強いられた身代わり 1

「それでは先生、失礼致します」
「どうもお疲れ様でした。気をつけてお帰り下さい」
 竹本まどかは一礼し、席を立った保護者を教室の外に送り出した。
 廊下は夕陽に照らされ、一面オレンジ色に染まっている。朝から半日続いた保護者面談も、残るはあと一人だ。
 まどかは椅子が並べられた廊下を見渡したが、誰も座ってはいない。どうやら、まだ来ていないようだ。
(おかしいわね。予定より少し遅れているから、まだ来てらっしゃらないはずがないんだけれど。最後は誰のご家族だったかしら?)
 怪訝な顔で教室に戻る。教卓のそばには机とパイプ椅子で面談用の座席が設けられていた。
 まどかはその向かいの椅子に座り、机の中から面談の予定表を取り出した。
(えっと、最後は──あっ、木下さんだわ。そういえば最後は木下さんだったわね。でも、本当に来るのかしら……)
 まどかは予定表の隅に書かれた女生徒の名前を見て表情を硬くした。
 教師として不適切な考えだが、このまま誰も来なければいいと思った。
 だが、突然ドアが開いて一人の女子生徒が教室に入ってくる。まどかができれば会いたくなかった相手、木下杏奈だ。
「なあ、まどかちゃん。面談ってまだやってんのぉ?」
 杏奈は大きく口を開けて、からかうような物言いで訊ねてきた。
 真剣さの欠片もない態度が気に障るが、これくらいでいちいち目くじらをたてていては、彼女の担任は務まらない。まどかは立ち上がって精一杯の笑顔をつくった。
「こんにちは、木下さん。ちょうど今、あなたの番がきたところよ。保護者の方はいらっしゃるかしら」
「保護者? へへっ、何言ってんだか」
 杏奈はおどけた素振りで首を振った。
 その拍子に派手に染まった金色の髪が顔にかかり、わずらわしげにかき上げる。
 髪の色も耳を飾るピアスも、明らかに校則違反だが、いくら注意しても聞かないのだ。
「うちの親が面談になんて来るわけねえじゃん。話ならあたしがテキトーに聞いとくから、さっさとやっちまおうよ」
「来るわけないって……あなた、面談のプリントはちゃんと親御さんに渡したの? 欠席なさるんだったら、担任の私にご連絡をお願いしますって書いてあったはずよ」
「そんなの知らねえって。いいから早くしようぜ、まどかちゃん。あたし、もう待ちくたびれちゃったよー」
 杏奈はまどかの了承もなく椅子にどっかり腰を下ろし、不満そうに口を尖らせた。
 この女生徒との会話は、常にこんな調子だ。まどかは嘆息して席についた。
「まったくあなたは、いつもいつもそんな調子で……もういいわ。保護者の方には後日、私の方から連絡しておきます」
「うん、それでいいよ。んじゃ、さっさと終わらせて帰るとすっかなー」
(平常心、平常心……)
 怒鳴りたいのを必死で我慢して、まどかは杏奈の通知表を机に広げた。
「酷い」としか形容のしようが無い成績が記された通知表に杏奈は一瞬だけ目を落としたが、すぐにまた関心を失ったようで、あらぬ方を向いて携帯電話をいじり始めた。
「木下さん、ちゃんと見なさい! 自分の成績でしょう?」
「見なくても悪いのはわかってるって。ぐちぐちお説教されるのもたくさんだし、もういいよ」
 鋭い口調で叱りつけても、杏奈は涼しい顔だ。クラス一素行の悪い問題児にとっては、学校の成績などどうでもいいということだろうか。
 学生時代を真面目に過ごしたまどかは、理解できないものを見る目で杏奈を見つめた。
「何ですか、その言いぐさは! あなた、一体どうするつもりなの !? こんな成績じゃ進級できないわよ!」
 まどかは声を張り上げたが、杏奈は大して感銘を受けた様子もなく、携帯電話の画面をのぞき込んで薄ら笑いを浮かべるだけだ。
