真理奈と直人 おまけ

 夜のリビングで、一組の男女が静かなひとときを過ごしていた。
「ん……この角度じゃ奥まで見えないわね……」
 ソファに腰かけた寝巻き姿の女はまだ若く、どうやら未成年のようである。短い髪を鮮やかな茶色に染めた顔立ちは少々きつめだが充分以上に整っていた。
 寝転がって女の膝の上に頭を横たえているのは、彼女よりもっと年下の少年だった。中学生にも見えないあどけない横顔と小柄な体格、女の子と見間違うほど繊細な顔の造作。黄色の可愛らしいパジャマを着た少年はさらさらした黒髪を女の膝に乗せ、ソファの上に縮こまって身を硬くしていた。
「う――今、カリって……」
「痛かった? ごめんね、もうちょっと我慢して」
 女は上から少年を見下ろしながら、耳掻きを彼の耳に突っ込んでいる。あまり慣れていないのか、女のたどたどしい手つきに少年は時おり抗議の声をあげたが、部屋の壁を見つめるその表情は慎ましい幸福感で占められていた。
「お、とれた――ほら見て直人、結構大きいでしょ」
「ホントだ……ちょっとびっくり」
 二人は顔を見合わせ、楽しそうに笑った。
 無事に少年の耳掃除を終えた女が彼の背を押して共に寝室へと向かう。
「ありがと、まりなお姉ちゃん」
「ん、また溜まったら言いなさいよ。あんま上手くないけどね」
「うん。じゃあおやすみなさい」
 部屋に一つしかない大きめのベッドに潜り込み、少年がすぐに寝息をたて始める。女はそんな彼の無邪気な寝顔を目を細めて眺め、小さな声でつぶやいた。
「おやすみ直人。ふふ、幸せそうな顔……」
 そのまま一緒に寝床に入ろうとした彼女だったが、急に何かを思いついたような顔になると、立ち上がって部屋の反対側、乱雑に物が置かれた棚に手を伸ばした。そしてそこから錠剤の入った小さな透明の瓶を取り出す。
「そういえばこれ――この子に使ったらどうなるかしら」
 小瓶を手に面白そうに笑う表情は子供っぽく、まるで悪戯をする悪童のようにも見えた。
「ふふふ……物は試しね、やってみよっと♪」
 ケータイを手早く操作してうなずいた女は、瓶を開けて中の錠剤を一粒だけ口に含んだ。それを嚥下せず、寝ている少年の下に歩み寄ると意識のない彼にそれを口移しで飲ませてやる。
 ――こくん……。
 彼女は少年がちゃんと薬を飲み込んだことを確認すると、もう一錠それを取り出して今度は自分で飲んだ。
「ああ――始まった……あは、あはははは……♪」
 だんだんと意識が薄れ、女のまぶたが重みに耐えかねて下りてくる。楽しそうに笑う女は少年と同じベッドに横たわり、そのまま眠りの国へと旅立った。

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 

 翌朝は寒さも和らぎ、幾分か過ごしやすい気候となった。元気のない太陽が東の空から顔を見せ、さえずる小鳥が家々を飛び回る。
 カーテンから薄明かりが差し込む部屋の中、女は気だるげに目を覚ました。
「ん――」
 軽く目を開けて薄暗い天井を見上げる。まだ覚醒しきっていない頭を働かせ、彼女はゆっくりと身を起こした。
「ふあああぁ――なんか眠いなぁ……」
 細い指を口に当て、高い声でそうこぼす。女はそのまま半ば閉じた目で部屋を見回していたが、ふと何かに気づいたように小さな声をあげた。
「……あれ?」
 驚いた様子で自分の体を見下ろす。ゆったりしたチェックのパジャマの胸元には二つの豊かな膨らみが揺れている。膝までの裾から生える脚は長くしなやかで、見下ろした女の視界の中で形のいい曲線を描いていた。
「……これ、おっぱい? ボクの胸――あれれ?」
 長い指で自分の胸を揉み始めた女だったが、その表情はどんどん驚愕に歪んでいく。信じられないものを見ているかのように呆気に取られた彼女の美貌。とうとう女は叫び、朝の落ち着いた静寂を引き裂いた。
「なんで――ボク、どうなっちゃったのおっ !?」
 その大声に、同じベッドでぐっすり寝ていた少年も目を覚ました。
「うぅん、うるさいわねえ……直人、どうしたのよ」
「――え…… !?」
