早百合と悦子

 ピンポーン……。
 呼び鈴が来客を知らせ、早百合は小走りにドアに向かった。予想より少しだけ早い到着に、緊張しながら戸を開ける。
「こ、こんにちは――」
「こんにちは早百合さん。お久しぶりね」
「はい、お義母さんもお元気そうで――」
 早百合は悦子を見つめ、軽く頭を下げた。
 こうして顔を合わせるのは正月以来、実に半年振りだった。決して不仲という訳ではないのだが、生真面目で堅い雰囲気を漂わせるこの姑に早百合は苦手意識を持っており、今でも電話や手紙で形だけの挨拶しかできないのだった。
「――どうぞ、今お茶を入れますから」
「いいのよ、お構いなく」
 悦子はそう言いながらリビングを見回している。
 どんな家具が置いてあるか。散らかってはいないか。カーテンの色や飾られた花の選びなど、早百合には姑の視線が、二人の生活を隅々までさぐるような不快なものに感じられた。
(……いけない、考えすぎだわ)
 結婚して二年になるが、悦子が早百合に注文をつけたことなど数えるほどしかない。ただ黙って息子夫婦の新婚生活を距離をおいて見守っているだけだ。
 早百合は被害妄想じみた自分の勘ぐりを反省した。
 早百合と悦子はテーブルを挟んで向かい合って座った。
「明宏は早く帰ってくるのかしら」
「そうですね。出かける前、今日は定時だと言ってました」
「――そう……」
 少し話して口を閉じ、ゆっくりとコーヒーをすする。
 二人の会話はその繰り返しだった。
(……うう、間が持たないなあ……)
 ちらりと悦子を見やる。
 小柄でひょろりと痩せた姑の手足は棒きれのように細く、手の甲には青い静脈が浮き上がっていた。硬く引き結ばれた一文字の唇は薄く、口元や目尻には隠しようもない皺が幾重にも刻まれており、壮年の老いを如実に示していた。
「……それでね、早百合さん」
「――あ、はい」
 観察を中断させられ、慌てて返事をする。
「今日ここに来たのはね、一つ聞きたい事があるの」
「……はい、何でしょう?」
 重々しく口を開く悦子に軽い不安を感じ、早百合は思わず膝の上で両手を握り締めてしまった。
「あなたたちの生活に干渉するつもりはないわ。でも、明宏の母親として、やっぱり確認しておきたいの」
 じっとして耳を傾ける早百合に悦子が問いを発した。
「結婚してから二年になるけど、そろそろ子供はできないの?」
「…………」
 とっさに返す言葉がなく、彼女は黙って姑を見ていた。
「ほら、やっぱりね……私だって五十五にもなると、そろそろ孫の顔が見たいと思うものなのよ。あなたたち二人の可愛らしい赤ちゃんをね」
「それは……よくわかります」
 神妙な顔でうなずく早百合。
 茶色に染めたストレートのロングヘアがふわりと揺れる。
 明宏と結婚して来月で丸二年を迎えるにも関わらず、早百合には出産どころか妊娠の気配すらなかった。
 新婚のうちは夜の営みに精を出した頃もあったのだが、最近は月に一度するかしないか。明宏は妻よりも仕事に熱中していたし、早百合もまだ二十代という事で入院やら子育てのわずらわしさやらを考えると、今まで積極的に子供を作ろうとは思っていなかった。
 だが、姑はそれが気に入らないらしい。
「――私たち夫婦にも、何度も別れようと思ったときがあったわ。でも、それを何とかしてくれたのが子供の存在だったの。夫婦にとって子供はかけがえのない大事なものなのよ」
「……はい」
「早百合さんももうすぐ三十じゃない。最近遅くなってるってよく聞くけれど、子供を産むならやっぱり早い方がいいわ。だから、できれば来年には孫の顔を見せてほしいのよ」
 珍しく饒舌な悦子のお説教に、早百合は小さな怒りを覚えていた。
 ――子供ができないのは私のせいじゃない。明宏のせいよ。親だからって、人の家庭に干渉しないで。
「…………」
 だが、さすがに言葉には出せず、早百合は黙ってうつむいていた。
 しかし悦子は早百合の様子から、良い返事を受け取れないと思ったようだ。たたみかけるように嫁への言葉を再開する。
「厳しく言うつもりはないけれど……あなたは明宏のお嫁さんなの。親としては早く元気な孫の顔を見せてほしい、と思うのよ。あなたのご両親だって、きっとそう思っていらっしゃるわ」
「で――でも……」
「あなたはまだ若いから、急ぐ必要はないって思ってるでしょう。でもあなただって子供を産んで育てて、私みたいなお婆ちゃんになるときが来るの。あっという間よ」
 自分がこの、枯れ木のような姑のようになる。
 その言葉に早百合の顔が怒りに歪み、荒い言葉を投げかけた。
「そんな事言わないで下さい!……黙って聞いてたら、赤ちゃん赤ちゃんって……。私が悪いんじゃありません!」
 肩で息をしながら姑をにらみつける早百合。
 しかし悦子は怒るでもなく、落ち着いて嫁の姿を見つめていた。
「――そうね。ひょっとしたら悪くないのかもしれない。でも、やっぱりあなたのせいかもしれないでしょう?」
「そんなの――!」
「……だから、それを確かめようと思うの」
 悦子は薄いブラウンのバッグをゴソゴソとあさり、安物くさい型落ちの携帯電話を取り出した。
「……?」
 いぶかる早百合に構わず、どこかに電話をかける。
「――私よ、すぐきてちょうだい」
 その言葉が終わるか終わらないかのうちに――。

