あなたたちは、ケガや病気をしたことはあるだろうか。 もちろん今までの人生で全くの健康体だった人なんてほとんどいないだろうし、現に今、持病や傷の痛みを抱えてる人はいくらでもいる。 そういう人ならあたしの気持ちをわかってくれるかもしれないし、逆に「そんなの、オレの辛さに比べりゃ大したことねーよ」と怒るかもしれない。 あたしは自分のことを悲劇のヒロインだなんて思ったことはないけれど、一つだけ確かに、自信をもってはっきりと言えることがある。 死ぬほど、痛かった。 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ あたしはその日、くそ暑い学校の廊下で待っていた。 長かった夏休みも終わって、今日から新学期。九月はじめの太陽はグラウンドに厳しい日差しを投げかけて、陽炎なんて見えたりもする。 教室の中はクーラーが効いてるんだろうけど、あたしはまだ廊下で待たされているので、汗ばむ陽気に晒されたままだ。この季節に、新品のブレザーなんて着るもんじゃない。 ドアについてる小窓から、そっと教室の中をのぞき込むと、担任の前田先生が話しているところだった。いつも通りの気合の入った声を聞いて、普段の日常に帰ってきたことを、改めて実感した。 すると、先生は話を止めてこちらを向いて、ドアの陰にいるあたしに話しかけてきた。 「じゃあ浅井、入ってきなさい」 呼ばれたのは確かに自分。覚悟していたことだけど、心臓がバクバクして止まらなかった。いっそこのまま逃げてしまおうかという思いをどうとか抑えつけて、深呼吸してドアを開けた。滑りの悪いドアが音を立てて、あたしの姿を皆の前にさらけ出した。 教室の中では懐かしいクラスメートの顔がズラリと並んで、あたしを見つめていた。 皆、ぽかんと口を開けて、何も喋らずに硬直したまま動かない。中学生のとき、苦手な数学で満点を取った答案をお母さんに見せたら、こんな顔してたっけ。 あのときは、びっくりするほどいいことだった。でも今回のこれは、どうなんだろう。いいことなんだろうか、悪いことなんだろうか。 不安で胸が一杯になる中、あたしはゆっくりと足を踏み入れ、教壇に立った。驚愕して固まった皆を見下ろして、静かな声で喋った。口をついて出てくるのは以前とは全然違う、低くて力強い声だった。 「ええと、その、浅井です。退院しました。見ての通り、男の子になっちゃったけど……これからも、よろしくお願いします」 あたしは長身を折り曲げ、皆に向かって頭を下げた。 皆の目に映っているのは、クラスの男子と比べても明らかに背が高い、新品のブレザーを着た一人の男の子だ。その名を浅井真奈改め、浅井真也。 皆、あまりのことに、思考がストップしてしまったのだろう。あたしの自己紹介に拍手してくれたのは、横に立つ前田先生と、もう一人だけだった。 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 休み時間、あたしは当然のように質問攻めにあった。 「ホントっ、ホントに真奈ちゃん !? 変わりすぎじゃない、てかかっけー!」 「マジで男の子 !? パンツ脱いでよ、ついてんの !?」 「すごいねー、戸籍とかどーなってんの?」 あたしは前々から人づき合いが良かった。なんか喋りやすいらしい。おかげでこうして性別が変わっても、みんな気さくに話しかけてくれる。正直、気持ち悪いとか言われて、いじめられるかもと思ってたので、ちょっぴり感動した。 それはいいんだけど、皆、集まりすぎだって……。 クラス中の女子に加えて他のクラスからも応援がやってきて、あたしの席は、もうしっちゃかめっちゃかだ。おかげで男子からも注目の的だし、すごく恥ずかしい。 このままだと、皆のオモチャにされてしまう。何とかして逃げ出さないと。 二十人以上の女の子に揉みくちゃにされたあたしは、隙を見てその人ごみの中から、抜け出した。 「あっ、逃げた !? 待ちなさーい!」 「真奈ちゃん、どこ行くのー !?」 今にも追いかけてきそうな勢いの集団が、あたしの背中に声をかけてきた。 この場を離れる言い訳はあることはあるんだけど、それは今のあたしにとってはあまり口にしたくないセリフだった。だけど、今は仕方がない。 あたしはぐっと拳を握り締めると、後ろを振り返って、喉から声を張り上げた。 「トイレ! もちろん男子用だからね! ついてこないでよっ !!」 その答えに皆驚いた顔をして、黙ってあたしを見送ってくれた。 逃げる口実ではあるものの、尿意を催していたこともまた事実。あたしは一番近い男子トイレに駆け込んで、白い便器の前に立った。 立ったまま自分の前半分を突き出す、このやり方にも少しは慣れた。 ベルトを外して、ずり下ろしたトランクスの中からアレを取り出すと、根元と先っちょを手で押さえて、たまっていた排泄欲を一気に解き放った。 じょおおお……と、あまり上品じゃない音が聞こえた。体温が下がって、体が震えた。生暖かい液体がおちんちんを通っていく感触は、今でもちょっと変な感じがする。先っちょをぷらぷら振って、雫を切った。やっててちょっと悲しくなった。 でも、もう涙も出ないあたり、あたしもだいぶこの体に適応してしまったのかもしれない。 服装を整えて、入念に手を洗って廊下に出ると、そこに一人の女生徒が立っていた。 「やっほー、マナちゃん」 「洋子」 あたしはその子の名前を呼んだ。ちょっと小柄で、おっとりした感じの女の子だ。長めの髪を後ろでくくり、大きくつぶらな瞳をこちらに向けている。 彼女は軽くはにかむような笑顔を見せて、あたしの前にやってきた。 福島洋子。お互いに何でも相談できる、あたしの一番の友達である。