街から遠く離れた、田舎としか言いようのない小さな村。 生活していくだけの農作業や牧畜の他は何もする事がなく、村人たちは平穏で退屈そのもの、といった日々を送っている。 そのため、ちょっとした出来事でもたちまち村中に広がってしまう。みんな娯楽に飢えているのだ。 「――見ろよ、あの真っ黒な羽。コウモリみてえだ」 「角も生えてやがる。綺麗な顔しちゃいるが、やっぱり悪魔だぜありゃ」 「尻尾、あれも飾りじゃないみたいだな……」 「でもあれエレなんだろ? 本当かよ……」 ちらちらとこちらを見つつ交わされるそんな噂が、淫魔の耳に届く。話しているのはジャンと同じ村の少年たちだ。ジャンと同じくらいの年頃の者もいれば、もう大人に近い少年もいる。 「…………」 覚悟はしていたが、やはり気持ちのいいものではない。 フレイアは歩みを止め、彼らの方をちらりと振り返った。 どこかの姫君のような美貌ときらめく金髪を目にすると、少年たちはそのあまりの魅力に話すのをやめて、思わず見とれてしまった。上気した顔の彼らから視線を外し、フレイアは再び歩き出した。 歩くたびに、あふれんばかりの豊かな胸が大きく揺れる。背中を飾るのは細く尖った漆黒の翼。頭からは一対の立派な角が、丸い線を描く尻からは黒く尖った尻尾が伸びていた。 彼女は人間ではない。人間の精を吸って生きる夜の魔物、淫魔である。その体の名をフレイアと言った。 すぐに、淫魔は一軒の家にたどり着いた。小さな村であるから、どこに行くにも近いのだった。 「や、エレ」 一人の少年がフレイアに気づき、彼女の元に駆け寄った。こちらを見る屈託のない目に淫魔は顔をほころばせた。 彼の名はジャン。村にいる数少ない少年の一人である。 「フレイアは一緒じゃないの?」 「うん、今日は一人だよ」 小さな声で恥ずかしそうに答えるフレイア。その遠慮がちな態度は、ジャンよりかなり高い背丈と高慢そうな釣り目にはアンバランスだったが、これは仕方がないと言えよう。 実は、この体には別人の魂が宿っているのだ。 彼女の本当の名はエレ。ジャンと同じ年頃の内気な少女だった。それが、何年かぶりに目覚めた淫魔と事故で入れ替わってしまったのである。原因となった魔道具は壊れ、今は戻る目処もついていない。仕方なく、少女は淫魔の体での生活を強いられていた。 はじめは村にも入れない有様だったが、事態を知ったエレの父親が村中にふれて回り、淫魔は村娘のエレとして村に迎えられた。迷信深い村人たちはフレイアの姿を見て恐れおののいたが、しばらくする内に害がないとわかり、とりあえず騒ぐ事はなくなった。 なぜか村の男たちが味方してくれたのも大きかった。ジャンに言わせると“当たり前だろ、そのカッコじゃ”という事になる。 しかし今でも、わずかながらその異形の姿を悪く言う者はいて、彼女は心理的に圧迫された生活を送っていた。 少しの間他愛無い話をして、フレイアはジャンと別れた。 そのまま家に帰ろうかと思ったが、ふと農場に行っている父が気になり寄ってみる事にした。畑仕事を手伝ってやると喜んでくれるだろう。 胸を揺らし、羽を振りつつ太陽の下を淫魔が歩く。 「――おい」 不意に呼び止められ、声の方を振り向くフレイア。 そこには先ほど彼女を見て何やら噂していた少年たちがいた。淫魔の美貌にたじろぎながらも、彼女に厳しい視線を送っている。 「あ……マルコ、トム、マーク」 狭い村の事である。当然この少年たちとも顔見知りだ。だが彼らはフレイアの挨拶も聞かず、三人で彼女を取り囲んだ。 「え……どうしたの?」 以前とは違う目線を改めて感じる淫魔。今は彼女が一番背が高いのだ。 「……お前、エレだよな」 「悪い事して悪魔になっちまったんだって?」 「え? え?」 「見てみろよそのカッコ。どう見ても悪魔だ。邪悪なやつめ」 悪意を込めた言葉で少年たちはフレイアを嬲る。そうした責めは今の彼女にとって、もっとも辛いものだった。まして昔から見知った彼らに口汚く罵られるのである。 「やめて……皆、ひどいよぅ……」 淫魔は耳をふさぎ、幼子のようにいやいやをしてみせた。だが、何かにとりつかれたような三人の責めは収まりはしなかった。