愛娘、希

 静かなリビングの中、お茶から立ち上った湯気が私とその子の視線を遮っていた。
「……それで、お父さん元気にしてる?」
 私は穏やかな声でその男の子に尋ねた。
 問われた方も落ち着いた様子でこくりとうなずき、爽やかな笑顔を浮かべて私に返してくる。
「はい、こないだも僕らを置いて母さんと二人で出かけてました。仲が良すぎて困りますよ」
「あらあら。悪い父親ね、兄さんったら……」
 少年は凛々しい表情と整った顔立ち、均整の取れた体を持った恵まれた子だった。礼儀も正しくていかにも賢そうに見える。まさに隙のない優等生といったところだろうか。
 兄さんも義姉さんもそんな感じではなかったけど、いったい誰に似たのかしら。
「恵ちゃんも元気? あの子のことだから、きっととっても綺麗になってるでしょうね」
「そうでもないですよ。それに叔母さんとは前に顔を合わせてるはずです」
「あら、女の子は少しの間で変わるものよ。毎日見てればなかなかわからないだろうけど……」
 私は甥っ子に笑いかけ、紅茶のカップを口に運んだ。
 水野啓一。私の兄さんの息子で高校二年生の少年だ。
 この間まで小さくて可愛らしい坊やだったと思っていたのだが、もうこんなに大きくなっていたとは。時の流れるのは早いものだと、私は心の中で小さくため息をついた。
「啓一君はカッコいいから学校でもモテてるんじゃない? すぐ女の子が寄ってくるでしょう」
「いや、そんなことは……。正直言って、恵の方が人気ありますよ」
「へえそうなの。お兄ちゃんとしてはやっぱり心配?」
「まあ、そうですねえ……」
 私の兄さんには子供が二人いて、片方がこの子、啓一君だ。もう片方がその妹で恵ちゃんという。私の記憶によればかなりの別嬪さんだった。
 今日啓一君はクラブの練習試合の打ち合わせにうちの近くの高校にやってきたそうで、そのついでに親戚の私の家に寄ってくれたという訳だ。うちの夫は単身赴任中だから、母一人子一人のこの家に来客があるのはとても嬉しい。
 私は上品な笑顔を作って、晩ご飯をうちで食べていくよう甥に勧めた。
「じゃあありがたく、ご馳走になります」
 そう答える姿も、いかにも真面目そうで様になっている。とてもあの兄さんの息子とは思えないほどだ。
 トンビが鷹を生むというのはこのことか。失礼な言葉が頭をよぎる。
 とにかく今日はうちの家族が一人増えることになる。
 男の子はよく食べるから、夕飯も腕によりをかけてたっぷり作らないといけない。私は少しいい気分になって、そろそろ買い物に出かけようと壁の時計に目をやった。

 ドタバタと騒がしい音がして、一人の女の子が部屋に飛び込んできたのはちょうどそのときだった。
「啓一兄ちゃあん! ひっさしぶりぃ!」
 飛びかかるように制服姿の啓一君に抱きつく。
 いきなりの少女の乱入に、彼は目を白黒させてその娘を見つめた。
 可愛らしいデザインの白いブラウスにベージュのミニスカート。この子のお気に入りの格好だ。
 客の前だったが構わずに、私は少女を怒鳴りつけた。
「希、宿題終わったの !? サボっちゃ駄目でしょ!」
「まだだけど……せっかく啓一兄ちゃんがうちに来てるんだからいいでしょ? ねえママぁ〜」
 上目遣いで媚びるような視線を送ってくるのは私の一人娘で、名前は希。今年で中学三年生になるのだが、啓一君と違って成績は非常に悪い。元気一杯なのはいいのだけれど、このままではいい高校にいけなくなってしまう。
 何とか娘の成績を伸ばそうと努力する親心も知らず、この子は今も嬉しそうに啓一君に抱きついて、戸惑う従兄の体に頬擦りをしていた。
「の、のぞみちゃん……久しぶりだね。元気だった?」
「うん! あたしは絶好調っ!」
 繊細な顔は恐らく私譲りだと思う。黒い髪を肩まで伸ばした希の姿は、昔の私を思い起こさせた。小柄で発育もいまいちだけれど、瑞々しい若さと活力が全身から溢れている。
 私にもこんな頃があったっけ……娘を見てるうちに、ふと懐古の念にかられてしまった。
 だが今はこうしている場合ではない。私は娘をにらみつけ、厳しい口調で言った。
「希、啓一君が迷惑してるでしょう? ちゃんと部屋で勉強してなさい」
「え〜、啓一兄ちゃんは嫌がってなんてないよ〜! ねえ?」
「え……あ、はは、そうかな……」
 うちの娘に抱きつかれたまま苦笑する少年。
 まったく迷惑な話だ。あんたと違って啓一君は何でもできる優等生なんだから、少しは見習ってほしいものである。
 今度ははっきり形に出してため息をつき、私は言った。
「はあ……じゃあ啓一君、叔母さんお買い物に行ってくるから、悪いけどこの子が遊ばないように見張っといてくれない? いつも遊んでばかりで、叔母さん困ってるのよ」
「ええ、わかりました」
「ついでに勉強を見てやってくれると助かるわ。うちの子、啓一君と違って頭悪くてねえ……」
「そんなことないと思いますけど、別にいいですよ。じゃあ希ちゃん、僕と一緒に勉強しようか」
 優しい声で希に話しかける啓一君。
 この子がうちの子だったらよかったのに。何となく兄に負けた気がして、私はハンドバッグを手に家を出た。

