魔法少女こずえ

 抜けるような青空。教室の外は陽炎がゆらめき、灼熱の太陽がグラウンドを容赦なく照らしていた。
「――だから、時間と速さとは反比例するんだ。スピードが二倍になれば、かかる時間は半分になる」
 青島先生が黒板にチョークを走らせる。
 教育熱心な先生なのだが多分におっちょこちょいで、以前トラブルに巻き込まれてしまい、自分たちが助けた事もある。
 七月の学校は、いつにも増して弛緩した空気が流れていた。暑い中、もうすぐ夏休みだというのに勉強にいそしむ熱心な生徒など、この学校にはほとんどいない。
「ぐで〜〜〜……」
 こずえもまた、机に突っ伏して息も絶え絶えの有様だ。
「ク、クーラーが欲しいよお……」
 肩のところで切り揃えられたショートヘアの黒髪も今は汗に湿り、ノートに細い筋を作っていた。こずえ同様、クラスの半分は死人も同然の状態だったが、教師はあえてそれを認識の外に追いやってしまっている。
 そんな彼女の隣には、明るい日の色をした髪を持つ、日本人離れした雰囲気の少女が座っていた。見事な黄金色の髪であるが、別に染めた訳ではなく彼女が両親から受け継いだ遺伝子の成せる業だ。瞳も美しいエメラルドの緑色をしており、にこにこ笑うその姿は天使のように清らかで愛らしい。
「カレンちゃ〜〜〜ん……」
「大丈夫ですか? こずえちゃん」
 金髪の少女の口から、流暢で丁寧な日本語が流れ出す。
「なんでカレンちゃんは汗一つかいてないのおぉぉ……」
「暑いと思わなければいいんです。そうしたら、こずえちゃんもきっと暑くなくなりますよ」
「そんな訳ないじゃなぁぁぁい……」
 この熱気にも関わらず、なぜこの子は涼しい顔ができるのか。世の中の不条理にうめき声をあげるこずえ。
 カレンは優等生だった。
 可愛くて頭が良くて背が高くてスタイルが良くてスポーツ万能で、おまけに両親が英国の貴族とくれば怖い物など何もない。
 だが彼女はそれを鼻にかけるでもなく、こずえを大事な友達として扱ってくれる。
 こずえもまた、カレンを大切な友達として、またかけがえのない仲間として、これまで一緒に頑張ってきたのだった。
 うだる熱気の中、青島先生の授業は続く。いい加減聞くのが嫌になってきた頃だった。
(――――っ !?)
 こずえは突然立ち上がり、手を上げて大声を出した。
「先生 !! あたし、トイレ行ってきます!」
「おう!」
 隣では、カレンも同様に手を上げている。
「先生、申し訳ありません。私もお手洗いに……」
「おう! 連れションか、行ってこい!」
 いつもなら笑い声の一つや二つは起きるのだが、今日は皆がへばっていたため二人は静かに抜け出す事ができた。
 廊下に出て、こずえはカレンと顔を見合わせた。
「カレンちゃん! これって……」
「ええ、感じます。強い魔力を」
 教師に怒られないよう廊下を走り、女子トイレに入る。授業中で誰もいないのを確認すると、二人は個室に入りポケットから携帯電話のような機械を取り出した。
「バルビエル・エンジェルチェェェェンジッ !!」
 言葉と共にこずえがそれをかざすと、辺りがまばゆい光に包まれる。
 こずえが着ていたグレーのワンピースは、フリルがついた桃色のショートドレスに。履いていた上履きは、いくつもリボンがついた真っ赤なサンダルに。黒い短髪は長く伸びてポニーテールとなり、そして手の機械も形を変え、真紅の宝石がついたステッキになった。
 まるでお姫様になったような様変わり。
 今の彼女は平凡な小学生、佐藤こずえではなく、天使の力を借りて悪と戦う少女、サインエンジェルなのだ。
「カレンちゃん、行くよ!」
「ええ、行きましょう!」
 既にカレンも同様の変身を遂げていた。その姿はこずえとよく似ていたが、こちらは金色をベースにしており、少女の髪と同様に荘厳な輝きで周囲を照らしている。
「――――」
 二人は何やら言葉をつむぐと、トイレの窓から飛び出した。ここは三階、子供には無謀な高さだったが、今の二人には何でもなかった。
 宙を舞う自分たちの姿も魔法で隠しているため、変身の瞬間さえ気をつければ誰に見つかる事もない。翼のない二人の天使は空を翔け、一直線に飛んでいった。

