祐介は暗澹たる思いで、ひとり廊下をさまよっていた。 「ううう……くそ、なんで俺がこんな目に遭わないといけないんだ。くそ、くそぉ……」 泣き言を口にしながら、下を向いて現在の自分の姿をもう一度確かめる。視線の先には夏物の白いセーラー服を着た、長身の女の体があった。 わずかに日焼けした細い腕と、形の整った繊細な手、長く綺麗な楕円形の爪。ファッション誌のモデルでも通用しそうな、すらりとした魅惑的な両脚。腰の位置はあくまで高く、短い丈のプリーツスカートの裾からのぞく太腿の美しさを、よりいっそう強調している。そして上半身には、細身の体格にはやや不釣り合いに思えるくらいに大きな乳房。その全てが今の祐介の体の一部だった。 そう、祐介は女性の体になっていた。顔や髪型こそまったく変わっていないが、首から下に繋がっている身体は、クラスメイトの女子である加藤真理奈のものなのだ。 こんなことになってしまったのも、真理奈によって強制的に首をすげ替えられたからだ。 「畜生……加藤のやつ、とんでもないことをしやがって。絶対に許さねえ。早くあいつを見つけて、俺の体を取り返してやる」 祐介は硬く拳を握りしめた。こうでもして自分に活を入れないと、参ってしまいそうだった。 まるで悪夢を見ているようだが、これはまぎれもなく現実に起きていることだ。 真理奈が自慢げに語っていたところによると、今の彼女には人間の体のパーツを人形のように外したり取り替えたり、さらには他人の思考や記憶を思い通りに操作したりすることができるらしい。なんでも、悪魔から教わった黒魔術の力だそうだ。 この科学万能の時代に悪魔だの黒魔術だの、にわかには信じがたい話だが、祐介自身がその効果を身をもって体験させられているのだから、否定しても今の状況が好転するわけではない。真理奈が怪しげな魔法を使えるらしいということは、祐介も認めざるをえなかった。 とにかく、全ての元凶である彼女を急いで見つけて、元の体に戻らなくてはならない。いくら真理奈の体が魅力的なスタイルを誇っていようと、このまま女の姿でいるのはまっぴらだ。早く自分の体を取り戻さなくては。 真理奈は祐介と自分の首をすげ替えたあと、彼を放置して逃走してしまい、以後の行方はようとしてしれない。 おそらく学校の外には出ていないはずだが、それも確信があるわけではなかった。 祐介は当てもなく校舎内をうろついて、必死で真理奈を捜した。 そのうちに、祐介は不審な人影を見つけた。人の姿がほとんどない授業中の廊下に、誰かがじっと立っているのだ。服装から察するに男子生徒のようだ。 ひょっとして真理奈だろうか。期待と不安を胸に近づくと、その人物も祐介の方を振り返り、驚いた様子で目を見開いた。 「あら、あなたは……あなたは誰? 男の子なの、それとも女の子なの」 「ま、升田先生?」 祐介の前に現れたのは意外な人物だった。世界史担当の女教師、升田美佐。まだ二十代後半と若いが厳格で、生真面目を絵に描いたような存在である。 祐介は日頃、升田が堅苦しいスーツを着ているところしか見たことがなかったが、どういうわけか、今の彼女はいつものスーツ姿ではなく、平素祐介が着ているものと同じ、男子生徒の制服を着ていた。ショートヘアの黒髪に細い眼鏡をかけた知的な風貌と、白い長袖シャツと黒のズボンという男物の格好が、非常にアンバランスだ。 しかも、升田の手足も胸板も、明らかにきゃしゃな女の体格ではない。まるで男のようにたくましい体つきだった。 「升田先生、ど、どうしたんですか、その格好は……」 祐介はそう訊ねたが、胸の内は嫌な予感で一杯だった。 「こ、これは、その……」 升田は口ごもって質問に答えようとしない。平生、はっきり物を言う彼女にしてはおかしな態度だ。これは自分の予想が当たっていると、祐介は直感した。 「先生、ひょっとして……体、盗られちゃったんですか? 加藤真理奈のやつに首をすげ替えられて、体を持ち逃げされたんじゃ……」 「え? ど、どうしてそれを知っているの?」 