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 

 近所のスーパーでは肉が安かった。今日は肉じゃがにでもしようか。
 ビニール袋を腕に提げて買い物メモに目を落とす。
 えーと、あと買う物は……ああ、ティッシュが切れそうだったか。
 そんな訳で私は、ちょうど通り道にあるドラッグストアに寄ってから家に帰ることにした。チェーン店だとかで値段はそこそこも安いが、いつも混雑している店だ。販売促進の効果があるのかわからないが、店員の歌う陽気な音楽が辺りに鳴り響いている。
 所狭しとリンスやら石鹸やらが並ぶ、人の多い店内で安売りのティッシュといくつかの雑貨をカゴに入れ、私はいそいそとレジに向かった。
「いらっしゃいませー」
 レジ係はアルバイトだろうか、とても綺麗な顔をした少年だった。
 歳は啓一君とそう変わらないように見えるが、端正な顔立ちという点では彼とは比べ物にならない。まるで美術品のように人間離れした少年が、似合いもしないドラッグストアの制服を着てにこにこ毒のない笑顔を浮かべてレジに立っていた。
「…………」
「お客様、何か?」
「い、いえ、何でもないの」
 思わずそのバイトの少年に見とれてしまった私は、恥ずかしさを首を振って誤魔化した。
 店員はそんな私にふわりと笑いかけ、優美な声を口から発する。
「お疲れみたいですね。どうです? 新発売のサプリメントがあるんですけど」
 そう言って小さな箱を見せつけてきた。ビタミン剤か何かだろうか。
「……べ、別に大丈夫よ。ありがとう」
 頬を染めてその場を立ち去ろうとした私に、少年が言葉を続ける。
「だめですよ奥さん。人間、知らず知らずのうちに体に疲れがたまってくるんです。これはそんな疲労を一瞬で吹き飛ばしてくれるんですよ。それがたったの三百四十八円、いかがですか?」
 巧みな口調で売り込んでくる店員は、逆にこの上なく怪しかったが、まあ安いし買ってみてもいいか、と私は軽い気持ちでそのサプリを購入した。
 ティッシュは軽いけれどかさ張るから、持って帰るのが大変だ。私は心の中でぼやきつつ、二人の待つ我が家に帰ってきた。

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 

 夕食はいつになく賑やかなものとなった。
 テーブルに男の子が一人いるだけでこんなに家の中が明るくなるものなのか。私は感心して、楽しそうに話す娘と甥とを眺めていた。
「それで恵ちゃんはどう? あれからもっと可愛くなった?」
「んー、可愛いかどうかはわからないけど、大きくはなったかな」
「そうなんだ。あたし恵ちゃんにも会いたいなぁ……今度連れてきてよ」
「いいよ、約束する。今度三人で一緒に遊ぼう」
「やった! さすが啓一兄ちゃん!」
 そうして言葉を交わす姿は、まるで実の兄妹のようだった。
 ――子供、もう一人作っておいた方が良かったかしら……。
 今さら考えても仕方のないことを考えてしまうのは私の悪い癖だ。お茶でも入れなおそうと席を離れ、キッチンに立つ。
 そこでふと、フライパンの隣に置いてあった小さな箱が目に入った。
「あ……忘れてたわ……」
 あの店員の話によると、疲れたときに飲むといいのだったか。
 私ももう不惑。シワもできれば体が痛むときもある。後悔をするような人生を送ってきた覚えはないが、やはり娘や甥を見ていると、ついつい若くて輝いていた昔を懐かしんでしまう。
 あまり意味のない考え事をしながら箱を開け、錠剤の入った瓶を手に取った。
“浮かぶような爽快感!”だの“今までの自分とおさらば!”などと怪しげな文句が書かれているが、まあ変な代物ではないだろうと、私は適当に判断して、白い錠剤を一粒飲み込んだ。
「――あら……?」
 次の瞬間、私は猛烈な眠気に襲われた。
 睡眠薬でも入っていたのだろうか。確かに寝たら疲れは取れるだろうけど……。
 あまりの睡魔に私は立ってられなくなり、そばにあった椅子に腰かける。
 ああ、お茶入れないと……啓一君も、そろそろ帰らないといけないだろうし、寝たら駄目なのに……。でも眠い。とても眠い。
 どんどん鈍くなる思考。深い深い闇に自分の意識が沈んでいくのを感じながら、そのまま私はだらしなく卓に突っ伏してしまった。

