啓一と恵 10

 俺たちが帰宅した頃には、すっかり夜も更けていた。
 夏の夜は相変わらずの暑さと湿気で俺たちに発汗を強いてくる。普段着姿の俺はとにかく、浴衣を着た恵はかなり暑そうに見えた。
 それに答えるように、聞き慣れたこいつの声が俺の頭の中に響く。
(風通しはいいから大丈夫よ。でもやっぱり汗かいてるわね)
 とりあえず風呂にするか。妹にそう言って、俺は自宅のドアを開いた。
「ただいまー」
 二人揃って口にすると、リビングの方から母さんの声が返ってくる。
「お帰り、遅かったじゃない」
「うん、色々あったから遅くなっちゃった」
 色々あったというか、俺はもろに車にひかれて生死の境を彷徨っていたのだが、あの少年のおかげで全ては無かったことになった。帰りに事故など起きていないし、俺の体にも傷一つついていない。気がつけば俺と恵はあの交差点を通り過ぎた辺り、歩道の隅にぼんやり立っていたのだった。いったいどんな魔術を使ったのか想像もつかなかったが、やはり恐ろしいやつだった。
 まあとにかく、こうして俺は無事でいる。俺の命を助けてくれたこと、そして俺たちの存在を望む形にしてくれたことに関しては、あいつに感謝しないといけない。
 母さんはリビングに座り、茶を飲みながらテレビを見ているところだった。父さんは既に風呂に入ったのか、寝巻き姿で和室に寝転がり、本を開いたままうつらうつらしている。今寝たら後で眠れなくなると思うんだけど、気持ち良さそうだから下手に起こせない。困った。
「汗かいたでしょ? 二人ともお風呂入りなさいね」
「はーい」
 恵は母さんに浴衣を脱がせてもらい、先に風呂に向かった。俺も一緒に入ってもいいが、さすがに両親がいるとためらわれる。冷蔵庫から麦茶を取り出して喉に流し込み、俺は紳士然として静かに妹の湯上りを待った。
 風呂場に流れるシャワーの音、肌を伝う温かな湯、そして艶やかな恵の裸体。今の俺にはその全てが自分の感覚として把握できる。
 俺はリビングに座ったまま、恵の手を動かして豊かな乳房を揉みしだいた。右手のシャワーが白い肌を流し、左手は淫らな動作で自分の胸を責めたてる。自分でもいい動きだったと思うのだが、恵のやつはお気に召さなかったらしく、心の中で俺を怒鳴りつけた。
(こらっ! 何すんのよ!)
 特に悪気はない。ただの悪戯だ。好きな女が風呂に入ってる情景をありのまま見ることができて、さらに心と感覚の一部を同化できるとしたら、そりゃこんな悪ふざけもしたくなる。声に出さずに微笑みかけて、俺は恵に謝罪する。
 恵はシャワーを一旦止めて、ボディソープのかかったスポンジで肩と腕をこすりだした。泡のついたなめらかな肌が俺の視界、二重になった視覚の片方を覆っている。
(まったくもう……あまり変なことしてると、後で仕返しするからね)
 悪い悪いとつぶやき、再びわびる。俺だって気持ちよく風呂に入ってるところに勝手に手を動かされ、自分のものをシコシコしごかれてはかなわない。誤魔化すようによく冷えた麦茶をもう一口すする。もちろんこの心地よい冷たさも、俺の感覚を介してあいつに届いているはずだ。
 母さんは俺の前でテレビの動物番組に見入っている。父さんは座布団を枕にしてごろりと横になっている。二人ともいつも通りの様子で、子供たちの変化にまったく気づいていないようだった。まあ今さら気づかれても困るんだけどね。
 待った時間はさほど長くなかった。恵は体をぬぐったバスタオルで身を包み、俺を急かすように交代を告げた。
(ほら、入った入った。私は部屋で待ってるから)
 はいはい。じゃあ俺も早く上がって、可愛い妹の元に向かうとしますかね。俺はタオルと下着を手に、いそいそと風呂場に足を運んだ。

 恵はパジャマの前を開け、軽く羽織った格好で俺を待っていた。今日のは薄い桃色の生地で、夏らしく涼しそうに見えた。ほのかに頬を火照らせ、つやのある黒髪に根元からドライヤーをあてている。丁寧に扱わないといけないのでなかなか大変だが、俺も恵も癖のないストレートがお気に入りだった。