さっき先生と一緒に拍手してくれたのも、この子だった。 洋子は、ハンカチで拭いたばかりでまだ水気の残ってる、あたしの手をとった。 「お疲れ様。大変だったね」 「ううん、どってことないよ。まだ初日だもん、これからでしょ?」 そうだ。あたしは病気を乗り越えた。命を落とすかもしれない危険な病にかかりながらも、何とか無事に皆のところに帰ってこれた。 でもその代償として、あたしは変わった。まるで別人になってしまった。 女子高生だった「浅井真奈」はいなくなって、男子高校生の「浅井真也」として生まれ変わった。身長は頭一つ分くらい伸びて、骨格はがっしりたくましく、顔つきも鋭くなった。 身体と名前の全てが変わってしまったあたしは、これから今までとは全く違う、新しい人生を送らなくちゃいけない。 そして、今日はその第一歩。新しいあたしのデビュー初日だ。 色々と頑張って、男の子としてうまくやっていかないといけない。まだまだこれからなんだ。 洋子はあたしの手を握り、首を振ってうんうんとうなずいた。 「じゃあ、戻ろっか。皆も待ってるよ」 「えー……でも、あの騒ぎはちょっとやめてほしいなあ、なんて思ったり……」 げっそりする私に、洋子がふわりと微笑みかけてくる。やや垂れ目の、おっとりした顔が可愛い。 「だーめだめ! 今の真奈ちゃん、すっごくかっこいいんだもん。みんな放さないよ」 「か、勘弁してよ。お願い……」 あたしの願いも空しく、今日は一日中、女の子たちのオモチャにされてしまった。 こんなことでこれから先、やっていけるんだろうか。すごく不安になった。 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 文化祭、体育祭、中間テスト。 瞬く間に数ヶ月が過ぎ、あたしも皆もいつの間にか「浅井真也」にすっかり慣れてしまっていた。 最近はあたしの口調も随分と男っぽく、悪く言えば乱暴になったし、男の子の友達も増えた。他の男子に比べると女の子との会話は多いけど、それもあたしが元女の子だからというよりは、男になったあたしの外見――洋子に言わせると学年一らしい――の方に比重があるようだった。 女の子のときからやってたテニスは今でも続けているし、勉強もそこそこ頑張っている。 気がつけば「浅井真也」は、一人の男子生徒としての地位を確固たるものにしていた。 でも、ここ最近の変化で一番大きかったのは、やっぱり洋子との関係だった。 実はあたしたち、つき合ってるのよね。それも、結構ラブラブだったりする。 その日は期末テストの直前で、朝からすごく寒かった。 年の瀬も迫って、夕方の太陽は雲に隠れて、こっそり姿を消そうとしてる。寒風が落ち葉を散らす外を眺めて、あたしは小さく息を吐いた。 「はあー、やだやだ。寒いのキライ。寒いのイヤだ」 「もう、真也はホントに寒がりだねー。男のくせに情けないよー?」 そう言って笑ったのは、洋子だった。あたしの向かいに座っている。 洋子もあたしも、既に着替えを済ませて、私服姿になっていた。あたしはシャツとトレーナーと、その上のセーターの三枚重ねに、下は生地のぶ厚いパンツ。そしてこの子は、横縞の長袖Tシャツと膝下のデニムスカートという、室内用の装いだった。 いくら家の中でもシャツ一枚なんて体が冷えると思うんだけど、洋子は寒さに強くて、寒くて文句を言いまくるあたしに苦笑してるようだ。 あたしは口を尖らせて、笑う洋子に言い返した。 「何だよ、暑い寒いに男も女も関係ないだろ? 男だって寒いもんは寒いの!」 「暖房の効いた部屋でこたつに入ってるんだから、贅沢言わない。ほら、次のページ行くよ?」 「はいはい……」 あたしは洋子に従って、テキストのページをめくった。 ここはあたしも通い慣れた洋子の家だ。試験が近いということで授業が終わるのも早く、あたしは洋子に誘われて、二人で一緒にテスト勉強をすることになった。 ところが困ったことに、大事なテスト前だってのに、さっぱり身が入らない。相変わらず苦手な数学のテキストをいくら読んでも、公式がさっぱり頭に入ってこない。 苦戦するあたしを尻目に、洋子はスラスラとペンを走らせ、練習問題を次々に解いていった。 前からこの子の方が成績が良かったけど、ここのところ、その差はかなり広がっている。 このままじゃ、男の面子が丸潰れだ。焦るあたしは果敢に問題に挑んだけれど、ページの三分の一ほどを終えたところで、またペンの動きが止まってしまった。 「あれ? これ、どうするんだっけ」 頭を抱えて考え直すが、一向にわからない。そんなに難しい問題じゃないはずなんだけど、困ったことにわからない。 あたしがうんうん唸っているうちに、洋子は解答を書き終えて、顔を上げた。 「はい、終わったよー。そっちはどう?」 「うわあああっ! わかんねえっ! 2の3! 2の3がぁっ!」 「あっそ。まあ、頑張って考え込んでね」そっけない言い方が嫌らしい。 「うわ、冷たい言葉っ! すげームカツク!」 洋子は唸るあたしを無視して立ち上がると、部屋を出て行った。トイレだろうか。 一人残されたあたしは、必死に問題に取り組んだけど、やっぱりわかんないものはわかんない。 よ、洋子、助けて……。あたしは面子をかなぐり捨てて、ここにいない洋子に懇願した。 そのあたしの心の叫びに応えるように洋子が戻ってきて、こたつの上にお盆を置いた。取っ手つきの白いコーヒーカップが二つ載ってる。中身は熱いココアだった。 「ちょっと休憩しよっか。真也も疲れてるみたいだし」 「いや、疲れてはいないけど……ど、どーしてもわかんなくてさ」 「とにかく休憩。