互いの距離は十メートルと少し。まず外すはずのない、極めて近い距離。 実際、彼は今日、先ほどから四回連続で成功している。 彼の、啓一の脚力とコントロールをもってすれば、五度目も決めて当然のはずだった。 目の前にいる少年と向かい合い、小さくうなずいてから、思い切り駆け出した。 充分な助走、安定した軸足、そして全身のバネ。全てが完璧だった。 たくましい右足から放たれたそれは凄まじいほどの球速で、一直線にゴールの左隅に向かって突っ込んでいく。 蹴り飛ばした啓一も、伸ばした手が届かずに途中で諦めたキーパーの少年も、風を裂いて疾走するボールを、どこか他人事のような目で眺めていた。 二人の視線が歪んだ球へと注がれて、低空で交差する。 そして、次の瞬間。 ――ガンッッ !! 「……あちゃー、外れちゃいましたね。今の、絶対入ると思ったんですけど」 ヒカルはゴールポストに弾き飛ばされたボールに目をやって眉を曲げ、まるで自分が失敗したかのように残念がった。 ボブカットの髪と健康的な肢体を持つ、明るく元気な美少女を自認するヒカルである。 そのヒカルが憧れの先輩、水野啓一が部活に励む光景を見て、楽しくないわけがない。 先ほどから手に汗握って、啓一の勝負を観戦していたのだ。 啓一と出会ってまだ一週間ほどでしかないが、思いついたら即行動を信条とするヒカルは、しょっちゅう啓一の教室にやってきては昼食を共にしたり、放課後、彼が所属するサッカー部の練習を見学しに来るようになっていた。 幸いなことに、今のところ追い払われることもなく、思う存分、啓一を観察していられる。 そのヒカルの隣では、背中まで垂れたストレートの黒い髪が、風に吹かれて揺れていた。 「これで四対四、引き分けね。啓一と中川君」 ヒカルの隣に立つ啓一の妹、水野恵は彼女らしい上品な笑みを浮かべて、そう言った。 男子に比べると小柄だが、女子の中では平均的な体格で、手足はやや細い。 現在着ている、この学校独特のシンプルなセーラー服とあいまって、ひと昔前の正統派美少女とでも呼ぶにふさわしい雰囲気をかもし出している。 恵自身は特定のクラブには入っていないが、たまにこうして兄の部活動を見学しに来ることがあった。 放課後のグラウンドには人けが少ない。 寒い冬の日とはいえ、普通の高校ならば、トラックを何周も回る陸上部員や、次の大会目指して守備練習に励む野球部員などの姿が見受けられるはずである。 だが、何事においてもやる気がなく、どこの運動部も地区最弱と名高いこの高校において、今にも雪が降りそうなこの寒空の下で、わざわざ練習をおこなう奇特な部は少数派だった。 というより、部員総出で活動しているところが一つたりともない。 ごくわずか、合わせて二桁にも届かない人数が、閉じ込められたような曇天の下で自主的なトレーニングに取り組み、広々としたグラウンドを占領しているのだった。 何事も無理せず、毎日を自堕落に生きること。それがここの校訓である。 三年間の高校生活は大会のため必死で汗を流すものと考えている熱血教師や、部員のモチベーションを保とうと日々腐心する主将やマネージャーではとても務まらない、異常な環境と言えた。 現に今、サッカー部で練習をしているのも、啓一ともう一人の中川祐介という少年の二人だけだった。 さらに、その祐介も本来は正式なサッカー部員ではなく、たまに試合や練習に助っ人としてやってくるだけの部外者だという。 自然と練習内容はPK戦や一対一の取り合いなど、特定のものに限定される。 真面目な啓一としては寂しさを感じずにはいられない状況だったが、入部した頃からずっとこうだったため、さすがに慣れてしまったらしい。 そんな話を恵から聞き出したヒカルは、練習を終えた啓一が休憩をとりに自分の方へやってくるのを、温かい目で見つめていた。 ヒカルたちのいるグラウンドの隅には、啓一が目当てなのか、何人かの女生徒がギャラリーとなってかしましく騒いでいる。 