ミユとミユママ 前編

 その日の夜、お爺ちゃんとお婆ちゃんに連れられて、私は病院に向かった。
 平日でお父さんは残業があるから、間に合わないみたい。
 お爺ちゃんは怒ってたけど、お婆ちゃんは笑いながら私の頭をさわさわなでて、
「じゃあ、ミユちゃんがお父さんの代わりに、赤ちゃんにあいさつするんだよ」
 って優しい声で言った。
 赤ちゃんにあいさつ。すごく緊張する。
 弟だって聞いてるけど、どんな顔してるんだろ。やっぱり泣くのかな。
 ずっと一人っ子だった私にとって、今まで「赤ちゃん」ってのは、自分とちっとも関係ない、宇宙人みたいなものでしかなかった。
 でも、これからは私がお姉ちゃんだ。赤ちゃんといっぱいお話しして、頑張って仲良くしなくちゃいけないんだ。
 そわそわして病院の廊下を行ったり来たりしていると、ドアがガチャって開いて、ナースのお姉さんが出てきた。ちょっと疲れてるけど、嬉しそうな顔だった。
「生まれました」
 その言葉に、お爺ちゃんとお婆ちゃんの顔がパアっと明るくなった。
 お母さんも赤ちゃんもすごく元気なんだって。私も嬉しかった。
 そのあと、私は生まれたばかりの赤ちゃんを見せてもらった。
 はっきり言って、あんまりかわいくなかった。
 でも、体も顔もすごく小さくて、このちっちゃな赤ちゃんがこれからどんどん大きくなっていくんだって思うと、不思議な気持ちになった。
 これが私と弟のユウキの、初めての思い出だ。

 それから一ヶ月。私はユウキのために、毎日頑張ってる。
 お姉ちゃんとしてじゃなく、お母さんとして。

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 

 朝、仕事に出かけるお父さんを見送ってすぐに、ユウキが泣き出した。
 椅子に座ってスーパーのチラシに目を通していたお母さんが、ベビーベッドを指差して言う。
「ミユ、お願い」
「はーい」
 ゴロゴロ寝転がってテレビを見ていた私は、よいしょって立ち上がった。
 ユウキはベッドの上の段、柵の中でわんわん泣いていた。
 私が両手を伸ばして抱っこしてやると、ほんの少しだけ泣くのが収まる。
 やっぱり私をお母さんだって思ってるからだろうか。ちょっとフクザツだ。
 私はユウキを抱っこして、着ているTシャツをべろんとまくった。
 中から出てきた張りのある大きなおっぱいが、ぼよんって揺れる。
 今私がつけているブラジャーは、赤ちゃんにおっぱいをあげるための特別なもので、片手でちょっとずらすだけでおっぱいを飲ませることができる。
 まだ普通のブラジャーもつけたことがない私が、こんなブラジャーをつけるなんて、はじめはすっごいイヤだった。でも、それも最近はかなり慣れちゃって、こうやってユウキにおっぱいをあげるのが当たり前になってる。慣れって怖い。
「はい、ユウキ。いっぱい飲んでね」
 太く盛り上がった乳首を口にくわえさせると、ユウキはちゅうちゅうと私のおっぱいを吸い始めた。
 私のおっぱいの先っちょからミルクが出てきて、それをユウキがごくごく飲む。
 なんかくすぐったいような、でもちょっと気持ちいいような、変な感じだ。
 これがまた長い。その間、私はずっとユウキを抱っこしてなきゃいけない。
 ユウキに一生懸命おっぱいを飲ませる私を見て、お母さんが笑った。
「あーあ、すっかりユウキをミユに取られちゃったわ。悔しい」
「わ、私は嬉しくないよう……」
 私の泣きそうな顔が面白いのか、またお母さんが笑う。
 その顔だけはいつも通りのお母さんなんだけど、今のお母さんは、私が知ってるいつものお母さんとはまるで違ってた。
 まず、すごく背が低い。今の私のお腹くらいしかない。