「いけないいけない、寝てちゃ駄目だわ……」
 数秒後か数分後かはわからないが、私は何とか眠気を振り払って身を起こした。
 娘がやってこないところを見ると、あまり時間は経っていないようだ。
 でもあの薬、何だったのかしら……。
 不思議と体が軽くなった気になって、私はぼんやり壁の時計を眺めていた。やはりあれからほとんど時計の針は動いておらず、ほっと胸を撫で下ろす。
「あ、お茶……持って行かないと……」
 力の入らない声でぽつりとつぶやき、目の前のお盆に手を伸ばした。その上では湯気の立ち上るカップが三つ、三角形に並んで私を待っている。
 しかし次に私の目に飛び込んできたのは、信じられない光景だった。
「え?」
 私の手がお盆とカップをすり抜け、何もない虚空を掴む。よく見ると私の手も袖も半透明になって、後ろが透けて見えた。
「……あれ……どうなってるの?」
 あまりの驚きに呆然としたまま、私はカップをつかもうと躍起になって腕を振り回した。
 だが何度やっても私の指は何物にも触れられず、スカスカと空気を撫でるのみ。
 戦慄が背筋を這い登ってくるのがはっきりと感じられた。
「え……わ、私……何よこれっ…… !?」
 どんどん息が荒くなって、心臓の鼓動が速まっていく。更年期障害にはまだ早いと思っていたが、どうやらそうでもなかったらしい。私は恐怖と困惑に身を震わせ、落ち着きなく辺りを見回した。
「…………!」
 すぐ後ろの椅子に女が座って、いや座ったまま卓に突っ伏して眠っている。
 パーマのかかった白髪交じりの黒い髪、痩せぎすの体と青いエプロン。
 歯をカチカチ鳴らして必死で否定しながらも、私の心ははっきりとそれを訴えていた。
「わ、私っ…… !? なんで私が寝てるの…… !?」
 そこにいる中年の女、私と瓜二つの彼女は穏やかに眠っているようだった。理解できない現象の連続に私の理性が大きく揺さぶられる。
 ――何、これはどういうこと。私は私なの? これは誰? あなた助けて。
 無秩序な思考の欠片は形を成さず、私の中でただ渦巻くだけ。その中で私ができそうだったのは、とにかく自分の体を起こすことだった。
「あ、あなた――いや、私っ !! 起きて! 起きなさいっ !!」
 だがやはり、私の腕は私の体をすり抜けて卓の中に沈んでしまう。
 軽く悲鳴をあげて腕を引き抜き、気持ちよさそうな寝顔を見やった。生きているのか死んでいるのか、パニックになった私にはその判断がつかなかった。
 次にできたのは、大声で助けを求めること。
「の、希――大変よっ !! 大変なのっ !!」
 妙にふわふわする体はなかなか思うように動いてくれなかったが、私は何とかその場を離れ、まだ食卓で座っているはずの二人のところに向かった。

「へええ〜、やっぱすごいんだね〜。啓一兄ちゃんって」
「だからそんなことないってば。あまり変な幻想を持たないでほしいなぁ……」
 娘と甥は、まだ気楽な様子で話し込んでいる。今の私の状況とのあまりの落差に怒るのも忘れ、大声で叫んだ。
「の、希っ !! 啓一君っ !? 二人とも話を聞いてっ !!」
 しかしどちらも私の声に耳を傾けようとしないどころか、そもそもこちらを向きさえしなかった。
「希っ !! 啓一君っ !!」
 私の頭に先ほどの情景がよぎる。
 カップをするりと通り抜ける半透明の私の手。意識のない自分の体をすり抜けた腕。
 ひょっとしたらこの二人には私が見えておらず、声も聞こえていないのかもしれない。ようやくその考えに思い至り、私は静かにその場に立ち尽くしていた。
「ど……どうしよう……私、どうなっちゃったの……?」
 私は死んでしまったのか。魂だけの存在となってさまよっているのか。がっくりと肩を落としてテーブルに手をつく私だったが、その手すら透過してしまう。
「私、死ぬの……? この子を置いて、死んじゃうの……?」
 希はまだ中学生で、しかも実際の歳よりも幼く見える頼りない娘だ。もし私がいなくなったら、この子はどうなってしまうのだろうか。
 私は心配で心配で今にも泣きそうな顔になって、せめて座っている希を抱きしめてやろうとした。
 もちろん私の体は希を通り抜け、何もない虚空に放り出されるはずだった。

