その日、加藤真理奈は朝から上機嫌だった。 (ふふふ……中川のやつ、あたしのカッコで授業を受けてる。まあ、自分のことをあたしだと思い込んでるから、本人にとっちゃ当たり前のことなんだけどね) 教室の最後列の席に着いてシャープペンシルをもてあそんでいる真理奈の視線の先に、奇妙な外見の生徒が座っていた。 顔立ちや髪型はまぎれもなく男──なかなかに凛々しい少年のものなのだが、彼はなぜか女子の制服を身に着け、特に恥ずかしがるでもなく平然と教師の話に耳を傾けている。一見すると女装しているようにも思えるが、紺色のプリーツスカートの裾から伸びる柔らかな脚線や、セーラー服の胸元を押し上げている豊かな二つの膨らみは明らかに男性のものではなかった。 彼の名は中川祐介。真理奈と同じクラスの男子生徒だ。 そして、現在の彼の首から下は、真理奈の肉体である。先ほど真理奈が面白がって自分と祐介の首を挿げ替え、体を交換してしまったのだ。 そのため、逆に真理奈の首には学生服を着た祐介の体が繋がっていた。 「じゃあ、百八ページの冒頭から読んでもらおう。加藤真理奈、やってくれるか」 教壇に立つ初老の国語教師が真理奈の名前を呼んで、教科書の音読を命じた。 しかし、返事をして立ち上がったのは真理奈ではなく、真理奈の体を持った祐介だった。 「ん、お前は加藤か? はて、いつもと少し雰囲気が違うような……」 「どうしたんですか、先生。あたし、どこかおかしいですか?」 普段は無愛想な祐介が、教師の前で内股になってもじもじと恥ずかしがっているのは、かなり不気味な光景だ。 (うわあ、面白すぎる。あの中川が『あたし』とか言ってなよなよしてる。ありえねー) そばで見ていた真理奈は吹き出しそうになったが、真理奈以外のクラスメイトも、そして音読を命じた国語教師も、セーラー服を着て恥じらう祐介の姿に驚いた様子はない。 祐介自身でさえ、変わり果てた自分の体を特に気にするでもなく、自分が「加藤真理奈」本人であるかのように、ごく自然に振る舞っていた。 実は、この場で二人の体と立場が入れ替わったことを認識しているのは真理奈だけである。 それ以外の人間は、祐介も含めて全員が真理奈に暗示をかけられ、思考と記憶とを彼女に都合のいいように操作されているのだ。 これも、真理奈が悪魔に魂を売って得た力の為せるわざだ。 他人の肉体と精神を自在に操り、思いのままにコントロールする魔法の力。その最初の実験台になっているのが祐介と、この場にいるクラスメイトたちだった。 チャイムが鳴って休み時間になると、真理奈は席を立って祐介のもとに向かった。 「ねえ、真理奈。ちょっといい?」 「あ、中川君。何か用?」 祐介は座ったまま真理奈を見上げて、愛想よく笑い返した。 「自分は女子生徒の加藤真理奈」と思い込んでいる彼は、己の肉体が真理奈に奪われてしまったことを完全に忘却して、自分ではなく真理奈のことを祐介だと認識している。 (ふっふっふ、暗示はばっちり効いてるみたいね。でも、これだけじゃ物足りないわ。いつもムカつく中川のやつを、この機会にとことん貶めてやる) 真理奈は邪悪な思惑を隠し、話したいことがあるといって祐介を廊下に連れ出した。 普段は真理奈の怪しい誘いになど決して乗らない彼だが、今は違う。ひとのいい笑顔を浮かべて自分についてくる祐介を、真理奈は内心であざ笑った。 「それで、話っていったい何? 中川君」 「ああ、うん。今から真理奈とエッチしようと思って。ねえ、いいでしょ?」 悪びれずに告げた言葉に、祐介は飛び上がる。 「エ、エッチ !? あたしが中川君と !? なんでそんなことをしなきゃいけないのよ! 第一、中川君には瑞希っていう彼女がいるじゃない! そんなのおかしいよ!」 「おかしくないわよ。だって、真理奈はあたしのセックスフレンドでしょ。あたしがエッチしたくなったら、いつでも相手をしてくれるって約束したじゃん。ひょっとして忘れちゃったの?」 と言いながら、真理奈は祐介の目をのぞき込み、強力な催眠術をかける。見る間に祐介の顔から表情が消えていき、放心状態となった。 「あたしは中川君のセックスフレンド……」 それが唯一の真実であるかのように、祐介は自分の記憶を改竄していく。 間もなく我に返った祐介は、 「ごめんね、中川君。そういえばあたし、中川君のセックスフレンドだったよね。すっかり忘れてたわ。