 普通に座った姿勢じゃテーブルの上のチラシが読めないから、椅子の上で膝立ちになって、のっかかるような感じになってる。
 着てる服もいつものとは全然違う。
 うちのお母さんは結構オシャレで、かっこいいジャケットとか派手なドレスとかいっぱい持ってて、赤ちゃんができてからはマタニティとかも着てたけど、どれもすごく大人って感じで、子供の私から見てもよく似合ってた。
 幼稚園の頃は、友達に「ミユのおかーさんかっこいー」って言われるのが私の自慢だった。
 でも今のお母さんが着ているのは、ハートマークがいっぱいついた白いトレーナーと、ふわふわのフリルとレースがとっても可愛いピンクのスカート。
 どっちもこないだまで私のだったやつで、サイズはぴったり。
 そのくせばっちりお化粧した顔とか、パーマをあてた長い茶色の髪の毛は今まで通りなんだから、すごいイビツなカッコだった。
 まあ、それもしょうがないのかもしれない。
 だって今のお母さんの首から下は、私の体なんだから。
 ユウキにおっぱいをやっていると、お母さんの向かいでバターをたっぷり塗ったトーストをかじってたお兄ちゃんが、私に笑いかけた。
「えらいね、ミユちゃん。ほら、赤ちゃんも喜んでるよ」
「うう……」
 嬉しくない。このお兄ちゃんに言われても、嬉しさが全然わいてこない。
 逆に背中がぶるぶるして、怖くなってくるくらいだ。
 私はできるだけお兄ちゃんを見ないようにして、ユウキを抱いたまま、テレビを見てた。
 画面の中のおじさんたちの笑い話とか、アニメの再放送とかが、ザーって流れていく。
 抱っこする腕が疲れてきた頃、やっとユウキがおっぱいを飲み終えてくれた。
 ちっちゃな体をベッドに寝かせて、私はやっと一息つく。
 お兄ちゃんはそんな私を慰めるように、ニコニコ笑って言った。
「お疲れ様。もうミユちゃん、すっかりお母さんだね」
「…………」
 私は立ったまま、自分の体をじっと見下ろした。
 濃い紫色の長袖Tシャツが、今しまったばかりの大きなおっぱいを包んでる。
 腰から下は、ゆったりしたハーフパンツ。
 大きかったお腹回りはこの一ヶ月で少しマシにはなったけど、まだお肉のたるみは残ってるし、ぴっちりしたジーンズとかは全然はけない。
 身長はどのくらいだろう。担任のけーこ先生より高いかも。
 こないだまでフツーの小学生をしていた私とは全然違う、大人の体。お母さんの体だ。
 その肩に、子供っぽいおかっぱ頭がちょこんと載ってる。それが今の私のカッコ。
 そう。私とお母さん、首から下が入れ替わっちゃったんだ。
「ふう、ご馳走様でした」
 お兄ちゃんがトーストを食べ終わって、手を合わせた。
 へたり込んだ私は、やっぱり返事もしないでぼーっとする。
 私の代わりにお兄ちゃんに返したのは、妙に機嫌のいいお母さんだった。
「あら、それで終わり? パンならまだあるけど、もっと食べない?」
「いえ、もう充分いただきました。ありがとうございます」お兄ちゃんが頭を下げる。
 名前も知らないこのお兄ちゃんは、私のお兄ちゃんじゃない。
 ちょっと前にいきなりうちにやってきた、知らない人だ。
 それからちょくちょくうちに来て、お父さんやお母さんとお話ししたり、一緒にごはんを食べていったりするようになった。
 見た目はすごくかっこいい。喋り方も丁寧で、私にも優しくしてくれる。
 お父さんもお母さんも、このお兄ちゃんのことが大好きみたいで、この人が来るといつもニコニコ顔で出迎えて、大歓迎してる。
 でも、私は知ってる。このお兄ちゃんが、実はすごく怖い人だってことを。
 この人があの日、いきなり私とお母さんの首をすっぽり引っこ抜いて、交換しちゃったんだ。
