強いられた身代わり 3

 小粒の雨がアスファルトを叩いていた。
 太陽を覆い隠す分厚い雨雲を見上げていると、いっそう気が滅入りそうだ。
 校舎の軒下に立ったまどかは、憂鬱な表情でカバンから携帯電話を取り出した。アドレス帳の中から目当ての番号を探し出し、耳に当てる。長いコール音のあと、ようやく少年の声が聞こえた。
「はいはい、哲也っす。まどか先生、試験は終わりましたか?」
「ええ、終わったわ。約束通り、私の体を返してちょうだい」
 まどかは強い口調で言った。その声はまどかの声ではなく、彼女が担当しているクラスの女生徒、木下杏奈のものだった。
 声だけではない。顔や身体、立場といったまどかのあらゆる外面的要素が、木下杏奈という女子高生のものと置き換わっていた。
 この電話の相手、哲也が持ってきた怪しげな飲み物のせいで、まどかと杏奈の身体が入れ替わってしまったのだった。
「へへへ……わかってますよ。そんなに慌てないで下さい」
 哲也は下品な笑い声をあげ、すぐ学校に迎えに来る旨、まどかに告げた。
 まどかは「わかった。お願い」と短く答えて電話を切った。
 小さくため息をついて、己の姿を見下ろす。紺のブレザーと茶色のプリーツスカートという女生徒の服装が視界に入った。けばけばしい金色の髪が頬にまとわりつき、自分の体が不真面目な少女のものになってしまったことを思い知らせる。
 無理やり杏奈と身体を交換させられ、彼女の代わりに追試を受けさせられるという悪夢のような出来事が、潔癖な女教師の心を苛んでいた。
(でも、これでようやく終わる。私の体を返してもらえる)
 今のまどかにとって、それが唯一の希望だった。
 杏奈の代わりにまどかが受けた試験は、先ほど全て終わった。出来は言うまでもない。全ての科目で合格しているはずだ。
 まどかは杏奈と哲也の期待に応えた。したがって、今度は哲也が約束を守る番である。
 通話を終えてから十分ほどして、その哲也がまどかの前に姿を現した。
「やあ、先生。どうもお疲れ様でした」
「よっ、まどかちゃん。替え玉ありがとな」
 哲也の隣にいる女が、まどかに笑いかけた。やけに露出の多い服を着た黒髪の女。その顔は本来、まどかのものだった。まどかは憎々しげな目で女をにらみつけた。
「またそんな格好をして……何を考えてるの !? 皆が見てるじゃない!」
「別にいいじゃん。せっかくこんないいカラダしてるんだから、学校の連中にも見せてやらなきゃもったいねーよ」
 まどかの顔を持つ女は、おどけた様子で身をくねらせた。
 この女は木下杏奈。まどかと身体を交換した、素行不良の女子生徒だ。
 今の杏奈の格好は、昨日とほとんど変わっていない。せいぜいショートパンツがミニスカートに変わっただけで、やはり首筋や肩、腿をさらけ出している挑発的な服装だった。
 謹厳な女教師が普段まったく見せない姿を、下校途中の生徒たちが物珍しげに眺めている。まどかは赤面した。
「や、やめなさい! 早く私の体を返して!」
「はいはい、返してあげますとも。今から俺の家まで一緒に来て下さい」
 そう言ったのは哲也だった。黒く大きな傘を差し、不敵な笑みを浮かべている。
「え、あなたの家まで? 今、ここで元に戻してくれるんじゃないの」
 まどかは一刻も早く元の姿に戻りたいと訴えたが、哲也はかぶりを振った。
「いや、あの入れ替わりのジュースは俺の家に置いてきました。せっかくだから昨日みたいに三人で飯を食って、それから元に戻ることにしませんか」
「そーだよ、まどかちゃん。慌てたっていいことないぜ。まずは飯だよ、飯」
 杏奈が傘を投げ出し、まどかの頭を馴れ馴れしく撫で回す。
「わかったわ。行けばいいんでしょう、行けば」
 気の乗らない提案に、まどかは嘆息してうなずいた。
 何しろ、今のまどかを元に戻せるのは哲也しかいないのだ。下手に機嫌を損ねては、元に戻るのが遅れてしまうおそれもある。
 二人のペースに乗せられていることを自覚しつつも、ここは大人しく従うしかなかった。

 哲也の家は、学校からほど近い場所にあるマンションにあった。