慌てふためく升田。この女教師も、真理奈の犠牲になってしまったようだ。 升田の首が載っている男子生徒の体は、多分、祐介のものだろう。真理奈は祐介の体を奪ったあと、それを升田の体と交換してしまったのだ。 「はあ……あいつ、なんてことをしやがったんだ。俺だけじゃなくて先生まで巻き込むなんて。くそっ、信じられねえ!」 祐介は吐き捨て、手のひらを強く壁に叩きつけた。借り物の細い手が痛みを訴えてきたが、今はそれどころではない。ますます事態を複雑にする真理奈の行動に、激しい怒りを覚えた。 「ねえ、あなたは誰なの。女の子みたいに見えるけど、男の子なの?」 「俺は二年の中川です。先生が今使ってる体は、実は俺の体なんですよ。ズボンのポケットの中に、俺の財布や携帯が入ってるでしょう?」 祐介の言葉に、升田は戸惑いながらもうなずく。 「え、ええ……確かにポケットの中には中川君の持ち物が入っていたわ。でも、いったい何がどうなっているの? さっきまで中川君と一緒だったのに、気がついたら中川君は加藤さんになっていて、しかも加藤さんは私の服を着ていて、代わりに私がこの格好をしていたのよ。加藤さんは体を取り替えたって言っていたけど、何がどうなっているのか、本当にさっぱりわからないわ。悪い夢でも見てるみたい……」 「そうですね。俺もよくわかってませんけど、とりあえず夢じゃないみたいですよ」 祐介は嘆息し、升田に知っている限りの事情を説明した。 これまでのいきさつと、今、自分が真理奈を探していること。そして真理奈は升田の肉体を奪い、彼女になりすましているはずだということ。 祐介が話している間、升田は黙って耳を傾けていたが、説明が終わると不意に顔をしかめて、不快感と怒りをあらわにした。 「そうだったの。加藤さんったら、なんてことをしてくれたのかしら。黒魔術だなんて言われても、まだ信じられないけど……」 「でも、全部本当のことです。俺があいつの体になって、あいつが先生の体になって、先生が俺の体になってるんです。早くあいつを見つけて、元に戻らないと」 「そうね。中川君には悪いけど、やっぱりこんな体じゃ困るわ。急いで加藤さんを見つけて、元に戻してもらいましょう」 二人はうなずきあって、一緒に真理奈を捜すことにした。 (それにしても……俺と加藤と升田先生が入れ替わってるなんて、複雑な状況だなあ) 今までろくに会話したことがなかった女教師と肩を並べて歩きながら、祐介は自分の体が彼女に使われていることに、不思議な思いを抱いた。ふと、気になったことを小声で質問する。 「先生、俺の体になって違和感はないですか?」 「もちろんあるわよ。男子の制服なんて着たことがないし、体つきも全然違うし……でも、女の子になった中川君に比べたら、まだましじゃないかしら。あなた、スカートなんてはいたことないでしょう?」 「そうですね。こんな格好、恥ずかしくて死にそうですよ……」 祐介は自分が着ている半袖のセーラー服を見下ろした。異性の肉体になっているのがこの上なく恥ずかしく、自然と顔が赤くなる。 そんな祐介の態度が面白いのか、升田は表情を緩めて笑った。 「そんなに恥ずかしがることはないわ。結構可愛いわよ、今の中川君も。元に戻らなくても、充分女の子としてやっていけそうね」 「先生……それ、シャレになってませんよ。マジで勘弁して下さい」 祐介はすねた顔で言い返した。日頃、生徒に厳しく口うるさい升田も、ときには冗談を口にすることがあるのだと知って意外に思った。 「それにしても、加藤さんはどこに行ったのかしら。ちっとも姿を見かけないけれど」 「どこにいるんでしょうね。図書室か食堂か、それとも体育館か……」 「もしも学校の外だったら困るわね。もう捕まえられなくなるわ」 祐介も同感だった。このまま真理奈が学校を離れて街に出ていってしまえば、もはや追いつくことは不可能だろう。何としても、真理奈が校内にいる間に確保しなくてはならなかった。 