真理奈と瑞希

 日がかげって外を見やると、空が半分ほど曇っていた。
 だがこの天気も晴れと呼ぶということを、小学生のときに習って不思議に思ったことを覚えている。
「ふう……」
 森田瑞希が窓の外を向いて何となくため息をつくと、誰かが廊下から走ってくる音が聞こえてきた。
「みっずきぃ〜!」
 ちょうど昼休みになったばかりで、購買や食堂は飢えた生徒の群れで歩けないほど混雑しているというのに、走ってきたその少女は、両手にパンを抱えて得意げに瑞希のところにやってきた。
「へっへ〜、やきそばパンとクリームパンゲット!」
 少女はかなりの長身だった。
 長い手足には程よく肉がつき、男の目を引く曲線を描いている。髪は茶色に染めた癖っ毛で、毛先は肩の辺りまで。派手な顔立ちといい、スタイルのいい肢体といい、いかにも男受けのしそうな女だ。
 彼女の名前は加藤真理奈。瑞希の一番の親友である。
 瑞希はいつものごとく昼食の確保に成功した真理奈を、呆れた顔で見つめた。
「いつもいつも、よく欲しいのパッと買えるよね……」
 あの混雑の中、よく目当ての品をひと目で把握し、他の生徒たちを出し抜いて買ってこれるものだ。以前瑞希も挑戦したことがあるが、押し合いへし合いの人だかりの前にあえなく敗退してしまい、今は自分で簡単な弁当を作って持ってきている。
 真理奈はパンの袋を見せつけるように瑞希の机の上に置くと、勝ち誇った表情で向かいの席に腰を下ろした。
「ふふん、これがあたしの実力よ」
「うん、そうだね。すごいね」
「ほらほら、遠慮しないで、もっと誉め称えていいわよ?」
 牛乳のパックにストローを突き刺した彼女に、瑞希は軽く首を振る。
 少しつまらなそうな表情を浮かべた真理奈だったが、ふと思い出したように瑞希に笑いかけた。
「そういえば、中川もパン買いに来てたわよ。かなり苦戦してたみたいだけど」
「祐ちゃんが?」
 その言葉に瑞希が顔を上げた。
 相手の表情の変化を面白そうに眺める真理奈。
「大好きな男の子が昼食にありつけないかも、って思うと瑞希としても心配よねえ? どうせお弁当作るんだったら、中川の分も作ってやったらいいのに」
 瑞希は頬をかすかに朱に染めた。
「べ、別に私と祐ちゃんはそんなんじゃ……」
「はいはい。あんたはいつもそう言いますけど、はた目には瑞希が中川のこと好きなのはバレバレよ。しかも、向こうも満更でもないみたいじゃない」
「え、えーと、どうなんだろ……?」
「あーあ、なんであんた達、まだくっついてないのかしらねえ。小さい頃からずっと一緒だったんでしょ?」
 軽く息を吐いて言う彼女に、瑞希は無言でうなずいた。
「あたしから見ても、瑞希はそこそこ可愛いしいい子だし、運動以外は何やらしても万遍なくできる優良物件なんだけどなぁ。正直言って、中川なんかにゃもったいないくらいよ」
 瑞希は黒の長い髪をツインテールにした、内気そうな女子高生だ。細く小柄な体格と、幼さの残る顔立ちが中学生によく間違えられるのが、ささやかで微笑ましい瑞希の悩みである。
「そんなこと……ないよ」
 恥ずかしそうに顔をそむける瑞希だったが、その染まった頬にいきなり真理奈の両手がかけられ、強制的に彼女の方を向かされた。
「――ま、まりなちゃん !?」
「瑞希に何が足りないって、やっぱり気合よねぇ。あんた達、少年漫画の奥手なカップルじゃないんだから、お互いにもっと積極的にならないと駄目よ? 毎日お弁当作ってやるとか! 学校まで一緒に来て帰るとか! そのくらいしないと二人の仲は進展しないってば」
「だーかーらー! 私と祐ちゃんはそんなんじゃないのー!」
 うーん、駄目だこりゃ。泣きそうな顔で言ってくる少女を見て、真理奈は心底そう思った。

 放課後、真理奈は瑞希を連れて校門のそばで立っていた。
 自他共に認める勝気な美女と、その親友の内気な美少女という組み合わせに、通行人からは興味深げな視線がちらちら送られたが、そわそわと落ち着かない瑞希とは逆に、真理奈は悠然とその場に仁王立ちしていた。
「まったく。あんまりにも不甲斐ないから、あたしがあんた達の仲を取り持ってあげるわ」
「だ、だからそんな心配しなくても……」
「黙らっしゃい! 今のままじゃ、あんた中川を他の女に取られちゃうわよ !?」
 意中の人がごく近くにいるというのに、生来の柔弱さからいっこうに行動を起こせない友人を、今まで真理奈は苛立たしい思いで見ていたのだった。
 こうなったら、自分が協力して二人をくっつけてやらないと。
 突如として使命感に駆られた真理奈は、とりあえず二人の登下校を一緒にすると真理奈に宣言し、瑞希と共に祐介の帰りを待つことにしたのだった。
 じっと待つ二人の前を通り過ぎていく生徒の群れ。
 数分ほど待った頃、真理奈はその人ごみの中に、一人の少年の姿を認めた。
「ほら、来たわよ。あんたの王子様が」
「う、うん……」
 中肉中背、やや鋭い目つきを除けば、これといって特徴のない少年である。口を一文字に引き結び、ただ前を向いて無表情で歩いている。連れはおらず一人きり。
 中川祐介。瑞希の幼馴染の少年で、彼も瑞希や真理奈と同じクラスの生徒だった。
 彼は校門の近くにいる二人に気がつくと、まるで自分をにらみつけるようにしている真理奈と瑞希に、不思議そうな顔を向けた。
「ん、二人ともどうしたんだ? こんなとこで」
「やっと来たわね中川。あんた、今日はあたし達と一緒に帰りなさい」
「はあ?」
 自信満々の真理奈に突然、訳のわからないことを言われてしまい、祐介は困惑した。
 ――俺、こいつに何かしたっけ。それとも何かの罠だろうか。こいつが尻軽なのは知ってるが、俺に興味があるとは思えない。何だ。一体何なんだ。狙いはなんだ。
 どう答えていいかわからず祐介がその場に立ち尽くしていると、瑞希が顔を赤らめて小さな声で言った。
「祐ちゃん……一緒に帰ろ?」
「あ? あ、ああ……」
 幼馴染の少女の言葉に、彼はついうなずいてしまう。
 横で真理奈がニヤニヤ笑っているのが見えたが、それは無視することにした。

