魔法少女ブリリアキュート:首から下は気になる男子



 お姫様みたいだ。

 ふと顔をあげたハルトが抱いた感想だ。
 カーペットの上に座る彼からは、同じく座卓についたヒカリの横顔が間近に見える。
「どうかした? ハルトくん」
「いや、何でもない……」
 照れ隠しにうつむき、作業を再開する。しかしハルトは眼球だけを動かし、再びヒカリの顔を盗み見た。
 先ほどの感想は間違っていなかった。確かに姫君のようだった。
 ボブカットの黒髪はやや地味な印象を与えるが、柔らかで繊細な黒髪は艶やかで人形のよう。
 切り揃えられた後ろ髪の襟足は短めで、白い首筋がより細く見える。
 今まで彼が見てきたどの女子よりも整った目鼻立ち、すらりと伸びた睫毛、小さく可愛らしい唇……行儀よく作業に集中する彼女の姿に、ハルトはすっかり心奪われていた。
 もちろん、ヒカリは王女様などではない。ただのクラスメイトだ。
 それも、どちらかと言えばクラスのリーダーとして皆の先頭に立つタイプではなく、内気で従順。よく問題児に雑用を押しつけられるような少女である。
 決して目立つことはしないが、常に利他的に振る舞い友達の力になることを好むヒカリは、クラスの密かな人気者だった。
「ふう、だいたい終わったかな? ごめんね、付き合ってもらっちゃって」
 ノートに熱心に書き込んでいた手を止めて、ヒカリが言う。クラス会議の議事録をまとめたり、次回の議題を考えて担任教師に提案したりするのが彼女の仕事だ。本来はクラスの委員長がすべき内容なのだが、責任感のない生徒が委員長に就任してしまったため、ヒカリがその役目を押しつけられたのだ。もっとも、ヒカリが望んだことでもあるが。
「いいよ。ほとんどヒカリがやってるし、オレは大したことしてねえって。それよりさ……ヒカリ、もうすぐ誕生日なんだってな」
「うん、来週……ハルトくんはいつなの?」
「オレはもう終わっててまた来年かな。あのさ、これなんだけど……」
 ハルトはどきどきするのをこらえて、ポケットからヘアクリップを取り出した。丸くて赤い花をかたどったヘアクリップだ。
「わあ、かわいい。どうしたのこれ?」
「こないだ、ゲームセンターの景品でもらったんだ。でも男はこんなのいらないし……よかったらお前が使ってくれよ。ちょうど誕生日だろ」
 ハルトは嘘をついた。たまたま手に入れたのではなく、ひとり悩んだ末に選んだヒカリへの誕生日プレゼントだった。
「いいの? ありがとうハルトくん、大事にするね」
 透き通るようなヒカリの笑顔にどきりとさせられる。試しにつけてみると、ヘアクリップの赤がヒカリの黒いボブカットによく映える。鏡を見ながら少女は何度も礼を言った。
 ハルトが赤面しているとドアをノックする音がした。
「ヒカリ、ハルト君、お茶がはいったよ。休憩して下りてこないかい?」
 部屋に入ってきたのは、いかにも人の良さそうな細身の少年だ。ヒカリの兄のコウタだ。ハルトがこうしてヒカリの家を訪ねるのは初めてではなく、コウタとも顔見知りになっていた。
「ありがとう、コウタさん」
「気にしないで。君はヒカリの大事な友達だからね」
「もうこんな時間……お兄ちゃん、いつも観てるテレビ番組、そろそろ始まるんじゃない?」
「そうだね。夕飯を作りながら観ようかな。ハルト君もうちで食べていくかい?」
 三人は階段を下り、一階のリビングへと向かった。
 立派な戸建てだが両親は仕事で長い間留守にしているそうで、普段は広い家に兄妹二人きりだという。そのためヒカリは子供ながらほとんどの家事を自分でこなしているそうだ。時おり彼女の態度が大人びて見えるのはそのせいかもしれない。
 リビングのテーブルには紅茶と菓子が置かれていた。テレビをつけるとニュース番組の映像が流れだした。大きなテレビ画面いっぱいに映るのは幼い美少女だ。
「魔法少女ブリリアキュート……謎に包まれた彼女はいったい何者なのでしょうか?」
 きらきらした金色の髪をツインテールにし、ピンクのワンピースドレスを着た魔法少女が面妖な姿の怪物どもと戦っていた。
 アニメや特撮ではない。この街で実際に撮影された映像だ。
「またブリリアキュートのニュースか。最近、大活躍だなあ……」
 コウタが言うように近頃ブリリアキュートが活躍する機会は増えていた。レギオンの襲撃が増加しているためだ。
「この街は狙われている」
 半年ほど前からハルトの街の住人たちが口にするようになった言葉だ。
 悪の秘密結社レギオンを名乗る謎の怪物どもが街に出没し、家屋を破壊し人を襲う事件が頻発した。怪人、化け物、魔獣……いずれも人知を超えた魑魅魍魎には一切の銃火器が効かず、人々は無力だった。やつらの素性は今なおわかっておらず、悪霊とも宇宙人とも魔界からの侵略者とも言われる。
 そんなレギオンの怪人をひとりで撃退しているのが魔法少女ブリリアキュートである。
 やはり正体不明の女児が可憐なコスチュームを身にまとい、魔法としか思えない不可思議な力でレギオンの化け物どもを何度も打ち負かした。
 警察も軍隊も頼りにならない現状、ブリリアキュートは人類にたったひとつ残された希望なのだ。ニュースは連日ブリリアキュートの報道ばかりだ。
「えへへ……大変そうだね、ブリリアキュートも」
「そうだね。あまり無理しないでくれるといいんだけど」
 なぜか顔を赤らめるヒカリと、そんなヒカリを心配そうに眺めるコウタ。
 二人の態度に疑問を抱いたハルトだが、今はそれ以上に怒りの念が強い。唐突に仏頂面になった彼に、兄妹は驚いたようだ。
「どうしたの、ハルトくん? ひょっとして何か怒ってる?」
「気に入らねえ……」
 好きな女子の前にも関わらず、ハルトは憎たらしく吐き捨てた。「何が魔法少女だ。何が正義の味方だ。オレはあんなやつ、絶対に許さねえ……!」
「どうしたんだい、急に。ブリリアキュートはこの街を守ってくれるヒーロー、いやヒロインじゃないか。それを悪く言うなんて……」
 眉をひそめるコウタの隣では、ヒカリが泣きそうな顔になっていた。この街の住人はほとんどがブリリアキュートに好意的であることから、兄妹の反応はもっともだ。
 だが、ハルトには件の魔法少女に反感を抱く確かな理由があるのだ。
「オレの母さん、何ヶ月も前にケガをして……まだ入院してるんだ。脚をひどくやられて、もう歩けないかもしれないって……それはブリリアキュートのせいなんだ!」
「なんだって……!?」
「あいつがレギオンの化け物と戦ってるときに光の矢が飛んできて、母さんが大ケガしたんだ! 何が希望の戦士だ!? オレは絶対にあいつを許さねえ……!」
「ハルトくん……」
「ごめん、いきなり変なこと言って。でもオレ、あいつのことが許せないんだ。皆はブリリアキュートのことが好きなのに、オレだけが嫌いで、それでどうしていいかわからなくて……」
 そこまで聞いてヒカリは無言で部屋を出ていった。一瞬だけ見えた横顔は、常に笑顔でひとを思いやる彼女のものとは思えないほど暗かった。
「気にしないで、ハルト君。あの子はブリリアキュートの大ファンだからね。でも今日はもう帰ってもらっていいかな? 申し訳ないんだけど……」
「あ……はい、わかりました」
 心苦しくなったハルトはコウタに詫び、おいとますることにした。帰り際に見たのは自分を見送るコウタの穏やかな笑みと、細かく震える彼の手。
 よほど妹思いなのだろう。一人っ子のハルトには、兄や妹がいるということが羨ましかった。

