さよなら瑞希 3

 妹の双葉に術をかけ始めて今日で七日目。もうそろそろ、充分な効果が出ているはずだった。
 もちろん俺は、今日も妹に術をかけ続ける。大事な「瑞希」を手放さないために。

 夜、妹の部屋に入れてもらい、俺は背後のドアを閉めた。
 双葉は薄い色の寝巻き姿で、愛情のこもった視線を俺に浴びせかけてくる。
「祐ちゃん……」
「瑞希……」
 俺と二人きりのときだけ、こいつは俺の女、瑞希でいられる。
 何を遠慮することもなく、俺はベッドに双葉を押し倒し、乱暴に唇を重ねた。
「んっ、んんっ……!」
 嫌がりもせず、俺を嬉しそうに受け入れる妹。
 口内に侵入してくる舌を自分のと絡め、いやらしい音をたてて舐めまくる。
「んふっ、んちゅっ、じゅっ……!」
 一途に俺を求めてくる舌の動きも、俺の体に回される腕の感触も、記憶の中の瑞希そのものだった。
 混じり合った二人の唾液を双葉の口に注いでやると、彼女は美味そうにそれを飲み干し、間近で見つめる俺に甘い息を吐きかけてきた。
「祐ちゃん……好き、好きだよ……」
 瑞希の口調でそう言って、俺の体を愛しげに撫で回してくる双葉。
 俺の方もそれに答えるように布越しに妹の乳房を揉み、首筋や脇腹に指を這わせた。
「ん、祐ちゃ――それ、いい……!」
 幾度となく繰り返された愛撫によって、双葉の無垢の体はちゃんと感じるようになっている。
 俺は妹の寝巻きをゆっくりと脱がせ、まだ未熟な裸体を電灯の下にさらけ出した。
 ブラジャーもさして必要ないほどのささやかな胸に顔を寄せ、小さなつぼみに口づける。
 白い肌に俺の唾を塗りたくってやると、快感からか、双葉は甘い声で鳴いてみせた。
「あっ、んはあ……」
 これでいい。まさしく俺が求める瑞希の反応だ。
 俺は興奮を抑えきれず、妹の下半身を覆っていた布地を、力任せに引きずりおろした。
 そこに見えるのは、未だ男を受け入れたことがない、清純な女の秘所。
 妹は瑞希と同じく毛が薄くて、割れ目の辺りも、今は亡き俺の恋人と実によく似ていた。
 あいつもかなりの幼児体型だったし、違いと言えば、俺を受け入れたことがあるかないかだけ。
 俺が性器に指を這わせると、双葉は軽く声をあげて体を浮かせた。
「はうぅ……祐、ちゃん……」
「今日は最後までしてやるからな、瑞希」
「うん……嬉しい」
 うるんだ瞳で俺を見上げ、妹が笑顔でうなずいた。
 最後に瑞希としたのはいつだったか。俺はそんなことさえ思い出すことができずにいた。
 だが、それも今日で終わりだ。俺の望む瑞希が、今ここにいるのだから。
 既に双葉の割れ目は汁を漏らし始め、俺の愛撫を今か今かと待ちわびている。
 肉をかきわけ、そっと右手の人差し指を入れてみた。
「ふああっ……!」
 双葉の膣はきつく兄の指を締め上げ、分泌する液体の量を増やしていく。
 敏感な肉壷に突き込んだ指を動かすたび、妹はビクビク震え、俺の名を呼んで跳ね回った。
 今度は中指も加え、二本の指で双葉の性器を犯す。
 処女に二本も入るものだろうかと少々心配になったが、意外にも妹の膣は喜んで侵入者を歓迎し、熱い汁ときつい締めつけで迎え入れてくれた。
「ふあ、ふああっ、はっ、はあっ……!」
 雌の本能に染まった少女が喘ぎ、ベッドの上で心地よい悲鳴をあげる。
 その間にも俺の左手は双葉のペチャパイを刺激し、少しでもこれを育ててやろうと躍起になって揉み続けていた。
 瑞希も貧乳だったが、胸のなさなら双葉も全く負けてはいない。
 俺は苦笑しつつも、妹の上と下とを同時に責めたて、存分に鳴かせてやった。
 当然のように俺の股間では、はちきれんばかりの肉棒が硬くそそり立っている。
 もうすぐだ。もうすぐ瑞希が、俺のところに帰ってくる。
 目前に迫った恋人の帰還に俺は高揚し、求めるままに双葉の愛撫を続けた。
「……ふああっ !! はあ、ひうぅっ !!」
 ガクガクと震え、気を失いそうになって体を硬直させる妹。どうやらイったようだ。
 貧しい乳房からは二つの突起が懸命に立ち上がり、女陰からはだらしないよだれを垂らしていた。
 その乱れに乱れた双葉の姿がとても愛しくなって、俺は妹をぎゅっと抱きしめた。
「瑞希、好きだ。大好きだ……」
「祐ちゃん……嬉しい、私も……」
「瑞希、ゴメンな。あのとき守ってやれなくて……」
 気がつけば俺は妹を抱いたまま、両の目から思い切り涙を流していた。
 無力な俺の目の前で死んでいった瑞希。俺に助けを求めて視線を伸ばし、口を開いて声にならない声をあげていた瑞希。