ほら、これで体を温めてね、寒がりさん」 「さ、さんきゅ……」 お礼を言ってカップを受け取った。湯気の立つカップを口元で傾けると、甘い味と香りが広がった。 あたしの正面には洋子が座って、同じようにココアを口に運んでる。幼馴染の女の子の何気ないその仕草から、あたしは目を離すことができなかった。 「どうしたの、真也? 変な顔して」 「い、いや、何でもない」 洋子は何か言いたそうな視線であたしのことを見つめてきたけど、それ以上は追及してこなかった。 代わりに言い出したのは、全然関係のない話だった。 「ねえ、覚えてる? 真也が倒れたときのこと」 「え、何だよいきなり」いきなりの質問に、思わずあたしの声が高くなった。 「夏休みに入ってすぐだったよね。熱出して寝込んでさ。お見舞いに行ったら真也、すっごい苦しそうで。何日たっても良くならないから、とうとう入院させられて」 「洋子?」 「TS病って……女の子はかからないって思ってた」 あたしは沈黙した。何を言えばいいか、わからなかったからだ。 あれからもう数ヶ月になる。当事者のあたしにとってさえ、それは随分昔のことに思えた。 変異性TS病、B型。発症したら奇跡とまで言われる、奇病中の奇病だ。体の器官や筋肉・骨格、脳の構造とホルモンバランス、そして性器の仕組みが、短時間で全部別のもの、異性のものとそっくり置き換わってしまう。 TS病自体は昔からその存在が知られていたし、最近は症例も増えてきてるらしいけど、あたしの場合はそれとは全く異なるタイプだったそうだ。 おかげで完治した今でも、大学病院やら研究機関やらに定期的に通わなくちゃいけないし、頭の中から手足の先まで作り変えられたせいで、今も体の節々が痛むときがある。足りない体重を補う必要からか、いくら食べても足りない時期があったし、もう大分良くなったけれど、退院してからも、たびたび貧血に苦しめられてきた。 まあ下手したら命を落としたり、体や脳に障害が残ったりするって医者に脅されてたから、そんな境遇と比べたら、随分とマシなんだけろうけどさ。 こうして普通の高校生活を送れるだけでも、神様ってのに感謝するべきなのかもしれない。 「洋子……」 洋子の短いひと言ひと言の言葉に、深いいたわりが込められているのを感じて、あたしは洋子と真っ直ぐ視線を合わせた。 洋子は小さい頃からのご近所さんだ。腐れ縁と言ってもいい。幼稚園児や小学生の頃はケンカもしたし、泣かされるときもあった。 クラスはいつも一緒になるし、中学も高校もやっぱり同じで、いつの頃からか親友になった。 よく休みの日とか放課後に、二人で服とかアクセサリーとかを買いに出かけたっけ。 ちょっと前のことなのに、ずっと昔のことみたいだった。 懐かしい記憶を掘り起こして、あたしの目が自然と細くなった。 そんなあたしを見つめて、洋子が言った。 「真也、すっかり男の子になっちゃったね。すごいよ」 「すごい?」 「自分の人生がまるっきり変わっちゃっても諦めずに、前向いて歩いてるもん。ホントにすごいよ、かっこいい」 洋子は真剣に褒めているつもりなんだろうけど、その台詞があたしには痛かった。 「違う。俺は──あたしは全然、かっこよくなんてない」 あたしは洋子から目をそらして、白い壁紙に言葉を叩きつけた。 「あたし、入院中、ずっとずっと泣いてた。痛くて苦しくて我慢できなかった。自分が自分でなくなっちゃう感じがして、ずっとずっと怖かった。こうしてあたしが今、俺でいられるのは……洋子、お前のおかげだよ。お前が何度も見舞いに来てくれなかったら、お前が励ましてくれなかったら、俺はきっと新しい自分に適応できなくて、全部放り出してたと思う。逃げ出してたと思う。お前がいたから、俺は今の俺、浅井真也になれたんだ。ありがとう」 「マナちゃん……」 あたしが家で寝込んでたときも入院中も、いつもお見舞いにきて励ましてくれた。訳もわからず男になって、泣いてたあたしの肩を抱いて、慰めてくれた。 「何があっても友達だからね」なんてクサいセリフを大真面目に言ってくれた。 洋子、あたしは本当にあなたに感謝してる。ありがとうって思ってる。 「真也、強くなったね……」 「ああ、もう大丈夫だ。本当にありがとう」 そこまで言って顔を見合わせ、二人で笑う。あたしはあたしの、男の笑顔。この子はこの子の、女の微笑み。 他に誰もいない、二人っきりの部屋を、穏やかな雰囲気が包み込んだ。 洋子はココアを飲み干すと、リラックスした表情になって、冗談混じりに聞いてきた。 「ねえ、真也。今でも女の子に戻りたいって思う?」 「ん、えーと、そうだなぁ……」 あたしはしばし、考えた。 生まれてからの十数年間を女の子として生きてきたあたしにとって、自分の性別なんていうのは、名前とか生活環境とかと同じで、特に意識したことがなかった。 それがいきなり病院で「あなたは男になっちゃいます」とか言われたときは、そりゃあ、びっくりなんてもんじゃなかった。たとえて言うなら、ずっと自分が日本人だと思ってたら、ある日突然、親に外国籍だって告げられたようなものかしら。 あー、でも、やっぱり違うかも。少なくともそういう人は、あんなに痛い思いはしないはずだ。 あの痛みを思い出すと、今でも体じゅうがじっとり汗ばんでくる。 あんまり思い出したくはないけど、とにかく良くも悪くも、あの頃の入院生活が、あたしの人生にとって大きな節目になったわけだ。 さて、そうして男になったあたしだけど、今はどうなんだろう。女に戻りたいんだろうか。 洋子の顔を見ながら、もう一度それを真剣に考えて、あたしは心の中で一つの結論を出した。 「って、戻りたいに決まってるよね。変なこと聞いてごめん」 「戻りたくない」 ペロリと舌を出して謝ってくる洋子に、真顔で言った。 