 ――だが。

「え? 何で…… !?」
 驚愕する光景の連続だったが、またしても私は驚かざるを得なかった。
 絶望のあまり娘にすがりついた私の半透明の体が、希の中にずぶずぶとめり込んでいくのだ。
「ど、どうなってるの…… !?」
 既に私の体は腕と顔以外、希の中に飲み込まれてしまっている。その娘はといえば、急に顔をしかめて苦しそうに息を荒げていた。
「はぁ……くぅ、ううぅ……!」
「の、希ちゃん……? どうしたの !?」
 隣では啓一君が異変を察知して希の肩を揺さぶっている。私は自分と娘に起きた異常事態にただ取り乱すばかりで何もできずにいた。
「の、希…… !! 誰か助けてえぇっ…… !!」
 そして音もなく、私の体は娘の中に完全に吸い込まれた。

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 

 どのくらい経ったろうか。私は自分にかけられる力強い声に目を覚ました。
「……ちゃんっ……大丈夫っ !?」
「あ……」
 薄目を開けると、凛々しい顔の少年が私の肩をつかんで必死に呼びかけていた。
 私の兄の息子、よくできた甥っ子の啓一君だ。
「よかった……気がついたんだね」
 啓一君は意識を取り戻した私を見て、ほっとしているようだった。
 本当に優しくていい子だ。私はちょっとばかり嬉しくなって甥に抱かれていた。
「ごめん……私、寝ちゃってたみたいね。みっともないわ……」
 わずかな距離を挟んでそう啓一君に返事をする。
 冷静になって辺りを見回すと、私は椅子の背にもたれかかって眠っていたようだ。
 何か変なことがあった気もするけど、あれはきっと夢だ。現実のことじゃない。
 あのサプリ――きっと人を眠らせて体の疲労を取り除く効果でもあるのだろう。たしかにすごい効き目だけど、飲むたびにこうして大騒ぎしていては困る。
 私は年甲斐もなく、恥ずかしさに頬を染めて椅子から立ち上がった。
 サプリの効き目だろうか。体がすごく軽く活力に満ち満ちている。まるで若返ったようだ。
「……ほんとに大丈夫? いきなり倒れちゃったからびっくりしたけど」
「大丈夫よ。ちょっと疲れがたまってただけ」
 彼を安心させるために当たり障りのない答えを返したが、啓一君は座ったままでそんな私をなぜか怪訝そうな顔で見上げていた。
 でも、もう大丈夫。私はやっとのことで自分を取り戻して啓一君に問いかけた。
「それで、希はどこ? あの子、啓一君と一緒にいたでしょ」
「…………?」
 その質問に彼の顔がますます歪んでいく。言葉で表現するのはちょっと難しいけど、お互いに会話がどこかすれ違っているような……そんな違和感を胸に抱いたまま私と甥とは向かい合っていた。
 部屋を見回すが娘の姿はどこにもない。どこに行ったのかしら?
 そのとき私の背中に、啓一君の声がかけられた。
「希ちゃん……君、どうしたんだ?」
「え? 啓一君、何言って――」
 この子はどうしてしまったのだろう。穏やかで賢い良い子だと思っていたのに、訳のわからない冗談を言って私を困らせるなんて。
 ふと視線を下げた私の目に、自分の着ている白い服が飛び込んできた。
「…………?」
 ところどころフリルのついた可愛らしい白いブラウス。当たり前だが私はこんな若向けのは着ない。その下にあるのはベージュのミニスカートと、そこから伸びる細い両脚。胸は小学生くらいに小さく、発育の悪さをまざまざと私に見せつけていた。
 私、どうなっちゃったの……? これじゃあまるで……。
「――きゃあああぁぁっ !!?」
 聞きなれた愛娘の声で、私は悲鳴をあげてその場に飛び上がった。