 祐介と瑞希は家も近く、幼いときからよく一緒にいた。泣き虫でよくいじめられていた瑞希と、無口で可愛げのない祐介。互いに友達が少ない二人は自然と行動を共にすることが多く、瑞希にとって彼は自分を守ってくれる心強い存在だったのだ。
 小さい頃からそれなりの優等生だった祐介に追いつけるようにと、瑞希は中学生になったくらいから勉強に精を出し、何とか彼にそう劣らないほどの学力になった。祐介と違ってスポーツはカラっきりだが、それはもう諦めている。
 真理奈にはよくからかわれているが、今でも二人は一緒に映画に行ったり、買い物に行ったりと実に仲が良い。気の弱い瑞希を、祐介は優しく自然にリードしてくれる。しかしそれはあくまで友人としてのつき合いであり、二人はまだキス一つしたことがなかった。
 好きなのかと聞かれると、瑞希はそうだと答えるだろう。
 だが祐介が彼女をどう思っているかはわからない。もし祐介が瑞希のことをただの友達だと思っていたら。女ではなく女の子にしか見ていないとしたら。
 そう思うと、瑞希はその先に踏み出すことができなかった。もし告白して断られたら、この関係が壊れてしまうのではないか。もう彼と一緒にいられなくなってしまうのではないか。そう恐怖に駆られてしまうのだった。
 加えて、そろそろ成長期が終わりつつあるのに、いっこうに背が伸びず胸も膨らまないのも、瑞希にとっては大きなコンプレックスだった。
 何しろ、今でも私服姿だと中学生、下手をすれば小学生に間違えられてしまうのだ。
 祐介と二人でどこかに出かけても、周囲の人間は決して同級生とは見てくれない。仲が良くて微笑ましい兄妹。どこに行ってもそんな扱いを受けた。
 対して、瑞希の友人である真理奈の体は実にスタイルが良く、制服の胸元で揺れる豊かな肉の塊は瑞希の羨望の対象だった。身長も祐介とそう変わらないくらいで、自分より二十センチ近くも高い。
 そんな友達と毎日顔を合わせていると、つい自分の幼児体型を見下ろしてため息の一つもついてしまうというものだ。
 この間も、瑞希は祐介と一緒に遊びに出かけ、帰りに彼を自室に招いた。
 自分にできる精一杯のおめかしをし、祐介の前で無防備にごろごろ転がっていたのだが、彼はずっと雑誌に目を落としたまま、すぐそばにいる異性の幼馴染にろくに関心を払わなかった。あの時は祐介が帰ったあと、ひとりベッドの上でしょぼくれたものだ。
 祐介に彼女がいるという話は聞いたことがないが、その気になれば恋人の一人や二人簡単にできるだろう。彼は無愛想だが成績もスポーツもそこそこで、顔も決して悪くない。真理奈の指摘した通り、このままではいつか祐介が、瑞希以外と女とつき合うことになるかもしれないのだ。
 かと言って、内気な瑞希には自分から行動する勇気もない。
 ついつい物事を悪い方向に考えてしまう臆病な瑞希と、口数が少なく自分の考えをあまり周りに言わない祐介。
 この二人の仲が進展しないのも、至極当然のことかもしれなかった。

 帰り道、三人は話しながら歩いたが、もっぱら喋っているのは真理奈だった。
「あたしのこと裏であれこれ言ってるやつがいるみたいだけど、そんなの根も葉もない妬みだから誤解しないでね」
「そうか? お前この間、ふたまたかけてたのがバレたって聞いたが……」
「違う違う。ちゃんと古いのは振ってから、新しいのとつき合い出したわよ。その話流したの、きっと古いのの方ね。これだからやっかみってのは困ったもんだわ」
「ホントかよ……?」
 半目でこちらを見つめる祐介に、真理奈が笑って言った。
「でも、あたしが恋愛に積極的なのは否定しないわ。このあたしの美貌と魅力を眠らせておくなんて社会の損失だもん」
「…………」
 さらりと凄まじい言葉を口にされ、祐介が思わず絶句する。
「それにしても、あたしのやる気の十分の一でも瑞希にあればねぇ。素材はいいんだから頑張ったら結構モテるだろうに、もったいない」
「え !? あ、そ、そんなことないよ……」
 瑞希は唐突に水を向けられ、慌てふためいた。
「せめて、好きな相手にちゃんと告白できるようにならないと駄目よ?」
「ま、真理奈ちゃん!」
「なんだ、瑞希って好きなやついるのか?」
「え、あ、ああ、あわわわ……!」
 真っ赤になって両手をじたばたさせる瑞希を、祐介は顔に疑問符を浮かべて見つめるばかりだった。

 瑞希と祐介は家が近いが、真理奈の自宅のマンションは少し離れたところにある。通学路の交差点で、彼女は二人に手を振って別れを告げた。
「じゃ、また明日ね」
「うん。真理奈ちゃん、またね」
「じゃあな、加藤」
 二人と別れ、颯爽と歩き始める真理奈。少女の頭の中は、これからあの二人の仲をどう進展させていくかで一杯になっていた。
 傾いた日が差し込む中、彼女が後ろを振り返ると、先ほどの交差点から瑞希と祐介が歩み去るのが確認できた。親しげに話しているようだが、特にいつもと変わらないようにも見える。
(まあ、やっぱ今日だけじゃ進展も何もないわね……)
 瑞希が大人しすぎるのもあるが、祐介が鈍すぎるというのも問題だった。
 恋は自分でつかみとるもの、と考えている真理奈にとって、横から見た二人の様子は非常に苛立たしいものに映る。何とかしてあの二人をくっつけなくては、こちらまで苛々してしまう。
 客観的に見れば好奇心混じりのお節介ではあるのだが、真理奈の方にそんな発想はつゆほどもなく、親友のために影ながら力を尽くそうとする自分の姿を誇らしくさえ思っていたのだった。