 まどかが新任の教師だからとなめてかかっているのか、それとも、誰に対してもこの少女はこのような態度なのか。
 険しい目つきで杏奈をにらみつけていると、唐突に教室の戸が開いた。髪を杏奈と同じ金色に染めた男子生徒が、ドアの隙間から身を乗り出していた。
「お、杏奈いるじゃん。どうせお前のこったから、またこっぴどく怒られてんだろ」
 と、口笛を吹いて杏奈をからかう。まどかの記憶によれば、たしか隣のクラスの生徒だ。
「うるせえ、バカ。来るんじゃねーよっ」
「へへっ、怒るなよ。せっかく様子を見にきてやったのに」
 彼は軽薄な笑いを浮かべて中に入ってきた。まどかは慌てて彼を止めた。
「待ちなさい。今は面談中なの。勝手に入ってこられたら困るわ」
「いいじゃないすか、先生。実は俺、こいつの保護者なんですよ。だからちゃんと話を聞いてやらないと」
 そう言って杏奈の隣に座り、ブレザーの上から彼女の細い身体をまさぐる。その馴れ馴れしい仕草で、まどかはこの二人がどういう関係なのかを理解した。
(いやらしい……まったく、まだ高校生の分際で何を考えているの)
 厳しく叱って叩き出してやろうかとも思ったが、それより早くこの不快な時間を終わらせてしまおうという気持ちの方が強かった。まどかはあえて彼を追い出さず、事務的な会話に徹することにした。
「本当なら木下さんの成績はもう決まってしまっているのだけど、あまりにも成績の悪い人は救済措置として、追試を受けて合格すれば特別に単位を取得できます。追試の時間割を印刷しておいたから、試験に備えてしっかり勉強しておきなさい」
「えーっ、追試ってこんなにあんのぉ? これ多すぎじゃねーの、まどかちゃん」
 手渡されたプリントに目を落とし、杏奈は顔をしかめた。
「ははははっ。追試くらいでへこむなよ、杏奈。元はと言えばお前の頭が悪いからじゃねえか」
「うぜーな、黙れよ哲也。第一、お前だって追試受けまくりじゃねーか」
「へへっ、残念だな。俺は今回、赤点ゼロだよ。お前とはおつむの出来が違うのさ」
「はあ? 信じらんねー。なに張り切って勉強してんだよ。カスが」
 杏奈は乱暴な言葉遣いで毒づき、追試のプリントをくしゃくしゃに丸めて鞄の中に放り込んだ。
 哲也と呼ばれた男子生徒は、ふて腐れた彼女をからかってしばらく遊んでいたが、やがてそれに飽きると、自分の鞄を机の上に置いて中身をごそごそあさり始めた。
「ま、しゃーねーな。可愛い杏奈が追試をクリアできるように、俺が協力してやるよ。ちょうどいいものが手に入ったんだ。へへへ……」
「うぜえ。別にお前の助けなんていらねーし」
「あなたたち、もうやめなさい。はあ……とにかく木下さん、追試に落ちたら留年するかもしれないんだから、きっちり勉強しておきなさいね。あなたも友達だったら、この子の勉強を手伝ってあげて」
 いい加減杏奈と話すのにも嫌気が差し、まどかは面談の締めくくりとしてそう彼女に言い聞かせた。
 杏奈は口の中で何やらぶつぶつ言っていたが、ふと傍らの哲也が取り出したものを見て、顔に疑問符を浮かべた。
「哲也、何だよそれは?」
 机の上に置かれたのは、ステンレス製の小さな水筒だった。
「これか? すっげーうまい特製のジュースさ。試しに飲んでみろって」
 哲也はその蓋を取ると、コップ代わりにして中身を注いだ。水筒に入っていたのは清涼飲料水と思しきオレンジ色の液体だった。
「何をもったいつけてんだよ。ただのオレンジジュースじゃねえか。まあいいや、ちょうど喉が乾いてたんだ。もらうよ」
 妙に自慢げな哲也に勧められ、杏奈はそのジュースを一気に飲み干した。