 そんな不思議なことができるなんて信じらんないだろうけど、今の私とお母さんはホントに入れ替わってるわけだから、絶対に嘘なんかじゃない。
 おかげで、赤ちゃんを産んだばっかりのお母さんの体になっちゃった私は、子供になったお母さんの代わりに、毎日ユウキにおっぱいをあげなくちゃいけない。
 早く元に戻してほしいんだけど、お兄ちゃんはいくら戻してと言っても聞いてくれない。
 お母さんの体になった私を見て、「うん、なかなかいいね。似合ってる」って笑うだけ。
 お父さんもお母さんも、もちろん最初はパニックになって大騒ぎしてたけど、お兄ちゃんが「せっとく」すると、まるで人が変わったみたいになって、私とお母さんの体が入れ替わったことを、すんなり受け入れちゃった。
 取り残されたのは私だけ。こんな体になっちゃったから学校にも行けないし、みんなにも会えないし、しかもしょっちゅうユウキにミルクを飲ませなくちゃいけない。
 私はこんなに困ってるのに、お父さんもお母さんも知らんぷりだ。
 そりゃあ私だってユウキのことは可愛いけれど、こんなことがしたかったわけじゃない。
「お母さんはおっぱい出ないから、代わりにミユが飲ませてあげてね」
 なんて言われても、困る。
 困るけど、私がおっぱいあげないと、ユウキが泣く。もっと困る。だから仕方なくおっぱいをやる。
 今の私は、毎日そんな感じだった。
 ぼーっと床に座ってた私のところに、お兄ちゃんがやってきた。
 私の暗い顔をのぞき込んで、明るい声で話しかける。
「元気出しなよ、ミユちゃん」
 やっぱりすごいキレイな顔だ。男の人にこんなこと言うの変だけど、お人形さんみたい。
 でも、そのキレイな顔が、私はすっごく怖かった。
 口を閉じてムスっとする私に、お兄ちゃんが続けて言った。
「僕にできることがあったら、手伝うからさ。何してほしい?」
「……元に戻りたい。学校に行って、みんなに会いたい」
「そうか、お友達に会いたいんだね。よし、わかったよ」
 納得したように、ポンと手を叩く。お兄ちゃんは顔だけじゃなくて、声もキレイだった。
 ひょっとして戻してくれるんだろうか。私がちょっとだけ期待してると、お兄ちゃんは向こうの部屋から、私が普段使ってる赤いランドセルを持ってきた。
 それをお母さんに差し出して、お兄ちゃんが言った。
「はい、お母さん。今から学校に行きましょう。ミユちゃんの学校に」
「え、学校? 私が?」お母さんはぽかんとしている。
「だって今のお母さんは、可愛らしい小学生の女の子じゃないですか。だったら、ちゃんと学校に行かないと」
「小学生――私が……?」
 言い聞かせるようなお兄ちゃんの言葉を、お母さんはぼんやりした顔で繰り返す。
「そうです。ほら、行きましょう。急がないと遅刻しますよ」
 もう一度お兄ちゃんが言うと、お母さんはハッと顔を上げた。
 今まで忘れてた、大事なことを思い出した。そんな表情だった。
「そうよね。私は小学生なんだから、ちゃんと学校に行かなきゃ……。いけない、もうこんな時間 !? 遅刻しちゃう!」
 お兄ちゃんの手からランドセルをひったくり、慌てて背負う。
「それじゃあミユ、ユウキのことお願いね! 行ってきまーすっ!」
「お、お母さん……?」
「それじゃあ僕はお母さんを送っていくから。ミユちゃん、お留守番よろしくね」
 ドタドタって部屋を出て行くお母さんと、私にパチっとウインクしてくるお兄ちゃん。
 二人に取り残された私は、何が何だかわかんなくなって、開けっぱなしのドアを見つめることしかできなかった。

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 

 ユウキはおっぱいをよく飲む。すごく飲む。
 だいたい一時間か二時間おきにいっぺんぎゃあぎゃあ泣いて、おっぱいをよこせよこせって言ってくる。
