彼女が水着を盗られたら

 岩場を下りると、そこは一面の砂浜だった。
「うわあ……」
 浜辺に反射する日光の眩しさに、美咲は目を細めた。白い砂は入り江を囲むように広がり、遠くの松林まで伸びている。押し寄せる波は穏やかで、風は潮の匂いがした。
「どうだ、いいところだろう」
 美咲の後ろで、健一が自慢げに言った。ここは地元の人間以外はほとんど知る者のいない、隠れた名所なのだという。
「びっくりしたわ、健一さん。こんな綺麗なところがあるなんて」
「まあな。俺たち専用のプライベートビーチってとこだ」
「でも、全然人がいないわけじゃないのね。ほら、あそこ、お店があるわ」
 美咲の視線の先には小さな屋台があった。見渡す限り砂と海と松林の浜の中で、ジュースやアイスクリームを示す文字が原色で書かれた、けばけばしい看板はすこぶる目立つ。
「なんだありゃ? あんなの、こないだ来たときはなかったぞ」
 健一は舌打ちした。「せっかく、俺と美咲が二人きりで楽しもうとしてたのに。店を出すならもっと賑やかな場所にしろよ。こんなところどうせ誰も来ねえんだから」
「まあまあ、いいじゃない。ねえ、あそこでアイスを買って食べない? 暑いからきっと美味しいわよ」
「ちっ、仕方ねえな。ついでに、次からは別のところで店を出すように言ってやる」
「そんなの駄目よ。ちょっと、健一さん」
 大股で屋台に向かう健一を追いかけ、美咲は嘆息した。交際を始めてまだ日が浅いが、健一は傲慢で尊大な振る舞いを見せることがしばしばあった。レストランの店員に無茶な要求をしたり、車を乱暴に運転したりして、美咲にいいところを見せようとするのだ。しかし美咲としては、彼のそうした行為はとても魅力的なものとは思えなかった。
 また、くだらないトラブルを起こして、美咲を困らせるつもりだろうか。美咲が不安を抱いていると、突然健一が立ち止まった。
「しまった」
「どうしたの、健一さん?」
「金を使うことはないと思って、車の中に財布を置いてきたんだった」
「そう言えば、私も……」
「取りに行ってくる。先に行って待っててくれ」
 了承の返事をして美咲は安堵の息をついた。きびすを返した健一の背中から視線を外し、再び浜辺を見渡す。じきに正午になろうかという頃で、砂の熱気のために景色がゆらめいていた。肌が焦げそうなほど強い日光だ。
(紫外線対策はしてるけど……やっぱり、お肌に悪いわね)
 サングラスをかけ直し、美咲は一人で歩き出した。言われた通り先に行って健一を待つことにする。ローヒールのミュールを脱いで手に持ち、素足で砂を踏みしめた。焼けた砂の熱をじかに感じるが、我慢できないほどではない。
 この砂も、風も、とても新鮮だった。インドア派の美咲がこうして浜辺を歩くのは数年ぶりのことだ。
(健一さん……悪い人じゃないんだけどな)
 彼に初めて会ったのは、友人に半ば強引に連れられて行った合コンの席だった。明るく話し上手のスポーツマンというのが第一印象だった。連絡先を交換し、それから数度、食事に誘われた。少し我の強い印象を受けたが、男女の交際を求められたときも、美咲は断らなかった。意志薄弱な自分には、彼のように多少強引な男の方が合っているかもしれないと思ったからだ。
 そんな健一に買ってもらった水着は、カラフルなビキニタイプだった。美咲はより落ち着いたデザインのものを選びたかったのだが、やはり彼に押し切られた。ほとんど無人のビーチだからいいが、人目の多い場所であれば着用するのを躊躇していたかもしれない。
「そこのお姉さん、おひとついかがですか? こんな暑い日はアイスクリームがおすすめですよ」
 気がつくと、美咲の目の前に屋台があった。ただ一人の店員らしき少年が、朗らかな笑顔で彼女を見つめている。地元の高校生がアルバイトをしているようだった。
「あ……すみません。今、連れが来ますから、もうちょっと待って……」
「こんなに暑いのにじっと待ってたら、アイスが溶けちゃいますよ。どの味にしますか? バニラ、それともストロベリー?」
 少年はやけに馴れ馴れしく、美咲にアイスを勧めてくる。よく見ると屋台のそばの地面に子供が腰を下ろし、手にしたスプーンでアイスクリームをせっせと口に運んでいた。こちらは小学校高学年かせいぜい中学生くらいの、よく日焼けした小柄な男児だ。学校指定のものらしい紺色の海水パンツをはいている。彼は一瞬だけ視線を美咲に向けると、すぐにまた手元に戻した。旨そうにバニラアイスを頬張るその姿を見ているだけで、つい欲しくなってしまう。
「そうね、じゃあストロベリーで。あ、でも今、お金が……」
「後で結構ですよ。すぐにお連れさんがいらっしゃるんでしょう?」
