絵理と婆ちゃん

 絵理はフェンスにもたれかかるようにして英二を待っていた。肩まで伸びた栗色の髪が風に揺れている。
「絵理、いるか?」
「あ、英二――」
 絵理は幼稚園の頃からずっと一緒に過ごしてきた、いわゆる幼馴染である。 性格は明るく裏表がなくて、誰に対しても優しく振舞うのが美点だった。 だが恋愛には縁がないようで、家族以外で周囲にいる男は自分だけ。 英二も積極的なタイプではない。もちろん絵理に対する好意はあるものの、 それが恋愛感情かどうかわからず、結局は今のままの関係を保とうとしてしまう。 そんな状況が高校生になった今でも続いていた。
「何だよ、こんなトコに来いって。誰もいないじゃねーか」
「うん……誰もいないから、呼んだの」
「――?」
 絵理の様子がいつもと違う。なぜか目を伏せて、こちらを見ようとしない。
「何だよ――言いたい事があるならハッキリ言えよ。別に怒りゃしないからさ」
「…………あのね――」
 意を決して、少女は顔を上げた。真っ直ぐ立つと二人の視線の高さはほとんど変わらない。 胸も脚も、高い身長に見合うだけの肉付きをしている。太すぎず痩せすぎず、と言ったところか。
「……コレ、読んでほしいの」
 彼女が差し出したものを訝しげに受け取り、中を開く。白い封筒に入った、やはり白い手紙。絵理が書いたものでない事はひと目でわかった。
「…………」
 いっさいの感情を見せず手紙を読み終えるのは、恐ろしく難しい作業だった。
「……どう?」
「どうって――お前。ただのラブレターじゃねえか、馬鹿馬鹿しい」
 英二は吐き捨てた。本当に馬鹿馬鹿しい話だ。 こんなモノを見せるためにこんな所まで俺を呼びつけたのか、この女は。
「……で、それを俺に見せてどうするつもりだ? 返事出すんだろ?」
「……うん」
 半ば脅えたような絵理の態度は、見ているこちらも辛い。
「テニス部のキャプテンだし……頭もいいし優しいし…… それに、あたしより背が高いし…」
 いっそここから突き落としてしまおうか。 そう思い、絵理の後ろにそびえるフェンスを見て――やっぱりダメだ。網が高すぎる。
「――そうか、そうだな。お似合いだと思うよ、俺も」
「怒らないで !! ……英二にだけは、英二にだけは……わかって、欲しかったの……」
「ああ、わかってるよ」
 友人、親友、幼馴染。友達以上恋人未満。ボーイフレンド。 様々な言葉が頭を横切り、そしてまた消えてゆく。
(俺は――どうしたいんだろうな?)
 振られた男は大人しく消えるべきだろうか。それとも引き止めるべきだろうか。 そもそも、自分は絵理の事をどう思っていたのだろうか。 はっきりせず、ずっと放っておいた自分が悪いのではないか。
「わかってるさ。――ああ、わかってるって……」
 半ばは自分に言い聞かせるように繰り返しながら、英二はその場を後にした。

 落ち着け、落ち着け――心の中で何度も唱えながら帰宅する。 いつもの通学路が何倍にも感じられる。まるで違う道のようだ。
「落ち着け……落ち着け、俺……」
 いつの間にか口に出してしまっている。それに気づきはっとした時、 ようやく自分の家が視界の隅に捉えられた。
が――。
「…… !?」
 絵理の事も忘れ、英二はその場で飛び上がった。
(何でウチに救急車が―― !?)
 息を切らして駆けつける。ちょうど、玄関から一人の老婆が運び出されるところだった。
「――婆ちゃん !! 婆ちゃん !?」
 担架に近づいて大声をあげる英二。
「落ち着いて英二 !! 大丈夫だから !!」
「母さん !? どこが大丈夫なんだよ !! 婆ちゃん、婆ちゃん !!」
「――君、落ち着きなさい !!」
治療の甲斐なく祖母が亡くなったのは、日付が変わる頃だった。