 真理奈のマンションの一階はコンビニになっている。
 そういえば、今日はよく読む雑誌の発売日だった。とりあえず軽く立ち読みして買うかどうかを決めようと、彼女はいつものようにコンビニの自動ドアをくぐった。
「いらっしゃいませ」
 そのとき、何気なく店員の方を向いた真理奈の目が見開かれた。
 高校生くらいだろうか、彼女と同じ年頃の少年がレジに立っている。
 彼女が驚愕したのは、その端正な顔だった。テレビや映画の俳優が三枚目にしか思えなくなる美貌は、まるで芸術の世界からこっそり現実に紛れ込んできたかのようだ。
「お客様、どうなさいましたか?」
 その言葉にはっと気がつく。
 真理奈は自動ドアのそばから動かず、ずっと扉を開けたままにしていたのだ。
「……いえ、ご、ごめんなさい」
 戸惑いを隠せず、彼女は頭を下げて店内に入った。
「…………」
 気を紛らわせるように雑誌を手にとってパラパラとめくったが、さっぱり内容が頭に入らない。
 他に客はいないようで、店には彼と彼女が二人きり。
 バイトのようだが、どこの生徒だろうか。この自分ですらかすむほどの美貌、見たことがない。
 歳は。名前は。住所は。家族構成は。恋人はいるか。
 少年に対する興味を最大限煽られた真理奈は、とにかく彼と何か話そうと、手にとっていた雑誌をレジに持っていった。
「あの、これ……」
「いらっしゃいませ、四百八十円になります」
 軽やかにレジを叩いて少年が言う。細く形のいい指も、透き通るような声音も、彼の何もかもが真理奈を魅了してやまなかった。上気した顔で少年を見やる彼女に、少年が笑いかけた。
「ご一緒にサプリメントはいかがですか? 当店のおすすめ商品なんですよ」
「え……?」
 真理奈が熱病患者のような顔で彼の示した方を見ると、レジの隅に白いパッケージに入ったサプリメントが置いてあった。
 よくわからないが、おすすめ商品らしい。安かったこともあり、少年に言われるまま彼女はそれを購入してしまった。
「ありがとうございましたー」
「……あ、あとあなたをお持ち帰りで!」
「お客様、セクハラはおやめ下さい」
「いーじゃんいーじゃん。ねえ、バイトいつ終わるの?」
 盛んに話しかけて彼の気を引こうとする真理奈だったが、少年の笑顔は婉曲な言葉で彼女を拒否し続ける。
 十数分後、ようやく店を出た真理奈は、肩を落とした様子でマンションのエレベーターを上がり、自宅に帰っていった。

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 

 翌日の朝、瑞希が一人で登校していると、いつもの調子で真理奈が走ってきた。
「おはよー!」
「おはよう、真理奈ちゃん」
「何よ、あんた中川と一緒じゃないの? できるだけ一緒にいないとダメじゃない」
 口を尖らせる彼女に、瑞希がおどおどとした様子で答える。
「だって、いつも祐ちゃん、遅刻ギリギリに来るから……」
「何言ってるの。そこは朝から起こしに行ってやるのが女房ってもんでしょうが」
 昨日、真理奈が提案した内容は、男にアピールする女子高生としてはさして並外れたことでもない。
 できる限り瑞希と祐介、二人一緒にいるようにすること。近所に住んでいる幼馴染なのだから、朝起こしに行ってやったり、昼休みに手作りの弁当を二人で食べたりするのが望ましい。漫画のように月並みな内容だが、それだけに安定した効果を期待できるはずだ。
 しかし瑞希は恥ずかしいのか勇気が出ないのか、来る途中に祐介の家の前を素通りしてきたらしい。
 友人の不甲斐なさに真理奈は天を仰ぎ、大げさにため息をついた。
「はあ、朝からあいつをスルーとか、いきなりダメダメなスタートね……。で、ちゃんとあいつの分のお弁当は作ってきたの?」
「う、うん。一応……」
 恥ずかしそうに頬を染め、瑞希がうなずいた。
 だがこの調子では、昼食時になってもせっかくの弁当を彼に手渡せないかもしれない。昼休みには自分が彼女のそばについて、思い切りその尻を叩いてやろう。真理奈はそう決意した。
 朝の爽やかな通学路を、瑞希を先導するように歩き出す長身の少女。
 後を追う瑞希には、彼女の心の声は聞こえない。
(昨日のアレ……説明書読んだけど、ホントかしら? ちょっと試してみたいけど、どうしたもんかしらね……)
 昨日、あの絶世の美少年から購入したサプリメント。そこに書かれていた効果は、にわかにはとても信じられないような非現実的なものであった。
 冗談だろう。まさかあんな効果があるはずがないと思いながらも、あの少年の人間離れした美しい目鼻立ちを思うと、つい信じてみたくなってしまう。
 後で、後ろにいる少女で試してみてもいいかもしれない。嘘だったら嘘で、笑い話にすればいい。制服のポケットにサプリメントの容器を忍ばせながら、真理奈は通いなれた高校への道を歩き続けた。

 昼休み、真理奈がいつものようにパンを買って戻ってくると、教室の窓際では瑞希と祐介が仲良く弁当をつついていた。
(なんだ……うまくいってるじゃない)
 どうなることかと心配したが、瑞希は何とか勇気を振り絞り、彼に自作の弁当を手渡したらしい。
 微笑ましい光景につい笑みがこぼれ、遠くから二人をそっと見守ることにする。
 少女の手作り弁当は祐介のお気に召したようで、瑞希は幸せそうな顔で自分の作った料理をかき込む幼馴染を見つめていた。兎型に切られたリンゴまできっちり完食し、祐介が少女に笑いかける。
「ありがとな瑞希、すごく美味かった。今度何かおごってやるよ」
「う、ううん別にいいよ……」
「遠慮すんなって。お前、桜月のパフェ好きだろ? 今度、一緒に行こうぜ」
 にわかに親密度を増した二人から桃色の何かが撒き散らされ、そばにいた男子生徒が頬を引きつらせる。
 真理奈はそんな友人たちを物陰から眺めながら、ひとり涙を流していた。
「み、瑞希もやればできるじゃない、あたし感動したわ! よし、この勢いのまま一気に押しちゃうわよ! あたしも一肌脱いだげるわ、ふっふっふっふ……!」
 周囲のクラスメートたちが露骨に顔をしかめる中、彼女は不気味な笑い声をあげ続けた。