 と言って、少年は丸い紙カップに入ったアイスクリームを差し出した。カップとスプーンと、そしてもう一つの品物を美咲は受け取った。
「これは何ですか?」
 それは魚のアクセサリーがあしらわれた平紐のチョーカーだった。どこの土産物屋にでも置いているであろう、ごくありふれた品だ。
「うちで買ってくれた人に、ちょっとしたサービスをしてるんです。一日先着で十名様。こちらのお客さんにも差し上げましたよ」
 促されて美咲が目をやると、日焼けした子供の首にも同じチョーカーがあった。安物には違いないが、こういったささやかなサービスを受けるのは悪い気分ではない。美咲は礼を言い、チョーカーを首につけた。魚の部分はガラス製で、日光を浴びて青く輝いた。
「うん……悪くない、かも。ありがとうございます」
「お気に召して下さったようで、何よりです。実は、それはただのアクセサリーじゃないんですよ」
「へえ、そうなんですか? ああ、とっても美味しいわ、このアイス」
 ストロベリー味のアイスに口をつけ、美咲は感嘆の声をあげた。融けたアイスが舌の上に広がり、極上の甘露となった。
「そのチョーカーは僕が丹精込めて作った魔法のアイテムでしてね。呪文を唱えると、不思議な力を発揮するんですよ」
「そうなんですか。素敵なお話ね」
 突然始まった素っ頓狂な話に、美咲は大して関心を持たなかった。よく冷えた甘味を楽しみながら、健一が来るのを待った。
「あ、その反応、信じてませんね。じゃあ、そこの君はどうだい? そのチョーカー、とっても面白いマジックアイテムだって言ったら驚くかな?」
「別に……」
 男の子も、やはり少年の話に興味がなさそうだった。アイスを食べながら、時々顔を上げて美咲の様子をうかがう。水着に包まれた自分の体に子供の視線が注がれるのを感じて、美咲は慌てて背中を向けた。やはり派手なビキニなど着るべきではなかったと後悔した。
「では、まったく僕の話を信じてくれないお二人に、実際にその効果をお目にかけましょう。きっと驚きますよ」
 少年は屋台のカウンターから出てきて、美咲と男の子の間に立った。白いシャツと短パン姿の、笑顔の似合う爽やかな少年だ。
 だが、美咲は彼の姿に僅かな違和感を覚えた。こんな日陰のない浜辺で屋台を開いていながら、少年がほとんど日に焼けていなかったからだ。案外、肌に気を遣っているのだろうか。
「では、さっそく始めます。アブラカタブラ、アブラカタブラ、ナンマンダブ、ナンマンダブ……」
「まあ。何それ」
 美咲は呆れ果てた。適当な呪文といい、怪しい仕草といい、いささかも真剣みの感じられない少年だった。美咲の首のチョーカーが魔法の品というのももちろん嘘で、ただの既製品なのは間違いない。
(健一さん、まだかしら……あ、来たわ)
 振り返ると、浜の向こうにある岩場の上に健一の姿があった。手を振り、ゆっくりこちらに近づいてくる。美咲も笑って手を振り返した。
「エロイムエッサイム、我は求め訴えたり! あ、終わりましたよ。これで発動するはずです」
 もはや誰も聞いてはいない話を、少年は続けた。早くアイスの代金を払って海で泳ごうと美咲は思った。澄んだ青い水面が、自分を呼んでいるような気がした。
「あら?」
 そのとき、美咲は異変に気づいた。首につけたチョーカーのガラスがかすかな光を発していたのだ。太陽光の反照ではない。先ほどまでの青い色合いとは異なり、紫色の輝きがまるで脈動しているかのように明滅を繰り返していた。
「こ、これは……一体どうなってるんですか? 急に……」
 美咲は少年に訊ねたが、彼は人のいい笑みを浮かべてうなずくだけだ。その向こうにいる男の子は、美咲のものと同じく妖しい紫色に光り始めた自分のチョーカーを、驚きの目で見つめている。
「さあ、始まりますよ。二人とも、きっとびっくりするでしょうね」
 少年が得意げに言う間にも、チョーカーの光は強くなっていく。それはビーチを照らす夏の日差しよりも明るくなり、とうとう目を開けていられなくなった。
「きゃああああっ !?」
 熱い感触に全身が包まれたと思った次の瞬間、美咲の意識は吹き飛ばされた。失神にも似た眼前暗黒感に襲われ、何も考えられなくなった。

 気がつくと、背中一面に熱を感じた。やはり気を失っていたようだ。目蓋を開くと、夏の日光が目に入り込んで眼底をじりじりと焦がす。自分が仰向けで倒れていることに美咲は気づいた。
「うう……一体、何が……」
 熱を帯びた砂から身を起こし、美咲は辺りを見回した。目の前にはアイスの屋台があり、あのバイトの少年がそばに立っている。少年の向こう側に水着姿の女が一人、倒れているのが見えた。
(あら、あんな女の人、さっきまでいたかしら……?)