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 

「…………」
 客が一人もいないコンビニに英二はやってきていた。 もう深夜であるが、ちっとも眠る事ができず家を抜け出してきたのだ。
 が、この時間、自宅の周辺で開いている店はほとんどない。
(雑誌でも読むか――)
 中年の店員が暇そうにこちらを見ている。立ち読みを注意されるかと思ったが、幸い声をかけられる事はなかった。
(しっかし――何だよ……今日は俺の終わりの日か?)
 まさしくそんな心境である。なすすべもなく悪化する状況に流される自分。
「婆ちゃん……」
 小さい頃から、祖母は自分を可愛がってくれた。 近頃は耳が遠くなり奇行も出始めていたものの、 まだまだ元気で百まで生きると本人も周囲も言っていた。
 それが、あんなにもあっさり――。
(俺は――)
 学校で一番親しかった女の子と、自分が家で一番懐いていた祖母。たった一日で、彼はどちらも失ってしまったのだ。
(俺は……これからどうしたら……)
「くそ――」
 雑誌を握る手に力を込め意味もなく唸っていると突然、ぽん、と肩を叩かれる。
(誰だ――?)
 両親が気づいて探しにきたのだろうか。正直うんざりだ。
 しかし振り返った英二が見たのは、惚れ惚れするような美少年だった。
「やあ。落ち込んでるみたいだね」
「――あ、あんたは……?」
「ただの通りすがりさ。道を歩いてたらたまたま君の顔が見えて、ちょっと気になったから」
 満面の笑みを浮かべて少年は言った。彼と同じくらいの年頃に見えるが、全く見覚えがない。 空いている店もほとんどないこの界隈を、こんな時間に散歩する高校生がいるのだろうか。 理由もなくにこにこ笑っており、ひたすらに怪しい。
「飲みなよ」
 こちらの困惑をよそに、少年は手に持ったペットボトルの片方を英二に手渡す。
「あ、ああ――ありがとう」
 なぜか断る事ができず、ボトルを受け取ってしまう。そんな英二に少年は微笑んで言った。
「――でも、店の外でね」

「……そうだったのか、大変だったんだね」
 コンビニの前で、英二は今日の出来事を残らず少年に話してしまっていた。
 誰かに聞いてほしい。そんな思いがあったのかもしれない。
「……俺、どうしたらいいんだろう……」
「そうだね――」
 少年は顎に手をやり、少しの間何かを考えていたが、やがてにっこり笑うと、
「それじゃあ、僕が何とかしてあげるよ。お婆さんも、絵理さんの事も」
 まるで、子供の相談に乗る大人のような言い方だった。
「え?」
「ただし――後悔はしないように」
 その視線と言葉に、どうしてか英二は生きた心地がしなかった。

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 

 無事に祖母の葬式と骨揚げは終わった。遺骨を寺に預かってもらい、両親に連れられて夕方、英二は家に帰ってきた。
「ただいま――」
 誰もいない玄関を開く。親戚が少なく兄弟もいない英二にとって一緒に住んでいた祖母が、唯一と言ってよい、両親以外の肉親だった。
 だが、その祖母も今はいない。
「…………」
 靴を脱ぎ玄関に上がった、その時である。
「ああ、おかえり、遅かったなあ?」
「……え?」
 聞き覚えのある女の声に顔を上げる。
「――絵理」
 そこにいたのは、何年も共に過ごした幼馴染だった。学校帰りではなく私服を着ている。
「お前、わざわざ来てくれたのか……」
 この間の事がふと頭をよぎるが、それでも彼女の姿を見て思わず笑みがこぼれた。
 ――ああ、やっぱりだ。絵理は優しい。
 たとえ恋人じゃなくても、友人として英二を心配して来てくれたのだ。
 こんなにいい友達を、自分はどうして悪く思ってしまったのだろう。何だか恥ずかしくなった。
「――ありがとな。でもお前、うちの鍵持ってたっけ? ちょっと待っててくれ、荷物片付けたら茶でも出すから――」
 慌てて絵理にまくしたてる。そこに両親もやってきた。
「ただいま。お留守番してもらってごめんなさいね」
「母さん、とりあえずお茶入れてくれないか。早くゆっくりしたいよ」
「はいはい」
 リビングに入って一息つくと、英二の表情がほっとしたものになる。悲しみは消えていないが、今は気疲れも大きいのだろう。それでも絵理の事が気になって、できるだけ彼女に話しかける。
「変なヤツがいてさあ、すごいキレイな顔してんだけど――」
「……ああ、そうかい。そうかい」
 だが、どうにも絵理の様子がおかしい。自分の話を聞いているのかいないのか、返事だってどこかおかしいし、動作もいつものきびきびしたものではなく、何だか――鈍臭い。
 変だな、と思っていると母がやってきた。
「じゃあ、夕飯のお買い物してくるからお留守番お願いね」
「いいよ」
 うなずいた英二だったが、続く母の言葉を聞いて耳を疑った。
「お婆ちゃんも最近色々と心配だから、ちゃんと英二がついててあげてね」
「……あん?」
 何を言っているのか母は。今祖母の葬式から帰ってきたばかりだろうが。ショックと疲れでおかしくなってしまったのだろうか。
「それじゃ行ってきます、お義母さん」
「ああ、行っといで」
 絵理はそう言って母を見送ると、今度は父に向かう。
「あんたも今日は疲れたろ。ちょっと横になったらどうだね」
「そうだなあ。じゃあ、晩飯ができたら起こしてくれよ、おふくろ」
「あい、いいよ」
 会話の全てが英二の理解を超えていた。
「絵理……?」
「英二ちゃん、いい子だから婆ちゃんと一緒に留守番しようなあ」
「婆…ちゃん? 何だよ、お前――」
 不安がる英二に、絵理はにんまりと歯を剥いて笑ってみせた。
 絵理が見せた事のない、死んだ祖母の笑い方だった。