 昨日と同じファミリーレストランで食事を済ませたまどかは、哲也に招かれて彼の部屋に上がり込んだ。
 とても汚い家で、あちこちに空いた酒瓶や煙草のパッケージが散らばっていた。
 哲也はここで一人暮らしをしているという。
「あなた、いったいどういう生活をしているの。まだ高校生なのに、こんな……」
「そう目くじらたてないで下さいよ。健全な男子高校生の部屋じゃないですか」
 哲也はへらへら笑い、まどかと杏奈をリビングのソファに座らせた。
 そして冷蔵庫から、オレンジ色の液体が入ったペットボトルを取り出す。
 まどかは目を見開いた。それは、まどかと杏奈の体が入れ替わる直前に口にした液体だったからだ。
「それね。私たちの体を入れ替えたジュースは……」
「へへへ、約束は守らないとね。さあ先生、飲んで下さい。これが欲しかったんでしょう?」
 哲也に促され、まどかはグラスに注がれた液体を口に運んだ。やはり、風変わりな味はしない。ただのオレンジジュースとしか思えなかった。
「じゃあ、あたしももらおうかな。あーあ、まどかちゃんの体ともこれでお別れか……」
 横ではまどかの顔をした杏奈が、液体の入ったグラスを残念そうな表情で眺めていた。
 まどかは険しい顔で杏奈を凝視し、早く飲め、早く飲めと心の中でせきたてた。
(見ていなさい。元の体に戻ったら、二度とこんなふざけた真似はさせないから)
 生徒の模範たるべき自分が、これ以上赤っ恥をかかされるわけにはいかない。
 本来の身体を取り戻しさえすれば、教師としてこの二人を厳しく指導し、今まで自分に対して行った非道な行いを反省させることができる。
 まどかが見守る中、杏奈はグラスのジュースを喉に流し込んでいく。やがて全て飲み干した杏奈は、「ぷはあっ」と大きく息を吐いた。
「ふう、飲んだぜ。これでいいんだろ、まどかちゃん?」
「ええ、それでいいのよ。これで私たちは元の体に戻れる!」
 まどかは大喜びしたが、期待に反して、いつまで待っても体が元に戻る気配はなかった。入れ替わったときに経験した、あの強烈な眠気も訪れない。まどかはだんだん焦り始めた。
「ど、どういうこと? どうして元に戻らないの」
「なんでって、そりゃ当たり前ですよ、先生」
「当たり前? 一体どういうことなの」
 怒気をみなぎらせるまどかに、哲也は空になったペットボトルを見せつけた。
「だって、これは入れ替わりのジュースなんかじゃないんですからね。ただのオレンジジュースですよ」
「ひひひっ、楽しー。哲也にすっかり騙されてやんの、まどかちゃん」
「な、何ですって !?」
 まどかは戦慄した。自分が騙されていたことに気づいて歯噛みした。
「二人とも、一体どういうつもり !? 木下さんの代わりに追試を受けたら私の体を返してくれるって約束したじゃない! 約束を破る気なの?」
「いや、返すのはいいんですよ。返すのは。ただ……」
「ただ、何よ?」
 まどかの疑問に答えたのは杏奈だった。杏奈はソファに座るまどかの前に立ち、威圧的な態度でまどかに言った。
「まどかちゃんの体を返して、それでハイ終わりってわけにはいかねーなあ。また今回みたいに時々あたしと入れ替わって、試験とか受けてほしいんだよ」
「そんなことは二度とできないわ。私は教師なのよ? 不正行為に加担するなんて許されない」
「でも、もう一回やっちまってるよな。一回やれば、あとは何度やっても同じことじゃねーの」
「駄目よ! いい加減にしなさい、木下さん! 私の体を返して!」
「ダメだね。あたしたちの言うことを聞いてくれたら返してやるよ。じゃないと、ずっとあたしたちは入れ替わったままだぜ? ま、あたしはそれでも構わねーけどな。まどかちゃんの体でも」
「そ、そんな……」
「先生、これを見て下さい」
 青ざめるまどかに、今度は哲也が携帯電話を突きつける。
 その画面に映し出された映像を見て、まどかの顔から血の気が引いた。そこに映っているのは、他ならぬまどか自身の姿だったからだ。
「ああっ、すごい。哲也君のが、まどかをグリグリしてるの。ああんっ、気持ちいい」
 画面の中の「竹本まどか」は衣類を一切身につけず、薄汚れたソファの上で金髪の男子生徒と抱き合っていた。