 驚愕の上に驚愕を重ね、女が少年の顔をのぞき込んだ。年の差は五、六歳といったところだろうか。似ているようで似ていない、そんな少年と少女。
 女は目を見開き、震える手で彼を指差した。
「ボ、ボクがいる……? なんで…… !?」
「あ、直人があたしになってる。成功ね、ふふっ♪」
 彼は声変わりも済ませていない少年の声で嬉しそうに言った。
「直人、あたしよあたし。あたし真理奈よ」
「え――まりなお姉ちゃん…… !?」
 あどけない顔の少年が軽くあくびをして話を続ける。
「そう。あんたはあたしになってるでしょ? 寝ている間に体を入れ替えたってわけ。だから今はあんたがあたし、あたしがあんたになってるのよ。わかった?」
「え……えぇ――えええぇえぇっ !!?」
 真理奈は短い茶髪を逆立て、再びの絶叫で部屋の空気を振動させた。

 慣れない女の着替えだったが、真理奈は直人に手伝ってもらって無事に高校の制服を着終えた。
「ほら、あっち向いて」
「うん……」
 頬を朱に染め立ち上がった真理奈がくるりと回って少年に背を向ける。彼女の紺のスカートの筋を伸ばして整えてやると、直人は満面の笑みでうなずいてみせた。
「はいOK。これでどこから見ても恥ずかしくない女子高生の完成よ」
「う……うぅ……」
 巨乳を包むブラジャーも、その上に着るセーラー服も、下半身を覆う短いスカートも今の彼女にとっては全てが羞恥の対象となる。真理奈は上気した顔で少年を振り返った。
「ホ――ホントに、ボクがお姉ちゃんの代わりするの?」
「そうよ、そう言ったでしょ?」
「うぅ、恥ずかしいよぅ……」
 ベッドに座る少年を泣きそうな顔で見下ろす女。それとは対照的に、彼の方はどこ吹く風といった感じで彼女に向かって微笑んでいた。暖かそうな緑色のトレーナーと薄いベージュのデニムパンツを身にまとい、足元に置かれた黒いランドセルを面白そうに眺めている。
「ふふふ、小学校かぁ……何年ぶりかな?」
「お、お姉ちゃん……お願いだから元に戻してよぅ……」
「ダメ! 今日はずっと入れ替わったままよ! 今日一日、ちゃんとあんたがあたしの代役できたら元に戻したげる」
「そんなぁ、そんなの無理だよ……」
「男だったら泣き言いわないの! まあ今のあんたは女の子だけどね♪」
 そのとき家の呼び鈴が鳴り、直人は軽やかな足取りで部屋を出て行った。すぐに彼は真理奈のところに戻ってきたが、一人の少女が一緒だった。真理奈よりずっと小柄で可愛らしい印象を受ける、黒いツインテールの髪型をした高校生の娘だ。
「おはよう……真理奈ちゃん」
 少女は確認するように小さな声で真理奈に話しかけた。いつも勝気な彼女らしくない、何かに怯えた兎のような眼差しに少女は思いを確信に変える。
「み、瑞希さん――ボク、直人です……」
「やっぱり……真理奈ちゃん、直人くんと入れ替わっちゃったんだね?」
「そうよ、なんか急にやりたくなってさあ。でも意外と似合うと思わない? 直人って大人しいし、こう言っちゃ何だけど女々しいっていうか――」
「ひ、ひどいよお姉ちゃん……」
 瑞希と呼ばれた少女は同情の視線で真理奈を見つめたが、その彼女も直人の言葉を肯定せざるをえなかった。軽くため息をつき、諦めと慰めを込めて少年にうなずき返してやる。
「じゃあ瑞希は直人がちゃんとあたしでいられるように、あれこれ助けてやってね。大丈夫よ、直人はまだ小学生だけど賢いから。あたしより頭がいいくらいだもん」
「うぅうぅ――瑞希さん、助けてください……」
 半泣きで自分に抱きついてくる長身の女に面食らいつつも、瑞希は笑って明るい声を出した。
「わ、わかったから……じゃあ真理奈ちゃん、学校行ってくるね」
「はいはい、行ってらっしゃい。あ〜、あたしも直人の小学校に行かないと……」
 少年は二人の女子高生を見送ると、にやにや笑って自分のランドセルを背負った。

 朝の光の中、高校の制服を着た二人の少女が肩を並べて歩いている。
 茶髪の女は身長に恵まれスタイルも良く、人目を引く派手な顔立ちでよく目立つ。
 それに対して黒髪のツインテールの少女は可憐だが小柄で、まるで小学生のような体格だった。
