魔法少女ブリリアキュート:首から下はジャージのおやじ


 可憐な少女が宙を舞う姿に見とれてしまった。
 ピンクのワンピースドレスを着たその娘は、人間とは思えないスピードと跳躍力で空を翔る。地上十数メートルの高さから彼女が光の矢を放つと、路上にひしめく不気味な黒い人形が次々に融けて消えていった。
「ねえ、お父さん」
(ブリリアキュート、今日も可愛くて格好いいなあ。あんな可愛い子供が恐ろしい化け物どもを倒せるんだから大したもんだよ)
「お父さん! お父さんってば!」
「わっ!?」
 耳元で陸斗があげた大声に、五郎は我に返った。「な、なんだ、どうした?」
「もうお父さんったら、僕の話を聞いてなかったでしょ。怪物に襲われてケガしたっていうのに、ホントに心配してくれてるの?」
 幼い息子はふくれっつらをした。子供用の寝間着姿でベッドに座る陸斗の頭部には白い包帯が巻かれ、実に痛々しい。
 陸斗は今日、熱を出して学校を休んだ。母親に連れられて病院に行ったところ、怪人どもの襲撃に巻き込まれてしまった。この街では半年ほど前から同様の事件が頻発しており、住民たちは不安な日々を送っていた。
「あ、ああ、すまん。お前が襲われた事件がちょうどニュースでやってたもんだから……」
 五郎は病室に備えつけてあるテレビを指した。可愛らしい魔法少女が青い肌の女悪魔と戦う映像から、スタジオに切り替わる。
「本日午後、街を襲撃した謎の怪人たちは、魔法少女ブリリアキュートにより撃退されました。一時、道路の封鎖が行われましたが現在は解除されています。市の発表によるとこの襲撃により十六名の負傷者が出たとのことです。現在のところ死者は確認されていません……」
 魔法少女……そう、魔法少女だ。
 街を襲う怪物どもや女悪魔の正体はようとして知れない。街の噂やテレビのワイドショーでは宇宙人だの魔界からの侵略者だの大騒ぎだが、確かな根拠をもって説明できる人間は誰ひとりいない。かろうじて判明しているのは、彼らが自称する悪の秘密結社レギオンなる名前だけ。地上のいかなる兵器も効かない異形の怪人どもの襲撃に、警察も軍隊もまったく頼りにならなかった。
 そんな危機を救ったのが、テレビに映る魔法少女ブリリアキュートである。
 やはり素性の知れない幼い女の子が、魔法としか思えない不思議な技と超人レベルの身体能力で、無敵の怪人どもを次から次へと倒してしまった。
 現在、街の平和はブリリアキュートただひとりによって守られていると言っていい。それを思うと、五郎はあの美しい魔法少女に憧れると同時に、何もできない無力な自分が情けなくなるのだった。
「ブリリアキュートは僕を怪物から助けてくれたんだよ。ホントにカッコよかったんだから。ブリリアキュートが来てくれなかったら、僕もお母さんもあいつらに殺されてたかもしれない」
「そうだな……お前たちが生きてて本当によかった」
 五郎は陸斗の手を取り、鼻をすすった。「ごめんな。父さんが守ってやれなくて……」
「そんなの無理だよ。あの怪物には銃もミサイルも効かないんだよ? お父さんがいても一緒にやられちゃうだけ。あいつらに勝てるのはブリリアキュートだけなんだから」
 息子はべそをかく父にため息をついた。
「そうよ、あなた。もしもあなたが一緒にいてくれても、どうしようもなかったと思うわ」
 妻のアカネも息子と同じ意見のようだ。優しい妻は母親の顔になって我が子の髪を撫でてやる。彼女もレギオンに襲われたが、幸い怪我はなかった。
「人はそのときできることをするしかない……あなた、いつもそう言ってるじゃない。あなたは悪い怪人と戦うことはできないかもしれないけど、学校のみんなを避難させたんでしょう? 何もしてなかったわけじゃないわ。あなたはあなたの務めをきちんと果たして、子供たちを守っていたのよ。だから私たちのことで自分を責めないで」
「それはわかってるんだが、やっぱりなあ……自分や家族が死ぬかもしれないっていうのに戦うこともできないのは、男として辛いんだよ……」
 五郎は学校の教師だ。いつもの青いジャージ姿で授業をしていたところ、怪人たちの襲来に伴う避難命令が発令され、担当する子供たちを急いで安全な場所に避難させた。そこに陸斗の負傷の知らせが入り、慌てて病院に飛んできたというわけだ。
 教師という職業柄、子供たちを守る使命感はひと一倍強いが、自分の息子が正体不明の怪人に襲われても何もしてやれない。歯がゆい思いは大いにある。
 一家三人で話していると看護師が夕食を運んできて、面会時間の終了を告げられた。五郎は負傷した陸斗のことを任せ、妻と病室をあとにした。
「あーあ、俺もブリリアキュートみたいに強かったら、お前たちを守ってやれるのにな……」
「あら、あなた魔法少女になりたいんですか? あんなに可愛らしい女の子なら、うちにも来てほしいものですけどね」
「魔法少女か……あんな可愛い女の子になりたいとは思わないが、ヒーローにはなりたいな。命がけで戦ってみんなを守るのは男の夢だよ」
 そんな他愛ない会話を交わしながら、二人は病院の廊下を歩いた。怪物どもの襲撃で多くの怪我人が出たことから、院内は騒がしく慌ただしい。被害者は陸斗だけではないのだ。
 エレベーターホールで待っていると、到着したエレベーターから五郎が良く知る人物が出てきた。
「ヒカリ? お前、ヒカリじゃないか」
「五郎先生……こんにちは」
 浮かない顔をしているのは、五郎が担当するクラスの女生徒ヒカリだった。黒い髪をボブカットにした小柄な彼女は、どちらかといえばクラスの中心的存在というよりは大人しく従順な生徒である。
「どうして病院に。まさかご家族に何かあったのか?」
「はい……実はお兄ちゃんが、レギオンのせいで入院しちゃったんです」
 ヒカリは泣きそうな顔で答えた。陸斗と同様、破壊されたビルの瓦礫が当たって怪我をしたのだという。不幸中の幸いで命に別状はなかったが、しばらく入院加療が必要だそうだ。
「私のせいなんです。私がもっと早く着いてたら、お兄ちゃんはケガしなくて済んだのに……!」
「何を言ってるんだ。お兄さんがケガしたのはヒカリのせいじゃないだろう。自分を責めるな」
 先ほど家族に言われた言葉を、今度は自分が口にする五郎。彼にはヒカリの気持ちがよくわかる。「ところでご両親は一緒じゃないのか?」
「うち、お父さんもお母さんも仕事で長い間家を留守にしていて……いま私が一緒に住んでるのはお兄ちゃんだけなんです」
「そうなのか。子供が家に一人ぼっちなんて危ないな。誰かクラスメイトの家に泊めてもらった方がいいんじゃないか? 別に俺の家でも構わないぞ。なあアカネ?」
「いえ、大丈夫です。私、自分のことはほとんど自分でできますから」
「偉いわね、ヒカリちゃん。その歳ですごくしっかりしていて……」
 二人の会話を聞いていたアカネがヒカリを褒めた。「でも子供なんだから、必要なときは大人を頼った方がいいわよ。困ったことがあったら遠慮なくおばさんに言ってね」
「はい、ありがとうございます。それじゃ先生、また学校で」
 ヒカリは二人に頭を下げ、廊下の向こうへ消えていった。五郎とアカネは今度こそエレベーターに乗り込み帰路につく。
「ヒカリちゃんってとってもいい子ね、あなた。優しくて頑張り屋さんな感じ」
「ああ、あまり目立つことはしないがよく気が利く。俺の自慢の生徒だよ」
「でも、あんないい子が家で一人ぼっちだなんてかわいそうだわ。いつ危ない目に遭うかわからないし、大人が守ってあげないと……」
「そうだな。ああ……あの怪物どもは、いったいいつこの街からいなくなってくれるんだ」
 五郎はぼやいて、夕暮れどきの街に車を走らせた。悪の怪人どもに破壊された多数の道路が通行止めになっており、補修工事の音が日没になっても聞こえてくる。途中、線路をまたぐ形で建設された陸橋があり、その上から復旧する街の様子がよく見えた。
 五郎の車は陸橋をのぼった。交通規制のせいか非常に車が多く、半ば渋滞になっていた。陸橋の坂の上からは自動車でぎっしり埋まった道路がくまなく見渡せる。徐行しなくてはならないことにいらいらした。
「帰るのが遅くなっちまうな……ん、あれはなんだ?」
 にわかに五郎は前方を眺めて訝しがった。下り坂になっている先、交差点の真ん中に人影がある。たくさんの車が行き交っていて危険なのに、路上で仁王立ちしていた。車が数台、クラクションを鳴らして停止した。
 ただでさえ混雑しているのに、いったいどういうつもりか……五郎が遠くからその人影をにらみつけていると、突然そいつが目の前の乗用車を蹴り飛ばした。
「うわあああっ!?」
 思わず悲鳴をあげた五郎の上を、一トン以上ある乗用車がプラスチックのオモチャのように飛んでいった。黒い人影は停車した自動車を次々と蹴り飛ばし、あるいは投げ飛ばしながら、五郎の車に近づいてくる。
 人影との距離が縮まると、その姿を判別できるようになった。目も鼻も口もない、真っ黒なマネキン人形……それは人間ではない。五郎が何度も見てきた怪物、魔界からの侵略者と噂される化け物だ。
「か、怪物だ! またやつらが街にやってきたんだ!」
 到底、人間の敵う相手ではない。逃げるか死ぬか二つに一つ。
 五郎は慌てて車をバックさせようとしたが、前後に多数の自動車が停車しており身動きがとれなかった。
 こうなったら自分の脚で逃げるしかない。ローンの残る愛車から妻と二人で飛び出した。
「た、助けてくれええっ!」
 妻の手を引き、五郎は下ってきた坂を自分の脚で走ってのぼる。
 周囲の車からもドライバーが次々と飛び出し、陸橋の坂はパニックになった。あの黒い怪物マネキンは有人、無人に関わらず、目の前の自動車を片っ端から排除し、どんどんこちらにやってくる。五郎の車も数十メートル向こうに投げ飛ばされ、ドアやタイヤがとれて歩道にひっくり返ってしまった。
 妻の靴が片方脱げ、アスファルトの上で転倒した。抱き起こしたアカネの腕や顔にすり傷ができており、近所でも評判の器量よしが台無しだ。
「あなた逃げて! このままじゃ二人とも殺されるわ!」
「バカなこと言うな! お前を置いて逃げられるわけないだろ!」
 五郎は妻の体を抱え上げ、一心不乱に坂を駆け上がった。若い頃スポーツに励んだからか火事場の馬鹿力なのか、重いとはつゆほども思わなかった。無力な自分が怪物に立ち向かうことなどできないが、せめて愛する家族だけは守らなくては。
「い、いやあああっ!?」
 妻の声に振り返ると、大型トラックが冗談のように宙に浮いて飛んできた。ちょうど落下地点と思しき場所に五郎はいる。
 悲鳴をあげることさえできない。一瞬の時が数十秒に引き延ばされる。何トンもある金属の塊が五郎と妻を押し潰そうとゆっくり目と鼻の先まで迫ってきて……そして、いきなり遠くへ飛んでいった。
 空中に現れた小さな影が大型トラックを蹴り飛ばしたことを理解するのに、五郎は若干の時を要した。
「そこまでよっ! 悪の秘密結社レギオン!」
 凛とした声が街に響いた。恐慌に陥っていた人々が一斉に空を見上げた。白い翼で空を舞うその姿は天使そのものだ。人類を守る守護天使。
 ピンクのワンピースドレスにツインテールの金色の髪。
 無辜の人々を守り悪を討つ、正体不明の魔法少女。
「ブ、ブリリアキュート……!」
 五郎は信仰にも近い畏敬の念を声に込めた。逃げることさえ忘れて、地上に下り立つ小さな天使を物陰から眺めた。
「街の人たちを襲うのはやめなさい! スターライト・アロー!」
 魔法少女ブリリアキュートが手にした白いステッキを振ると、星状の先端から光の矢が放たれた。黒いマネキンは避ける間もなく矢を受ける。素手で自動車を持ち上げコンクリートを破壊する怪物が、まるで熱したチョコレートのように融け落ちた。
 ニュースで観たあの映像と同じだった。邪悪なマネキン人形は他に何体もいたが、ブリリアキュートは華麗に宙を舞い、次々に敵を倒していく。テレビの画面越しにしか見たことのない幼い少女が、五郎のすぐ目の前で駆け、躍り、跳び、そして輝いていた。
(すごい……ブリリアキュートだ。本物の魔法少女だ!)