 ピンピピピンピンピンピンポピンポピンポーン……。

 呼び鈴がけたたましく鳴り響いた。
 いたずらかと身構える早百合だったが、悦子は手を振り
「開けてあげてちょうだい。私が呼んだの」
 と言う。
 訳がわからずドアを開けた早百合は、思わず息を飲んでしまった。
「――こんにちは」
 そこには高校生くらいの、一人の少年が笑顔を浮かべて立っている。テレビに出てくるタレントなど比較にならぬ美貌に、早百合は一瞬ならず心を奪われてしまった。
「ごめんなさいね、手間をかけさせて」
「いいえ、いいんですよ。暇でしたから」
 にこりと笑って少年を出迎える悦子。どうやらこの子を呼んだのはこの姑らしい。
 だが親戚の子には見えないし、どこで知り合ったのか――。
 早百合は不思議に思いながらも、少年を部屋に上げコーヒーを入れてやる事にした。気のよさそうな少年だし、悦子が呼んだのならおそらく間違いはないはずだ。
「ありがとうございます」
 彼は微笑んで礼を言った。その笑顔にまたときめく早百合。
「ええと……それで、僕を呼んだのは――」
「そう、ぜひお願いしたいの」
 挨拶もそこそこに、少年は悦子と言葉を交わす。
 早百合には何の話かわからなかったが、二人の間ではもう話が済んでしまっているらしい。
「わかりました」
 少年はうなずいて立ち上がると、座っている早百合の隣に立った。
「――失礼します」
「え? え?」
 キョロキョロと少年と姑を見比べる彼女だったが、彼はそれに構わず細くしなやかな腕を早百合に伸ばした。
「な、何を―― !?」
 抵抗する間もなく、少年の手が早百合の首にかかる。
 そして次の瞬間――。