本当にごめんなさい」 と、真理奈が望んだ通りの回答を口にした。洗脳成功だ。 「別にいいわ。こうして思い出してくれたんだから問題なしよ」 真理奈はにやりと笑って祐介を抱き寄せ、自分のものだった女体の柔らかさを楽しんだ。 「あ、中川君のがあたしの脚に当たってる……」 真理奈の股間では、祐介から奪った男性器が見事に盛り上がり、赤面する彼の脚に押し当てられていた。 「ふふふ、真理奈とエッチすることを考えてたら、こんなになっちゃった。あんたのせいだから、責任とってあんたの体で慰めてよ」 「う、うん。中川君がしたいのなら、いいよ……」 「いいも何も、それはあたしの体なんだけどね。まあ、とにかくついて来なさい」 真理奈は処女のように恥じらう祐介を男子トイレに連れ込み、二人で奥の個室に入った。 休み時間は短いが、次の授業には出席する気がないので時間はたっぷりある。 完全に調子に乗った真理奈は、まずは自分が便座に腰かけると、その膝の上に祐介を座らせ、制服の上から彼の胸を丹念に揉んでやった。 「ふふっ、真理奈の胸、すごいデカパイね。たぷんたぷんじゃない」 元は自分の胸についていた乳房であるが、こうして他人のものとして触れるとやはり気分が違うものだ。真理奈は鼻息荒く、祐介の乳を揉みしだく。 「ああん、駄目っ。こんないやらしい揉み方、変になっちゃう……」 (うひいっ、あの中川がクネクネして悶えてる。なんておぞましいの) 自分のやったこととはいえ、クラスメイトの男子生徒が胸を揉まれて喘ぐ姿に思わず鳥肌が立ってしまう。自分まで変態になったような錯覚を覚えた。 だが、真理奈は祐介を嬲るのをやめない。 彼の制服の中に右手を差し入れ、ブラジャー越しに乳房を愛撫しつつ、もう片方の手をスカートの中に忍ばせてショーツを撫で回した。 「ああっ、そ、そんなところ──あんっ、はあんっ」 女体の性感帯を刺激され、祐介は甘い声をあげ続ける。 (しっかし中川のやつ、マジで女の子みたいな声を出すわねー。瑞希にこの声を聞かせたらどうなるかしら? ふふふっ、面白そう) あとで試してみてもいいかもしれない。真理奈は祐介を両手の指で執拗に責めたて、十七歳の少女の体を高ぶらせた。 何しろ、本来は自分の肉体だ。どうすれば感じるかは熟知している。乳房と女性器を中心に体じゅうを隅々まで愛撫し、少年の心に女の官能を植えつけた。 「ああっ、すごいっ。あたし、どうにかなっちゃいそう。ああっ、あんっ、ああんっ」 「あらあら、あんまり大きな声を出すと、外に聞こえちゃうわよ。それとも皆に聞いてほしいのかしら? 変態さんね、真理奈ちゃんは」 嘲るように言って首筋に舌を這わせると、祐介の体がびくんと震える。 「だ、駄目っ。そんな意地悪、言わないで……」 発情してよだれを垂らす少年の顔は、まるで本物の女のように艶かしい。 (ふふっ、あのムカつく中川が、こんないやらしい顔をするんだ。何だかあたしまで興奮してきちゃったわ。あー、こいつを犯してやりたいっ) 首から下が男性の体になっているからか、こうして柔らかい女体を抱いていると、早く合体したいという本能的な衝動が湧きあがってきて、下腹部が熱を帯びる。 既に真理奈の股間では、いきりたった一物がテントのように盛り上がっていた。 生々しい牡の欲望に理性を奪われ、真理奈の呼吸はますます荒くなっていく。 「もう我慢できない。ねえ、真理奈の中にチンポ入れさせてよ。あたし、あんたとセックスしたくてしょうがないのよ」 真理奈は便座から腰を浮かせて、丸みを帯びた祐介のヒップを男性器の先端で小突いた。 「う、うん、わかった。中川君がしたいんだったら、いいよ……」 祐介は壁に手をつき、後ろの真理奈に見せつけるような姿勢で尻を突き出す。蜜にまみれたショーツを乱暴にずり下ろすと、ひくひく蠢く女の秘所が露になった。 真理奈にとっては見慣れた自分の体だが、今はひどく欲情をそそられる。ファスナーを開く手つきももどかしく、真理奈はズボンの中から勃起したペニスを引っ張り出し、祐介の女性器にあてがった。 (あたし、今から自分の体とエッチするんだ。考えてみたらすごい話よね。クラスメイトの男子と体を取り替えてセックスするなんて、ドキドキする……) 倒錯した興奮が真理奈を高揚させる。粘膜の触れ合う感触に、背筋がゾクゾクと震えた。 「中川君、いいよ。