『祐ちゃん……』

 瑞希の声と妹の声が重なった気がして、俺はハッと顔をあげた。
 もちろん幻聴だ。そうに決まっている。死人は声を出さないし、語りかけもしない。
 だが俺はその声を錯覚だと言い切れず、汚れた顔で瑞希に返事をした。
「瑞希……みずきっ……!」
 俺の腕の中にいるのは実の妹。だが俺にとっては大切な女、瑞希だった。
 たとえ偽者であっても人形であろうとも、俺にとってこいつは瑞希なんだ。
 だから俺はこいつに謝って、今まで足りなかった分も愛して、大切にしてやらないといけない。
 愛して――そうだ。俺と瑞希は、これから一つになるんだ。
 俺はズボンの中からギンギンに勃起した陰茎を取り出し、双葉の股間に照準を合わせた。
 ベッドの上で俺にのしかかられ、双葉が熱のこもった声で言う。
「祐ちゃん、もういいよ。お願い、きて……」
「ああ、わかった……」
 そこはもう洪水のようなありさまだったが、何しろ初めてだから気をつけないといけない。
 瑞希の処女を奪った俺が、もう一度こいつの初めての相手になるなんて。
 俺は心の中で小さく苦笑し、大事な妹の中に自分自身を突き込んで――。

 そして、俺たちは全てを思い出した。

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 

「う、くうっ……!」
 俺が肉棒を突っ込んだ先は、処女の性器などではなかった。
 何度も何度も俺と交わった懐かしい膣の感触が、快感となって俺の脳を冒す。
 気持ちいいのは双葉――いや、瑞希も同じようで、俺の下で口を開けてよがっていた。
「ふあぁ――祐ちゃんの、入ってくるぅ……!」
「う……中、きつっ……!」
 瑞希の中から灼熱の肉汁が溢れ、とろける襞が俺のモノに絡んでしごき上げてきた。
 腰を動かすたびに結合部と二人の口からは嫌らしい音波が流れ、互いの聴覚を刺激した。
 本人がいつもコンプレックスを感じている幼児体型だが、狭く締めつけがきつすぎる辺りが、俺は密かに気に入っていた。
 平凡な大きさの俺の性器でも容易に最深部に届き、楽に子宮口をノックできる。
 亀頭で膣壁の奥の奥、瑞希の一番深いところをえぐり込んでやるのが好きだった。
 久々のセックス。この一週間、望んでやまなかった交わりに、俺は自分を抑えきれず、大胆かつ乱暴に、この小柄な幼馴染の少女を寝床に組み敷いて犯し続けた。
 瑞希の方もそんな俺を受け入れ、発情した顔で嬉しそうに腰を振りまくる。
「んんっ……! 祐ちゃ、祐ちゃ――いいよぅっ !! もっと、もっと動いてえっ !!」
「瑞希――好きだっ、瑞希っ……!」
「はあっ、私もぉっ !! ゆうちゃんだいしゅきぃっ♪」
 開いたままの瑞希の口にむしゃぶりつき、はみ出していた舌をがむしゃらに味わう。
 繋がる前とは比べ物にならないほどの興奮で、俺たちは互いの口内を舐めあった。
「んふぅ――ゆうちゃんっ……」
 仰向けになった瑞希の口の端から、一筋の雫が垂れていく。
 思わずこちらが舌なめずりをしそうな扇情的な表情を、俺の恋人は存分に見せつけてきた。
 それがまた愛しくて、少女の頭をかかえて抱擁と再びの口づけを交わす。
 上だけでは満足できないのか、瑞希は細い脚を俺の体に絡めてきた。
 腕も脚も口も性器も、自身の全てを使って俺と繋がろうとする愛しい少女。
 俺も言葉と表情、行為の限りを尽くして、瑞希と愛を語り合った。
「はあ、はあぁっ、ふああぁんっ !!」
「ふうぅ――瑞希、みずきぃ……!」
「らめぇっ……わらし、いっひゃ…… !!」
 再度少女の体が跳ね、全身を震わせたのち弛緩させる。
 俺の方も張りつめた陰茎を爆発させ、瑞希の中に自身の欲望を吐き出した。
「瑞希――中、出るっ……!」
「あっ、あっ、ああっ、あひっ、あっ!」
 久々の射精は、俺が思いつく言葉では言い表せないほど心地よかった。
 瑞希の子宮が溢れてしまいそうなほどの子種が、男から女の中へとドクドクと注ぎ込まれていく。
 小便じゃあるまいし、なんでこんなに出るのやら。
 ぴったり少女に密着したまま、俺の精液は後から後から噴き出し続けた。
 ゴムはつけていないし、安全日なのかどうかもわからない。妊娠させてしまうかもしれない。
 だが構わない。
 瑞希を失う恐怖を知ってしまった今の俺は、これからもこいつの傍にいられるのなら、たとえ孕ませて責任を負うことになっても、別にどうということはないと思っていた。
 むしろそうなった方が望ましいくらいだ。
 そんなわけで俺は、妊娠のリスクを一顧だにせず、瑞希の中にひたすら射精し続けたのだった。
「はあ、はあ、祐ちゃんの、まだ出てくるよぉ……」
「瑞希すごいよ。マジ気持ちいい……」
 瑞希のか細い体を抱きしめてたっぷりと子種を植えつけた俺だったが、興奮冷めやらぬ俺の肉棒は、依然として衰えることはなかった。
 竿を硬く膨張させて、内側から瑞希を圧迫してやるのが実に気持ちいい。
「はっ、はあっ……ゆ、祐ちゃんの、おちんち、まだ、硬いぃ……」
「ごめんな瑞希。俺……」
 俺は抱きしめた瑞希の耳元で、小さくつぶやいた。
 今の今まで瑞希を、最愛の少女のことを忘れてしまっていた。
 瑞希のことを妹だと思い込み、怪しい力を使って無理やり俺の虜にしようとした。
 しかもその力でさえ、まったくの偽物。
 誰でも思い通りに操ることができる万能の力だと、俺がそう思い込まされていただけだった。
 いったい俺は、今まで何をしていたのだろうか。
 我に返った今、俺は自分を殺してやりたいとさえ思っていた。
 後悔と羞恥に心を締めつけられ、大事な恋人にただ謝るしかない。