 浅ましい声をあげて快楽を貪るその姿は、まぎれもなくまどかのものだ。
 だが、その中身はまどかではなく杏奈。まどかと肉体を交換した杏奈が、まどかのふりをして哲也と情事に及んでいたのだった。
「な、何よこれ……どうしてこんなことしてるの。なんでこんなの撮ってるの」
「くくく……何の準備も無しに頼みごとをしても、先生は聞いてくれないでしょうからね。どうです? この映像が学校の連中やネットにバラまかれたら大変だと思いませんか。それが嫌だったら、先生……俺たちの言うこと、聞いてくれますね?」
「わ、私を脅す気 !? 卑怯者! 最低よ、あなたたち!」
「なんとでも言ってください。もう先生は俺たちから逃げられないんですから。なあ、まどか? お前は生徒のためなら何だってする、生徒思いの素晴らしい先生だよな?」
「う、うう……」
 まどかの目の前が真っ暗になった。二人がその気になれば、まどかの教師生活を終わらせるのはいとも簡単だ。
 まどかは床に這いつくばって嗚咽した。もはや彼女に選択肢はなかった。これからは、どんな内容であれ哲也と杏奈の命令には絶対に従わなくてはならない。
 こうして、まどかは卑劣な生徒たちに陥れられ、服従を強要されたのだった。

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 

「こっちに来い、まどか」
 ベッドに腰かけた哲也が、犬でも呼ぶようにまどかを呼んだ。
 決して哲也に逆らうことのできないまどかは、ふらふらと少年のもとに歩み寄った。
 哲也はまどかの小柄な身体を抱きしめ、顔を近づけてくる。顔を背けたが無駄だった。無理やり正面を向かされ、唇を奪われた。太い舌が口の中にぬるりと入ってきて、悪寒に身が震えた。
(まだ子供なのに、こんないやらしいキス……)
 年下の少年にいいようにされる屈辱が、まどかの羞恥心を煽る。
 哲也はそんなまどかの反応を楽しむように、彼女の口内をなめ回し、生温かい唾液をすすって味わった。下品な音がまどかの聴覚を苛んだ。
「へへっ、恥ずかしがることはねえよ。今のお前は杏奈の体だからな。自分の体じゃないんだから、どんなにエロいことをしても気にならねえだろ?」
(そんなわけないでしょう。こんなの嫌)
 まどかは身をよじって抗ったが、哲也は彼女を放さない。
 さんざん口の中を犯したあとは、頬から首筋にかけてついばむようなキスを浴びせてきた。
「や、やめて……」
「やめるわけないだろ。バカだなあ。杏奈の体になったからって、頭の中まで杏奈みたいにバカになっちまったのか?」
「何だと、てめえ」
 と、横から食ってかかる杏奈。
 彼女は二人の隣に腰を下ろし、哲也にもてあそばれるまどかを面白そうに観察していた。
 自分の顔をした杏奈に恥ずべき痴態を見られているという事実が、年長者としてのまどかのプライドをより深く傷つける。
「まあ、そう怒るな、杏奈。見てるだけじゃ退屈だろ? お前もこいつを可愛がってやれ」
「そうだな、そうすっか。まどかちゃん、こっち向きなよ」
 杏奈の長い指がまどかの顎を持ち上げた。肉体を交換した二人の女が向かい合った。
 まどかの目に映るのはまどかの顔だった。杏奈の心に支配された女教師の美貌が、唇の端を醜くつり上げてまどかをあざ笑っていた。
「なあ、哲也。こうして見ると、あたしって可愛くね? すっげー美少女じゃん」
「ぷっ。自分で言うかよ」
 哲也は呆れたように言い、まどかを後ろから抱くような位置に移動した。
 服に手をかけられ、彼が自分を脱がせようとしているのに気づく。
 一方、杏奈は怯えた表情のまどかにさらに近づいてきた。鏡でしか見たことのない自分の顔が、ごく至近に迫る。
「な、何をするの……んんっ」
 驚くまどかの口を、杏奈のそれが塞いだ。哲也のものとは明らかに違う、柔らかな女の唇の感触がまどかを襲う。
 女同士でのキス──それも体が入れ替わっている状態でのキスという、奇怪このうえない体験が、まどかの心を乱した。
(やだ。自分自身となんて……)
 まどかの動揺を知ってか知らずか、杏奈は舌をまどかの中に差し入れ、淫らな接吻に没頭する。