「ぷはあっ。へえ……意外とうまいじゃん、これ。どこで買った?」
「ネットで取り寄せた。へへっ、うまいだろ、これ。まどか先生も一杯どう?」
「結構です。ただのジュースなら構わないけど、あまり変なものを学校に持ち込まないでね」
 この二人なら、煙草やアルコールに手を出していてもおかしくない。偏見に満ちた視線を哲也に向けると、彼は「やだなあ、大丈夫っすよ」と言って、水筒の蓋に再び液体を注いだ。
「別に怪しい飲み物じゃないっすよ。ただのジュースですって。疑うんだったら先生が飲んで確かめてみりゃいいじゃないすか。はい、どうぞ」
 と、特製のジュースとやらをまどかにも勧めてくる。
 哲也のような不真面目な生徒から飲み物をもらうのは抵抗があったが、朝から面談を続けたせいでひどく喉が渇いていた。結局、まどかはオレンジ色のジュースを口に運んだ。
 特に変わった味ではなく、やはりただのジュースだろうと推測された。
「ふう、ありがとう。それじゃあ、木下さんの面談はこれで終わりです。追試に向けてしっかり勉強するように──」
 そこまで言って、まどかは不審に思った。激しい目まいがして、ひどく頭がくらくらするのだ。あまりにも急激な変化だった。
 まどかはまるで酔っぱらったかのように平衡感覚を喪失し、机に突っ伏してしまう。状況を把握する間もなくまぶたが下りて、まどかの視界を覆った。
「お、もう効いてきたのか。すごい効き目だな、この薬は。へへっ」
 目の前で哲也が笑った気がした。
 だが、まどかの思考はぼやけ、ほとんど何も考えることができない。
(な、何? いったい何が起きたの? あ、頭が……)
 どうしようもなく眠いと思った。全身が重くなって、指一本動かせなかった。
 漠然とした恐怖と、頬に当たる冷たい机の感触。覚えているのはそこまでだった。
 抗うことのできない強烈な眠気に五感を奪われ、まどかの意識は闇の中へと消えていった。

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 

「まどかちゃん、起きろよ。まどかちゃん」
「ううん……」
 乱暴に体を揺さぶられ、まどかは目を開けた。
 意識がはっきりしてくると、おぼろげだった視界も徐々に輪郭を取り戻す。
 最初に目に入ったのは、やや黒ずんだ教室の床板だった。
(私は何をしていたの? まだ仕事中だったはずなのに。ひょっとして眠ってしまったの?)
 眠気を追い払おうと首を左右に振った。
 まだ面談の途中だったことを思い出し、まどかは驚く。まさか自分は勤務中に居眠りをしてしまったのだろうか。信じられなかった。
「一体どうして……ああっ? な、何なのこれはっ。か、体が縛られてる……」
 さらなる驚きに、まどかの声が裏返った。彼女の身体はロープで椅子にくくりつけられているのだ。両腕は後ろ手に拘束され、左右の足首が椅子の脚に縛りつけられていた。
 幾重にも巻かれた細いロープに体の自由を奪われ、身動き一つできない。
「な、何よこれ。どうなっているのっ」
 まどかは戒めから逃れようと暴れたが、いっこうにロープが緩む気配はなかった。椅子がガタガタ揺れ、バランスを崩してしまいそうになって慌ててやめた。
「あははは……ムダだって、まどかちゃん。哲也がだいぶ力入れて縛ってたから、そう簡単にはほどけねーよ」
 話しかけてきたのは、まどかの目の前に立っている若い女だった。黒いスーツを着ていることから、生徒ではなく教師か保護者なのだろうと思われた。
 女はにやにやと下品な笑みを浮かべ、まどかを見下ろしていた。
「あ、あなたは誰? これはあなたの仕業なの? たちの悪いいたずらはやめて、早くロープをほどきなさい。聞いてるの?」