きて……」 祐介は肩越しに真理奈を見つめて、自分のものだった陰茎を乞い願う。 首から下を入れ替えた状態での奇怪極まりない性行為だが、今の祐介にとって、これは仲のいい友人とのありふれたスキンシップの一環でしかない。 真理奈は己の操り人形に成り下がった哀れな少年をせせら笑うと、腰を一気に押し出し、濡れそぼった祐介の肉壷を貫いた。 「ああっ、中川君のが入ってくる……あんっ、熱いっ、ああんっ」 祐介の口から淫らな喘ぎ声が漏れ出し、トイレの個室を妖しい空気で包み込む。 (ふん、よく言うわ。これはあんたのチンポでしょうに) 真理奈は呆れながらも体を祐介にぐりぐりと押しつけ、自らの膣内の感触を味わった。潤んだ肉ひだがぎっちりとペニスを挟み込み、腰を動かすたびに粘膜同士がこすれ合って、とろけるような快楽をもたらしてくれる。 これが男の体でするセックス──獣のような格好で女を犯す今の自分に、真理奈は言いようのない興奮を覚えた。 「すごい。あんたのおまんこ、あたしのチンポに吸いついてくるみたい。ああ、なんて気持ちがいいの。ホントにいやらしい体だわ」 「あんっ、や、やめて。そんなこと言わないで。いやっ、いやあっ」 言葉と体の両方で嬲られ、祐介は泣きながら首を振った。 いつも自分と口喧嘩をしている冷淡な少年とは思えない女々しい態度に、真理奈は自分が手に入れた魔力の恐ろしさを改めて実感する。 (最高ね。この力があれば、何でもあたしの思いのままよ) 悪魔に魂を売ってよかったと、つくづく思う。 真理奈が黒魔術に手を染めたのは、今から少し前のことだ。 それまで悪魔や魔術、神仏、魂といった非科学的な概念にはまったく縁が無く、信じてもいなかった真理奈だが、ひょんなことから偶然、悪魔を名乗る存在に出会い、科学的な論理では絶対に説明不可能な現象の数々を見せつけられ、宗旨替えをした。 「今まで神様も悪魔も、ただの迷信でくだらないものだって思ってた。でも、ホントはそうじゃない。あたしたちの住んでる世の中には神様がいて、悪魔がいて、他にも仏様とか精霊とかがいっぱいいて、あたしたち人間もその気になれば魔法や神通力が使えるようになっちゃう。世の中には、まだあたしが知らない面白いことがいっぱい隠れてるんだ!」 まさしく、目から鱗が落ちる思いだった。 生来、好奇心が旺盛で退屈を嫌い、他人の厄介ごとを喜ぶ性格の真理奈である。悪魔の力を借りて自分も黒魔術を使えるようになりたい、と思うのは当然のことだった。 「もしも魔法が使えるようになったら、毎日がすっごく楽しくなりそうね。こっそりイタズラしまくったり、ひとをパシらせたりしてやりたい放題できるじゃない。よーし、あたしはこれから魔法使いになって、いい思いをしまくるぞー!」 と決意し、悪魔に魂を売って魔術を行使する力を授かるという契約を交わした。 こうして真理奈は、他人の肉体と精神を自由自在に操る力を獲得したのである。 とはいえ、まだ力を身につけて間もない真理奈には、自分がどれだけのことをできるのか、どんなことをすれば面白いか、あまりよくわかっていない。全てが手探り状態だ。 とりあえず、今は周りの人間を片っ端から実験台にすることで手に入れた魔力の使い方に慣れるのがいいように思える。 その記念すべき第一号となるのが、ここにいるクラスメイトの祐介だった。 真理奈と首から下の肉体を無理やり交換させられ、さらに自分が加藤真理奈だと誤った認識を与えられ、そのうえ真理奈のセックスフレンドとしてトイレで自ら股を開かされる。 救いようがないほどの屈辱を受けても、嘆くことさえできずに嬉しがる哀れな少年を勝手気ままにもてあそび、真理奈はひたすら腰を振り続けた。 「ひいっ。そ、そんなに激しくしないで……ひいいっ、だめぇっ」 膣内を深々とえぐられ、ぽろぽろ涙を流して許しを乞う祐介。 だが、その柔弱な態度がかえって真理奈の嗜虐心をそそる。 「ふふっ、いい締めつけだわ。エッチなお汁が溢れ出して、お股がびちゃびちゃになってるじゃない。あんたって、ホントにスケベな女の子よねえ」 真理奈はぱん、ぱんと叩きつけるように腰を押しつけ、祐介の中を激しく往復した。苛めれば苛めるほど、祐介の膣はきゅんと締まって真理奈のペニスを放そうとしない。 彼が自分の代わりに牝として感じている確かな証拠に、真理奈は笑いを抑えられなくなる。 「あーあ、がっかりしたわ。