 しかし瑞希はそんな俺を咎めることなく、優しい声を返してきた。
「ううん、いいの。祐ちゃんは何も悪くないよ。私だって今までずっと、夢見てた。夢の中で祐ちゃんのこと、お兄ちゃんって思ってた……」
「瑞希……」
「えへへ、不思議だね。私と祐ちゃん、どっちも一人っ子なのに、いつの間にか兄妹になってたんだもん。でも、私はイヤじゃなかったよ? 祐ちゃんのこと、お兄ちゃんって呼ぶの」
 操られていた間、俺は瑞希の兄として、瑞希は俺の妹として、偽りの日々を送った。
 恋人を失った悲しみと、妹を自分の欲望の餌食にする罪悪感。
 俺にとってこの一週間は地獄の亡者のようなどん底の生活だったが、瑞希は俺のことを許してくれて、しかも楽しかったと言ってくれている。
 心の底から救われたような気持ちになり、俺は再度、瑞希の体をきつく抱きしめた。
「瑞希……」
「祐ちゃん……」
 苦しいだろうに、俺をぎゅっと抱き返してくれる瑞希。
 そんないじらしいところもまた、俺は大好きだった。
「んっ……! 祐、ちゃ……!」
 抱き合ったその拍子に、瑞希の中に埋め込まれた俺のモノがこすれ、新たな快感となって二人の脳を冒した。
 あれだけ射精したというのに、俺の肉棒はまだいっこうに衰えない。
 俺は頬を赤くして、瑞希に向かって囁いた。
「なあ瑞希……こんなときに何だけど、俺……もっとしたいんだ。だから……続けていいか?」
「うん、いいよ……私も、もっと祐ちゃんと……」
 期待と官能に染まった幼馴染の声。こちらを見上げる視線も情欲を含んでいた。
 どうやら瑞希の方も、まだまだ足りないらしい。
 体液で汚れたベッドの上で、俺は再び瑞希を犯し始めた。
「あ――ゆ、祐ちゃん……?」
 仰向けになった瑞希の膝を曲げさせ、脚の間に体を入れる。
 もちろん股間のものは、瑞希の中に深々と挿入されたままだ。
 一応これも、正常位に入るのだろうか。
 恥ずかしそうな瑞希の顔を上から見下ろす征服感、体をすりつけて得られる密着感が実に心地よい。
 先ほどイったばかりの瑞希のほっぺたは、まるでリンゴのように真っ赤だった。
 興奮と絶頂の余韻と、屈辱的な姿勢がもたらす羞恥が、はっきり頬を火照らせている。
 そんな瑞希にのしかかって挿入部をグイグイと圧迫する、この快感。
 男女の合わさった部分から、俺と瑞希の混合液がトロトロと溢れてくるのも最高だ。
「あ、ああっ……! ゆ、祐ちゃ、そんな、やっ、激しっ……!」
「すまん、瑞希……腰、止まんねえ……」
 グッチョグッチョと卑猥な音を立てながら、肉棒がまた膣内をかき回す。
 上体を倒しながら、しかし体重をかけすぎないように注意して、俺は瑞希を押さえ込んだ。
 両の手をシーツについて、百五十センチあるかも疑わしい小柄な少女を上から犯す今の俺の姿は、知らない人が見たら犯罪行為と誤解してしまう、スレスレの領域だろう。
 だが間違いなくこの女は、俺の妹の中学生などではなく、小さい頃からずっと俺と一緒に過ごしてきた、幼馴染の同級生なのだった。
「ん、んんっ、あ、ああっ! やっ、やあ――!」
 曲げた手足をバタつかせ、涙ながらによがり狂う黒髪の女。
 ガキっぽい童顔で幼児体型のくせに、瑞希の喘ぎ声のエロさは一人前だ。
 そして俺の陰茎をくわえ込んで離さないこの締めつけも、いつものこと。