「え?」洋子は目を丸くした。 「戻りたくない。もう俺は女にならない。ずっと男のままでいい」 その答えと、はっきり言い切るあたしの様子が意外だったのだろう。 洋子は軽くうなずきながらも、小さな声でつぶやいた。 「ふーん、そうなんだ。やっぱり変わったね、マナちゃんは」 「だって洋子は……女だからな」 「えっ?」洋子はとっさに反応が遅れた。 いきなりその両手を握って、あたしはその言葉を口にした。 「好きだ、洋子。つき合ってほしい」 あたしの大きな手に両手をつかまれ、洋子は真っ赤になっていた。 この子のこんな顔、初めて見た。すごく可愛い。 「し、真也? 冗談でしょ?」 「いや、本気。俺は洋子が好きだ。ずっとそばにいてほしい。俺の一番大事な人はお前なんだ。女の子とつき合うなら、お前以外に考えられない」 「真也……」 洋子は突然の告白に戸惑ってたけど、嫌がってるようには見えなかった。 やがてこくりとうなずいて、あたしの手を握り返してくれた。ぽかぽか温かい、女の子の手の柔らかな感触が、あたしの心をくすぐった。 「わ、私こそ……これからも、よろしくお願いします……」 耳まで赤くした洋子は、とても恥ずかしそうで、とても嬉しそうだった。 あたしはこたつを出て、洋子の側に移動した。 長袖のシャツを着た体を座ったまま、正面から抱きしめると、洋子は湯気が出そうなくらい赤くなってた。でも抵抗はせず、大人しく抱かれてくれた。 小柄で細身だと思ってた洋子の体だけど、触るとすごく柔らかくて気持ちがいい。今のあたしみたいにゴツゴツしてない。やっぱりちょっとうらやましい。 全身がぷにぷにで、あたしの胸に圧迫されるおっぱいも、なかなかのボリュームだ。 洋子、着やせするタイプだったのね。 抱き合ったまま、耳元に口を寄せて、軽く息を吹きかけた。 ひゃんっ、とか声を出して震える洋子が、これがまた可愛いのなんのって。 「キ、キス……していい?」 「う、うん、いいよ……」 どもりつつ訊くと、洋子は恥ずかしそうにうなずいてくれた。 許可をもらい、あたしは洋子の顔を正面に移動させる。心臓の鼓動がどんどん速くなる中、そっと洋子の唇を奪った。 「んっ……」 洋子の唇が、興奮と恥ずかしさにピクピク動く。とっても瑞々しい。 あたしはもっともっと洋子を味わっていたくて、抱き合った姿勢のまま、息が苦しくなるまでずっと唇を合わせてた。 あたしと洋子、二つの心臓が共鳴してドクドクと高ぶってく。 初めてあたしが触れる、オンナノコの唇。 それが洋子のものであったことに、言葉じゃ言い表せないくらいの幸せを感じた。 「ん、ふう……」 名残惜しくも唇を一旦離して、洋子の顔をまじまじと観察する。小さい時から、いつもあたしのそばにいてくれた顔だ。 でも、見慣れたはずの洋子の顔は赤く火照って、色気がたっぷりだった。 晴れて恋人同士の仲になったのを実感して、体の震えが止まらなかった。 「ありがとう。洋子、好きだ……」 もう一度その身体を抱きしめたあたしに、洋子も熱のこもった声で答えた。 「うん、私も真也が……マナちゃんが大好き……」 ぎゅっとあたしを抱き返してくれるのが、また、たまらなく嬉しい。 さっきからあたしの体温は上がりっぱなしだ。いつ心臓が重労働に耐えかねて、ストライキを起こすかわからない。 特に下半身の一部分に熱が集中して、そこだけむっくりと盛り上がっていた。 めちゃくちゃ恥ずかしいけど、だって仕方ないじゃない! 好きな女の子に告白してオッケーもらって、抱き合ってキスしてんのよ !? これで勃起しない男なんていないわよ、きっと! 開き直ったあたしだけど、やっぱり余裕を無くしてる。あたしの心を、男の本能がじわじわと侵食してくるのがわかった。 洋子を抱きたい。洋子としたい。体の隅々まで、完全にあたしのものにしたい。 ついさっき告白したばっかりで、こんなことを考えるのもどうかと思うけど、洋子への慕情は募る一方だった。はっきり言えば肉欲だ。 何とか理性を総動員して耐えるあたしに、洋子が小さな声で言った。 「ごめん、真也……その、当たってる」 一瞬、何のことかわからなかった。そこで下半身に視線を向けると、あたしの両脚の間に、いつの間にか洋子の膝が入り込んでいた。 当然のことながら、ビンビンに勃ったあたしのアレは、洋子の脚に思い切り押しつけられているわけで。 「ご、ごめんっ!」 あたしは洋子から離れて、後ろに下がってへたり込んだ。 うわー、惚れた女の子にこんなとこ見られるなんて、恥だ。 ヤバいよー、恥ずかしいよー! 勃起したあたしのアレは、言ってみれば洋子を犯したいっていう、雄の願望の表れだ。 好きな相手だからできるだけ大切にしたいってのは、理性ではわかってるんだけど、抱き合っただけでこれじゃ、節操のないやつだって思われてもしょうがない。 どうしよう。怒られちゃうかな、嫌われちゃうかな。あたしはパニクった。 「ち、違うんだ。べ、別に変なこととか、か、考えてたわけじゃ――」 すると洋子はうつむいて、小さな声で訊ねた。 「真也……したい?」 「え?」あたしは驚いた。まさか真面目な洋子からそんな質問をされるだなんて、思わなかった。 「真也がしたいなら……私も、いいよ?」 そう言った洋子の頭はあたしと同じで沸騰寸前で、ぐつぐつ煮え立っていた。 こうして見ると、あたし達、結構似てるのかもしれない。 興奮はちっとも収まらなかったけど、少しだけ楽な気分になった。 あたしは洋子に近づき、もう一回、その身体を抱きしめた。 「洋子……ごめん、ホントにごめん。でも俺、したい。洋子、しちゃっていい?」 いくら二人っきりでも、告白して直でセックスなんて、なんてスケベな男なんだろうと思われてもしょうがない。