「……え?」

 間の抜けた声と共に、早百合の首が引っこ抜かれてしまった。
 首から下の感覚がなくなる非常識な状況に、彼女は目を見開いたまま唖然とするしかない。
「な、何これ……どうなって――」
 慌てふためく早百合の首をテーブルにそっと置くと、少年は悦子の方に近づいてゆく。
「まあ――」
 悦子は首のなくなった早百合の体を軽い驚きの視線で見つめていたが、すぐに少年に向き直った。
「じゃあ、こちらもお願いするわ」
「はい」
 短い返事と共に、今度は悦子の首が取れる。体のなくなった白髪交じりの灰色の頭が、早百合には毛糸の塊のように見えた。
 少年は悦子の首を持ったまま、テーブルの向かいに回りこんだ。そこには首のとれた早百合の体が座っている。
「な、何するの…… !?」
 彼女がそう言い終わるが早いか、悦子の首が早百合の体につけられていた。
「―――― !?」
「はい、終わりましたよ」
 落ち着いた少年の言葉に立ち上がる悦子。
「あらあら、まあ……」
 悦子は自分の体を確認するように見下ろすと、その場でくるりと一回転してみせた。いつもの薄いピンクのブラウスと、青いフレアスカートに包まれた体が他人のようにふわりと回る。
「お、お義母さん! やめて下さい!」
 訳がわからないが、とにかく危険を感じて叫ぶ早百合。
 だが悦子は全く気にしない様子で、ブラウスの中をのぞきこんだり胸の大きさを揉んで確かめたりしている。どことなく楽しそうだ。
「――最近の若い子はこんなのをはいてるのねえ。私の頃じゃ考えられなかったわ……」
 スカートを思いっきりまくり上げ、黒いショーツを丸出しにしてつぶやく。
「きゃああっ! み、見ないでっ!」
 大胆にも横の少年に下着を見せつける姑に悲鳴をあげるが、首だけとなった早百合には何もできない。
 やがて満足したのか、悦子が顔をテーブルの上に早百合に向けた。
「……うふふ、ごめんなさいね早百合さん。でも、やっぱり私たちは孫が欲しいのよ」
「そ、それならどうして――」
「いつまで待っても子供ができないんだもの。仕方がないから、私があなたの代わりに子作りしてあげるわ」
「―――っ !?」
 想像もしていなかった悦子の発言に絶句する早百合。
 つまり、悦子が早百合の体で明宏と交わるという事だ。
 体は夫婦でも顔は実の親子、倫理上許されるはずがない。早百合はその現場を想像し、あまりの恐ろしさに戦慄した。
「ば、馬鹿な事言わないで下さい !! 早く私の体を返して !!」
「ほんの2、3ヶ月だけだから許してちょうだい。ちゃんと子供ができたら、この体を返してあげるわ。それまであなたには私の体を使っててもらうわね」
「お、お義母さんの…… !?」
 青く静脈の浮き出た義母の手を思い出す。自分がこの醜悪な壮年女の体を使うなど、とても耐えられない。
「まあそういう事なんで――」
 軽く言うと、少年が早百合の頭を持ち上げた。
「……や、やめて! お願いっ !! やめてぇぇっ !!」
 嫌悪のあまり必死で叫ぶ早百合だったが、首だけで抵抗できるはずもない。とうとう悦子の体にくっつけられてしまった。
「いや……こんなの……いやあ……」
 自分の体を見下ろし、顔をくしゃくしゃに歪める早百合。
 地味な灰色のスウェットと紫のスカートから肉のそぎ落ちた手足が無造作に生えているのが見える。葬式用かと思ってしまう真珠のネックレスの下には、元々小さかったであろう乳房が力なく垂れていた。痛む腰、縮んだ背、全てが若い自分のものとは違っていた。
 テーブルの向こうから、悦子が逆転した身長差を見せつけてくるように見下ろしてくる。
「あら、でも意外と悪くないじゃない。お似合いよ」
「私――こんなの嫌です !!」
「ごめんなさいね。ちょっとの間だから、我慢してちょうだい」
 半泣きになる早百合に向かって姑は優しく、だが決して妥協しない口調で告げた。
「夕食のお買い物まだでしょ? 行ってくるわね。今夜は腕によりをかけなくちゃ、うふふ♪」
 そう言って、悦子は早百合を置いて出かけてしまった。
 後に残されたのはにやにや笑う少年と早百合のみ。
「あなた、何て事してくれたのよ !!」
「いや、僕は言われた通りにしただけですよ。文句はお義母さんに言ってもらわないと」
「早く私の体を返して !! お義母さんに好き勝手されるなんてまっぴらよ!」
 涙声で怒鳴る早百合を、少年は微笑んで見つめていた。