 だからそのたびに私は、ユウキを抱っこしておっぱいを飲ませないといけない。
 たまに汚れたおむつを替える。そんなに臭いはきつくないけど、やっぱりおしっこやうんちは、見ててあんまり気持ちがいいものじゃない。
 おっぱいあげて、ゴロゴロしてテレビ見て、おっぱいあげて、おむつ替えて、おっぱいあげて、お腹すいたからカップラーメンを作って食べて、またおっぱいあげて。
 なんで私、こんなことしてるんだろ。この子は私の弟だけど、子どもじゃないのに。
 途方に暮れる。今の私には、本に書いてたそんな言葉がぴったりだった。
「うう、こんなのやだよぅ……お母さあん……」
 半泣きでお母さんを呼んだけど、そのお母さんは、私の代わりに学校に行ってしまってる。
 でも、いくら私の体で私の服を着てても、あの顔で小学校に通えるはずないんだけど……。
 またあのお兄ちゃんが、変なことをしたんだろうか。
 考えてるうちにドアが開いて、やっとお母さんが帰ってきた。
「ミユ、ただいまー!」
「お母さん……」
 お母さんは私のランドセルをしょったまま、にこにこ顔で帰ってきた。
 何があったかわかんないけど、すごく嬉しそう。私は大変だったのに。
 なんか腹が立って、私が文句を言ってやろうとしたとき、そのお母さんの後ろから、二人の女の子がひょっこり顔を出した。
「ナナちゃん! モモちゃん!」
 私が叫ぶと、二人はにかっと笑って、「やっほー、ミユ」と手を振ってきた。
 ポニーテールで半ズボンをはいてる、ちょっと男の子っぽい子がナナちゃん。三つ編みおさげにメガネをかけた、ワンピースの女の子がモモちゃん。二人とも私の友達だ。
 最後に部屋に入ってきたのは、やっぱりあのお兄ちゃん。
 お兄ちゃんが、ナナちゃんとモモちゃんの頭に両手を置いて、ふわりと笑う。
「ただいま、ミユちゃん。お友達と会いたかったんだよね? 連れてきたよ」
「あ……」
 そこで私は、朝、お兄ちゃんに言った言葉を思い出した。
「みんなに会いたい」って言ったから、この二人を連れてきてくれたらしい。
 私はそれよりも、「元に戻りたい」ってお願いの方を聞いてほしかったんだけど……。
 しかも私は今、顔から下がお母さんの体っていう、すごくブキミなカッコだ。
 こんなカッコ、仲良しの二人には見られたくない。恥ずかしい。
 私がそっぽを向いて黙りこくっていると、お母さんがウキウキした様子で言った。
「うふふ、ミユの代わりに学校行ってきたけど、すごく面白かったわ。懐かしいし、でも新鮮だし。それに友達も先生も、皆すっごく親切だし」
「え……お、お母さん、普通に授業受けてたの?」
「ええ」お母さんがうなずいた。「ナナちゃんとモモちゃんも、仲良くしてくれて」
 お母さんを挟むように立ってた二人が、横からお母さんの頭をわしわしなで回した。
「やっぱりミユのママだね。もうあたしたち、すっかり仲良しだよ」
「えへっ、だってミユママ面白いんだもーん!」
「クラスの皆と先生に、事情を説明してね。ちゃんと納得してもらったよ」
 お兄ちゃんが私を見て、笑う。爽やかだけど寒気がする笑い方だった。
「休み時間も、体育のドッジボールも、お母さんすごく楽しそうだったよ。他の子が勉強でわからないところがあると、先生の代わりに教えてあげてたしね」
「だって皆、とっても素直で可愛いんだもの。また明日も楽しみだわ」
「そ、そう……」私はなんて言えばいいのかわからない。
 お母さんもナナちゃんもモモちゃんも、大人になった今の私から見ると、すごく小さい。
 まるで自分が仲間外れにされてるような気がする。
 ナナちゃんとモモちゃんは私を見上げて、「ミユ、おっきくなったー!」とか、「ミユちゃん、ミユママになっちゃったー!」とか騒いでるけど、笑いごとじゃない。