捜索を急ぐ二人だが、真理奈はいっこうに姿を見せない。 「この辺りにはいないみたいです。体育館の方に行ってみましょうか」 「え、ええ……そうね」 升田はうなずいたが、少し様子がおかしい。妙にもじもじして落ち着きがないように思えた。 「先生、どうかしましたか?」 「ええっと……実はその、お手洗いに行きたくなってきちゃったの。どうしようかしら……」 「ええっ、トイレ?」 祐介は面食らった。 「トイレか……そりゃ困ったな。大きい方ですか、それとも小さい方ですか」 「ち、小さい方……さっきから我慢してたんだけど、そろそろ駄目みたい」 内股になってそわそわする升田。祐介はどうしたものかと迷う。これが平常であれば、「いってらっしゃい。どうぞごゆっくり」とでも言えば済む話だが、今はそういうわけにもいかなかった。 というのも、升田の首から下は祐介の体である。この状態でトイレに行くとなれば、自分の体の大事なところを余さず見られてしまう。大して親しくもない女教師にそんなことをさせて恥ずかしくないのか──祐介は自問したが、だからといって升田にずっと小便を我慢させておくわけにもいかない。 わずかな逡巡のあと、祐介は諦めて升田を便所に行かせることにした。 「しょうがない。ここで待ってますから行ってきて下さい。大丈夫ですよ。男の小便なんて簡単ですから。つまんで、出して、しまうだけです」 と説明したが、升田はまだ踏ん切りがつかないようで躊躇している。 「で、でも私、そんなことできないわ。実はね、さっき体が入れ替わったとき、加藤さんにアソコを触られたの。こんな風に言ったら中川君には悪いけど、本当に気持ち悪かったわ。私の体に男の人のあれがついてるんだもの。こんな状態でお手洗いなんて……」 「ええっ? あいつ、そんなことまでしたんですか。くそ。加藤のやつ、最低だ」 祐介は怒りに肩を震わせた。真理奈のことだから、単に体を入れ替えただけではないと思っていたが、やはり男の体になった升田を相手に、いかがわしい行為をしていたのだ。 升田はあえてそれ以上語らなかったが、真理奈に何をされたのかはだいたい察しがつく。自分の体を奪ってもてあそぶ真理奈が本当に憎たらしかった。 「あいつめ、絶対に許さねえ。あとでボコボコにしてやる。とにかく先生は、早くトイレに行ってきて下さい。そのあとで加藤を捜しましょう」 「で、でも……」 「今はあまり悠長なこと言ってられないでしょう。トイレに行かないと、漏らしちゃうじゃないですか。その体の持ち主の俺がいいって言ってるんですから、気にせずに行ってきて下さい」 祐介は升田の両肩に手を置き、前に押しやる。便所はすぐ近くにあった。 しかし、升田はなおも躊躇し、途方に暮れた顔でまごついている。祐介はだんだん苛々しはじめ、繰り返して彼女を急かした。 すると、升田は彼の方を振り返り、意外なことを言い出した。 「じゃあ、中川君も一緒に来てくれない? 一緒にお手洗いに行って、私が、その……おしっこするのを手伝ってくれないかしら」 「な、何だって !?」 祐介の驚愕の声が静かな廊下に響き渡った。慌てて自分の口を押さえたが、幸いにも近くの教室から教師が顔を出すことはなかった。 「なんで俺がそこまでしないといけないんですか。子供じゃないんだから、トイレくらいひとりで行ってきて下さいよ」 困惑して言い返すと、升田は訴えかけるような仕草で、自らの股間を指し示す。 「だ、だって、これに触りたくないんだもの。でも、中川君にとっては自分のものだから、気持ち悪いなんて思わずに触れるでしょう? できたら私の代わりにこれを取り出して、おしっこのあとパンツの中にしまうところまでやってくれない?」 「そりゃあ、確かに元は俺の体ですけど……でも、それはおかしいというか妖しいというか、なんかいろんな意味で嫌なんですけど……」 升田の小便の世話をする自分の姿を想像して、祐介はげんなりした顔になった。 (俺が先生の股間からチンポを取り出して、小便させろっていうのか? 