 ◇ ◇ ◇ 

 そろそろ日が暮れ黄昏どきだ。
 レギオンの怪物どもが跋扈するせいで近ごろは通りを歩く人は少なく、ハルトも自然と早足になった。
 住宅街の隙間にある小さな公園を通る。無人の公園には古びたジャングルジムとブランコと、青と赤の二色に塗られた用途不明の巨大な遊具が置いてあった。
「あーあ、ヒカリに嫌われちまったかな……」
 ハルトは苛立ちと怒りを抑えられない。ヒカリの誕生日を祝って喜んでもらえたのに、あのニュースのおかげで台無しだ。
 自分の怒りは正当なものだが、そのせいでヒカリを不快にさせてしまったのは事実だ。誰だって自分の好きな人物を悪しざまに罵られたら気分を害するに決まっている。ハルトは己の浅慮を恥じた。
「くそっ、これも全部レギオンとブリリアキュートのせいだ! ちくしょう!」
 衝動のままに正体不明の巨大な遊具に鉄拳を撃ち込んだ。不快な音があがり、ハルトの手が強い痛みを訴えた。
「オレの体を殴るのはだれだあ……?」
 人間のものとは思えない不気味な声がして、少年はぎくりとした。辺りを見回したが人影はない。すぐ近くから聞こえてきた怪しい声に、ハルトは途端に不安になった。
 彼の目の前で、殴りつけた遊具が揺れだした。誰かが揺らしているのかと思ったが、そうではない。遊具がひとりでに動いているのだった。
「な、なんだ……?」
 正体不明の遊具は、身の丈三メートルを超える異形の怪物になり立ち上がった。
 人間より上背のある細長い箱が左右に二つ繋がった奇妙な見た目をしており、向かって左側が赤、右側が青に塗られていた。胴体の正面には巨大な目と口がついており、側面と底からは湾曲した棒のような手足が生えていた。まるで子供向けアニメのキャラクターのような外見だ。
 ハルトはこれに似たモノを見たことがある。それは街を襲う自称秘密結社レギオンの化け物で、合成魔獣と呼ばれていた。やつらは奇妙な術を使い、街中の自動車や冷蔵庫など人々にとって有用な機械を恐るべき怪物に改造してしまうのだ。
「オレはレギオンの合成魔獣アイコラP! よくもオレの偽装を見破ったな、小僧!」
「う、うわあああっ! レギオンの怪人だあああっ!」
 ハルトは大慌てで駆けだした。人々を襲うレギオンの化け物は到底、人が倒せる相手ではない。武装した警察や軍隊でさえ敵わないのに、丸腰の子供ができることなどたったひとつしかない。
 逃げるだけ。
 ハルトは駆けた。サッカーが好きで走るのは得意だ。狭い公園を飛び出し、細い路地に逃げ込む。
 その足首を何者かの手がつかんだ。
 悲鳴をあげて転倒したハルトが振り向くと、アイコラPという魔獣の前面が観音開きに展開し、中から長さ十数メートルもある白い腕が伸びていた。
 腕は一本だけではなく何本、何十本も伸びてきて、ハルトの身体を引っ張った。大きく開いた箱の蓋が化け物の口のように見えた。
「や、やめろ! オレまだ死にたくないよう! 誰か助けてえっ!」
「スターライト・アロー!」
 どこからともなく飛んできた白い光の矢がアイコラPに直撃した。ハルトは土の上に投げ出された。
 公園の古びたジャングルジムの上に彼女はいた。
 ピンクのワンピースドレスを着た金髪ツインテールの小柄な美少女。
 天から舞い降りた希望の戦士、魔法少女ブリリアキュート。
「レギオンの合成魔獣ね!? よりにもよってハルトくんを襲って……許せない!」
 先端に星のついた白いステッキをアイコラPに突きつけ、ブリリアキュートは空高く飛び上がった。
「おのれ邪魔しやがって、ブリリアキュート! お前を倒してグレモリー様への手土産にしてくれるー!」
「あなたなんかに負けてられないの! スターライト・アロー!」
 戦いが始まった。
 空中で白い翼を生やしたブリリアキュートが光の矢を放ち、アイコラPを攻撃する。しかし魔獣の体は見た目よりも頑丈なのか、大したダメージを受けていないようだ。
「オレの体の中は亜空間に繋がってるんだ! ただ相手を中に引きずり込むだけじゃねえ! こんなことだって……イリュージョン・ミサイル!」
 アイコラPの蓋が開閉すると、内部から無数の腕ではなく大きさ数十センチの小型ミサイルが多数射出され、幼い魔法少女を襲った。ブリリアキュートは空中で身をひねり辛うじてそれらをかわしていくが、小さな爆発が絶え間なく続き、可憐な衣装や髪をわずかに焦がす。
 強敵だった。アイコラPは本体の動きこそ鈍いが、箱の内から無数の長い腕を伸ばしたり、豊富な飛び道具を放ったりしてブリリアキュートを捕捉しようとする。彼女は自慢のスピードで鳥のように飛び回って避け続けるが、逃げるのが精いっぱいのようにハルトには見えた。
(ブリリアキュート、オレを助けてくれたのか。オレの母さんをケガさせた憎たらしいやつなのに……)
 ハルトの心は千々に乱れた。ハルトの母親がブリリアキュートによって負傷したのは事実だが、彼を助けるために命がけで怪物と戦っているのもまた事実。そんな彼女を憎悪し、心ない言葉を投げかけるのは正しいことなのか。
 ハルトの隣にブリリアキュートが降り立った。被弾こそしていないが、息が荒く危ない状況だ。
「ブリリアキュートっ!」
「早く逃げて、ハルトくん! こいつは私が倒すから!」
「ブリリアキュート、なんでオレの名前を知ってるんだ?」
 ハルトは訝しがった。
「いいから逃げてっ! お母さんをケガさせちゃってホントにごめんね……」
 ブリリアキュートは自分とハルトを守るように両手を前に突き出した。「スターライト・シールド!」
 魔法少女の目の前に光り輝く壁が現れ、魔獣の攻撃をシャットアウトした。無数の腕もミサイルも、光の壁に弾き返される。
「す、すげえ……!」
「早く逃げて! そう長くはもたないからっ!」
 物凄い剣幕のブリリアキュートに促され、ハルトは情けなくその場から逃げ出した。ブリリアキュートのおかげで流れ弾が飛んでくることもなく、安全に公園を出ることができた。
 公園の出口には女が一人立っていた。背の高い大人の女性だ。
 ハルトは助けを求めて女を見上げた。女は体にぴったり張りつく黒いボディスーツを身に着けていたが、革の面積が極端に小さく、まるで痴女のような格好だ。
 黒ずんだ血が流れると噂される青い肌、きらきら輝く長い銀髪、そして黒く大きな翼、角、尾……そこでハルトはようやく気づいた。
「そんな……お前はレギオンの……!?」
 目の前の女はただの通行人ではなかった。テレビで何度も目にしたブリリアキュートと人類の敵。レギオンの一員の女悪魔だ。
 ハルトは女悪魔に襟首をつかまれた。恐怖と窒息で声をあげられない。
「勝手に交戦するのはいいけど……苦戦してるようね、アイコラP」
 ブリリアキュートは光り輝く壁でアイコラPの攻撃を防ぎながら、とっておきの一撃を放つために身構えているところだった。魔法少女の足元が光り輝き、凄まじい威力を予感させる。
「魔力のチャージ完了……これが私の必殺技! ブリリアント・サジタリウス──!」
「そこまでよ、ブリリアキュート!」
 女の声で戦闘が中断した。魔法少女も魔獣も攻撃の手を止めて、ハルトを捕獲した女をじっと見つめた。
「あなたは……レギオンの幹部、グレモリー!?」
「抵抗をやめてもらいましょうか。さもないと、このクソガキの首をねじ切るわよ」
 グレモリーと呼ばれたレギオンの女幹部は卑劣にもハルトを人質にし、ブリリアキュートに降伏を迫った。
「ちくしょう。オレに構わずこいつらを倒せよ、ブリリアキュート……! オレのせいでお前がやられちまうなんて絶対にイヤだ!」
「ハルトくん……!」
「さあ、どうするのブリリアキュート!? 降参するのがイヤだっていうなら、その気になるまでこのガキを痛めつけてやる!」
 グレモリーはハルトの耳をギリギリとねじりあげた。血管が破れ血が噴き出す。ハルトは首筋が濡れるのを感じた。
「ぎゃああああっ!」
「や、やめてっ! わかったわ。私の負けよ、グレモリー……」
「ブリリアキュート!? なに言ってるんだよ! お前が負けたらこの街はどうなるんだよ!」
「降参する。でもそのかわり、ハルトくんには絶対に手を出さないで……!」
「いいわよ。こんなクソガキなんてどうでもいいもの。さあ、武器を捨てなさい!」
 敵に命じられるがまま、ブリリアキュートは魔法のステッキを手放した。無抵抗の魔法少女の体にグレモリーの鞭が幾重にも巻きつき、体の自由を奪う。
「なんで諦めちまうんだよ、ブリリアキュート! オレたちを守ってくれるんじゃないのかよ!?」
「私のせいでハルトくんのお母さんがケガしちゃって、歩けなくなって……そのうえハルトくんまで死んじゃったら、私はもう魔法少女なんてできないよ。ハルトくんは毎日会ってる大好きな友達だもん」
「友達……オレとお前が……?」
「ごめんねハルトくん。私、ダメな魔法少女でごめんね……」
 ブリリアキュートは目尻に涙を溜めて微笑んだ。魔法少女のツインテールの金髪の陰に赤いヘアクリップが見えた。それは見覚えのある品……ハルトがヒカリに贈った誕生日プレゼントだ。
「お前、ひょっとしてヒカリ……!?」
 二人の会話はそこまでだった。アイコラPの内部から無数の腕が伸びてきて、ブリリアキュートとハルトの体を拘束した。
「グレモリー!? 何をするの、ハルトくんだけは助けるって約束でしょ!?」
「そんなの知ったこっちゃないわね。今まで何度アンタを追い詰めても土壇場で逆転されてきた……でもこのアイコラPの特殊能力を使えばその心配もないわ。それにはアンタ以外にもう一人生け贄が必要なの。さあ、アンタの力を見せてやりなさい、アイコラP!」
 グレモリーは不敵に笑った。冷酷で非道な女だ。勝つためならば人質も騙し討ちも厭わない。
「うわあああっ!」
「きゃああああっ!?」
 ブリリアキュートとハルトは仲良くアイコラPに飲み込まれた。中は真っ暗で何も見えない。無数の手に捕まったハルトの体は空中で固定され、動くことができなかった。
「今回お見せするのは切断マジック! タネも仕掛けもあーりません! ガチャン、ガチャン!」
「な、なんだ……オレの体が……!?」
 うまく言い表せない不思議な体験だった。ぷつんと糸の切れるような音がして、ハルトの首から下の感覚が丸ごと消失した。ぞわぞわした恐怖に襲われる。続いて自分がどこか別の場所に運ばれているような浮遊感があり、そのあと突如として手足の感覚が舞い戻った。
 両の手をこわごわと握って開き、四肢の感触を確かめる。自分の手が指先から肩にかけて長手袋らしき布に覆われているのに気づいた。足はスニーカーではなく膝丈のブーツを履いているようだ。いったいどういうことかと疑問を抱いていると、大きな音がして後ろから光が差し込み、ハルトは箱の外へと投げ出された。
「い、いてえっ!?」
 地面の小石に打ちつけた後頭部を押さえて立ち上がる。目の前には青い肌の女悪魔と巨大な合成魔獣がにやにや笑って立っていた。
 とりあえず怪我はしていないようだが……ハルトが見下ろすと、自分がピンクのワンピースドレスを着ているのが見えた。とても男子が着る代物ではなく、クラスメイトの女子が演劇のときに身に着けるような可愛らしい衣装である。
 変化しているのは服装だけではなかった。日頃からサッカーで鍛えているハルトの手足が非常にか弱く細くなっていた。雪を連想させる白く繊細な肌を、小さな木の葉のような手でぺたぺたと触り、ハルトは信じられない思いだ。ところどころリボンのついた桃色のワンピースを着た小さな体は、先ほど間近で目にした魔法少女ブリリアキュートそのものだ。
「な、何だよこれ……オレの体、いったいどうなっちまったんだ?」
「きゃああああっ!? な、なによこれっ!?」
 ハルトと同じくアイコラPの中から出てきたブリリアキュートが悲鳴をあげた。
 魔法少女は常に着ているピンクのコスチュームではなく、ハルトのTシャツと短パンを身に着けていた。履いているのはピンクのブーツではなく履き古した男子用のスニーカー。小柄で細身の女児の手足は筋肉がついて引き締まり、よりたくましい印象を受けた。
 信じがたいことに、その体はハルトの体に見えた。ただブリリアキュートがハルトの服を着たわけではない。腕も、脚も、腹も、胸も……可憐な金髪美少女の首から下は、そっくりそのまま同級生の男子生徒の体に置き換わっていた。
「そ、そんな……まさかこれって、オレとブリリアキュート、いやヒカリの体が……!?」
 ハルトの首から下は小柄で可憐な魔法少女。
 ブリリアキュートの首から下は活発なサッカー少年。
 どうしてこんな奇妙なことになってしまったのか、考えてもわからない。
 わからないが……どうやらハルトとブリリアキュートは、魔獣の特殊能力とやらによって、互いの首をすげ替えられてしまったようだ。
「やっりましたー! うまくいきましたよ、グレモリー様!」
「よくやったわ、アイコラP! これでブリリアキュートは魔法が使えなくなったのね?」
「はーい、間違いないっす! 今のこいつはただのクソガキですよー! ハーッハッハッハ!」
「そ、そんな……私、ハルトくんの体にされて魔法が使えなくなっちゃったの?」
 高笑いする淫魔グレモリーと魔獣アイコラPのやりとりに、ブリリアキュートは呆気に取られていた。
「そんなわけない! 私はみんなを守る魔法少女ブリリアキュート! いつもみたいにあなたたちを倒して街の人たちを守るんだから! スターライト・アロー!」
 首から下が短パン姿のサッカー少年になったブリリアキュートは常のように両手を構え、聖なる光の矢を放とうとした。
 しかし何も起こらない。魔法少女の体を奪われたことで、聖なる魔法を操る力も失くしてしまったようだ。連戦戦勝の魔法少女の顔色が青を通り越して真っ白になった。
「そんな……ホントに魔法が使えない……!」
「どうやら勝負ありね、ブリリアキュート」
 グレモリーは黒い鞭で魔法少女を打ち据えた。
「い、痛いっ!」
 もはやブリリアキュートはグレモリーの攻撃を避けられない。ただの男の子の体にされてしまった今、これまでのように大地を高速で駆けることも宙に跳ぶこともできないのだ。
「アンタはもう魔法少女じゃなくなっちゃったの。今のアンタはそこらのザコ兵士にも勝てやしない、チンポのついたクソガキよ! アハハハハ……!」
「そんな、嘘よ……もし私が負けちゃったら、この街はどうなるの? 街の人たちは……?」
 苦痛に這いつくばるブリリアキュートの目に涙が浮かんだ。たった一人で怪物や魔獣どもを退けてきたブリリアキュートが無惨に敗れたとあっては、もはや人類に希望はない。街は根こそぎ破壊され、人々はみな殺されるか奴隷にされてしまうだろう。
「ヒカリっ!」
 ハルトは窮地のブリリアキュートに駆け寄ろうとしたが、黒い鞭が飛んできてハルトのきゃしゃな身体に巻きつく。罪人のように縛られ地面に転がった。
「女装趣味のクソガキは黙ってそこで見てなさい! 余計なことしなきゃ少しは長生きできるかもしれないわよ!?」
 赤い瞳の女悪魔はハルトをにらみ威圧した。人間では決して勝てない魔界からの侵略者に、ハルトは恐怖を覚えた。
「ち、ちくしょう。はなせよこのっ……!」
「思えばアンタには今までさんざん邪魔をされたわね、ブリリアキュート。でも、それも今日で終わり。今までのお礼にじっくり痛めつけてあげる。楽に死ねるとは思わないことね!」
 グレモリーの長い爪が生地を引き裂き、ブリリアキュートのシャツと短パンをずたずたにした。少年になった少女の裸があらわになる。思春期が始まり筋肉のつき始めた男児の裸体だ。金切り声があがった。
「な、なにこれ。私の体に……お、おちんちんが……!」
「当たり前でしょ? 今のアンタは首から下がこのクソガキの体になってるのよ。チンポがついてて当然じゃない」
 すっかり勝ち誇った女悪魔は、形のいい長い指でブリリアキュートのペニスをつまみ上げた。それはハルトのものだったが、今はブリリアキュートの体の一部だ。
 ブリリアキュートは嫌がったが、グレモリーは淫らな表情で魔法少女の一物を執拗にいじり回した。男を魅了する妖しい匂いを放ちながら敏感なところを愛撫してくるサキュバスに、未熟な男性器は否応なく勃起させられる。
「ど、どうなってるの。こんなのイヤなのに、おちんちんがピンって立っちゃう……!」
「いやらしいクソガキね。アタシがあんまりにもセクシーだからって、こんないやらしいものおったてちゃってさ。ふふっ、せっかく男の体になったんだから、たっぷり辱めてあげる」
「い、いやあっ、いやあああっ!」
 魔法少女の可愛らしい顔がグレモリーの爆乳に押し潰された。汗ばんだ青い乳の谷間に挟まれ、ブリリアキュートはサキュバスのフェロモンを嗅がされる。硬くなりはじめた陰茎がいっそう硬度を増した。
 もはやブリリアキュートに反撃する力は残されていなかった。グレモリーが言ったように、魔力を奪われた今の彼女にはレギオンの兵士一体を倒すことさえできないだろう。グレモリーにただ嬲られるだけだ。
「ああっ、や、やめてえっ。そんなところ触らないでっ」
 サキュバスに玉袋を揉みしだかれ、幹を摩擦されるブリリアキュート。むろん彼女に男性器を責められた経験などない。初めて味わうであろう淫らな感覚に人類の守護天使はかん高い声をあげ、膝をがくがく震わせた。
(ヒカリ……オレのチンポで、ヒカリが気持ちよくなってるなんて……)
 ハルトは信じられない思いだった。これまで街の人々を守るために命がけで戦ってきたブリリアキュートが、悪の女幹部にペニスをいじり回されて勃起しているのだ。まだ皮をかぶった少年のものはぴんと上向き、時おりいじらしくわななく。その男性器が自分のものだということに、ハルトはひどく狼狽した。
 今のブリリアキュートは少女ではない。合成魔獣の奇怪な能力によってハルトと首をすげ替えられてしまったブリリアキュートの体は男児のもの。ハルトの陰茎を嬲られ悶えているのはブリリアキュートだ。
「あら、ここが弱いの? スケベなクソガキだこと。今までもアタシが人間どもを襲うたび、アンタはこうやってアタシに可愛がってもらうのを想像してチンポをおったててたのね。この変態」
「そ、そんなわけないっ。私は女の子……きゃあああっ! あひっ、あひいっ」
 ブリリアキュートは悲鳴をあげた。子供のペニスがサキュバスの手で無理やり皮を剥かれていた。ピンク色の亀頭が恥ずかしそうに顔を出し、そこに長く鋭利な悪魔の爪が襲いかかる。
 可憐な美少女の顔がくしゃくしゃになった。グレモリーの長い指がカリ首を引っかけ、リズミカルにもてあそんでいた。持ち主だったハルトでさえしてこなかった愛撫に、幼いペニスは性感帯を開発される。
 肉棒を刺激され悶絶するブリリアキュートの姿に、ハルトは怒りでも失望でもない感情を抱いた。ハルトの顔が熱くなり、股間が湿るのを自覚する。鞭で縛られてさえいなければ、きっと手を伸ばして秘所をまさぐっていただろう。自分が女児の下着を……ヒカリの下着を履いていると思うと、ハルトまでおかしくなってしまいそうだ。
「ほらほら、どうしたの? チンポがますます元気になってるわよ。スケベなおチンポ魔法少女ブリリアキュートは、敵のサキュバスにおチンポ気持ちよくされて大喜びってわけ?」
「ち、違うっ。私は魔法少女ブリリアキュート……悪いやつらには絶対負けないんだから……おおっ、うぐっ、ひぎいいいっ」
 肛門にグレモリーの指を挿入されブリリアキュートは白目を剥いた。鋭い爪が菊門を傷つけ血が滴る。女にない前立腺を突き刺され、歴戦の魔法少女はなすすべもない。
 ブリリアキュートの尿道口から先走りの汁が漏れ出し、グレモリーの青い手を汚した。爽やかな少年の精臭が立ち込めた。
 お姫様みたいだとハルトが見惚れたヒカリの……ブリリアキュートの美貌が崩れていく。整った目鼻立ちは欲望と快楽に歪められ、小さく可愛らしい唇からは艶やかな喘ぎ声が漏れ出し、真っ赤な舌がだらしなくはみ出る。もはや恥も外聞もなく手淫に熱中するふしだらなヒカリの姿に、ハルトはすっかり心奪われていた。
「ああっ、もうダメ。何か出そうなのおっ。もうやめてえっ」
「射精するのね? あの魔法少女ブリリアキュートがスケベなおチンポからザーメン垂れ流すのね? アハハハハ……最高じゃない! 出せ! ザーメン出せ! とっとと出せえっ!」
「い、いやあっ。お、お腹の奥から何かが……おおっ、もう無理っ。で、出るっ、出るようっ。いやあああっ」
 尿道の入口を引っかかれ、とうとう限界を迎えた。
 ブリリアキュートの小ぶりなペニスが誇らしげに天を向き、白い樹液を撒き散らした。背筋が折れそうなほど反り返る。決して膨らまない男児の乳房の先端をつんと勃起させ、ブリリアキュートは人生初めての射精にのめり込んだ。
 長い長い絶頂だった。ようやく正気を取り戻したブリリアキュートは白濁でべとべとになった己の体を見下ろし、絶望に喘いだ。
「い、いやあああ……ハルトくん、お願い。見ないでえ……!」
「ヒカリ……あんなにエッチな顔をして……」
 ハルトは体の芯がじんと疼くのを感じた。どれだけ性的に興奮しようと、体の首から下が魔法少女になってしまった今のハルトに勃起するペニスはない。
 そのかわり幼い女体は少年と淫魔の生々しい行いに確かに発情し、秘所を潤ませてしまっていた。小便を漏らしてしまったのかと錯覚するほど蜜があふれ、下着がびしょびしょになった。
「ううっ、ぐすっ。ごめん。ごめんね……私、ハルトくんの体で我慢できなかった。グレモリーにあっさり負けちゃって、ハルトくんのことだって助けられない。ダメな魔法少女でごめんね……」
「ヒカリ……違う! お前はダメな魔法少女なんかじゃない!」
 ハルトの感情が今までになく高ぶった。何度も怪物どもと命がけで戦い、さんざん辱めを受けたヒカリが、ただそれを傍観しているだけのハルトに謝罪する……それは間違っていた。
「ハルトくん……?」
「お前はいつも優しくて頑張り屋さんで、みんなを守ってくれる最高の魔法少女だ! オレはそんなお前が好きだ!」
 縛られ転がる無力なハルトの体が光り出し、地面に白い魔法陣が出現した。聖なる力が湧き上がってくるのを感じる。ハルトが雄叫びをあげると、小柄な身体に巻きつく黒い鞭が引きちぎられた。
「なんですって!?」
「スターライト・アロー!」
 ハルトは自由になった右手をかざし、見様見真似の呪文を唱えた。
 ひとすじの光の矢がグレモリーの肩口をわずかに切り裂いた。魔法少女が日頃使う魔法と比べたら月とすっぽんだが、それでも若干のダメージを与えることに成功した。
「どういうこと!? なんでこんなクソガキがブリリアキュートの魔法を……!?」
「すごい、今のはオレがやったのか? これがヒカリの、ブリリアキュートの力なのか……!?」
「邪魔よ! 無名のエキストラは舞台のそでに引っ込んでなさい! ダーク・スフィアボム!」
 グレモリーの前に複数の漆黒の球体が出現し、弧を描いてハルトに迫りくる。魔力でつくった爆弾のようだ。テレビのニュースで見たことがある。
「攻撃が見える!? 体も軽い……!」
 ハルトは魔力の爆弾から逃れ、目にも止まらぬ速さで疾走した。人間ではありえない脚力だ。一瞬で公園を横断し、十メートル以上ジャンプして身をひねり、敵の攻撃を回避した。サキュバスの爆弾は次々と地面に着弾し、大規模な爆発を起こした。
「ハルトくん! 魔法のステッキを呼んで! あれがあったらもっと力が……!」
「わかった! 来い、ブリリアキュートのステッキ!」
 聖なる武器を呼ぶと、先ほど魔法少女が投げ捨てた白いステッキがひとりでに飛んできて、か細い右手の中に納まった。
 ブリリアキュートが愛用する魔法のステッキ。握りしめると力がみなぎる。これがあれば百人力だ。
「スターライト・アロー!」
 太い光の矢が五本も同時に放たれ、グレモリーに襲いかかった。日ごろ魔法少女が放つものと遜色ない。露出度の高い衣装の上から女悪魔の手足を切り裂く。かん高い悲鳴があがった。
「どうなってるの!? なんでこんなクソガキがブリリアキュートみたいに戦えるのよ!? おかしいわよこんなの! とっとと片付けなさいよアイコラP!」
「おのーれーっ! 次はお前の体をその辺のグラビアアイドルと入れ替えてやる!」
 合成魔獣アイコラPの前面が観音開きに展開し、中から無数の腕が伸びてきた。
「さっきヒカリが見せてくれたやつ……スターライト・シールド!」
 ハルトが念じると目の前に光の壁が出現し、魔獣の攻撃をかたく阻んだ。
 今の自分には力がある。だから今度は自分がブリリアキュートを守らなくてはならないと強く思った。強く願えば彼女の体が応えてくれる。
 魔力を貯めるハルトの足元で、白い魔法陣が光り輝いた。
「オレはヒカリを守る……くたばれ化け物! ブリリアント・サジタリウス!」
 全長数メートルの巨大な光の矢が放たれ、アイコラPの頑丈な体の真ん中に大穴が開いた。どんな魔獣も撃破してきたブリリアキュートの必殺技だ。合成魔獣は断末魔の叫びを発し、巨大な火の玉と化して燃え尽きた。
「やった……オレが勝ったのか? オレがあの恐ろしい化け物を倒したのか……?」
 信じられなかった。
 警察や軍隊では決して歯が立たない怪物を、一般市民の、それも子供の自分が撃破したのだ。ハルトは爆発の跡を見つめ、ばらばらになった合成魔獣の残骸を眺めた。
 ところが……。
「おのれ名もなきクソガキ! 覚えてなさい!」
 グレモリーはいつの間にか空に逃れていた。その腕にはブリリアキュートががっちり抱えられている。ブリリアキュートは暴れたが、ただの子供の力では悪魔に敵うはずもない。暴れた拍子に髪を留めていたヘアクリップが外れて地面に落ちていった。
「グレモリー、次はお前の番だ! あの魔獣みたいになりたくなけりゃヒカリを返せっ!」
「イヤに決まってるでしょ。ブリリアキュートはこれまでさんざんアタシたちの邪魔をしてきたのよ? とっとと絞め殺したいところだけど……こいつはあえて殺さない。一緒に魔界に連れて帰るとするわ。じゃあね」
 グレモリーが手を掲げると、宙に漆黒の穴が開いた。グレモリーとブリリアキュートはその穴に吸い込まれていく。
「ハルトくんっ!」
「ヒカリっ! 待てえグレモリーっ! ヒカリを返せえっ!」
 ハルトは必死で跳んだが間に合わない。魔界に通じるという漆黒の穴は閉ざされ、ハルトの手はむなしく空を切った。
 グレモリーの姿はもはやどこにもなかった。人の手が届かぬ魔界へと逃げ去ってしまったのだ。それも無力なヒカリを連れて。
「そ、そんな……!」
 ハルトの顔から血の気が引いた。「ヒカリがレギオンにさらわれちまった……!」
 聖なる力を自在に操り悪を討つ魔法少女ブリリアキュート。彼女はその首から下の体を残していなくなってしまった。
 ハルトは思慕する少女の首と、自分の首から下の体とを、悪の秘密結社に奪われてしまったのだ。