恵と共に啓一を見守るヒカルの耳にも、そんなギャラリーのかん高い声が聞こえてきた。 「ああっ、もう! 何してんのよ、中川のやつ! 結局同点じゃないの、つまんねー!」 その言葉に横を見ると、明るい茶髪を短めに整えた、長身の女の姿が目に入った。 負けん気の強そうな派手な顔立ちだが、充分に美人と言ってよく、そのうえ細くくびれた腰、制服の胸元で揺れる豊かな胸、肉づきがよく美しい曲線を描く肢体と、男を引きつける様々な要素をあわせ持っていた。 その隣では対照的に、小学生と見間違えてしまいそうなほど小柄な、黒いツインテールの少女がじっと立っていて、興奮した様子で二人の男子生徒に熱い視線を送っていた。 「引き分けかあ。祐ちゃんと啓一君、いい勝負だったね」 「何言ってんの、決着が着くまでまだまだ延長戦よ。中川だったら啓一を叩きのめしてくれるはず! 信じてるわよ祐ちゃんっ!」 「え、でも二人とも、こっちに帰ってきてるよ?」 「なにぃ !? 何してんのよ、あいつらはっ!」 会話の内容から察するに、この二人は啓一たちと親しい関係にあるようだった。 ひょっとして彼らの友人だろうか。ヒカルが抱いた疑問には、恵が答えてくれた。 「残念でした、加藤さん。勝負は引き分けね」 普段の清楚な彼女らしくなく、舌をぺろりと出して笑う。 どうやら、この茶髪の女と水野恵の関係は、かなり気安いものらしい。 「ちっ、まあいいわ。この決着は次回に持ち越しね。見てなさい。次こそあんたたち兄妹に吠え面かかせてやるんだから」 「いや、別に私たち、中川君と勝ち負けを競ってるわけじゃ……」 「あーあ、あんたはいつもそうね。余裕しゃくしゃくの優等生でさ。その澄ました顔も、ひと皮剥いたら何が出てくるか、わかったもんじゃないってのに」 「加藤さん……」 対抗心をむき出しにする女を前に、恵は困った顔でため息をついた。 そこへ啓一と祐介がやってきた。 ギャラリーの一人、ツインテールの小柄な少女が駆け出し、祐介に飛びついて無邪気なはしゃぎ声をあげた。 「祐ちゃーんっ!」 「瑞希、どうだった? 啓一には勝てなかったけど、結構いいとこいっただろ」 「うん、すごかったよ!」 祐介と少女は互いに並々ならぬ好意を持っているようで、彼が汗ばんだ体で少女を抱きかかえ、照れて笑うさまは、実に周りに微笑ましく映った。 ヒカルがその様子を指し示し、恵に問う。 「誰です? あの二人」 「中川祐介君と森田瑞希ちゃん。私たちの大事な友達よ」 「そうですか。えーと、それであと……こっちのいかにも態度がでかそうな人は?」 「加藤真理奈さん。一応、私たちの友達……かも」 頬に一筋の汗を浮かべて、恵がぎこちない笑みを浮かべる。 その女のことが苦手なのか、淑やかな恵にしては珍しい、やや硬い表情だった。 真理奈と呼ばれた茶髪の女は、ヒカルと恵の会話を聞き逃さなかった。 キッとこちらを振り返ると、強気な口調で怒鳴りつけてくる。 「ちょっとそこ、こそこそ人の陰口を叩くんじゃなーいっ! 特に水野恵っ! 何が一応よ、何が友達かもよ。この腹黒女めっ!」 「あ、あっはっは……。まあ、そんなに怒らないで……」 ヒカルが真理奈をなだめようとすると、彼女はそこで初めてヒカルの存在を認識したらしく、怪訝な顔で訊ねてきた。 「誰、あんた? 初めて見る顔ね」 「は、はい。あたし、一年の渡辺ヒカルっていいます。よろしくです」 「ふーん、一年か。あたしは加藤真理奈。覚えといて」 真理奈は簡潔にそう言ったが、この女に関しては、記憶の中から消し去ってしまうことの方が難しいのではないかと、ヒカルには思われた。 充分に美人の範疇には入るが、どこかけばけばしく、男子とそう変わらないくらいの長身とスタイルの良さも相まって、あまり高校生には見えない。 加えて相当の高飛車な態度と、周囲によく響く大声。 