 夕飯の後、いつも一番風呂に入るのは英二である。
「どうなってるんだ……」
 頭に湯をかけて唸るも、答えは出ない。
 夕食の間も絵理は祖母のように振る舞い、両親も絵理をそう扱い続けた。ああも自然にいられては、こちらが狂ったのかとすら思えてくる。
「なんで絵理が婆ちゃんなんだよ。……父さんも母さんも、俺をからかってるのか?」
 英二が体を洗っていると、外から母の声がした。
「英二――!」
「……何?」
「今日はお母さん忙しいから、悪いけどあんた代わりにお婆ちゃん洗ってくれない?」
「何ぃっ !?」
 返事を待たず、服を脱いだ絵理が浴室に入ってきた。
「え……絵理――何で……」
 正面から絵理の裸体を直視してしまい、英二の顔が真っ赤になる。
「すまねえな、英二ちゃん。今日は我慢して、婆ちゃんに付き合ってくれや」
「絵理っ !! その……前、隠せっ !!」
 横を向いて怒鳴ると、絵理はきょとんとした表情になった。
「英二ちゃん、どうしたんだ?」
「どうしたもこうしたも――」
「昔はよく入れてやっただろ。覚えてないかあ? 小さかったもんなあ……。あ、わかったぞ。英二ちゃん、婆ちゃんと風呂入るのが恥ずかしいんだろう? そうかあ、英二ちゃんもそんなトシだもんなあ」
 ゲラゲラ笑い、すぐそばに腰掛けてくる絵理。
「恥ずかしいって――お前……」
「ほら、婆ちゃんのおっぱい見てみろ。こおんなに垂れちまって」
 視線を戻そうとして、絵理の白くて大きな乳房が視界に入り、また目をそらす。
「――やめろよ、絵理……」
「何言ってんだい、母ちゃんから言われただろ? 悪ぃけど背中流してくれよお」
「待ってくれ! 俺が何をしたって言うんだっ !? 誰か助けてくれえっ !!」
 狭い湯船の中、二人密着して入り数えた百秒が、永遠にも感じられた。

 ――翌日。
 登校した英二が聞いたのは、絵理が死亡したという知らせだった。
「どういう事だよっ !?」
 そろそろ驚くのも疲れ始めていたが、さすがにこの話題を放ってはおけない。英二は学校もそこそこに、絵理の家を訪ねた。
「……うう、ほら絵理、英二君が来てくれたよ」
「いつか英二君と結婚する日を楽しみにしてたのに……」
 絵理の両親は遺影を前に涙ながらに語ったが、なぜか遺骨も骨壷もない。
(いやいや、俺、その絵理にフラれたんですけど……)