 まどかは声を荒げ、険しい表情で相手をにらみつけた。
 しかしスーツの女は恐れ入るでもなく、両手を腰にあてて楽しそうに笑うだけだ。
「なあ、まどかちゃん。あたしが誰かわかるう?」
「え? あなたは──ああっ! わ、私っ !? 私がいるわ!」
 ショックのあまり、まどかは心臓が止まりそうになった。目の前に仁王立ちして彼女を見下ろしているのは、なんとまどか自身だったのだ。
 日頃、鏡でしか見たことのない自分の顔が、驚くまどかをあざ笑っていた。
 服装は、肉づきのいいボディラインにぴったり張りついた黒のスーツと、すらりと長い脚を覆う肌色のストッキング。いずれもまどかのものと同じだった。
 肩の少し下にまで伸びた黒く艶やかな髪も、醜く吊り上がった唇に引かれたルージュの色さえも、まどかと寸分違わない。
 まどかをそっくりそのまま複製したかのような外見の女が、彼女と向かい合っていた。
「あなたは誰? どうして私と同じ格好をしているの」
「同じカッコ? あはははっ、まだ気づかねーの? 鈍すぎだよ、まどかちゃん。自分のカッコをよーく見てみろよ」
 女に促されて、まどかはロープで縛られた自分の体を見下ろした。
 そして再び驚愕する。まどかの服がスーツではなく、女子生徒の制服に変わっていたのだ。
 とうに二十歳を過ぎた自分が、女子高生が着るような紺のブレザーを身にまとい、チェック柄の茶色のプリーツスカートをはいている。
「こ、これはどういうことなの。どうして私が生徒の服なんか……」
 一体いつの間に着替えさせられたのだろうか。とても不可解だった。現状がまるで理解できず、まばたきを繰り返した。年齢に不釣り合いな己の服装に、羞恥を覚えずにはいられなかった。
「服だけじゃねーよ。ほれ、見ろよ」
 まどかの姿をした女が小さな鏡を取り出し、まどかに向けた。安物の長方形の鏡をのぞき込み、まどかは息を呑んだ。
「き、木下さん !? どうして木下さんの顔が映っているの !?」
 ありえない光景だった。突きつけられた鏡に映っていたのはまどかの顔ではなく、先ほどまで彼女が面談をしていた女生徒、木下杏奈の顔だったのだ。けばけばしい金色の髪の女子高生が、鏡面の向こうで目を白黒させていた。
(信じられない……一体どうしたっていうの。まさか、私は木下さんになっちゃったの?)
 にわかには信じがたい出来事だった。どう考えても現実には起こりえない話だ。
 悪い夢ではないかと疑ったが、腕や脚に食い込むロープの痛みは、とても夢の産物とは思えないほどはっきりしている。
 どうしていいかわからず、まどかは鏡を持った女を呆然と見上げた。
「へへへ、これでわかった? 今さあ、あたしとまどかちゃんの体が入れ替わってんだよ。あたしがまどかちゃんになって、代わりにまどかちゃんはあたしになってるってわけ。すげえっしょ?」
「木下さん? もしかして、あなたは木下さんなの?」
「そうそう、そういうこと。あたしは杏奈。それにしても、自分の顔をこんな風に見るのって変な感じだよなー。あたしってこんなツラだったのか。ふーん……」
 女はまどかの顎を指でつまみ、興味津々の視線を注いできた。
 まどかの顔で笑い、まどかの声で喋るこの女の正体は、なんと木下杏奈だった。彼女の説明によれば、今はまどかと杏奈の体が入れ替わっているという。
(私と木下さんの体が入れ替わった? そんなこと、とても信じられないわ)
 まどかは青ざめてかぶりを振ったが、いくら今起きている異変を否定しても、やはり自分が木下杏奈で、相手が竹本まどかである現実に変わりはない。