今までヒカルの周囲にはあまりいなかった人種である。 真理奈はそれ以上ヒカルには関心を示さず、早々に彼女から視線を外すと、先ほどまで練習に励んでいた二人の少年、啓一と祐介にちょっかいを出し始めた。 やれ男だったら勝ち負けははっきりさせないとダメだとか、寒い中せっかく自分が見学に来てやったのにやる気が足りないとか、横で聞いていてもあまり愉快になれない勝手な言葉を並べ立てる。 だがどちらの少年も、こんな真理奈の言い方には慣れているらしく、祐介は辟易した様子で、啓一は苦笑して彼女の言葉を聞き流していた。 ヒカルはそんな真理奈の横柄な振る舞いを驚きの目で見守っていたが、自分はじめ多くの女生徒の憧れの的である水野啓一を前にして少しも硬くならず、ざっくばらんに彼に話しかける真理奈に、興味を持ち始めていた。 「あのー、恵センパイ。あの加藤真理奈って人、いつもあんな感じなんですか?」 その質問に恵は先ほどど同様の、困り顔を浮かべた。 「そうね、ちょっと元気すぎるくらい。でも加藤さん、ああ見えて根はいい人よ?」 「へえ。それであの人、啓一センパイとつき合ってたりとかしませんよね?」 「それはあり得ないわ」 恵は困った顔のまま、妙にきっぱりと言ってのけた。 確かにヒカルの目から見ても、真理奈は美人で魅力的な女性ではあったが、あの奔放な女が、真面目な優等生の啓一の彼女とはどうにも考えにくい。 やや馴れ馴れしいが明るいムードメーカーの、異性の友人。そんなところだろう。 恵の言葉も、ヒカルの推測も、同じ答えを示していた。 「んー、やっぱそうですか。まあ、そりゃそうですよね。あの二人、なんか見るからに相性悪そうですもん」 「ふふ、そうね。それに加藤さんはすごくモテるから、わざわざ啓一がそんなことしなくても、つき合う相手には不自由しないのよ」 恵は苦笑した。先刻の啓一と全く同じ表情だった。 ヒカルは恵にうなずき返すと、啓一に絡んでいた真理奈に話しかけた。 「センパイ、センパイ。加藤センパイ」 「ん? さっきの一年じゃない。何よ」 さっき自己紹介したはずだが、ヒカルの名前など既に忘却してしまっているらしい。 記憶力はあまり良くないみたい、などと失礼なことを考えながら、ヒカルは自分より十センチは背が高い真理奈を見上げた。 「センパイ。ちょっと今、いいですか?」 「何よ、いったい」 「実はあたし、加藤センパイに聞きたいことがあるんですけど……。センパイ、このあと予定空いてたりしません?」 真理奈は軽くまばたきをして、ヒカルの顔を見返した。 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 加藤真理奈は、派手な見た目がよく似合う、明るくて気さくな女だった。 今日会ったばかりのヒカルと二人っきりになっても、身構えず色々喋ってくれたし、「話を聞きたい」という突然の彼女の申し出にも快くうなずいて、自宅に招待してくれた。 水野恵にも劣らない美少女を目の前にして、はじめヒカルは緊張していたが、物静かな優等生の恵とは違う、あけすけな真理奈との会話は意外なほど弾み、啓一や恵たちと別れて彼女のマンションに着いた頃には、この女に対する親愛の念がヒカルの胸に芽生えていた。 自宅のドアを開けて、真理奈がずかずか中に入っていく後を、ヒカルはそうっとついていく。 「たっだいまー」 「おかえり。まりなお姉ちゃん」 小柄で線の細い、小学生くらいの少年が出てきて、二人を出迎えてくれた。 真理奈の弟だろうか。真理奈はヒカルを指して、さばさばした口調で少年に言った。 「これ、あたしの一個下の後輩、渡辺ヒカルちゃん。ほら直人、挨拶して」 「あ……こ、こんにちは。ボク、加藤直人です。まりなお姉ちゃんがいつもお世話になってます」 人見知りする性格なのだろう。 直人と名乗った少年は、おどおどした様子でヒカルにぺこりと頭を下げた。 