 汁を絡ませ肉を絞り、必死で俺を締めあげる。
 しかし俺はさっき出したばかりで、多少の余裕があった。
 瑞希の熱と汁とを堪能しつつ、喘ぎまわるその顔を眺めて悦に入る。
 充分以上に可愛いこいつの顔立ちは、やはりどこか子供っぽいが、その微笑ましさと唇から漏れるよだれ、あられもない嬌声とのギャップが、たまらなくヤバい。
「あっ、ああ――ゆっ、ゆう、ちゃ……んっ、んああっ !!」
 俺の名を呼びつつ、腰を前後に揺すって体液を漏らし続ける瑞希。
 その白い肌もシーツもベトベトで、まったくひどいありさまだった。
 心の底でふわりと笑いながらも、俺は瑞希を責めたててやまない。
 体を上下させ、挿入した部位を激しく往復する。こすれた肉がグジュグジュ唸る。
 快感と満足感と、そして征服感が、俺の心をじわじわと侵食していった。
 やがて瑞希が膣をギチギチ絞り、また俺の射精を求めてきた。
 真上を向いて馬鹿みたいに口を開け、恥じらいのない絶叫が響く。
「やっ、あああっ、ひいぃ――い、イク、イっちゃうっ!」
 それを確認した俺も、口元をほころばせてうなずいた。
「ああ、瑞希……俺も、もっかい……」
「あふ、ああっ! ふあっ、ゆっ、ゆうちゃっ、あああぁっ !!」
 グッと上からのしかかり、一気に奥まで突き入れる。
 陰嚢がブルブル震え、瑞希の一番深いところに突き刺さった先から、熱いものを撒き散らした。
 俺の愛情と欲望がめいっぱい凝縮された、濃厚すぎる雄のスープ。
 ビュルッ、ビュルビュルという卑しい音が実際に聞こえてきそうなほどの勢いで、凝縮された俺の遺伝子が、瑞希を孕ませようと膣の奥深くに注ぎ込まれていく。
 二度目の中出しだったが、やはり充分な量を射精した俺は、満ち足りた息を一つ吐いた。
 瑞希はと言えば、俺の下になったまま、ぐったりしてヒューヒュー息を漏らしていた。
 満足そうに顔を歪め、そして時おり身をピクピクさせて、雌の喜びを全身を使って表現している。
 失神しているのかもしれないが、たまに吐息の中に意味不明の音声が混じるので、一応、意識の欠片は残っているようだった。
 半死半生の瑞希の虚ろな瞳と垂れたよだれ、口から漏れる息とうわ言が、この上なく艶かしい。
 さすがに、俺はこんなマグロ状態のこいつを犯し続けるほど鬼畜ではなかった。
 まだ少し張りの残る肉棒をズブリと引き抜き、てらてら光るそれを照明の下にさらけ出す。
「ふう……」
 そこで俺はやっと瑞希を手放し、彼女に寄り添うように、汚れたベッドに横になった。
 後に残ったのは適度に弛緩した男女の体と、恋人同士の荒く艶かしい呼吸だけ。
 それ以上の言葉は発さず、そっと瑞希の手をとって、ぼんやり天井を見上げる。
 全ての記憶を取り戻し、互いの存在をもう一度確かめ合った、俺と瑞希。
 言い知れない幸福感に包まれ、俺が意識を失いそうになった頃、その頭上から落ち着いた声がかけられた。
「お疲れ様。楽しませてもらったよ」
 まるで美術館の絵画の世界から抜け出してきたかのような、不自然な美貌。
 歳は俺と同じくらいだが、不思議と成熟した老人を思わせる風格をかもし出している。
 そんな私服姿の少年がいつの間にかベッドの脇に立ち、静かに俺を見下ろしていた。
「ちっ、お前か……」
 げんなりした口調で、それだけを言い返す。