 年甲斐もなく五郎は手に汗を握り、おそらく彼が教師を務める学校の生徒たちとほとんど変わらない年頃であろう幼い戦士を応援した。
 そう、彼女は五郎のクラスの子供たちと同じ年頃なのだ。そういえばクラスの女子の誰かに似ているかもしれない。いったい誰だろうか……五郎はかすかな既視感を覚えた。
 気がつくと、数十体いた邪悪なマネキン人形の一団は残らず融け、地面で悪臭を放つ汚泥と化していた。
 だがそれで終わりではなかった。化け物どもの汚泥の中から黒い影が湧き上がり、ゆっくりとヒトの形をとる。それは人間ではなく、黒いマネキンでもない。蠢く影が形成したのは一人の女の姿だった。
「やってくれたわね、ブリリアキュート」
 非常に整った顔立ちの若い女だ。しかし、その容姿は明らかに人間のものとはかけ離れていた。黒い血が流れる青い肌、ヒトの血の色をした妖しい瞳と切れ長の眼差し、銀の糸と見まごう輝きを放つ長い髪、耳の上から生えた一対のねじくれた黒い角……まるで魔界の住人だ。
「グレモリー、またあなたね! 街の人たちをこれ以上傷つけるのはやめて!」
「イヤに決まってるでしょ。どうせこの世界はアタシたちレギオンのものになるんだから、人間どもをどう扱おうとアタシたちの勝手じゃない。エサ、家畜、オモチャ……せいぜい有効活用してあげるから、這いつくばって感謝するのね」
 グレモリーと呼ばれた悪魔の女は挑発するように身をくねらせ、悪趣味な黒い鞭を構えた。テレビの映像にも映っていたが、どうやらブリリアキュートとは何度も戦ったことがあるようだ。
 背が高く肉づきのいい肢体を黒いボンデージスーツに包んだその色気は、人間の男たちを魅了してやまない。特筆すべきは胸元で重そうにゆさゆさ揺れる巨大な乳房で、ブリリアキュートの頭に匹敵する異様なサイズだ。五郎は鼻の下が伸びるのを自覚した。
「ひどいことをやめないっていうなら、今日もこらしめてやるんだから! 覚悟しなさいっ!」
「生意気なガキが、ザコどもを倒したくらいでいい気になるんじゃないわよ! 出てきなさい、合成魔獣アイコラP!」
 グレモリーが呼ぶと、彼女の隣に身の丈三メートルを超える異形の怪物が出現した。人間より上背のある細長い箱が二つ左右に繋がった奇妙な見た目をしており、向かって左側の箱が赤、右側が青に塗られていた。胴体の正面には巨大な目と口がついており、側面と底からは湾曲した棒のような手足が生えていた。まるで子供向けアニメのキャラクターのようにシンプルな外見だ。
 合成魔獣アイコラP。グレモリーはその怪物をそう呼んだ。
「出たわね、合成魔獣! 今日は何の化け物なの!?」
「今回はアンタら人間がみみっちい手品に使う道具を材料にしたわ。シンプルな見た目だけど強いわよぉ……さあアイコラP、アンタの力を見せてやるのよ!」
「わっかりましたー!」
 奇怪な声を発し、合成魔獣アイコラPの前面が観音開きに展開した。中にあるのは奥の見えない深い闇。そして、闇の中から無数の長い腕が伸びてきて、関節が存在しないであろう不自然な動きで一斉にブリリアキュートを捕捉しようとする。コミカルな見た目に反し、ホラー映画に登場しそうな恐ろしい攻撃だ。
「速い!? でもなんとか!」
 アイコラPの無数の腕は、空中で身を翻したブリリアキュートをつかみそこねた。空を切った手がビルの瓦礫や店先の看板を薙ぎ払い、むなしく土煙をあげた。
 ブリリアキュートは華麗に着地し、もう一度魔獣と向かいあう。
「ふふっ、避けたご褒美にアイコラPの特殊能力を教えてあげるわ。これを見なさい」
 グレモリーが不敵な笑みを浮かべて指し示したのは、運悪く魔獣に捕まった通行人だった。大きく腹の膨れたピンクのマタニティドレスの女性。そしてもう一人、半ズボンをはいた男の子がアイコラPの長い腕に握られていた。
「メイちゃんのお母さん!? それに健太郎くんっ!」
「なんだと!? なんであの二人がここに……!」
 五郎も二人のことは知っていた。妊婦は彼が担当するクラスの女生徒メイの母親、そして男児の方はやはり彼のクラスの男子生徒、健太郎だ。
「お願いです。私はどうなっても構いませんからお腹の子だけは……」
「た、助けてえ……うわあああん……!」
 いつも屈託ない健太郎の顔が恐怖に歪んで痛ましい。人質のように二人を見せつけてくる合成魔獣を前に、五郎もブリリアキュートも動くことができなかった。
「メイちゃんのお母さんも健太郎くんも無関係よ! はなしなさい!」
「イヤに決まってるでしょ。アイコラPに喰われるとどうなってしまうのか、その目でよく見ておくのね」
 グレモリーがパチンと指を鳴らすと、妊婦はアイコラPの半分を構成する赤い箱の中に納まり、蓋がかたく閉ざされた。そして同じように少年が反対側の青い箱に飲み込まれた。
「今回お見せするのは切断マジック! タネも仕掛けもあーりません! ガチャン、ガチャン!」
 アイコラPが左右に体を揺らすと、二つの箱の上部三分の一ほどが一瞬にして組み替わり、市松模様に近い格子状の見た目に変化した。
「いったい何をするつもり!? 二人を返せえっ!」
 怒りに身を震わせるブリリアキュートの目の前で再びアイコラPの前面が開き、喰われたはずの妊婦と男児が放り出された。どちらも怪我はしていないようで、何ごとかと周囲を見回している。
 しかし……。
「きゃあああっ!?」
 ブリリアキュートの叫び声が街にこだました。
 中から出てきた二人が、世にも恐ろしい姿に変わっていたのだ。
「いやあああ……私の体どうなっちゃったの? 私の赤ちゃんはどこ? 私の赤ちゃん……!」
 そう言って気の毒なほどうろたえているのは、青い箱の中から出てきたメイの母親だ。
 彼女はピンクのマタニティドレスではなく子供用のTシャツと短パン姿になっていた。身長は頭ひとつ分は低くなり、まるできゃしゃな少年のような体格だ。大きく突き出していた腹は平らになって、出産直前の赤ん坊が宿っているようにはとても見えない。
「な、なに? 僕、どうしてこんな服を着てるの?」
 一方、赤い箱から出てきた健太郎の姿も奇妙だ。むっちりとした長い手足に、ピンクのマタニティドレス。臨月の腹部は大きく突き出し、いかにも苦しそうだ。そして見事な巨乳の上、細い首に健太郎の頭部が繋がっていた。
 妊婦の体に少年の頭。非常に倒錯した見た目だ。
「お、お腹が重いよ。僕、いったいどうなっちゃったの?」
「あなた、それは私の体じゃないの!? 私の赤ちゃんを返して!」
「うわああん、僕こんな体イヤだよう。こんなに重たいお腹もおっぱいもいらないよう。誰か助けてえ……!」
「面白いでしょ? これがアイコラPの特殊能力。こいつは中に取り込んだ人間の頭を、別人のものとすげ替えることができるのよ」
「畜生、なんてことをしやがるんだ……化け物め!」
 五郎は戦慄した。自分の生徒と保護者が怪物どもの餌食になって体を改造されてしまい、怒りと吐き気がこみ上げてくる。
「なんてひどいことするの!? 早く二人の体を元に戻して!」
「イヤに決まってるでしょ。いっつもアタシたちの邪魔ばかりする忌々しいブリリアキュート……アンタもこのオスガキ妊婦と同じようにしてあげるわっ!」
「許せない! 待ってて、絶対にこいつを倒して元に戻してあげるから!」
 怒りに燃えるブリリアキュートにアイコラPの魔の手が迫り、彼女を次の犠牲者にしようともくろむ。可憐な魔法少女はその攻撃をかわしつつ、魔法のステッキを振り回した。「スターライト・ブレイド!」
 ステッキの先端についた星の軌跡が弧状の刃になって、魔獣の細い脚を切断した。アイコラPはたまらず地響きを立てて転倒する。飛ばした腕は高速だが本体の動きは鈍いようだ。
「これでトドメよ、アイコラP!」
 ブリリアキュートは秘められた魔力を解放した。魔法少女の足元に光り輝く魔法陣が浮かび上がった。
「ブリリアント・サジタリウス──!」
「甘いわね、ブリリアキュート!」
 そこに割って入ったのはグレモリーだ。ブリリアキュートが魔力を溜める隙をつき、強烈な鞭の一撃を見舞った。辛うじて防いだが、ブリリアキュートは大きく体勢を崩してしまった。放とうとした攻撃魔法も霧散した。
 魔法のステッキにグレモリーの鞭が絡みついて、色っぽい見た目からは想像もできない怪力で引っ張った。魔法少女は必死で抗い、女悪魔との力比べに挑む。勝負は一進一退。どちらも踏ん張り転ばない。
 歯を食いしばって動きを止める天界の戦士に、無数の腕が狙いを定めた。起き上がったアイコラPが、ブリリアキュートを己の中に引きずり込もうとしていた。
 魔獣と悪魔の二人がかりの攻撃に、百戦錬磨の魔法少女も逃れられない。ついにその細い四肢がアイコラPの腕に捕まり、魔法のステッキが地面に落ちた。
「しまった!?」
「よくやったわ、アイコラP! そのまま飲み込んじゃいなさい! 絶対にはなしちゃダメよ!」
「わっかりましたー!」
 亡霊のような無数の腕が収縮し、ブリリアキュートを魔獣の体内へといざなう。頼みの武器を手放し手足を拘束された魔法少女に、もはや逃れるすべはない。絶体絶命だ。
 そのとき、五郎の脚が勝手に動いた。妻のもとから一気に駆け出し、窮地の魔法少女に手を伸ばす。
「あなたっ!?」
「ブリリアキュートっ! 俺が……助ける!」