「…………」
 ぼんやりして和室の畳の上に座る私に、啓一君が声をかけた。
「……叔母さん、寝ちゃってるみたいだ。きっと疲れてたんだね」
「そう……」
 ぽつりとつぶやく私。今にも泣き出してしまいそうだったが、それを何とか耐える。
 信じられないことだったが今の私は希になってしまっていた。
 細い手足も黒々とした髪も高く弾んだ声も私本来のものではなく、全部娘の所有物だ。張りのある肌、ツヤのある髪、軽く動きやすい体。
 それらは中年の私に思いもしない感動を与えてくれたが、決して自分から望んだ訳ではなかった。
 なんで……なんで私、希になってるの……?
 驚きと戸惑いに私は何も言うことができず、ただ座ってじっとするだけだった。そんな私を啓一君は本物の希だと疑いもせず、色々と気を遣って話しかけてくれる。
「希ちゃん……さっきから元気ないけど、本当に大丈夫?」
「ええ、大丈夫だから……大丈夫」
 ちっとも大丈夫ではなかったが、いきなりこんな話をしても信じてもらえるだろうか。私は黙ってうつむいたまま、甥の励ましを右から左に聞き流していた。
 そのうちに啓一君の制服のポケットが鳴り、彼が携帯電話を取り出す。
「あ……母さんからだ。もうそろそろ帰らないと……」
 その言葉に私はハッと顔を上げた。夕食も終わってしまったし、いつまでもこの子をうちに引き止めておく訳にはいかない。
 だが私は耐え難い不安に襲われ、思わず啓一君の体にしがみついてしまった。
「け、啓一君っ !!」
「の……希ちゃん…… !?」
 まばたきを繰り返して至近から私を見つめる啓一君。こうして見ると表情は引き締まって、やはり私の目には魅力的な少年に映る。
「お願い……もうちょっとだけここにいて…… !!」
「う、うん……いいよ」
 私の鬼気迫る形相に、啓一君は少しだけ怯えた様子でうなずいてくれた。
 甥のたくましい胸にすがりついて震える私は、本当に年端のいかぬ少女になってしまったようだった。いい歳した中年女が、なんてみっともない姿だろう。
 だが私は恐怖と困惑に啓一君から離れることができず、ぎゅっと抱きついたまま動けなかった。
「希ちゃん……」
 そんな私のサラサラした髪を啓一君が撫でてくれる。
「本当にさっきからどうしたんだ? 言いたいことがあったら何でも僕に言ってよ。それで解決するかはわからないけど、人に言えばすっきりすることもあるんだよ?」
「啓一君……」
 甥っ子の顔を見上げて胸を高鳴らせる私。
 この子の言う通り、本当に私はどうしてしまったのだろう。これじゃあまるで――。
 気がつけば私は首を伸ばし、音もなく啓一君と唇を重ねていた。
「…………」
「…………」
 息さえ止まった沈黙が部屋に漂う。口づけの時間は長くもあり、短かったような気もする。とにかく何も考えられないまま、私は二十以上も年下の少年に抱きしめられていた。
「希ちゃん……駄目だよ。僕は……」
「啓一君って、彼女いるの……?」
「う……いるというか、何と言うか……」
 目を泳がせて言葉に詰まる啓一君。
 変な子ね、年頃の男の子、それもかっこいい優等生となれば、彼女の一人や二人、いてもいいだろうに。
 私は軽く微笑み、再び啓一君とキスを交わした。今度は激しくこの子の口の肉を吸い、彼が驚くのも無視して舌を啓一君の中に侵入させる。
「――ん、んぷっ……!」
 私は舌を蠢かして彼の歯と歯茎、舌に唾液を念入りにすり込んでいった。夫とはもう何年もしてないけれど、こうした経験でこの子に負けるはずがない。いつの間にか怪しい笑みを浮かべて、私は甥の口を蹂躙し尽くしていた。
「ん、んむぅ……ぷはっ……!」
 潤む目で啓一君に吐息を吹きかける。今の私の、希の表情は、いつもの無邪気な少女の顔ではなく、すっかり性欲に飢えた雌のものになっていた。銀の架け橋が二人の唇を繋ぎ、私と啓一君との接触をお互いの目に淫らに見せつけている。
 もしかして、これが希のファーストキスだろうか?
 私は自分の手で娘の体を大人に導いてやれることに、いつしかこの上ない喜びを覚えていた。
「啓一君。今だけ……今だけでいいから、私の男になって……」
「希ちゃん……」
 私は這いつくばって啓一君の下半身に覆いかぶさり、女の欲に顔を歪めて彼の黒いズボンに手をかけた。
「希ちゃん……駄目だ。こんなことして、叔母さんに何て言ったら……」