 女子高生と女教師の口づけは、息が苦しくなるまで続いた。
「ぷはっ。はあ、はあ……や、やめて。ああっ」
 頬を赤く染めたまどかの口から、かん高い悲鳴が漏れた。決して豊かとは言えない胸の膨らみを、哲也が五指で刺激していた。
「せっかく杏奈の体になってるんだ。思いっきり気持ちよくしてやるよ」
 言いながら、哲也はまどかの乳房を外側から中央へと搾るように握り込んできた。痛みを覚えるほどに強い刺激が、まどかを喘がせる。
「や、やだ、痛い──ああっ、あっ」
「痛いだけか? 正直になれよ、まどか。気持ちいいだろ」
 耳元で囁かれる哲也の言葉が、まどかにこれ以上ない嫌悪をもたらした。
(誰がこんなことをされて喜ぶもんですか……)
 まどかは歯を食いしばって耐えようとしたが、その口にまたも杏奈の唇が重ねられ、ぬるりとした舌がまどかの前歯を執拗になめ回す。
(ううっ、やめなさい。こんなの間違ってる。早く私の体を返してっ)
 いくら視線で訴えかけても、まどかのものだった美貌は邪悪な笑みを浮かべて元の持ち主の苦しみをあざ笑うだけだ。
 まどかの体はもはや完全に杏奈の所有物になっていた。
 嬲られるのは上半身だけではなかった。キスの合間に杏奈の手がまどかの下着を脱がせ、あらわになった秘所を無遠慮にまさぐってくる。股を閉じることもかなわなかった。
「や、やめて。やっ、そこはダメっ。ああっ、あっ」
「気持ちいいだろ、まどかちゃん。その体のことは、あたしが一番よくわかってるんだぜ」
 杏奈の長い指が秘裂を擦り、まどかの股間に得体の知れない疼きをもたらした。
 悲鳴をあげるまどかを、哲也が後ろから押さえつけ、花の蕾のような乳頭をこね回す。
 二人がかりの淫らな責めに、まどかは翻弄されるばかりだ。
 彼女の意思とは無関係に借り物の少女の体が火照り、呼吸が荒くなっていく。
「はあ、はあっ。もうやめて……お願い……」
「やめるわけないだろ? まだ始まったばかりじゃねえか。誰がお前のご主人様なのか、これからたっぷり体に教えてやるよ」
「やめ、やめてっ。ああっ、やめてえっ」
 自分が完全に二人の玩具になっていることをまどかは悟る。
 救いを求める彼女の訴えは、誰にも届かなかった。

 哲也と杏奈は時間をかけてまどかを慰み者にし、徐々に彼女から反抗心を奪っていった。
 はじめは手や口でもてあそぶだけだったのが、途中からは淫らな道具や怪しい薬物も加わり、正気を失うほど散々に苦しめた。まどかは恥も外聞もなく泣きわめいて許しを乞うたが、残忍な陵辱者たちは新しく手に入れた玩具を手放そうとはしなかった。
 時おりまどかの肢体が痙攣するのを見て、下品な笑い声をあげるだけ。
「へへっ、だんだんよくなってきたみてえだな。杏奈、ここ見ろよ。ぐちょぐちょだぜ」
 まどかの性器を貫いた哲也の指が中で曲がり、肉の壺を乱暴にほじくる。か細い体がびくんと跳ねた。
「やあっ、ああっ。ひいいっ」
「おー、またイった。まどかちゃん、さっきからあたしの体でイキまくりじゃねーの。ヤベえ、すっげー楽しい。自分がイクとこなんて、こんな風にゃ見れないしな。けけけ……」
「うっ、ううっ。もう、もうやめて下さい……」
 いつ終わるとも知れない責めが、まどかの内にあった教師の矜持を削り取っていた。相手がひと回りも年下の生徒たちということも忘れ、まどかは敬語で懇願した。
「許してほしいか、まどか。だったらこれをしゃぶるんだな。やり方は知ってんだろ?」
 すっかり抵抗する意思を失った無力な彼女に、黒々とした肉の凶器が突きつけられる。
「は、はい……わかりました」
 何もかもを奪われた哀れな女は、少年のものに自分から口づけた。
 雄々しくそり返った男子高校生のペニスは圧倒的な威容を誇っていた。
 口に含むことが困難なサイズのそれに、まどかは必死で舌を這わせ、年下の主人の機嫌をうかがう。
(ううっ、どうして私がこんなことを……)
 救いのない状況に置かれた自分が、この上なく哀れだった。
 なぜ教師の自分が、このような惨めな立場に甘んじなければならないのか。
 哲也の男性器に口を塞がれ悶えながら、まどかはひたすら涙した。