 五郎はブリリアキュートの小さな手を握り、助けようとしたが……ただの人間の力で魔獣に敵うわけがない。すぐさま五郎もアイコラPに捕らわれてしまった。
「畜生! はなしやがれ、化け物め!」
「せ、先生っ!? 五郎先生がどうして……!?」
 可憐な魔法少女はひどく驚いていた。どうやらブリリアキュートは五郎のことを知っているようだったが、五郎にしてみれば、世界一有名なこの魔法少女と断じて顔見知りなどではない。
 いったいどういうことなのか……それを考えている間に、五郎はブリリアキュートと共に合成魔獣アイコラPに飲み込まれた。
「う、うわあああっ!?」
「きゃああああっ!?」
 気づけば闇の中だった。ひとすじの光さえない魔獣の体内は予想以上に広い空間で、四肢を広げても壁に当たる感触がない。五郎の体は無数の腕に絡めとられ、宙に浮いたまま拘束されているようだ。
「な、何だよここは……!? はなせ、はなしてくれっ!」
 五郎は中で騒いだが、当然、解放される気配はない。魔獣アイコラPが体を大きく左右に揺らしはじめた。
「今回お見せするのは切断マジック! タネも仕掛けもあーりません! ガチャン、ガチャン!」
「な、なんだ……俺の体が……!?」
 うまく言い表せない不思議な体験だった。ぷつんと糸の切れるような音がして、五郎の首から下の感覚が丸ごと消失した。ぞわぞわした恐怖に襲われる。続いて自分がどこか別の場所に運ばれているような浮遊感があり、そのあと突如として手足の感覚が舞い戻った。
 両の手をこわごわと握って開き、四肢の感触を確かめる。やけに体が頼りない……手足が短く小さくなっていること、筋肉も贅肉もやけに少なくなっていることに疑問を抱いていると、大きな音がして後ろから光が差し込み、五郎は箱の外へと投げ出された。
「い、いてえっ!?」
 地面に打ちつけた後頭部を押さえて立ち上がる。目の前には青い肌の女悪魔と巨大な合成魔獣が立っていた。
 五郎は強い違和感を覚えた。妙にグレモリーの背が高い。一八〇センチある彼よりも、およそ四、五〇センチは高いだろうか。
 まさか彼女の身長は二メートルを超えているのか。もちろんそんなはずはない。
「あ、あなた、あなたなのっ!?」
 遠くの物陰から妻のアカネが叫ぶのが聞こえた。ひどく驚いているようだ。
 怪我はしていないはずだが……五郎が見下ろすと、自分が青いジャージではなくピンクのドレスを着ているのが見えた。とても成人男性が着る代物ではなく、五郎が担当しているクラスの幼い女子学生が身に着けるような可愛らしい衣装である。
 変化しているのは服装だけではない。五郎のたくましい手足が子供のように細く小さくなっていた。雪を連想させる白く繊細な肌を、小さな木の葉のような手でぺたぺたと触り、五郎は信じられない思いだった。ところどころリボンのついた桃色のワンピースを着た小さな体は、先ほど間近で目にした魔法少女ブリリアキュートそのものだ。
「な、何だよこれ……俺の体、いったいどうなっちまったんだ?」
「きゃああああっ!? な、なによこれっ!?」
 五郎と同じくアイコラPの中から出てきたブリリアキュートが悲鳴をあげた。
 魔法少女は常に着ているピンクのワンピースドレスではなく、五郎が着ていた青いよれよれのジャージを身に着けていた。履いているのは大人の男性用の履き古したスニーカー。長身のグレモリーよりも背が高く、全身がごつごつしており毛深い。まるで中年男性のようなたるんだビール腹になっていた。
 その体は間違いなく五郎の体だった。ただ五郎の服を着ただけではない。腕も、脚も、腹も、胸も……可憐な金髪美少女の首から下は、そっくりそのまま毛深い中年男の体に置き換わっていた。
「そ、そんな……まさかこれって、俺とブリリアキュートの体が……?」
 五郎の首から下は小柄で可憐な魔法少女。
 ブリリアキュートの首から下はジャージ姿の中年男。
 五郎の頭の中に先刻見たばかりの妊婦と男児の頭部交換の記憶が蘇った。
 どうしてこんな不気味なことになってしまったのか、考えるまでもない。
 五郎とブリリアキュートは、魔獣の風変わりな能力によって互いの首をすげ替えられてしまったのだ。


挿絵:種族入れ替わりだよ


「やっりましたー! うまくいきましたよ、グレモリー様!」
「よくやったわ、アイコラP! これでブリリアキュートは魔法が使えなくなったのね?」
「はーい、間違いないっす! 今のこいつはただの太ったおっさんですよー! ハーッハッハッハ!」
「そ、そんな……私、先生の体にされて魔法が使えなくなっちゃったの?」
 高笑いする淫魔グレモリーと魔獣アイコラPのやりとりに、ブリリアキュートは死人のように青ざめた。
「そんなわけない! 私はみんなを守る魔法少女ブリリアキュート! いつもみたいにあなたたちを倒して街の人たちを守るんだから! スターライト・アロー!」
 首から下がジャージ姿の中年男になったブリリアキュートは常のように両手を構え、分厚い手のひらから聖なる光の矢を放とうとした。
 しかし何も起こらない。魔法少女の体を奪われたことで、神聖魔法を操る力も失くしてしまったようだ。連戦戦勝の魔法少女の顔色が、青を通り越して真っ白になった。
「そんな……ホントに魔法が使えない……!」
「どうやら勝負ありね、ブリリアキュート」
 グレモリーは黒い鞭でジャージ姿の魔法少女を打ち据えた。
「い、痛いっ!」
 もはやブリリアキュートはグレモリーの攻撃を避けられない。ただの中年男の体にされてしまった今、これまでのように大地を駆けることも宙に跳ぶこともできないのだ。
「アンタはもう魔法少女じゃなくなっちゃったの。今のあんたはそこらのザコ兵士にも勝てやしない、三段腹の毛深いおっさんよ! アハハハハ……お似合いじゃないの! そら、いい声でお鳴き!」
「きゃあああっ! い、痛い、痛いよう……!」
「ブリリアキュート!」
 五郎はブリリアキュートに駆け寄ろうとしたが、目の前の地面が鞭にえぐられる。ピンクのブーツをはいた細い脚が恐怖で動かなくなった。
「幼女コスプレが趣味のキモいおっさんは、黙ってそこで見てなさい! 余計なことをしなきゃ少しは長生きできるかもしれないわよ!?」
 赤い瞳の女悪魔に威嚇され、五郎はたやすく気圧されてしまった。人間では決して勝てない魔界からの侵略者だ。あまりの恐ろしさに脚が震えて止まらない。
「そんな、嘘よ……私が負けたらこの街はどうなるの? 街の人たちは……?」
 苦痛に這いつくばるブリリアキュートの目に涙が浮かんだ。たった一人で怪物や魔獣どもを退けてきたブリリアキュートが無惨に敗れたとあっては、もはや人類に希望はない。街は根こそぎ破壊され、人々はみな殺されるか奴隷にされてしまうだろう。
「思えばアンタには今までさんざん邪魔をされたわね、ブリリアキュート。じっくり痛めつけてあげる。楽に死ねるとは思わないことね!」
 悪趣味な髑髏の鞭が風を切り、ブリリアキュートの背中を何度も打った。少女の悲鳴が繰り返しあがった。安いジャージの生地が破れ、血のにじむ男の背中があらわになった。
 ブリリアキュートに反撃する力は残されていない。グレモリーが言うように、魔力を奪われた彼女には悪魔の人形兵士を一体倒すことさえできないだろう。グレモリーにただ嬲り殺されるだけだ。
「ブリリアキュート……!」
 五郎は恐怖で身がすくんでしまっていた。五郎の体は可憐なヒロインのものだが、無力な一般人の自分がブリリアキュートのように戦えるとは到底思えない。何度も街を守ってきた魔法少女が目の前で鞭うたれるのを、ただ黙って眺めることしかできない。先ほど助けに行ったときは無我夢中だったが、今は恐れの方が勝っていた。
(畜生、怖くて仕方ねえよ。俺はいったいどうしたら……)
 失禁してしまいそうな羞恥と恐怖の中で、五郎は不意に妻子との会話を思い出した。
「ごめんな。父さんが守ってやれなくて……」
「お父さんがいても一緒にやられちゃうだけだよ。あいつらに勝てるのはブリリアキュートだけなんだから」
「そうよ、あなた。もしもあなたが一緒にいてくれても、どうしようもなかったと思うわ。だから私たちのことで自分を責めないで」
「それはわかってるんだが……自分や家族が死ぬかもしれないっていうのに戦うこともできないのは、男として辛いんだよ……」
 怪人どもに襲われ負傷した息子の前で、五郎はそう嘆いた。自分もブリリアキュートのように強ければ……。
 そして今、彼の顔の下には誰よりも強い魔法少女の体がある。
(俺もブリリアキュートみたいに強かったら、みんなを守ってやれるのに……)
 五郎の足元に魔法陣が現れ、体から白いオーラが噴き出した。「俺がもっと強ければ……!」
「あなた……!?」
「なんですって!?」
 上機嫌で鞭を振るっていたグレモリーが顔をあげた。驚きのあまり固まっている。そんな女悪魔に五郎は右手をかざし、見様見真似の呪文を唱えた。
「スターライト・アロー!」
 ひとすじの光の矢が真っすぐグレモリーに迫り、その肩口をわずかに切り裂いた。魔法少女が日頃使う魔法と比べたら月とすっぽんだが、それでもダメージを与えることに成功した。
「どういうこと!? なんでこんなおっさんがブリリアキュートの魔法を……!?」
「すげえ、今のは俺がやったのか? これがブリリアキュートの力なのか……!?」