 カラフルなビキニを身につけた、スタイルのいい若い女だ。こちらに背を向けて横たわっていて顔は見えない。その足元には美咲のものと思しきサングラスとミュールが落ちていた。
 そして、こちらに走ってくる健一の姿が視界に入った。慌てた様子で駆けてくるが、砂浜をサンダルで走るのに難儀しているようだ。
「美咲っ! お前……!」
 やっと屋台の前までたどり着いた健一は、美咲ではなくあの水着の女に駆け寄った。軽々とその細身の体を抱き起こし、そして悲鳴をあげた。
「うわあああっ !?」
「健一さん……どうしたの?」
 ぼんやりした頭で美咲が問うと、健一は美咲の方を向き、もう一度叫び声を発した。「み、美咲、お前……!」
「健一さん、どうしたの? 私の顔に何かついてる? あら……?」
 立ち上がった美咲は、そこで体の違和感に気がついた。もともと美咲は健一よりも少し背が低かったが、その目線がいっそう低くなっていた。健一との身長差は、今や四、五十センチほどにもなるだろうか。まるで大人と子供だった。にわかに信じられなかった。
 はっとして自分の体を見下ろした美咲は、健一と同じように悲鳴をあげた。
「きゃああああっ !? な、何なのこれ! 私の体が……!」
 美咲の目に映っていたのは、見慣れた自分の体ではなかった。健一に買ってもらった扇情的な水着を身につけた若い女の肢体はどこにもなかった。そこには海水パンツをはいた男の体があった。男というより子供だ。美咲の体は、よく日焼けした海パン姿の男児の体に変化していたのだ。
「どうして私がこんな格好を……いったい何がどうなってるの !?」
「美咲……お前、本当に美咲なのか? まるで男じゃないか。しかも子供みたいになっちまって……」
 変わり果てた美咲の姿に青ざめる健一。幽霊でも見たかのように震えている。常に見せる傲慢で尊大な態度はどこにもなかった。
「ううん……」
 そんな健一が抱き起こした若い女が、小さくうめいた。二人のあげた悲鳴に目を覚ましたようだ。軽く首を振り、砂の上にへたり込んだ。手をやった頭には、若い女には似つかわしくない、短く刈り上げた黒髪があった。
「何なんだよ、一体……」
「きゃああああっ !?」
 こちらを向いた女の顔に、美咲はまたも絶叫した。派手なビキニを着た女の体の上に、先ほどの男の子の頭が載っていたのだ。首のチョーカーを境にして、肌の色がまるで異なる。首から下は白い肌をした成人女性の体で、首から上は日焼けした男児の頭という異様な風貌だった。
「うん? なんか胸が重いぞ……うわあっ !? な、何だよこれっ!」
 ようやく自分の肉体の変化に気づいた男の子が仰天した。そばにいる健一はすっかり震え上がっている。日頃は見栄を張って隠している、彼の臆病な本性が露になった。
「ふふふ……皆さん、驚いてらっしゃいますね。これがそのチョーカーの効果ですよ。そのチョーカーはつけた二人の頭を交換する、魔法のアイテムなんです」
 アイス売りの少年はそう語り、大きな手鏡を美咲に差し出した。おそるおそる鏡をのぞき込むと、美咲もやはりあの男の子と同様、チョーカーの上の部分と下の部分で、肌がまるで別人のようになっていた。顔は普段と何ら変わりのない美咲の顔だが、首から下は海水パンツをはいた男児の体に置き換わっている。
(私の首から下だけが、あの男の子の体になってる。ということは、あの男の子の首から下にある女の人の体は……私の体?)