「いいぞ、まどか。ククク……あれだけ嫌がっておきながら、熱心になめるじゃねえか。いつもはお堅いお前も、本当はこんなスケベな女だったってわけだ。おう、そこだよ、そこ。その裏のところがいいんだよ。へへっ、さすがは先生だな。フェラのテクニックも冴えてやがる。まったく、スケベなまどか先生は今まで何人の男をくわえ込んだんだ?」
(そ、そんなこと……)
 言葉を発せられないまどかは、男子生徒の勝手な言い分に反論することもできない。
 そんな彼女の背後から笑い声があがる。杏奈の声だ。
「スケベなまどか先生の体は、あたしが楽しく使わせてもらってるぜ。あははは……んんっ、スケベなアソコをぐちゅぐちゅするの、気持ちいい……」
 先ほどまで哲也と共にまどかをいたぶっていた杏奈は、男性器を模した淫具を取り出し、己の陰部に抜き差しして法悦を貪っていた。哲也によってそちらを向かされたまどかは、自分のものだった体が見るに堪えない醜態をさらしていることに打ちのめされる。
「ああ、私の体が……うぐっ」
「自分のオナニーを見るのはそそられるだろ? へへへ、こっちも最高の気分だぜ」
 少年の嬉しそうな声と共に、口に含んだペニスの先端からとろりとした液体が漏れ出し、まどかの舌の上に溜まっていく。若い牡の脈動がまどかを震わせ、射精が近いことを告げた。
「そろそろ出すぞ。いやらしいまどかに、俺のザーメンをたっぷり飲ませてやる」
 たくましい手がまどかの頭を押さえつけた。もはや逃れることはできない。哲也は雄々しい声で叫び、口内に熱いエキスをぶちまけた。
 濃厚な精の迸りに喉を焼かれ、まどかは声にならない悲鳴をあげた。
「ううう……げほっ、げほっ!」
「おいおい、吐き出すなよ。せっかく出してやったんだから、全部飲め」
「そうだぜ、まどかちゃん。出してもらったらちゃんと飲まねーとな。ほら、こっち向けよ」
 と、横から割り込んできたのは杏奈だ。まどかの顎をつまみ、ぐっと上向かせる。
 唾と精液でべとべとになった顔を、杏奈の舌がべろべろと這い回った。
「い、いや、やめてえ。舐めないでえ……」
「へへ、この臭い……哲也のくっせえザーメンだ。たまんねえ」
 淫靡な表情で精液を舐め取る女教師と、汚れた顔を舐められ涙を流す女子高生。
 肉体を交換した二人の女の痴態を、哲也は嬉しそうに眺めていた。
「おいおい、お前らのそんなところを見てたら、また勃っちまったじゃねえか。見ろよ、これ。今出したばっかりだってのに」
 彼の言葉通り、その股間ではたった今射精したはずのペニスが、再び勇ましく立ち上がっていた。
 精力溢れる牡の象徴をちらりと見て、杏奈はにやりと唇を歪める。
「まだまだいけそうじゃねえか、哲也。じゃあ、最初はあたしがハメてもらおうかな。まどかちゃんはその後だ」
 杏奈は大きく股を広げ、恥じらいもなく陰唇を広げて哲也を誘った。まどかのものだった肉感的な肢体が、電灯の光を浴びて艶かしい輝きを放っていた。
「待て、杏奈。今は俺のやりたいようにさせろよ」
「あん? どーする気だよ。先にまどかちゃんからしたいのか?」
「いや、こうするんだよ。そらっ!」
 哲也はまどかの腕をつかむと、彼女の小柄な体を杏奈の方へ投げ出す。突然のことにか細い悲鳴をあげるまどかを、杏奈がしっかりと抱き止めた。
「二人とも、そのままこっちにケツを向けて横になれ。お前らの味比べをしてやる」
「なんだ、いっぺんにすんのか? 面倒臭えやつだな。まあいいけど」
 哲也の意図を察した杏奈が仰向けになり、まどかの体を下から支える。二人の女は密着して抱き合い、仲良く尻を哲也に向けることになった。
 哲也に尻をつかまれ、まどかはようやく彼が何をしようとしているのかに気づく。
「ま、まさか二人同時に……いやああっ」
「暴れるな。待ちかねたチンポがやっと味わえるんだから、もっと喜べよ」
「い、いやっ、こんな──ああっ、は、入ってくる……」
 体の中にわけ入ってくる肉の凶器の硬さに、まどかの背中が小刻みに震えた。
 ズン、という重々しい音が骨の髄まで響き、自分が哲也に犯されていることをはっきりと自覚する。