 全てを思い出した今、あの煮えたぎるような殺意も消え失せていたが、それでもこいつを殴りたいとは思っていた。
 俺の気が済むまで、思い切りボコボコにしてやりたい。
 だがそれは不可能だろう。
 俺は心身ともに疲労しきっていたし、それに、やはりこいつは普通の人間じゃないようだった。
 魔法使いか悪魔か、それとも超能力者か。
 やろうと思えば、俺をこのまま消し去るくらい、簡単なことだろう。なら逆らっても無駄だ。
 俺は達観と諦観の狭間で揺れ動きながら、大きな息をひとつ吐いた。
 隣ではとうとう完全に意識を失った全裸の瑞希が、気持ちよさそうに寝転がっている。
「ったく、こういうことかよ。最後まで思い出せなかった……」
「彼女と最後までしちゃうのが、暗示を解く唯一の方法だったからね。仕方がないよ」
「結局、俺はお前にもてあばれて、哀れなピエロを演じてたってわけか……くそ」
 そう吐き捨てる俺を見て、少年が嬉しそうに唇を弧状に曲げる。
 簡単なことだ。瑞希が車にはねられて死んだというのがそもそも嘘、俺が見せられた幻だったんだ。
 妹の双葉なんて子も、最初からいやしない。あれは俺の妹だと思い込まされていた瑞希だ。
 俺も瑞希もこの少年に記憶と認識をいじくられて、「恋人を殺された不幸な男」と「その病弱な妹」になりきっていただけ。
 俺と瑞希と、あと俺の両親の四人。他にも何人か操ったかもしれない。
 こいつはそうして俺と瑞希を偽りの兄妹に仕立て上げ、横からその茶番劇を眺めて笑っていたんだ。
 瑞希がいなくなったのに学校の皆がいつも通りだったのも、ただの欠席だから当たり前のこと。
 俺はこの一週間の間、本物の瑞希を実の妹だと思い込み、さらにそれを瑞希本人に仕立て上げようとする、愚かな道化になっていたというわけだ。
 はっきり言って、はらわたが煮えくり返る思いだが、今さらどうすることもできない。
 無言で天井を見上げていると、平静そのものの様子で、少年が言葉を続けた。
「でもよかったじゃない、瑞希さんが死んでなくて。これで彼女のありがたみが、君にも改めてわかったでしょ?」
「…………」
「愚か者は、それを失うまで自分が大事なものを持っていたことに気がつかない。君も今の自分をもう一度見つめ直して、今、自分が持ってるものを大切にするんだね」
「黙れよ、畜生……」
 こんなやつに説教されるのは腹が立つ。俺はゴロンと横になって目を閉じた。
 眠ってしまえばこいつの綺麗な顔を見なくても済むし、よく透る声音も聞かなくて済む。
 まるで聞く気のない俺の耳を、あいつの声がくすぐり続けた。
「自分の見ているもの、自分の周りにあるもの。それはホントにそこにあると思う? ひょっとしたら、そこにあると君がただ思い込んでるだけかもしれないよ」
「うるさい、もう帰れ……」
「大事なのは全てを疑うこと――隣人も常識も、そして自分自身でさえも疑うこと。信じることは難しいけれど、疑うことはそれ以上に難しいものなのさ」
「…………」
「じゃ、僕はそろそろ帰るとしよう。今回は楽しませてもらったよ、ありがとう。ああ、最後に一つだけ。ちゃんとお礼はさせてもらったから、後で確認しといてね」
 その言葉と共に、部屋の中から一つの気配が消えて失せた。
 俺はうっすら目を開け、横で寝ている瑞希の寝顔を眺めると、
「くそ……」
 その一言だけを吐いて、力尽きて寝床に横たわった。