加藤真理奈さんはもっと真面目な女の子だと思ってたのに、こんな風に犯されて喜ぶマゾのセックスジャンキーだったなんて」 「ち、違う。あたしはそんな変態じゃない……」 「何が違うの? あんた、ホントはすごいドMなんでしょう。授業中に男子トイレで乱暴に犯されて、気持ちいいんでしょう。いい加減に認めなさいよ。自分が変態のM女だってことを」 真理奈は祐介の片脚を持ち上げ、不安定な姿勢で局部をきつく密着させた。祐介はさらに声を高くして喘ぎ、真理奈のペニスをいっそう強く締めつける。 日ごろ不仲な男女の性器が、今は恋人同士のようにぴったり結合して、肉体を取り替えた真理奈と祐介とを、じわじわ絶頂へと押し上げていく。 「だ、駄目ぇっ。あたし、イっちゃう。イ、イクっ、うおおおっ」 祐介が叫ぶと同時に膣内が一気に収縮し、射精を求めてきた。陰茎が搾り取られる心地よい感覚に、真理奈も我慢の限界を迎える。 「ああっ、あたしもイクわ。祐介っ、出るっ!」 熱い塊が尿道口から噴き出し、祐介の胎内へとぶちまけられた。小便にも似て異なる解放感が真理奈の背筋を駆け抜け、至上の快楽となって十七歳の少女の心をとりこにする。 (ああっ、あたし、射精してるんだ。それも自分の体の中に。あたしの体、中川の体に犯されて中出しされてるんだ……) 異性の肉体で迎える絶頂の余韻と、自らの体を汚す背徳の興奮。あまりの愉悦に、真理奈は熱に浮かされたようにぼうっとして、しばらく何も考えられなかった。 祐介も彼女と同じような表情を浮かべて床にへたり込み、肩で息をしながら、無言で膣内射精の感触を噛み締めている。 女体のオーガズムを心ゆくまで味わって、少年の火照った横顔はとても満足げに見えた。 「ふう……すっごく気持ちよかったわ。あんたはどう?」 萎えたペニスを引き抜くと、祐介の陰部から白みを帯びた液体がとろりとこぼれる。牡と牝の臭いが混じり合って、むせ返るような臭気が辺りにたちこめた。 「う、うん。その……とっても気持ちよかった。意識が飛んじゃうくらい」 「そう、それはよかったわねー。ところであんた、実は自分の体があたしと入れ替わってるってこと、思い出せない?」 「え、何の話?」 きょとんとする祐介の顔をのぞき込んで、真理奈は彼にかけた暗示を唐突に解除した。 たちまち祐介の表情に驚きが満ち、プロポーション抜群の肢体がわなわなと震えだす。自分が今まで真理奈を何をされていたのか、ようやく全てを思い出したのだ。 落ち武者のように首を斬り落とされ、その首を真理奈のものとすげ替えられたこと。女の肉体でいることに違和感を覚えないよう、強烈な暗示をかけられたこと。そして入れ替わった状態のまま真理奈に犯され、心も体も辱められたこと。 「ど、どうして俺はあんなことを……お、俺、どうなっちまったんだよおっ !?」 今まで晒した醜態を思い起こして赤くなったり青くなったりする祐介の顔を横目で見やり、真理奈は腹をかかえて笑い出す。 「うひゃひゃひゃっ! やっと今の状況が飲み込めたみたいね。あー、お腹が痛いわ。男のくせに、チンポでおまんこぐりぐりされて、『気持ちよすぎて意識が飛んじゃうっ』だってさ。あんた、マジで変態じゃん。おー、恥ずかしいこと。あとで瑞希に教えてやろうっと」 「お、お前っ、よくも俺にあんなことをさせやがって……うげえっ、気持ち悪い。と、とにかく俺の体を返せっ! 元に戻せ! 今すぐっ!」 祐介は血の涙を流して真理奈を怒鳴りつけたが、真理奈はその場で立ち上がると、 「いやよ。あんたには、このままもうしばらくあたしの体で恥ずかしい思いをしてもらわないといけないんだから。この体はもうちょっと借りとくわ。それじゃあね」 といって、祐介を置いてトイレをあとにした。 「こ、こら、待てぇっ! お、俺の体を返せぇっ!」 背後から祐介の叫び声が聞こえてきたが、追いかけてくる気配はない。おそらく、激しいセックスのあとで腰が抜けてしまい、立てないのだろう。 真理奈にとっては肉体的にも精神的にも満たされる、最高のひとときだった。 (あー、楽しい。中川をオモチャにするのがこんなに面白いなんて思わなかったわ。さーてっと、次は誰をもてあそんでやろうかしら……) 授業中の静かな廊下を鼻唄をうたって歩きながら、真理奈は自分が手に入れた魔法の力でもっと面白いことはできないだろうかと、新たな標的を探すのだった。 次章を読む 前章に戻る 一覧に戻る |