 疲れ果てて帰宅すると、家にはやはり絵理がいた。
「おけえり、英二ちゃん。今日はどっか出かけるのか?」
「……やっぱり俺の頭がおかしいのか? あんた、やっぱり俺の婆ちゃんなのか?」
「何訳のわからねえ事言ってるんだ。婆ちゃんを馬鹿にしちゃいけねえぞ」
 怒られる始末である。ついに英二は自室に閉じこもってしまった。
「婆ちゃんが死んで――絵理が婆ちゃんで――んで今度は絵理が死んだ?」
 誰か説明しろ――どこにともなく英二は呼びかけた。
 それに答えてかどうかはわからないが――。

「どう? 気に入ってくれたかな。絵理お婆さんは」

 気がつくと、寝転ぶ英二の隣にあの少年が立っていた。
「あんたは――あの時の……」
 慌てて立ち上がる英二。ドアの開いた音はしなかったはずだが――。
「何が何だかわからないって顔をしてるね。簡単だけど説明してあげよう。 君のお婆さんが亡くなったのは事実さ。ちゃんとお葬式も挙げたでしょ?」
「――あ、ああ」
「さすがに僕でも、死んだ人間を蘇らせるとなると色々と面倒でね。そこでもう一人、君の話に出てきた人を使わせてもらったのさ」
「……絵理の事か」
 動揺を押し隠して問う。
「そう。あのあと僕は病院に行って、お婆さんから脳を取り出して絵理さんの頭に入れたんだ。火葬されたのはお婆さんの体だけだよ」
「脳みそを抜いて……入れる?」
 またも、想像を超えた話を聞かされている。あまりの理不尽さに怒りがこみ上げてきた。
「馬鹿言うな! そんな事が出来るわけないだろ!」
「じゃあ、あの絵理さんの様子はどう説明する?」
「…………」
 信じられない話だが、あれだけ非常識な事態を見せられると否定する事もできない。
「――本当に、あの絵理は婆ちゃんなのか」
 その通り、と鷹揚にうなずく少年。
「君の両親や友達の意識をちょっといじって、彼女を君のお婆さんと思わせてるんだ。その代わりに絵里さんが死んだ事にしといたから、万事解決。だから、君と絵里さんが家族として暮らしてても、誰も何も言わないよ」
「――それじゃあ!」
 英二は少年に食って掛かった。
「それじゃ絵理は、絵里の脳みそはどうしたんだ !? 生きてるのか !?  まさか、婆ちゃんの体と一緒に灰に――」
「見るかい?」
 平然と少年は言うと、どこから出したのか、蓋つきのバケツを見せてきた。ちょうど人間の頭がすっぽり入るほどの大きさのバケツである。
「これが……絵里なのか?」
 中を見る勇気がない。自分の情けなさを呪いつつ、英二は力なく尋ねる。
「そうだよ、ちゃんと生きてる。また絵里さんの体に入れればいいのさ。ついでに言うと、本人の体じゃなくてもいい。僕が何とかするからね」
「よかった――」
「あれ、君はあの絵理お婆さんの方がいいんじゃないの? 体は絵里さんだし、中身は大好きなお婆さんなんだよ。家族だから、一緒に寝てもお風呂に入っても大丈夫。最高じゃない」
「ち――違う! 絵理は絵理で、婆ちゃんじゃないんだ !! 元に戻してくれ !!」
 少年は笑い出した。楽しくて仕方がないと言うように。
「何言ってるのさ――そんな事したら、絵理さんとはただの友達に戻っちゃうよ。また困るのは君だよ? 今のままならやりたい放題じゃないか」
「ふざけるな……婆ちゃんなんだぞ! おかしな事ができるか!」
「いや――それも今だけの話だよ。じきに、そうも言ってられなくなる」
「……何だって?」
 訝る彼に少年が告げる。
「脳を移植したって言ったよね。でもあの脳はかなり痛んでたんだ、歳だから。前から少しは始まってたと思うけど――あれじゃ確実にボケるだろうね」
「そんな……それなら早く絵理の脳みそを入れてやらないと……!」
「さあ、そこで本題だ」
 いかにも楽しそうにこちらの顔を覗き込む。
「既にお婆さんの体は焼かれているから、脳を戻す体がない。絵理さんを戻したら、今度こそお婆さんはあの世行きだね。でも逆に、ずっとこのバケツを放っておいてもいいんだよ。もしくは適当な誰かの体を奪ってこのバケツの中身を入れてもいい。決めるのは君さ」
「…………」
「どうする?」
 まるで古びた石像のように、英二はその場に立ち尽くしていた。