(こ、こんな格好で……ああっ、なんてことなの……)
 二人がかりで押さえつけられ、獣のようなバックスタイルで挿入される羞恥がまどかの身を焦がした。
 だが、それも一瞬のこと。少年のものが体内で動き始めると、半ば崩れかけていたまどかの理性を新たな衝撃が襲った。
「駄目、動かないで……ああっ、あんっ、んんっ」
 野太いペニスが濡れそぼった膣内を往復し、まどかの敏感な肉をえぐる。
 哲也が腰を突くたび、まどかは声にもならぬ声をあげ、新たな涙を流した。
「ああんっ、やめてっ。やめてってばあっ」
「こんなにギュウギュウ締めつけといて、やめてくれはねえだろう。ああ、たまんねえ……腰が勝手に動いちまうぜ」
 力強いピストン運動が、まどかの秘部を執拗に穿つ。
 まどかは下になった杏奈の身体にしがみつき、小さな子供のように泣き叫んだ。
 激しい突き込みのあと、ようやく哲也はまどかの中から抜け出る。
「待たせたな、杏奈。次はお前の番だ」
「おう、いいぜ。ああっ、これだ。これがいいんだよ」
 歓声をあげ、上になったまどかと一緒になって揺れ動く杏奈の体。その顔は火照り、醜悪な喜びに歪んでいる。
 何が起きているのかは言うまでもない。今度は杏奈が哲也に貫かれているのだ。
「ああ、すごいっ。あっ、あっ、ああっ。哲也、最高っ」
「ククク、杏奈も興奮してやがる。それにしても、このトロトロ具合はすげえな。まどかはきつく締めつけてくるが、杏奈のは柔らかくてトロトロだ。ひひひ……」
 すっかり調子に乗った哲也は二人の女の膣内を比較し、そう評価した。
 そうしてしばらく杏奈の体を味わったのち、またしてもまどかを犯す。三人分の汁にまみれた肉棒が秘部にずぶりと入ってきて、女の芯をしたたかに揺さぶった。
「ま、また私の中に……うっ、ううんっ。こんなの耐えられない……」
「へへっ、いいだろ。我慢しなくていいぜ。皆で一緒に楽しもうじゃねえか」
「そ、そんな──あんっ、ああんっ。すごい、すごいのおっ」
 まどかの口から甘えた声が漏れ始めた。自分でも不思議なことだったが、こうして杏奈と二人でかわるがわる哲也に抱かれていると、今まで自分の内にはなかったはずの愉悦や満足の念が、少しずつ心の底から湧き上がってくるような気がするのだ。
 まるで、この状況を楽しんでいる杏奈の思いが自分の中にまで入ってくるかのようだった。
(どうして? どうして私、こんなことをされて気持ちいいなんて思うの)
 まどかは訝しがったが、激しい哲也の突き込みがそんな疑念をすぐに吹き飛ばしてしまう。
「ひいっ、すげえっ。こんなにされたらあたし、おかしくなるうっ」
「ふふふ……おかしくなっちゃえばいいのよ、まどか」
 とうとう自ら腰を振り始めたまどかの唇を、杏奈がぺろりと舐めた。
「私もとってもいい気分だわ。単にエッチなことをして気持ちいいってだけじゃない。なんだか、急に自分が賢くなっていく気がするのよ。今まで私が知らなかったことが、頭の中にすうっと入ってくるような感じ。いったいどうしてかしらね?」
 ぎらついた目で哀れなまどかを凝視する杏奈。
 その表情や口調がもはや粗野な少女のものではなくなっていることに、まどかは気づかない。
「おおっ、おっ。哲也のチンポすげえっ。チンポ最高っ」
「どうした、まどか。そんなに嬉しそうな声を出して。壊れちまったか?」
 二人の異変に哲也は気づかず、頬を紅潮させてまどかと杏奈の味比べを続ける。
「そうみたいね、ふふふ……よかったわ。私たち、これで好き勝手できるわね。ああっ、たくましいわ。もっと奥を突いてちょうだい、哲也。こうしてあなたと繋がってると、とっても気持ちいいの。心も体も満たされるみたいよ」
「よしきた、いくぞ。ククク、二人の女を交互に……ああ、最高だあっ」
 やがて哲也は盛大に精を撒き散らし、まどかと杏奈の体に白濁を塗りたくる。
 狂った宴はそれで終わりではなかった。野獣と化した三人の男女は理性も羞恥もかなぐり捨て、夜が明けるまでベッドの上で踊り続けたのだった。

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 