「邪魔よ! 無名のエキストラは舞台のそでに引っ込んでなさい!」
「見える!? 体も軽い……!」
 五郎は迫りくる鞭から逃れ、目にも止まらぬ速さで疾走した。生身の人間ではありえない脚力だ。一瞬で道路を横断し、ビルの数階分をジャンプして壁を蹴り、空高く飛び上がった。「スターライト・ウイング!」
 ピンクのワンピースの背中から白い翼が広がり、五郎は鳥のように宙を舞った。空中でのバランスのとり方や速度の調節は体が教えてくれた。敵の頭上から立て続けに光の矢を放つ。
「スターライト・アロー! アロー! アローっ!」
「ザコが! 汚らしいおっさんがクソガキのモノマネしたって、気持ち悪いだけなのよ!」
「先生! 魔法のステッキを呼んで! あれがあったらもっと力が……!」
 傷だらけのブリリアキュートが下から叫んだ。女悪魔の鞭で執拗に嬲られ血まみれだ。五郎はうなずき手を伸ばす。
「俺のところに来い、ブリリアキュートのステッキ!」
 聖なる武器を呼ぶと、遠くに転がっていた白いステッキがひとりでに飛んできて、か細い右手の中に納まった。
 ブリリアキュートが愛用する魔法のステッキ。握りしめると力がみなぎる。これがあれば百人力だ。
「スターライト・アロー!」
 太い光の矢が五本同時に放たれ、グレモリーに襲いかかった。日ごろ魔法少女が放つものと遜色ない。露出度の高い衣装の上から手足を切り裂く。かん高い悲鳴があがった。
 五郎は華麗に着地し、怒りにわななく女悪魔へと向き直った。
「よくもやってくれたな、怪物どもめ! たっぷり礼をしてやる!」
「ちいっ、どうなってるの!? なんでこんなオッサンがブリリアキュートみたいに戦えるのよ!? ギャグでしょこんなの! とっとと片付けなさいよアイコラP!」
「おのーれーっ! 次はお前の体をその辺の野良犬と入れ替えてやる!」
 合成魔獣アイコラPの前面が観音開きに展開し、中から無数の腕が伸びてきた。五郎が念じると目の前に光の壁が出現し、魔獣の攻撃をかたく阻んだ。
「あなたっ!」
「五郎先生!」
 アカネとブリリアキュートが背後から五郎を呼ぶ。愛する妻と幼い少女を自分が守らなくてはならないと強く思った。強く願えば小さな体が応えてくれる。
 五郎の頭とブリリアキュートの体がより深く繋がった。魔法少女の肢体が自分を新たな所有者だと認めてくれるのがわかる。五郎がブリリアキュートの力を借りているのではなく、ブリリアキュートの体も力も五郎のもの。今は他でもない自分が魔法少女なのだと己に強く言い聞かせた。
 魔力を貯める五郎の足元で、白い魔法陣が光り輝く。
「俺はみんなを守る……くたばれ、化け物! ブリリアント・サジタリウス!」
 全長数メートルの巨大な光の矢が放たれ、アイコラPの頑丈な体の真ん中に大穴が開いた。どんな魔獣も撃破してきたブリリアキュートの必殺技だ。大規模な爆発が起こり女悪魔を巻き込んだ。
「おのれブリリアキュート……と名もなきオヤジ! 次こそは必ず……!」
 姿は見せず声だけで、グレモリーは呪詛をした。
 魔獣は倒され悪魔は逃げた。街の平和は守られたのだ。ようやく周囲の人々に笑顔が戻った。
「やった……俺が勝ったのか? 俺があの恐ろしい化け物を倒して街を守ったのか……?」
 信じられなかった。
 警察や軍隊では決して歯が立たない怪物たちを、一般市民の自分が撃破したのだ。五郎は爆発の跡を見つめ、ばらばらになった合成魔獣の残骸を眺めた。
 そこでふと疑問を抱いた。
「元に……戻ってない?」五郎はまだ小さな体にピンクの衣装を着たままだ。自分たちの首をすげ替えた合成魔獣さえ倒せば、自分とブリリアキュートの体が元に戻ると思っていたのだ。
 ところが五郎は相変わらず小柄な魔法少女の体のままだ。
「体が元に戻ってないわ。あいつを倒せば元に戻れると思ったのに……どういうこと?」
 振り返るとブリリアキュートの首から下は青いジャージ姿の中年男で、不安そうに自分と五郎の姿を見比べていた。先だって入れ替えられたメイの母親や健太郎も同様の異様な姿だ。
「あなた、本当にあなたなの?」
「アカネ……そうだ、俺は五郎だよ……」
「ああ、あなた……無事でよかった!」
 妻のアカネが五郎に駆け寄ってきた。顔も服もすり傷と泥だらけだ。五郎が敵を撃退しなければ彼女もブリリアキュートもみな死んでいただろう。死の危険を乗り越えた夫婦は固く抱き合った。いまや妻の方が五郎よりも背が高く、ひどく奇妙な感覚だ。
「もうあなたったら、あんなに恐ろしいことをして……あなたに何かあったら、私……!」
「心配かけてごめんな。でもこの体のおかげで化け物どもを倒せたよ。さすが魔法少女ブリリアキュートの体だな」
 五郎は妻から離れ、所在なさげにしているブリリアキュートを見上げた。五郎の身長はいまや一三〇センチで、ブリリアキュートはおよそ一八〇。小柄だった魔法少女がたいそうな巨漢に見える。体は大きいが、全身が血まみれだ。
「先生……」
「ひどいな、ブリリアキュート……俺の体とはいえ痛いだろう。えーと、こうすればいいのかな? スターライト・キュアー!」
 背伸びをした五郎が手をかざすと、瞬く間にブリリアキュートの傷が塞がった。ぼろぼろのジャージは変わらないが、これで応急手当は完了だ。
「す、すごい。先生、ホントに私の力を……魔法少女の力を使えるんだ。治してくれてありがとう……」
「ブリリアキュート、ちょっといいか? いろいろお前に話を聴きたいんだが」
「う、うん、いいけど……その、ここじゃみんなが見てるから……」
 肥満ぎみの中年男の体になった魔法少女は逡巡した。周囲の人々が遠巻きに五郎たちを見て、何やらひそひそ囁きあっていた。いつもならばブリリアキュートの勝利を祝って歓声をあげる観衆が、今は首のすげ替わった五郎とブリリアキュートを好奇の目で眺めていた。テレビカメラは来ていないが、スマートフォンで変わり果てた姿の彼らを撮影する不届き者はいるようだ。
「そうだな。まだ元の体に戻りそうな気配はないし……とりあえず俺の家に行こうか。スターライト・ウイング!」
 五郎は妻とブリリアキュートの手をとり、背中の羽で舞い上がった。念じるだけで魔法少女の体が応えてくれる。興奮するアカネに笑いかけながら、五郎は白い鳥の翼で自由自在に空を飛んだ。

 ◇ ◇ ◇ 

 幸い五郎の家や近所に被害はなかった。三人は五郎の家のリビングに集まった。
「それでブリリアキュート、どうしてお前は俺の名前を知ってるんだ? 俺たち、どこかで会ったことがあるのか?」
 ようやくひと息ついた五郎が問うと、ブリリアキュートは躊躇したが、やがて意を決したように変身を解除した。ピンクのリボンがついた明るい金髪ツインテールの髪型が、地味な黒のボブカットへと変化する。現れたのは意外な顔だった。
「ヒカリ!? お前、ヒカリなのか!?」
 ヒカリは恥ずかしそうに微笑んだ。ついさっき病院で会ったヒカリが、まさか魔法少女として怪物たちと命がけで戦っていたとは。五郎はあまりの驚きに口をぱくぱくさせた。
「あらあら、まあ……ヒカリちゃんがあのブリリアキュートだなんてびっくりしたわ。じゃあヒカリちゃんは、私と陸斗の命の恩人なのね?」
「そうか、ヒカリがブリリアキュートだったのか……。ヒカリはずっとあの化け物どもから俺たちを守ってくれてたんだな。ありがとう」
 礼を言った五郎の体も変身が解け、服装が魔法少女の衣装であるワンピースドレスから、白のブラウスと黒の吊りスカートのセットに変わった。それは時々ヒカリが学校に着てくる可愛らしいファッションだ。
「俺の方も変身が解けたけど、やっぱり体は元に戻らないな。いったいどうなってるんだ?」
 五郎はいらいらして言った。二人の首をすげ替えてしまった合成魔獣アイコラPは倒したものの、入れ替わった体が元に戻る様子はない。このままでは様々な問題が発生するのは火を見るより明らかだ。
「やっぱりおかしいよ。あいつを倒せば元に戻ると思ったのに……」
「もしかして、ずっとこのままなんてことはないわよね?」
 アカネが漏らした不吉な言葉に、五郎もヒカリも顔が強張った。そのような未来は絶対に嫌だが、かといってありえないと言い切れないのもまた事実。少なくとも、元に戻る方法が見つかるまで当分このままという可能性は高いように思われた。
「しかし困るな、俺がヒカリの体だなんて……。こんな女の子用の可愛い服なんか恥ずかしいよ……」
 自分が着ている吊りスカートの裾をおそるおそるつまむ五郎。
 今朝学校で会話した女生徒の服を自分が着ていることに、五郎は羞恥と若干の興奮を覚えた。自分の体から漂ってくるのは不快な男の加齢臭ではなく、幼い少女が放つ爽やかな汗の匂いだ。まるで変態になってしまったかのような倒錯感に精一杯耐えて自我を保った。
「私も……ずっと先生の体のままなんて、困ります……」
 ヒカリは泣きそうになっていた。ぼろぼろになったジャージの隙間から、四十男の体臭が漏れてきているのがわかる。他人の体になって五郎は初めて自分の臭いを自覚した。元の体に戻ったらもっと体を清潔にしなくてはと決意した。
「そうは言っても、元に戻りそうにないなら仕方ないわ。とりあえず今できることをして、これからのことはまたあとで考えましょ。ヒカリちゃん、今日はうちに泊まっていきなさいな」
「今できることって何だよ?」