 下卑た笑いを浮かべる「竹本まどか」の姿に、まどかは暗澹たる気持ちにさせられた。
「でも、どうして私たちの体が入れ替わっちゃったの。どうして?」
「へへへ……秘密はこのジュースですよ、先生。これは飲んだ人間の体を交換する魔法の飲み物なんすよ。だから、これを飲んだ杏奈と先生が入れ替わったんです。クククク……」
 まどかの疑問に答えたのは杏奈ではなく、彼女の傍らに座る哲也だった。哲也は先ほどまどかが口にしたあの液体の水筒を手に持っていた。
「飲んだ人間の体を交換するジュースですって? そんな馬鹿なこと……」
 あまりに突拍子のない話だが、現に哲也の説明通り二人の体が入れ替わっている。いくら信じがたい話であろうと、あの液体のせいで自分と杏奈の肉体が入れ替わってしまったのだと認めざるをえなかった。
「どうしてなの。どうしてこんなことをしたの」
 暗い顔で問いかけると、哲也はまどかの目の前にかがみ込み、手のひらでそっと彼女の頬を撫でた。少年の目は獲物を見つけた肉食獣のようにぎらつき、危険な光を放っていた。
「いやね、最初はあのジュースを先生に飲ませるつもりはなかったんすよ。でも杏奈が進級できなくなるって脅かされてたから、こうやって杏奈と先生と入れ替えて、あいつが留年しないよう先生に協力してもらおうって思いましてね」
「まさか、私に木下さんの代わりに追試を受けろって言うの? 教師の私がそんな不正行為に加担するわけにはいかないわ」
「そうすか。残念っす」
 まどかに拒絶されたにも関わらず、哲也の表情は変わらない。不気味な笑みを浮かべて、まどかの体に手を伸ばしてきた。
「な、何をするの。やめなさいっ。ううっ、うぐっ」
 まどかは悲鳴をあげたが、椅子に縛りつけられた身ではまったく抵抗できない。開いた口にハンカチが押し込まれ、その上から体を締めつけているものと同じロープが巻きつけられた。粗雑な猿轡に、まどかの声は封じられた。
 哲也の乱行はそれだけではない。今度はまどかの下半身に狙いをさだめ、開いた脚の付け根をのぞき込んできた。プリーツスカートがまくり上げられ、下着の上を無骨な手が這い回った。
(そんなところを触らないで。ああっ、やめてっ。やめなさいっ)
 怖気が走った。少年の指がショーツの布地をずらし、陰部を直接まさぐっていた。
 縛られた口から声にならないうめきが漏れて、不逞な陵辱者を喜ばせた。
「へへっ、どうすか先生。これでも協力してくれる気になりませんか」
(なんて酷い子なの。言うことを聞かない相手を、暴力で従えようだなんて……)
 目から涙がこぼれた。哲也の指が股間の唇を撫で回し、彼女の尊厳を踏みにじる。
 まどかは必死で首を振り、抵抗の意思を示した。ほんの数時間前では考えられない窮地に置かれながらも、教師としての責任感は、このまま屈することをよしとしなかった。
「ちっ、先生も強情だな。俺はただ杏奈の身代わりになって追試を受けてくれって頼んでるだけなのに、こんなにも嫌がるんだからな」
 哲也の声に失望の色が混じる。「まあいい。素直に聞いてくれないんだったら、聞いてくれるようにすりゃいいんだからな。ククク……」
 まどかから離れると、彼は机の上に置かれた鞄を再び開いた。鞄の中から小さな器具を取り出し、まどかに見せつける。器具からは黒いコードが伸びていて、先端に小さなカプセル状の装置が繋がっていた。
「先生、これが何かわかります? 普段杏奈が使ってるローターっすよ。こいつはこれがお気に入りでね。たまにこれを腹ん中に入れたまま授業を受けてたりするんすけど、気づいてました?」
 と言って、嬉しそうに性具を振り回す哲也。