「木下杏奈さん」
 不意に自分の名を呼ばれ、まどかは顔を上げた。黒いスーツを着た女が目の前に立っていた。
 女は鋭い視線でまどかをにらみつけ、彼女の机の下に手を伸ばした。
「授業中にこんなものは使わないようにと、いつも言ってるでしょう。没収です」
 そう言って、まどかが隠していた携帯電話を取り上げてしまう。まどかは肩をすくめ、派手に染まった金色の髪をかきあげた。
「やれやれ。勘弁してくれよ、まどかちゃん」
「駄目です。してはいけないことをしてはいけないと、いつになったら学習するの?」
 いつもの二人のやり取りを聞いていた級友たちの間から、失笑が漏れる。
 最後に「放課後、職員室に来なさい」と言い残し、女は教壇へと戻っていった。
(ちぇっ。杏奈のやつ、少しは大目に見てくれてもいいじゃねーか。今までお前がやってたことなんだからよ)
 まどかは舌打ちし、窓の外に顔を向ける。くだらない授業を聴くつもりなど毛頭なかった。秋の木々は赤や黄に色づき、季節の移り変わりをまどかに教えてくれる。
「そういや、もう二ヶ月だっけか……あたしがこうなってから」
「よそ見しないで、木下さん! 先生の話を聴きなさい!」
「ちっ、わかったよ。はいはい、聴いてまーす」
 誠意のない返事をしながら、まどかは今の自分の境遇に思いを馳せる。
 以前は自分が叱る側だったというのに、今ではこのありさまだ。
 だが、この環境にまどかが適応しつつあるのも、また確かな事実だった。

 携帯電話もなしに過ごす放課後は、退屈のひと言だった。
 全ての授業が終わり、部活動の生徒以外が校内からいなくなった頃、
指定された時刻にまどかが職員室に行くと、あのスーツの女が彼女を待っていた。 「ふふっ、ちゃんと来たわね。じゃあ、これは返してあげる」
 先ほどの剣幕はどこへやら、上機嫌でまどかの携帯電話を差し出してくる。
 まどかは謝罪ひとつせず、それをひったくった。
「まったく、没収することはねえだろ。おかげで哲也に連絡とれなかったじゃん」
「連絡ならこっちでしておいたわ。私の仕事も終わったし、そろそろ行きましょうか」
 女は立ち上がり、杏奈を先導して廊下を歩き出した。
 途中、すれ違った用務員が会釈する。「お疲れ様でした、竹本先生」
 その光景を目にしてまどかは一瞬、不快な感情が湧き上がるのを自覚した。
 丁寧に挨拶を返して颯爽と歩く女の名は「竹本まどか」。以前は自分がそう呼ばれていた名前だった。
 まどかが立ち尽くしていると、スーツの女は振り返って怪訝な表情を見せる。
「どうしたの? 早く来なさい、木下杏奈さん」
「ああ、わかってるよ」
 まどかは何も知らない用務員をにらみつけ、乱暴な足取りで女のあとを追った。
 校舎を出た二人は、駐車場にとめてあった青い軽乗用車に乗り込んだ。
 まぶしいほどの夕陽を浴びて、車は街を駆ける。ハンドルを握って鼻唄をうたう女に、まどかは助手席から視線を投げかけた。
「なあ、杏奈」
「なに? まどか」
 周囲の目がなくなり、二人の女はようやく互いを本来の名で呼んだ。
 竹本まどかと木下杏奈。
 肉体を交換した両者が本当の名前で呼び合うのは、他人がいない場所でだけだ。
「あたしの体、返してくれよ」
「それは無理だって、何度も言ってるでしょう」
 ぽつりとつぶやいたまどかを、杏奈は優しく諭す。
「元はといえば、哲也君が私たちに飲ませたあのジュース。あれが全部悪いのよ。ただ飲んだ人の体を交換するだけのものだったはずなのに、私たちはなぜか頭の中身まで入れ替わってしまった。まさかこんなことになるなんて、哲也君にとっても予想外だったみたいね。おまけに、元に戻れる見込みはなし。とんだハプニングだわ」
「あのジュースのせいで、あたし、すっかりバカになっちゃった。入れ替わる前は、あたしが周りのやつらに先生として勉強を教えてたのに……」
「そうね、私だって驚いてるわ。今まで私のことを馬鹿にしていた生徒たちが、今は休み時間になると私のところにやってきて、わからないところを教えてほしいって熱心に頭を下げてくるんだもの。ふふっ、楽しいわ。これもまどかがくれた記憶のおかげよ。頭の中身が以前のままだったら、私、先生なんてできなかったでしょうね。でも、あのハプニングのおかげで助かってるのは、あなただって同じでしょう? 私の記憶があるから、学校で何も不自由せずに済んでるじゃない」