 美咲はこの場から逃げ出したい衝動を必死で抑え、男の子を凝視した。彼が着ている何種類もの原色がモザイク状に配置されているカラフルな水着は、間違いなく先日、美咲が健一に買ってもらった品である。その水着に包まれた豊満な乳房、まだ日に焼けていない白い肌、すらりと伸びた長い脚……毎日のように鏡でチェックする美咲自身の体に間違いない。
 美咲のものだった女の体が、あの男の子のものになった。そして、あの男の子の体が美咲のものになっていた。
(体を交換……私、あの男の子と体を交換させられちゃったの? そんな……信じられない)
 美咲は首につけたチョーカーにそっと触れた。もはやあの妖しい輝きは消え失せ、日光を反射して淡い水色に光るだけだ。少年の説明によると、このチョーカーは人間の肉体の一部だけを交換する魔法のアイテムなのだという。とても本当の話とは思えなかったが、いざ自分がこうなってしまっては、信じないわけにもいかない。
「うわあああっ! た、助けてくれええっ!」
 顔を上げると、健一がこちらに背を向けて駆け出すのが見えた。
「健一さん !?」
 美咲は声をかけたが、健一は止まらない。見る間に岩場の上に走り去ってしまった。恐怖に耐え切れず、脱兎のごとく逃げ出したのだ。置いていかれた形になった美咲は失望し、うつむいて途方に暮れた。
「健一さん、酷い。酷いわ」
「どうです? 新しい体の使い心地は」
 目の前にあのアイス売りの少年が立っていた。その傍らには美咲と体を交換した男の子もいて、美咲をじっと見下ろしていた。元は自分の体だったのに、こうして見上げると体格差ゆえの威圧感があった。
「か、返して! 私の体を返して下さい!」
 美咲は少年にすがりついたが、彼はうなずくこともせず、柔和な笑顔で美咲を眺めるだけだ。
「お姉さんが体を返してほしいそうだけど、君はどう思う?」
「ちょっと待ってくれよ。俺、マジで女の体になっちまったのか……おお、おっぱいでけえな」
 男の子は興奮した様子で、自分のものになった美咲の乳房を水着ごと持ち上げた。形のいい肉の球が弾み、持ち前の弾力を披露した。
「や、やめてっ! 私の体をオモチャにしないで!」
 美咲は男の子につかみかかったが、その腕を少年に引っ張られ、後ろ手に押さえ込まれてしまった。華奢な体つきからは想像できない腕力だ。
「やめて、放して!」
「まあまあ、子供のすることじゃないですか。ねえ、君の名前は? 何年生?」
「俺は翼……今、中学一年」
 翼と名乗った男の子は己の乳をまさぐりながら、水着のボトムにも手を伸ばした。生地の上から股間を撫で上げ、自分が女の体になっていることを確かめていた。
「すげえ……俺のチンポが無くなってる」
「それならここにあるよ。ほら」
 突然、少年が美咲の海水パンツを引きずり下ろした。
「きゃあっ !? な、何するのっ!」
 美咲は目を剥いた。やっと陰毛が生え始めたばかりの細い男性器が網膜に焼き付けられる。幾度か見たことのある健一のものとは異なり、まだ先端が包皮に覆われていた。
(信じられない。私の体にこんなものがついてるなんて……お願い、夢なら早く覚めて)
 羞恥で顔が真っ赤になるのがはっきりとわかった。二十数年、女として生きてきた自分が、男子中学生の体になって男の一物を股間にぶら下げているのだ。まさに悪夢そのものだった。
「おっ、俺のチンポだ。この形、間違いないな」
 翼は興味津々の表情で美咲の正面にかがみ込むと、その繊細な指で陰茎をつまみあげた。
「ひいっ !?」
 得体の知れない感触に、美咲の声がうわずった。ペニスをつままれるのはもちろん初めての体験だ。借り物の心臓がビクンと跳ね、背筋が震えた。
「ああっ、駄目。触らないで……」
 柔らかな女の指が、若い肉茎を優しく擦る。ただ触っているだけでなく、明らかに性的なニュアンスを感じさせる動きだった。
「いひひ、硬くなってきた。やっぱり俺のチンポだな。元気元気」