介護が必要な爺さんじゃあるまいし、そんなことできるかよ) 「ねえ、お願い。一緒にお手洗いまで来て」 「いやです。そんなことできません」 祐介は拒絶したが、升田の尿意はごく間近に迫っている。手伝え、一人で行けの言い争いの末、根負けしたのは祐介の方だった。 「わかった、わかりましたよ。こんなところで漏らしても困るし、俺が手伝えばいいんでしょう、手伝えば。くそっ」 しぶしぶ祐介は升田を男子トイレに連れていき、個室の洋式便器の前に立たせた。座ったままで用を足すことも考えたが、それでは手伝うのが難しくなる。祐介は升田の隣で中腰になり、羞恥で赤くなった彼女の顔を見上げた。 「じゃあ、お願いするわ。あれを出してちょうだい……」 「はいはい、了解しました」 (ああ……なんで俺、こんなことをしてるんだろう) 祐介は今の自分の行動に大いに疑問を感じながらも、升田がはいているズボンのベルトを外してやった。ボクサーパンツの中を探ると、指先に陰毛の絡むさわさわした刺激を感じる。元は自分の体なのに、こうしていると誰か他の男の陰部に触れているようで不快だった。 (くそ、気持ち悪い。これも全部加藤のせいだ。元の体に戻ったら、絶対にあいつをぶちのめしてやる) 苦虫を噛み潰したような顔をして、祐介は升田の下着の中から自分のものだった牡の象徴を取り出した。小便を我慢しているからか、普段よりも少し大きくなっている。慣れ親しんだ黒い肉の塊を、今はグロテスクだと思わずにはいられなかった。 「ああ、触られてる。私のおちんちんに中川君の手が……ああっ」 太い幹をつまんだ瞬間、升田が大きく身をよじった。その艶やかな喘ぎ声に、祐介はますますやきもきさせられる。 「先生、じっとしてて下さい。早くおしっこしたいんでしょう?」 「ご、ごめんなさい。わかってるんだけど、つい……うう、ムズムズする」 情けない顔で弱音を吐く彼女からは、教師の威厳はいささかも感じられない。さらに硬度を増した肉の棒を握りしめ、祐介はため息をついた。 (はあ、なんで興奮してるんだよ。升田先生も子供じゃないんだから、小便くらい自分で何とかしてくれ。これじゃあ俺たち、完全に変態じゃないか) 便器の前で勃起したペニスをさらけ出した男子高校生と、そのペニスをつかんで小便の手伝いをする女子高生。こんな姿をもし誰かに見られたら、変態のそしりを免れまい。 とにかく今は何も考えず、一秒でも早くこの疎ましい行為を終わらせるべきだ。祐介は陰茎の先端を白い便器に向けて、升田に排泄を促す。 「はい、どうぞ。準備ができましたから、小便を出して下さい」 「わ、わかったわ。このまますればいいのよね。ううっ、ううん……」 色っぽい声と共にぴくぴくと陰茎が痙攣して、黄色がかった液体を垂れ流しはじめた。指でつまんだ幹の内部を生温かい液体が流れていくのを、祐介ははっきりと感じた。 「ああ、出てる。これが男の子のおしっこなの……」 升田のつぶやきは現状を嘆いているのか、それとも感心しているのか、祐介には判別がつかなかった。だが、異性の肉体になった女教師の気持ちが高ぶっているのは確かだった。 やがて小便は収まり、祐介は升田の陰茎を軽く振って雫を切ってやった。ここまでしてやるお人好しな自分に呆れてしまう。 「はい、これで終わりです。あとは自分でしまって下さい」 「えっ、もう終わり?」 「当たり前です。小便は終わったんでしょう? なら、しまわないと」 「で、でもこれ、収まらないわよ。どうしたらいいの」 勃起したままの一物をどうすればいいかわからず、困り果てる升田。そんなことはどうでもいいから、とっととしまえと言ってやりたかった。 「そんなもん、ほっとけば勝手に縮みますよ。早くしまって下さい。こんなところで一発抜くわけにもいかないんですから」 「一発抜く? それってどういう意味なの」 「ああ、もう、イライラする! 射精するってことですよ! 出すものを出しきったら収まりますけど、先生はそんなことしたいんですか !?」 