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 

 あれから数日が経った。
 あの少年に騙されていた俺と、やはりあの少年に操られていた瑞希。
 二人揃ってオモチャにされて、もてあそばれて、まさに散々な目に遭ったが、これでようやく全てが元通りになった。
 俺と瑞希は日常を取り戻し、幼馴染、兼、恋人同士として楽しくやっている。
 だが、たった一つだけ、あの事件が起きてから変わったことがあった。
 それは俺たちを取り巻く家庭環境、つまりは家族のことだった。

 俺は座り込んだまま、瑞希の背中に手を回し、幼馴染の細い体を締めつけた。
 少女の裸体と胸をひっつけ、唇と唇とを重ね合わせる。
 唾に濡れまくった唇と舌が絡み合い、ぴちゃぴちゃと淫らな音を立てた。
 鼻で息をしながら、俺たちははあはあ言って、お互いを求め合っていた。
「ん、んんっ、祐、ちゃ――」
「んっ……瑞希、動くぞ。いいか?」
 それだけを聞き、相手がうなずいたのを見てまたキスを交わす。
 飢えた野良犬を思わせる下品なディープキスをしながら、繋げた腰を突き上げた。
「んんっ、んむぅっ……!」
 瑞希はあぐらをかいた俺の上に向かい合わせで座り、奥をゴリゴリかき回されていた。
 ただでさえ小柄なこいつの中に、対面座位で俺のモノを深々と突っ込んでいるのだ。
 そのキツさも締めつけも、半端じゃない。
 両手で瑞希の腰をつかみ、叩きつけるように自分の腰を跳ねさせる。
「んぶっ、ふぐぅっ、んんんっ!」
 かなり辛い姿勢ではあるが、瑞希は俺の動きにびくびく反応し、繋げた口から俺の中へと唾を吐き散らした。それが俺の唾液と混ざり、二人の口内で一つになる。
 むせてしまいそうなほど濃厚な、俺と瑞希の混合液。
 その汁を半分だけ自分の喉に流し込み、残りをこいつに送り込んでやると、瑞希は酸素不足に喘ぎながらも、それをごくんと飲み干した。
「はあ、はっ、ふぁっ、はあっ……んっ、がふっ!」
 飲み込んだ瞬間に膣を派手にえぐったから、唾が喉に引っかかったかもしれない。
 俺は瑞希と抱き合った姿勢で、一旦動きを止めた。
 そしてコホコホ咳込むこいつの背を撫で、優しくさすってやる。
「けほ、けほっ……ゆ、祐ちゃん……!」
「すまんすまん。今のはちょっとやり過ぎた」
 背中の次にツインテールの頭を撫でると、瑞希の機嫌は直ったようだった。
 熱を帯びた性器を繋げながら、二人して笑い声をあげる。
 俺は気を取り直し、瑞希の腰を抱えて再び動き出した。
「んっ、んああっ……あっ、ああっ」
 裸の瑞希を揺さぶり、俺は結合部をグチュグチュかき回した。
 俺だけが動くのではなく、瑞希も懸命に腰と太ももをすりつけ、身体を溶け合わせてくる。
 深く深く瑞希を貫く、膨張しきった俺の肉棒。
 好きな女の肉と汁とに包まれるこの感触が、本当にたまらない。
 瑞希が俺の体に両腕を回し、きつく密着してきた。
 小柄でか弱いこいつの一生懸命の抱擁に、つい俺の頬も緩んでしまう。
「はあっ……祐ちゃっ、祐ちゃっ、ゆうちゃあん……」
 扁平とすら言える胸――完璧な貧乳を俺の胸板に押し当てて、上目遣いに俺を呼ぶ。
 情欲に歪んだ眼が嬉し涙でにじんで、開いた口からよだれを垂らす。
 その唇の隙間からチロチロのぞく赤い舌に、俺は無言でむしゃぶりついた。
「んんっ、あむっ、んっ、んぐうっ!」
 再びの、もう何度目かもわからないキスに、二人の呼吸が荒れる。
 極上のタンと、それにかけられた雌のソースを、俺は心ゆくまで味わった。
 瑞希の上の口は俺の舌をくわえ込み、舌と唾とを絡めてくる。
 下の口は俺の陰茎をくわえ込み、ヒダと汁とを絡めてくる。
 上下共に繋がった俺たちは、男と言わず女と言わず、お互いを求めて貪り合った。
 背中をぐんと伸ばして俺の接吻を受け入れる瑞希が、胎内をかき回され、また跳ねる。
「んっ! んぐっ、んんんんっ、んんっ !!」
 面子も羞恥もかなぐり捨てて喘ぎたいのに、口を塞いだ俺がそれを許さない。
 瑞希の身体を腕で締めつけ、俺は腰の筋肉を駆使してこいつの中を暴れ回った。
 肉をかき分け、奥を突きまくる、乱暴すぎる俺の動き。
 一つになった唇からは、荒い呼気と唾液とが、絶え間なく俺に送り込まれてくる。
 目はトロンとして理性を失い、陰部と口は本能のまま、俺をつかんで離さない。
 そして肉欲に狂った一人の女、一匹の雌が、盛大に絶頂を迎えた。
「んんんんっ !! ん、んふっ、ん、んんっ……!」
 俺に抱きついた瑞希が震え、膣内を激しく絞り上げた。
 雄に射精を促す雌の喜びに、声にならぬ声をあげて全身が痙攣する。
 幸せそのものの瑞希のイキっぷりに俺も限界を迎え、尿道を解き放った。
 待ちかねた数億匹の精子の群れが、幼馴染の女性器の中にドクドクとぶち撒けられる。
 心地よい射精の快感に俺も満ち足りて、痛いほど瑞希を抱きしめていた。
「はあ、はあ、はあっ……」
「んんっ、はっ、はあっ、ふうっ……」
 重なり合う男女の呼吸がまた、俺と瑞希を安らげる。
 興奮と達成感と、この上ない満足感。
 互いにイった後も、俺と瑞希はしばらく抱き合っていた。