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 

 日の沈む頃になって、早百合の夫が帰ってきた。
「ただいま――」
「おかえり、明宏」
 玄関で自分を出迎える母親の姿に明宏は驚く。
「お袋……来てたのか?」
「今日から私が早百合さんの代わりですからね、そのつもりで」
 訳のわからない事を言われてしまった。
 早百合はどうした、と聞いても母は何も教えてくれないし、一体どうなっているのか明宏にはさっぱりだ。
「さあ、いっぱい食べなさい」
 こうして母が作った料理を口にするのは久しぶりだ。懐かしい味噌汁の味に、明宏はつい飯をかきこんでしまう。
「――ごちそうさん、美味かったよ」
「そう、嬉しいわ」
 食べ終わった明宏は、もう一度悦子に尋ねてみた。
 どうして母がここにいるのか。早百合はどうしたのか。
「明宏、こっちにおいで」
「何だよ……?」
 やはり母は答えず、明宏を和室に呼んだ。
 悦子は明宏の前に立ったまま話し出す。
「二人の事が心配でね……私が手伝いに来たのよ」
「? ……何の話――」
 いきなりブラウスを脱ぎ始めた母に慌てる息子。
「おい、おふくろ、何やってんだよ!」
 明宏が止めるのにも構わず、悦子はブラとショーツだけの姿になった。
 あまりの事に呆れ果て、明宏がため息をつく。
「なんのつもりだ、早く服着ろよ。今さらおふくろのしなびた体見ても……」
「よく見てみなさい、本当にしなびてる?」
「え――?」
 その言葉に促され、母の裸体を眺める明宏。もちろんそこには五十代半ばの染みとしわだらけの肉体があるはずだった。
 だがブラに包まれた悦子の胸はぴんと張り、やや肉のついた腰も見ていて決して不快になるものではない。
 はいている派手なショーツにも、思わず唾を飲んでしまう。
 明らかに老いた母の体ではない、若々しい肉体だった。
 しかも、そのブラやショーツは彼がよく知っている――。
「……早百合? 早百合なのか?」
「よくわかったわね。そう、この体は早百合さんのなのよ」
「でもなんで、おふくろが早百合の――」
「最近あんた、早百合さんとしてないって言うじゃない? だから、私があの子の代わりにしてあげるの」
 悦子は精一杯の力を込めて、明宏を畳の上に押し倒した。
「うわ、何するんだよ!」
「何って、決まってるでしょう?」
 倒れた息子のズボンをさぐり、悦子が陰茎を取り出した。
 それを左右の指で淫らにしごき、こすりあげる。
「――お、おふくろ、やめろ……」
「昔お風呂で洗ってやってたアレが、こんなに大きくなっちゃって。やっぱりお父さんの子ね」
 悦子は驚くほど熟練した手つきで肉棒をしごきたててくる。
 初めて体験する母親の愛撫に、明宏は翻弄されるばかりだ。
「……くっ !!」
 こらえ切れなくなったのか、陰茎の先から白い汁が勢いよく噴き出し、悦子の若々しい肌を汚した。
「あらあら。手だけで出しちゃうなんて、困った子ね。出すなら膣内に出してほしいのだけど――」
 今度はブラを脱ぎ捨て、露になった乳房を息子の顔に押し付ける。
「……んー! むぅ!」
「ほら。母さんのオッパイ、吸いなさい」
 最初は抵抗していた明宏だが、興奮したのか観念したのか、やがて乳首を口に含むと悦子の豊かな胸を吸い始めた。
「ん……懐かしいわね。夢中でおっぱいを吸ってた赤ちゃんの頃、思い出すわ」
 こっちも性感が高ぶってきたらしく、赤い顔で熱い息を吐く悦子。
「ん……胸だけじゃなくて、こっちも……」
 畳の上に明宏を寝転ばせた悦子は、ショーツを脱ぐと息子の顔の上に内股で座り込んだ。しっとりと湿った陰部が顔を濡らす感触に再び明宏のが硬くなる。
 おずおずと舌を伸ばし、彼は母の女陰をなめ始めた。
――ピチャ、ピチャ……。
「ああ――いい、いいわあ……」
 数十年ぶりの快感に、悦子はのけ反りもだえる。まして相手が自分が産んで育てた大事な息子となれば、なおさら興奮しない訳がない。
 なめればなめるほどあふれ出す汁で、明宏の顔はもうベトベトだ。
「うふふ――明宏……」
 悦子は腰を上げ、両手で息子の顔を撫でる。
 自らの陰部からあふれた汁が手につき、つうっと糸を引く。
 明宏も興奮しているようで、黒々とした陰茎が天井に向かって力強くそそり立っていた。
「お……おふくろ……」
 止めたいのか続けたいのかわからず、細い息を漏らす息子。悦子はそんな明宏にニヤリと微笑むと、息子の腰の部分に中腰の姿勢でしゃがみこんだ。