祐介は声を荒げた。ひとに何を言わせるのか、この女は。無性に腹が立って仕方がなかった。 「そ、そうだったの。ごめんなさい、気がつかなくて。そう、射精すれば収まるの……」 升田は詫びたが、その表情には奇妙な自得の念が見てとれた。いったい何を納得したのか──彼女の口調に、祐介は疑念を抱く。 「先生……もしかして、その……まさか、一発抜きたいなんて言いませんよね」 「え? ええ、そんなことは考えていない……わ」 「本当ですか? 怒りませんから、正直に言って下さい」 祐介は目を細め、鋭い視線で升田をにらみつけた。女教師の知的な美貌を羞恥の紅が彩り、ペニスがもどかしそうに揺れ動く。 数秒間の沈黙のあと、升田は消え入りそうな声で言った。 「ご、ごめんなさい。その……やっぱり出すものを出しておきたいんだけど、手伝ってもらえないかしら。本当にごめんなさい……」 「はあ、やっぱり……わかりました。ここまできたら乗りかかった船です。ちゃんと抜いてすっきりさせてあげますよ」 祐介は成りゆきに逆らうことを諦め、再び升田の男性器に触れた。表面に血管の浮き出た陰茎を、たおやかな手が撫で上げる。女教師がびくりと震えた。 「ああっ、私のおちんちんが……あっ、ああっ」 艶めいた声をあげて身をくねらせる升田を、祐介は呆れた顔で眺めやった。 (まったく、こんなに硬くしやがって。これは俺の体なのに……) 現在の二人は、首から下の肉体が他人のものと入れ替わっている状態だ。祐介の頭には真理奈の体が、そして升田には祐介の体が融合している。大切な自分の体が他人に奪われ、性器を勃起させていることに、祐介は平静を保てなかった。 ともかく、可及的すみやかに升田を満足させて、目の前の痴態を終わらせなければならない。亀頭の中央にある割れ目を爪で引っかき、強い刺激を加えた。 「な、何これ。ああんっ、こんなのダメぇっ」 升田ははしたない声をあげて手淫の快感に酔いしれる。普段のストイックな態度からはあまりにもかけ離れた姿だ。祐介の指が竿を摩擦するたび、升田の膝が笑って腰が揺れた。 「先生、静かにして下さい。誰か来たらどうするんですか」 「ご、ごめんなさい。でも、勝手に声が出ちゃうの。いけないのはわかってるんだけど──ああっ、んっ、んんっ」 升田は指を口元に運び、爪を噛んで声を押し殺そうとしたが、それも無駄な努力だった。細い眼鏡の奥の黒い瞳には真っ赤な淫欲の炎がともり、鮮やかな紅色の唇からは浅ましい嬌声が溢れ出す。初めて目にする彼女の淫猥な表情に、祐介は困惑を隠せない。 (早くイってくれよ。こっちまで変な気分になってきたじゃないか……) いくら顔が女とはいえ、男が喘ぐ光景──それも、自分自身のものだった肉体が陰茎を愛撫されて悶える姿に興奮するなど、本来あってはならないことだ。 しかし、こうして升田の肉棒をしごいて色っぽいよがり声を聞いていると、頭に血がのぼって思考がまともに働かなくなる。自らの体内で熱いものがドクドクと脈動しているのを感じた。 興奮と共に、少しずつ摩擦のペースも上がっていく。指を雁首に巻きつけ、幾度も上下に往復させた。尿道口から漏れ出した先走りの汁が細い指を汚し、音をたてて泡立つ。濃厚な牡の臭いが鼻をつき、祐介は小さなうめき声をあげた。 理性を維持するため、これはただの自慰行為だと何度も自分に言い聞かせた。そう、これはあくまで自分で自分のものを処理しているに過ぎない。何もやましいことはないのだと、胸の内で正当性を訴えた。 だが升田はそんな彼の苦労も知らず、初めて自慰を覚えた少年のように切ない声色で喘いでいる。 「や、やだ……お腹の下の辺りがウズウズして、何かがせり上がってくるみたい。ううんっ、もうすぐ出るのかしら」 升田の独白を無視して、祐介は無言で肉の柱をしごき続ける。下手に口を開けば自分も高揚していることを悟られてしまいそうで、喋ることができなかった。下腹部が熱を帯びて疼いているのは彼も同じだった。 