 翼は美咲の未熟な牡の証を二度、三度ともてあそぶと、力を入れて皮をぐいと引っ張った。ピンク色の亀頭が露になった。
「こんなの嫌なのに……ああっ、硬くなっちゃう」
 美咲は恥じらいの色を見せたが、健康な男子中学生の性器は、美咲の意思に反してむくむくと立ち上がってしまう。自分が勃起しているという事実が、美咲には信じられなかった。
「あっ、また指で……やめて。やめて下さい」
 再び責めが始まり、美咲は熱い息を吐いて懇願した。両腕は少年にがっちりと固定され、急所である陰部を翼に愛撫されている。自力で逃げ出すのは困難な状況だった。
「なに言ってんだよ。こんなにチンポ硬くしちゃってさ。姉ちゃんも興奮してるんだろ?」
「ああっ、駄目。おちんちん擦っちゃ駄目ぇっ」
 思春期の肉体は正直だった。ぴんと立ったペニスが隠し切れない喜びを物語る。たおやかな女の指に扱かれては、若い肉棒が我慢できるはずもなかった。尿道口から先走りの汁が漏れ出し、指の動きを滑らかにする。口から恍惚の吐息が漏れた。
(なんて敏感なの。これが男の子の……私、本当に男の子になっているの)
 初めて味わう男の性感だった。自分の身体の首から下が牡になっていることが、美咲の倒錯した興奮を煽る。細い手指に裏筋を撫で上げられ、玉袋が揉みしだかれた。強い痺れが下腹に広がった。
 それが精嚢と呼ばれる器官だと美咲は思い出した。ほんの数分前まで女だった自分が、今は女を孕ませるための雄の生殖器を所有している。耐え切れない恥辱に体が震えた。
「あっ、んんっ、袋を揉まないで。袋だけじゃなくて、竿も、玉も……」
「へへっ、どうだ。俺のチンポは気持ちいいだろ。毎日せっせとオナニーしてるからな」
 翼は恥ずかしげもなく己の性癖をさらけ出した。何しろ、性に目覚めたばかりの年頃だ。自分の欲望と好奇心に忠実で、まだ理性の抑制がきかないのだろう。とんでもない相手と体を入れ替えられてしまったと、美咲は後悔した。
(こんなチョーカーなんてつけなければよかった。ああ、おちんちんが擦られてる……)
 指の腹が亀頭を挟み、雁首の辺りを念入りに摩擦していた。瞬く間に血液が海綿体に流れ込み、勃起は否応無しに力を増す。
「ああっ、ますます硬くなって……」
「こうなると、チンポの形がよくわかるだろ。今はこのチンポが姉ちゃんのものなんだぜ」
 翼は美咲に言い聞かせた。尿道口に爪を立て、透明の粘液を肌に塗り広げた。その心地よい刺激がますますペニスを奮い立たせる。毛の生え揃ってもいない思春期の陰茎が、天を向いてそり返った。中学一年生のものとは思えぬ雄々しい性器が、美咲の股間に備わっていた。
「やだ。こんなに大きくなるなんて……」
 まるで自分が性欲しか頭にないケダモノのように思えた。強い羞恥と背徳の念に苛まれ、顔が上気する。いっそ死んでしまいたいとさえ思った。
「おーおー、こんなにおったてちまって。顔は綺麗な姉ちゃんなのになあ」
 辱めを受ける美咲の姿に翼も興奮しているのか、頬が紅潮していた。彼はペニスを握ったまま立ち上がり、息がかかるほどの距離で美咲に密着してくる。少年と翼、二人に挟まれる形になった。逃げ出すどころか、身動きをとることさえ容易ではない。
「な、何をする気……」
「へっへっへ、デカいおっぱいが目の前で興奮するだろ」
 今や美咲よりも長身になった翼は、入れ替わった体を誇示するように見下ろしてきた。美咲の目線は彼の胸の高さにあった。堂々たる乳房の先端が盛り上がっているのが、ビキニの布地越しにわかった。平均的な女性のサイズより明らかに大きな乳が間近で揺れ、翼の淫らな手の動きに合わせて弾んだ。
(私の胸、私の手、私の体……全部、この子のオモチャにされてる)
 頭部以外の美咲の肉体の全てが、今日初めて会った男子中学生に奪われてしまった。二十年以上大事にしてきた自分の身体がこんな好色な男児の所有物になり、好き勝手されていることに美咲は涙を流したが、救いの手はどこからもやってこない。今の美咲は残虐な肉食獣たちに捕まった子羊に過ぎなかった。