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 

 日曜日。英二は絵理と二人で留守番する事になった。
「じゃ、行ってくるわね」
「英二、婆ちゃんを頼んだぞ」
 そう言って出かける両親。この前の葬式の話で、親戚の家を訪ねるそうだ。
「頼んだぞ、って言われてもなあ……」
 絵理は暇そうに、ぼーっとテレビの前に正座している。
(俺はどうしたらいいんだ……)
 幼馴染か祖母か、どちらか一方を選ばなくてはいけない。
“決めたら僕に言ってよ。君の思い通りにしてあげるから”
 少年の言葉が蘇る。まさしく悪魔の選択だった。
「婆……ちゃん」
「ん、英二ちゃんどうしたんだ? まあこっちきて座ろや」
 こちらに手招きしてくる絵理。ミニスカートから生えるふとももが何とも艶かしい。
(家族だし……半分ボケてるらしいから何をやっても――)
 ついそんな言葉が頭をよぎり、生唾を飲み込む。
「じゃ、お言葉に甘えて……」
 英二はゴロリと寝転ぶと、絵理の膝を枕にしてしまった。むっちりした肉感が側頭部に伝わってくる。
「いくつになっても英二ちゃんは可愛いなあ」
 優しくこちらの頭を撫でる。小さい頃の記憶が思い起こされた。
(――ああ、気持ちいいなあ。寝ちゃいそうだ)
 彼の言う通り、このままでいいのかもしれない。自分は絵理に捨てられたのだ。形は違うが、今のままならずっと一緒にいられる。
 そう思っていると、頭の上で絵理がごそごそ動き――なんと、服を脱ぎだした。
「婆ちゃん !? 何を――」
 慌てて飛び起きる英二。
「ん〜……ダメだあ、これ外れんよお」
 既に上半身は脱ぎ捨てたが、ブラだけは外し方がわからないらしい。外せないという事はつけられないはずだが――母がつけてやったのだろうか。
「英二ちゃん、悪いけどこれ外してくれんかあ?」
「――な、ななな、婆ちゃん――何で……」
「いやあ、英二ちゃんに乳をやろうかと思ったんだけどよお――」
 そんな馬鹿な。絵理の突然の奇行に慌てふためく。
(婆ちゃん、どうしちまったんだ !?)
「早く外してくれよお……早く、早くう」
 頭を振って騒ぎまくる絵理。明らかに異常だ。

“あれじゃ確実にボケるだろうね”

