大人しい童顔だが、その首から下は誰もが魅了される青い肌の爆乳サキュバスだ。スイカほどもある巨大なバストを手のひらですくってぶるんぶるんと弾ませると、一人を除いてクラスの全員が顔を真っ赤にした。 ヒカリは五郎の指示に従い、淫らな行為を次々と見せつけていく。豊満な乳で彼の幹をしごき上げ、細い喉で切っ先を飲み込み、教卓の上で騎乗位のセックスを披露した。そろそろ歳の衰えを感じるという五郎は、最近は夫人の前でまったく勃起しないそうだ。こうしてヒカリばかりが搾り取ってしまい、担任教師の家庭の不和をクラス中が懸念していた。 「さすがね、ヒカリ。アタシも負けてられないわ」 そう称賛したのは半年前からこのクラスに加わったグレモリーだ。ヒカリから貰った子供用のブラウスや吊りスカートを素早く脱ぎ、隣の男子生徒に襲いかかった。床に尻もちをついた彼の上にまたがって結合すると、力強い動きで腰を上下させる。艶めかしい大人の女の喘ぎ声に、周囲の男子の股間が一斉に立ち上がった。 人間離れしたグレモリーの青い顔や真紅の瞳、ねじくれた角にはじめは面食らった同級生らだったが、今では美貌の彼女を皆がクラスの一員として認めていた。自慢のセクシーボディをヒカリに奪われ、サキュバスの性欲が衰えたかというと決してそんなことはなく、毎日クラスメイトや教師たちを十人以上も相手していた。先週、初潮がきたと言っていたが、次の生理はこないかもしれない。 ヒカリとグレモリーとに誘惑され、級友の全員が豊富な性経験をこなしていた。首から下だけサキュバスの女生徒と首から上だけサキュバスの二人は、あるときは誰もが惹かれる魅力的な女子として、またあるときは誰からも頼られる姉貴分として、共にこのクラスをリードする存在になっていた。 「ああ、お腹タプタプ。もう精子入らないわ」 「私はまだまだいけるかな。やっぱりサキュバスの体は底なしだね」 注ぎ込まれた精液でぽこりと膨れた腹を撫でるグレモリーに、ヒカリは物足りなさをアピールした。 「そういえば、ねえグレモリー。サキュバスの体ってこんなにエッチしても赤ちゃんできないの?」 「ええ、普段のセックスは食事だから妊娠しないの。でも特別な魔法を使えばサキュバスも赤ちゃん産めるわよ。相手は悪魔でも人間でもいいし、女同士だって大丈夫。サキュバス二人で数を増やすことだってできるんだから。ひょっとしてヒカリ、コウタの赤ちゃん産みたいの?」 人の悪い笑みを浮かべたグレモリーに、ヒカリは頬を赤くした。 「う、うん、お兄ちゃんの赤ちゃんも産みたいけど……でも私、それより先にグレモリーと私の赤ちゃんを産みたいな。魔法を使えば女の子同士でもできるんだよね……?」 「な、なによそれ。できるけど、イヤに決まってるでしょ」 グレモリーも耳まで赤くして恥ずかしがった。「アンタの赤ちゃんを産むのはアタシが先なんだから」 「じゃあ二人で一緒に赤ちゃん産もうよ。私の大好きなグレモリー……んっ、んんっ」 ヒカリとグレモリーは熱い口づけを交わし、舌と唾液を絡めあって他の誰よりも互いを慕っていることを確かめた。血と肉、そして魂を分かちあった二人は長い時間を共有し、いつしか最高のパートナーになっていた。 日課の乱交が終わる頃、教室にサイレンが鳴り響いた。窓の外、遠方の街から黒い煙があがっていた。 「市内の全域に避難命令が発令されました。先生の指示に従い、順番に校庭に避難してください……」 放送を聞きながら子供たちは脱ぎ散らかした服を急いで着て、秩序正しく避難を始めた。クラスの中にはわざと気になる級友の衣類を身に着ける猛者もいて、グレモリーの白い下着とブラウス、黒の吊りスカートは残らず悪童どもにとられてしまった。仕方なく彼女は床に落ちていたブリーフとTシャツを身に着け校舎を出た。 ヒカリとグレモリーは集団で避難するクラスの皆から密かに離れ、体育倉庫の裏で落ちあった。そこには首から下が入れ替わった哀れな女性とオス犬を飼育する小屋があり、その前で二人は呪文を唱えた。 「変身! 魔法少女ブリリアキュート!」 足元に金色の魔法陣が出現し、まばゆい光が二人の体を包み込んだ。一メートル三〇センチの小柄なグレモリーは可憐な桃色のワンピースドレスを身にまとい、先端に大きな星があしらわれた白いステッキを握りしめた。小さな背中から白鳥のそれによく似た翼が伸びて、天高く舞い上がる。こちらの変身は首から下だけだ。 対するヒカリは髪が黒のボブカットから、ピンクのリボンがついたツインテールの金髪へと変化した。