「大丈夫、うふふ……そんなの大丈夫よ……」
 その叔母さんがいいと言っているのだ、全くもって問題ない。
 腰のベルトをカチャカチャと外し、私はズボンの中、啓一君の下着に手を這わせた。トランクスを少しだけずり下ろすと、張り出した啓一君のが露になる。それは大きくて逞しくて、私にとっては愛しくてたまらない肉の塊だった。
「ふふ……こんなに大きくなっちゃって……。昔うちで見たときはあんなに小さかったのに……」
「の、希ちゃん……なんかキャラが違――うあっ !?」
 有無を言わせず啓一君の陰茎にかぶりつく。興奮のあまり少しだけ歯を立ててしまったが、啓一君は逃げもせず大人しく私に性器を貪られた。
 小さな希の口で太い男根をくわえ、目一杯に頬張る。
 口内の亀頭を旨そうに舌で撫でながら、私はひたすら甥に奉仕し続けた。
 こんなことをするのは何年ぶりだろうか。久々に燃え上がった私の女の本能が淫らな欲望となって、幼い娘の体を突き動かしていた。
 ――ちゅぱ、ちゅる……じゅるじゅるっ……。
 唾液の絡まる卑しい音が和室に響く。
 私の熟練の技にも関わらず、啓一君は一度も射精することなく、硬く張りつめた自分の肉棒を存分に私に味わわせてくれた。
 やはり普段からこんなことをしてくれる女性がいるのだろう。私はどこか納得した気持ちになって、ただ若い雄の味を堪能し、娘の体を熟れた肉欲で火照らせていた。
「うふふふ、啓一君って我慢強いのね……叔母さんとっても嬉しいわ……」
「え、希ちゃん……? 何を言って――」
 名残惜しくも一旦甥から体を離すと、ブラウスとスカートを脱いで、華奢な希の肢体を隠すことなく啓一君にさらけ出す。
「ほら、希の体よ……まだ幼いけどキレイでしょう……?」
「う、うん……とっても可愛いよ……」
「可愛い? そうね、やっぱりまだまだ子供だもんね……。でもこの体でも男の人は受け入れられるし、もう赤ちゃんだって産めるのよ……?」
 希の手が本人の意思に関係なく動き、ブラの中に指を這わせる。右手は小さな乳房を、左手は下着の中の敏感な部分をいじくり回し、私は啓一君に生々しい従妹の自慰を見せつけてやった。
「ふふ……まだ感度はいまいちだけど、だんだん良くなってきたわ……」
「希ちゃん……どうしちゃったんだ……?」
 啓一君は驚いた顔で私を眺めているけど、そんなことは気にしない。控えめの胸を撫で回し、ピンク色の乳首を自分の指でつねり、丹念に娘の体を愛撫する。もう一方の手は処女の割れ目を軽く、だが執拗にこすって少しずつ蜜を垂れ流す。
 希の体は母の意識に支配され、従兄の前で熱烈なオナニーに没頭していた。
「あぁんっ――いい……いいわ、この体……」
「やめるんだ、希ちゃん――」
 そのとき、とうとうこちらを押さえつけようと啓一君が動いた。
 だが彼もやや正常な判断を失っていたのか、勃起した股間をむき出したままだ。こんな格好では満足に動けないだろうし、しかもそこは男の弱点。
「あら、駄目よ啓一君。邪魔しちゃ――」
 私は両手で啓一君の陰部をつかみ、にやにや笑みを浮かべた。苦しげに顔を歪め、彼がうめくのが聞こえてくる。
「や……やめろ、希ちゃん……」
「やめないわよ。これからあなたには、この子の初めての相手になってもらうんだもの。従兄妹合わせって知ってる? 法律上も問題ないのよ……」
「そ、そんなこと……できないよっ……!」
「それは私が決めることよ。ふふ、啓一君の、こんなに硬くなっちゃって……嬉しいわ」
 たっぷり愛情を込めて甥の性器を撫で回し、私はパンツを脱ぎ捨てた。
 希の陰唇は女の汁に溢れ、もう男を受け入れる準備ができている。私はへたり込んだ啓一君の上に正面から腰を下ろし、陰部に彼をあてがった。
 ――くちゅ……。
 びしょ濡れの女陰に硬くなった肉棒が触れる感覚。久しぶりの快感に私はよだれを垂らしてへらへら笑いながら、汁の絡む感触を楽しむように、何度も何度も粘膜を亀頭にこすりつけた。
「いい――この感覚、とっても懐かしい……いいわぁっ…… !!」
 唾を飛ばして笑い声をあげる。
 いつもの無邪気で可愛らしい希の顔はどこにもなく、そこにはただ悦楽を求める熟れた雌の表情があるだけだった。
 いよいよ結合とばかりに、私は舌なめずりをして甥の陰茎を飲み込んでいく。
 ――くちゅ……ぬぷっ……!
 私の求めていた、懐かしい女の快楽。それはすぐそこにあった。