潔癖な女の子だった頃の記憶が呆れてたけど、それもすぐに、男の欲望に塗り潰された。 そしてそれを助長したのが、ためらいがちの洋子の言葉だ。 「いいよ。マナちゃんに私の初めて、もらってほしい……」 あたしが好きになった子が、あたしを好きでいてくれた。 極上の喜びにひたりつつ、あたしは洋子を押し倒そうと、腕に力を込めた。 けれど洋子はあたしを制止するかのように、身を離して言った。 「あ、ごめん、真也。ちょっと待って」 「え? よ、洋子?」 なんで止めるのか、一瞬わからなかった。 まさかここまで期待させといて、「今日はダメな日なの」とか言うつもりなのだろうか。 だけど、今のあたしの盛りっぷりはヤバい。今にも洋子に飛びかかって、この子を素っ裸にひん剥いてしまいそうだった。自分が飢えた雄だっていう自覚があった。 切羽詰ったあたしが怖いのだろう。洋子が怯えた声で言った。 「その――せ、せっかくだから、私の部屋で……しない?」 勉強道具が散らかったコタツの横よりも、自分の部屋の自分のベッドの上でしたい。 当然の彼女の要求に、あたしは思わず全身の力が抜けて、申し訳ない気持ちで一杯になった。 「はい、すいません……」 あたしは自己の欲求を何とか抑えつけ、大人しく洋子の手に引かれた。繋げた手は、汗をかきそうなほど温かかった。 洋子の部屋は、元女のあたしが言うのも何だけど、いかにもって感じの女の子の部屋だった。 壁紙は白。本棚には週刊誌と文庫本と参考書が、きちんと揃って整列してる。ごみ一つない勉強机の上には、可愛らしい狐のぬいぐるみが時計を抱えて座っていた。 あたしのグチャグチャの部屋とは比較にならない、綺麗な部屋だ。 机の反対側に、洋子のベッドがあった。白いシーツが清潔感たっぷりだった。 その綺麗なベッドの上で、あたしは今度こそ洋子を押し倒した。 さっきとは違って、随分と雑で力任せな行動だった。我慢させられた反動から、あたしはまさに野獣となって、洋子の唇にむしゃぶりついた。 「んむっ! んむ、んぶぅっ」 乱暴に舌を入れ、洋子の中をかき回す。震える体を両手で抱え込む。あたしは洋子の上になって、男の力と体重でもって無理やりに彼女を押さえ込んだ。 もちろん口は洋子の味を堪能し、次から次へと唾液を垂れ流してやまない。繋がった唇から少女の中へと、あたしの雫が重力に従って注ぎ込まれていく。 洋子は苦しそうに悶えたけど、あたしは構わずに温かい口内を蹂躙し続けた。 こんなに激しく、自分勝手な動きができるのが自分でも驚きだった。 所詮、あたしも一匹の雄に過ぎないということだろうか。 わずかに浮かんだ羞恥心も罪悪感も、燃え盛る欲望の前でかすんで消えた。 ようやく唇を離すと、あたしは洋子の上にのしかかったまま、おっぱいに手を這わせた。 昔に比べたらだいぶ大きくなった洋子の乳房は、柔らかくも不思議な弾力があって、素晴らしい手触りだった。 シャツの上からおっぱいの下半分を撫で回して、時おり力を入れて揉み上げると、洋子の身体はあたしの指に反応して、ピクピク跳ねた。 「ん、んっ……!」 気持ちいい、というのとは少し違うのかもしれないが、揉んでる方は気持ちがいい。手のひらにピッタリ納まるサイズで、まるであたしにあつらえたかのようだ。 それにこの手触り、きっと薄い生地のブラね。 洋子のシャツをまくり上げると、清潔そうな白いブラに包まれたおっぱいが現れた。着やせするこの子のことだから、思った通り中身は大きい。 あたしは嬉しくなって、両手で洋子の胸をぎゅうぎゅう揉みしだいた。 「あっ、はあっ、ん、くうっ!」 「洋子のおっぱい、気持ちいい。結構でかいんだな」 「や、やあっ。そんなこと言っちゃ……」 恥ずかしそうに身をよじる洋子を押さえ、回転させてうつぶせにする。 何をするかって? 決まってるじゃない、邪魔なコレを脱がすのよ。 荒っぽい手つきでホックを外すと、あたしは再び洋子を仰向けにさせて、ブラをずらした。 可愛らしい乳首がつんと上向いた綺麗なおっぱいが、恥ずかしそうに顔を見せた。 「あ、真也……」 「先っちょ、綺麗な色してる。すごく可愛い」 その言葉にまた赤くなる洋子が、すごく可愛らしい。 あたしは興奮して股間のアレを硬くしながら、生の乳房を揉み始めた。まずは右手でぷにゃぷにゃと。塊を持ち上げるように手のひらで包み、ピンクの乳首を人差し指で撫でる。 そこはもうはっきりと立ち上がっていて、今のあたしの股間と同じだ。 指の腹で勃起したつぼみをつつくと、コリコリと心地よい感触が返ってきた。 「洋子。乳首、硬いよ」 「や、やだ。恥ずかしい」ええ、恥ずかしいのはわかってますとも。あたしもですよ。 「吸っていいか?」 洋子はあたしの意図を察して、うなずいた。左の乳房は押さえたままで、あたしは右のおっぱいにかぶりついた。可愛い悲鳴が聞こえた。 「あっ、ん、んんっ」 歯を立てないよう気を遣ったつもりだけど、あたしも一杯一杯で余裕がない。だってさ、こんなこと言いたくないけど、童貞だもん。余裕があるわけないじゃない。 あたしの洋子のおっぱいを口に含んで、加減もわからずチュウチュウ吸い上げた。 舌で乳首を転がすと、熱い吐息が返ってくる。最高だった。 あの病気にかからなかったら、あたしもいつかはこうやって、男の子に抱かれていたかもしれない。好きな男の子に告白して、ベッドの上でその子に押し倒してもらえたかもしれない。 でも今、あたしは男として好きな女の子に告白して、その子を押し倒している。恥ずかしがる洋子の胸を揉んで、乳首を舌でつんつんと、茶目っ気たっぷりにもてあそんでる。 まったく、世の中、何があるかわかったもんじゃない。 