 ◇ ◇ ◇ 

 ハルトは窓の外をぼんやり眺めた。
 灰色に閉ざされた空から雫が落ちてきてガラスを叩く。憂鬱のあまりため息をついた。
 もともと勉強が好きな方ではなかったが、今はいっそう身が入らない。担任の五郎にあてられてもぼうっとするだけ。もう一週間以上も無気力なハルトの姿に、教師も級友たちもみな暗い顔になった。
「ハルトくん、ずっとあの調子だね。やっぱりヒカリちゃんが原因かな?」
「ああ。噂じゃヒカリのやつ、レギオンにさらわれちまったらしいぜ。もう化け物に喰われてるかもな」
 あの日からヒカリは行方不明だ。クラスメイトの中には彼女に関する心ない噂話を口にする者もいて、それがハルトを苦しめる。ハルトは授業中にも関わらず幽鬼のような表情で教室を出て、男子トイレに向かった。
 個室に入ってジーンズを下ろした。男児用のボクサーパンツの中から出てきたのはサッカー少年の発育途上のペニスではなく、白い肌とつるつるの女性器だ。
 ブリリアキュート、すなわちヒカリと首をすげ替えられてしまった今のハルトは、頭部以外の全てがヒカリの体だ。まだ男女の体格差の小さい年頃といっても、それなりにスポーツをしているハルトの日焼けした体と、大人しく読書の好きなヒカリの体ではまるで異なる。
 ハルトはヒカリと体が入れ替わったことを周囲に隠していた。もしも明かせば、ブリリアキュートの正体がヒカリだと知られてしまう。クラスメイトたちの追及を未然に防ぐため、ハルトは暑い季節でも長袖の上下を着るしかない。
 もう立って小便をすることもできない。便座に腰かけたハルトは嘆息し、尿意を解放した。
 股間の穴から力のない水音と共に黄色い尿がこぼれ落ちていった。まだ幼い女性器も、それを紙で拭く繊細な指も、大きく左右に開いた白い太ももも、すべてヒカリの体の一部だった。
「ふう……あっ、んんっ」
 陰部を自ら拭き取るくすぐったい感触に、ハルトはつい声を漏らした。
 これほどまでにヒカリの身を案じているのに、彼女の顔はどこにもない。ここにあるのはヒカリの首から下だけだ。
 もう一度彼女に会いたいと思った。いつものように並んで勉強をし、すぐに飽きて雑談をし、見つめ合いたい。
 ヒカリは確かにここにいるのに、どこにもいない。あまりのもどかしさに秘所を拭き取る手に力が入った。
「え? これ……なんだ?」
 何げなく手の中のトイレットペーパーに視線を落としたハルトは異変に気づいた。「血だ……血がついてるぞ!?」
 頭の中が真っ白になった。
 血の付いた股間に多量のペーパーをあてがい、ハルトはトイレを飛び出した。保健室のドアを叩くと、白衣に眼鏡の養護教諭が出てきた。
「ハルトくん、そんなに慌ててどうしたの?」
「せ、先生……オレ、あそこから血が出てきちゃって……病気かもしれない! 調べてください!」
「ええっ? ハルトくん、男の子よね?」
「今は女なんです!」
 ハルトは女教諭を納得させようとベッドの上に寝転がり、恥ずかしさを我慢して下着を脱いだ。脚を開いて血の滴る股間を教諭に見せると、息をのむ気配があった。
「あなた女の子だったの? ちょっとじっとしててね……」
 まだ若い女教諭はハルトの女性器をまじまじとのぞき込み、清潔な綿棒を女の入口にそっと挿入した。あまりの羞恥にハルトは顔から火が出そうだ。
「確かにハルト君は女の子ね。でも、どうして男の子だなんて嘘をついて……?」
「違います! 実はこれ……オレの体じゃないんです。レギオンの怪人にやられちゃって……ひょっとしたら、そのせいで血が出てるのかも……」
「まあ詳しい話はいいわ。今はそれどころじゃないものね」
 美人の教諭は優しい笑みを浮かべ、机の引き出しから女児用のショーツを取り出した。その内側にガーゼのようなものを貼りつけ、ハルトに差し出す。
「はい、どうぞ。あなたこんなこと初めてなんでしょう? でも心配いらないわ。あなたは病気じゃないの。生理になっちゃったのよ」
「えっ? 生理……?」
「ええ、そうよ。女の子は将来赤ちゃんを産めるようになるんだけど、そのために月に一度これをしないといけないの。なかなか大変よ。これで体調を崩す人も多いし、体育だってお風呂だって……」
「赤ちゃん産むの……? オレが……?」
 出血と精神的ショックでハルトの気が遠くなった。確かにヒカリの体になっている現在は女性だが、まさかこれほど生々しい出来事が起こるとは思わなかった。
「家に帰ったらちゃんとお母さんに報告しなさいね。これは女の子にとってとっても大事なイベントなのよ。お赤飯を炊いてもらうといいわね」
「そんな大事なイベントを、オレが? これはヒカリの体なのに……」
 養護教諭の話はほとんど頭に入ってこなかった。ハルトはいっそう落ち込み、自分がヒカリの代わりに女の子の重要な祝い事を済ませてしまったことに罪悪感を覚えた。
 一刻も早く元の体に戻らなくては……ハルトは暗澹たる思いだったが、ヒカリは依然として行方不明で、生きているか死んでいるかさえ定かではなかった。当然、ハルトが男に戻る目処も立たない。
 暗い顔で保健室のベッドにひっくり返っていると、養護教諭に呼ばれた。ヒカリの兄のコウタがハルトに連絡をとりたいと電話してきたのだという。
「コウタさんが? わかった、学校の帰りに訪ねてみます」
 ハルトは学校を早退して直接ヒカリの家に向かった。
 コウタの意図はわからないが、可愛い妹が行方不明なのだからさぞ心配しているだろう。
 ハルトとしてもこの数日間、誰にもヒカリのことを打ち明けられなかった。誰か信頼できる人物にとにかく話を聞いてほしいという思いがあった。
 コウタは平日の昼間にも関わらず家にいて、ハルトを迎えてくれた。
 しかし、なんと言って話を切り出したものか……ハルトは少なからず悩んだ。ヒカリをたいそう可愛がっているコウタに、「オレの首から下はあなたの妹の体です」と説明するのは頭の痛いことだった。
 ところが驚いたことに、コウタは全ての事情を知っていた。
「ヒカリが魔界に拉致されたっていうのに、学校になんて行ってられないからね。僕は僕にできることをしなきゃ……」
 コウタは寝不足なのか疲労した顔でそう言った。あの日もハルトとヒカリの体が入れ替えられるところ、ヒカリが魔界へと連れ去られるところを陰で見ていたという。
「それじゃあ、コウタさんはヒカリがブリリアキュートだって最初から知ってたんですか!?」
「うん、そうだよ。実は僕とヒカリには血の繋がりがなくてね。僕が五歳のときに、女の赤ちゃんが空から下りてきたんだよ……それがヒカリ」
「空から下りてきたって……ヒカリはいったい何者なんですか?」
「わからない。もしかしたら空の高いところにいる誰かが、魔界からの侵略に対抗するために遣わしてくれたのかもしれない。もしもそうだとしたら、ヒカリは本物の天使ってことになるね。それともかぐや姫かな」
「でも、ヒカリは普通の女の子ですよ。今日だってオレ、このヒカリの体で生理になっちゃって……」
「そうか、初潮がきたのか。それはめでたいね。ヒカリが帰ってきたらお赤飯の準備をしてやらなくちゃ」
「コウタさん……オレ、いったいこれからどうしたらいいんでしょうか。ヒカリは魔界にさらわれて、もう殺されちゃってるかもしれない。あのアイコラPとかいう魔獣を倒したのに元の体に戻れないし……オレ、ひょっとしたら一生このまま女の子でいなきゃいけないんじゃ……」
 ハルトは泣きべそをかき、リビングの床にへたり込んだ。途方に暮れてどうしたらいいかわからなかった。
「それは君次第としか言えないな。君がヒカリの……ブリリアキュートの力を少しでも使えるようなら、まだ希望はある」
「どういうことですか?」
「今、政府の秘密機関がヒカリを救出するために魔界に行く方法を調査してるんだ。実は僕と僕の両親もその機関のメンバーでね。ヒカリが魔法少女の力に目覚めたときからずっと、あの子を内緒でサポートしてたんだ」
「魔界になんて行けるんですか?」
「可能性はあるけど、断言はできないな。でも、半年前にレギオンがこの街に現れてからというもの、僕たち普通の人間だって手をこまねいていたわけじゃない。レギオンの怪人どもやヒカリの力を少しずつ研究してたんだ」
「研究って……ヒカリを研究するなんて、なんかイヤだな」
「大丈夫さ。ブリリアキュートは人類を守る希望だからね。余計なことをしてあの子が戦えなくなったら一巻の終わりだ。僕たちにはヒカリを守って陰ながらサポートする義務があるし、僕自身ヒカリのことが大好きだ。もしもあの子に何かあったらと思うと、それだけでもう我慢できないよ」
 ハルトはあの日、無知な自分の言葉がヒカリを傷つけたことを思い出した。そのときコウタは笑顔を浮かべつつも、怒りに拳を震わせていたはず。彼がヒカリに並々ならぬ愛情を抱いているのがよくわかった。
「はっきり言って、今の君の姿に僕は平気じゃいられない。可愛いヒカリの体が君に使われているかと思うと、僕は……」
「ご、ごめんなさい……!」
「だから一刻も早く魔界に行って、ヒカリを助け出さなきゃいけない。そのためには君の協力が必要なんだ」
 コウタは小さな瓶を取り出した。その瓶の中には銀色に輝く液体が入っていた。
「これは悪魔の魂だ。先日、君が倒したアイコラPって魔獣の残骸から回収したものさ」
「悪魔の魂……?」
「やつらはそう呼んでるけど、正体はよくわからない。もしかしたら未知の液体金属かもしれないし、ナノマシンの集合体なのかもしれない」
「オレ、子供だから難しい話はよくわからないです……」
「これが何かはどうでもいいんだ。大事なことは、この悪魔の魂とやらを自動車や冷蔵庫に注入することでレギオンは合成魔獣をつくりだしていること。そしてその魔獣が倒されたら、この液体はゆっくり時間をかけてこの世から消え去ってしまうこと。どうやらこの液体には、ひとりでに魔界に戻る性質があるらしい」
「魔界に戻る……それって、それを使えば魔界への通路ができるってことですか!?」
「そううまくいけばいいんだけどね。残念ながら今の僕らの技術でそんなことは不可能だ。だから君の力が……つまり魔法少女の力がいる。この液体とブリリアキュートの神聖魔法をうまく組み合わせたら魔界への道が開けるかもしれない。だから全ては君次第だって言ったわけさ」
「オレ次第……」
 ハルトはコウタから手渡された小瓶を眺めた。何の変哲もない液体と瓶だ。以前学校の理科室で見た水銀という液体に似ていると思った。
「どうだい? サンプルはそれだけじゃないけど、見ていて何か感じないかい?」
「うーん、特に何も……ブリリアキュートに変身してよく観察したらわかるのかな? 試してみるか……」
 ハルトは立ち上がって気合を入れた。「変身! 魔法少女ブリリアキュート!」
 ヒカリの家のリビングに白い魔法陣が浮かび上がり、ハルトのきゃしゃな身体が光に包まれた。ところどころリボンのついたピンクのワンピースドレス、二の腕から指先までを覆うピンクの長手袋、太ももから下は同じ色のブーツ。星のついた白いステッキを手にしたハルトは、頭部以外の全てが魔法少女ブリリアキュートだ。
 ヒカリと体が入れ替わったあの日以来、一度も試したことはなかったが、今のハルトはやはり魔法少女ブリリアキュートの力を使えるようだ。
 ヒカリがさらわれた現在、魔界の侵略者と戦えるのはハルトだけ。囚われのブリリアキュートを救出するまで、ハルトは自分がブリリアキュートの代役を務めることを決心した。
「うーん、やっぱりヒカリの体にハルト君の頭がついてるのは悲しいなあ……」
「今は仕方ないでしょう。とにかくその瓶を見せてくださ……!?」
 ハルトは吸い込まれるように件の小瓶を見つめた。明らかに変身前とは異なる。瓶の中の液体に、まるで魂が吸われるような感覚を抱いた。
(なんだこれ? いったい何が……?)
 ほんの少し危機感を持ったが、ヒカリを助けるカギになるかもしれない。ハルトは意識を集中し、瓶の液体が炎上しそうなほどに熱い視線を注いだ。
 徐々に五感が薄れていき、ハルトの視覚と意識だけが残る。コウタが何やら言っているようだったが、すぐ隣にいるはずの彼の言葉も聞こえない。小瓶の中……液体の向こう側にもう一人の自分がいるような気がした。
(ヒカリ……どこにいるんだ? お前はいったいどこに……)
 ハルトの存在がどんどん希薄になり、瓶の中に吸い込まれる。とうとうハルトの意識すら消え失せ、全てが闇に閉ざされた。