「はあ……なんでボクがまりなお姉ちゃんに……」
 背の高い少女、真理奈が長い息を吐いてそうこぼす。瑞希はそんな親友を気遣わしげに見やって慰めの言葉をかけた。
「大丈夫、すぐ戻れるよ」
 瑞希を見返して不安そうな視線を向ける真理奈。
「真理奈ちゃん、変なお薬持ってるからね……。私も前に、それで真理奈ちゃんと入れ替えられてびっくりしたことがあるよ」
「……そうなんですか。お姉ちゃんにも困ったもんですね……」
「うーん、ほんとだね?」
 その本人の顔で言われ、わかってはいてもつい困惑してしまう瑞希だった。普段あれこれと言いたい放題の真理奈がこうして気弱な少年の口調で喋っているというのは、瑞希に違和感と奇妙な悦楽とを同時にもたらしていた。
「それで直人くん。真理奈ちゃんの体はどう?」
「はい、やっぱり背が高いし、ちょっと動きやすいです。スカートはスースーしますけど」
 自分の腕や脚をしげしげと見つめて真理奈が答える。
「そうだね。真理奈ちゃん、中学までテニスしてたから運動神経はいいと思うよ」
「えーとそれに――なんか、人に見られてる気が……」
 真理奈は顔を赤くして、消え入るような声でつぶやいた。周囲の通行人――主に男が先ほどから真理奈の方をちらちらと見つめてくる。彼女の豊満な双丘も、長く形のいい手足も、男の視線を集めるのに充分な魅力を持っていた。
 女を見る男の目。欲望に彩られた生々しい視線を真理奈は一身に引きつけながら、今まで感じたことがない恥辱に背筋を震わせていた。
「うーん、それは仕方ないかな。真理奈ちゃんすっごいモテるし……」
「は、恥ずかしい……」
「気持ちはわかるけど頑張って。今日一日の辛抱だから」
「ううぅ――ボク、帰りたいよぉ……」
 涙目になって弱音を吐く真理奈の姿に動悸しつつも、瑞希は彼女の手を引いて通学路を歩いていった。

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 

 加藤真理奈は顔はいいが頭は悪い。
 初めて受ける高校の授業に緊張して臨んだ真理奈だったが、幸いにも周囲の生徒たちも教師も、いつも真理奈が寝ぼけて授業を聞き流していることを熟知しており、彼女を当てたり、その授業態度に注目したりといったことは一切なかった。
「へえ、ベクトル? ふんふん……これ難しいなあ」
 だが今日の真理奈は妙に勉強熱心で、せわしなく手を動かしてノートをとり続ける姿が級友たちの軽い驚きを誘わずにいられなかった。
 休み時間も唯一心を許せるクラスメートの森田瑞希があれこれ世話を焼いてくれたため、学校生活において彼女が困る場面はほぼないと言ってよかった。
 ある、たった一つの点を除いては。

 昼休み直前の休み時間のこと、真理奈が瑞希の席にやってきた。
「み――瑞希さん……」
「どうしたの、なお――真理奈ちゃん?」
 瑞希が慌てて言い直して親友の顔に目を向ける。真理奈はもじもじと落ち着かない様子で、言いたいことをはっきりと言えないような、そんなもどかしい表情で瑞希の前に立っていた。
「あのね……」
 こそこそ隠れるように彼女の耳に口を寄せ、小さな声で言葉を続ける。
「実はボク――おしっこしたくなっちゃったんだけど、お姉ちゃんの体だからどうしていいかわかんなくって……」
「わかったわ。じゃあ教えてあげるからついてきて」
 困った顔の真理奈に微笑んでうなずき返す。まるで自分が親友の保護者になったかのような錯覚に、瑞希は少しだけいい気分になっていた。
 教室を出て女子トイレに向かう二人。
「ま――真理奈ちゃん !? こっちよ!」
「あ……そっか、こっちじゃダメなんだ……」
 当然のように男子便所に入ろうとする真理奈を慌てて呼びとめ、壁が薄い桃色に塗られた女子トイレに連れてゆく。真理奈は誰もいない周囲を見回し、不安げな表情で瑞希に言った。
「ぜ、全部個室なんだ……入っていいの?」
「そりゃあ、入らないとできないよ」
 今の彼女は排泄すら一人でできないかもしれない。そう懸念した瑞希は、仕方なく真理奈と共に狭い個室に入り、要領を教えてやることにした。
「和式だからちょっとやりにくいかも。とりあえずそこに座って」