 こずえとカレンは広々とした公園にやってくると地面に舞い降り、辺りをキョロキョロと見回した。
「この辺、のはずだけど……」
「気をつけて下さい、こずえさん。感じます」
 サインエンジェルとなった二人にはそれぞれ名乗るべき名が与えられているのだが、“呼びにくい”という事でこずえもカレンもお互いを本名で呼び合っていた。
 こずえがバルビエルという名を使うのは、変身の時だけである。そのため万が一会話をクラスメートにでも聞かれてはまずいのだが、幸いにも今までバレた事はなかった。
 ステッキを構え油断なく辺りをさぐるこずえの目に、公園の真ん中にたたずむ一人の少年が映った。高校生くらいの、自分たちよりは年上の少年だ。穏やかで優しそうな、ニコニコした顔をしている。それに、こずえが驚くほどの美形だった。
 だが、普通の少年なら平日の昼間、しかもこの灼熱の暑さの中こんな所をウロついているはずがない。
「……あの人だね」
「そのようです。悪魔かしら、強い魔力を感じますわ」
 少年は無造作にこちらに歩いてくる。やがて二人の目の前で止まると、手をあげて挨拶してきた。
「やあ。こんにちは、お嬢さんたち」
 その、何の変哲もない笑顔の奥底に何かを感じ取ったのか、カレンがステッキを向け低い声で言った。
「あなた、悪魔ですね」
「へえ、そう思う?」
「……そんな魔力、人間ではありえませんもの」
「君たちはどうなんだい? 人間にしては結構な力だけど」
「私たちは天使の加護を受けています。そして日々邪悪な存在から人々を守ってるんです」
「天使か。なるほどなるほど」
 何に感心したのか、一人でうなずく少年。
「でも、僕だって天使だったんだよ。大昔は。ちょっと失敗して地獄に落とされちゃったけど」
「やっぱり悪魔じゃありませんか! なら、なおさらあなたを許す訳にはいきません!」
「そうだ! 大人しくやられちゃいなさい!」
「やれやれ、この僕はただの欠片なのになあ……。まあいいや。退屈だし遊んであげるよ」
 少年が跳んだ。こちらに向かってくる彼を捕らえようと、カレンが魔法を放つ。
「――たああっ!」
 空間に拡散した光の糸が少年に絡み、体を包みこむ。続いて、こずえも敵に向けてステッキをかざした。
「えーい、ファイアー!」
 炎の渦が舞い上がり、螺旋を描いて少年を襲う。
 だが激しい炎に包まれているにも関わらず、相手はさしたるダメージも見せず、こちらを向いて笑っていた。服にも髪にも、焦げ一つできていない。
「まだまだ行くよ、カレンちゃん!」
「ええ! ――たあ! はっ! そりゃあっ!」
「えーい! とー! どっせーい!」
 ありったけの魔力を込めた強力な魔法がいくつも炸裂し、人のいない公園は炎と光に包まれた。
「――はあ、はあ……」
「ぜえ、ぜえ……」
 魔力を使い果たしたカレンが地面に膝をつく。
 横を見るとこずえも似たような状況で、もう限界のようだった。
「なんで……効いてないの?」
「さあ? 何でだろうね」
 あれだけの魔法を連発したのに、全く効果がない。
 こずえもカレンも未熟とはいえ、今まで数々の悪魔や魔物を相手にし、かなりの実力と自負を身に着けていた。だがこの少年はそんなものとはレベルが――いや、次元が違う。
「う、ううう……!」
 まざまざと見せつけられる力の差。こずえは半ば絶望に満ちた表情で、ガクガクと恐怖に震えていた。カレンももはや交戦を諦め、相手とにらみ合いながら何とか逃げるチャンスをうかがっている。
「うん、君たちは悪くない。なかなかいい線いってるよ」
 笑顔で二人を褒め称える少年。それはとても爽やかで優美で、恐ろしい表情だった。
「でも、僕に会っちゃったのは不運だったね。可哀想だけど、君たちには僕のオモチャになってもらおうかな」
 ――やばい。
 言葉では表現できない、本能的な危機を感じてこずえとカレンは逃げようと跳んだ。
 が、それも無駄だった。
「あいたっ !?」
 何もないはずの空にしたたかに頭をぶつけ、こずえの目に星が散った。気絶した少女の体がまっ逆さまに地面に墜ちる。
「残念だったね、もう逃げられないよ」
 一方、カレンも同じ不可視の壁に閉じ込められていた。
「――こずえちゃん! こずえちゃん !?」
ドンドン、ドンドン!
 必死に壁を叩くがどうにもならない。
 もはや二人は檻の中に生け捕られた哀れな獣でしかない。
 意識を失ったこずえの耳に、ゆっくりと歩いてくる少年の足音が聞こえた。