 ◇ ◇ ◇ 

 気を失っていた時間はどのくらいだったろうか。
 目を開くと、暗い室内の光景が網膜に映った。狭い石造りの部屋には鉄格子のついた窓があるが、そこから差し込んでくるのは明るい日の光ではなく、紅に染まった黒雲と稲光の明かりだ。地上のどこにいても見られないであろう不吉な空。
 ここはどこだと己に問いかけ、すぐに自身から回答を得る。
 魔界。
 そう、ここは魔界だ。
 人間たちの住む世界から遠く離れた、悪魔が生まれる闇の領域。悪の秘密結社レギオンの本拠地が存在する世界でもある。
 視線を正面に戻すと、高さ二メートルを超える大きな姿見があった。そこに映っているのはボブカットの黒髪の少年だ。両手両足を鎖で拘束され、直立したまま失神していた美少年……その名はヒカリという。
(そうだ……私、捕まっちゃったんだ)
 ぼんやりした頭で、ヒカリはこれまでの記憶を思い起こす。ヒカリは魔法少女ブリリアキュートとしてレギオンの魔獣と戦い、その特殊能力によって意中の少年ハルトと首をすげ替えられてしまった。そのせいで魔法少女としての力が使えなくなり、こうしてレギオンに捕まり魔界まで拉致されたというわけだ。
 ハルトと首をすげ替えられてしまった今のヒカリは、頭部以外の全てがハルトの体だ。まだ男女の体格差の小さい年頃といっても、大人しく読書の好きなヒカリの体と、スポーツをして日焼けしたハルトの体とでは、まるで異なる。少しずつ筋肉がつきはじめている少年の肉体、揺れる小ぶりな男性器。それらが自分のものであることに、ヒカリは静かに涙した。
「目が覚めたようね、ブリリアキュート。それともヒカリと呼んだ方がいいかしら?」
 声をかけられ振り向くと、黒いボンデージスーツに身を包んだ女が立っていた。明らかに人間のものとはかけ離れた青い肌と赤い瞳、銀の輝きを放つ長い髪、耳の上から生えるねじくれた黒い角……この魔界の住人にふさわしい悪魔の女だ。彼女が一歩踏み出すたび、ヒカリの頭ほどのサイズがある爆乳がぶるんと揺れる。
 女の名はグレモリー。魔界の秘密結社レギオンの大幹部にして、幾度となくブリリアキュートと刃を交えた強力な悪魔である。そしてヒカリをここまで拉致した張本人でもあった。
「グレモリー……私を魔界に連れてくるなんてどういうつもり?」
「さあね、観光でも楽しんでもらおうかしら。ここはアタシたちレギオンの本部。昔の魔王の城を改装したのよ。この部屋は高い塔の上で、見晴らしは抜群ね」
「私を殺すんでしょう!? 回りくどいことをしないで早く殺しなさい、グレモリー! 私は命乞いなんてしない!」
 ヒカリは気丈に言った。魔法少女の力を失い敵に拉致され、もはや生き延びる見込みはないと思われた。レギオンに敗北して殺されるのは無念だが、戦い抜いた末の死は本望だ。
 しかしグレモリーはヒカリの命を奪うことはしなかった。少なくとも、今すぐには。
 ゆっくりと女は近づくと、抵抗のできないヒカリの顎に手をかけ、その小さな唇を奪った。サキュバスと魔法少女の唇が重なり合い、長い舌がヒカリの口内に分け入ってくる。
「んんっ、グレモリー、何を……!? んっ、んううっ」
 グレモリーの唾液を飲まされ、ヒカリは恍惚の表情になった。幼い顔がとろんとした無防備な姿をさらし、股間では小ぶりなペニスがむくむくと立ち上がる。
 ヒカリの心の中で警笛が鳴った。
 聖なる力をその身に秘めた魔法少女であればサキュバスの誘惑をはねのけるのは容易なことだが、今のヒカリに魔力はほとんど残されていない。
 若い男の体は正直だ。皮の剥けたペニスがはちきれんばかりに膨張し、ヒカリは必死で射精をこらえた。ここで屈してしまえば、魂まで魔界に囚われてしまうと危惧した。
「どうしてアンタを殺さずにわざわざ魔界まで連れてきたかわかる? 何度も何度もアタシたちレギオンの邪魔をしてきたブリリアキュート……憎たらしくて仕方ないわ。何度八つ裂きにしてやろうと思ったことか……」
 グレモリーは長い接吻のあとようやく離れ、獲物を追い詰めた肉食獣の笑みを浮かべた。女悪魔の瞳孔が猫のように縦に細くなる。
「でもね、アタシたちサキュバスは本当に憎い相手は殺さないの。アタシたちの復讐は相手を虜にすること……骨の髄まで惚れさせて、身も心も、魂さえも自分のものにすることよ。だからアンタは殺さない。アタシに惚れさせて、一生アタシに従わせて、アンタの魂を永遠に喰らいつづけてやるの」
「私は正義の魔法少女よ! 悪魔の手先なんかにはならない! 絶対に負けないんだから!」
「そうかしら? アンタのチンポはもうビンビンじゃないの、ブリリアキュート」
「ああっ……!」
 グレモリーのたおやかな手に陰茎を撫で上げられ、ヒカリは悩ましく吐息をついた。精一杯の虚勢であることは見抜かれていた。今のヒカリにグレモリーの誘惑に耐える力はないのだ。
 グレモリーはボンデージスーツを脱ぎ捨てヒカリに迫る。逃れることは叶わない。上体を押しつけるようにヒカリの下腹部にもたれかかってきた。
 白銀色の長い髪がまぶしい。サキュバスの体臭がヒカリの鼻腔に侵入し、ハルトのものだったペニスを勃起させた。反りかえった男性器に唾液をまぶされ、巨大な乳房に挟まれた。少年のものはたちまち乳に埋もれてしまった。
「や、やめてっ、おっぱいでおちんちんゴシゴシしないでえっ」
 凄まじい乳圧に、ヒカリは立っていられなくなる。しかし両手が天井から吊り下げられた鎖に縛られ、倒れることは許されない。魔法幼女だった男児は女悪魔の乳房に喘がされ、たちまち理性を奪われた。
「ほらほら、どうしたの? 絶対に負けないなんて言っておいて、このへっぴり腰はなに?」
「い、いやあっ、いやあああっ」
 ヒカリの悲鳴があがり、グレモリーの胸の谷間に新鮮なスペルマが撒き散らされた。
 射精を終えても若い陰茎はいっこうに萎えない。初潮さえ迎えていない乙女の自分が青臭い白濁液を放ったことに、ヒカリは恐怖した。
「こんなのいやあ……私、女の子なのに……!」
「違うわ。今のアンタは男よ。今のアタシたちは男と女……ふふっ、好きよ。愛しているわ、ヒカリ」
 グレモリーが再度キスをして、ヒカリの口の中をなめ回した。ヒカリの頬が熱くなり、抑えきれない肉欲が湧き上がる。
「そんなの嘘。憎たらしくて八つ裂きにしてやりたいって言ってたくせに……」
「好きだから憎いのよ。そして憎いから愛するの。さあ愛しあいましょうブリリアキュート。アンタの欲望、アタシが全部受け止めてあげる」
 グレモリーが手を振ると鎖の束縛が解かれ、ヒカリは冷たい石の床に倒れた。仰向けになったヒカリの上にグレモリーがのしかかる。サキュバスが少年を誘惑し男女の結合を迫っていた。
「それじゃブリリアキュートの童貞、いただくわね」
「ま、待って。それだけは……!」
 幼いヒカリに性的な知識は皆無に近い。だがこの行為が許されないことはわかっていた。
 だが抵抗も懇願も無意味だった。生い茂った陰毛の下で、グレモリーのヴァギナがヒカリのペニスを飲み込んでいく。女の穴に男の棒を挿入する……女はグレモリーで男はヒカリだった。
「ああ……入っちゃう。私のおちんちんが、グレモリーに……!」
 敏感な先端がうるんだ秘肉に包まれる感触に、ヒカリはうっとりした声を発した。無数の肉びらがうねるサキュバスの膣内は、嬉しそうに少年のものをくわえ込んではなさない。
 二人はかたく結合していた。人々を襲い支配するため、あるいは人々を守るために幾度となく刃を交えた好敵手の二人が、今は男と女として合体していた。
「す、すごいっ。おちんちんが温かいのに包まれて……あっ、ああっ。ハルトくん、ごめん……!」
 濡れそぼった膣肉にねっとりと絡みつかれ、ヒカリはめまいがしそうになる。
 頭の片隅でハルトのことを想うも、交わる相手はハルトではなくグレモリーだ。魔界の女幹部の赤い瞳が、ヒカリを見つめて妖しい輝きを放つ。
 既に二度サキュバスに射精させられ、ヒカリの嫌悪感は薄れていた。淫魔の膣内は多くの触手が絡みついてくるようだ。ヒカリは男に抱かれることもなしに、男としての性経験ばかり重ねていく。
 グレモリーはヒカリの欲望を煽るように、腰を緩やかに上下させた。引き抜かれるペニスに肉びらが食いつき、離れようというところで再び腰を落とす。淫らがましい腰づかいだ。
「はあっ、はあっ、動かないでグレモリー。おちんちんが……私のおちんちんが、うあああっ」
 ヒカリはあられもない声をあげて悶えた。人類の守護者としての矜持も、幼い少女としての慎ましさももはやない。童貞を失ったばかりのヒカリはグレモリーに翻弄されるばかりだ。
 サキュバスのテクニックは抜群だった。ヒカリの男根を膣肉で絡めとりつつ、つんと尖った乳首を長い爪で引っかく。
「いい顔よブリリアキュート。ふふっ、たっぷり気持ちよくなりなさい。アタシのしもべになったら、もっともっと気持ちよくしてあげる」
「だ、誰がそんなこと……あっ、ああっ、出るっ。また出ちゃうううっ」
 ヒカリの声が裏返り、少年の肉茎が熱いマグマを噴き出した。ハルトの遺伝子を含んだ白濁がグレモリーの体内に一滴残さず飲み込まれる。下腹から熱の波紋が広がり、ヒカリの四肢の先まで痙攣させた。
「んふっ、なかなか新鮮でおいしいわね。でもまだまだ足りないわ。もっともっと、アンタの魂の最後のひと雫までアタシの中に射精してもらわないと」
「そ、そんな……ああっ、もうやめてえっ。動かないでっ」
 悩ましげに体をくねらせるグレモリーに、ヒカリは情けなくも許しを乞う。むろん許されるはずもない。魔界の秘密結社レギオンに逆らいつづけたヒカリは、命が尽きるまで淫魔に吸いつくされるに違いない。
 ほんのわずかに萎えたペニスが、貪欲なサキュバスの媚肉に無理やり勃起させられた。恐怖に涙するヒカリの口にグレモリーの爆乳が押しつけられる。大きな乳輪が下品で淫猥だ。
 ピュッ、ピュッと音をたて、グレモリーの乳首から透明な液体が漏れ出した。母乳だ。虚を突かれたヒカリはサキュバスのエキスを飲み込んでしまう。腹の奥がじんと熱くなった。
「うぐっ、なにこれ? なんだか体が変……」
「もっと飲みなさい。アタシのエキスと魔法でアンタの体を眷属のものにつくり変えてあげるわ」
「ケンゾク……?」
「そうよ。これからアンタは人間じゃなくなって、アタシの娘……いや息子になるの。猿みたいな人間から優れた生物へと進化できるのよ。嬉しいでしょ」
「そんなのいやっ。い、いやなのに……ああっ、また出るっ。射精止まらないようっ」
 たとえ鋼の意思を持っていても、既に体が言うことを聞かなかった。ハルトのものだった少年の体はサキュバスのエキスを注がれ、少しずつ肌が浅黒く染まっていく。ヒカリは聖なるヒロインから邪悪な悪魔へと変わりつつあった。
「ほらほら、どんどん体が変わっていくわ。もう元には戻れない。アンタはアタシと同じ悪魔になって、欲望のままに生きるのよ」
「いやあああ……私、化け物にされちゃうよう。これはハルトくんの体なのに。おっ、おおっ、また出るっ。私が私じゃなくなっちゃうっ。ハルトくん助けてえっ」
 幾多の怪人どもを撃破してきたブリリアキュートは、もう蜘蛛の巣に囚われた蝶でしかない。既にヒカリの目は焦点が合わず、うわごとをぶつぶつとつぶやくだけだ。精の雫を次から次へとグレモリーに吐き出し、代わりにグレモリーの母乳を消化、吸収していく。
 ヒカリの嫌悪が安堵に変わり、まるで母親の腕の中で眠るような安らぎに包まれる。ヒカリの新しい母は青い肌と赤い瞳、黒い角と尾と翼を生やした美人だ。心ゆくまで母の乳を味わい、心の奥まで魅了されたヒカリの魂はとうとうグレモリーを受け入れた。
「好き、好き。あなたが好きなの。えへへ、大好き……」
 ヒカリは自らグレモリーのむっちりした脚を持ち上げ、力いっぱい腰を打ちつけた。愛と欲情の区別がつかなくなったヒカリは、すっかりハルトのことを忘れて魔界の女幹部に求愛する。
 サキュバスの陰部に飲み込まれたペニスは体積が数倍に膨張し、グレモリーを大いに喜ばせた。その肌はグレモリーと見分けがつかないほどに青ざめ、ボブカットの黒髪の中から黒い角が伸びていく。コウモリを思わせる禍々しい背の翼が広がった。
「アタシも大好きよ。愛してるわヒカリ。んんっ、アンタのチンポ……とっても硬くて素敵よ。ああん、もっと、もっと味わわせてっ」
「グレモリー、ううん、お母さん……私、もっとお母さんとセックスしたい。お母さんとミルクの飲ませあいっこしたいようっ」
 ヒカリはもうヒトではない。その姿は青い肌と赤い瞳、黒い尾と翼の悪魔へと変わり果てていた。無辜の人々を守ってきた幼い娘は魔法少女をやめ、女でなくなり、そして今、人間であることを否定したのだ。
 悪魔と化したヒカリの目に映るのは、生みの親であるグレモリーだけ。大好きな母親の膣内を硬い肉棒でほじくり返し、ヒカリはご満悦だった。
「お母さん、大好き! お母さん、お母さん、お母さん──!」