「あ、うんちするのと同じでいいんだね……何とかなりそう」
 薄いピンクの下着を膝までずらし尿道を開放する。
「ん……」
 横では瑞希が気を遣って便器に水を流していた。
 ――ジョオオオォォ……。
 男のときとは違う、漏れ出るような小便の感覚に、真理奈は戸惑いながらも何とか排泄の欲求を満たし、心地よさげに息をついた。
「ふう――おしっこって、こんな感じなんだ……」
「直人くん、出した後はちゃんと拭いてね」
「え、拭くの?」
「だって拭かないと気持ち悪いでしょ?」
 確かに瑞希の言う通り、股の一部が小便に濡れて少し不快だった。真理奈は軽くうなずき返し、トイレットペーパーで湿った股間をそっと擦り上げる。
「う……!」
 くすぐったいような気持ちいいような、何とも言えない感触に真理奈は小さな声をあげた。だが瑞希が見守っているこの状況下であまり変な反応をする訳にもいかない。柔紙を便器に捨ててもう一度水に流し、無事に真理奈はトイレを済ませた。
「よかったね直人くん。ちゃんとおしっこできて」
「う、うん……ありがとう……」
 水道で綺麗に手を洗い、彼女は赤い顔で友達に礼を述べた。

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 

 それから特に問題は起きず、真理奈の高校での一日は平穏のうちに終わりを告げた。
 日がやや西に傾く帰り道。真理奈は瑞希と一緒に歩きながら笑顔で言葉を交わしていた。
「高校って楽しいんですね。とっても面白かったです」
「そうでもないよ〜、みんなけっこう大変なんだから」
「そうですか? ボク、しばらくお姉ちゃんでも大丈夫かも……」
「あはは、元気出てよかった。直人くんも高校生になったら色々頑張ってね」
 帰路の途中、通りの十字路で瑞希と別れ自分のマンションに帰っていく真理奈。胸元で揺れる脂肪の塊も、長くて軽快に動く手足も、今日一日で随分と慣れたように思う。
「――それにしてもお姉ちゃん、ボクの体でうまくやってくれたのかな? ちょっと心配……」
 自宅の鍵を開け、何も言わず靴を脱ぎ捨てる。彼女がカバンを手に二人の部屋に向かうと、彼は既に帰宅しているようで部屋の中からはかすかに人の気配がした。静かにドアを開けて話しかける。
「ただいま、お姉ちゃん。今日はすごくたいへ―― !!?」
 真理奈が直人に愚痴の一つもこぼそうとしたそのとき、彼女の体が凍りついた。声も出せずに完全に固まった彼女の目には、ベッドの上で半裸になって自慰にふける少年の姿が映っていた。
「んああっ! いい……おちんちん、いいよぉっ……♪」
 自分の肛門に左手の指を突っ込みながら右手で未熟な肉棒をしごき続ける。まだ小学六年生の少年が、年齢に不似合いな恍惚の表情を浮かべて自分の性器を弄んでいた。
「お――お姉ちゃんっ !! 何やってんのぉっ !?」
 ようやく我にかえった真理奈がカバンを床に放り投げて直人のもとに駆け寄る。
「あ、直人おかえりぃ……♪ ごめ〜ん、オナってたら止まらなくって……」
「やめてよぉっ! それボクの体なんだよ !?」
「だってぇ、おちんちんもお尻もこんなに気持ちいいんだもん……んあ、はぁっ……!」
「だからやめてってばぁっ !!」
 再び自慰を始める直人を必死で止める。彼は嫌がったが小柄な小学生のこと、さすがに高校生の腕力には勝てず、押さえ込まれて不機嫌な様子で言った。
「直人、離してよぉ。オナニーできないじゃなぁい……」
「やめてお姉ちゃんっ! いいから服、服着てっ !!」
「んも〜、しょうがないわねえ。んじゃちょっと休憩……」
 真っ赤な顔で口を尖らせ、直人はベッドに仰向けで横たわった。
「ふう、やっとやめてくれた……」
 額の汗をぬぐって安堵の息をつく真理奈だったが、ふとその視線が直人の股間に向けられた。そこには彼女が毎日見ているはずの小ぶりな陰茎がしっかりと立ち上がり、ぴんと張り詰めて先端から淫らな汁を垂らしている。
(ボ……ボクのおチンチン、こんなになってる……。まったくお姉ちゃんたら、エッチなことしすぎだよぉ、もう!)