「そうね、お腹が空いてるからお夕食と……それとお風呂かしら? みんな体がドロドロだもの」
 妻の提案は意外なものだった。確かに怪物たちとの戦闘で三人とも泥だらけになっていた。
「でも風呂って……まさかこの体で風呂に入れっていうのか? そんなことできないぞ。ヒカリだって嫌だろう」
「仕方ないでしょう。みんな泥だらけだし、ヒカリちゃんの傷だって完全に治ってるようには見えないわ。ちゃんと体を洗って手当してあげないと。ヒカリちゃん、この人の体で嫌でしょうけど、今だけ我慢してお風呂に入ってくれないかしら?」
「わ、わかりました……私は気にしませんから、五郎先生もちゃんとお風呂に入ってくださいね」
「せっかくだからみんな一緒に入りましょうか。体が入れ替わってるんだから、そっちの方がいいかもしれないわ」
「みんな一緒に風呂って……ほ、本気かよ? 俺、この体で風呂に入るところを見られるのかよ」
「さっきから何度も言ってるけど、仕方ないでしょう。いつ元に戻るのかわからないのよ。それまでお風呂もお手洗いも我慢するつもり?」
「うう、畜生……悪い、ヒカリ。許してくれ……」
 五郎は観念した。いつ元の体に戻れるのかわからないが、それまではヒカリの体で日常生活を営むしかない。
 アカネによって五郎とヒカリは浴室に追いやられた。
「ヒカリちゃん、脱いだ服はカゴの中に入れておいてね」
「は、はい……」
 五郎の家の脱衣所で、ヒカリは心細そうに服を脱ぐ。青いジャージの中から現れたのは、ところどころたるんだ大柄な中年男の肉体だ。それはヒカリ自身の身体ではなく、魔獣によって取り替えられた五郎の肢体だった。
 ヒカリの目から涙がこぼれた。少女の繊細な心が傷ついているのは明らかだ。自分の体がむさ苦しい中年男のものになってしまったのだ。当然だろうと五郎は思った。
「ヒカリ……」
 半泣きの女生徒を気にかけながら、五郎も服を脱ぎはじめる。黒の吊りスカートを脱ぎ、白いブラウスを床に落とした。まだブラジャーはつけていないが、幼い少女の体の乳房は確かに膨らみはじめている。ショーツを脱ぐと、つるつるの秘所があらわになった。
 心臓の鼓動が速まった。きっとあと数年も経てば、柔らかな肉がついて女らしく色っぽく育つだろう。清らかな幼い乙女の体を見下ろし、五郎は恥じらいと興奮を覚えた。
「先生……」
「ヒカリ……す、すまん」
 視線に気づいて、五郎はヒカリと向かい合った。身長一八〇センチのヒカリが一三〇センチの五郎を涙目で見下ろしていた。
 五郎はそれ以上ヒカリと目を合わせていられず、壁に備えつけられた姿見をのぞいた。
 無精ひげを生やした四十男の顔と、第二次性徴を迎えたばかりの幼い女体が結合していた。五郎の頭がヒカリの体を動かしているのがよくわかる。可憐なのに不気味……とてもグロテスクな姿だ。
(俺、こんな体になっちまって、本当に元に戻れるのか? いったいこれからどうなるんだ……)
 雪のように白い肌が、不安と興奮でほのかに色づく。五郎の感情がヒカリの体に反映されていることを思い知らされた。五郎の意思がヒカリのか細い手足を動かし、ヒカリの繊細な肌の感覚が五郎の脳に送られる。この美しい女児の身体をいま所有しているのは五郎なのだ。
 これから成長して綺麗な花を咲かせるつぼみのような身体が、ほんのいっときとはいえ自分のものになっている……それが嬉しくないと言えば嘘になるだろう。理性に蓋をされた五郎の心の奥には、確かに変態めいた欲望が存在していた。
「あら、あなたも脱げたわね? じゃあお風呂に入りましょうか。イヤなことは全部忘れて、綺麗になってすっきりしましょう」
 愛妻に子供のように手を引かれて、五郎は浴室に足を踏み入れた。
 戸建ての浴室は決して狭くはないが、やはり三人同時に体を洗うのは窮屈だ。五郎は簡単に体を洗い流すと、先に湯につかることにした。
(ええい、今は気にしてもしょうがねえ。そのうちなんとかなるだろ)
 湯船の中で小さな体でふんぞり返る。それだけで疲労と不安が吹き飛んだ。
 妻のアカネは五郎の複雑な心中を知ってか知らずか、平然とヒカリの髪を洗ってやっていた。日頃は息子の世話を焼くのが大好きで、もともと子供好きでもある。ヒカリの方もそんな優しいアカネに心を許し、早くも懐いているようだ。
 そんなヒカリの体をアカネが洗う。体毛が濃いたくましい男の肉体……元は筋肉質だったが最近はややたるみつつある中年男の肉体が、可愛らしい女の子の顔の下にある。変わり果てた自分の姿を見たくないのか、ヒカリはずっと目を閉じたままアカネに体を洗わせていた。
「あっ、おばさん……そこ、くすぐったいよ」
「大丈夫? 男の体は臭うから、隅々までしっかり洗っておかないとダメなのよ」
 アカネは笑ってヒカリの股間に手を伸ばした。そこには皮の剥けた立派な一物が垂れさがっており、ヒカリは幹をぎゅっと握られ飛び上がった。
「いやあっ、おばさん何するの? そんなところ触らないでください……」
「大丈夫、大丈夫よ。ここは特に汚いから、念入りに洗っておかないとね。ほら、こうやって……」
 アカネはヒカリのペニスを指でごしごしと擦り、ボディソープをすり込んでいく。男の象徴は恥ずかしがるヒカリを無視して簡単に立ち上がった。
「な、なにこれ……こんなものが私の体についてるの?」
 おそるおそるといった様子でヒカリは目を開き、自分の股間で雄々しく勃起する肉棒を眺めた。まだ性の知識も乏しいであろう少女には似つかわしくない巨大な男性器だ。アカネはそんなヒカリを優しく慰め、いきりたったペニスを手でしごいてやった。
「お、おい……アカネ、何をしてるんだ」
「ただ洗ってるだけですよ。あなたはゆっくりお湯につかっててください」
 動揺する五郎を制止し、彼の愛妻はヒカリへの奉仕を続ける。自慢の巨乳の谷間にローションをふりまき、少女のものを乳の間にはさみ込んだ。弾力のある肉の塊に夫のモノがのみ込まれた。
「ああっ、こんなの変だよう……おばさん、何してるのっ」
「ふふっ、大人はこうやって体を洗うのよ。おばさんと先生はいつもこうしてるんだから。そうよね、あなた?」
 アカネは茶目っ気たっぷりに言って、ヒカリを乳房で喘がせた。「パイズリが好きな妻です」とはなかなかひとに言えることではないが、アカネは五郎のどんな淫らな欲求にも応えてくれるできた妻だ。四十前になった今でも寝室での営みは盛んだが、まさかヒカリにこのようなことをするとは思わなかった。
「やめろアカネ、ヒカリが嫌がってるじゃないか」
「そんなことないでしょう。ヒカリちゃんは気持ちよくて嬉しいのよね? おばさんにはわかるんだから」
 アカネは自由自在に乳を揺らして、性知識のないヒカリを責めたてた。人類を守りつづけてきた魔法少女は情けない喘ぎ声を何度も発し、とうとう我慢できなくなる。
「ああっ、おばさん……なにか、なにかくる。お腹の底から何かがせり上がって──あっ、ああんっ。出るっ、出るようっ」
 ヒカリは犬のように舌を出し、アカネの顔に射精した。白濁した粘液が顔と胸を汚した。栗の花の臭いが広がる。ヒカリは荒い呼吸をして浴室の壁にもたれかかった。
「はあっ、はあっ。おばさん、私……なにか、なにか出ちゃったよう。おちんちんの先からビューって……私の体におちんちんが生えてて、こんなネバネバしたものが出てくるなんて、怖いよう……」
「それでいいのよ、ヒカリちゃん。これはちっとも恥ずかしいことじゃないの。大人の男の人は毎日こうしなきゃダメなのよ。気持ちよかったでしょう? さあ、おばさんともっともっと気持ちよくなりましょうね」
 アカネはヒカリを床に座らせ、その股間に顔をうずめた。そして何やら口にくわえてぴちゃぴちゃと艶っぽい音をあげはじめた。何を始めたのか五郎には明らかだった。口淫だ。
「おい、アカネ。何もそこまでしなくても……」
「いいじゃない。せっかくヒカリちゃんが男の体になってるんですもの。くよくよするよりも楽しんだ方がずっと気が楽でいいわ。あなたもヒカリちゃんの体を楽しませてもらったら?」
 唇の端から精の雫を滴らせる妻の淫らな表情に、五郎は興奮を抑えられない。
 しかし今の五郎の体には興奮しても勃起するペニスがない。五郎は浴槽のふちに腰を下ろし、膨らみかけの乳房やつるつるした股間に手を伸ばした。
「ヒカリの体……まだ小さいけど、確かに女なんだな」
 悪いとは思いつつも、五郎の心に不埒な欲望が湧き上がった。葉っぱのように小さな手のひらで濡れた腰や胸を撫でた。もちもちした肌触りがたまらない。がさがさした中年男の体はおろか、むっちりした妻の体ともまるで異なる。心地よい感触だ。
 指先で秘所に触れると、くちゅくちゅした蜜の感触がある。幼い女体が発情しているのは明らかだった。そうさせているのは五郎だ。五郎の脳が淫らな信号を体に送り、ヒカリの体を発情させているのだ。
 幼いヒカリに自慰の経験はないはずだ。そんな無垢な体を五郎はいじくり回し、彼女が味わうべき未成熟な官能を代わりに満喫した。罪悪感と背徳感、そしてそれよりも強い興奮がますます幼女の肉体を熱くさせる。
「ああっ、ヒカリの体……あのブリリアキュートの体が俺のものに……」
 テレビで何度も見た魔法少女の姿を思い起こしながら、五郎は幼い女体を楽しんだ。指先で秘所の入口をかき回し、菊門にほんの少しだけ指を入れる。小さな乳房の先端がつんと立ち上がった。五郎は守るべき生徒の身体でますます昂っていく。