 ◇ ◇ ◇ 

「──お母さんっ!?」
 ハルトは叫び、ベッドから転がり落ちた。
 頭を押さえて辺りを見回す。見覚えのある部屋だ。
 薄いピンク色の壁紙、棚の上に整然と並べられたぬいぐるみ、幼い少女とやや年上の少年、そして両親らしき二人が笑っている写真……意識がはっきりしてくると、自分がヒカリの部屋にいることがわかった。
「ここは……どうしてオレ、ヒカリのベッドで寝てるんだ?」
 ここはヒカリの部屋だが、今のハルトはヒカリではない。
 今までの出来事は夢だったのだろうか。確かにハルトはヒカリになって、魔界で身の毛もよだつ拷問を受けていたはず……。
「大丈夫かい、ハルト君?」
 視線をあげると、ヒカリの兄のコウタが壁にもたれているのが見えた。彼も居眠りしていたのか、顔に疲労の色がうかがえた。
「コウタさん……オレ、眠ってたんですか?」
「そうだよ。この小瓶の中身を熱心にのぞき込んだあと、いきなり気を失って……しょうがないからヒカリのベッドに運んだんだ」
 見下ろすと、ハルトはブリリアキュートの可憐な衣装を着ていた。自分の体から漂う少女の汗の匂いがハルトを上気させた。
「それで、どうだったんだい? ブリリアキュートの力で魔界に行く方法、わかりそうかな」
「オレ、夢を見たんです。夢の中でオレはヒカリになって、魔界の城に捕まっていました。そしたらグレモリーがやってきて、ヒカリを……ううっ」
 吐き気を催し、あとの言葉が続かない。ヒカリがサキュバスのエキスを注ぎ込まれ悪魔へとつくり変えられる一部始終をハルトは目撃したのだ。グレモリーの唾液の味、むせ返るような女悪魔の体臭、そしてサキュバスの蠢く膣内の感触……とても夢とは思えないリアルな体験だった。
「落ち着いて。ヒカリがどうなったんだ?」
「ヒカリが危ない! このままじゃ、あいつ悪魔に改造されちゃうよ!」
「なんだって……!?」
「魔界へはオレの力で行けると思います。うまく言えないけど、このブリリアキュートの体のおかげでわかるんだ。ひょっとして魔界にいるヒカリの頭とこの体がまだ繋がってるのかも……」
「それはいい。こっちは君が寝てる間に人を呼んで、準備を整えておいたよ。もしも魔界に行くっていうなら、今すぐにでも出発できる。できたら僕も連れていってほしいところだけど……どうだい?」
 ハルトはかぶりを振った。「ごめんなさい。多分あっちに行けるのはオレ一人だけだと思います。普通の人間が魔界に行くのは難しいみたいで……」
「そうか、わかった。なら、せめて君の準備を手伝わせてほしい。一人で敵の本拠地に行くわけだから、支度を完全に整えて臨まないとね」
「支度?」
 首をかしげるハルトに、コウタは部屋を出て雑貨を何点か持ってきた。まずハルトに勧めたのは、きわどいデザインのセクシーな黒ショーツだ。
「急いで今穿いているパンツを脱いで、これに穿き替えてほしい。ブラジャーとセットになっていて、魔法少女の魔力をより引き出す効果がある」
「はあっ!? な、なんだよこれは!?」
「うちの機関がヒカリのためにこしらえた特別製の装備だよ。少し恥ずかしいかもしれないが、効き目は保証する。君とヒカリの命を守るために絶対に穿いてほしい」
「そ、そんな……オレこんなのつけられません! それに、この胸はぺったんこでブラジャーなんて必要ないじゃないですか!」
 ハルトは膨らみかけの己の乳房をワンピースの上から撫で回した。だがコウタは退かなかった。
「大丈夫、ちゃんとブラの中に入れる胸パッドも用意してる。これもブリリアキュート専用の魔法のパッドだ。幼さの残る顔に不釣り合いなロリ巨乳の魅力が、魔法少女の力を最大限に引き出すんだ」
「ウ、ウソだあっ!」
「わがまま言うんじゃないっ! 今ヒカリがどれほど辛い目に遭ってるか、君は見たんだろう!? あの子は君を助けるために辛い目に遭ってるんだぞ!? 僕のイモウトを苦しめてただで済むと思うなよ!」
「そんなあ……この変態っ!」
 ハルトは泣いて嫌がったが、コウタの怒りの形相にしぶしぶ着替えを了承させられた。コウタの前で魔法少女のコスチュームとショーツを脱ぎ、黒いセクシーランジェリーを身に着ける。香水が染み込んだ大人の下着に頭がくらくらした。
 股間がじゅんと湿り、ハルトの心臓が早鐘を打つ。ヒカリの夢を見ていたときの心の高ぶりは体に反映されていた。つるつるの秘所はとろりとした蜜を垂らし、忘れていた月経の赤い痕跡が混じる。
「ヤバい。血が垂れてきちゃった……せっかくもらったパンツが汚れちゃう」
「そんなときはこれだね。多い日も安心、魔法少女専用タンポン! これをアソコに入れて戦えば、魔力はなんと五割増し──」
「なんでそんなもんがあるんだよっ!?」
 ハルトは無理やりベッドに寝かされ、脚を広げさせられた。「痛くないように、入れる前に舐めるから」と正気を疑う発言があり、疼く秘所にコウタの舌が這い回る。
 もはやハルトはどうしていいかわからず、半泣きになって目を閉じていた。ヒカリの兄はぴちゃぴちゃと品のない音をたててハルトのヴァギナを舐め回し、初潮を迎えたばかりの義妹を喘がせた。目を閉じたため見えなかったが、少年が何かを嚥下する気配がした。
 そこでようやく挿入だ。いまだ男を知らない小さな陰唇を義兄の指がぐいっと開き、紐のついた綿の塊を差し込んだ。敏感な場所に異物が侵入してくる感覚にハルトはつい声を漏らした。おそるおそる目を開くと、コウタのズボンの布地が大きなテントを張っていた。
(ヒカリの兄ちゃん、勃起してる。オレ、ひょっとしてこのまま犯されちゃうんじゃ……?)
 ハルトは耳まで真っ赤になった。自分とコウタは男同士……だが今は血の繋がらない男と女だ。コウタの勃起はハルトのものより明らかに大きい。
 もしもコウタが暴走して襲いかかってきたら。線の細い年上の美少年は知的なイメージに反して暴力的にハルトを組み伏せ、泣き叫ぶハルトをたくましいペニスで征服するのだ。じんじん疼く膣内にコウタの硬いものが侵入してくるイメージを思い浮かべ、ハルトは秘所から蜜を垂れ流した。
 埒もない。これでは変態ではないか……少年だった魔法少女は心の中で自分自身を罵った。
 幸いにもコウタは最後まで理性を保ってくれた。魔法のタンポンがハルトの膣内に固定されたことを確認すると、ハルトの手を引いて立たせてくれた。
「よし、これで終わりだ。それじゃ庭に出よう。みんな集まってるからね」
「え、みんな?」
 きょとんとするハルトを、コウタは庭に連れ出した。広い庭には大きなカメラや用途不明の機器がずらりと並び、作業服を着た多くの人々が忙しなく動き回っていた。ヒカリを救出するために呼び集められたコウタの機関のメンバーだという。
「あなたがハルトくんね?」
 真っ先にハルトに近づいてきたのは眼鏡をかけた知的な女性で、ヒカリの母だと名乗った。「ヒカリが魔界に連れ去られて、本当に心配なの。無関係なあなたにこんなことを頼むのは申し訳ないんだけど……どうかヒカリを助けてやってくれないかしら」
「もちろん! オレ、ちゃんとヒカリを連れて帰ってきます。あいつはオレを守ってくれたから……今度はオレがあいつを守らなきゃ!」
 力強くうなずくハルトを、ヒカリの母は涙ながらに抱きしめた。「ありがとう、ハルト君……ああ、やっぱりヒカリの体なのね。この抱き心地、ヒカリそっくりだわ」
 強く抱きしめられると、豊満な体つきがスーツ越しによくわかる。魔法少女の格好をしたハルトは弾力ある乳房を顔に押しつけられて赤面した。
 ヒカリの母と抱き合っていると、見知った顔が次々にやってきた。ハルトの父親、クラス担任の五郎、優しい保健の女教諭、そして仲のいいクラスメイトたち……全員が事情を知っており、これから魔界に向かうハルトに激励の言葉をかけてくれた。
「みんな、ありがとう……。オレ、ヒカリを取り戻しに行ってくるよ!」
「その意気だ! 絶対負けるなブリリアキュート!」
「ブリリアキュートはヒカリだよ。オレがそう呼ばれるのは違和感あるなあ……」
「それなら、ブリリアハルトっていうのはどう? 魔法少女ブリリアハルト。可愛くて格好いい名前だと思うわ」
 提案したのはヒカリの母親だ。
 この瞬間、ハルトの新しい名前が決定した。
「魔法少女ブリリアハルト……なんか恥ずかしいな。ヒカリを取り返して体が元に戻ったらオレは魔法少女じゃなくなるってのに、わざわざ名前なんてつけなくても……」
「とってもいい名前じゃないか。君は普通の男の子に戻るために戦う魔法少女だ、ブリリアハルト。おっと、そういえば……」
 コウタはハルトの頭を優しく撫で、髪に真っ赤なヘアクリップをつけてくれた。「これを返すのを忘れていたよ」
 それはハルトがヒカリに贈った誕生日プレゼントで、ブリリアキュートが魔界にさらわれた際に落としていったものだ。
「これは……どうしてこの髪飾りをコウタさんが?」
「アイコラPの残骸と一緒に回収したんだ。少しだけ中をいじって、超小型の通信機を取りつけてある。君が魔界でピンチになったときはこれで助言できるかもしれない」
「通信機……魔界まで繋がるんですか?」
「いや、正直わからない」
 コウタはあっけらかんと答えた。「通信できたらいいけど、きちんと動作する保証はどこにもない。基本的に魔界に着いたら君は誰の助けもなく、独りでレギオンのやつらと戦わなくちゃならないと思ってくれ。でも、ここにいるみんなが君とヒカリのことを想ってるってことも、決して忘れないで」
「はい、ありがとうございます! じゃあオレ行ってきます!」
 大勢の人々に見守られ、ブリリアハルトは庭の中心に立った。小瓶に入った魔獣の魂を握りしめ、ヒカリのことを強く想う。
 ブリリアハルトの足元に白い魔法陣が光り輝き、辺りがどよめきに包まれた。魔界への通路を観測するといって、コウタやヒカリの母は機器を操作する作業に没頭していた。
「ヒカリ、待ってろよ! 今から助けに行くからな……スターライト・ロード!」
 ハルトの頭上に魔界への扉が開き、光のトンネルが形成された。それは囚われのヒカリを助けるためのブリリアント・ロードだ。輝く明日を取り戻すために魔法少女ブリリアハルトは白い翼で飛び立った。