でも、こうして洋子のおっぱいを吸って甘い声を聞いてると、これも悪くない気がしてくる。 あたしは今から男として、幼馴染の女の子を抱く。誰に強制されたわけでも、この子に誘惑されたわけでもなく、自分の意思でだ。 完全に過去の自分と決別してしまったあたしだけど、後悔は全然してなかった。 いよいよ、洋子の下半身をひん剥いた。パンツはやっぱり洋子らしく、白だ。腰を上げさせ、太ももから足首へとゆっくりずらしていった。 女の子を下着を脱がせるって行為がこんなに興奮するものだなんて、知らなかった。 名残惜しかったけど、ほかほか生暖かいパンツを放って、両脚を開かせた。 大事な部分を隠すものは何もない。部屋の灯りに照らされて、洋子のが丸見えになった。 恥ずかしさがメーターを振り切れちゃったのか、それとも単に気持ちがいいからか、洋子は熱っぽい瞳で、ぼーっとあたしを見つめていた。 「これが、洋子の……」 ゴクンと唾を飲んで、つぶやく。 ちょっと前まで自分にもついていたはずの女の子のあそこが、目の前にあった。 意外と毛深い。ちゃんと処理してるみたいだけど、上の方はボーボーだった。 そっと手を伸ばして、さわさわした縮れ毛の感触を楽しんだ。割れ目を覆う肉の唇は、厚い。指の腹で軽くこすって、ゆっくり中を開いた。 ベッドの上でうつ伏せになって、顔を近づける。食い入るようにそこをのぞき込んだ。 「洋子、舐めていいか?」 「え? 汚いよ」洋子は消え入りそうな声で言った。 「洋子のだから、汚くないって」 男はこんなとき、無個性な台詞を口にする。それはあたしも例外じゃなかった。 開いた両脚の間に顔を埋めた。 「ん、んくぅっ」 舌で軽く表面を撫でると、洋子が鳴いた。その反応が可愛くて、もっともっと見てみたくなった。 両手で洋子をくぱあと開いて、中のぬらぬらした部分に舌をつけた。 おしっこと、それとは違う液体が混じって、変な味がした。でも、悪くない。舌を尖らせて中に突き入れると、洋子が両手で顔を覆って、泣き言を漏らした。 「だ、だめ、こんなの、やめてぇ……」 嘘言っちゃいけない。やめてほしくなんかないくせに。 ふと洋子に意地悪がしたくなって、目の前の可愛いお豆をパクっとくわえた。そこがどれだけ感じるかは、あたしもよくわかっている。 突起を慎重に唇で挟んで、はむはむと念入りにマッサージしてやった。 「いやあっ、そ、そこはダメっ」 洋子の背筋が反り返り、悲鳴があがった。女の子の声じゃなくて、女の声だった。 洋子が両手であたしの頭をつかんだ。その手もぷるぷる震えて、股間の刺激を増幅させた。もっと欲しい、もっと欲しいって求めてるようにも見えた。 あたしは唇で洋子の下のお口を塞いで、ちゅうちゅうって吸い上げた。とろとろの蜜が後から後から溢れてくる。口の周りがべとべとになった。 もちろん、指でくちょくちょと中をかき回すことも忘れない。 洋子は初めてだから、充分ほぐしておかないと、きっときついに違いない。半分は洋子に対する気遣いで、もう半分はただ自分が楽しみたくて、ひたすらあそこを責めたてた。 「洋子の、すごいな。こんなになって……。ほら、見えるか? 洋子。自分の」 あたしの言葉に、洋子はトマトみたいな赤ら顔で首を振った。 「やだ、言わないでえ……」 その反応を見て、なるほどって思った。 小学生の頃、やんちゃ盛りの男子連中が、よくクラスの女の子にイタズラしてた。あの頃はただイタズラがしたいだけかと思ってたけど、今のあたしには、あいつらの心理がよくわかる。 気になる女の子が困ってる姿って、すごいグっとくるものがあるのよね。 そりゃあ当の女子にしてみたら、何よこいつら、ウゼーってのが正直なところだけど、今のあたしの気持ちは女子じゃなくて、男子の方に傾いていた。 そりゃあ、だって男だもん。 洋子をもっといじめたい。困って恥ずかしそうにしてる姿が、もっと見たい。あたしは心の中まですっかり男になっちゃって、とどまるところを知らなかった。 ベルトを外してズボンの中からアレを取り出し、洋子に見せつけた。 「どうだ、洋子? もう俺の、こんなになってるんだぞ」 あまりの凶悪さに、洋子は絶句したようだった。 まあ、無理もないわね。女の子だったあたしの股間からこんなのが生えてるなんて、自分でもびっくりする。 だけど今のあたしにとって、雄々しく勃起して先走りの汁がテカテカ光るコレは、胸を張って誇るべき、自分の大事な一部だった。 他人のと比べたことがないからわかんないけど、これが洋子のあそこに入ると考えると、ちょっと太すぎ、でかすぎじゃないだろうかと思う。 でもこれを洋子の中にねじ込んで、欲望の塊をたっぷりと吐き出すのを想像するだけで、先っちょからはトロトロの液体が溢れ出してくるんだ。 洋子の中、どんな感じなんだろう。温かいんだろうか。柔らかいんだろうか。 初めてだから、きっとすごく締めつけてくるだろう。その中をかき分けて、一番奥までグニュグニュって突き入れるところまで、脳内でシミュレートした。 すると、それでまたあたしのがグググって反り返って、ますます上向いてしまう。 洋子はそれを見て、ハッと息をのんだ。驚きと恐怖が半々って顔だった。 「触っていいぞ。というか、触ってほしい」 「う、うん……」 あたしが言うと、洋子はびくびく怯えながらも、猛りきったそれに手を伸ばしてきた。 皮はべろんと剥けてて、色の薄い亀頭が丸見えになってる。 幹の表面には太い血管がドクドクと脈打ってて、今にも爆発してしまいそうだ。 洋子の指が幹に触れると、またあたしのちんちんが跳ねた。 「う、動いた……」 そりゃあ、洋子の手の感触が気持ちいいから、しょうがない。 もっと触ってほしい。