 その隣の部屋、照明のついていない暗い室内で、早百合は椅子に座らされていた。
(ダメぇ……明宏ぉ……!)
 わずかに開いた戸の隙間から、夫と姑の痴態が垣間見える。
 義母が自分の体で明宏と乳繰り合うのは耐え難い光景だったが、今の早百合は動くどころか声一つあげられない。
「――ふふ……」
 椅子の横にはあの少年が立っていて、なぜか彼がいるだけで早百合の体はぴくりとも動かないのだった。
「どうですか、夫婦の営みは」
 彼が耳元で小さく囁いてくる。
「大丈夫ですよ、顔は親子でも首から下は夫婦ですから。妊娠するまでたっぷりするでしょうね」
(ちっとも大丈夫じゃない――!)
 笑みを浮かべる少年に言い返す事もできず、早百合はただ黙って隣室を見守るしかない。
 いつの間にか、その頬に一筋の雫が垂れていた。

 法悦の表情を浮かべ、悦子が腰を下ろす。
――ズブ、ズブズブ……ヌチャ……。
「あはあ、いいわあ……この感じ……」
 懐かしい性交の快楽に悦子は甘い声を漏らした。
 一方入れた明宏もまた、数週間ぶりのセックスに我慢できずに声をあげる。
「う、うぁああっ……!」
「――明宏、母さんが動いてあげるわね」
 息子の上にまたがったまま、悦子が上下に動き出す。
 結合部からは淫らな女汁があふれ、動くたびにヌチャヌチャと淫靡な音が部屋に響いた。
「いい……いいわよ……! 最高っ !!」
「うう――うあ……!」
 母が息子の上で笑いながら腰を振る。その事実に悦子も明宏も、隣室の早百合でさえも背徳的な興奮を覚え、熱い息を吐くのだった。
「――どう、明宏っ !? 母さんいい !? いい !?」
「ああ……いい、いいよおふくろぉっ !!」
 ついに明宏は大声で母親を呼び始めると、悦子の腰をつかみ自分から腰を振って肉棒を突き込みだした。

(――あ、明宏……)
 激しい男女の動きが床を震わせ、離れた早百合にも感じられる。
 あれは自分の体のはずだ。
 全身に汗をじっとりとたらし、乳房をたゆんたゆんと揺らし、明宏の陰茎に貫かれて腰を振る、あの若々しい女の肉体は早百合のものだったはずだ。
 しかしそれが今、しわと染みだらけの醜い義母の白髪頭に乗っ取られ、姑の思うがままに“息子”と性交させられている。
 対する自分はと言えば、鳥ガラのようにやせ細った手足の、胸はたるみ腰は痛む、醜悪な義母の体になっている。
 体に似合いもしない茶色のストレートヘアが、首から下を隠せるはずもない顔の化粧が、今の自分のみじめさをいっそう強調していた。
(うう――……)
 声さえ出せない不可視の拘束の中、両目からは涙がぽろり、ぽろりと止まらない。
(なんて、私がこんな目に――)
 子供を産まないというだけで、こうなってしまうのか。
 体を奪われ無理やり種つけをされる、その現場を心に深く刻みこまされ、早百合の精神はひび割れていた。
(明宏、明宏ぅ……)
 隣室の性交を前にして、早百合はずっと泣いている。