 本当は腹立たしいはずなのに、勃起した男性器を見る真理奈の目には確かな欲情の色があった。無意識のうちに唾液が分泌されゴクリと喉を鳴らす。だんだんと自分の息が荒くなっていくのを真理奈は否応もなく自覚させられた。
(なんで……? なんでボク、自分のおチンチン見てドキドキしてるの……?)
 真理奈の唇がわずかに開き、長い舌がはみ出して自身の桃色の口唇をぺろりと舐めた。
 そうして彼女が少年の陰部を黙って見つめていると、直人の声が聞こえてくる。
「直人、直人……」
 何回も呼ばれたのだろうが、真理奈が反応したのはだいぶ後のことだった。自分を呼ぶ少年のかん高い声にようやく気づき、軽く飛び上がって返事をする。
「な……何? まりなお姉ちゃん……」
 聞き返す女に、少年は妖しい口調で言葉を続けた。
「ホントは欲しいんでしょ? あたしのコレが」
「ええっ !? ち、違うよ! そんなことない!」
 慌てて首を横に振る真理奈だったが、直人は彼女への誘惑をやめはしない。
「隠さなくていいわよ。それあたしの体なんだから、男のアレが欲しくなるのは当たり前のことなの。このちんちんを好きにしていいのよ? ほら……」
 仰向けに寝転がったまま腰を突き出してくる少年。歳相応に小さいながらも、こちらに向けて鎌首をもたげてくる肉棒の姿は充分に禍々しい。
「ボ……ボクの、おチンチン……」
 元は自分のものだった男根を突きつけられ、真理奈はその場から動けずにいた。理性は必死で否定しているのに、真理奈の中にはこれが欲しいという確かな欲求が芽生えていた。その欲望が悪魔の囁きとなって彼女をそそのかす。
 ――これは自分のものではないか。拒絶することはない、受け入れろ。
 絶え間なく煽り立てられる衝動に真理奈は意思を揺さぶられた。
(ボクのおチンチン――そうだ、いつもおしっこして触ってるじゃない。だから別に触っても……うん大丈夫、大丈夫だよね。だってボクのなんだし……)
 真理奈の体に少し慣れたとはいえ、やはり股間にあるべきものがないというのは彼女の心に漠然とした不安をもたらしていた。つい昨日まで自分のものだった性器を触るのはごく当たり前のことで、何も不自然なことはない。真理奈は熱病患者のようにふらふらと近づき、直人の陰茎にゆっくりと手を伸ばした。
「ふふふ、そうよ。ほら、触ってちょうだい……」
 満足そうに笑う直人の肉棒を握り、愛しげに撫で回す。物慣れないその手つきに彼は心地よい息を吐いて男の快感に飲まれていた。
「もっと激しく、擦って……! おちんちん、シコシコしてぇっ!」
 その声に乞われるまま、真理奈は玩具で遊ぶ子供のように直人の性器を擦り始めた。先ほど彼が自分でやっていたのを見習って、細い女の指でじっくりと嬲ってやる。なぜ嫌悪も感じずにこんなことができるのか今の彼女には大きな驚きだったが、自然と真理奈の手が動いて少年のものをしごいてしまうのだった。
「いいよぉ……直人、いいっ……!」
「お姉ちゃん……気持ちいい? ボクうまくできてる?」
「いいっ! シコシコいいっ! もっと、もっとしてぇっ !!」
 ――ドピュッ……!