指でキュッキュッてしごいてほしい。可愛い口でくわえてほしい。 ああ、洋子の顔にぶっかけたい。喉の奥まで突っ込んで、むせるまで飲ませてあげたい。 解き放たれたあたしの欲求は、ますますエスカレートしていった。 「す、すごいね……真也の」 震える声で、洋子が言う。 「ああ」あたしも興奮を隠さずに言った。「早く洋子の中に入れたくて、うずうずしてる」 「これが私の中に? は、入るのかな……」 「洋子の、だいぶ濡れてるから、多分大丈夫だと思う」 半分は気休めだ。華奢な洋子の中にこんなのを入れて、平気なはずがない。 だけど、できるだけ洋子を不安にさせたくなかった。 気を遣ってるんじゃなくて、ここまできて拒絶されたくなかったから。 あまりに利己的な考えに自分でも呆れちゃうけど、もうあたしは、この子を犯したくてしょうがないんだ。 我慢できなくなって、洋子の脚の間に体を入れようとしたときだ。洋子の体がビクンと跳ねて、ベッドの上を後ずさりした。 「よ、洋子?」いきなりのことに、あたしは慌てた。 まさか本当に嫌われちゃったんじゃないかって思った。 こうなったら無理やり犯しちゃおうかって考えすら、頭をかすめた。 だけど洋子は逃げなかった。あたしの顔を見て、ぽつりとつぶやいた。 「ちょっと待って、真也。その……ちゃんと、つけて」 「あ。そっか……ゴメン」 洋子の言いたいことがわかって、素直に謝った。 あたしたちはまだ高校生だ。このまま最後までして、もし赤ちゃんができちゃったら困る。どちらも覚悟ができてないし、責任も取れない。互いの両親だって許さないだろう。 だから、今はちゃんと避妊しないといけない。要はゴムつけろってことだ。 でも、生憎とあたしにはその用意がなかった。 まさか今日、ここまで二人の仲が進展するなんて思ってなかったから。 嬉しい反面、不用意な自分を責める気持ちで一杯だった。せっかく、大好きな洋子とできるチャンスだったのに……あたしのバカ。バカバカ。 すっかり落ち込んでしまったあたしに気づいて、洋子が訊ねた。 「どうしたの。もしかして、持ってない?」 「はい……ありません。ごめんなさい。今日は我慢します」 地獄の亡者みたいな低い声であたしが言うと、洋子は部屋の反対側の学習机を指差した。 「引き出しの、上から二番目。奥の方に入ってるから、それ使って」 「ええっ、あんの !? なんで !?」 まさかあの洋子が、自分の部屋に避妊具を常備してるとは思わなかった。 でもなんで? ひょっとして洋子、初めてじゃなかったりする? 物心ついて以来、一番仲の良かった女の子が、あたしの気づかないところで既に女になっていたなんて思うと、何とも切なかった。 相手は誰だろう。どこの男だ、あたしの洋子の初めてを奪いやがって。 あたしの顔色から言いたいことを察したのだろう。洋子はかあっと頬を染めた。 「やだ、変な勘違いしないで。もしものときのために持ってただけよ。使ったことはないわ」 「あ、そうなのか。よかった……」 ちょっと安心した。やっぱり洋子は、あたしの知ってる洋子だった。 洋子に言わせると、結構前からあたしのことを意識してたらしい。避妊具を用意してたのも、いつかあたしと……なんて思ってたからだとか。 もしそうなら、男にとってこれ以上の喜びはないと言っていい。 あたしは嬉しくなって、半裸の洋子を力いっぱい抱きしめた。 「ありがとう。俺、洋子のこと、大事にするから」 「し、真也……それ、プロポーズみたい」 その言葉に、ふと昔のことを思い出して笑ってしまった。 あれは、まだあたしたちが幼稚園児くらいの頃だった。洋子は覚えてるだろうか。 さりげなく訊ねると、洋子はこれ以上ないほど赤くなった。 「そ、そんな昔のこと……どうでもいいじゃない、もう」 「あ、洋子照れてる。可愛いなあ、ホントに」と言って、洋子の髪をさらりと撫でた。 いよいよ、あたしと洋子が交わるときがきた。 ゴムは洋子がつけてくれた。つけ方まで勉強してたなんて、どんだけ真面目なのよ、この子。 薄い膜に包まれたあたしのアレは、もうすっかり臨戦態勢だ。 洋子を仰向けに寝かせて、股を開いた。濡れた入り口がひくついてる。 洋子の表情も体も硬い。ひどく緊張してるのがわかる。 もっとリラックスしてほしいんだけど、それは贅沢かも。あたしも人のこと言えないしね。 白い太ももをまくり上げるようにして、洋子の上に覆いかぶさった。 はちきれそうなほど膨張したあたしのが、洋子のとゴム越しにキスをする。 接触した途端、「あっ」と声が漏れた。どっちが言ったのかわからない。両方かもしれない。 体重をかけて、ゆっくりと押し込んでいく。ちゅぷちゅぷって音が聞こえた。あたしと洋子の、下の口づけの音だ。なんかすごくドキドキする。 そうしてしばらくいくと、先っちょが止まった。何かの抵抗を感じた。 洋子の中が隅々まで、あたしで埋まりそうになってる。興奮が治まらない。洋子の目に、かすかに恐怖の色が混じった。 だけど、下手に気を遣って引き抜くわけにもいかない。ここまできたらやり遂げないと。 下腹に力を込めて、一気に体を押し込んだ。 「んっ、んんっ、くうっ」 洋子の食いしばった歯の隙間から、うめきが漏れた。 くっついたプラスチックを引き離すって感じだろうか。何となくそう思った。 誰も侵入したことのない洋子の大事な部分が、あたしのに引き裂かれている。思った通り、すごく狭い。ホントなら楽に男を受け入れるはずの肉が強張っていた。 あたしのが大きいってこともある。でも、それを差し引いても、狭くてきつい。 やっとのことで一番奥まで到達して、あたしのものはようやく止まった。 洋子の目は潤んでいた。やっぱり痛いんだろう。