必死で抑制しているにも関わらず、祐介の体の火照りは収まらない。呼吸は荒く、脈は速く。真理奈から借りた十七歳の少女の肉体は、目の前のたくましいペニスに奉仕することで、祐介の意思とは無関係に高ぶってしまう。 (畜生、体が熱い。この体はどうなってるんだ。加藤のやつ、こんな体を俺に押しつけやがって……) 女として発情していることが、祐介のプライドを傷つける。全ての元凶である真理奈を憎んだが、肝心の彼女がこの場にいない以上、どうすることもできなかった。 (くそ、早くイけよ。俺までおかしくなっちまう) 焦るあまり、手つきが乱暴になる。升田は体をくねらせて男の快楽を貪っているが、いまだ達する気配はない。口の端からよだれを垂らして、熱っぽい眼差しを祐介の手元に注いでいた。 きっと、自分も彼女と同じような顔をしているのだろう。異性の肉体で味わう未知の官能が、祐介の理性を少しずつ希薄にする。中腰でいるのが辛くなり、祐介は升田の隣にしゃがみ込んだ。 その拍子に股間から生ぬるい液体が漏れ出し、ショーツの内側を汚す。祐介は思わず顔をしかめた。先ほど真理奈と交わったときに注ぎ込まれた精液だった。 (ううっ、気持ち悪い……拭かないと。くそ、なんで俺がこんな目に遭わなきゃいけないんだ) ひたすら嘆いてトイレットペーパーを千切り、股の間に差し入れた。必死で女陰の周りを拭き取る己の姿が、途方もなく恥ずかしい。 「ど、どうしたの、中川君。まさかアソコをいじくっているの?」 「違いますよ! 汚れたから拭いてるだけです。頼むからほっといて下さい。うう……」 そんなやり取りも腹立たしく、情けなくも半泣きになってしまう。鼻をすすって股間の汚れを落としていると、面前に手が差し伸べられた。 「中川君、立って」 という声に従い、祐介は升田と向かい合う。互いの顔がごく間近にあった。長身の真理奈の体のため、男の身体を持つ升田と目線の高さがほとんど変わらないのだ。 「先生、どうしたんですか?」 祐介は怪訝な顔で訊ねた。升田はまだ精を放っていない。すぐに手淫を再開するつもりだったが、升田は勃起した男性器を剥き出しにしたまま、祐介の腰や背中を撫で回してくる。なぜ彼女がこんなことをするのかわからず、困惑した。 「ごめんね、中川君。先生だけあなたに気持ちよくしてもらって。これじゃ不公平よね」 「先生、何を言って──や、やめて下さい。そんなとこ触らないで……」 スカートの中に升田の手が侵入してきて、下着の上から臀部をわしづかみにした。柔らかな尻の肉を揉みしだかれて身の毛だった。 「ふふっ、恥ずかしがらなくていいのよ。ここには私たちしかいない。中川君が女の子の体で気持ちよくなっても、誰にもわからないわ。だから隠さないで」 「何の話をしてるんですか。俺はただ、先生が一発抜きたいって言うから……」 「それ以上は言っちゃ駄目。先生、ちゃんとわかってるから。おちんちんをいじって、中川君も興奮しちゃったんでしょう? それなら、先生と一緒に気持ちよくなりましょうよ」 「ち、違います! 俺はそんな変態じゃない!」 祐介は否定したが、升田は彼の体をきつく抱きしめ、尻や乳房をまさぐってくる。 顔だけは妙齢の美女であっても、升田の手足は祐介のものだ。力強い男の腕に押さえつけられ、女になった祐介は逃れることができない。 「やめて下さい、先生。こんないやらしい真似──ひいっ、や、やめろっ」 ショーツをずらされ、自分のものだった指が陰部を這い回った。膣内からこぼれた精液が指に絡んで潤滑剤に変わる。 「ほら、やっぱり濡れてるじゃない。言い訳なんてしなくていいから、もっと正直になりなさい。そうしたら、先生が中川君に女の子の気持ちよさを教えてあげる」 「い、いやだ。こんなのいやだぁ……」 首を振って嫌がる祐介。しかし、既に充分ほぐれていた女性器は、升田の指をスムーズに内へと受け入れてしまう。膣の入口をかき回され、祐介の腰が小刻みに震えた。 借り物の身体は、先ほど受けた淫らな仕打ちを覚えていた。