「おおっ、気持ちよくなってきた。俺、ヒカリの子供まんこで……イ、イクっ、うおおおっ」
 幼稚な肢体が跳ね、五郎の目の前に花びらが舞った。か細い胴体をめいっぱい反りかえらせ、五郎は少女の肉体に初めての絶頂を教え込む。五郎は浴槽の縁からすべり落ち、派手な水音をあげて湯に沈んだ。
 浴室の反対側では、へたり込んだヒカリの上にアカネが腰を下ろそうとしていた。勃起したヒカリの肉棒とアカネの女陰がキスをする。子供を産んだ三十八歳の女の体が、夫のものだったペニスをゆっくりと飲み込んでいった。
「あっ、ああっ、おばさん……私のおちんちんが、おばさんの中に入っちゃった……!」
「ふふっ、気持ちいいでしょう? これが男と女のセックスよ。ヒカリちゃんは、いま先生の代わりにおばさんとセックスしているの。体は夫婦だから何もおかしいことはないのよ」
 アカネは顔に妖艶な笑みをたたえてヒカリを貪る。淫らがましく腰をくねらせ、男になったばかりの魔法少女の心に女の味を刻み込んだ。ヒカリは未知の快感に自分を抑えられないようだ。情けない悲鳴をあげてアカネにリードされていた。
 とうとう性交まで始めた妻の姿に、五郎は動揺を隠せない。あれは浮気ではないか、いや体は確かに夫婦だから浮気ではないのでは……そんな埒もない問いを己に投げかけながら、幼い少女の体で自慰にふける。五郎とヒカリの声が重なり、狭い浴室は嬌声と吐息で満たされた。
「ああっ、おばさん、おばさんっ」
「名前で呼んでちょうだい。アカネって呼んでくれたら、もっと気持ちよくしてあげる」
「アカネさん、アカネさあんっ」
 ヒカリの太い腕がアカネの肉づきのいい腰に回され、人妻の体が持ち上がった。ヒカリは自分の意思で腰をアカネに叩きつけはじめた。パン、パンと肉のぶつかる音があがり、二人はいっそう燃え上がる。
「ああ、いいっ。いいわ、ヒカリちゃん。私も気持ちいいわよ。まるで本当にあなたとしてるみたい……」
「アカネさん、私の体、止まらないようっ」
 ヒカリはアカネを抱き寄せ、彼女を犬のように這いつくばらせた。そして今度は後背位でアカネを犯す。無垢な少女に体位の知識があるとは思えないが、ヒカリは自然な動作でアカネの尻たぶを押さえてペニスを盛んに出し入れしていた。広がった鼻の穴から熱い息が漏れて、可憐な顔が台無しだ。
「ま、また出るっ。アカネさんの中に私のが……おおおっ、で、出るっ、出ますうっ」
 ヒカリは今までにない雄叫びを発して男のエクスタシーに酔いしれた。体毛の濃い中年男の体がぶるぶる震え、愛する妻の生殖器に己自身を注ぎ込む。いまやテレビに映らない日はないとさえ言われる人類の守護者、魔法少女ブリリアキュートが人妻を孕ませようと吠えていた。
「お、おい。お前ら……!」
 五郎は息を切らして二人を眺めた。男女の激しい営みを見せつけられ、のぼせているのがわかる。五郎の小さな乳房の先は硬くしこり、肌がほのかな桜色に染まっていた。
「ヒカリちゃん、お疲れ様。五郎先生の体で気持ちよくなれた?」
「え? は、はい……その、すごかった、です」
「よかったわ。可愛いヒカリちゃんがゴツゴツの男の体になっちゃって、嫌がってるんじゃないかって心配していたの。気に入ってもらえたなら私も嬉しいわ。ねえあなた?」
「アカネ、お前はいったい何をやってるんだ。そんな小さな女の子にいやらしいことをして……しかも俺の前でだぞ。いったい何を考えてるんだ!?」
 五郎はぼうっとした頭で必死に妻を糾弾した。常識で考えたら決して許されない行いだ。自分は怒るべきだと思ったが、暑さと興奮のために思考がうまくまとまらない。
 アカネはヒカリにしなだれかかり、そのたくましい胸板を撫で回した。
「私はヒカリちゃんに、あなたの体を気に入ってもらおうと思っただけよ。新しい体が気に入ったら、元に戻りたいなんて思わなくなるでしょ?」
「なんだって?」
「私はあなたの妻ですから……あなたのことは何でもわかるのよ。あなた、ヒカリちゃんの体になって嬉しいんでしょう」
「何を言ってるんだ、そんなわけないだろ。こんな小さな女の子の体になるなんて、嫌に決まってる……!」
「それは嘘よ。さっきあなたが化け物と戦ってる姿を見てピンときたわ。本当に笑顔で生き生きして……ああ、あなたはやっぱり魔法少女になりたいんだなって思ったの」
「アカネ……?」
 五郎は呆然とアカネを見つめた。長年連れ添った妻の言葉が理解できずに困惑した。
 自分は魔法少女になりたいと望んでいる……その指摘は五郎にとって思いもよらないことだった。
「ねえヒカリちゃん、悪いんだけど……あなたの体、この人にくれないかしら? この人、魔法少女になりたくて仕方ないの。魔法少女ブリリアキュートになって、家族や学校のみんなを守りたい……そんな夢がヒカリちゃんの体さえあれば叶うのよ。だからヒカリちゃんも協力してくれない?」
 驚く五郎を置き去りにして、アカネはとんでもない要求を口にした。
「そんな……そんなのダメです! 私がブリリアキュートになってみんなを守らなきゃ。これは私がしなくちゃいけないんです!」
 ヒカリは赤ら顔でかぶりを振った。
 当然の回答だ。中年男性教師と幼い女子学生に、一生体を交換したままで過ごせとアカネはいう。決してあってはならない邪な提案に、賛同できるはずがない。
「ヒカリちゃん、あなたは私たちの命の恩人よ。でもね……そんな大切なあなただからこそ、これ以上あんな化け物と戦って危ない目に遭ってほしくはないの。この人の体と入れ替わったままなら、ヒカリちゃんはただの一般人。もう危険な戦いに行く必要はないわ。代わりにこれからはこの人に守ってもらいましょう。子供は大人が守るものよ」
「そんな……そんなの困ります。私はブリリアキュートなんです。いくら危ないからって、先生と交代なんてできません」
「それなら訊くけど、どうやって元に戻るの? あの恐ろしい合成魔獣っていうのを倒せば、あなたたちの体が元に戻るかもって言ってたわよね。でも元に戻ってない。もしかして……あなたたち、二度と元の体には戻れないんじゃないかしら? もしもそうなら、もうヒカリちゃんは魔法少女になれないわね。これからはこの人が新しいブリリアキュートよ」
「そ、それは……そんなことないです。そのうち私の体は元に戻るはず……!」
 ヒカリは半泣きになっていた。繊細な心の少女には残酷すぎる指摘と提案に、五郎はアカネの正気を疑う。
 しかしアカネは発狂したわけではなかった。二十数年間の長い時間を共に過ごした愛妻は、ヒカリから視線を外して夫の胸の内をのぞき込んでくる。
「ねえあなた、あなたはどう思ってるの?」
「俺……か? どうって……」
「そのヒカリちゃんの体なら、あなたも魔法少女に変身して戦うことができるんでしょ? あなた、いつもあんな風にみんなを守りたいって言ってたわよね。その体をあなたのものにしちゃえば、あなたはこれから魔法少女として正義のヒーロー、ううん、ヒロインになれるのよ。私はあなたにも危ない目に遭ってほしくはないけど……でも、ヒカリちゃんが化け物にやられて死んでしまうくらいなら、あなたが魔法少女になってヒカリちゃんを守ってあげた方がいいんじゃないかしら」
「俺に……この体でみんなのヒーロー、正義のヒロインになれって言うのかよ……」
「先生、ダメっ! ブリリアキュートは私なの! 私の体を返してっ!」
 ヒカリはとうとう暴れだした。頭は小さな子供でも、首から下はたくましい成人男性のものだ。五郎もアカネも腕力で敵うものではない。ヒカリの大きな手が迫り、五郎は慌てて湯船から飛び出した。
「ヒカリちゃん暴れないで! あなた変身して! 早くっ!」
「え? あ、ああ……変身! 魔法少女ブリリアキュート!」
 次の瞬間、五郎はピンクのワンピースドレスを着て魔法のステッキを手にしていた。
 魔法少女ブリリアキュートに変身した細い女児の腕は、人間離れした怪力を誇る。五郎はあっさりヒカリを取り押さえ、タオルで後ろ手に縛り上げた。それでもなおヒカリはじたばたあがく。
「こんなのやめて! お願い先生、私の体を返してよっ! ブリリアキュートは私なんだよ!?」
「わかってる。今までヒカリが魔法少女に変身して命がけで俺たちを守ってくれてたことを、俺はよくわかってる。それを裏切るような真似はできねえよ……」
「あなた、心にもないこと言わないで。あんなにヒーローになりたがってたじゃない。元に戻る方法だってわからないんだから、それまであなたがヒカリちゃんに代わって正義のヒロインをすればいいのよ。お願いあなた……魔法少女になって、私や陸斗、街のみんなを守ってちょうだい。命がけでみんなを守るのは男の仕事だって思ってるでしょう? それをヒカリちゃんに押しつけて、自分はこの子に守ってもらうつもり?」
「先生、ブリリアキュートは私だよね? その体、絶対返してくれるよね!?」
 アカネとヒカリ、それぞれの主張は正反対だ。
 このまま五郎がヒカリの代わりに魔法少女となって人々を守るべきか。それともヒカリに体を返す方法を探して、そのあと無力な一般人としてこれまで通りブリリアキュートに守ってもらうべきか。
 対立する二つの選択のいずれかを選ぶよう五郎は強いられていた。
(俺はいったいどうすりゃいいんだ……?)