 俺も風呂上りで体は熱い。はだけたパジャマの上からクーラーの冷気を浴び、呼吸を繰り返して体温を下げる。肌を撫でる涼気に目を細め、俺は恵の背後に座り込んでぴったりと身を寄せた。髪の手入れを邪魔して怒られたが、細かいことを気にしてはいけない。
「もう啓一、ちょっと待ってよ」
「ん、待ってたのはお前の方じゃないのか?」
「私は時間がかかるの! わかってるでしょ !?」
 ぷうっと頬を膨らませる、その表情が可愛らしい。このまま抱きしめたくもあったが、俺ももう少し体を冷やすことにした。クーラーの冷風とドライヤーの温風が空中で混じり合い、空気の対流をつくる。  ようやく髪を乾かし、恵が俺に向き直った。今そんなことをしてもどうせ後で汚れて洗い直すことになると思うんだが、髪に対するこいつのこだわりは相当のものだ。
「……悪いわね。こだわってて」
「いやいや、そんなことは」
 しまった。油断してると俺の考えることが全てこいつに筒抜けになってしまう。自分を確かにもって心の壁を築かなければ。何とか集中しようと目を閉じてうんうんうなっていると、いきなり恵に押し倒されてしまった。
「おい――お前……」
「ふふん、さっきのお返しよ」
 仰向けで床に転がったが、かろうじて後頭部を打たずに済んだ。しかしそこを恵に乗っかられて押さえ込まれる形になってしまう。仰向けの俺とうつ伏せの妹と、俺たちは奇妙な姿勢で寝転がって絡み合っていた。
 まったく、こいつこそ何をやってるんだ。子供っぽくてガキみたいじゃないか。理性ではそう思っていても、柔らかな女体がのしかかって暴れてくるのはなかなかに気持ちがいい。引き離すフリをしてつい胸や尻を揉んでしまうのも仕方のないところである。
「あ! こら、セクハラ!」
 文句を言ってくる恵の胴体を抱きしめ、体を回して逆に押さえ込む。痛くしないように気は遣ったつもりだが、この体勢はかなりそそるものがあった。前の開いたパジャマを押さえ、揺れる胸をブラの上から顔でぐりぐりしてやるのがまた気持ちいい。嫌がる妹を無視し、俺は猛烈なスキンシップにのめりこんだ。
「や――ダメ、啓一っ!」
「ダメって言ってもなぁ。お前が先にやってきた訳だし」
「それでもダメ! 離しなさいっ!」
 こちらを見上げて怒りの表情を浮かべてみせる恵。残念ではあったが、俺は身を起こしてこいつを自由にしてやった。
 今の俺たちは二つの心が半端に繋がった状態だから、対立するのはどちらにとってもあまりよろしくない。下手に喧嘩なんてやらかすと両方の心と感覚が入り乱れて、対等な人格同士で主導権争いが起きてしまう。
 そんな訳で俺たちはできるだけ相手を尊重して、お互いにハッピーにならないといけなかった。結構面倒だが、これが俺たちの選んだ道だからしょうがない。なあに、元々一つだった俺たちだ、すぐに慣れるさ。
 恵は不機嫌な顔で座り込み、俺をじっとにらんでくる。特にこちらに落ち度はないような気がするが、ここは謝りつつ慰めてやるのが男の対応というものだろう。俺も座って正面から恵の手を取り、優しく手の甲を撫でてやった。
「悪い悪い。つい調子に乗っちまった」
「もう、啓一のバカ」
「じゃあ気を取り直して、続けていいか?」
「うん……いいよ」
 やっとのことで許可が出たので、恵を抱き寄せて腕の中に包み込む。シャンプーの香りが辺りに漂い、俺の鼻孔をくすぐった。半分は自分の体ではあるが、やはりこうして抱いていると実に気持ちがいい。女として抱かれるより、女を抱く方が俺には合っている。きっとこいつもこの方がいいに違いない。
 腕と体で妹の温もりを感じ、そっと髪を撫で上げる。サラサラした手触りと、気持ち良さそうな恵の表情がたまらない。俺は我慢できず、手でこいつの細い顎を上向かせると、その桜色の唇に自分のを重ねた。
「んっ……」
 何度味わっても飽きない、恵の肉の味。口と口とを繋ぎ合わせて舌を絡め、唾液をすすり合う。本当はもっとじっくりするつもりだったのだが、気がつけば俺たちは相手の口内を激しく貪り合っていた。