 そのとき少年が弾け、白い欲望の塊を真理奈の手と顔面に塗りたくった。濃さも量も大したものではなかったが、目の前でつぶさに見せられた射精の瞬間に真理奈は呆然としたまま、萎えていく子供の肉棒を握り締めていた。
「はぁ、はぁ……」
 精を放った直人はベッドの上で苦しげな息を吐き出している。顔全体を朱に染めて過呼吸を繰り返す少年に、真理奈が小さな声で話しかけた。
「お姉ちゃん――出しちゃったの?」
「はぁ、はぁはぁ、はあぁ……」
「そっか……気持ちよかったんだね、よかった……」
 安らかな笑みを浮かべ、そっと直人にのしかかる。真理奈は少年に覆いかぶさると、両手で彼の頬を押さえて静かに唇を重ねた。
「――ん……んむっ……」
「はむ、はむぅっ……」
 幼い子供のように直人が真理奈の口を吸い、彼女がそれを優しく受け入れる。そのまま二人は、共に満ち足りるまで相手の唇を味わい続けた。緩慢に顔を離して至近で向かい合う二人の口を、唾液の琴線が繋いでいる。
 真理奈は直人を見下ろし、精液のついた自分の顔を妖艶に歪めた。
「あはは、お姉ちゃん可愛い……」
「はぁ、はぁ……直人ぉ……」
「なんかボク、ドキドキが止まらないよ……」
 今度は子猫を舐める母猫のように、彼女の唇が直人の頬をついばんでゆく。
「お姉ちゃんだーいすき! むちゅっ♪」
「んあぁっ……直人、あたしもよぉ……」
 やっと直人から離れた真理奈は、自分が着ている制服に手をかけると彼に脱衣の仕草を見せつけるように一枚一枚、丁寧に着衣を脱ぎ捨てていった。溢れんばかりの豊かな乳房がブラジャーの中で揺れるのを、直人が物欲しげに見つめている。
(あぁ……あたしの体、やっぱり素敵ぃ……)
 よだれを垂らして自分の体に欲情する少年の姿に、真理奈は頬を赤く染めた。
「じ、じろじろ見ないでよ……お姉ちゃんのエッチ」
「何言ってんのよぉ、それあたしの体じゃなぁい……」
 不慣れな手つきでブラを外すと柔らかな双丘がこぼれ、それがまた直人の興奮を高める。スカートにも手をかけ、脱いだそれをベッドの脇に落とす。ただ一枚残ったショーツも剥ぎ取って、真理奈は生まれたままの格好になった。
「ん……いいよお姉ちゃん。ボクのおっぱいマッサージして……」
 寝床の上に膝立ちになり、胸を張って自分の巨乳を少年に差し出してやる。直人はネジを巻かれた人形のように突然起き上がると、乱暴な手つきで目の前の脂肪の塊を揉み始めた。
「ああぁっ……な、なんかすごい……」
「あたしの胸――ははっ、柔らかい……」
 陶然として真理奈の乳房を弄ぶ直人の顔はすっかり発情した雄のそれになっている。最初は力任せに肉塊を揉んでいた彼だったが、手を動かすうちに少しずつコツをつかんできたようで、真理奈の喜ぶ箇所を丹念に揉みしだいていった。
「ん、お姉ちゃん――気持ちいいよ……」
「ふふふ、もっと激しくしたげる……」
 二人だけの部屋の中、女の甘い声と少年の荒い鼻息が響いている中で、肉食獣の笑みを浮かべた彼が真理奈の乳首を両方同時につねりあげた。
 ――ギュッ、コリッ!
「あああぁっ !? ひいぃぃっ !!」
「うふふふ――あははははは……」
 今度は胸にむしゃぶりつき、赤子のように乳首を吸い上げる。そのあまりの激しさに真理奈は虚ろな表情で喘ぐばかりだった。
 もはや彼女は自分が男だったことも忘れ、交尾を乞い願う雌の顔になっていた。
「お姉ちゃん……お願い、ボクに……!」
 直人を力一杯抱きしめている真理奈が、彼の耳元でそう言って誘いかける。肩で息をしたままの少年は軽い体重をかけて彼女を押し倒すと、目を血走らせるほどの迫力で、張りつめた自分の肉棒を真理奈の女にあてがった。
「ハァ――ハァ、ハァ、直人ぉ……!」
「お、お姉ちゃあん――いいよ、きて……」
「直人ぉ――んあぁっ……♪」
 痛いほど勃起した直人の陰茎が、勢いよく真理奈の膣に飲み込まれていった。
 ――ヌプ、ヌチャアッ……ジュポッ……!