 そこに横からかけられた、穏やかな女性の声。
「終わったかしら? ふふ、お疲れ様」
 振り向くと、エプロン姿の小柄な女の人がバスタオルを手に、すぐ近くに立っていた。
 今、俺と性を交えていた女によく似た、落ち着きのある大人の女性。瑞希のお母さんだった。
「すいません、ありがとうございます」
 俺は瑞希の中から己自身を引き抜き、礼を言ってタオルを受け取った。
 抜けた拍子に、また瑞希が軽く喘いで達してしまったのは、まあご愛嬌と言えよう。
 陰部からとろとろと女汁を垂らして俺を見つめる幼馴染の姿は、ヤバいほどエロい。
 瑞希のお母さんはそんな俺たちを見つめ、感心した声で言った。
「それにしても瑞希、すごかったわねえ。何回くらいイっちゃったの?」
「え、えーと……何回だろ……覚えてないや」
「ふふっ、あんまり気持ちよさそうだから、思わず見とれちゃった。祐介君、こんなぼーっとした子の相手してくれて、いつもありがとう」
「いや、別に礼を言われることじゃ……」
 俺は汚れた身体をタオルで拭きながら、少し疲れた声で言い返した。
 あいつがそう仕組んだこととはいえ、小さい時から慣れ親しんだこの人に、こんなことを言われるのはやっぱり違和感がありまくる。まあ仕方のないことではあるんだが。
 瑞希のお母さんは、やはりこいつの血縁らしく童顔で、少女のように可愛らしかった。
 しかもおっとりした性格をしてるから、なおさら若く見える。
 瑞希とよく似た女性が、もう一枚バスタオルを取り出して、男に汚された娘の身体を優しく拭いてやっているさまは、俺に不思議な興奮をもたらした。
 きちんと後始末をする俺に目をやりながら、瑞希のお母さんがつぶやいた。
「あら、また今日も避妊してたの? 祐介君って、やっぱり真面目ねえ」
 そう。俺はきちんとゴムをつけ、瑞希が妊娠しないよう気を遣っていたのである。
 あのとき、俺は瑞希とゴムもつけずにひたすら生でやりまくったが、結局俺の種が実ることはなく、瑞希は今も健全な女子高生ライフを送っている。
 だがお母さんの言い方は、感心するというよりは残念がる感じだった。
 小さくため息をついて、お母さんがぼやく。
「あーあ、でも早く孫の顔が見たいわ。祐介君、そろそろ本気で作っちゃわない? 祐介君だったらいつでも大歓迎だから、ゴムなんて使わないで、思いっきりこの子に種つけしまくってもいいのよ?」
「お、お母さんっ!」
 高校生の娘を早く孕ませろと、その彼氏に催促する母親。
 かなり常識外れの発言だが、今のお母さんにとっては、それが当たり前のことになっていた。
 もちろん、あの少年がお母さんに術をかけて、このような思考に誘導したからである。
 だからこうして、お母さんが夕食の準備をしている間に、隣で俺が堂々と瑞希を犯していても、文句一つ言われない。むしろ応援される。
 ちなみに同じ処置は、瑞希のお父さんと、俺の両親にも施してあった。
 だから俺と瑞希は、毎日お互いの家でやり放題だ。
 まだ高校生なのでさすがに避妊は欠かせないが、もし仮に瑞希が妊娠してしまったとしても、瑞希の両親もうちの親も、みんな大喜びしてくれるだろう。
 まだ結婚できないというのに、早く初孫をと、こうして日々せっつかれている。
 人の記憶と認識を操る力を行使していた、あの謎の少年。
 今のこの状況が、あいつの実験台になった俺たちに支払われた報酬というわけだ。
 高いのか安いのかわからんが、お互いの家で親の目を気にすることなくセックスのし放題というのは、年頃の俺たちにとって、確かにありがたい話ではあった。
 瑞希に服を着せ終わると、お母さんは俺たちに告げた。
「じゃあ二人とも、そろそろご飯にしなさい。頑張って作ったから、たっぷり食べるのよ」
「はい。ありがたくご馳走になります」
 やりまくっていたので気づかなかったが、隣のダイニングには夕飯のいい香りが立ち込めていた。
 瑞希が俺の隣で腹を小さく鳴らし、恥ずかしそうに顔を伏せる。
 今日の瑞希んちのメニューは中華で、ボリュームのあるチャーハンと唐揚げが非常に美味かった。
 あいにく瑞希のお父さんは今夜遅くなるとのことだったが、三人で囲んだ夕飯の席は、娘に対するお母さんの詮索でかなり盛り上がった。