 そのときベビーベッドで寝ていたユウキが泣き出して、私は慌ててユウキを抱き上げた。
 またおっぱいが欲しくなったみたい。いったい何回飲むんだろ。
 慣れた調子でおっぱいを取り出し、ユウキにくわえさせる私を見て、二人は大はしゃぎ。
「あー! ミユ、赤ちゃんにおっぱいあげてるー!」
「すごーい! ミユ、ホントにママなんだー!」
「うう……そんなにジロジロ見ないでよぉ……」
 顔を真っ赤にする私を、二人はじーっと見つめてくる。
 私はまるで動物園のゴリラになったみたいで、すごく恥ずかしかった。
 右と左と、両方のお乳をたっぷり飲んだユウキは、やっと満足して寝てくれた。
 ベッドにユウキを寝かせて、服を整えてると、お母さんが言った。
「ミユ、ちょっと待って」
「え?」
 返事も聞かずに、私のTシャツをまくり上げるお母さん。
 ブラジャーの上から自分のだったおっぱいをモミモミして、「うーん」とうなる。
「まだ少し張ってるわ。ちゃんと出しとかないと駄目よ」
 黒い乳首から、じんわりとミルクが染み出してくる。なんかもったいない。
 こういう場合は搾乳機っていう道具で搾った方がいいんだって。
 お母さんがてこてこ歩いて、向こうの部屋から搾乳機を取ってくると、それを見てたお兄ちゃんが、なんか面白いことでも思いついたみたいに、言った。
「ああ。せっかくだから、お母さんが飲んであげたらどうです? ミユちゃんのミルク」
「ええっ !?」私はびっくりした。
「うーん、それは……いくら何でもねえ」さすがにお母さんも困り顔だ。
 するとお兄ちゃんがお母さんの目をのぞき込んで、さっきと同じ口調で言った。
「あれ、だって今のお母さんの体は、ミユちゃんのでしょう? 言わば今はお母さんがミユちゃんの子供なわけですから、お母さんの出すミルクを飲むのは当たり前。当然のことじゃないですか」
「そ、そんなメチャクチャな――」私は開いた口がふさがらない。
 しかしお母さんは、また、あのぼーっとした顔になって、こくんと首を縦に振った。
「……そうよね、今の私はミユの娘だもん。お母さんのおっぱい飲むの、当たり前よね」
「お、お母さん !?」
 私はお兄ちゃんに両腕をぐっと後ろでつかまれて、動けなくされた。
 足を崩して床に横座りになった私のシャツを、お母さんがべろんとめくる。
 お母さんの小さな手が私のブラジャーをずらして、黒い乳首を丸出しにした。
「や、やめて、お母さん……」
「もう、ミユは聞き分けのないお母さんね。ちゃんと出しとかないと、後で出なくなったりしてユウキが困るのよ? いい子だから、大人しくしなさい」
 私を叱るときの顔でそう言って、お母さんは私のおっぱいをくわえ込んだ。
 目を閉じて、ちゅうちゅうと赤ちゃんみたいに吸い上げる。
 ユウキより強く吸ってくるから、先っちょがちょっと痛い。
 腕を押さえられてる痛みもあって、私は顔をしかめて文句を言った。
「お、お母さ――ちょっとストップ、もうちょっと優しく……」
「んくっ、ん、んんっ、ちゅうっ」
 私のお願いも聞いてくれない。お母さんは私のおっぱいを思いっきり飲んで、お下品なゲップをした。ほっぺたがリンゴみたいに赤かった。
「ふう。おいしかったわ、ミユ。じゃあもう片方も……」
「ま、まだやるの !? もうやだよぉ、やめてよ、お母さーんっ!」
 私は首をブンブン振ってイヤがったけど、お母さんには通じない。
 するとお兄ちゃんが割り込んで、お母さんに言った。
「まあまあ、ミユちゃんも嫌がってることですし……」
 そのセリフに、私はほっと胸をなでおろした。
 よくわかんないけど、今のお母さんはこのお兄ちゃんの言いなりだ。
