エレとフレイア 1

「――すっげーな、ここ。本ばっかりだぜ」
 埃まみれの部屋でジャンが言った。
「う、うん、そうだね……」
 答えるエレの声はか細く、どこか怯えが感じられる。
「ねえ、ジャン……そろそろ帰ろうよ?」
「えー何言ってんだよ。今入ったばっかじゃん」
 怖いもの知らずの少年らしい強い口調だ。棚をいじったり薬のようなものが入った瓶で遊んでみたり、思うがままに振舞うジャンとは対照的に、短い赤毛の少女はおどおどと兎のように縮こまっていた。
「だって……お母さんもここに入っちゃいけないって……」
「大丈夫だって言ってるだろ。魔導師の家って言っても、もうここには誰も住んじゃいない。ただの空き家だ」
「……でも……」
 二人は村外れの廃屋にやってきていた。
 昔は名の知れた魔導師の住居だったというが、ジャン達が生まれる前にその魔導師が死んでしまったそうで、今は誰もいない廃墟になっている。ただ、迷信に囚われている村人たちには今でもここは忌むべき場所らしく、十年以上の間、誰も近づかないようになっていた。
 そこを探検しようと言い出したのが村一番の悪童、ジャンだ。
「これ何に使うんだろうなあ……」
「ジャン〜」
 面白そうに室内を漁り回る少年だったが、難しい魔導の本など読める訳もなく、置いてあった道具類も使い方がさっぱりわからず、だんだんと飽きてきた。
「うーん、家の中は一通り回ったけど……もうこれで終わりか。つまんねえの」
「ね、ほら帰ろ?」
 しかし収穫ゼロで帰るのは少年のプライドが許さないらしい。
「部屋の数はそんなに多くないんだな……地下室とかないか?」
 ジャンは壁や床などを調べ、隠し部屋でもないかと探す事にした。
「ねえジャン、帰ろうよ……」
「それならお前だけ先に戻ってろ。俺はもうちょい調べてく」
「一人で森の中を帰るなんて嫌だよう……」
「なら、もうちょい付き合え」
 少女にそう言い、ジャンは探索を続けた。
「ん……ここだけ壁の色が違うな……」
 そろそろ夕方である。その上、森の中にあるこの廃屋は日の光が届きにくく、二人にいっそう時の経過を感じさせた。
「ジャ〜ン〜……」
 不安のあまり、エレは壁に手をついたジャンにもたれかかった。
 すると――

 ボゴッ !!

「へ?」
 土の崩れる音と共に壁に大穴が開き、二人を飲み込んだ。
「うわぁああぁああぁぁっ !?」
「きゃぁああぁああぁぁっ !?」
 悲鳴と共に暗闇を転げ落ちる少年と少女。壁の中は下り階段状になっており、ジャンもエレも強かに体を打ってしまった。
「いてててて……」
 ジャンはゆっくりと体を起こした。痛みはあるが大した怪我はないようだ。
「エレ、何してんだよ !!」
「えっ……あ、ごめん……」
 エレの方も被害は似たようなものらしい。
 二人が落ちた空間は恐らく地下室のようだ。たいして大きなものではなく、しかもやはり謎の道具があちこちに散らばっているためかなり狭い。本来なら明かりもあるのだろうが、今は階段の上に空いた穴から漏れる光でぼんやりものが見える程度である。
「うーん。ここも上と一緒で、よくわからないもんばっかりだな……」
「そうだね……」
 試しに転がっていた細身の壷を取ってみたが、やはりただの壷にしか見えない。
「キュキュっと磨くと魔神がボワン、とか……」
「どうなんだろ……」
 手拭で磨いてみたが、もちろん魔神などは出てこない。騙されたような気分になったジャンは、壷をその辺に投げ捨ててしまった。
 パリン、と軽い音がして壷が割れる。
「あっ! ……いいの?」
「いいだろ別に、ただの壷だよ。しゃーない、そろそろ帰ろうぜ」
 魔導師の家だからと期待した自分が馬鹿だったのだろうか。もっと面白い出来事を望んでいたジャンが失望した様子で立ち上がると、