 恵の舌が俺の中、舌のつけ根や歯の裏を摩擦してくる。迎え撃つ俺の舌がそれを押さえつけ、自分の唾を塗りたくる。軽くうなって息を乱し、醜いほどに二人で食み合う。
 接吻は長かった。喘ぎ声が漏れないのをいいことに、俺の手は恵のブラに侵入して生の乳房を揉みしだいたが、涙でうるんだ瞳でこちらを見上げてくるこいつの表情も最高だ。
「ん……ぷはぁっ……」
 欲望のままに口腔を嬲り、ようやく俺は恵を解放した。二つの口を唾液が伝い、こいつの顎から喉元にかけて伝っていく。 
「はぁ、なんか生きてるって感じがする……」
「ふふ、何よそれ。大げさね」
「大げさっていうか、今日は本気で死にかけたからな。あいつに助けてもらわなかったら今頃は……」
 文字通りの臨死体験、三途の川辺での記憶を思い出してげんなりする俺の頬を、恵が優しく撫でる。いつもと同じ柔らかな笑顔だったが、揺れる瞳には慈愛と安堵が満ちていた。
「大丈夫よ。これで私たち、ずっと一緒なんだから。心も体も、ずっとそばにいてあげる」
「そうか、そうだな……」
 俺は気を取り直して恵の体を抱き上げ、ベッドに運んでやった。相変わらず恵の体は軽いが抱き心地は抜群である。いわゆるお姫様抱っこというやつだが、ちゃんと俺の首に腕を回してしがみついてくる辺り、こいつもなかなか律儀なやつだ。二人きりで他の誰にも見られていないというのに、ちょっぴり頬を赤くしてるところがまた可愛らしい。
 と、あまり感動にひたっているとまた怒られてしまうので、俺は恵の体をベッドに下ろして次の行為に及んだ。座り込んだ妹の背後に回り、パジャマを脱がせてブラを剥ぐ。抵抗せずされるがままの恵の上半身を裸にし、両の乳房を愛撫する。張りのある胸は俺の手の中で弾み、形を変えて跳ね回った。
 胸を揉みつつ、首筋にもキスを降らす。頬から鎖骨にかけて唇を滑らせ唾液まみれにすると、こいつはとろんとした瞳で虚空を見つめた。
「んっ……はぁっ……」
 すぐ前から聞こえてくる、恵の甘い声。たぷたぷ揺れる乳房を下から支え、指の腹で焦らすように乳首をこすってやるとどんどん声が漏れてくる。決して力は入れず、優しくじっくりもてあそんでやるのがコツだ。たちまち恵の先端は硬くなり、切ない声で俺を呼ぶ。
「はんっ……ん、啓一ぃっ……」
 クーラーで冷やされたはずの体がまた熱を帯びる。むずがゆくも心地よい胸の刺激に妹は目を細め、天を仰いで吐息をついた。揉まれる行為そのものよりも、俺と身を触れ合わせていることが恵の興奮を煽り、白い肌を火照らせる。
 何度も呼ばれ乳を揉み、俺の方も余裕を失くしつつあった。こいつの快感が脳を介してこちらに伝わっていることも大きい。責めながら責められるこの感触、実に数ヶ月ぶりだった。
「恵、下も脱がすぞ」
「うん……」
 腰に手をやってパジャマの下をずらすと、繊細なレースの入ったベージュのパンツが恥ずかしそうに顔を出した。相手が俺だから恥ずかしがる必要なんてないのだが、やはり乙女の最後の砦は堅固である。脱がす手にもつい力が入ってしまう。
 とうとう丸裸にされ、恵の体が余すところなく露になった。電灯に照らされた肌は俺を誘うかのようにつやつや輝く。若く瑞々しい女の体、それが白い寝床の上に投げ出される。
 対抗する訳ではないが、俺も寝巻きを脱いで自分の肌を光に晒した。たくましく引き締まり、均整のとれた男の体。恵を欲してやまない啓一の肉体が腕を伸ばし、妹の裸体を抱きしめた。
 華奢な体を腕で締めつけ、恵の耳に口寄せる。
「恵、好きだ……」
 今さら言う必要のない、当たり前の事実。再び心が繋がった今となっては口にせずとも伝わる言葉だが、どうしても言わずにはいられなかった。
 自分の動悸と恵の亢進。静かな二人だけの空間で、俺たち兄妹は互いを欲して抱き合った。耳元で澄んだ恵の声が響き、俺の鼓膜を心地よくくすぐる。
「啓一……私も好き。たとえ自分の片割れでも、ううん、私自身だからこそ私はあなたが好き。大好き」