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 

 暗くて何も見えない。
 一体、何がどうしたんだろう。

――ズチュッ、ズチュッ……。

 闇の中、あたしの心はぼーっと揺れていて、はっきりした形にならなかった。
(――ああ、あたし寝てるのね……)
 これは夢だ。自分でそう思うのもおかしな話だけど、寝てるもんは寝てるんだからしょーがない。
(あたし、何て名前だっけ……?)
 思い出せない。これもやっぱり夢だからだ。
 昔話で、蝶になった夢を見たって人の話を聞いた事がある。蝶になったのが夢なのか、起きて人に戻ったのが実は夢だったのか、たしかそんな話だった気がする。難しくてあたしにはよくわからなかったけど。

――ずぶっ、ぬちゃっ……。

 何だろう、温かい感じがする。
 まるでお風呂に入ってるような――いや、違う。
 赤ちゃんが、ママにだっこされてるみたいな安らぎ。
 温かくて、柔らかくて、気持ちよくて……。
 …………。
 そして、あたしは目が覚めた。

「――ふぁあぁっ !?」
 まず感じたのは、あたしの下半身に抜き差しされる太くて熱い、熱すぎる硬いモノの感触。一瞬、おしっこするところかと思っちゃったけど、違うみたい。
 そう、そこはもっと女の子には大事なところで――。
「やあ、起きたみたいだね」
 次に聞こえたのは、すぐ後ろから囁かれる男の人の声。穏やかで爽やかで、だけどなぜか ゾクゾクしてしまうような声だった。
「な、な、何、コレぇぇっ !?」
 股の間に焼けた棒を突っ込まれてるような熱さに、あたしはうまくしゃべる事もできない。ロープか何かだろう、後ろで縛られた両手の痛み。顔は這いつくばる感じで畳に押し付けられ、そして同じく体に押しつぶされている大きなおっぱい。
 ……大きな、おっぱい?
「ほら、前を見てごらんよ」
「…………?」
 息も絶え絶えだったけど、あたしは声の言う通り顔を上げた。
 そこには一人の女の人がいた。それも、あたしがよく知っている――。
「ママ !?」
 畳の上、すぐ近くに這いつくばってこちらを見ているのは、間違いなくあたしのママだった。
 ママは服も着ずに、裸で汗まみれになっていた。
 その後ろには見覚えのある男の人が、ニコニコ笑いながら裸のママに“何か”をしている。
 両手でお尻を掴んで、その……前後に動いて、えっと、ママの中に……何かを入れて、動いて……。
 その行為が何なのか、ちょっとだけだけどあたしは知っていた。
 だからあたしは、動けない体でママを助けようと叫んだ。
「ママぁっ !! ママぁっ !!」
 ママの方も、あたしに向かって同じように叫んでいた。
 だけどママの声は目の前からでなく、なぜかあたしの口から聞こえた。
 そこで気づく。
(なんだ、これ鏡じゃない……)
 鏡に映るママの姿、それが今のあたしだったんだ。
 体を貫かれる熱い感覚を我慢しながら、じっと前を見る。大きなおっぱいがうつ伏せの体に押しつぶされて。だらしなく開いた口からはよだれを垂らし。顔を真っ赤にして、気持ちよさそうに目をうるませ。あの人が中で動くたびに甘い声が漏れ、鳴いてしまう。