「おっぱい見るだけでいいのか? 大サービスで触らせてやるよ」
 勝手なことを言うと、翼は巨大な乳房を美咲の顔に押し付けてきた。目の前が真っ暗になり、呼吸が一瞬停止した。
「うぐっ」
「あー、これ面白いや。おっぱいが弾むぜ。ああんっ」
「く、苦しい。お願い、もうやめて……」
 乳の谷間に鼻を挟まれ、美咲は息も絶え絶えだ。空気を求めて口を開くと、女の汗の臭いが鼻腔を通りぬけていく。体が入れ替わる前は気にしていた臭いなのに、今は蠱惑的な体臭だった。
 手淫はなおも続いている。男の体はますます沸騰し、自制のタガが弾け飛びそうだ。限界がすぐそこまで迫っていた。
「ああっ、これ以上は駄目。何か、何かくるっ」
 新鮮な精を放とうと睾丸が痙攣し、美咲をおののかせた。体の奥深くからこみ上げてくる射精の欲求は、女だった少年には未知の衝動だった。驚愕と恐怖に美咲は悲鳴をあげたが、翼の指は止まるどころかいよいよ力を増し、尿道の開放を促した。
「イキそうなんだろ、姉ちゃん? いいぜ、思いっきり出しちゃえよ。ほら」
「だ、駄目、出る。出ちゃうっ。あああっ!」
 雄叫びと共に、ペニスから熱い樹液がほとばしった。女の絶頂とは異質な、力強い脈動が美咲を突き抜けた。美咲は華奢な女の手の中に濃厚なスペルマを撒き散らし、牡の欲望を満足させた。
「ひひ、たっぷり出したな。こんなに出すなんて、すっげー気持ちよかったんだな」
 翼は普段の自慰で慣れているのか、自分の手がドロドロに汚されても嫌な顔ひとつしない。それどころか不敵に唇の端を釣り上げ、我慢できなかった美咲をあざ笑った。
「はあ、はあ……ああ、私、私……」
 我に返った美咲に絶望と疲労とがのしかかり、立っていられなくなる。腰が抜けてしまったようだ。背後で美咲を捕まえていた少年もその腕を放し、美咲は力なく砂の上にへたり込んだ。半ば萎えた肉棒の先から白い粘液を滴らせ、ひたすら荒い呼吸を繰り返した。
 翼はそんな美咲の様子を嬉しそうに眺めていたが、興味を新しい自分の体へと移したようだ。
「さて、姉ちゃんをイカせてやったから、今度は俺がこの体を探検するか。それにしても、見れば見るほどいいカラダだな。手足は長いし、腰だってほっせーの」
 背中に手をやり、水着のトップスを脱ぎ捨てた翼。張りのある乳を惜しげもなく晒して中腰になった。
「へへへ、このおっぱいが今は俺のものなんだ。すげえ……実は、姉ちゃんがアイスを買いに来たときから、こっそり胸ばっかり見てたんだ」
 至近で見る二十五歳の女のバストに、翼は大いに興奮していた。重々しい乳房を揺らしてボリュームを楽しんだり、精液まみれの指で乳首をつまんだりと、やりたい放題だ。
 その傍らでは、あのアイス売りの少年が微笑ましげな表情で翼を見守っている。
「おっぱいだけじゃなくて、下も観察してみなよ。楽しいよ」
「ああ、そうする……おわっ、毛深い! なんだよ、これ。毛がボーボーで真っ黒じゃねーか」
 とうとう全裸になった翼が、己の陰部を見て驚きの声をあげた。蟹股になって自分の股間を凝視する若い女……しかもその首から上だけが男子中学生の男の子という、世にも奇怪な姿である。
「あははは……大人は皆そうなるんだよ。大丈夫だから触ってみて」
「本当かよ? でも、へえ……女のアソコってこんな風になってんのか。ここを開けたらピンク色で……なんかグロいな。でも、チンポがないって不思議な感じ」
 好奇心旺盛な翼は、己の秘所に指を這わせて女体の神秘を追求していた。いくら人気のないビーチとはいえ、こんな開けた場所で大事な部分をさらけ出すなど、普通の女ではとてもできることではない。衝動と興奮に身を任せた翼はますます大胆になっていった。
「んんっ、中に指が入りそう……あっ、入り口をグリグリすると気持ちいいかも」
 なんと美咲から盗んだ体で自慰を始めたのだ。陰毛をかき分けて秘所の感度を確かめつつ、乳房も愛撫して性感を高めようとする。元男子中学生の欲求は留まるところを知らなかった。