 またしても少年の台詞が脳裏に浮かぶ。
(……まさか、そんな……)
 英二の戦慄をよそに、絵理は半裸で飛びついてきた。
「外して、外して――」
 痛いほどの力ですがりついてくる少女に背筋が寒くなる。
(……クソ、もうどうにでもなれ!)
 暴れる絵理の体を必死に抑え、ブラを外した英二。だがあまりの狼狽と性欲に、彼の理性も限界だった。
「――婆ちゃん !!」
 英二は、露わになった絵理の乳房を噛み付くようにくわえこみ乱暴に吸い上げた。
「ああ――英二ちゃん……」
「婆ちゃんの……婆ちゃんのせいだぞ !!」
 今度は畳に押し倒し、桜色の唇に吸い付くと欲望のまま口内に舌を這わせる。
「んんっ……んむ……ん……」
 最初は暴れていた絵理だったが、やがてそれも収まると、唾液の音だけが部屋に響く。呼吸が苦しくなるほどの時間が経ってから、ようやく互いの唇が離れた。
「……ぷはあ !! ……はあ、はあ――」
 英二は少女の後ろに回りこむと、左手を乳房に、もう一方をスカートの中に差し入れた。下着の中が湿りつつあるのを確認し、揉んだり擦ったり、手を力任せに暴れさせる。
「――あ……ええ、はあええ……」
 痛みからか、言葉にならないうめき声をあげる。しかし英二の愛撫が優しくなるにつれ、絵理の声が段々と変化していった。
「いい、ああええ……ふあえええ……」
「気持ちいいか、婆ちゃん !? ――おい、どうだって聞いてるんだよ !!」
「ひゃあああっ !?」
 乳首をつねりあげられ悶絶する。汗と体液でもう体はびしょ濡れだ。ショーツも脱がされ、身に着けているのはまくり上げられたミニと靴下のみ。
「……綺麗だよ、婆ちゃん」
取り出された英二の肉棒は痛いほどそそり立っていた。両手でしっかりと絵理の体を抑えつけ、まずは白いふとももにゆっくりとこすりつけ、左右挟み込まれる形で前後に動かす。柔らかな腿の感触を存分に堪能すると、我慢できずに先端から汁が漏れてきた。
(そろそろいいか――)
 いよいよ、粘ついた亀頭を目指す場所にあてがった。ゆっくり、だが着実に押し込まれる肉棒が絵理の肉を掻き分けて中に侵入する。充分に濡れた膣内はスムーズに進めたが、反面、締め付けもかなりきつい。
(ん――)
 わずかに感じる抵抗。英二はそれに構わず、力一杯腰を突き出した。
「ひいやああああっ !! いてぇええ――いてええ……」
「――やっぱり初めてだったか。俺だって初めてだよ、こんなの……」
 暴れる絵理を抑えこむ。暴れたら余計に痛くなると思うのだが。身を半ばのしかかるようにし、膣に入れたまま動き始める英二。彼の方も初めての感触に頭が焼き切れそうである。
「いてえぇえ……いてえよお……」
 絵理の顔は涙と鼻水で、そして結合部は体液と血に汚れているが、英二は動くのをやめない。高ぶる快感に身を委ね、猿のごとく一心に腰を振り続ける。
「――う、ううおぉおっ…… !!」
 限界は程なくしてやってきた。
 最後に渾身の力を込めて肉棒を突くと、最奥にたっぷりと汁を撒き散らす。
(……出てる……俺、出してる……)
 軽い達成感を胸に、絵理の上に倒れこむ。失神したのか、絵理はもう声一つあげなかった。

「――お疲れ様」

 顔を上げる気力すら残っていない英二の耳に、聞き覚えのある声が届く。
「返事を聞きに来たよ。どうする?」
「そうか……選ばないといけないんだったな……」
 虚ろな意識で選択肢を思い出す。どっちの絵理を選ぶか。
(俺は――もう絵理と離れたくない……。でも、だからってこのまま婆ちゃんを入れておいても、もうまともな生活は送れないだろうな……)
 いきなり糞便を漏らしたり、近所を徘徊したりする絵理の姿が頭をよぎる。そんなのは御免だ。
(婆ちゃんみたいで――ちゃんとした絵理なら……)
 そこまで考えて、ふとある事を思いつく。
「なあ、一つ質問なんだが――」

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 

 朝の暖かい日差しの中、あたしはカーテンを開けた。
「こらあ英二、早く起きろっていつも言ってるじゃねえか」
 そう言って布団を剥ぎ取る。全くこの子は、いつまで経っても寝起きが悪い。
「あ、ああ……おはよう、絵理」
「こんないい朝にずぼらしてぐぅぐぅいびきこいて! お前ぇ罰が当たるぞ!」
「え……だって今日日曜じゃ……」
「日曜もイチヂクもねえ! 早く起きて飯食ってこいや!」
「はいはい――」
 あたしが怒鳴ると、英二はやっとの事で布団を抜け出す。やれやれ。
 ところが英二はだらしなく大あくびをすると、
「おい――これ」
 パジャマの下の盛り上がりをこちらに向けてきた。
「しっかたねえなあ――いつまで経っても甘えん坊でよ」
 思わずため息をつく。あたしは英二の下着からそれを取り出し、ためらいもなくかぶりついた。
「ん――じゅる……くちゅ……んむ……」
「――う……うう……絵理ぃっ!!」
 と、すぐに出してしまう英二。あまりの早漏ぶりにこっちが情けなくなっちゃうじゃないの。
 口内にたっぷり出されたが大丈夫、孫の精液だ。残さず丁寧に飲み干す。
「ほれ、満足したか?」
「ああ、やっぱり毎朝抜いてもらわないとな」
 ニヤニヤする孫を、あたしは大声で怒鳴りつけた。
「いいから、早く朝飯食ってこい!」
 英二に朝食を食べさせてる間に、布団を片付け掃除機をかける。
「お義母さん、私がやりますから――」
 と言ってくる嫁を一喝し、あたしはてきぱき仕事を片付ける。そして仲良くドライブに出かける息子夫婦を見送った。むかつく嫁は、あたしには“英二をよろしく”なんて言ってたけど、きっと英二には“お婆ちゃんを頼んだわよ”とか言ってるに違いない。
 ふん、いいわよ。目一杯よろしくしてやるんだから。