 ところが――。
「ぎいい、あぐうぅぅっ…… !!?」
 娘の声で私の絶叫が空気をつんざく。希の女が引き裂かれる激痛に身をよじって泣き叫び、私は悲鳴をあげた。
「い、痛い……痛い、痛い……!」
 陰部からは一筋の血がしたたり、啓一君の肌を赤く染めている。
 あまりの苦痛に私は啓一君から自分を引き抜き、股間を押さえて悶えていた。
 ――は、初めてって……こんなに痛かったかしら…… !?
 痛みは個人差があるので私と娘で違うのは当たり前だったのだが、私はそのことに思い至らず、希の処女喪失の激しすぎる痛みに畳の上でうずくまってしまった。
「い、痛い……痛いぃ…… !!」
 ぼろぼろ涙をこぼす私の細い肩に、優しく男の子の手が回される。
 グジュグジュになった顔を上げると、柔らかな笑みを浮かべた啓一君がそこにいた。心から私を気遣うようにそっと肩や背中を撫で、少しでも痛みを和らげようとしてくれる。
「……ほら、だからやめろって言っただろ? 希ちゃん……」
「け、啓一君……」
 声を震わせる私の唇をそっと啓一君の口が塞ぐ。慈愛と労わりに満ちた口づけに、私の心がほんの少しだけ安らいでいった。
「女の子の初めてはヤバいんだから……うちの妹もそうだったよ」
「え、恵ちゃんも……?」
 なんで妹の性体験をこの子が知っているのかしら……。
 私は不思議に思いながらも口と肌を甥に撫で回され、わずかずつ落ち着きを取り戻していった。
「……まだ痛むかい?」
「え、ええ……」
「人によってだいぶ違うからなぁ。数日間、痛みが残る人もいるし」
「…………」
 冷静になった私は恐怖と罪悪感で、顔を真っ青にしていた。
 娘の体を勝手に使って、あまつさえ大切な純潔を失ってしまったのだ。希の意識が戻ったらあの子に何て謝ったら……。今さらながら私は自分の罪に怯え震えていた。
 そんな私に啓一君の優しい声がかけられる。
「で、どうしよう……? その、続き……する?」
「……え?」
 涙で濡れた顔を上げて甥に聞き返す私。きょとんとして啓一君を見つめる私に、彼は穏やかな言葉を続けた。
「いや、女の子の初めては……その、いい体験にしたいって言うから……。僕でよかったら……最後までしても、いいよ……?」
「啓一、くん……」
 私はへたり込んだまま、優しくはにかむ甥の顔を呆然と見やっていた。自らの意思に反して希の腕が啓一君の背中に回され、ゆっくり抱きしめる。
「ごめんね……最後まで、希に付き合って……」
 自分の口が勝手にそう言葉を紡ぐのを、私は静かな心で聞いていた。
 仰向けで寝転んだ私の上に、啓一君が静かに身体を重ねてくる。
「いい? ゆっくりいくからね……」
 私は無言でうなずき、もう一度自分の中に啓一君を飲み込んでいった。
 ――じゅぷ……ずぶずぶ、ぬぷっ……。
「う、うあ……!」
「大丈夫? 止まった方がいい?」
 心配した啓一君がそう聞いてくれるけど、今度は大丈夫。
 私は無言で首を横に振り、彼の挿入を促した。
 ――メリ、メリメリッ……!
「うぅ……うあぁ、ぐうぅぅ……!」
 処女の痛みは絶え間なく私の心を苛んでくる。だが私は歯を食いしばり、涙を流してこの苦痛を受け入れていた。
 これは私への罰だ。だからこの痛みから最後まで逃げてはいけない。こんなことで希への償いができるはずもなかったが、今の私には娘の体の初体験を無事に済ませることが己の使命のように思われた。
「の、希ちゃん……」
「大丈夫、だから――入れてっ……!」
「わかった……」
 私の意図をわかってくれたのか、啓一君はゆっくり、だが止めることなく入るところまで自分の肉棒を私の中に突きこんでくれた。この子の未熟な女性器では彼を全部受け入れることはできなかったが、啓一君のは充分な深さまで私の中にそそり立ち、狭そうに希の奥まで突きこんできている。
「は、入って、きてる……啓一君のが、私の中にっ……!」
「うん……希ちゃんが僕を締めつけてきてるよ。すごくきつい」
 狭い私の中は啓一君の太い陰茎に喘ぎ、肉と汁とで彼をしごきあげている。私は何となく恥ずかしくなって、赤い顔で啓一君と目を合わせた。にこやかに微笑む彼を見て、いい歳してときめいてしまったのは内緒だ。
「啓一君……お願い、動いて……」
「え? まだ無理なんじゃ……」
 私の膣はぎちぎちに啓一君のを締め上げている。
 初物の女性器の痛みは緩慢に私の脳を切り刻んでいたが、私は彼と同じ表情で笑って軽く希の腰を振り始めた。
「じ、じゃあ……いくよ」
「うん……きて」
 少し彼が動いただけで股間が悲鳴をあげ、膣が引き裂かれそうになる。だが私は泣きながら痛みに耐え、希の初めての性交を何とかやり遂げてやろうと必死だった。
 ――ずちゅ……じゅぽ、じゅぽっ……!
 娘の膣をかき分け、甥の肉棒が前後する。
「うぅ――ううぅ……!」
 私は痛みと苦しみの中にわずかな快感を見出して、それにすがりつこうと目を閉じた。数秒が数分に、数分が数時間にも感じられる。気がつくと私はまた唇を吸われ、甥の舌に口内を舐め回されていた。
「んむぅ……んん、あむぅっ……!」
 おそらく錯覚なのだろうが、そうしていると痛みが和らいでくる気がしてくる。
 上下の口を啓一君と繋げて、私は一生懸命に腰を振り続けた。希の女陰はたくましい啓一君のものを突きこまれて息も絶え絶えの状態だったが、それでも女の本能から結合部に淫らな汁を溢れさせていく。
「う、ゴメン、希ちゃん……その、中に出しても、いいかな……?」
 私は何も言わずにうなずき、ぎゅうぎゅう膣を締めつけて啓一君の精を待ち構えた。
「じゃ、いくからね……希ちゃん……うっ !!」
 ――ドクッ、ビュルルルルッ……!
「はぁ……はぁあぁっ……!」
 未熟な女性器が子種で満たされていく感覚に目を細め、大きく息を吐く。
 そして視界がゆっくりと闇のヴェールに覆われ、私の意識は失われていった。