 ◇ ◇ ◇ 

 光のトンネルの中を進んだ時間は定かでない。十数秒だったかもしれないし、数分だったかもしれない。空気抵抗も重力もなく、方向と時間の感覚を喪失する不可思議な体験だった。
 やがてハルトの体は重さを取り戻し、硬い地面に着地した。
 見上げると光の通路は消え去り、暗黒の雷雲が視界を覆っていた。決して太陽の見えない暗い空に時おり稲光がはしる。
 この不気味な空が魔界の空なのだろう。生まれたときからこんな不吉な空を見ていたら、明るい日光が差し込む地上を悪魔どもが奪いたくなるのも仕方のないことかもしれないとハルトは思った。
「コウタさん、オレです。聞こえますか? コウタさん……ダメか」
 通信機能のついたヘアクリップを外して耳元に持っていったが、コウタの声は返ってこない。やはり通信は困難だろうと思われた。誰一人味方のいない敵の本拠地で、これからハルトは独りでヒカリを救出しなくてはならない。
 周囲に見えるのは先が鋭角になった無数の岩山、鬱蒼とした森、そして……山の上にそびえ立つ黒い城塞だ。
 それがレギオンの本拠地だとハルトは確信した。きっとあそこにヒカリが囚われているに違いない。
 ハルトが夢の中で見たヒカリはグレモリーに凌辱され、レギオンの手先へと改造されつつあった。もしもあれが事実なら、ヒカリは身も心も悪魔になって二度と人間には戻れなくなってしまうかもしれない。
 一刻も早くヒカリを救出しなくては……焦りと怒りに突き動かされ、ハルトは再び空へと舞い上がった。
「オレは魔法少女ブリリアハルト! レギオンめ、オレのヒカリを返せっ!」
 ハルトは馬鹿正直に正面から城に突っ込んだ。策も駆け引きもあったものではない。盛大に城門を破壊し、光の矢を雨のように降らせてレギオンの兵士どもを片っ端からなぎ倒した。勘を頼りに通路を走り、階段をのぼり、不気味な城内を奥へ奥へと進んでいった。
 コウタが用意してくれた多様なサポートアイテムのおかげで、いつにも増して力を感じた。どんな敵が出てきても打ち負かせる自信が今のハルトにはあった。
 広間でブリリアハルトを待っていたのは、グレモリーと同じ青い肌の優男だ。背後に身の丈三メートル……山ほどの大きさを誇る巨人を従えていた。
「お初にお目にかかる、魔法少女ブリリアキュート。オレは魔界の秘密結社レギオンのナンバー2、偉大なるバルバトス。まさか魔界にまでやってくるとは驚いたが、ここが貴様の墓場となる! いくぞ、ヒヨリヤマ・ゴーレム──」
「うるさい邪魔だっ! ブリリアント・サジタリウス!」
 ブリリアハルトの放った巨大な光の矢に貫かれ、優男は一瞬で消し炭と化した。
 続いて赤い絨毯が敷かれた階段の先、大きな扉を抜けると玉座らしき立派な椅子があった。その玉座に座すは、全身を黄金の鎧で固めた堂々たる偉丈夫の老人だ。
「ついに来たか、このわし自らが立ち上がるときが……。よくぞここまでたどり着いた、魔法少女ブリリアキュート。わしはレギオンの総統バエル。これ以上刃向かうならお前に教えてやろう、このワシの力──」
「話の途中に最強魔法! ブリリアント・アポカリプス!」
 膨大なエネルギーの濁流に飲み込まれ、バエル総統は玉座ごと塵となって消滅した。壁に巨大な穴が開き、遠くの山が吹き飛んでクレーターと化す。
 魔界の秘密結社レギオンは瞬く間にトップとナンバー2、多数の戦闘員を失い総崩れになった。しかし肝心のヒカリが見つからない。
「ヒカリ、ヒカリはどこだ!? オレだ、ハルトだ! 返事をしてくれヒカリ!」
 ハルトは必死で声を張り上げた。広い城内を当てもなく捜しまわるのは骨が折れる。ヒカリの忌まわしい凌辱の場面を思い起こした。
(夢の中でヒカリが捕まってたのはどこの部屋だったんだ? そういえば……グレモリーがヒカリに何か言ってたような)
「この部屋は高い塔の上で、見晴らしは抜群ね」
 あの夢が現実のものだとすれば、その言葉の示す場所にヒカリが監禁されているかもしれない。
「高い塔の上……行ってみよう! スターライト・ウイング!」
 ハルトは白い翼を広げてレギオンの本部内を疾走した。何度か敵の幹部らしい怪人と遭遇したが、いずれも強化されたブリリアハルトの敵ではなかった。
 目当ての塔は城の奥にあった。石造りの螺旋階段を飛んでのぼると、てっぺんで一体の悪魔がハルトを待っていた。
「来てくれたんだ、ハルトくん。嬉しいな」
「ヒカリ……!?」
 グレモリーと同じ青い肌と赤い瞳、そしてコウモリに似た漆黒の翼を生やした淫魔の少年だ。黒いボンデージスーツに身を包み、丸い穴の開いた股間から巨大なペニスが伸びる。銀色のボブカットの髪から角を生やした好色な少年の顔は、ハルトが捜していた美少女のものだった。
「ハルトくん、やっぱり魔法少女になったんだね。アハハ、かわいくていやらしい格好だなあ。チンポがビンビンになっちゃうよ」
 青肌の悪魔少年になったヒカリが舌なめずりをした。手に持った黒い鞭を威嚇するように振り回して音を立てる。どう見ても友好的な態度ではない。
「ヒカリ、その格好……ホントにお前なのか!?」
「ハルトくん、私はお母さんにインキュバスにしてもらったの。エッチが大好きな男の子の悪魔だよ。こんな立派なチンポを持ってる私を、グレモリーお母さんはたくさん褒めてくれるの。さっきもお母さんといっぱいセックスして、お母さんのアソコにたっぷり注いであげたんだよ……とっても気持ちよかったなあ」
「もうやめろ、ヒカリ! オレはお前を助けに来たんだ。この体は……この魔法少女の体はお前のものだ。オレがこの体をお前を返して、お前を人間に、元のような魔法少女に戻してやる! だからオレと一緒に帰ろう、ヒカリ!」
「それは無理ね、女装趣味のオスガキちゃん。それともメスガキちゃんかしら?」
 突然、ヒカリの背後に女が出現した。ヒカリと同じボンデージスーツに身を包んだ長身の女……レギオンの大幹部グレモリーが馴れ馴れしくヒカリの肩を抱いていた。
「バエル総統を倒してくれたそうで、礼を言わなきゃいけないわね。あの爺さん、偉そうにふんぞり返ってばかりで役に立たなかったのよねえ。レギオンの……魔界の新しい総統はこのアタシ、グレモリー様よ」
「オレはお前を倒しに来たんだ、グレモリー! ヒカリを返せ!」
「イヤに決まってるでしょ。せっかく改造してアタシの可愛い息子にしてやったのよ。この子はもう人間に戻れない……強くて可愛いインキュバスとして、永遠にアタシが飼い慣らしてやるわ」
「嬉しい、お母さん。私ずっとお母さんと一緒にいるから。だからこの子を倒したあと、またお母さんにチンポハメてもいい?」
「もちろんいいわよ。ふふっ、アタシの可愛いインキュバスヒカリ……さあ、アタシのためにこの生意気なメスガキを叩きのめすのよ」
「やめろヒカリ! そいつから離れろおっ!」
 目の前で情熱的なキスを始めたグレモリーとヒカリに、ハルトは気が狂ってしまいそうだ。もはや洗脳は完了し、ヒカリは肉体も魂も悪魔に囚われていた。
「消え失せろグレモリー! ブリリアント・サジタリウス──!?」
 全長数メートルの巨大な光の矢を放とうとして、魔法少女ブリリアハルトは動きを止めた。
 悪魔少年インキュバスヒカリが両手を広げ、グレモリーをかばうように仁王立ちしていた。このまま攻撃を放てばヒカリの命はない。ハルトは全身から湧き上がる聖なる力を無理やり抑え込んだ。
「あらあら、どうしたの? バルバトスもバエルもあっさり片付けた最強の戦士が、アタシの息子に手も足も出ないわけ?」
「卑怯者! ヒカリ、グレモリーの味方なんかするな! スターライト・アロー!」
 光の矢をグレモリーに投げつけた。だがヒカリは躊躇いなく身を投げ出してブリリアハルトの攻撃魔法に射抜かれた。黒い血と共に悲鳴があがった。今のヒカリは敵の盾……ハルトがグレモリーを攻撃することは不可能だ。
 一方、相手は自由にハルトを攻撃できる。グレモリーとヒカリ、二本の鞭が魔法少女ブリリアハルトを打ち据えた。魔法少女の衣装が切り裂かれ、ハルトは床に転がった。
「ちくしょう、卑怯者め……ヒカリをはなせよ、グレモリー」
「イヤに決まってるでしょ。アンタはここでアタシの息子に敗北するの。さあヒカリ、好きなようにやっちゃいなさい」
 二本の鞭でハルトは手足を縛られた。たとえ自由を奪われても神聖魔法は使えるが、それはヒカリを傷つけることにほかならない。最愛の相手を人質にとられたハルトに勝ち目はなく、かつてのヒカリと同じ虜囚になるしかなかった。
「ちくしょう、ちくしょう。ヒカリ、目を覚ましてくれよ。オレはお前を助けに来たんだぞ。お前はみんなを守る魔法少女じゃないのかよ」
 ハルトの声は届かない。ヒカリは抵抗できなくなったハルトのコスチュームを長い爪で引き裂いた。黒いセクシーランジェリーがあらわになった。
「ずいぶんエッチな下着を穿いてるんだね、ハルトくん。パッドつけてブラジャーまでしちゃってさ。そんなに私の体を気に入ってくれるなんて思わなかったな。私、もう女の子には戻りたくないけど、ハルトくんも男の子には戻りたくないよね?」
「ち、違う。オレはこの体をお前に返そうと……あっ、ああっ、やめろっ」
 ヒカリの唇がハルトの繊細な肌を這い回っていた。淫魔の唾液を塗りたくられ、魔法少女の白い体は桃色に染まる。
 これから何をされるかは明白だった。ぶざまに敗北した魔法少女は淫魔どもに凌辱されつくしたのち処刑されるのだ。ヒカリを救出するため命がけで戦ってきた末路がこれだ。ハルトは悔しさのあまり情けなく号泣した。
「うわああん。ちくしょう、ちくしょう……ヒカリ、元に戻ってくれよう。うわあああん……」
「アハハハハ……ハルトくんったら、生理用品なんて使ってるんだ。男の子だったのに生理がきちゃったんだね。ふふっ、私の体だったのに、ハルトくんが私の代わりに初めてを経験しちゃったんだね」
「やだあ、見ないで……触らないでくれえ」
 ハルトの懇願を無視して、ヒカリは魔法少女をひん剥いていく。黒いブラジャーとショーツ、そして膣内からタンポンが抜き取られた。魔法少女の力を強化してくれた特別製の装備をすべて失い、文字通り今のハルトは丸裸だ。
 ヒカリのペニスが突きつけられた。興奮しているせいか、先ほどよりもなお威容を誇る。
 もとはハルトのもので年齢相応の小ぶりなサイズだったはずだが、グレモリーに改造された少年の肉体は人間の常識を超越していた。幼児の腕ほどもある巨大な青い男根に、ハルトは絶句するしかない。
「な、なんだよこの大きさ……ありえねえよ」
「えへへ、すごいでしょハルトくん。ハルトくんからもらったチンポ、ここまで大きくなったんだよ。ホントはグレモリーお母さん専用のチンポなんだけど、今からこれをハルトくんにもハメてあげる。一緒に気持ちよくなろうね」
「い、いやだっ。冗談じゃねえ。こんなの体が裂けちまう……!」
 ハルトは逃れようと暴れたが、ヒカリとグレモリーの二人がかりで拘束された。ヒカリを傷つけてはならない制約のもとハルトが逃れることは不可能だ。
「それじゃあいくよ。ハルトくんの初めて、私がもらっちゃうからね。お母さんの次に大好きなハルトくんとセックスするなんて、もう最高だよ」
「やめろヒカリ。この体はお前のものなんだぞ……?」
「そうだよね。私の体だったんだから、私がエッチなことしても別に構わないよね? いくよ……」
 ヒカリは既に身も心も淫魔と化していた。冷たい石の床にブリリアハルトを押し倒し、さらけ出された秘所に狙いを定める。ぴったりとかたく閉じた幼い陰唇に紫色の亀頭が押しつけられ、ハルトは恐怖に青ざめた。
「待ってくれヒカリ。オレは……うっ、うぐっ、い、痛い……!」
 焼けるような痛みが股間にはしり、ハルトは泣きわめいた。ヒカリが味わうはずだった破瓜の苦痛……その苦痛に泣いているのはハルトだった。未成熟の女性器を無惨に引き裂かれ、魔法少女ブリリアハルトは女になった。
 処女の膣内を埋め尽くす肉棒はもともとハルトのものだったが、グレモリーのエキスによって悪魔化したそれは以前の数倍の大きさと凶悪さを兼ね備えていた。見事に反りかえった大人顔負けの勃起に、ハルトの体内が無理やり押し広げられていた。
「んんっ、ハルトくんの中すごくきつい。お母さんのアソコとは全然違うね。グレモリーお母さんのアソコは大きくなった私のチンポを優しく包み込んでくれるんだよ。私、すぐに我慢できなくなって射精しちゃうの」
 うっとりした様子のヒカリに、ハルトは返事すらできない。身を引き裂く激痛に歯を食いしばって耐えていた。叫びだしたくなる衝動をこらえて、深呼吸して理性を保つ。魔法少女の顔じゅうが脂汗でべとべとだ。
 竿を半分も入れていないのに、一番奥へと到達する。ハルトの小さな子宮がヒカリのペニスに押し潰されていた。
「それじゃあ動くね。ハルトくんもたくさん気持ちよくなってね」
「待って。オレまだ……おぐっ!」
 ヒカリは腰を引き、抜けかけた巨根を再度突き込んだ。今度こそハルトは悲鳴をあげた。治りかけの傷をナイフでえぐられているかのようだ。えらの張った亀頭が媚肉に引っかかってハルトは咳き込む。
 ヒカリの動作に気づかいは一切なかった。ハルトの細い脚を持ち上げ、血の滴る陰部に乱暴に腰を叩きつけた。いまだ陰毛の生えない無垢な秘所が破瓜の血と経血で真っ赤に染まり、ハルトは気が遠くなる。
「ひいいっ、痛い、痛いよう……ヒカリ、やめてえ……」
「アハハハハ……ハルトくん、ホントにかわいい。ますます好きになっちゃうよ。私のチンポでかわいくなっちゃうオンナノコのハルトくん、大好き」
 ヒカリは子供っぽい残酷さをあらわにして、心身両面からハルトを苛んだ。何度か膣内を往復してハルトを苦しめたかと思えば、今度は巧みな腰づかいによって不慣れな少女をざわめかせる。
 涙にぼやけた視界の中心に結合部があった。インキュバスの青い槍が魔法少女の白い処女地を耕していた。ブリリアハルトの、そしてブリリアキュートの純潔が永遠に失われたことがはっきりわかる。奪ったのはヒカリ本人だ。
(オレ、チンポハメられちゃってる。チンポハメられて痛いけど……ううっ、ちくしょう。なんか、ただ痛いだけじゃなくなってきた)
 結合に慣れてくると少しずつ痛みが薄れていった。体の芯を穿たれる痺れが蜜の分泌を促し、肉と肉をよりスムーズに滑らせた。
 ハルトは自然と腰を浮かせ、緩やかに体の重心を上下させヒカリの突き込みを受け止めた。二人の息が同調し、ぎこちないハルトの動きが艶めかしく変化する。やっと初潮を迎えたばかりの幼い女体でも、男の喜ばせ方を本能で心得ていた。
「あっ、ああっ、ヒカリ……オレ、頭がおかしくなりそうだ。アソコがじんじんして……」
「気持ちよくなってきたんだね、ハルトくん。私もとっても気持ちいいよ。まだ狭いけど、もっと奥まで入れてみようか」
「待ってくれ。もうこれ以上は……ああっ」