淫魔の魅力が、彼らの理性を失わせてしまったのか。 「悪魔は退治しないといけないよなあ」 「でもこいつはエレなんだぜ? 本当かどうかわかんねえけど」 「おいおい、お前、本当にエレなのか?」 真紅の瞳から涙を流し、淫魔はうなずいた。その様子がまた魅惑的で、三人ともしばらく心を奪われてしまった。 「ぐすっ……ひどいよ、みんな……私、エレなのに……」 「……わ、わかったわかった。信じてやるから」 マルコと呼ばれていた、一番年上の少年がやっとの事でそう答える。 「……でも、見た目が悪魔だってのも本当だしな。親父らは許すって言ってるけど、俺たちは迷ってる。本物の悪魔なら退治しないといけないからな」 「……どうすれば許してくれるの?」 「そうだな、心まで悪魔になってるかどうかがわかればいい。心がエレのままなら、今まで通り俺たちは友達だ」 「私、エレよ……嘘なんてついてない」 「だから、それを確認しないといけないんだって」 マルコはフレイアに近寄ると、揺れる胸を正面からわしづかみにした。 「あっ……何するの !?」 「心が人間なら、悪魔の体をいくらいじくっても反応しないはずだ。中身は悪魔じゃなくてエレなんだろ?」 村の女は誰もこんな巨乳ではない。至福の感触をマルコは感じていた。彼が力を入れるたびに弾力のある肉が跳ね回るのだ。 「や、やめて……マルコ」 「どうした。悪魔じゃないなら何ともないだろ、エレ?」 黒い布を剥ぎ取り、マルコは露になった乳房を存分に揉み回した。 見ているのが耐え切れなくなったのか、他の二人も加わりだす。 「あ……!」 立っていられなくなり、フレイアは傍の木の根元に腰を下ろした。 木の幹にもたれ、荒い息をつく半裸の美女。それは年頃の少年たちにとって、絶好の獲物と言えた。 「へえ、薄いのに硬いんだな、この羽」 「そんなの触るより見てみろよ。この胸やばいぞ」 「うっはあ、この肌白くて綺麗だ……」 胸を揉み、乳首に吸い付き、腹や腰を触りまくる。ハイエナと化した少年たちはフレイアの体をもてあそんだ。 「悪魔ってこんなに可愛いのか、すげえなあ」 「……ん……ちゅ……」 「次、俺に代われよ」 桜色の妖艶な唇にもまた、少年たちは激しくそそられた。食べてしまいそうなほど乱暴にむしゃぶりつくと至上の触感に操られしまい、夢中で肉を味わうのだった。 やがて、興奮した少年の一人が衣服の中から性器を取り出した。 「あ……」 充分に硬くなったそれを淫魔の頬に押し付ける。他の二人もそれを見て真似し、肉の槍でフレイアの顔を突き刺した。 「んあ……待って、ちゃんとするから……」 無言のプレッシャーを感じ取ったのだろう、淫魔は突き出された肉棒の一本を右手でつかみ口に運んだ。そして蛇のように舌を伸ばし、もったいぶるように先だけをペロリ、となめた。 「うあぁあっ……!」 少年の体に電流が走る。淫魔の唾は熱湯のように熱く、舌が触れるとそれだけで絶頂に達してしまいそうだった。 その間にもフレイアは空いている左手を別の一本に伸ばすと、まだ女性が触れた事がないであろうそれをしなやかな指でしごき出した。 「くうっ……!」 「うわ、やべえよっ……」 「ひぃいっ !!」 フレイアの手と口に少年たちは翻弄されていた。 淫魔の細い指が動くたび、長い舌がうねるたびに彼らは喘ぎ、自分の経験のなさをさらけ出してしまう。 「ちゅぱ……ん、ぺろ……ぶちゅっ……」 一方のフレイアは中身こそ純真な村娘だったが、入れ替わってからはジャンや父親を相手にかなりの経験を積んでいる。はじめは熟れた肉体の性感に流されていただけだったが、最近ではどうすれば男が気持ち良くなるか、だんだん理解し始めていた。 「――うぁああっ !!」 「ん……あ、んんっ♪」 ついに限界を迎えた少年が欲望を解き放つと、待ち望んだそれがきた喜びにフレイアは体を震わせた。口内にたっぷり出された精液を丁寧に嚥下し、口の周りを舌でひとなめする仕草はとても大人しい村の女の子には思えない。 「――次、マークも……」 彼女は快楽に溺れる彼らを平等に扱い、三人とも口内に出させてやった。いつもより多量の精が体内に取り込まれ、体が高揚しているのがはっきりと感じられる。 