「ふああぁっ、入ってるぅ……おチンチン入ってくるよぅ……♪」
「んあぁ……いい、直人のオマンコ――最高ぉっ……」
 直人は目を細めて犬のように舌を出したまま喘いでいる。ほんの少し真理奈が体を動かしただけなのに、彼はその刺激で自分のものだった膣の中に男の精を早々に解き放ってしまった。
「あひっ、出ちゃううぅっ !?」
 ――ブピュッ……!
 ぶるぶる震えて真理奈の胸に寄りかかり、半ば意識を手放す直人。彼女はそんな少年を冷めた目つきでにらみつけた。
「……お姉ちゃん、もう出しちゃったの? 早いよ、まだボクは――」
 そこまで口にして、ふと自分が女として自然に振舞っていることに驚く。
 本来なら自分がこの女体をこの肉棒で貫いていたはずなのに。真理奈は軽く苦笑し、まだ自分の中に入ったままの少年を優しく撫でてやった。
「……まあ仕方ないか。今はボクがお姉ちゃんだもんね」
「――はぁ、はぁ、はぁ……」
 直人は淀んだ目で真理奈の乳房を見ながら熱い息を吐いている。その顔がなぜか愛らしくなり、思わずきつく抱きしめてしまう。
(ボクどうしたんだろ? ひょっとして心までお姉ちゃんになっちゃったのかな……?)
 おぼろげな不安をおぼえつつも、彼女は少年に更なる快楽を催促した。
「お姉ちゃん、もう一回……お願い」
 ぽつりとつぶやいたその言葉に、自分に挿入されている肉棒が再び硬度を取り戻すのを、真理奈は歓喜に満ちた心で感じていた。

 意識を取り戻した直人が再度真理奈の体をつかんで腰を振る。少年の細い肉棒は真理奈の性器の浅いところ、敏感な肉壷をかき回して至上の快楽を二人の脳に送り込んだ。
「あぁっ……はぁんっ、んあぁぁ――」
「はぁぁんっ……お姉ひゃん――あぁんっ……!」
 上から真理奈を犯し続ける直人は、結合部から染み渡る快感に身を任せてただひたすら壊れた機械のように腰を振り続ける。
(これがあたしの中……熱くてグジュグジュで――き、気持ちいい……)
 直人の肉体を操る真理奈の意識は雄の本能に染まり、女を犯す興奮に酔いしれていた。まだ未熟な子供の陰茎が陰唇にしごかれ、絡みつく襞に精を搾り取られる感触は彼にとってまさに極楽、天にも昇る心地にさせてくれる。
「お、姉ちゃ――いい、もっとしてえぇっ……!」
 一方真理奈もまた、繰り広げられる肉欲の宴にすっかり飲み込まれていた。初めての女のセックスがもたらす快感の波に流され、嬌声をあげ唾を吐き散らして見苦しいほどによがり狂う。
(ボク男なのに――男なのにぃ……! だけどいい……お姉ちゃんのおチンチンにジュポジュポされるの、気持ちいいよぉ……!)
 ベッドをギシギシと鳴らし、二人の肉は暴れ続ける。激しく上下する胸の肉に直人が食いつき、唇をすぼめて乳首を吸い上げた。
「んむぅ――ん、んんっ!」
(すごいよぉ――これ、気持ちよすぎる……やめられないぃ……!)
 やはり巨乳は自分についているよりも、他人のを貪る方がいい。直人は心からそう思い、真理奈の乳房を存分に味わった。彼女の方も性器と乳房、両方を性の虜となった少年に貪られ、性感の渦に飲まれて鼻水とよだれが次から次へと溢れてくる。
「ふあぁぁっ、あふうぅぅっ !! お姉ひゃ、もう許ひてぇぇっ !!!」
 女の肉体と本能にあられもない痴態を晒しながら、少年の心は絶頂へと昇りつめていった。少女になった少年が少年になった少女に犯されるという倒錯した性の営みは、入れ替わった両者の精神に限りない高揚を強制し、飽きることのない性交を強要した。
 ――ジュポッ! ズチュ、ジュポッ !!