 お兄ちゃんが止めれば、お母さんはこれ以上何もしない。私はそう思って安心した。
 でも、このお兄ちゃんはやっぱり、怖いお兄ちゃんだった。
 私の両腕をガッチリ後ろに回して押さえつけたまま、言う。
「だから交代してもらおうかと思うんです。ほら、ナナちゃん、モモちゃん。今度は君たちが、ミユちゃんのおっぱい飲んであげて」
「え、ええっ !?」
 お母さんの後ろでは、ナナちゃんとモモちゃんが、うちのお母さんと同じ、ぼーっとした顔でこちらを見ていた。
 二人とも正気じゃない。まるで催眠術でもかけられてるみたいだった。
「ミユちゃんの、おっぱい……?」
 モモちゃんが三つ編みの髪をぶらぶらさせて、聞き返す。
「そう。君たちはミユちゃんのお友達でしょ?  だったら、困ってるミユちゃんに協力してくれないかな。ミユちゃんのためなんだ」
「ミユちゃんのため……うん、いいよ」
 ナナちゃんが居眠りしてる人みたいに、かくんとうなずく。
「ナナちゃんっ! モモちゃんっ! やめて、やめてぇっ!」
 私は暴れたけど、お兄ちゃんは決して離そうとしない。
 とろりとミルクの垂れるおっぱいが、ぼよんぼよんってボールみたいに弾むだけ。
 モモちゃんは揺れる私のおっぱいをがしっとつかんで、お母さんと同じように吸いだした。
「ん――こくっ、こくっ……」
「やだぁ、モモちゃん……」私は泣きそうな声で言った。
 いつも仲良しのモモちゃんが、私のおっぱいをおいしそうに飲んでる。
 パンパンに張った私のおっぱいからお乳が出て、モモちゃんの喉に流れ込んでいく。
 ドキドキするのと恥ずかしいのとで、もう何が何だかわからなかった。
 途中、ナナちゃんがモモちゃんと交代して、私のおっぱいを吸った。
 ナナちゃんはクラスメートの男の子に勝っちゃうくらいケンカが強くて、三人の中で一番強く、私のおっぱいを吸いまくった。痛いくらいだった。
 そうしてみんなが私のミルクを飲み終わって、やっと私は放してもらえた。
 しわしわになった服をきちんと整える私の前に、三人の女の子が赤い顔でへたり込んでた。
 ナナちゃんとモモちゃんと、お母さん。
 私のミルクをたっぷり飲んだ三人はみんな、とっても幸せそうだった。
 そのあとナナちゃんとモモちゃんは、私じゃなくてお母さんの手をとって、「じゃあミユママ、また明日ねー」ってバイバイして帰っていった。
 お母さんは学校がよっぽど気に入ったのか、買い物に行くときも、ごはんの支度をしてる間も、ずっと機嫌がよくって、鼻唄なんて歌ってた。
 でもやっぱり、私のちっちゃな手足じゃやりにくいみたいで、私も野菜を洗ったり、洗濯物を取り込んだり、お手伝いを頑張った。
 そんな私にお母さんはにっこり笑いかけて、
「少しずつでいいから、これからはミユが家のことをできるように頑張ってね。だってミユは、私のお母さんなんだから」
 って言った。いつかはお母さん、本当に私の子供になっちゃうのかも。すごく心配だ。
 早く元に戻りたいけど、相変わらずお兄ちゃんはニコニコ笑うだけで、何もしてくれない。
 夜になるとお父さんが帰ってきて、みんなで一緒にごはんを食べた。
 お父さんは私の腕の中で笑うユウキを見て、幸せそうな顔だった。
 その隣にはあのお兄ちゃんが座って、お父さんとビールを飲んで盛り上がってた。
 どうでもいいけど、お兄ちゃんって未成年じゃないの? お酒飲んでいいの?
 晩ごはんもお風呂もユウキのお世話も何とか片づいて、私はお父さんと一緒に寝た。
 疲れたけど、これで大変だった一日も終わるはずだった。
 でも、そうじゃなかったんだ。


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