(ああ、また私の体がオモチャにされてる……)
 自分の大事な身体が翼の遊び道具にされるのを、美咲はただ黙って見ていた。射精のショックで声が出ず、腰が抜けて立つこともかなわなかった。
「ああっ、んっ、これが女の体……男のオナニーとは全然違うよ。こんなの初めてだ!」
 乾き始めた精液を乳と女陰に塗りたくり、翼は女の自慰を探求し続ける。鼻の穴は膨張し、目は血走っていた。異常とさえ言える熱狂ぶりだ。陰部から蜜を滴らせ、息を荒げて美咲に自慰を見せつけた。
「ああ、すげえっ。女ってこんなに感じるんだ。あっ、あっ」
「ふふふ……楽しんでるみたいだね。その体はどうだい? 気に入ってくれたかな」
「うん、最高だぜ。ありがとな」
 翼は己の肉体から視線を外さず、傍らの少年に礼を言った。人間の体を入れ替えるなどという所業、とても普通の人間には不可能だ。それをいとも容易く行ってしまったこの少年は、いったい何者なのか。美咲の脳裏に「悪魔」という単語が浮かんだ。
「でも、それじゃまだまだその体を知り尽くしたことにはならないよ。ちゃんとセックスしないとね」
「セックス? ああ、そっか……ちゃんとセックスしないとな」
 急に翼の目から光が消え、虚ろな表情に変化した。まるで催眠術にかかったようだ。少年の言葉を反芻すると、美咲に向き直った。
「セックス……俺、セックスしたことない。どうやるんだ?」
「大丈夫。そこにへたり込んでるお姉さんに、ちょっと協力してもらうだけさ。簡単だよ」
 少年は笑い、翼と並んで美咲の眼前に立つ。日光が遮られ、美咲の視界が暗くなった。
「やめて、来ないで……私の体を返して」
「そうは言っても、あなたもやる気マンマンじゃないですか。そんなに元気にしちゃって」
 少年に指摘され、美咲はまたも自分が勃起していることに気づいた。精を放って一度は萎えたはずの肉棒が、再び天を向いて屹立していた。決して認めたくない現実だった。
「こ、これは違うの。私のおちんちんじゃないから……」
「なるほど。あなたのものじゃないなら、借りるのにあなたの許可は不要ですね。さあ翼くん、君の濡れそぼったそこにこれを入れなさい」
「俺のまんこに、姉ちゃんのチンポを入れる……セックスする」
 翼はぶつぶつ言いながら、美咲のペニスをつかんで向かい合わせに腰を下ろした。先端が肉壷の潤んだ入り口に擦られ、えも言われぬ刺激をもたらした。肉の笠に陰毛が絡みつく音がした。
「だ、駄目……セックスしちゃ駄目よ」
 美咲は震える声で制止したが、それは無駄な行為に他ならなかった。抗うことも逃げ出すこともできず、自分のものだったヴァギナと自分のものになったペニスが結合するのを、青ざめた顔で見ていた。
 翼は慎重に腰の位置を調節していた。切っ先が会陰を伝い、蒸れた膣口にたどり着く。そこからの挿入はスムーズだった。槍の穂先が肉襞をかき分け、中にぬるりと滑り込んだ。
「ああっ、入っちゃう……私の中に。ああっ、駄目っ!」
 熱を帯びた粘膜に包み込まれ、美咲は思わず精を漏らした。あまりにも早すぎる射精だった。奪われた自分の胎内に精を撒き散らし、不本意な種付けを実行する。童貞の喪失から射精までに一秒とかからなかった。
(出ちゃった……いくら入り口とはいえ、中に出しちゃ駄目なのに)
 心地よい射精の余韻に浸りながら、美咲は自分のしたことの重大さに身震いした。今の時期の膣内射精は妊娠の可能性がある。常識的にはありえない状況だが、自分で自分の肉体を孕ませてしまうかもしれない。今の自分が女性を妊娠させる側であることを改めて実感した。
「出たの……? でも、まだ硬い。もっとセックスする……」
 翼は焦点の合わない眼で美咲を見据えると、挿入したまま腰を上下に動かし始めた。
 美咲にとっては予想外の事態だった。不思議なことに、二度の射精を経ても若いペニスは収まりを見せない。リードされるがままに膣内を突き進み、肉と汁の擦れる感覚を美咲にもたらした。