 そこにはいつものママじゃない、いやらしい女の人がいた。
 これが、今のあたし――。
 あたしの中で暴れながら、あの人が耳元でそっとささやいた。
「どうだい、気持ちいいだろう?」
「い……や、こんな……のぉっ……」
 本当は、とても気持ちいい。
 おちんちんがあたしの中をかき回し、熱い蜜がジュルジュルとろけるのがたまらなく気持ちがいい。
 だけど、それを認めるのは怖かった。だって、今のあたしはあたしじゃないんだもの。
 そんなあたしの心を見透かしたように、彼の動きが激しくなってくる。
「ふあぁあっ…… !?」
 見えないけど、あたしのアソコはもうグチョグチョになってるだろう。中で動かれるたびに、ブチュル、ブジュッ、って音がする。
(あたし……も……もう、だめ……)
 もう頭の中が蕩けてしまって、難しい事は考えられなかった。
 こんなに気持ちいいのに、どうして嫌がるんだろう。受け入れてしまえばいい。腰を振って、声をあげて、汁を垂らして。
「素敵な表情をしているね。とってもエッチだ」
「――ふぁい……そうですぅ……」
 涙を流しながらコクコクとうなずくあたし。
 一度認めてしまうと、あとは楽だった。
「いいぃ――ひいぃ、いいっ……これぇっ! いいれすぅっ !!」
 普段あたしが聞いてる優しいママの声が、エッチなセリフになってあたしの口から出てくる。
「いいね、とっても綺麗だよ」
「ふぁい……いひぃっ !?」
 奥まで突きこまれ、思わず呼吸が止まる。
「喜んでもらえて僕も嬉しいな」
「いひっ……ふああっ! ああんっ!」
「――ほら、気持ちいいところをあの子にもたっぷり見てもらおうね」
「あへ……?」
 彼の言葉に、もう一度ちらりと鏡を見る。そこには、今まで気づかなかった影が映っていた。
(あ――)
 それはあたしだった。
 手足を縛られ、口にはガムテープを張られ、ムームーうなっている、いつものあたしの姿がそこにあった。その“あたし”はこちらを向いて、ぼろぼろと涙をこぼしている。
 ――誰、なんだろう……。
 熱すぎて何も考えられないけど、何となくあたしはわかってしまった。
 あたしはママになっている。という事は、代わりにママがあたしになってるんだ。
 でもママ、なんで泣いてるんだろう……。
 その間にも、彼の突き込みはどんどん激しくなってくる。
――ズチュッ、ズブッ、ヌチャア……!
 あたしの、ママのアソコがいやらしい音をたてて喜んでいる。
「あんっ……ああっ! はんっ !!」
 あまりの激しさに、あたしの頭も爆発寸前だ。もう、自分が何を言っているかもわからない。
「もう、そろそろみたいだね」
「はい――ふぁい! はあんっ !!」
 彼の声は相変わらず穏やかで優しくて、心地よい。その彼がふふふと笑いながら、あたしに教えてくれる。
「こういう時は『イクゥゥゥッ』って白目剥いて言いながら失神するのがマナーらしいよ?」
 あ、そうなのか。
 疑う理性もなくなってしまい、あたしは彼の言葉を受け入れた。
 押し寄せる気持ち良さの波に乗り――。
「……あんっ、イク! イクゥゥゥゥッ !!」
 お芝居のように。演劇のように。あたしは教えられた通りにし、そして意識を失った。