 彼の隣ではまどかの顔をした杏奈が、「おい、何バラしてんだよ」と口を尖らせている。
 平生、この類いの道具に縁のないまどかの頬が赤く染まった。
(信じられない。神聖な学校に、こんないかがわしいものを持ってきて……)
 激しい嫌悪を覚えて、まどかは二人をにらみつける。それが無力なまどかにできる唯一の抵抗だった。
「俺だってホントはこんなこと、したくないんすよ。でも先生が俺たちのお願いを聞いてくれないから、多少乱暴な手を使ってでも、わかってもらわないとね」
 哲也はピンクローターを手にまどかににじり寄る。何をされるのかは明らかだった。
 まどかは青ざめて「むうっ、むうっ」と猿轡の下から喚き立てたが、それも口を塞ぐハンカチを唾液で湿らせるだけの行為でしかない。下着の隙間が広がり、卵型のバイブレータがまどかの秘所にあてがわれた。
 もはや逃れるすべはない。胎内に異物が侵入してくる感覚に、まどかはおののいた。
(ああっ、いやっ。は、入ってる。酷い。こんなものを入れるなんて……)
 羞恥と屈辱が身を焦がす。腹の中にずぶずぶ沈み込んでくる性具の感覚に、背筋が震えて収まらない。
 しかしいくらまどかが嫌がろうと、日頃からこのローターを愛用しているという杏奈の肉体は、苦もなくそれを飲み込んでしまう。
 無事にバイブレータが中に入ったことを確認すると、哲也はまどかの下着を元に戻し、コントローラを握りしめた。
「へへっ、入りましたよ。それじゃあスイッチオンだ。いつも杏奈がくわえ込んでるローターで、たっぷり楽しんで下さい」
(や、やめて。スイッチを入れないで──い、いやあっ)
 まどかの背中がびくんと跳ね、縛られた手足が小刻みに痙攣した。借り物の女性器の中で、卵状のバイブレータが振動していた。
(いやあ、抜いてっ。こ、こんなのって……ああっ、中で動いてるっ)
 杏奈の身体が淫らな刺激を受けて熱を帯びた。
 哲也に挿入された機械は容赦なく膣内を揺さぶり、痺れるような性感の波紋を体中に広げる。
 縛られた口の隙間から唾がこぼれ落ち、まどかの顎を汚した。
「んーっ、んーっ。ううんっ、んむうっ」
「クックック……先生、気持ちよさそうですね。こんなに体をくねらせちゃって」
 哲也の手がまどかの乳をわしづかみにする。体を乱暴に扱われる嫌悪と恐怖に、まどかは身震いした。
「見ろよ、杏奈。先生がお前の体で気持ちよさそうにしてるぞ」
「あはは、こりゃいいや。まどかちゃんの顔、すっげー面白え。最高じゃん」
 スーツ姿の女教師が腹を抱えてまどかをあざ笑った。
 哲也はそんな彼女を馴れ馴れしく抱き寄せる。タイトスカートの上から尻を撫で回されても、杏奈は嫌がらなかった。
「へへっ、いい揉み心地だ。杏奈、まどか先生の体はどうだ?」
「ああ、悪くねえな。それにしても、まどかちゃんってすげーエロい体つきしてんだな。見ろよ、このでけえおっぱい」
 杏奈は自分の豊満な乳房を両手で持ち上げ、粗野な口調で答えた。
 細く小柄な体格だった杏奈は、まどかの成熟した肉体に興味津々のようだ。
 哲也と一緒になって、借り物のバストやヒップを盛んにまさぐった。
(やめて、あなたたち。私の体で遊ばないで)
 まどかは嘆いたが、拘束された身では生徒たちを止めることは不可能だった。
 恥じらいも見せず大きく股を開き、タイトスカートをまくりあげる杏奈。ベージュの下着がさらけ出された。
「へえ、見ろよ。まどかちゃんのここ、毛が濃くてボーボーだ。ろくに処理してねえんだな」
 ショーツの生地をずらし、秘所を哲也に見せつけた。自分の体で最も恥ずかしいところを晒され、まどかは戦慄した。
(や、やめて。見ないでっ)