 そして今夜、宿泊の許可を頂いた俺は、瑞希の部屋で寝ることになった。
 狭いあいつのベッドにもぐり込み、二人でイチャイチャ。
 抱き合ったりキスしたりして、ついつい夜更かししてしまったが、こういうとき、今の自分が本当に幸せだと感じる。
 瑞希が死んだと思ったとき、気が気じゃなかった。
 俺はこんなにもこいつのことが好きだったのかと、今さら気づかされた。
 小さい頃からずっと一緒だった幼馴染で、今は大事な恋人で。
 もう二度とこいつを離すつもりはない。もう二度と手放さない。
 はらわたが煮えくり返るようなことをしやがったあの少年だが、あいつのおかげで、俺は自分自身を見直すことができた。
 何よりも大事なのは瑞希だと、何よりも優先すべきは瑞希なんだと、改めて思い知ることができたんだ。
 その点だけは、素直にあいつに感謝したい。
 瑞希、お前は俺が守る。絶対に、誰からも何からも守ってみせる。
 そうだ、全ては俺と瑞希のためにある。

 そんなことを考えていたら、眠たくなってしまった。
 とりあえず今日は寝て、明日のことはまた明日、ゆっくりと考えよう。
 焦る必要はない。何よりも大切な瑞希は、今、俺の腕の中にいるのだから。
 大事な女と一緒のベッドでまどろみながら、俺はそっと自分の意識を手放した。
 だから、その後に俺のすぐ近くから聞こえてきたやり取りを、俺は認識することができなかった。

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 

「やあ瑞希さん。まだ起きてるのかい?」
「あ……来てたの? 祐ちゃん、起きちゃわない?」
「大丈夫さ、王子様はぐっすりおやすみだ。君の方は眠れないの?」
「う、うん。祐ちゃんと一緒だから、その、嬉しくって、なかなか眠れなくて…」
「あはは、それはよかったね。その様子なら、僕も一肌脱いだ甲斐があったってものだよ」
「本当にありがとう。私を祐ちゃんの一番にしてくれて……」
「礼には及ばないさ。僕も充分楽しめたからね。それより君こそ、本当に良かったのかい? 今の祐介君は君への執着が強すぎて、ちょっとばかり歪んじゃってるけど」
「ううん、いいの。祐ちゃんはちょっぴりドライだから、このくらいがちょうどいいの。あれから祐ちゃん、ずっと私だけを見てくれてるんだもん……やっぱり嬉しい」
「はっはっは、そうかい。君はホントに祐介君が好きなんだね。今みたいに彼の心をいじくって、無理やり自分に縛りつけても後悔しないんだもの」
「もう、そんな言い方……」
「まあ、また何かあったら相談してよ、待ってるからさ。それじゃ、おやすみ」
「うん……おやすみなさい、魔法使いさん」
「…………」
「祐ちゃんも、おやすみなさい。今日も、明日も、明後日も、ずっと私のそばにいてね。私の祐ちゃん……」


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