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 

「じゃあこずえ、行ってくるわね」
「はーい、いってらっしゃい」
 あたしはそう言い、手を振りながら登校するママを見送った。
 ランドセルを背負って元気に歩いていくあたしの姿はとても可愛い。
 そっか、ママ、今までこんな風にあたしを見てたんだ。
 親心がほんのちょっぴり理解できた気になって、あたしはエプロンをつけたまま上機嫌で部屋に戻った。
――プルルルル……。
 掃除がちょうど終わった頃、家の電話が鳴る。
「もしもし、こずえちゃん?」
 カレンちゃんだ。お茶しにこないかってお誘いだ。あたしは二つ返事でうなずくと、ママの自転車にまたがってカレンちゃんの家に向かった。

「うわあああ……」
 やっぱりカレンちゃんのお家は大きい。あたしが到着すると、いつもの執事さんが出迎えてくれた。
 そのまま、カレンちゃんの待つ大部屋に通される。
「こんにちは、こずえちゃん」
「やっ、カレンちゃん!」
 元気に手を上げたあたしを見てカレンちゃんが笑う。きっと鏡があったらあたしも笑ってたに違いない。ママはまだまだ若いけど、やっぱり大人の体だから中身のあたしがとってもアンバランスなんだ。
 でも、それはあたしだけじゃない。
「はい、どうぞ」
「ありがとー」
 お茶を入れてもらい、カレンちゃんにお礼を言う。
 カレンちゃんもショートの金髪の頭を振り、にこやかにあたしに笑ってみせた。綺麗で優しくて、いかにも良家の奥様って感じ。
「カレンちゃんのママも、今学校だよね?」
「ええ。お母さんは日本語が苦手だから、ちょっと心配です」
 そうかあ。うちのママもちゃんと小学生できてるのかな。何だかあたしも心配になってきた。
 そのときだ。
(――――っ !?)
 あたしもカレンちゃんも顔を上げ、お互い見合わせた。
「カレンちゃん、まただよ!」
「はい、こずえちゃん!」
 街のどこかで魔力を感じる。あたしたちの出動だ。
 二人でいつものアレを取り出し、いつものセリフを口にする。
「バルビエル・エンジェルチェェェェンジッ !!」
「ハマリエル・エンジェルチェンジッ !!」
 何度も繰り返してきた、おなじみのシーンだ。
 光に包まれた変身が終わると、部屋の中にはサインエンジェルの小さな衣装を無理やり身に着けた、二人のママの姿があった。
「…………」
「…………」
 黙ったまま、しばらく見つめあう。
 カレンちゃんはいつもの黄色のトップスじゃ小さすぎて、あたし以上の巨大なおっぱいも、細いおへそも丸見えになっていた。お尻も大きすぎて、派手なパンティーがスカートで隠せていない。袖口から見える腕も、はちきれそうなサンダルも、全部が全部、ひどい有りさまだった。
 そしてあたしも似たような感じで、小さすぎる衣装のあちこちから肌や下着が見えていた。
「……プッ! あはははは……!」
「クスッ、うふふふふ……!」
 二人同時に笑い出す。
 だって、やっぱり面白いんだもの。
 たっぷり5分くらい笑い続け、やっとの事であたしたちは街に向かって飛んでいった。

 ……結局、あの男の人には勝てなかった。
 訳がわからず負けちゃって、しかもあたしはあたしのママに、カレンちゃんも自分のママにされちゃって、たっぷり彼に……その、やられてしまった。
 元に戻る方法もわからなくて、仕方なく今は小学生になったママ達にあたしたちの代わりをしてもらっている。
 今のあたしたちはママとして、家事をしながら街の平和を守っているってわけ。
 魔法の力もそのままだから大丈夫なんだけど、衣装が小さくて入らないのが一番の悩み。
 でも、こうやって悪魔や魔物と戦い続ければ、いつかまたあの人と会えるはずだ。
 今度こそ勝って、元の体に戻してもらう。あたしもカレンちゃんも、それを目指して頑張っているのだ。
「――そこまでよ! 世のため人のため、平和を守るサインエンジェル、参上!」
「邪悪な魔物め、覚悟しなさいっ!」
 ぴちぴちの衣装を着て半裸でこんなセリフを言うおばさんが二人。
 ちょっぴり恥ずかしいけど……仕方ないよね?


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