 放課後、真理奈は瑞希を呼び止め、人のいないトイレに連れてきた。
「見てたわよ、瑞希! よくやったわね! これでもうすぐあいつもあんたにゾッコンよ!」
「う、うん……」
 はにかんだ瑞希の顔は桜色に染まっている。
 そんな友達に言い聞かせるように、真理奈は大きな声でまくしたてた。
「戦いは勢いと押しが肝心よ! 高杉晋作もそう言ってるわ! 女は一旦行動を始めたら立ち止まっちゃ駄目なの !!」
「そ……そうなの?」
「という訳で今日、あんたの家空いてる? 中川の家でもいいんだけど」
 ハイテンションな真理奈に押されつつも、瑞希は今日、両親の帰りが遅くなることを教えてくれた。
 親のいない自宅に仲のいい男を誘い、二人っきりになる。そこで彼女の方から祐介に迫れば、いくら鈍感な彼であっても瑞希の好意に気づくはず。そのまま押し倒してもらえば最高だった。
 好都合極まりない完璧なセッティングを前に、真理奈は興奮を隠さない。
「せっかくだから今日は中川を連れ込んで二人っきりになっちゃいましょ! 据え膳食わぬは男女の恥! あいつにさっさと襲わせるしかないわね!」
「あ、あのー……まりなちゃん……?」
「いくら幼児体型の瑞希でも、二人きりで無防備な姿を晒せばあいつも手を出さないはずがないわ! 今夜はロストバージン確定! これであんたも一人前ね!」
「えーと、そ、それはこの間やってみたけど、完全に無視されちゃって……」
「え、マジ…… !? ホントにダメな子ね……あんた……」
 その言葉にうずくまって泣き出した瑞希を、真理奈は慰めて立たせてやった。
 せっかくの興奮が一気に冷めてしまったが、彼女はまだ諦めない。
「となると、やっぱりこっちから押し倒さないといけないわね……」
「ま、真理奈ちゃん? 何考えてるの……?」
「うるさいわね、何とか中川をモノにする方法を考えてやってるんじゃない! あいつ、普段は妙に澄ましてるけど、押しには結構弱そうだから……」
「まりなちゃーん……」
「やっぱりこれ、試しに使ってみるか……」
 少しの間、何かを考え込んでいた真理奈だったが、突然瑞希を振り返ると、
「瑞希、あーん」
「え? あーん――かはっ !? ごほ、ごほっ!」
 つい口を開けた彼女に、錠剤のようなものを飲ませてしまった。
「……な、何したの !? 真理奈ちゃん!」
「心配要らないわ。説明書通りならこれでうまくいくはずよ。まあ全然何も効果がなかったら、また別の方法を考えましょ」
 そう言って自分も一錠口に入れ、ゴクリと飲み込んでしまう。
「まりな、ちゃ――」

「――――っ !?」

 次の瞬間、真理奈と瑞希の目の焦点がぼやけ、二人ともその場に倒れそうになった。
「…………!」
 あまり清潔ではないトイレの床にひざまずいてしまう真理奈。
 一方の瑞希は、何とかバランスを崩す前に踏みとどまると、目の前でへたり込んでいる真理奈の頬を数回叩き、彼女の意識を呼び戻す。
「瑞希、瑞希 !!」
 瑞希は相手を自分の名で呼び、手を引いて立たせてやった。
「え? あ……私……?」
 真理奈はいつになく呆けた表情で瑞希を見下ろしていたが、数秒もした頃、突然驚いた声をあげて自分の口を押さえた。
「えぇっ !? わ、私が……いる?」
「へえ、どうやら成功したみたいね。こんなに簡単だとは思わなかったわ」
 いつもの内気な表情はどこへやら、瑞希はニヤニヤと品のない笑みを浮かべ真理奈を見上げた。
「瑞希、今の薬であんたとあたしの体を入れ替えてやったの。信じらんないでしょうけど、今はあたしが森田瑞希ってわけ」
「え? な、何? どうなってるの?」
 状況が理解できずにうろたえる真理奈を怒鳴りつける瑞希。
 二人を知る者が見たら驚愕せずにはいられない、不可思議な光景だ。
「いいから、そこの鏡見てみなさい!」
「う、うん――あぁっ !? 真理奈ちゃん !?」
「ほら、あんたはあたしになってるでしょ !? これがさっきのサプリの効果よ、お互いの体を入れ替えちゃったの」
 体を入れ替える薬。まさかそんなものが現実に存在するとは。
 真理奈は信じられない、といった表情で鏡に見とれている。
「わ、私……真理奈ちゃんになってるの……?」
 普段よりも高い目線。しなやかで力強い手足。制服の胸を押し上げる豊満な乳房。短めに切られた茶髪。それらは全て森田瑞希のものではなく、その親友の加藤真理奈のパーツだった。
 瑞希は腕組みをしながら、にやけ顔で真理奈を見ている。
「どう? あたしの体になっちゃって、ステキでしょ?」
 余裕のある態度で真理奈に話しかける瑞希の姿は、いつもの彼女からは想像もできないものだった。
「ま、まりなちゃん……私、こんなの困るよ……」
 うつむいておどおどと相手に答える真理奈も、普段とは大違いで気弱な様子である。これはこれで男たちが見れば欲情するかもしれない。
 瑞希はぴんと人差し指を立てて力説した。
「何言ってるの! せっかく交代してやったんだから、ちゃんと二人の仲は取り持ってあげるわ! タイタニックにでも乗ったつもりで安心しなさい!」
「そんなこと言われても……ますます不安になるんだけど……」
 つり目の茶髪の少女が、怯えた様子でつぶやく。
「細かいことはいいからいいから! 全部あたしに任せなさい!」
「それに……こんな薬、どこで手に入れたの? 副作用とか効き目の時間とか、戻り方はどうなってるの?」
「ああ大丈夫。ちゃんと説明書、読んだから。この入れ替わりは個人差があるけど、一週間くらい続くみたいよ。効果が切れる時間になったら、勝手に元に戻っちゃうんだって」
「い……一週間も…… !?」
 真理奈の顔が恐怖に青ざめた。
「……何よ、あたしの体が気に入らないっての? 胸もあるしスタイルもいいし、あんたの体よりよっぽどいいわよ。まったく、もっと喜んでよね!」
 腕組みをしたまま、目を吊り上げてツインテールの少女が言う。
「な、なんでこんなこと……」
「だから、中川との仲を取り持ってやろうって言ってるでしょ !? あんた達見てたらイライラしてくるから、ちゃっちゃとくっつけちゃおうってこと! あいつもこの姿で迫れば嫌とは言えないわよ」
 自分の幼児体型を見下ろし、不満そうに鼻を鳴らす瑞希。
「そ……そんな、私の体で勝手に……。祐ちゃんに嫌われちゃったらどうするの……?」
「何言ってんの。あいつが瑞希を嫌いなわけないじゃん。待ってなさい、来週までには結ばれとくから。第一、あんたのためにやってあげてるんだから、反対はナシ。OK?」
「うう……」
 真理奈は体を返してほしいと懇願したが、瑞希は頑として聞き入れない。
「ちゃんとあんた、あたしのフリしなさいよ! もし中川にバレちゃったら、この体、返してあげないからね !?」
「そ、そんなあ……いやだよぅ……」
 涙ぐむ真理奈に、瑞希は面白そうに笑いかけた。
「わかったらしっかり、加藤真理奈を演じること! これから瑞希はあたしの家に帰るんだから、間違えないように!」
 地図でも渡そうかと思った瑞希だが、真理奈も瑞希も互いの家に遊びに行ったことがあったため、何とかたどり着けるだろうという結論に達した。
「ケータイはこのまま、交換しなくていいわね。もし誰かから連絡あったら適当に相手しといてちょうだい。デートとかには行ってもいいけど、あまり変なことすると後がひどいから、そのつもりで」
「わ、私……デートなんて……」
「ああ、できないなら全部断っていいわよ。今つき合ってるの、どっちも微妙だし」
 あっさり言い放つかつての自分の姿に、耐え難い不安に苛まれる真理奈。
 だが主導権は完全に、瑞希になった真理奈の方にある。自分の体を奪われては、大人しく言いなりになるしかない。真理奈は半泣きになりつつも、この状況を受け入れるしかなかった。
 瑞希も真理奈から最低限の情報を聞き出し、結局二人は一週間の間、入れ替わることになった。
「ま、何とかするわよ。安心しなさい」
 ささやかな胸を張ってトイレを後にするツインテールの少女と、おびえた様子で彼女についていく長身の娘。
 普段ではありえない奇異な光景に、すれ違った女生徒が後ろを振り返り、二人に不審そうな視線を向けた。