「まあ、そりゃそうだけどさ……」
 あの保護者面談の日に、哲也がまどかと杏奈に飲ませた不可思議な液体。
 あの液体のせいで入れ替わってしまったのは、二人の肉体だけではない。心も変わってしまったのだ。
 生まれ育った故郷や、充実していた学生時代、そして念願叶って教職に就いてから現在に至るまでのまどかの大事な記憶のほとんどが、杏奈に奪われてしまった。
 代わりにまどかが得たのは杏奈の記憶。おかげで杏奈として生活するのに支障はないが、一般常識や勉強に関する知識まで杏奈のものになってしまったため、授業がまるで理解できない。
 特に、今まで自分が勉強を教えていた生徒たちに劣等生として侮られるのは、かすかに残ったまどかのプライドを深く傷つけていた。
 浮かない顔のまどかに、身も心も女教師へと変化した杏奈が笑いかける。
「こら、なにをションボリしてるの。女の子がそんな顔してちゃダメじゃない。ひょっとしたら、いつかまた元に戻れるかもしれないでしょう? それに、もし元に戻れなかったとしても、あなたの進路は教師の私がきちんと面倒見てあげるわ。だから安心して」
「うん……」
「せっかく馬鹿でいられる身分になったんだから、もっと肩の力を抜きなさい。入れ替わっても、ストレスばかりためるところは変わらないわね。そういうのは損よ」
 大人の余裕を見せながら、まどかを慰める杏奈。
 まるで歳の離れた姉妹のようだとまどかは思った。無論、まどかが妹だ。
(あたし、これからどうしたらいいんだろう……)
 まどかは疑問に思ったが、もはや自分に選択の余地はほとんど残されていないことに気づいた。
 杏奈と入れ替わる前、確かにまどかは「竹本まどか」だった。
 自分の名前がまどかだったことは覚えている。杏奈の担任として教鞭をとっていたことも覚えている。
 だが、教師として授業で何を教えていたかについては、ほとんど記憶にない。
 それは日常生活や人間関係についても同じことで、今のまどかは以前のまどかのことをほとんど知らない。記憶を交換したために忘れてしまったのだ。
 その代わり、杏奈から得た「木下杏奈」としての十数年分の記憶がある。
 まどかの肉体は杏奈のものだ。そして、考え方や知識も以前の杏奈とほとんど変わらない。
 ならば、少なくとも元に戻るまでは、今のように杏奈として生活するしかない。
 もちろん、まどかが元の体に戻れるかどうかはわからない。最悪、一生このまま杏奈として過ごさなくてはならないかもしれない。
 しかし、今のまどかにはどうすることもできない。
 いくら考えてもどうにもならないことは、考えない方がいい。複雑な思考がすっかり苦手になってしまったまどかは、そう結論づけるしかなかった。
「そうだな。あんまりイジけたってしょうがねーし、あたし、今の自分を楽しむよ」
 新たな決意を口にするまどかに、まどかの外見をした杏奈がうなずき返す。
「そうそう、その意気よ。その体だって可愛いし、何よりも若いんだから。さあ、そろそろ着くわよ。私たちをこんな酷い目に遭わせたご主人様のところにね」
 杏奈が視線で示した先には、見慣れたマンションが建っていた。二人が乗った軽自動車は、その向かいの駐車場にとまる。まどかは勢いよく外に飛び出した。
「早く行こうぜ、杏奈。あいつ待ちくたびれたみたいでさ。さっきからあたしの携帯が鳴りっぱなしだよ」
「待ちなさい、まどか。そこのスーパーで買い物をしてからじゃないと。あの子の家、どうせ食べるものなんて何もないだろうから」
「けっ。すっかり面倒見がいいお姉ちゃんになっちまって、まあ……へへへ」
 まどかは微笑み、杏奈の手をとって歩き出した。
 夕暮れの街には肌寒い風が吹いていたが、二人で身を寄せ合っているとほとんど気にならなかった。


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