血が出てるかはわからない。 さて、どうしたものか。あたしは洋子のきつい締めつけを感じながら、思案に暮れた。 本音を言えば、このまま思いっきり腰を振って、中をかき混ぜたい。そしてイキたい。あたしも男だ。それも初めてだ。余裕なんてあるわけない。好きな女の子の奥まで入って、大人しくじっとしてられるわけがない。 でも、男のプライドも少しだけ残ってる。洋子をいたわりたい、優しくしてやりたいって気持ちが、辛うじて残ってる。 今のあたしにブレーキをかけてるのは、その薄っぺらなプライドだけだった。 「はあ、はあ、はあっ。ん、くうっ」 洋子はお腹に力を入れて息をしていた。苦しそうで痛々しい。 「洋子、大丈夫か?」 「う、うん。だい……じょぶ」そう言ってくれたけど、あんまり大丈夫には見えない。 あたしは仕方なく、下半身を固定したまま、洋子の体をさすってあげた。 痛いの痛いの飛んでいけ。いやまあ、飛んでくわけがないんだけれど。 そんなあたしを逆に気遣って、洋子は無理やり笑顔を作った。 「痛いけど、真也とだから。マナちゃんとだから、大丈夫。だからもっと、動いてくれていいよ……」 「洋子……」 「気にせず動いて。私の体で気持ちよくなって」 ここまで言ってくれる女の子、そうはいないと思う。 感動のあまり泣きそうになったけど、許可をもらうと動いちゃうのが人間の性だ。 一度、ゆっくり引き抜いて、抜けそうなあたりでまた突き入れた。それを数回繰り返す。薄いゴムの膜の上から、洋子のひだがあたしのに絡みついた。 洋子の中は緊張してるけど、洋子と同じで優しくて、温かい。すごく気持ちがいい。避妊具をつけてるのがもったいなく思えてくるほどだ。 動けば動くほど、切なくなる。もっともっとって体が求めちゃう。 気がつくと、あたしは自分の欲望のままに腰を前後させていた。 じゅる、じゅる、ぱんぱん。じゅぷぷっ。決まったリズムで音が鳴る。あたしと洋子の下半身がかき鳴らす、エッチな合奏だ。 しかも声を出していたのは、下の口だけじゃなかった。 「ああ、うっ。くうっ、うう、うんっ」 見下ろした洋子の唇が、何とも悩ましいうめき声をあげていた。 本人は気づいてないんだろうけど、頑張って苦痛に耐えてる姿がたまらなくエロちっくだ。 洋子が苦しんでるっていうのに、あたしの性欲はますます燃え盛った。 ホントに申し訳ないけど、どうか許してほしいところです。心の中で懺悔しつつ、あたしは洋子の中をがむしゃらに往復した。 うう、気持ちいいよう。ごめん、洋子。あたしだけいい思いしちゃって。でも最高。ホント、男でよかった。女の子とエッチできるって、こんなにいいことだったんだ。 洋子も今は痛がってるけど、すぐに気持ちよくなるからね。あたしが開発してあげる。 あたしの頭の中は支離滅裂になって、自分でも何が何だかわからない。 まあ、とにかく野獣になってたってことだ。 「うう、うんっ。うああ、あうんっ」 「洋子、いくよ。俺、もういく……!」 もう出したい。洋子の中に思いっきり吐き出したい。あたしは洋子の上にのしかかって、きつく体を密着させた。 あそこがドクドクって震えて、あたしから洋子に何かが流れ込んでいった。 ちゃんとゴムはつけてたんだけども、この時はつけてない方がいいとさえ思った。 まあ、ひと言で言えば、完全に舞い上がってたわけだ。微笑ましくも恥ずかしい。 無事に射精を終えたあたしは、ふうふう言って洋子の体を抱きしめた。おっぱいに顔をうずめるのが、これまた気持ちいい。 相変わらず洋子は辛そうだったけど、口元が少しだけ笑ってた。 引き抜いて、いそいそと後始末をする。やっぱり血が出てたけど、大した量じゃないみたいだ。 洋子に何度もお礼を言って、謝って、また抱き合って、キスをした。身も心も結ばれたんだと実感して、最高に幸せだった。 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ その後、誰もいないのをいいことに、二人で一緒にシャワーを浴びた。 「痛かっただろ、ごめんな」なんて言いながら、洋子のあそこを念入りに洗ってあげた。 そしたら、またあたしのがおっきしちゃって、今度は口で抜いてもらった。 こんなに積極的になってくれて、あたしゃ感激だよ。涙出そう。 お風呂上りは、二人揃ってベッドの上でゴロゴロした。シーツが湿るのも気にならなかった。どうせ思いっきり汚した後だしね。 洋子はあたしの隣に寝転がって、幸せそうな顔で笑ってた。 「洋子、ありがとう。これからもよろしくな」 あたしは洋子のふわふわの髪を撫でて、何度も繰り返した言葉を口にした。 「ふふふ、こちらこそ。好きだよ、マナちゃん」 「おい、またマナちゃんに戻ってるぞ。もう違うってのに」苦笑して言った。 「だって、真也がどんなに大きくなっても、私にとっては昔の可愛いマナちゃんだもん。別にいいでしょ?」 「可愛い、可愛いって、お前なあ……今はお前の方が可愛いだろ、ヒロシ」 「あー、ひどい。その呼び方するなって、いつも言ってるのに」 あたしが呼んだ名前に、洋子が抗議するように口を尖らせた。 「お互い様だよ。そうだろ、ヒロシ?」 この名前を呼ぶと、昔の思い出がまぶたの裏によみがえってくる。 幼稚園児の頃、ニコニコ笑ってあたしにこんなことを言った男の子がいたんだ。 「うん! ボク、マナちゃんをお嫁さんにしてあげる!」 その子は今、あたしの横でやっぱりニコニコ笑ってる。 あー、幸せだなあ、ホント。 ねえヒロシ、あたしがお嫁にもらう側になっちゃったけど、別にいいよね? 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