 悦子も明宏も今までにない快感に震え、もだえ、今にも達してしまいそうだった。
 既に母親と交わる罪悪感は消え失せ、よだれを垂らす悦子を見ていると孝行の実感さえわいてくる。
(おふくろ、最高だ――)
 まるで悦子が自分の妻であるかのような錯覚に襲われ、慌ててそれを否定しようとし――もはやどうでもいいという事に気づく。
 悦子は言っていた。これは早百合の体だと。自分の妻の体だと。
 ならばこれは夫婦の正当な交わりなのである。首の上に乗っているのが母親の頭だろうがなんだろうが、それは些細な事に過ぎない。やはりこの女が自分の妻なのだ。その妻が子を望んでいるなら、孕ませてやるのが夫の務めであろう。
「――ああ明宏、母さんもうダメ、ダメよぉっ !!」
「おふくろ……悦子、悦子ぉっ !!」
 母ではなく、明宏は彼女を名前で呼んだ。
 そうしたいと思ったからだった。
「いい――いいぃぃいぃ……っ !!」
「悦子……くぅぅうぅっ !!」
 膨張しきった陰茎が子宮口を叩き、下から灼熱の奔流を叩きつけた。吹き上がる精液が子宮に染み渡り、一滴でも多く飲み込もうとする。
「はあああ――あぁ……」
 絶頂を迎え、息とも声ともつかぬ響きを悦子が漏らし続ける。その顔は歓喜に満ち、とても幸せそうに見えた。

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 

 静かな室内に、大きな泣き声が響き渡った。
「はいはい、どうしたの !?」
 慌てて二人の女が駆けつける。
 早百合はベビーベッドから泣き喚く乳児を抱き上げ、慣れぬ手つきであやし始めた。
 だが、泣き声の止む気配はない。
「きっとお腹空いたのね」
 悦子は横でそう看破すると、トレーナーを脱いで乳房を出した。
 産後間もない張り詰めた母親の乳房が赤子の口に当てられ、乳児はゆっくりとにじみ出る母乳を飲み始めた。
「んっ……」
 たっぷり15分ほど授乳し、今度は反対側の胸をくわえさせる。
 その間、早百合は義母をうらやましそうに見つめていた。
 ようやく満足したのか、乳児は悦子が抱いたままゲップを漏らすと、ゆっくりと目を閉じ眠りについた。
「ん……まだ残ってるわ。早百合さん、搾乳カップを取ってちょうだい」
「はい、お義母さん」
 どうやら母乳の量が多く、残ってしまったらしい。悦子は残った母乳を手でカップに搾り取ると、たまったそれを流しに捨てた。
「早百合さんのおっぱい、優秀ね。はじめはこんなに出ないものよ」
「はあ……」
 お褒めの言葉にどう答えていいかわからず、曖昧にうなずくしかない。

 体が入れ替わって一年、まだ二人は元に戻っていなかった。
 悦子が早百合の体で夜ごとセックスを欠かさなかったため、あれからすぐに妊娠が判明した。
 これで早百合に体を返せる。孫のできた喜びに、悦子があの少年に電話をすると――。
『おかけになった電話番号は、現在使われておりません』
 このとき初めて、二人はもう元に戻れない事を知った。
 ただでさえストレスのたまっていた早百合は一晩中泣きはらし、一時は自殺未遂にまで追い込まれるほどであった。
 しかし日ごと大きくなってゆく悦子のお腹を見ている内に、自分の子供がどんな子なのか気になり始め、やがては悦子の出産を応援するほどまでに立ち直った。
 そして悦子は嫁の体で孫を出産し、子育てに大忙しである。早百合も未熟な母親として悦子を助け、赤子の世話をしている。夫と妻と母の、奇妙な三角関係は円満と言えた。
「ほ〜らママでちゅよ〜、ベロベロバー」
 ベビーベッドにもたれた早百合が我が子をあやしている。その顔は若々しく希望に満ち、母親としての力にあふれていた。もう死のうなどとは思わないだろう。
 一方、その隣の部屋では――。
「はあっ、はあっ、あ、明宏ぉっ !!」
「ん、んん……何だよ、悦子っ?」
 悦子の女陰に突き込みながら明宏が問う。
「い、今できちゃったら、困るわ。子育てが……」
「大丈夫大丈夫、早百合もいるだろ。母親が二人いるんだから、もう一人つくってもいいって」
「あ――はぁぁあぁ……っ !!」
 白い汁が子宮に注ぎ込まれ、悦子が嬌声をあげた。
 妊娠中は控えていたセックスを、今は思う存分やりまくっている。明宏が言う通り、二人目が産まれる日も遠くないだろう。
 まさか息子に抱かれて、孫を産むようになろうとは。
 でも、これも悪くないと思う自分がいる。
 息子に呼び捨てにされて膣を突かれながら、悦子は腰を振り続けた。


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