 魔法少女のピンクのワンピースドレスを着て、五郎は考え込んだ。湿気の多い浴室の中、肌も衣装もずぶ濡れだ。
 苦悩する五郎の胸で、様々な思いが交錯する。それは先ほど魔法少女として戦うことを決意するときと同様の煩悶だった。
「俺が強ければ……アカネも陸斗も、ブリリアキュートだって守ってやれるのに……」
「命がけでみんなを守るのは男の仕事だって思ってるでしょう? それをヒカリちゃんに押しつけて、自分はこの子に守ってもらうつもり?」
「やった……俺が勝ったのか? 俺があの恐ろしい化け物を倒して街を守ったのか……?」
 聖なる力を行使して魔界の怪物どもと戦う正義のヒロイン、魔法少女ブリリアキュート。
 世界でたった一人しかいないその救世主に自分がなるというのは、今まで凡夫として燻っていた五郎にとって抗いがたい誘惑だった。
 そして……五郎は決断を下した。
「ヒカリ、落ち着いて聞いてくれ。これからは俺がブリリアキュートとしてみんなを守る。お前もアカネも、学校のみんなも全員守ってやる。だから頼む。この体を……ブリリアキュートの体を俺にくれ」
「先生っ!? そんなのダメだよ!」
「みんなを守るのは大人の男だ。だから俺は魔法少女になる」
「絶対ダメ! ブリリアキュートは私なんだからあっ!」
 ヒカリは半狂乱になって暴れた。タオルで縛ってはいたが、全力でもがいて大きな体が壁や浴槽に何度もぶつかった。このままでは自分たちやヒカリが怪我をしてしまうかもしれないと五郎は慌てた。
「やめろ、ヒカリ! 狭いのに暴れるな! ああ、どうしたらいいんだ……」
「あなた、落ち着いて聞いて。魔法少女だったら魔法……いいえ、催眠術のひとつやふたつ使えるはずよ」
 またしても意外な提案をするアカネ。今日はこの妻に驚かされてばかりだ。長年共にいて何もかも知っていると自負していたが、それは五郎の勘違いだったかもしれない。
「催眠術……魔法少女の魔法にそんなのあるか……?」
「そうよ。あなた秘蔵のいやらしいビデオにそんな話が出てくるでしょ。それでヒカリちゃんを催眠状態にして言うことを聞いてもらうの。とにかくやってみて! 迷ってる暇はないわ!」
「そ、そうか……でもホントにそんなことできるのか? えーと、えーと……魔法少女ブリリアキュートの神聖魔法! スターライト・スケベサイミン?」
 半信半疑というより戯れの試みだったが、驚くべきことに五郎の指先が光りだした。その指をヒカリの鼻先に突きつけると、たちまちヒカリの目の焦点がぼやけ、口がだらしなく半開きになった。
 以前観たアダルトビデオでこのような催眠術を女性にかけるシーンがあった。相手の心を奪い、意のままに操る妖しい魔術……魔法少女になった五郎は、そんな都合のいい催眠術で相手の精神を操作できるようになったのだ。
「ほ、本当に成功した……のか? おい、ヒカリ、先生の声が聞こえるか?」
「はい……私、先生の声が聞こえます……」
「すごいな、魔法少女の力は……何でもありじゃないか。えーと、これからヒカリは、俺の体でいることを嫌がらなくなる。男の体は素晴らしい。アカネのことが大好きで、何でも言うことを聞いてしまう……こんなところでいいか?」
「はい……私、先生の体でいることを嫌がりません。男の体は素晴らしいです。アカネさんのことが大好きで、何でも言うことを聞いてしまいます……」
 まるで機械のように抑揚のない声で、ヒカリは従順に命令を復唱した。
 五郎は安堵した。もしも魔法が効いているなら、これでヒカリが暴れることはないはずだ。
「効いたのかしら? ヒカリちゃん、起きて。私の顔を見てもらっていい?」
 そこで意識を取り戻したヒカリは、赤面してアカネから目をそむけた。
「ア、アカネさん……? ああっ、恥ずかしい。そんなに近くで見ないでください……」
「どうして? こんなに顔を赤くして……さっきまではこんな風にはならなかったわよね」
「そ、それは……アカネさんの顔が近いから……」
 ヒカリは浴室の壁に顔をぴったりつけて恥ずかしがった。「わ、私、アカネさんのことが好きなんです……!」
「へえ、そうだったの? だからこんなにおチンポを硬くしちゃって……ふふっ、嬉しいわ。私もヒカリちゃんのことが大好きよ」
 ヒカリの勃起した一物を握りしめ、アカネは妖しく笑った。
 二人の会話に五郎は驚きと戸惑いを隠せない。
 ぞんざいで思いつきの催眠術。それが効果を遺憾なく発揮しているようだ。
「ああっ、アカネさん、アカネさん……!」
「さっきの続きをしましょうか。おばさんのこんなだらしない体でよかったら、ヒカリちゃんの好きにしていいわよ。その代わり……あなたの体をこの人に使わせてやってね」
「はい、いいです! 私ずっとこの体でも構いません! こんな大きなおチンポで大好きなアカネさんとセックスできるんだったら、私、魔法少女なんてやめます! もっとアカネさんと仲良くなりたいです!」
 ヒカリは心ここにあらずといった様子で激しく自分のペニスをしごき、荒い吐息をつく。その物欲しげな眼差しは人々を守る魔法少女のものではなく、風俗店にやってきた性欲盛んな中年男のそれだった。
「さあ、きてちょうだい。おばさんの意地汚い体を満足させて、ヒカリちゃん……」
「はいっ! ああっ、アカネさん、最高です! 大好きです、アカネさあん……」
 そしてアカネとヒカリは再度交わった。壁に手をついて豊かな尻をこちらに向ける人妻に、巨体の少女が背後から襲いかかる。ヒカリはアカネの尻たぶをわしづかみにして、いきりたった一物を繰り返し挿入した。
「おほおっ、チンポとけるっ。アカネさんの体、柔らかくてムチムチで……ああっ、たまらないの。いくらでもチンポハメちゃうのっ」
「ああん、んふっ、いやらしい腰づかいだこと。ヒカリちゃん、あなた可愛い魔法少女よりも、スケベなおじさんの方が性に合ってると思うわ。素敵よヒカリちゃん。ああっ、ああんっ」
 中年同士の体が絡みあい、振り返ったアカネとヒカリが情熱的なキスを交わした。すっかりヒカリを虜にしたアカネは、男を喰らうサキュバスもかくやという淫猥な動作で腰をくねらせ、元魔法少女の中年男とのセックスに没頭した。
「アカネさんの中、最高です。お母さんみたいに私を優しく包み込んでくれるの。アカネさん、アカネさんっ」
「あなたの大事な体を奪ってしまってごめんなさいね、ヒカリちゃん。代わりにおばさんが責任とって結婚してあげる。おばさんにヒカリちゃんの赤ちゃんを産ませてくれない? そろそろ二人目が欲しいと思ってたのよ」
「アカネさんが私のお嫁さん……? そ、そんな嬉しいこと言われたら──で、出るっ、また出ちゃいますっ、うおおおおっ──トロトロのザーメン止まらないっ。おお、おふっ。アカネさん、ああアカネさん、私と結婚してえっ。私の赤ちゃん産んでえっ。おおっ、うおおおっ」
 すっかりアカネに惚れてしまったヒカリは、たくましい夫の体で彼女を犯し、幼い少女に不似合いな淫らな言葉と共に、何度も絶頂を迎えた。
 五郎はあまりの術の効き目に仰天するしかない。あれほど魔法少女であることに誇りと責任を持っていたヒカリは、あっさりとその地位と体とを手放し、ブリリアキュートの名前と力を五郎に譲ってくれたのだ。
「よかったわね、あなた……これでヒカリちゃんの体はあなたのもの。これからはあなたがみんなを守る魔法少女よ。夢が叶ってよかったじゃない」
「ああ、そうだな……ありがとう、アカネ。すまない、ヒカリ……」
 熱を帯びる秘所から蜜をとろりと滴らせ、五郎はアカネとヒカリの性交を見つめた。不安と罪悪感、そして期待が交錯し、五郎の首と結合した魔法少女の体を興奮させる。気持ちが昂るほど聖なる力が湧き出てくるのを感じた。
 五郎は大人同士の淫らな振る舞いを観賞しながら、自分が着ているワンピースドレスの上から幼い女体をいやらしく撫で回した。
 これからはこの可憐なヒロインの体が自分のもの……その事実を五郎はいつまでも噛みしめていた。長らく己が欲していたものを、五郎は思いもよらない幸運によって手に入れたのだ。

 ◇ ◇ ◇ 

 休日の夜、五郎が夕食を終えて風呂に入っていると、息子の陸斗が駆け込んできた。
「お父さん、大変! 街に怪物が現れたよ!」
「そうか、今行く」
 五郎は手早くバスタオルで体を拭き、パジャマではなく外出用の着替えに袖を通した。白いショーツの内側に生理用ナプキンを付け、ショーツと同じ色のブラジャー、長袖のピンクのブラウス、細い太ももが見える長さの黒いミニスカートを慌ただしく身に着ける。