「……お、いたいた」
 靴を履き替え、祐介を捜そうとした瑞希と真理奈だが、今日は昨日とは逆に、祐介の方が二人を待ってくれていた。
 二人が校舎から出てくると、彼も待ちかねたように近寄ってきて声をかけてくる。
「よう、今日はちょっと遅かったな」
 いつものように幼馴染の少女、森田瑞希に話しかける祐介。
 普段の彼女なら、はにかみながらも祐介の言葉に笑い返してくれるはずだ。
 だが、今日はまるで違っていた。
「うるさいわね。女の子には色々あんのよ」
 目をつり上げてそう返す瑞希の姿に、完全に固まる祐介。
「……み、瑞希? 今なんて言った?」
「ま、まり――瑞希ちゃん!」
 慌てて後ろから真理奈が肩をつかむと、瑞希は気がついたように祐介を見上げて言った。
「な、なんてね……あはは、びっくりした? じゃあ帰ろっか、ゆ、祐ちゃん」
「あ、ああ……?」
 なんか様子が変だな、と祐介が思うのも無理はない。
 帰途もやたらテンションの高い瑞希に不思議がる祐介だったが、その都度真理奈がフォローし、何とか誤魔化すことに成功した。やがて自宅の方向が違う真理奈が、打ち合わせ通り途中で別れる。
「じゃ、じゃあ私はここで……また明日ね、二人とも……」
「ああ……じゃあな、加藤」
 なぜか真理奈は泣きそうな顔で、名残惜しそうにいつまでもこちらを見ている。
 その自信なさげな姿に、祐介は驚きを隠せなかった。
「……加藤のやつ、一体どうしたんだ? あいつのあんな顔、見たことないぞ」
「さあ? 生理じゃないかしらね」
「瑞希、お前もだ。今日はどうした……」
 真理奈が去って二人きり。ここからが瑞希の腕の見せ所である。
 中川と表札に書かれた平凡な一戸建ての家の前で、祐介が手を振って別れを告げた。
「んじゃ瑞希、また明日な」
「ちょおっと待ったぁ!」
 背伸びしてその肩をがっしりつかみ、瑞希が叫ぶ。そのあまりの剣幕に、彼は身を一歩引いた。
「今日、うち親が遅くなるの。暇だから遊びに来ない? つーか来なさい。拒否権ないから。わかった?」
「あ、ああ……わかった」
 常ならぬ勢いを別にすれば、特に珍しい誘いという訳でもない。
 宿題をするか、ゲームするか、ゴロゴロ雑誌でも読むか。祐介はうなずき、着替えと荷物置きのために一旦家に戻った。
 さすがに隣ではないが、森田家は祐介の家の斜向かいである。彼我の距離は十数メートルと離れていない。
 祐介が森田家にやってきたのは、わずか数分後のことだった。
「じゃ、お邪魔します」
 互いの家を行き来して十年以上になるが、祐介は挨拶を欠かさない。そういった何気ないところも彼女の好意の原因になっているのだろう。瑞希は体の持ち主の心中を、そう分析した。
 出迎えた瑞希の方は、不慣れな自宅の様子をきょろきょろと見回している。
「とりあえずお茶でも入れようかしら。えーとお茶っ葉、どこだろ……」
「あ、冷蔵庫にプリンがあったから持ってきたけど、食うか?」
「ありがと。気が利くわね」
 彼女は棚の上からティーバッグを取り出し、二人分の紅茶を用意した。
 だんだんと今の自分に慣れてきたのか、かなり上機嫌である。
「んっふふ、プ〜リン〜プ〜リン〜」
「……何かお前、芸風変わってないか?」
「断じて気のせい」
 瑞希は満足げにプリンを食べ終わると、自室に入って適当な普段着に着替えてから、再び居間に戻ってきた。既に祐介は本棚から雑誌を取り出して、自宅のようにくつろいでいる。
 祐介の横で、カーペットの上に転がりながら、瑞希はこれからの作戦を考えていた。
(んー……やっぱり瑞希の言ってた通り、目の前にいても襲ってくる気配はないわねー。一応、誘ってるつもりなんだけど。やっぱこの体、魅力ないのかな?)
 確かにこの体は発育不良の傾向があるが、瑞希の顔は友人の目から見ても充分以上に可愛いと思う。もしかすると、祐介はこの顔を見慣れすぎているから興奮しないのかもしれない。
(となると、やっぱりこっちから攻めるしかないか……?)
 瑞希は決心した顔で立ち上がると、壁にもたれて座り込んでいる祐介のすぐ目の前に、ちょこんとひざまずいた。
「……ねえ、祐ちゃん」
「ん、何だよ」
 わずか数十センチという近い距離で見つめ合ったが、祐介は未だに澄ました顔で瑞希を見やるだけだった。
 幼さが残る顔を朱に染め、少女は祐介に問いかける。
「祐ちゃん……私のこと、どう思う?」
「どうって、瑞希は瑞希だろ。別人には見えないけどな」
「ギクッ !! ほ、ほら、好きとか大好きとかあるじゃない」
「何だよいきなり? ……まあ、少なくとも嫌いじゃないな」
(よっしゃあ !! 話が早い !!)
 そう言ってくる祐介を見て、瑞希は心の中で歓声をあげた。
 中腰になったまま、ゆっくりと顔を近づけていく。祐介は逃げない。真っ直ぐこちらを見据えている。  そして、互いの唇が触れ合った。
 ――ちゅ……。
 抵抗もしない祐介の頬に手をやり、瑞希は彼の唇を吸った。
 舌も入れない、口を触れ合わせるだけのソフトなキス。
 男女の影が一つになり、二人だけの穏やかな時が流れる。
「ふぅ……」
 少し息が苦しくなった頃、瑞希は顔を離した。顔は先ほどと比べてさらに赤く、はっきりした情愛に満ちている。
「瑞希……いいのか? 俺なんかにしちゃって」
 祐介は相変わらずの澄まし顔で少女に聞いた。顔色は変わっていないが、もし本当の瑞希が見れば、その微妙な感情の変化を読み取れたかもしれない。
(へえ……こうして見ると、こいつも意外と悪くないわね……)
 彼女が現在、過去につき合った男よりもいいかもしれない。瑞希はそっと祐介に寄りかかって、自分の体を彼に預けた。
「うん……私、祐ちゃんが好き。祐ちゃんでいいんじゃなくて、祐ちゃんじゃないと嫌なの……」
(しっかし、我ながらこんなセリフよく言うなぁ……)
 祐介は身を起こし、小柄な少女と優しく抱き合った。
「……そうか。実は俺もなんだ。瑞希のこと、子供の頃からずっと好きだった」
「そうなの? それなら早く、そうと言ってほしかったなあ……」
「断られるの、怖かったんだ。すまん。お前の気持ち、わかってやれなくて……」