こちらの変身は首から上の部分だけで、サキュバスの青い体は何も変わらない。コウモリ型の黒く大きな翼を広げ、柄に髑髏の意匠が施された黒い鞭を握りしめた。 天界から聖なる力を授けられた希望の戦士、魔法少女ブリリアキュート。 淫猥な女子学生ヒカリとグレモリーは、正体を隠して悪と戦い続ける魔法少女なのだ。 愛しあう二人は手を繋いで空を駆け、黒煙のあがる現場に急行した。 「やっぱりレギオンのしわざね! みんなを助けなきゃ!」 ビルがいくつも倒壊し、逃げ惑う人々を多数の黒いマネキン人形が襲っていた。ボンデージスーツの魔法少女ブリリアキュート・サキュバスヒカリは高いヒールのブーツで地面を踏みしめ、マネキン人形を鞭で打つ。人間の武器が一切効かない魔性の化け物どもは、サキュバスの鞭によって次々と薙ぎ払われた。 「このザコどもの指揮をとってるのは誰!? 早いとこブチのめしてセックス実習の続きをしなきゃいけないんだから、とっとと出てきてやられなさいよ!」 ピンクのワンピースを着た魔法少女ブリリアキュート・グレモリーが残りの人形を片付けて叫ぶと、空中に漆黒の穴が開き、そこから細身の優男が現れた。襲撃部隊の長だ。 「お初にお目にかかる、魔法少女ブリリアキュート。オレは魔界の秘密結社レギオンのナンバー2、偉大なるバルバトス。抵抗するだけ無駄だ……って、貴様はグレモリー!?」 余裕しゃくしゃくの態度で出てきた悪魔の男は、ブリリアキュートの顔を見て仰天した。「なぜ貴様がここにいる!? 首尾よくブリリアキュートの力を奪ったと聞いていたが、失敗したのか!?」 「違うわ、バルバトス。アタシはちゃんと魔法少女の力を手に入れた……でもね、アタシはレギオンを裏切ったの。ここにいるのは人間たちを守る使命を帯びた魔法少女……魔法少女ブリリアキュート・グレモリーよ!」 グレモリーは魔法少女のステッキを構え、かつての同僚に向けて名乗りを上げた。 「そして私が魔法少女ブリリアキュート・サキュバスヒカリ! この世界はあなたたちレギオンなんかには絶対、渡さないんだからっ!」 「なんだお前らは……魔法少女なのかサキュバスなのか、一体どっちなんだ!?」 出鼻をくじかれた格好のバルバトスは、グレモリーとサキュバスヒカリの姿を交互に見比べ、信じられないといった様子だ。 無理もない。グレモリーとヒカリは体の首から下だけが入れ替わっているのだから。 グレモリーの頭とヒカリの体、そしてヒカリの頭とグレモリーの体。肉体のほとんどを交換した二人は、サキュバスの欲望と魔法少女の使命、どちらも捨てないことを選んだ。ヒカリは自分の意志で、そしてグレモリーはヒカリの大魔法によって改心したのだ。 それまでは人間をエサや家畜と見下していたグレモリーだが、ヒカリの優しい心に浄化された現在は、庇護すべき対象として人々を守る意思を持っている。この半年間で人間社会にもすっかり適応したようで、毎日ランドセルを背負って登校し、将来は進学や就職を考えているという。喜ばしい変化だった。 「お、おのれ……なんだかよくわからんが、刃向かう者は容赦せんぞ! 特にグレモリー! いつかオレの嫁にしようと狙っていたのに、そんなツルペタのロリータボディになっちまって絶対許さん! 逆にそっちのロリっこはムッチムチで最高だな! 今度遊びに行かないか?」 「グレモリー……本当にこいつ、レギオンのナンバー2なの?」 「残念ながらその通りよ。裏切ってよかったわ……」 「ええい、うるさい! いでよ、合成魔獣テンポザン・ゴーレム! こいつらを泣いちゃう程度に痛めつけろ!」 バルバトスが吠えると、彼の背後に頭頂高四、五メートルの土の巨人が現れた。山ほどの大きさがある強敵の出現に、二人は武者震いを隠せない。黒い鞭と白いステッキ、各々の武器を構えて躍り出た。 「いくよ、ブリリアキュート・グレモリー!」 「わかったわ、ブリリアキュート・サキュバスヒカリ!」 サキュバスと魔法少女のそれぞれが混じりあった二人は、素晴らしい連係プレーで敵を翻弄する。光と闇のオーラをまとって美しく舞うヒカリとグレモリーは、もはや誰にも分かつことのできない相思相愛の双生児だ。 ふたりでひとつの魔法少女・ブリリアキュート。 ふたりでひとつの爆乳サキュバス・グレモリー。 首が挿げ替わったブリリアキュートとグレモリーは、これからも一心同体の聖なるサキュバスとして悪を討つ。いつか魔界の秘密結社レギオンを打倒するその日まで……。 戻る |