 半年前はまだ子供だった五郎の体も、少しずつ大人の女になりつつある。女性器の上にはうっすらと陰毛が生え、ブラジャーが不要だった乳房は膨らみ、しばらく前に初潮を迎えた。
 変わったのは体つきだけではない。健やかな少女の肉体が分泌するホルモンのせいか、薄かった頭髪は生え際が数センチ前進し、半日で剃らなくてはならなかったヒゲもかなり薄くなった。武骨な顔のつくりこそ変わらないが、荒々しい男らしさは随分と失われたように思う。若い頃はスポーツに熱中し筋肉質の自分の体に自信を持っていたことから、五郎は日々女々しくなっていく己に物足りなさを覚えていた。
「繰り返します。市内の全域に避難命令が発令されました。住民の皆さんは命を守る行動をとってください。静かに、落ち着いて、速やかに避難しましょう……」
 リビングのテレビが臨時ニュースを伝えていた。駅前の商業ビルやホテルが派手に燃え盛る映像が流れる。見慣れた黒いマネキン人形の怪物どもが街を襲っていた。
「おのれレギオン。なんてひどいことを……!」
 繰り返される悪夢に五郎は唇を噛みしめた。決して許すわけにはいかない。
 しかし今は先に家族を避難させる必要があった。寝室のドアを開けると、仲睦まじい夫婦が夜の営みの真っ最中だ。
「ああっ、アカネ、私のアカネっ」
「ヒカリさん、素敵よ……ああっ、あんっ、あなた、私の腰が止まらないのっ」
 ベッドに仰向けで寝たアカネの上にヒカリがのしかかり、腰を激しく打ちつけていた。二人ともじっとりと汗ばみ、むせ返るような男女の精臭と加齢臭が五郎の鼻を刺激した。
「おい、お前たち! またレギオンが現れたぞ! 早く避難しろ!」
 股間が湿るのを我慢して、五郎は夫婦を怒鳴りつけた。二人は深刻さの欠片もない表情で五郎を見返すと、「避難だって。面倒くさいな」、「先にシャワーを浴びてくるわね、あなた」などと言いながら、のろのろと支度を始めた。五郎は嘆息した。
 あの運命の日から半年が過ぎていた。
 可憐な少女だったヒカリの顔には薄くヒゲが生え、小さな鼻の穴から鼻毛がぴょこんと飛び出していた。たっぷり贅肉のついた中年男の巨体をベッドの上に投げ出し、汚れた尻をボリボリかきむしる。
 人類を守るべく命がけで戦い続けた愛らしい魔法少女が、今ではこのありさまだ。家ではアカネ相手に、そして学校ではクラスメイトの健太郎と淫らな行為にふけってばかり。メイの母親の体と入れ替わって女児を出産した健太郎は、いまやヒカリのセックスフレンドだ。
 一方のアカネは、半年前よりも全体的な身体のシルエットが丸みを帯びて、精液まみれの全身から濃厚なフェロモンを撒き散らしていた。わずかに腹が膨らみ、よく見れば彼女の体に新しい命が宿っていることに気がつくかもしれない。
 男になったヒカリに毎晩抱かれつづけた結果、アカネは当然のようにヒカリの子を身籠り、身も心もヒカリの女になった。最愛の相手は五郎だと口では言うが、日夜愛しあうヒカリの方により強く惹かれているのは誰の目にも明らかだ。長年連れ添った妻をヒカリに奪われてしまったことは、五郎にとって唯一の誤算である。
「さて、俺も準備しないとな……変態! 魔法少女ブリリアキュート!」
 狭い寝室の隅で、五郎の体が白い光に包まれた。ブラウスとスカートがピンクのワンピースドレスへと変化し、五分刈りの黒髪が明るい金色に染めあげられた。その活躍がニュースにならない日はない、世界一有名な魔法少女が現れた。
 魔法少女ブリリアキュート・五郎。
 はじめは首から下だけの変身だったが、ブリリアキュートとして戦いつづけるうちに頭のてっぺんまで魔法少女の力が及ぶようになった。ヒカリのものだったブリリアキュートの肢体は、今では完全に五郎の一部。天界から授かった聖なる力もすっかり五郎のものだ。
「さて、家族を守るためにはオナニーオナニーっと……んっ、おっ? 今日は調子がいいな。おおっ、おんっ」
 ブリリアキュートになった五郎はワンピースの裾をまくり上げ、下着の中に手を入れて己の秘所をもてあそんだ。
 日に三度は自慰にふける五郎のヴァキナは細い指をくわえ込み、早くも蜜を垂れ流す。揉みしだいた乳房がしこり先端が硬く立ち上がった。
「先生、オナニーどう? 気持ちいい? また私のチンポ勃っちゃった……」
 アカネがいなくなって手持ち無沙汰になったのか、ヒカリがブリリアキュート・五郎の体をのぞき込んだ。何度もアカネに射精したはずなのに、ヒカリの股間では中年男の一物が雄々しく天を向いていた。その性欲の対象が自分であることに、五郎は体の震えを抑えられない。
(ヒカリが俺のオナニーを見てチンポしごいてる……ヤ、ヤバい。俺、このまま犯されるかも)
 ヒカリはじっと五郎を見て、股間の手を荒々しく上下させていた。この半年間で幼い女体は随分と女になった。男のものを受け入れ、子を孕めるほどには。
 処女の膣内を強靭な肉の穂先にかき回される妄想が、ブリリアキュートの肉壺を潤ませる。生理を迎えて経血の滴る陰部が、かすかにチーズのような臭いを放っていた。下腹がじくじくと疼いて我慢できない。ますます激しい指の動きで、五郎は自らを燃え上がらせた。
「ヒカリ……ダメだ。そんなにチンポを見せつけないでくれ。ああっ、あっ、た、たまらんっ」
「私、アカネのことが一番好きなのに……でも先生のオナニー見てるとおチンポ勃っちゃうよ。はあ、はあっ、ダメ、私、先生ともセックスしたいよう。先生の小さなまんこにチンポはめたい……!」
 五郎とヒカリ、肉体を交換した男女がともに欲情に駆られて向かいあった。
 このままでは合体する……と思われたそのとき、陸斗が寝室に入ってきた。
「お父さん、街に行って悪いやつらと戦うの?」
「あ、ああ……俺は正義の魔法少女だから、お前たちを守らないとな。陸斗はお母さんたちと安全な場所に避難してなさい」
 五郎は息子の声で気を紛らわせ、再び自慰に集中した。
 決して遊んでいるわけではない。これはブリリアキュートが皆を守るために必要な行為なのだ。快楽に溺れて使命を忘れるわけにはいかなかった。
「うん、わかった、頑張ってね!」
 あどけない顔で笑う陸斗に、五郎はどきりとさせられる。「こないだテレビでお父さんが戦うところ観たけど、ホントにすごかったよ。強くてカッコよくてさ。僕、将来はお父さんみたいになりたい。お父さん大好き!」
 幼い息子が自分に憧れ、自分を頼りにし、自分への好意をストレートに伝えてくれる。それは長らく無力な一般市民として燻っていた五郎にとって最上の幸福だ。
「だ、大好き……? おっ、おおっ、ヤバい。俺イクっ、イってしまうっ。うおおっ、おほおおんっ」
 効果は覿面だった。見る間にブリリアキュートの理性は崩壊し、強烈なオルガスムスに追いやられた。真っ白な視界に赤い光が明滅する。少女になった中年男は白目を剥いて潮を噴いた。歳の近い少年の前で、幼い少女の体は恥ずかしげもなく絶頂を迎えてしまった。
「はあっ、はあっ、ち、力があふれてくる……すげえ……!」
 呼吸を荒くするブリリアキュートの全身に白い光がきらめき、これまでにない莫大な魔力が湧き上がった。
 正気を取り戻した五郎は、自分の発情しきった体を見下ろして強くうなずく。五郎が魔法少女の力を引き出すのに最も効率のいい手段は、こうして自慰にふけることなのだ。今の五郎の魔力量はかつてのブリリアキュートを軽く凌駕していた。
「お父さん、すごい……! これならレギオンなんてひとひねりだね!」
「ああ、これも全部陸斗のおかげだよ。ありがとな!」
 五郎は勢いよく家の外に飛び出した。背中から白く大きな翼が広がり、ブリリアキュートは風になる。小柄な体からあふれ出す聖なる力を制御しきれず、光り輝く球体と化して現場へと向かった。
 炎上する街の各所にあの黒いマネキン人形が蠢いていたが、五郎はもう逃げない。秘所から漏れ出る愛液で生理用ナプキンを湿らせながら、五分刈りの中年男性魔法少女は人々を襲う怪物どもの前に立ちはだかった。
「俺はみんなを守る変態ヒロイン、魔法少女ブリリアキュート! 家族もヒカリも学校の子供たちも、みんな俺が守ってみせる!」

 首から下は清楚で可憐な魔法少女・ブリリアキュート。
 首から上は助平で無鉄砲な中年教師・五郎。

 生まれ変わったブリリアキュートはこれからも聖なる変態魔法少女として悪を討つ。いつか魔界の秘密結社レギオンを打倒するその日まで……。



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