確かに顔の造作は真理奈に似ていなくもないが、性格はまるで違うようである。 ヒカルは少しだけ背を曲げて、少年に笑いかけた。 「直人君、こんにちは。君、何年生?」 「え、えっと……小六です」 頬を赤く染めてぼそぼそ答える様子が、実に可愛らしい。 一緒になった帰り道、真理奈は自分がいかに不特定多数の異性に愛されているかを力説していたが、それは彼女に限らず、この一族に共通した特徴であるようだった。 「ヒカル、遠慮しないでそこ座って。あ、コーヒーいける?」 「はい、お構いなく」 「直人は部屋に戻ってお勉強してなさい。あたしはちょっとこの子と話があるから」 「うん、わかった」 恥ずかしいのか、ヒカルとは目を合わさずにリビングから出て行く直人。 真理奈はインスタントのコーヒーを淹れながら、楽しそうに言った。 「どう、可愛いでしょ? あの子」 「守ってあげたくなる子ですねー。なんか母性本能をくすぐられるっていうか……」 「あら、イジメがいもあるわよ? 特に泣き顔なんてたまんないわ」 「センパイ、普段直人君に何してるんですか……?」 それには答えず、真理奈はテーブルの上に湯気の立つカップを二つ、置いた。 砂糖とミルクをたっぷり入れてかき混ぜ、白と黒の渦巻きを表面に形作る。 「それで? あんた、あたしに聞きたいことがあるんだっけ」 カップを口元で傾けて、真理奈が問いかけた。 「はい。実はその……啓一さんと恵さんの、二人の水野センパイのことで。真理奈センパイは、あの二人のこと、よく知ってるんですよね?」 「まあ、つき合い自体はあんま長くないけどね。しかもむかつくことに、あいつら、なんかあたしを避けてるし」 口を尖らせる真理奈を見て、ヒカルは納得した。 あの真面目で大人しい兄妹と、このアグレッシブな女では、あまり相性が良いとは思えない。 どういうきっかけで交友が始まったのかはわからないが、真理奈と啓一、恵との間には、一定の距離があるようだった。 だが、この女が二人について、ヒカルより多くのことを知っているのは疑う余地がない。 ヒカルはソファに座ったまま頭を下げ、真理奈に頼み込んだ。 「お願いします。あたしに啓一センパイのこと、教えて下さい。あたし、あの人のこと、ほとんど知らないんです。啓一センパイの普段の様子とか、いつも仲良くしてる友達とか、あと、今つき合ってる相手がいるのかとか……」 「ふーん。ヒカル、ひょっとしてあいつに惚れてんの?」 「はい。だからぜひ、お願いします」 ヒカルの真剣な顔を見て、真理奈は呆れた様子でため息をついた。 「はあ……。あんたも変なのに惚れちゃったわねえ。悪いこと言わないから、やめときなさい。別の探した方がいいわ」 「なんでですか。なんでそんなこと言うんです」 真理奈の呆れ顔が悪友の夏樹のものと重なって見え、ヒカルの声が大きくなった。 そんなヒカルの勢いを受け流して、真理奈が言う。 「だってねえ……。絶対に無理なの、わかってるもん。時間の無駄よ」 「無理って、なんでですか。そりゃあ確かに、啓一センパイはモテモテで、しかもあんな美人の妹さんが身近にいれば、女の子には贅沢にはなるでしょうけど……。でもあたしだって、頑張って、何とかセンパイに振り向いてほしいんです」 「うん無理。絶対無理。だから諦めなさい」 「だからなんでなんですかっ !? 理由を教えて下さいっ! 実は啓一センパイがホモだとか言わないでしょうね !?」 「それはないわねー。たとえばあいつと中川がそんな仲だったら、意外と面白いかもしんないけどさ」 真理奈はテーブルの上にあった金属製の四角い箱からクッキーを取り出し、それを二つに割って自分の口に入れた。 箱をこちらにも示して「どう?」と目線で聞いてくる。 それを受け取り、中の一枚を乱暴に噛み砕くと、憤りが少しだけ和らいだ気がした。 「じゃあ、なんでなんですか。