 ブリリアハルトの足首がつかまれ、きゃしゃな体をぐぐっと折り曲げられた。爪先が床に着きそうだ。柔軟な女体に立派な男根が深々と突き刺さる。自分のものだった肉の槍に奥の奥まで貫かれ、ハルトの呼吸が停止した。
「うおおっ、奥まで……うんっ、んううっ、んぶううっ」
 酸素を求めてぱくぱくさせた口が、柔らかな感触に包まれる。ヒカリがハルトに接吻していた。
 生温かい舌がハルトの口内をまさぐった。男子と女児の唾液が混ぜ合わされ、ハルトの喉を通過していく。腹の底がじんと疼いた。
 悪魔少年インキュバスヒカリの顔が鼻先数センチの距離にあった。今までハルトが見てきたどの女子よりも整った目鼻立ち、すらりと伸びた睫毛、小さく可愛らしい唇……かつてハルトが心奪われた美貌が人間離れした青い色に染まり、妖しい笑みを浮かべていた。
(ヒカリ、オレはお前が好きだ……)
 少年だったハルトの恋心が、魔法少女の体を火照らせた。幼い乙女の肉壺はより多くの蜜を分泌し、最愛の男を受け入れて歓喜する。
 血ではない体液に濡れたペニスが抜き差しを繰り返し、ハルトに女の自覚を教え込んだ。誰よりも慕う相手との性交が嫌なはずもない。ハルトはヒカリに犯され、より高みへとのぼりつめていく。
「ヒカリ、オレもうダメだよ。ああっ、うああっ」
「イキそうなんだ。私も一回出すね、ハルトくん。私の射精受け止めて!」
「射精!? ダ、ダメだそんなの。オレの中に精子なんて……おおっ、うおおおっ」
「出すよハルトくん。ううっ、出るっ、出るよ。ハルトくん好きっ」
 己の内部で熱の塊が爆発するのをハルトは感じた。灼熱のマグマが凄まじい勢いでハルトの子宮口に叩きつけられる。自分が女として種付けされていることに、魔法少女ブリリアハルトは戦慄した。
「んあああ……ヒカリがオレの中で出してるよう。オレ、オレの精子出されてる……うっ、うああっ」
「ハルトくん気持ちよさそう。私もすごく気持ちいいよ。やっぱり私とハルトくんの体だから相性いいんだね」
 嬉しそうなヒカリは硬いままのペニスで膣内をかき回した。ハルトの体が絶頂に震える。とろみのある白い体液があふれ出し、魔法少女の尻までこぼれ落ちていった。
「やめてくれヒカリ。このままじゃオレ……あんっ、ああんっ」
「まだまだするよ、ハルトくん。私まだ全然収まらないの。インキュバスの精液は女の子の痛みをなくして気持ちよくするの。だからもっと気持ちよくなれるよ」
 ヒカリは肉棒を抜きもしない。硬度を保ったまま腰を揺さぶり、ハルトをいっそうよがらせる。もはやプライドも体面もない。ヒカリが言った通り悪魔少年の体液は膣内に染み込み、苦痛を快楽へと変換していた。
「ダメだ、ヒカリっ。頼むからもうやめて……ああんっ、やだあっ」
 ハルトの体が百八十度回転し、今度はバックから犯される形になった。薄い肉づきの尻をわしづかみにされ、パン、パンと腰を打ちつけられる。
 悪魔の肉柱は鉄棒の硬さで魔法少女を打ちのめした。既に痛みはなくなり、メスとしてオスに征服される喜びがハルトの心を支配する。はるばる魔界にまでやってきた使命も忘れ、ハルトは獣のようなセックスにのめり込んだ。
「ひいっ、ひいっ。チンポすごい。また中に出されてるようっ。おおっ、おおんっ、イクうっ」
 ハルトの視界が白い光に覆われ、幻想の赤い花が咲き乱れた。自分が女としてオルガスムスにたどり着いたことを知る。ヒカリの代わりにハルトが到達した女のエクスタシーだ。
「ハルトくん、大好き。ずっと私と一緒にいてね」
「んああ……ああ、オレ……あはあああ……」
 すっかり気をやった魔法少女の腕がぐいと引っ張られ、ハルトの口に青い爆乳が押しつけられた。
「ミルクの時間よメスガキ。たくさんおっぱい飲ませてやるから、アンタも立派なサキュバスになるのね」
 グレモリーの授乳が始まった。その意図は明らかだ。ヒカリの体がインキュバスに改造された経緯をハルトはよく知っていた。
「んん……んぐ、ううん……」
「ハルトくんもお母さんのミルクを飲んで、私と同じケンゾクになろうね。可愛いサキュバスになったハルトくんが楽しみだなあ」
 半ば気を失っているハルトは促されるままグレモリーの母乳を飲んでしまう。ブラジャーの中にパッドが必要だった小さな乳房が見る間に膨張し、弾力ある巨乳に変貌した。
 夢に見たヒカリの人体改造と同じだった。悪魔の体液を取り込まされた者は悪魔にされてしまうのだ。
「うおおおお……オ、オレ、サキュバスにされちゃう。魔法少女なのに……これはヒカリの体なのに、スケベで下品なサキュバスにされちゃうようっ」
 逃亡も抵抗もできない。ハルトの頭から二本の角が伸び、真っ白な肌が青黒く染まり、黒い翼と尾が生えた。
 気がつくと、ハルトは高さ二メートルを超える大きな姿見の前に立たされていた。そこに映っているのは短い銀髪のサキュバスの少女……それが現在のハルトの姿だ。
 最も変貌したのは顔だ。サッカー少年だった凛々しい顔は、グレモリーによく似た可憐で強気そうな美少女の容貌に変わり果てていた。顔つきを保ったまま悪魔になったヒカリと異なり、ハルトの面影はまったくない。
 細くきゃしゃだった体はむっちりした肉づきのいい体格へと膨張し、身長百三十センチの小さな背丈に不釣り合いな巨乳が胸元で揺れていた。先端がつんと上向いた形のいいその乳房が自分のものだと、ハルトはどうしても信じられない。
「こ、これがオレ……!? 本当にサキュバスにされちまったのか……!」
 声変わり直前の男子の声が、鈴の鳴るような少女の声につくり変えられていた。
「わあっ、お母さんそっくり! 小さなお母さんみたいだよハルトくん。さすがお母さんの娘で、私の妹だね!」
「こんなのイヤだよ、オレは人間だぞ。オレがグレモリーの娘でヒカリの妹なんて……」
「まだ自覚が足りないようね、メスガキ……いやサキュバスハルト。もうアンタは人間には戻れないわ。アタシの娘としてこの魔界で暮らすしかないの」
 聞き分けのない子供を叱るグレモリー。そのあと彼女はハルトとヒカリの髪を優しく撫でてくれた。
「ヒカリ、この子を可愛がってもっと淫魔に慣れさせてやりなさい。アンタのチンポ奴隷にしていいから、ちゃんとしつけてやるのよ。その間にアタシは城の後始末をしてくるわ。新生レギオンの体制を整えないといけないし、しばらく地上侵攻はおあずけね」
「うん、わかった! 私、ハルトにチンポハメハメしとくね、お母さん」
 ヒカリは再び巨根を取り出し、怯えるハルトを押し倒した。激しく犯され嬌声をあげるサキュバス女子を満足そうに眺め、グレモリーは部屋を出ていった。
「やめろヒカリっ。こんなのダメ。ああっ、あんっ。チンポハメられるの気持ちよすぎて……ああんっ、おかしくなるうっ」
「こら、お兄ちゃんでしょハルト。ちゃんと私のことお兄ちゃんって呼ばないと、チンポハメハメしてやらないよ?」
「ダメえっ、チンポ抜かないで。お願いだから……お願いだからオレにチンポハメハメしてくれ、お兄ちゃんっ」
 ハルトはとうとう陥落した。幼い体に不似合いな巨乳をぶるぶる弾ませ、たくましいペニスを貪った。淫魔になったばかりの悪魔少女サキュバスハルトは、兄のインキュバスヒカリにしつけられて互いの上下関係を叩き込まれた。
「おっ、おおっ、おほおっ、これがサキュバスのセックス……オレもうだめっ。こんな気持ちいいの耐えられないよう。おおっ、おんっ」
「アハハ、またイったのハルト? さっきからメスイキしっぱなし。よっぽど子宮こねこねされるの好きなんだね。ふんっ、ふんっ!」
「おおっ、うおおおっ。またイカされる。ヒカリ頼む、オレのイキ顔見ないでえっ。いやあああっ」
 何度目かの絶頂のあと、ハルトは力尽きて冷たい床に倒れ込んだ。ヒカリがその肩をぐいと引き寄せ、淫魔の兄妹は抱き合った。
「ハルト、サキュバスになってどう? いい気持ち? まだ元に戻りたいって思ってる?」
「とってもいい気分だよ。オレ……このままサキュバスになって人間に戻れなくてもいいかもしれない。でも……」
「でも? まだヒトの心が残ってるのかな」
 ヒカリは冷たい声で言った。人々を守る守護天使とはかけ離れた冷酷な悪魔の声だ。
「でもお兄ちゃん……ううん、ヒカリはずっと悪魔のままでいいの? ヒカリはみんなを守る魔法少女じゃなかったの……?」
「うん、そうだよ。私はみんなを守る魔法少女だった。でも私はずっとひとりぼっちだったの」
「ひとりぼっち……?」
「うん、ひとりぼっち」
 ヒカリは窓の外に目をやった。決して日の差さない魔界の空を二人は見上げた。
「私は普通の人間じゃない。赤ちゃんのときに地上に落ちてきたの。ホントのお父さんもお母さんも覚えてない。私を拾ってくれた人たちは私のホントの家族じゃない……。私はずっとひとりぼっちだった。でも、魔法少女になってからは違った。私がみんなのために頑張って、みんなに応援してもらうのはとっても嬉しかったの」
「ヒカリ……」
「でも結局ダメだった。守るはずの人たちを傷つけちゃって、大好きな子を泣かせてさ。それにグレモリーにも負けちゃった。絶対に負けちゃいけないブリリアキュートが負けちゃったの。みんなを守れない魔法少女はもういらない……。私はまたひとりぼっちになっちゃったんだ」
 ヒカリの目尻からひとすじの雫がしたたり落ちたが、ヒカリはすぐにそれを拭い去って冷酷な悪魔の表情に変わる。
「でも、グレモリーは私のお母さんになってくれたの。とっても嬉しかった……。私はもうひとりじゃない。美人でエッチなグレモリーお母さんと、ずっとこの魔界で暮らすの。それが私の幸せなの!」
「ヒカリ、そんなことを考えてたのか……」
 ハルトは嘆息した。清らかな魔法少女が淫らな悪魔になったのはグレモリーのしわざだが、誘惑される心の隙がヒカリにはあったのだ。孤独な戦士ゆえの心の隙、心の弱さが。
「だからハルトが私と同じ悪魔になってくれて、とっても嬉しい。ねえ、ずっと私とここにいようよ。お母さんと三人で、毎日クタクタになるまでエッチなことして暮らすの。きっと最高に幸せだよ。私はひとりぼっちだから……どうせあっちに帰ってもいいことないよ」
「それは違う! 絶対に違うよヒカリ!」
 突然、ハルトでもヒカリでもない声が聞こえた。二人は驚いて辺りを見回したが誰もいない。
「ヒカリは独りじゃない。いつも言ってるだろ? みんなヒカリのことが大好きだって!」
「お兄ちゃん……?」
 声はヒカリの兄コウタのものだ。ハルトの髪についている赤い花のヘアクリップ……超小型の通信機が声の源だった。
「ヒカリ、あなたはひとりぼっちじゃないわ。私もお父さんもあなたを本当の娘だと思ってる。たとえ血が繋がっていなくてもあなたは私たちの子供なの。お願いヒカリ、帰ってきて……!」
「お母さん……」
「そうだぞヒカリ! たとえお前が魔法少女じゃなくても、クラスのみんなはお前が大好きだ。俺の嫁さんもお前のことを気に入ってる。だからみんなのところに帰ってこい、ヒカリっ!」
「五郎先生……」
 地上で帰りを待つ人々の声がヒカリを動揺させた。ヒカリがかぶっていた冷酷非道な悪魔の仮面にヒビが入り、素直な少女の表情が見え隠れする。
「ハルトくん……私、ひとりぼっちじゃないの?」
「ああ、お前はひとりじゃない。オレもみんなもお前のことが大好きだよ」
「そんなこと言われても今さら遅いよ。私はどうしたらいいの……?」
「そんなの決まってるだろ。この魔界から脱出してオレと一緒に、みんなと一緒に暮らすんだ。さあ来い、オレと一緒に帰るぞヒカリっ!」
 ハルトはヒカリの手をとり立ち上がった。
 足元に白い魔法陣が浮かび上がった。聖なる力が蘇り、ハルトとヒカリの体がまばゆい輝きに包まれる。心の中の悪と弱さが浄化されるのがわかる。
 ハルトとヒカリの肌から黒い血の色が抜けていった。兄妹の白銀色の髪が揃ってまぶしい金色に染まる。ねじくれた角が抜け落ち、黒い翼が白い翼に生え変わった。子供にしては豊満なハルトの肢体を包むのは、新しく生まれたばかりの魔法少女の可憐なコスチュームだ。ヒカリも男の体ながら同じピンク色の衣装を身に着けていた。
「オレは魔法少女ブリリアハルト! 全部終わらせて帰ろう、ヒカリ!」
「私は魔法少年ブリリアキュート! 私、ハルトくんとみんなのところに帰りたい!」
 すると扉が乱暴に開け放たれた。グレモリーが戻ってきたのだ。
「お涙頂戴の三文芝居はそこまでよ! アンタたちはアタシのしもべ! いくら逃げようとしてもムダ! 晴れて魔界の支配者になったアタシが、アンタたちの魂を永遠に喰らいつづけてやる……きゃあああっ!?」
 ハルトとヒカリはグレモリーを押し倒し、子供の頭ほどのサイズがある爆乳に仲良く吸いついた。
「ハッ、血迷った!? 自分からアタシのエキスを飲んでどうすんの!? また体が悪魔に変わるだけよ!」
「そんなことない……オレは魔法少女ブリリアハルト! お前の邪悪なエキスを吸いつくしてやる、グレモリー!」
「私は魔法少年ブリリアキュート! ごめんねお母さん、やっぱり私はみんなと一緒がいいの! だからお願い、お母さんもみんなと同じになって!」
 二人はしっかり手を繋ぎ、体から聖なる輝きを放ちながらグレモリーの母乳を吸いつづける。はじめは余裕の笑みを浮かべていたサキュバスの顔が、次第に苦悶の色を帯びはじめた。
「こ、こらっ。いい加減にやめなさい! もうミルク出ないんだから……ああっ、あっ、やめろおっ! これ以上アタシの命を吸うなあああっ!」
 妖艶なサキュバスは鋭い爪でハルトとヒカリを傷つけたが、二人は意に介さない。一心不乱にミルクを吸いつづけるうちに、見事な長身と艶めかしいボディラインを誇るグレモリーの体が少しずつ縮んでいく。それとは対照的に、ハルトとヒカリの幼い身体が急成長を遂げていった。
 ハルトの手足がぐぐっと伸び、柔らかな女らしい曲線を描いた。先ほど大きくなったばかりの乳房がますます膨れ、魔法少女のコスチュームを内側から押し広げた。大きく丸いヒップが弾み、ハルトの体は大人の女のものになる。
 ヒカリも同様に手足が伸び、こちらは筋肉がついてがっしりした体つきに変わる。たくましい身体は子供のものから少年に、そして男になっていった。
「こ、こんなバカなことが……おっ、おおっ、まだおっぱい出るっ。アタシがアタシじゃなくなっちゃうっ! やめろおおおおっ!」
「これでレギオンは終わりだ、グレモリー! これがオレたちの答え……いくぞヒカリ!」
「そう、私はひとりぼっちじゃない。みんな一緒に仲良くするの! ブリリアント・ツインブラスト!」
 魔法少女たちの体が白い発光体へと変わる。ハルトとヒカリの合体攻撃だ。
 まるで太陽のような輝きが魔界の黒い雷雲を吹き飛ばし、その閃光は魔界の全てを照らし出した。聖なる光はレギオンの城を跡形もなく蒸発させ、この世から永遠に消し去ったのだった。