「困ったやつだな。俺も人のこと言えないけど……」
「ふふ、私たち、やっぱりナルシーかな?」
「さあな。でもそんなこと、どうでもいいんじゃないか?」
 俺と私。永遠の孤独に苛まれていた一つの心は二つに分かれ、こうしてまた一つになってもそれぞれの自我を保っている。そして相手を慈しみ、同じ心と気持ちを共有する。
 これが俺たちが望んだ俺たちの形。一つでも二つでもなく、中途半端に心を繋げること。二つの心の境界に穴を開け、二人ともが啓一として、恵として、そしてその両方として生きていく。分かれる前とも分かれた後とも異なる、新たな心の形だった。
 ゆっくり恵を押し倒し、熱っぽい股間に手を差し入れる。敏感なそこに男の手が触れ、待ちかねたようにビクンと跳ねた。
「あっ、ああっ!」
「んっ……!」
 割れ目に沿ってなぞり上げる指の動きに、触っている俺も気持ち良くなってしまう。もちろんこいつと感覚を共有してるからだが、ある意味これも自慰行為と言えるかもしれない。俺の指がクレバスを撫で、汁に濡れてゆっくりと侵入を開始する。
 差し入れた膣の中は常のごとく熱い。とろとろの蜜があふれた恵の内部は温度以上に熱く感じる。関節を埋めてそっと動かし、性器の入り口をかき回す。
「んあ、はあぁっ――んんっ !!」
 可愛い喘ぎ声を封じ、俺の唇がまたしても恵のそれを塞ぐ。陰部を指で貫かれた恵は俺の口内に唾と息とを吐き出し、激しく身をよじった。呼吸困難に陥りそうなほどだが、膣をこねる右手の指と、繋げた口の動きは止まらない。二人して鼻息を荒げ肉を貪り、獣のように相手を食らう。
 秘裂を責める指が踊り、中と外とをもてあそぶ。ぷっくら充血した豆を慎重に撫で、包皮をつまんで挟み込む。勃起した陰核は凄まじい性感を煽り立てて俺たちの脳を焼き尽くした。息を整えようと口を離したのも束の間、恵が苦しそうに呼吸を引きつらせる。
「はっ、あふぅっ !! はあ――ああぁんっ !!」
 仰向けになった体が跳ね、弓なりになって反り返る。恵の絶頂に引かれるように俺の頭にも快感の高波が押し寄せ、残りわずかな理性を押し流した。どちらも全裸でシーツの上に横たわり、はぁはぁ肩で息をする。
 俺は恵から伝わってくる絶頂の余韻にひたりつつ、身を起こして気合を入れ直した。軽く射精してしまったのが情けないが、それでもまだ肉棒は硬く張って恵の体を求めている。こいつもその欲求を我が物として感じているはずだ。
 やがて恵も息を整え、甘い声をこちらにかけてきた。
「ふぅ……イっちゃったね。すごかった」
「ああ、俺も良かったよ。こんなになっちまった」
 その返事にこいつは寝転がったまま腕を伸ばし、硬くなった俺のものを握りしめた。既に子種で濡れている竿をためらいもなくつかんで、指で軽くしごき上げる。敏感になっている男性器はその刺激に喘ぎ、再度出したそうにプルプル震えた。
 横になってこちらを見やる、妹の淫靡な笑い。清楚で大人しい水野恵のこんな表情を見られるのは世界中探しても俺ひとりだろう。頬は赤く息は荒く、火照った裸体を惜しげもなく電灯の光に晒している。
「ねえ、舐めてあげよっか? それとも手でする?」
 答えなどわかりきっているくせに、わざわざ言葉で俺に問う。今のこれを鎮められるのは、この男根と対になった女陰以外ありえない。はっきり言えば早く入れたい。この雄の本能もありのままに恵の脳に届いているはずだが、直接ではないからか、俺よりは幾分余裕があるようだった。
 ふん、見てろ。その澄ました面、すぐ見苦しいアヘ顔にして鳴かせてやるから。
 俺は恵の足の方へと移動し、正面から柔らかな太ももをかつぎ上げた。
「ん、前から……?」
 期待と興奮でかすかに声が震えている。恵の入口は俺の股間と向かい合って蜜を垂らし、早く入れて欲しいと言わんばかりだ。余裕ありげに振る舞ってはいても、ぱっくり口を開けた肉壷は実に正直。わずか十数センチの距離を隔てて俺を待ち構えている。