首こそすげ替えられてしまったが、この体は眼前の少年の体と交わり、たっぷりと精を注ぎ込まれたのだ。再び性器に加えられる刺激に、火照った女体は否応なく燃え盛る。 (ううっ、腹の奥がムズムズする。何だよこれは。やめてくれ……) 祐介は恐怖を覚えた。自己の意思とは無関係に高ぶってしまう女の本能が恨めしい。股間で蠢く升田の指に、精液とは別の液体が絡みついた。 「素敵よ、中川君。あなたの首から下は加藤さんの体なのよね。不思議だわ。あの憎らしい子の体に、中川君の顔がくっついてるなんて……」 升田は呼吸を荒くして祐介を責めたてる。彼女の言う通りだ。祐介の手足や胴体は、そっくり真理奈のものと置き換わっているのだ。 もしかすると、これは己の肉体を奪われた升田の、真理奈に対する仕返しなのかもしれない。だが、そんな理由で自分が真理奈の身代わりにされては、たまったものではなかった。 「や、やめて──ああっ、やめてくれっ」 「一緒に気持ちよくなりましょうよ、中川君。さあ、先生のおちんちんを握って、さっきみたいにしてちょうだい」 升田は喘ぐ祐介の手をつかんで、自分の股間にいざなう。そこには熱を帯びた肉の槍がそそりたっていた。 祐介は逆らうことができず、それを引っ張るようにしごき始める。 (体が熱い。頭がぼうっとする。なんで俺、こんなことをしてるんだ……) 嫌っていた女子と強制的に身体を交換させられ、自分の代わりに男になった女教師と抱き合い、互いの性器を愛撫している。あまりにも倒錯した状況に、祐介は現実感を喪失しつつあった。これは夢ではないかという疑いが胸の内にわき起こり、少女になった少年から背徳の念を奪い去る。 いつしか祐介は嫌がることをやめ、積極的に升田の男根を慰めていた。 自分のものだと思えば、このグロテスクな肉の棒にも恐れを抱くことはない。手のひらで袋を優しく包み込み、すくい上げるようにして熱心に揉みほぐした。 「ああ、いいわ、中川君。先生、とっても気持ちいい」 升田は嬉しそうな笑みを浮かべ、指を立てて祐介の女陰を穿つ。下腹の裏側を引っかかれると、とろけるようなエクスタシーがもたらされる。 「うあっ、ああっ。せ、先生っ」 祐介は升田の体にしがみつき、豊満な乳房を押しつけた。子宮の疼きが心地よい痺れとなって、手足の先まで伝染していく。理性のたがが外れてしまい、もはや自分が何をしているのかもわからなくなった。 二人はひしと抱き合い、共に絶頂へとのぼりつめる。 首から上は女教師と男子生徒、そして首から下はいがみ合う高校生の男女。真理奈に陥れられた二人の犠牲者がお互いを慰め合い、異性の肉体で法悦にひたった。 「ああっ、イ、イクっ。イっちゃうっ」 升田の金切り声があがった。若いペニスから熱い樹液が噴き出し、祐介の白い手のひらを汚した。 それとほとんど同時に、彼も女としてのアクメを迎えていた。股の間から強烈な電流がほとばしり、脳髄を焼いて視界を赤く染めあげる。膣内がきゅうきゅうと収縮し、升田の指を締めつけた。 「はあっ、はあっ、はあああ……」 たまらずその場に崩れ落ちる祐介。今まで経験したことのない忘我の境地に、全身の力が抜けて壁にもたれかかってしまう。女陰から溢れた蜜で、太ももの内側がしっとり濡れていた。 「ふう……中川君、大丈夫?」 気がつくと、鼻先に升田の顔があった。日頃の厳しい女教師の表情ではない。どこか満ち足りた様子で口元を緩めた、だらしのない笑顔だった。 「あ……は、はい。大丈夫です……」 答える声にも力がない。祐介の身体はすっかり萎えてしまい、満足に立ち上がることすらできそうになかった。 「ごめんなさい。ちょっとやりすぎたかもしれないわね。でも、とっても気持ちよかったわ。ありがとう。ふふふ……」 升田は祐介の肩を抱き寄せ、髪をそっと撫でてくれた。祐介はなんと言えばいいかわからず、床にへたり込んで呆然としていた。 すぐ後ろの壁には白い粘液がこびりつき、生ぐさい異臭を放っていた。 次章を読む 前章に戻る 一覧に戻る |