 少年の肩に顎を乗せ、伝わってくる祐介の鼓動と匂いを感じ取る。年頃の汗臭い男臭さのはずなのに、今の瑞希にはそれがとても心地よく思えた。普段の彼女なら嫌がったかもしれないが、やはりこの体が祐介のことを求めているのかもしれない。
「祐ちゃん……」
 そっと彼の頬にキスをすると、祐介はくすぐったそうに目を細めた。
「こら……まったく瑞希は、昔っから甘えん坊だな」
「えへへ〜」
 にこにこと笑っていると、自分が本当に瑞希になった気がしてくる。彼女は祐介から一旦身を離し、彼の下半身に覆いかぶさった。
「私……祐ちゃんのここ……お触りしたいの……」
「おいおい……そんなこと、どこで覚えたんだ?」
 恥ずかしそうに瑞希は顔を伏せたが、まさか普段からしょっちゅうやっていますとも言えない。誤魔化すように少女は祐介のファスナーをいそいそと下ろし、下着の中から少年のモノを取り出した。
 幼馴染の少女に抱きつかれ、しかも直接彼女の小さな手で触られた祐介の陰茎は、既に硬くなりつつある。
「うわぁ……こんなになってるんだ……」
 瑞希らしさを装い、わざとらしく感嘆する。両の手で優しく竿や袋を揉みしだくと、次第に肉棒は膨れ上がり、やがて上を向いてそそり立つほどになった。
 細い唇から舌を取り出し、ぺろりと彼の亀頭をひと舐めする。
「う……!」
 いきなりの刺激に、思わず祐介の声が漏れた。
「ん……祐ちゃんのチンポ、大きい……」
「だからそんなセリフ、どこで――うぅっ!」
 ソフトクリームを舐めるように少しずつ、彼のを舐め回していく。じらすような舌使いに、祐介の陰茎がビクンと跳ねた。
「ふふっ……祐ちゃん、可愛い♪ んじゃ、いただきまーす……」
 もはやはちきれんばかりに膨張した肉棒を、瑞希は小さな口をめいっぱい開けてくわえこんだ。
「ん……んん……」
 何とか彼を気持ちよくさせようと必死で奉仕する瑞希だが、この少女の口では先の方を少しだけ含むのが精一杯で、なかなか舌を動かすことができない。
(ん……こんなの、いつものあたしなら簡単なのに……)
 軽い悔しさを覚えながら、瑞希は懸命に口内を動かして祐介を責めたてた。
「う、うぅっ……くっ!」
 一方の祐介は、快楽と軽い困惑の真っ只中にいた。
 幼い頃から一番親しかった隣人が彼の性器を一途にしゃぶっているのだ。年頃の男として、これで興奮しないはずが無い。
(瑞希が、あの瑞希が……俺のをくわえて……)
 だが同時に、なぜ内気で大人しい瑞希が突如としてこんなことを始めたのか、という疑問も彼の頭にはあった。
 思えば帰りの瑞希はどこかおかしかった気がする。原因はなんだ。自分の陰茎に舌を這わせる瑞希にどこか違和感を覚えつつも、祐介はまだ正解にたどり着けないでいた。
 祐介が考える間にも、瑞希の口淫は続く。
「ん……じゅる、ちゅぱっ……ずずぅっ……!」
「うあっ……くうっ !!」
 力いっぱい先端をすすられ、とうとう祐介が限界に達した。
「瑞希、どけっ!」
(ふふっ、イッちゃうのね……?)
 射精を前に少女を押しのけようとした祐介だったが、瑞希はそれに構わず、少年のたくましい陰茎を口内に納めて吸い上げた。
 ――ドビュッ !! ビュルビュルビュルゥッ !!
「……んっ! ん゙ん゙んっ !!」
 盛大に口の中に出されてしまったが、半ば咳き込みながらも、何とかそれを飲みくだす。
「けほっ! ふ、ふう……」
 瑞希の可愛らしい唇の端から、一筋の粘液がトロリと垂れる。
 祐介はへたり込んだまま、そんな幼馴染の淫猥な様子を見下ろしていた。
「み、瑞希……すまん」
「……祐ちゃんの、すっごく濃いねぇ。たまってたの? 普段ちゃんとオナニーしてる?」
「ば、馬鹿言え」
「まだ童貞でしょ。やっぱり普段、私のこと考えながらシコシコしてるの?」
「おい瑞希、何を言って――」
 少し声が低くなった彼から離れ、瑞希は中腰のまま、自分がはいている可愛らしい花柄のスカートを思いっきりまくりあげた。
 その中身、純白の下着の中心には、遠目からでもわかるほどの大きな染みができていた。
「ほら、見て……祐ちゃんのペロペロしてたら、私もうこんなになっちゃったの……すごいでしょ?」
「瑞希……お前……」
 祐介は少女をまぶしそうに見つめている。
「もっと見て……私のココをじっくり……」
「…………」
 瑞希がスカートとパンツを脱ぐと、隠すもののない女陰が祐介の目にはっきりと映った。
 毛は薄く、じっとり濡れた割れ目もまだ未成熟なのが見てとれる。
 だが瑞希の陰部は、幼馴染の少年の前で確かに濡れていた。
 初めて見る瑞希の痴態に、祐介は荒い息を吐いて目を離せずにいる。
「はあ、はあ……瑞希……」
 幼稚園児だった頃は、一緒に風呂に入ったこともある。小学生の頃も、ふざけて互いに裸体を見せ合ったこともあった。そして今、祐介も瑞希も、成長した互いの性器を隠さず見せ合っている。その事実と興奮に、彼の理性は押し流されつつあった。
 そんな祐介をさらに煽り立てるように、瑞希が再び口を開く。
「ほら……祐ちゃんに見られてると私、いやらしい汁が溢れてきちゃうの……。見える? ここからトローって……ほら、垂れてるでしょ? 祐ちゃんのおチンポしゃぶって、祐ちゃんにアソコ見られて……私、もうこんなになっちゃったんだよ……? さっきも祐ちゃんのをペロペロしながら、指で自分を慰めてたんだから。早く祐ちゃんのが欲しいなあって思いながら、ね……?」
 中学生にしか見えない少女の口が、祐介を刺激する淫猥な言葉を紡ぐ。
「私のアソコ……私のおマンコ、こんなにヒクヒクしちゃって……祐ちゃんのおチンポ、欲しがってるの……。ぶっとい祐ちゃんのおチンポ突っ込んで……ぐりぐりかき回して欲しいの」
 また一筋の女汁が床にこぼれ、カーペットに染みを作った。
「瑞希……」
 誘惑に耐えかねたのか、祐介は夢遊病患者のようにふらふらと起き上がり、小柄な少女の体をカーペットの上に押し倒した。
「祐ちゃん……そう、我慢しなくていいよ……。私、祐ちゃんと一つになりたいの……。祐ちゃんの女にしてほしいの……」
「わかった……ありがとう」
 祐介はうなずいて、いきりたった自分の肉棒を、幼馴染の少女の中に突き立てた。