あたしじゃ絶対無理っていうのは」 「無理はもんは無理よ。ついでに言うとヒカルだけじゃなくて、誰だってそうだから。実はあたしも前に、あいつに興味持ったことがあんのよね」 「……真理奈センパイが、啓一さんにですか」 「ほら、啓一って見た目いいし、しかも優等生じゃない。彼氏にしてもいいかなって思ってさ。勢いで迫ってみたの」 大胆なことを、さらりと言ってのける真理奈。 動機はヒカルとはまるで違うが、彼女も以前、ヒカルと似たような立場にあったらしい。 ヒカルはごくりと唾を飲み込み、続きを促した。 「それで……どうなったんですか」 「ふられちゃったわ。どんな男だってものにできると思ってた、このあたしが」 部屋の中には、安っぽいコーヒーとクッキーの甘い匂いが充満している。 水野恵が清らかな花のような娘だとしたら、きっと真理奈はクッキーのような女なのだろう。 そんな他愛のないことを、ヒカルはふと思い浮かべた。 「誰がどう迫っても、水野啓一の心は射止められない。そういうことよ。あいつを縛れるのはこの世でたったひとり、妹の水野恵だけね」 「恵センパイ……。噂には聞いてましたけど、あの二人、そういう関係なんですか?」 「そうね。あんたの想像通り、そういう仲よ」 「そんな――実の兄妹なんですよ !? しかも双子! おかしいじゃないですか!」 「まあ、双子の兄妹で男女の仲ってだけなら、ブラコンとかシスコンとかそういう、ちょっとおかしなただの変態で済むんだけどね。タチが悪いのは、あいつらがもっと頭のぶっ飛んだ連中だってことよ」 真理奈は思わせぶりな言葉を口にした。 身を乗り出すヒカルの反応が面白いのか、にやりと笑みを浮かべてみせる。 「ぶっ飛んだ……? それってどういうことですか」 「んー、そうね。どう説明すればいいかしら……」 ヒカルは、困った顔で悩む真理奈を真っ直ぐにらみつけたが、彼女は気にもしなかった。 「まあ、知りたきゃあんたが自分で確かめるのが一番ね。あたしじゃ、わかりやすいようにうまく説明できないもん」 「そんなこと言わないで、教えて下さい。すっごく気になります。啓一センパイと恵センパイに、何があったんですか?」 「これ以上は言えないわ。あたしも協力したげるから、後はあんたが自分で調べなさい」 「センパイ……」 それ以上真理奈は何も語らず、ヒカルとしては大人しく引き下がるしかなかった。 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ヒカルが帰った後、真理奈はテーブルの上を片づけると、小さく息を吐いた。 「やーれやれ……。あの子もすっごく無駄なことしてるわねえ。早く別の男を見つくろった方がいいってのに、不毛だわ」 そう独り言をつぶやき、リビングを離れる。 向かった部屋には、学習机で勉強に励む小柄な少年の姿があった。 真理奈は後ろから少年に抱きつき、嬉しそうに笑った。 「なーおとっ♪ どう、お勉強頑張ってる?」 「あ、お姉ちゃん……あの人、帰ったの?」 「うん。だから直人……今からあたしとお勉強、しよっか」 「あっ……!」 耳に息を吹きかけると、声変わりも終えていない少年は、かん高い悲鳴をあげた。 椅子を回してこちらを向かせ、あどけない顔をぐっとつかんで口づける。 「んん――ん、んっ……ふふっ、直人……」 「んふぅ……んっ、おねえ、ちゃ……」 とても小学生を相手にしているとは思えない、舌を絡ませる淫らな接吻。 真理奈の指が少年の下半身に這わされ、ズボンの中に侵入して幼い性器を下着越しに撫で回す。 小さいながらも少年の肉棒は、彼女の愛撫を受けて硬くそそり立っていた。 真理奈は羞恥に顔を赤らめる彼の顔を見つめ、艶然と微笑んだ。 「直人、可愛いわ……ふふふふ……」 「ま、まりなお姉、ちゃ……」 彼と同様に真理奈の体も疼き、直人を求めて熱く火照っていた。 続きを読む 前のを読む 一覧に戻る |