だが以前と違い心は冷静なままで、荒い息の少年たちを観察して次は誰からしぼり取るか考える余裕すらあった。 「やっぱりマルコ……元気だもんね」 一度出してしまい、草の上に腰を下ろしていたマルコに狙いを定め、淫魔は四つんばいになって近づいた。 「エ……エレ……」 動けなくなった自分に迫ってくる妖艶な女。赤く輝く瞳が、鳥の卵に近づいてくる蛇を思わせた。 助けてくれ――。 そう言おうとして、不意に奇妙な錯覚に囚われた。 彼女を襲っていたのは自分たちではなかったのか? 三人がかりでエレを嬲りものにしようとして――気がついたらこの有様だった。逆に、今や自分たちが肉食獣の獲物に成り果てている。 (ああ、やっぱり――) こいつは悪魔なんだ。男を食って精をすする、恐ろしい淫魔なんだ。手を出しちゃいけなかったんだ――。 それに気づいたとき、既にフレイアはマルコの上にのしかかっていた。 「それじゃ……入れるね」 いつもの大人しい口調なのに恐怖で声も出ない。しかし本能に正直な彼の陰茎は、痛いほど真っ直ぐにそそり立っている。 その上にゆっくりと腰を下ろし、淫魔の女陰がマルコを迎え入れた。 「あ、入ってくる……」 「…………!!」 あまりの快感に少年は声ならぬ声をあげた。 入れただけでマルコは達してしまった。淫魔の膣が吹き出した汁に狂喜し、残らずしぼり取ろうと蠢く。 (あ――やべえ……) 一瞬意識が途切れ、マルコは必死に自分を呼び戻した。 このまま気絶したら死んでしまうかもしれない。そんな危機感が脳の片隅で警報を鳴らし続けた。 だがフレイアは彼の上で激しく腰を上下させ、全く休ませてくれない。 マルコは童貞ではない。村の女とお遊びで何度か交わった事がある。しかし今の性交はそんなものとはまるで違っていた。意思を持っているように肉棒を包み込む膣の動きは人間ではありえないものだ。 (く――あぁっ !!) 逆らう事もできない快感に耐え切れず、また射精してしまう。 もはや陰茎は彼のものではなく、淫靡に微笑む淫魔の所有物だった。彼女が望めばその瞬間に出してしまう。マルコの意思など無関係に。 「マルコ……」 ふと、フレイアと目が合った。精を吸う喜びと男への支配欲が、真紅の瞳を通して感じられる。 「エ……レ……」 違う。こいつはエレじゃない。彼の知っている、内気で大人しい少女ではない。 体だけでなく、魂まで悪魔に堕ちてしまったというのか。 「…………!!」 何度目かわからない絶頂感に、今度こそ彼の意識が闇に沈んだ。 「…………」 草むらの上で、木の根元で、少年たちが脅えている。 フレイアとマルコの交わりはあまりに衝撃的で、笑いながら精を吸い続ける淫魔を前に二人は歯を鳴らし震えていた。 「――はぁあ……!」 美味いものを食べ終わったように満足した表情のフレイアが立ち上がった。 ずるり、と女陰からマルコの肉棒が抜け、少年が静かに倒れ付す。二つの性器を繋ぐ細い糸がとても生々しく感じられた。 動かなくなったマルコから視線を外し、金髪の悪魔がこちらに目を向けた。 ――やばい。 二人が思ったのはそれだけだった。だが恐怖で腰が抜けてしまい、逃げる事もできない。 「あ……あぁあぁ……」 「トム……マーク……」 鼠を追い詰める猫のようにじわじわと時間をかけ、フレイアがにじり寄る。不幸な事に、このような状況でも二人の陰茎は勃起したままだった。淫魔の体臭が、体液が、紅の視線が萎えるのを許さないのだ。 「次はどっちから、する……?」 「ひぃぃいぃぃっ !!」 「両方いっぺんにでも……いいよ?」 「ぎゃああぁぁあああぁぁっ !!!」 こうして、村の淫魔を悪く言う者はどんどん減っていった。 だんだんと魔力の使い方を覚えてゆく淫魔に敵はいなかった。村長も神父もフレイアと交わると味方に――いや、下僕になった。逆らう者は、女ですら彼女のしもべにされたのである。 一年もしない間に、村で淫魔の下僕でないのはジャンとエレのみ、という状況になった。 フレイアに支配された村からは、今日も嬌声が聞こえてくる。 そして淫魔は、残された少年と少女の運命も決めなくてはならなかった。 続きを読む 前のを読む 一覧に戻る |