「〜〜〜〜ッ!」
「――――っ !!」
 真理奈と直人の喘ぎは淫らな音波となり、もはや人語の領域を外れている。繋がる性器と一対の口、きしむベッドが卑猥な四重奏を奏で、二人の体はその音色に操られるように、ただただお互いを求め合った。
(いいよぉ――直人のおまんこ、マジサイコぉ……♪)
(ダメぇ――ボク、おかしくなりそお……っ!)
 淫乱そのものの様子で絡み合っていた二人の体が震え、肉体の限界を知らせてくる。二人の精神は交合の終わりを拒否していたが、絶頂はすぐそこまで迫っている。下半身を目一杯沈めてもまだ子宮口まで届かない直人の未熟な陰茎が、既に真理奈の中で爆発のカウントダウンを始めていた。
(――出るっ !! あたし、直人の中にっ……!)
(ああ、来るぅ……お姉ちゃん、ブルブルして……!)
 直人の体よりも経験豊富な真理奈の肉体は、少年の射精の衝動を無言で感じ取っていた。それに応えて膣がうねり、襞を絡めて彼の精を搾り取ろうとする。
 そしてついに限界を超えた。
「ふあああぁあぁっ !!!」
 ――ビュルルルッ !! ドクッ、ドクドクドクゥッ !!!
 直人が直人だったときよりも多量の子種が一気に噴き出して真理奈の膣を汚していく。自分の上で痙攣して射精を続ける少年との繋がりに、彼女は体を震わせて喜んでいた。
(出てるよぅ――お姉ちゃん、思いっきり射精してる……!)
 とろんとした顔で少年を見上げ、満足の吐息を吹きかける。女性器が熱い汁で満たされていくのを感じながら、真理奈は幸せの絶頂にあった。
 完全に萎え切った肉棒が引き抜かれ、裸の二人は静かに横たわった。
「ハァ、ハァハァ……はあぁ……!」
「ふうぅ、はぁ、ふうぅ……♪」
 ――コポ……コプッ……。
 一筋の汁が女の股間から漏れ出し、白い寝床を汚す。
 真理奈になった直人と、直人になった真理奈。どちらもお互いの体の欲求を満たし、異性の快感に満ち足りた顔になっていた。

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 

 鱗雲が空を流れていく穏やかな夕方、直人は不安そうな顔で部屋に座り込んでいた。学習机の上には彼が使っている黒いランドセルが無造作に置かれている。
 真理奈が帰ってきたのは彼が随分と待たされてからだった。
「ただいまー!」
「――直人ぉっ !!」
 彼は穏やかでない様子で、自分より頭一つ分は背が高い少女に飛びかかった。
「あの薬返してよぉっ! これじゃ元に戻れないじゃない !!」
「え〜、だって高校生って楽しいんだもん。皆もボクに優しくしてくれるしさ」
 真理奈は開いた自分の両手をうっとりと眺めてそう言った。爪の形が整った優雅な女の指が今や自分のものだというのは、年頃の少年の心を嫌でも高ぶらせる。スカートの裾から伸びる美脚をくるくる回して彼女はその場で一回転をしてみせた。
「だからしばらくこのままでいようよ、まりなお姉ちゃん。ね?」
 楽しげに自分の体を見下ろして少年を突き放す。そして真理奈は、非力な体で何もできずにうめく直人に笑いかけた。
「それに、しばらくしたら効果が切れて勝手に戻るんでしょ? だったら慌てることないよ、ボクもっとお姉ちゃんでいたい」
「それはそうだけど――あたしは早く戻りたいの!」
 諦めずにすがりついてくる直人の体をかかえて目を合わせる。
「そろそろ塾に行く時間だよ? ボクもついてってあげるから、ほら行こ」
「わああんっ! 直人、謝るから許してよぉ……!」
 子供のように泣き喚く直人を引きずり、真理奈は家を出て歩き始めた。道ですれ違う男達が見つめてくるのにも既に慣れ、今は心地よい興奮さえ覚える。
(あはは……あの人たちボクのこと見てるよ。ボクキレイだもん、仕方ないよね)
 すっかり上機嫌の真理奈は落ち込んだ直人の手を取り、弾むような足取りで駅に向かって歩いていった。
「お姉ちゃんっ! 子供じゃないんだから、いい加減ワガママ言わないの!」
「うえええん……あたしの体、返してぇぇ……!」
 二人が元の姿に戻るのは、もう少し先のことになりそうだった。


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