 脚を大きく開かされ、恵の恥ずかしい部分は丸見えだ。対するこちらは膝立ちの状態で、赤くなったこいつの顔が存分に見渡せる。下半身を軽く持ち上げると豊満な乳房がプルンと揺れた。
 猛りきった肉の槍、その先端で入口を軽く突つく。それだけでこいつは嬌声をあげて身を震わせた。待ち焦がれるように腰を揺すり、一刻も早く俺の性器を飲み込もうとする。割れ目から一筋の雫が滴り、肌を伝ってシーツに落ちた。
 もっと焦らした方がいいのかもしれないが、俺もいい加減限界に来ている。グッと腿をつかんで腰を押し出し、勃起した自分自身を思い切り挿入した。
「んっ、んんんっ、あっ! ああぁっ !!」
 肉をかき分け奥へ奥へと進入する。俺専用の肉壷は今夜も淫靡な動きで俺をしごき上げた。熱い汁と絡む肉とが極上の快感をもたらし、さらなる衝動を煽り立てる。俺の体が前へ後ろへ動くたび、恵は羞恥もなくよがり狂った。
 男を求める女の陰部。寝転がって脚を担がれた妹はなすすべもなく膣をこねられ、愛しい兄の名前を連呼した。ゆっくり緩慢に浅い部分をかき回したかと思うと、次の瞬間には肉を鳴らして奥をえぐる。いきなりの突き込みに恵の息が止まり、苦しそうに引きつった。
 こいつの中はもうトロトロ、汁まみれのヒダが肉棒を包んで劣情をかき立てる。キスとも違う淫らな音が部屋に響き、本能が理性を吹き飛ばす。喘ぐこの女を自分のものに。嗜虐心と独占欲の奇妙な混合物が俺の脳を侵し、止めどなく腰を往復させた。
「うっ、ううっ! あぁ――ダメ、ダメぇっ!」
 恵は両手を口に当てて嬌声を抑えようとするが、パンパン奥を突かれるこいつには無駄な努力でしかなかった。涙とよだれが顔から溢れ、繊細な表情を汚らわしいそれに変える。予告通りの見苦しいアヘ顔、女でも妹でもない淫乱な雌の面。そこまであと一歩というところだった。
 亀頭が壁を摩擦し、雁首が性感帯を激しくこする。乱暴な出入りに恵の悲鳴は人語をかけ離れ、動物的な響きを帯びた。下にいる両親に聞こえそうなほどの喘ぎは俺の優越感を心地よくくすぐったが、いくら何でもこのままじゃ危ない。何とかして声を抑えないと。
 俺の手が妹の腿を離れ、寝床の上に押しつけられる。急に体を前に倒したことにより俺は恵にのしかかる形となった。半ばまで突き入れた陰茎が奥の奥、子宮にまで突き刺さりそうな勢いで入り込む。体重をかけた挿入に今度こそこいつの呼吸が止まり、舌を出して上を向く。
「ひぐぅっ! うあぁっ、や、あぁ――んっ、んぐぅっ !!」
 喘ぎ声の後半は俺の口に塞がれ、幸いにも音声にならなかった。大の字に広がった脚の間に体を差し入れ、深々と突っ込みながら唇を奪う。もはや半分イっているというのに恵は両手を伸ばして俺の背中をかき抱いた。完全に男に押さえ込まれたこの体勢はなかなかの重さのはずだが、こいつは気にせず口をすぼめて俺の肉を貪ってくる。
「んはあっ、んんっ、んっ、んむぅっ !!」
「むふぅ――ふっ、ふっ、ずううっ!」
 理性が吹き飛んだ男女の、酷すぎるまぐわい。今までこんなに乱れたことはないんじゃないかってくらい、俺たちは脳味噌を沸騰させて愛し合った。犯しながら犯される、貪りながら貪られる倒錯した劣情に抵抗もできず、獣の交尾を強制される。
 膣の肉はジュルジュル下品な音をたて、俺を包み込んで離さない。こすれ合う性器の音色と感触が二人の意識を焼き尽くす。常人の二倍の性感、誰ひとり到達できない禁忌の領域に俺と恵は再び迷い込んでいた。
 妹の腕が恐ろしいほどの力を出し俺を締めつける。恵はその限界を示すように口を繋げたまま真上を向いて、声にならない悲鳴を発した。
「んぐっ、んん、んあっ! んふぅ――んんんっ !!」
 そして膣が勢い良く締まり、耐え切れない収縮でもって俺に射精を促した。引き絞られた牡釘が痙攣し、濃厚な精液がほとばしる。ゴムもつけない肉棒が恵を孕ませるために次から次へと子種を注ぎ込み、女の中を汚していく。
 ――ドクッ、ドクドク……ビュルルッ……!