「絵理――絵理――」
 あたしの上に乗った英二が淫らに腰を振る。祖母を呼び捨てにするな! っていつも言ってるんだけど聞かないのよね。
「英二、婆ちゃんの中気持ちいいか?」
「そんなの……決まってる、だろ……」
 いかにも気持ちよさげに声をあげる英二。あたしも頭がとろけそうだけど頑張って耐えてるって感じ。だって孫には負けられないもん。
 あたしの中で英二のチンポが暴れ回っている。この子の、意外と太いのよ。昔はあんなに小さかったのに、今じゃ死んだお爺さん以上だなんて。
「――うあ…… !! はああ……ああっ……」
 と、単調な動きに油断していたら、いきなり変わった腰遣いに不覚にも声が漏れた。前後だけだった突き込みが、今度はゆっくり円を描いて膣をえぐってきた。正常位でしかやらない孫の癖に、こういう工夫をすぐ覚えるのはなかなかすごい。
 でも、こちらもヤられてばかりではない。
「絵理――え、んんっ !?」
 孫の口に半ば噛み付くように食いつき、舌で無理やり歯茎をこじあける。器用に口内を動き回るあたしの舌に、英二は翻弄されっ放し。あはは、どんなもんよ。
「んむ……ん……じゅる……くちゅ……」
「……ぬぷ……ん……うう……」
 舌の絡み合う感触。あたしと孫の唾液が混ざり合い、淫靡な音がする。驚いて腰を止めるか――と思った矢先、逆にもっと激しい刺激があたしを襲った。
「ふあああっ !?」
 どうやら、ノーガードで打ち合う戦法らしい。おのれ英二、婆ちゃんをなんだと思っとる。けしからん。
 あたしたちは力の続く限り絡み合った。
 そして――。
「あああ――絵理―― !!」
「え、英二ぃっ !!」
 果てたのはほぼ同時だった。
 英二のたくましいおちんちんから噴き出した濃汁が容赦なく子宮にぶちまけられる。
「――う……」
「……はあ、はあ……」
 膣内ではまだ精液が出続けてる感じがする。若いっていいわね。でも受け止める私の方も貪欲で、残さず全部飲み込んでしまいそうだ。英二の父親を産んで何十年にもなる癖に、あたしも元気よね、ホント。
 もしこれで赤ちゃんができちゃったら、子供なのかひ孫なのか――。
「英二……」
 あたしは笑みを浮かべ、素裸で孫と抱き合った。

「……二人の脳みそを一緒にする事ってできないのか? 両方の人格をさ」
「それは脳を混ぜ合わせるって事かい? 君はなかなか面白い事を考え付くねえ」
 意外そうな顔をして少年は言った。
「僕ならできるさ。さすがに萎縮してるとはいえ、そのままじゃ二人分は入らないけどね。要らない部分を削って、混ぜた意識と記憶も多少操作しておくよ」
 そして彼は倒れた絵理とバケツを前に“作業”に入った。
「……えーと、小脳をこっちから、それでこの皮質を千切って……」
 あまりの惨状に直視できなかったが、おかげで都合のいい具合に仕上がった。祖母 兼 幼馴染 兼 性欲の捌け口として絵理は無事に生まれ変わった。
 作業が終わると、少年は満足して去っていった。
「いやあ、面白かったよ、ありがとう。もう会う事もないだろうけど、元気でね」

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 

 数年後、ある町に若い男女が引っ越してきた。二人はとても仲むつまじく、可愛らしい幼児を一人連れていた。
 女はやや言葉遣いが変だったが、明るく気立てのいい女だった。苗字が同じため、周囲は皆、夫婦と信じて疑わなかったが、実は本人たちの意識は違う。
「絵理〜」
「こら英二、いつも言ってるじゃねえか。ちゃんと婆ちゃんって呼べよ――」


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