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 

 その頃、真理奈はマンションの自室で、何をすることもなく椅子に座っていた。
 親と顔を合わせるのも厄介に思えたし、それに真理奈は今の自分よりも、彼女に使われている自分の体のことが心配でならなかったのだ。
「んー、真理奈ちゃん……返信してこないなぁ……」
 自分のものではない携帯をいじって、瑞希にメールを送った。今どうしてるか知りたかっただけなのだが、いくら返事を待っても、真理奈の携帯に送られてくるのは、男友達や彼氏からのメールばかりだった。
「はぁ……私、これからどうなっちゃうんだろ……祐ちゃぁん……」
大きなため息を一つつき、真理奈は机に力なく突っ伏した。

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 

 ――ブチィッ! ブチブチッ、グチュッ…… !!
「んぐっ、はあぁ…… !!」
 瑞希の処女が引き裂かれ、必死に抑えようとした口からうめき声があがる。苦しげな少女の様子に祐介は動きを止めて、
「瑞希……大丈夫か……?」
 と心配してくれた。
 生涯で二回目となる破瓜だったが、やはり痛くて辛い。瑞希はぽろぽろ涙をこぼしつつも、自信たっぷりの笑みを浮かべて強がってみせた。
「だ、大丈夫に……決まってるでしょ、祐ちゃん……」
「でも……血が出てるし、泣いてるし……」
「そんなの……初めて、だから当たり前……よ……。いい……から、あ、あたしのぐちゅぐちゅの……アソコ、祐ちゃんの……で、かき回してよ……!」
 相変わらず不安そうな祐介だったが、その言葉で瑞希が精一杯、自分を受け入れてくれているという喜びを実感し、顔をほころばせた。
「わかった……それじゃ、動くぞ。痛かったら言えよ……」
 彼はそっと、優しく、じらすように腰を動かし始めた。
 瑞希の中は極めて狭く、思いっきり祐介のものを締めつけてくる。ずっと想っていた相手と一つになっている興奮と膣の感触に、祐介は今にも絶頂に達してしまいそうだった。
 だが、苦しむ瑞希の様子を見ていると、それはためらわれてしまう。
 ――ズッ、ズリッ……ズズッ……。
 少し進みまた戻し、それの繰り返しで膣壁をゆっくりと摩擦する。初めての未熟な膣ではあったが、充分に濡れていたため、出し入れ自体は実にスムーズに行うことができた。
「ん……お?」
 奥まで進み、先端に当たるコリコリした感じに祐介は目を細めた。
「はあ――祐ちゃんのが、きてる……奥まで入ってる……」
「瑞希……いい、すごくいいよ……」
 天を仰ぐように上を向いた瑞希の唇に、祐介はかぶりつくようにむしゃぶりついた。歯をかき分けて舌を差し込むと、少女は驚いたようだが、すぐに自分のを伸ばして口内で必死に絡まり合おうとする。
「ん、んむっ……じゅる、ずずぅっ……!」
 お互いの唾液腺から唾が止まらず、合わさった隙間からだらしなく垂れて二人の胸や腹を汚した。
 ――ヌチャ、ヌチッ……ブチュブチュ……!
 祐介の硬くなった肉棒が、瑞希の子宮の入り口を叩く。
 根元まで突き込んではいないが、やはり少女の小さな膣ではこの辺りが限界といったところだろう。
 焦る必要はない。もう自分と瑞希は結ばれたのだから。
 祐介は瑞希の子宮のところで止まったまま、何とも言えない安らぎを感じていた。
「……祐、ちゃん……?」
 またも自分を気遣って止めてくれたのだろうか。
 瑞希は怪訝な顔で祐介を見上げたが、彼の穏やかな顔がそうではないことを如実に物語っていた。
「瑞希……ありがとな……」
 ――ズプッ……。
「んんっ、ああぁ…… !?」
 自らの奥底から一気に肉棒を引き抜かれ、瑞希は耐え切れずに声をあげた。
 息も絶え絶えといったありさまで自分を見上げてくる瑞希を優しく見つめ、祐介が言う。
「瑞希、初めてで痛いだろうから、また続きは……今度しよう」
「え……? そ、そんなぁ……」
 頬を涙で濡らしながらも、明らかに失望の色を顔に浮かべる瑞希。
「ごめんな。代わりに俺の、いっぱいかけてやるから……な?」
 もう陰茎は痛いほど張っていて、今にも出してしまいそうだった。
 しかしさすがに中で出す訳にもいかず、祐介は仰向けになった瑞希に狙いを定め、幼馴染の少女の白い肌めがけて自分の欲望を解き放った。
 ――ビュルッ、ドプドプドプ…… !!
 白い奔流が、瑞希の顔にも服にも、汁を垂らす股にもぶち撒けられた。
「ゆ、祐ちゃん……あ、熱い……!」
 泣きそうな顔で喜びの悲鳴をあげる瑞希。
「ごめんな瑞希。ありがとう……」
 祐介はそんな瑞希の泣き顔を見て、つい笑みを浮かべてしまった。