 俺の体は崩れ落ち、やや斜めの形で恵の上に倒れこんだ。男の胸板が女の乳房を押し潰し、結合部は長い注入を続けてやまない。たった一度の絶頂なのに驚くほどの快感だった。
「くはぁっ、はぁっ、はぁ、ふぅっ……」
「んっ、んふぅ……はっ、はあぁっ……」
 感覚を共有してから初めての性交。予想以上の高ぶりに絶頂の余韻がなかなか消えない。
 俺はようやくドロドロの性器を引き抜き、恵の隣に転がった。肉棒はまだ萎えず二、三発の余力を残してはいたが、気持ち良すぎて体が動かない。続きをするにしろやめるにしろ、ここで息を整えないと何もできそうになかった。それは恵も同じようで、股間から精液を滴らせつつ淫靡な笑顔で呼吸を続けた。
 男と女。熱い吐息がシンクロして淫猥な二重奏を奏でる。言葉も出せないのか、それとも荒い呼気が心地いいからか、恵の声が直接俺の脳内にこだました。
(け、啓一……)
(……何だよ、まだ俺できねーぞ。ちょっと待て)
(私も、体が……ちょっと待って)
 意識を繋げた心の会話。二つに分かれた俺と私の意志疎通。呼び方なんてどうでもいいが、俺たち兄妹が以前ともまた違う風変わりな存在になったのは確かだった。せっかくまともな人間、平凡な男女になれたというのに、そのチャンスを自ら蹴ってしまった訳である。
 だが後悔はしていない。これで俺と恵は二人で一人、永遠に離れることはない。こうして普通の兄妹を演じることもできるし、気分次第で体を取り替え俺が恵に、こいつが啓一になることも可能だ。もし仮にどちらかの体が死ねば、残った方に二人で同居。二つの人格で絡み合うのも面白いかもしれない。
 これが俺たちの出した答え。正しいかどうかなんてわからないが、とにかくこれが俺と恵の結論だ。それを聞いたときあいつは、あの少年は目を丸くして驚いていたけれど、やがて大笑いして俺たちの望み通りにしてくれた。
 “やっぱり君たちは面白いね”と言って微笑み、またどこかへ消えていった。
 俺と恵、ふたりはひとつ。この数ヶ月、俺たちの身には本当にいろんなことがあった。驚きも戸惑いも、命の危機も兄妹喧嘩もあった。しかし今俺たちはこうして、心と体を繋げて幸せにひたることができる。他に望むことは何もない。
(ねえ、啓一)
 また頭の中にこいつの声が聞こえてきた。幸福に満ちた安らぎの囁きに俺の心も温まる。
(私ね……あなたが大好き。これからずっと一緒だからね)
(そうだな。これからもよろしくな、相棒)
(ふふっ、じゃあもう一回しよっ♪)
 寝床の上で恵の体が回転し、俺にぴたりと寄り添ってくる。それに応えるように俺も身を回してこいつの華奢な肢体を抱きしめた。可愛くて優しくて、ちょっぴり悪戯好きの俺の分身、双子の片割れと無言で抱き合う。
 ふたりはひとつ、恵と啓一。俺たち奇妙な兄妹は熱い視線を交わし、また心と体を絡め始めた。
 夏の夜。カーテンの隙間から漏れる月光だけがそんな俺たちを見守っていた。


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