 ◇ ◇ ◇ 

 王子様みたいだ。

 ふと顔をあげたハルトが抱いた感想だ。
 肩を並べて歩く彼女からは、ヒカリの横顔が間近に見える。
「どうかした、ハルト?」
「いや、なんでもない……」
 照れ隠しにうつむき、手元に目を落とす。後輩からもらった色紙は祝福のメッセージで埋め尽くされていた。
 ハルトは眼球だけを動かし、再びヒカリの顔を盗み見た。身長百七十五センチと背の高いハルトだが、それでもヒカリを見上げなくてはならない。
 先ほどの感想は間違っていなかった。確かに王子様のようだった。
 さっぱり切り揃えられた黒髪は爽やかで、いかにもスポーツマンといった印象を与える。日焼けした首筋にはぶ厚い筋肉がつき、見た目以上にたくましい。県大会で決勝まで勝ち進んだエースストライカーの肉体は鋼のようだ。
 今まで彼女が見てきたどの男子よりも整った目鼻立ち、すらりと伸びた睫毛、優しい笑みをたたえた唇……すれ違った後輩の女子に次々と黄色い声をあげさせる眉目秀麗の少年に、ハルトもすっかり心奪われていた。
 もちろんヒカリは王子様などではない。ただの男子学生だ。だがハルトにとって、そして校内の多くの女生徒にとって、強豪サッカー部の部長としてカリスマ性のあるヒカリは王子様に等しい存在だ。
「さっきからごめんね。女の子たちにキャーキャー騒がれて、あんまりいい気しないでしょ」
「いいよ。それはオレだって同じだし」
 道行く少年たちに声をかけられ、ハルトは笑って手を振り返した。生徒会長を務めた器量よしの才媛の人気は絶大で、スマートフォンのカメラでハルトを撮影する音がやまない。多くの男が自分に欲情して股間にテントを張っているのを見て、ハルトの下腹がじんと疼いた。
「それにしても、とうとう私たちも卒業か。思えばハルトに助けてもらってばかりだったね。ありがとう」
 透き通るような笑顔にどきりとさせられる。赤面してハルトが何も言えずにいると、ヒカリは彼女の肩を抱き寄せ、後頭部で束ねた長い黒髪をのぞき込んできた。
「あ……このクリップ、まだ持ってたんだ」
「ああ。もともとオレがお前にやったものだけどな。久々に見たらなんだかつけたくなっちまって」
 ハルトは自分の頭に手をやり、髪留めのヘアクリップをつまみあげる。それは彼女が子供の頃にヒカリに贈った誕生日プレゼントであり、ヒカリが魔界に囚われたときに皆の声を届けた思い出の品だ。
 赤い花をかたどった安物のヘアクリップを二人で眺めて、ハルトとヒカリは互いの絆を確かめあった。
 校門に着くと、二人を呼ぶ声がした。
「ヒカリ、ハルト君、卒業おめでとう!」
 待っていたのはいかにも人の良さそうな細身の青年。ヒカリの兄コウタだ。
 今は政府の機関で研究員として働いているらしい。多忙な身にも関わらず、こうして二人の卒業を祝いに駆けつけてくれたのだ。
「忙しいのにありがとう、お兄ちゃん。それにお義姉ちゃんも」
「気にしないで。ヒカリもハルトもアタシの大事な家族だもの。立派に育ったアンタたちを見てアタシも鼻が高いわ」
 そう返したのは、コウタと手を繋ぐ明るい銀髪の女だ。非常に整った強気そうな顔立ち、日焼けが心配になるほど透き通った白い肌、そしてぽってりとした唇に引かれた口紅が色っぽい。青い瞳に心の奥底までのぞき込まれ、ハルトの頬が紅潮した。
 文句なしの美女だが、彼女の身体は妖艶な美貌とは対照的に奇妙なほどの幼児体型だった。背丈はおよそ一メートル三十センチで、きゃしゃな体つきは肉感的という言葉からはかけ離れていた。昔ヒカリが着ていた子供用のブラウスと吊りスカートといういでたちが、ますます彼女を幼く見せる。
 女の名はグレモリー。かつて魔界の秘密結社レギオンの大幹部として人類の敵であった女悪魔だが、今は改心してヒカリの義姉になっていた。政府機関の監視の元に置くという名目で、メンバーの一員であるコウタの妻になったのだ。あれほど人間を見下していた彼女も、今は子供好きの優しいお姉さんだ。
「あれから何年経ったんだっけな……いろいろあったけど、オレもヒカリもここまでこれました。オレたちを支えてくれたコウタさんやグレ姉さんのおかげです」
「君もヒカリも、魔法少女としてよく長いこと頑張ったね。もう魔界の連中は手出ししてこないだろうし、魔法少女も卒業していいだろう。これからはみんなを守るためじゃなくて、自分のために生きなさい」
「魔法少女を卒業……」
 魔界の秘密結社レギオンをはじめ、多くの強敵たちとの戦いの記憶が蘇る。平凡なサッカー少年だったハルトはヒカリと共に魔法少女に変身し、人々を命がけで守りつづけてきたのだ。その長い戦いにもようやく終止符が打たれた。もうハルトが変身し命を懸けて戦うことはないだろう。
「うん、わかった。これからは自分のために頑張るね!」
「わっ!? 何するんだよヒカリ!」
 ハルトが感慨にふけっていると、突然ヒカリに胸を揉まれた。セーラー服に納まりきらない爆乳がヒカリの手の中で自在に形を変え、持ち主のハルトを喘がせた。
「ごめんねハルト。でもハルトが制服を着るの、これが最後かと思うともう我慢できなくて……ねえ、エッチしようよ。卒業記念の制服エッチ」
「ダメだよヒカリ、こんなところで……コウタさんたちも、後輩のみんなも見てるんだぞ」
 ハルトの頭から湯気がわいた。校門前に停まっていたコウタの車に手をつかされ、ヒカリに体じゅうをまさぐられる。最愛の男の愛撫によってハルトの理性は脆くも崩れていった。
 よく磨きぬかれた車のガラスに今のハルトの姿が映っていた。ポニーテールの少女の美しい目鼻立ちは、グレモリーにそっくりだ。恵まれた長身にはちきれんばかりの豊かな乳房、丸みを帯びた安産型の骨盤……人間でもサキュバスでも魔法少女でもある十八歳の女子学生は頬を赤くし目を潤ませ、これから始まる官能の体験を待ちわびていた。
「ダメなんてことないよ。私たちはもう卒業したんだから、もうみんなに隠れてこそこそエッチする必要はないんだよ。ああ……ハルトのいやらしいメスの匂い、たまらないよ。この欲求不満のムチムチボディが私のものだったなんて嘘みたい」
 プリーツスカートをまくり上げられ、ショーツにヒカリが顔を埋めた。今日ハルトが履いているのは清楚な女生徒には似つかわしくない真っ赤なセクシーランジェリーだ。たっぷりと女の蜜が染み込んだ生地にヒカリが鼻先を突っ込み、くんくんと嗅ぎまわる。
 ハルトの女体に火がついた。
 その場の全員がハルトを見つめていた。慕ってくれていた生徒会の後輩男子が欲情した視線を向けてくる。ハルトが体育のたびに生つばを飲んでいた体育教師の中年男が、ハルトの色っぽい下着を遠目に見ながら自分の股間をいじくっていた。先ほどヒカリに黄色い声をあげていた女子たちは赤面して抱き合っていた。
「アハハ、さすがサキュバスね。周りの人たちが残らず魅了されちゃったわ」
 グレモリーが微笑した。ヒカリもハルトも魔界の悪魔どもとの戦いの際に捕らえられ、淫魔への肉体改造を施された。聖なる力によって人間に戻ったが、異性同性問わず周囲の人間を誘惑する魅力は健在だった。
 自分が友人、後輩、教師たちの夜のオカズにされていることをハルトはよく知っていた。グレモリーの妹または姉に間違えられる美貌も、長身でグラマラスな肉体も、魔界の秘密結社から人々を守るための戦いで生じた崇高な犠牲の産物だ。いわば勲章のようなもの。凌辱の欲望を抱く人々に常に囲まれ、股間を湿らせるのがハルトの誇らしい日常だった。
「私ももう我慢できないよ。ここでチンポハメちゃうからね。いいでしょハルトっ」
 学生服のズボンの中から血管の浮き出た巨根が飛び出し、ハルトは目を剥いた。毎日自分を満足させてくれるヒカリのペニスは何度見ても飽きない。焦らすように陰唇に亀頭を擦りつけられ、孕み腹の子宮が収縮した。
「ダメだってヒカリ。コウタさんの前で……ああっ、やめてって言ってるのにいっ」
 見事に反りかえった一物がハルトの内側に分け入ってきた。義兄の車に手をつき、立ったまま犯され衆目を集める恥辱に声が裏返る。待望の公開制服セックスだ。
 ヒカリは鼻の穴を膨らませ、ハルトの尻にパン、パンと自分を打ちつけてきた。王子様のような凛々しい顔が助平な中年男の表情になり、鼻の下を伸ばしてセーラー服の妻を抱く。ハルトは羞恥と歓喜の板挟みになった。
「ああっ、ああんっ。ダメだよ……みんなが見てる前でセックスするなんて、恥ずかしくて死んじまうよ。ああっ、んああっ」
「恥ずかしがる必要なんてないよ。私たちはもう夫婦なんだから。旦那の私がお嫁さんのハルトにチンポを喰わせてあげるのは当たり前のことなんだよ? ああ……アソコがキュって締めつけてきた。ハルトはホントにお嫁さんって言葉が好きなんだね」
 学生の身ながら既に役所に書類を提出し、二人は入籍を済ませていた。無論ヒカリが夫でハルトが妻だ。子供の頃から好意を抱いていた相手と名実ともに結ばれ、ハルトの胸がときめいた。
「そんなことない。オレがヒカリのお嫁さんだなんて……ああっ、激しい、あひいいっ」
 赤ん坊の頭ほどのサイズがある爆乳をぶるんぶるんと弾ませ、ハルトはギャラリーの目を楽しませた。肉づきのいい手足と豊満な乳と尻。実に男受けのする淫乱ボディだ。
 ヒカリは周囲の目を気にするどころか、むしろ観衆に見せつけるためにハルトを蹂躙した。圧倒的なボリュームの肉棒が十八歳の膣肉を掘り返し、サッカー少年だった美少女に小刻みな絶頂を繰り返させた。
「おおっ、イク、イクっ。みんなが見てるのに……オレ、大好きなヒカリのチンポでイっちゃうようっ。うおおっ、おほおおんっ」
 濃厚な樹液を胎内に注ぎ込まれ、真っ白になった視界に赤い花が咲いた。もともとヒカリのものだった体はハルトの頭部と結合し、数千回のオルガスムスを経験していた。
 このセクシーボディはもはや完全にハルトの身体だ。元に戻る方法はいまだにわからないが、仮に可能であったとしても体を返す気にはなれないだろう。ハルトは一生女のままでヒカリと共に生きる決意を固めていた。
「ハルト、お尻の穴がヒクヒクしてる……そういえば今日はまだこっちにハメてなかったね。お尻の穴にもたっぷりザーメン注いであげるね」
「んああ……ちょっと待て、みんなの前で尻はダメだ。こんなところを見られたら……ああっ、やめろ。尻が焼けるうっ」
 祝いの狂宴は終わらない。今度はアナルセックスを始めた二人の隣では、車のボンネットに腰かけたコウタに抱っこされる形でグレモリーが犯されていた。
「んふっ、素敵よアナタ。アタシのお腹いっぱい……こんなちんちくりんの体なのに愛してくれて幸せよ」
「そんなことないよ、グレモリー。君の綺麗な体は昔のヒカリにそっくりなんだ。そんな君を妻に迎えて、好きなだけこの可愛い体を抱けるなんて……ああ、僕は世界一の幸せ者だあっ」
「激しいわコウタさんっ。もうたまらないの。愛する夫として永遠に飼い慣らしてあげますからね。ああっ、あんっ。あなたの魂をアタシに喰らわせて。ああっ、イクっ、アタシイキますっ」
 ヒカリのお古の服を脱いで裸になったグレモリーの腹は、かすかに膨らんでいた。サキュバスだった彼女は聖なる力で浄化された。それまで家畜や餌と蔑んでいた人間の一員となり、愛するコウタの子を身籠った。もうじき母親になろうとしていた。
 妊娠したのはハルトも同じだ。避妊の嫌いなヒカリを説き伏せるのは容易ではなかったが、学生の身で出産などできないと説得し、なんとか無事に卒業までこぎつけた。ところが最後の最後で油断してしまい、現在のハルトは妊娠三ヶ月だ。卒業はできたがアナルの使用頻度が増え、肛門も性感帯になりつつある。
 ヒカリとハルト、コウタとグレモリー。淫魔の血を持つ二組の妊娠夫婦の睦まじい痴態は周囲の人間を熱狂させた。息子の卒業を見に来た母親たちは互いの息子を交換して筆おろしを始め、四つんばいになったセーラー服の少女たちに同級生の少年たちが代わる代わる挿入して味くらべをしていた。粗野な体育教師は卒業生の妹のランドセル少女を組み伏せ、実践的な性教育をおこなっていた。
 卒業式という年に一度の晴れの日に、神聖な学び舎の門は狂人たちの乱交会場と化した。
「ああっ、あんっ。またイクっ。オレっ、お尻でイクのイヤなのに……んおおっ、んほおおおっ」
「ハルト、また出すよ。ハルトのお尻の中にたっぷり……おおっ、出るっ、ハルト大好きっ」
 絶叫するハルトを振り向かせ、ヒカリは結合したまま口づけをかわした。
 首から下がヒカリになったハルト。
 首から下がハルトになったヒカリ。
 二人は魔法少女として長らく悪を討ってきた。
 いつかまた人々の脅威となる悪の勢力が現れるかもしれない。そのときはまた二人が魔法少女になるのか、それとも……。
「ハルト好きだよ。これからもずっと一緒だからね。二人……いや三人で」
「そうだなヒカリ。オレ、お前の元気な赤ちゃん産むよ。きっとオレとお前にそっくりな、エッチでかわいい赤ちゃんなんだろうな……」
 オーガズムの波がようやく過ぎてひと息ついたハルトは、ヒカリにもたれかかって緩やかなアナルセックスを楽しみながら、新しい命が宿る己の腹を撫で回した。
 いつかこの赤ん坊が新たな魔法少女になって悪と戦うのかもしれない。乳頭がじわりとにじみ、巨大な乳房や尻が出産に備えて変化しつつあるのを実感した。自分が妊婦になるのは元男のハルトにとって望外の喜びだ。
 凛々しい王子様の腕の中で、サッカー少年だった魔法少女は艶やかな母親の顔になる。永遠に終わらない肉欲の饗宴の中、もう戻れないハルトとヒカリはいつまでも抱きあっていた。


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