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 

 あれから一週間がたった。
 その間、真理奈はひやひやもので瑞希と祐介を見守っていたのだが、そんな彼女の不安を打ち消すように、二人は急速に愛し合うようになっていた。最近は登下校も三人一緒だが、自分が邪魔者ではないかとさえ思えてくるぐらい、瑞希と祐介は親密な仲になっていた。
「実は俺と瑞希、付き合ってるんだ」
 そう祐介に言われたときは、思わず泣いてしまいそうになったものである。
(祐ちゃん……私を好きになってくれたんだ……)
 そう思うと、つい隠れて涙をこぼしてしまう真理奈だった。

 そしてそろそろ、元の体に戻る時期でもある。
 昼休み、三人で昼食をとっていると、前触れもなく突然真理奈の視界がぼやけ、気がついたときには体の位置関係が変わっていることを自覚した。
「も、戻ってる……私の体……!」
「あーあ、戻っちゃったか。ちょっと残念……」
 などと言って騒ぐ二人の様子に祐介は驚いたが、これも何とか誤魔化すことができた。
「……本当にありがとね、真理奈ちゃん」
 二人だけになって礼を述べる瑞希に、真理奈は笑いかけた。
「別にいいわよ。あんたが無事にあいつと結ばれて、あたしも嬉しくなっちゃったからね……うーん、しみじみ……」
 こうして、瑞希は祐介と、それまでの友達という関係からもっと深い方向に、一歩も二歩も踏み出したのである。
 その日の帰宅途中、いつも通り真理奈と別れた瑞希に、祐介が言った。
「今日はうちの親いないんだ。だから来いよ、瑞希」
「え……? う、うん……いいよ」
 彼の方から誘ってくるとは意外だったが、もう結ばれてしまったのだから、何を遠慮することもない。
 初めての体験は残念ながらできなかったが、好きな相手と済ませたのなら構わなかった。
 瑞希は頬をほんのり染め、少年にうなずき返す。

 ――パァンッ !!
「あひィッ !?」
 静かな部屋に、激しく肉を打つ音と悲鳴が響いた。
 パンッ !! パンッ! パァンッ !!
「い、痛いィッ !? 祐ちゃん――やめてェッ !!」
 裸に剥かれた上、腰をがっちりと後ろから押さえられているために瑞希は逃げることもできず、肉の薄い尻を思いっきり平手で叩かれていた。
 馬乗りになった祐介がそっと彼女の耳元で囁く。
「……瑞希ぃ、祐ちゃんじゃなくてご主人様だろ? おい」
 ――パァァンッ !!
「ひィィィッ !!」
 ひときわ高い音がして、赤く腫れた臀部が悲鳴をあげた。涙を流し歯を食いしばり、瑞希は必死で痛みに耐える。
「ったく、あれだけしつけてやったのに……もう忘れちまったのか?」
 いつも優しい祐介の声はいつになく低く、彼女に言いしれない恐怖を感じさせた。
(な、何――なんなの !? 私、何されてるの…… !?)
 恐怖と困惑が入り混じった面持ちで、瑞希は涙を流していた。
 愛しげに少女の腫れあがった尻を撫で回し、祐介が言う。
「まぁ仕方ないか……まだ仕込み始めてから一週間だもんな。いいさいいさ、じっくり瑞希を俺のペットにしてやるから」
「わ……私、はぁっ…… !?」
「それにお前が言い出したんだぞ、瑞希。『私は淫乱な雌奴隷なんです。お願いだから飼って下さい』って。まさかお前がそんな変態だったなんて思わなかったよ」
(……えええぇぇえっ !?)
 祐介が指を少女の入り口に這わせると、そこから熱っぽい液体が一筋、とろりと垂れた。まだ調教し始めて日は浅いが、既にスパンキングで感じる程度には瑞希の体は開発されつつある。
(真理奈ちゃん――私の体で、何してたのぉっ !?)
 心の中で必死に叫ぶが、もちろん真理奈には届かない。
「でも瑞希……俺はお前が好きだ。俺のそばにいてくれるなら、恋人でもペットでも何でもいい。これからもずっと一緒にいような……」
「ゆ、祐ちゃん、ちが――はああぁっ !!?」
 乱暴にのしかかられ、力任せに肉棒をねじ込まれる感触に、瑞希は悲鳴とも喘ぎ声ともつかぬ叫びを発した。


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