 目の前で自らの肉体を弄ばれているというのに、拘束されたまどかにはどうすることもできない。
 陰部の内側でバイブレータが小刻みに震えて、淫らな刺激を絶え間なく送り続けていた。軽度の酸欠に陥り、視界がぼんやりと霞んだ。
 杏奈はがに股になって卑猥な姿勢で性器を晒す。
 哲也はにやにやと笑ってそこに顔を近づけた。女教師の股間を心ゆくまで観賞すると、彼はいよいよ手を伸ばして肉の表面に触れた。
「どうだ、杏奈。まどか先生の体でここをいじくられるのは」
「へへっ、すっげー楽しいぜ。いつもみたいにしてくれよ」
「ああ、わかった」
 哲也は杏奈の腿を押さえ、自分の顔を彼女の陰部に押し当てた。
 ぴちゃぴちゃと怪しい音が聞こえてきて、まどかははっとする。性器をなめているのだと気づいて蒼白になった。
(いやっ。私の体であんな変態めいたこと……やめて。やめてぇっ)
 まどかは束縛された椅子の上で暴れた。必死でうめき声をあげ、ガタガタと音を立てて二人に訴えた。
 だが杏奈は不埒な行為をやめない。股間を哲也にしゃぶらせたまま、今や自分のものになった豊かな乳房を服の上から揉みしだいた。スーツの胸元で二つの膨らみが弾み、自在に形を変えた。
「ああ、気持ちいい……まどかちゃんの体、なかなかいいじゃねえか。腹の奥がムズムズしてきたぜ。あっ、あんっ」
 杏奈は下品な嬌声をあげて身をくねらせる。
 悪意と肉欲に歪んだ醜い顔は、とても生真面目な教師のものとは思えなかった。女子高生の意識がまどかの身体を乗っ取り、思うがままに振る舞っていた。
「はあっ、はあっ。哲也の舌が入ってる。すげえっ。思いっきり中をグリグリされてるっ」
「杏奈、どんどん汁がこぼれてくるぞ。ククク、お前はホントにスケベなやつだな」
「へへへ、あたしのせいじゃねえって。まどかちゃんの体がスケベなんだよ。堅物だから欲求不満なんじゃねえの?」
「案外そうかもな。ククっ、こんなに入り口をひくつかせて、スケベな先生だぜ」
(やめて。もうやめてっ。ああ……頭がおかしくなりそう)
 体を奪われたまどかの前で、教師と生徒の情事が繰り広げられていた。
 淫らで背徳的な光景を見せられ、体の奥がじくじくと疼いた。
 酸欠とバイブレータの刺激に理性が蝕まれ、抗う気力を失う。
 杏奈は盛んにまどかに声を聞かせ、蜜の滴る股間を見せつけ、自分たちの身体が取り替えられてしまったことをまどかに思い知らせた。
 他人のものとして聞く自分の喘ぎ声に、まどかは倒錯した興奮を煽られ、着実に追い詰められる。限界は間もなくだった。
「んっ、んふっ。哲也、あたしそろそろイキそう……」
 杏奈は腰を震わせ、絶頂が近いことを告げた。
 それを聞いた哲也は、下劣な笑みを浮かべてうなずいた。
「ああ、イケよ。生徒にクンニされてイっちまえよ、まどか先生」
「あっ、そこいいっ。イ、イクっ。おほおっ、イクっ」
 獣のような吠え声と共に、股間から勢いよく汁が噴き出た。杏奈に操られたまどかの体が、教師にあるまじき恥態を晒していた。
(酷い。あんなに乱れて……ああっ、もう駄目。こんなの嫌なのに──ああっ、イクわっ)
 屈辱と興奮がまどかを惑わし、哀れな彼女を官能の渦に引きずり込んだ。
 全身が痙攣し、目の前が赤く染まった。まどかは縛られたまま、杏奈の肉体でオーガズムを迎える。女の入り口からとろみのある液体が漏れ出し、下着と肌を汚すのをはっきりと感じた。
(ああ……私、これからどうなってしまうのかしら)
 身も心も限界を迎えて、意識を保っていられなくなる。まどかは小さくうめいて気を失った。


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