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 

「…………?」
 私は椅子に座ったまま顔を上げた。きょろきょろと辺りを見回すと、うちの家の見慣れたキッチンだった。
 壁の時計を見るともう結構な時間が経ってしまっている。
「今の……は……」
 立ち上がって自分の体を見下ろしたが、視界に映るのはいつもの私の姿で、先ほどまで私が操っていた愛娘の身体ではなかった。
「夢……? 私、変な夢でも見てたのかしら……」
 気だるい倦怠感を我慢して隣の部屋へと歩いていく。リビングには誰もおらず、希も啓一君の姿もなかった。
 しかし和室には――。
「あっ…… !?」
 全裸で気を失った希を抱きかかえ、啓一君が従妹の髪を優しく撫でていた。
 飛び散った破瓜の血と体液が畳を汚し、何とも生々しい。
 こちらに気づいた啓一君の顔色は、青を通り越して真っ白になっていた。
「お……おば、叔母さ……こ、これは――ご、ごめんなさいっ…… !!」
 私を向いて懸命に弁解する甥の姿に、ついつい私は吹き出してしまった。

 わかっている限りの事情を説明すると、啓一君は多少なりとも胸を撫で下ろしたようだった。私もまだ信じられないが、どうやら彼は私の話を信じてくれたらしい。
「じゃあ、さっきまでの希ちゃんは叔母さんが乗り移ってた……ってことですか」
「多分、そういうことになるわね……私自身もちょっと信じられない話だけど……」
 二人で慌てて希の身体を拭いて服を着せてやり、畳や服などできるだけの痕跡を消したけれど、まだ畳にはうっすらと赤黒い染みが残っている。これはなかなか消えそうにない。
「はあ……希ちゃんには悪いことしちゃったなぁ……」
 啓一君は顔を伏せて辛そうにそう漏らした。娘の身体で性を重ねた私には、この甥の姿が以前よりももっと素敵に見えた。
「しちゃったものは仕方ないわ……私もどうかしてたもの。希がこのことを覚えているかわからないけれど……もし覚えてたら二人で謝りましょうね、啓一君」
「はい、わかりました」
「あと、ちゃんと責任とってこの子をお嫁さんにしてやってね」
「――え…… !?」
 強張った声をあげて顔をこちらに向ける啓一君。そんな仕草もそこそこいい。
「啓一君がこの子と結婚してくれたら、私にも素敵な息子ができちゃうのよねえ……。傷物にしちゃった訳だし、このままお持ち帰りしてみない?」
「あ……あっはっは。なかなかいいプランですけど、できれば遠慮したいかなって……。ほ、ほら、僕まだ高校生ですし、希ちゃん中学生だし……」
「あーあ残念。でももし赤ちゃんできてたら、ちゃんと結婚するのよ? 私も孫の面倒見たいから」
「できてない、絶対できてない……っ !!」
 必死に首を横に振って、啓一君は私の言葉を振り払った。寝てる希は起こさないように静かに、私は啓一君を送り出す。
「それじゃ、兄さんたちによろしくね」
「ええ、また伺いますよ。お元気で」
「うふふ……啓一君の、とっても太くて良かったわよ?」
「か――からかわないで下さいっ !!」
 顔を真っ赤にする甥を手を振って見送り、私は部屋に戻った。

 それから数十分が経過し、ようやく娘が目を覚ます。
「う――うーん……」
「希、起きた? 体……大丈夫……?」
 もしかしたらあのときの記憶が残っているかとも思ったが、幸いにも希は自分の処女が失われた事実をまったく覚えていないようだった。悪いけど、このことは私と啓一君だけの秘密にしておこう。
「え〜、啓一兄ちゃん帰っちゃったの !? そんなぁ〜!」
 しぶしぶ風呂に入る娘を横目に、私は遅まきながら夕食の後片付けをして今日という長い長い一日をやっと終えたのだった。
「――でも……」
 錠剤の入った瓶に視線を向けた私の、誰にも聞こえないつぶやきがこぼれる。
「啓一君、もったいなかったかも……ホントに残念だわ、ふふふ……」
 少しばかり体が熱を帯びるのを自覚しながら、私は布団をかぶって床についた。


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