「やっ、駄目、動かないで……あっ、あんっ」
「ああ、すげえ。セックス気持ちいい……」
 翼は腰を持ち上げ、落とす動作を繰り返す。蜜にまみれた美咲の亀頭が襞をこそげ、翼の中を往復した。脂汗を流し、艶やかな喘ぎ声をあげて自分のものだったペニスを貪る翼。美咲の肩に置いた手を支えにし、見事な巨乳を体と共に上下させながら、少しずつコツをつかんでいく。
「おっ、おっ、おおっ。まんこっ、まんこがジンジンするっ」
「いやあ、あっ、あんっ。わ、私の体なのに……」
 リズミカルな抜き差しが、美咲の脳に甘美な痺れをもたらす。乳輪をさらけ出した巨大な乳房がほんの鼻先数センチで上下に揺れる卑猥な光景も、今の美咲の欲情をそそらずにはいられなかった。
(私、エッチしてる。体を取り替えられてるのに……でも、気持ちいい)
 見ず知らずの男子中学生と無理やり肉体を交換させられ、その状態で交接にふけるという、あまりにも非現実的な事態が美咲の脳を麻痺させる。あとに残ったのは刺激に満ちた官能の世界だけだった。
「あっ、ああっ、熱いわ。おちんちんが融けちゃいそう」
 ぬめった襞にまとわりつかれ、美咲は息をのんだ。嫌悪の情がどんどん薄れ、心の中から消えていく。初めて体験する男としての性交の快楽に篭絡されつつあるのを自覚した。今の自分は牡で、魅力的な牝の肉体を犯す至上の快楽を手にしているのだ。たとえ女の脳であっても、男の体の本能には逆らえない。
(私の中ってこんな感じだったのね。男の人の気持ちよさ、たまらないわ……)
 一度自覚してしまえばあとは楽だ。これは助平な翼の体が悪い、自分は被害者なのだと美咲は己に言い聞かせた。自分の心に免罪符を与え、肉体交換後の交合というグロテスクな法悦にのめり込んだ。
「ああっ、あんっ。いい、おちんちんすごいっ」
「姉ちゃん、いいのか。俺もいいぞ。これがセックスなのか……」
「うん、すごくいい。おちんちんがジュポジュポして気持ちいいのっ」
 美咲はもはや見栄も外聞も捨て、翼の腰をつかんで自分から女を求めだした。ようやく動くようになった体で必死で翼にしがみつき、少しでも目の前の女を賞味しようとする。このビーチに連れてこられたときの控えめな女性の姿はどこにもなかった。
「ふふふ……ご満足していただけたようで、何よりです」
 ふと、耳元であの少年の声がした。ずっと美咲と翼の交わりを横で観察していたようだ。
「あっ、ああっ、あっ、いいっ」
「いかがです? 今ならあなた方のお体を、元に戻すこともできますが……もちろん、そのままがいいと仰るのであれば、そのままでも結構ですし」
「ああっ、今は駄目。このままがいいのっ」
 この狂乱を引き起こした元凶の甘い囁き声が、美咲から最後に残った思慮すら奪う。十数分前、あれほど元の体に戻りたいと願っていた姿からは考えられない選択だった。
「わかりました、元にはお戻ししません。それでは、あなた方は一生そのままということで……どうぞ心ゆくまでお楽しみ下さい。僕はこの辺で失礼します。さようなら」
 美咲の返事は彼の予想通りのものだったようだ。少年は満足した様子でそう言い残した。次の瞬間には彼の姿もアイスの屋台も消え去り、ビーチには美咲と翼だけが残された。まるで最初からそこに存在していなかったかのような、蒸発という表現がふさわしい去り方だった。
「あっ、あっ、これすごいよお。姉ちゃん、俺、もうダメっ」
「ああ、私もイクっ。また出ししちゃうのっ。イクっ、イクっ」
 少年が消えても美咲は気にせず、翼の膣内に幾度目かの精を注ぎ込む。妊娠しようがしまいがどうでもいい。いや、むしろ孕ませるのが本望だとさえ今の美咲は思っていた。
 体液に混じった潮の匂いが快い。二人の首にかかったチョーカーのガラスが輝き、青い水面を映し出した。見渡す限り砂と海と松林の浜の真ん中で、スタイル抜群の女を犯す美咲は幸福の絶頂にあった。


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