「――呼ばれて飛び出て何とやら〜!」

 エレのものではない女の声にジャンは飛び上がった。
「ひ、ひい! 誰だ !?」
「……ご、ごめんなさい、ごめんなさい……」
 身構えた二人が暗闇の奥に視線を向けると、そこにはコウモリのような人間のような、闇に溶け込んだ影があった。
「…………」
 ゆっくりとこちらに近づいてくる影は、薄明かりの中で一人の女の形をとった。歩くたびに揺れる長い金髪と豊かな胸、踊り子のように布地の少ない黒い衣装、貴族の令嬢のように整った繊細な顔立ち、やや挑発的なつり上がりぎみの目。その背にはコウモリのような鋭い形の翼が、耳の上にはヤギのような一対の角が、真上に向かって生えていた。
「こんにちは、ボクちゃん達♪」
 年上の女らしい優しい口調と笑みだったが、それはどことなく獲物を見つけた肉食獣の表情を思わせた。
「…………」
 二人は恐怖で声も出ない。腰が抜けて逃げ出す事もできず、壁際まで這いずるのが精一杯だった。
「あら、逃げなくてもいいじゃないの。ねえ?」
 女は二人を捕まえると、笑みを浮かべたまま話しかけた。
「まず名前を聞いときましょうか。あなたたち何ていうの?」
「――ジャン」
「……エレ……」
 逆らうのもまた恐怖に思い、やっとの事で答えた。
「そう。あたしはフレイア。淫魔のフレイアよ」
「あ……悪魔……なの?」
「そういう事になるわね。――大丈夫、殺したりはしないわ」
 安心させるようにそう言うと、フレイアはジャンを抱きしめた。
「うっ……ちょっ……お姉さん……?」
「久しぶりに出てきたんですもの。可愛い子だし、楽しませてもらおうかしら」
 魔族の女は香水でもつけているのか、とてもいい香りがした。
 そばにいると何だか体が熱くなってくるような……。
「じゃあまずはキスからね」
 言うと同時に少年の唇に吸い付くフレイア。そのまま舌で歯をこじ開け、少年の未開の口内を存分に蹂躙する。
「はむ……ん……ぬぷ……む……」
 ジャンは女の唾液を気持ち良さげに飲み込む。既にその目はトロリとしており、理性が半ば溶けつつあるようだ。
「ん〜、ちょっと子供には刺激が強すぎたかな?」
「ジ、ジャン……」
「ごめんねエレちゃん。先にこのコをヤっちゃうから、後で3Pしようね」
 フレイアはそのままジャンのズボンを脱がせ、下半身を丸裸にしてしまった。発展途上の小ぶりな肉棒だが、しっかりと自己主張をしている。久しぶりに見るジャンのものに、なぜかエレも恥ずかしくなって顔を赤らめた。
「ちょっと小さいけど元気バツグンね! 将来が楽しみだわぁ♪」
 嬉しそうに笑うと、淫魔は少年の肉棒にそっと舌を這わせた。
「あっ……!」
「――ふふ、気持ちいい?」
 丹念に嘗め回したり、棒に口付けしてみたり、袋を一舐めしてみたり。優しく弄ぶようなフレイアの舌技に、ジャンは快楽のまま流されるばかりだ。
「……う、ああ……ぐっ !!」
 やがて皮が剥かれ、尿道まで舌先が入ってきても痛みは感じなかった。
 ただ、もっともっとと欲望が湧き上がるだけ。
「……あ、ああ……あぁあぁあ……」
「へえ、なかなか辛抱強いじゃない。じゃ、これはどうかな?」
 手も使ってますますエスカレートするフレイアを、エレは横でじっと見ている。
「――ジャン……」
 その口調に心配する様子はあまりない。
 むしろ引き締まった口元と赤く染まった顔が、少女の別の感情を物語っていた。
(……気持ち良さそう……あたしも……ジャンと……)
 なぜ自分を放って、彼はこんな女とくっついているのか。
 それも、自分が見た事のないほどの悦びを顔一杯に浮かべて。
 今までずっと一緒にいた自分こそが、ジャンにああする資格があるはずだ。
 まだエレは自慰もした事がなかったが、彼が望むなら何でもしてやろうと思う。そう考えると、エレはこの淫魔が憎くなってきた。
「――だめぇ……ジャンは……あたしが……」
 何とかジャンの体に触れようとするが、フレイアにはねのけられた。
「ダーメ、今は私の時間なんだから。もうちょい待ってね♪」
 年端もいかぬ少女と人外の淫魔では勝てる訳もなく、エレは再び横からフレイアのフェラチオを眺めるしかなかった。
「うぅ……やだよぅ……ジャン……」
 半泣きになって小さくうめくエレ。
(何か……武器、みたいなの……)
 へたり込んだまま手を動かすと、一本の棒が手に当たった。細身だが握りやすい棒で、両端に取っ手のような飾りがついている。
 こんなので悪魔がどうにかなる訳もないが――。
 エレは力一杯、棒を女の背中に叩き付けた。棒は中ほどから真っ二つに折れたが、淫魔にはさしたるダメージもないようだった。
「……痛いわねぇ」
「――あ、ご、ごめんなさい……」
 慌てて放り投げられた棒の残り半分が、部屋のガラクタの中に転がってゆく。

 フレイアはおびえた表情でエレを見返し――
 エレは子供を叱る母親のようにフレイアをにらみ――
「……え?」
 二人同時に素っ頓狂な声を上げた。

「わ、私?」
「……あたしがいる……?  ……ご、ごめん、ジャン!」
 淫魔は恥ずかしそうに少年の上から身を引き、床に座ったまま同じようにこちらを見つめている少女と向かい合った。
「どうなってるの? コレ」
 エレは自分の体を触り、人間の子供になってしまったのを直感で理解した。代わりにこの体だった少女が、自分の淫魔の体になっているようだ。
「……わ、わからない、けど……」
 先ほどまでの余裕に満ちた挑発的な態度はどこへやら、フレイアはおどおどと自信のない様子で自分の豊満な肉体を見下ろしている。
「あたし……悪魔さんになってる?」
「何をしたかわからないけど、体が入れ替わっちゃったみたいね……」
 エレはため息をついた。
 今の自分はただの無力な人間の女の子でしかない。その事実に顔を歪める。
「元に戻しなさい、って言ってもダメでしょうね……」
「あ――そ、そうだ……」
 フレイアは何かを思いついたように立ち上がると、ジャンをかばうように自分のものだった体に向かって言った。
「も、もうジャンに変なコトしないで!」
「エ……エレ? どうなって……」
 後ろのジャンに話しかけようとして、背中の黒い翼の感触に戸惑う。
「ひどいコト、ねえ……」
 少女は淫魔を見上げて平然と言った。
「別にこんなの、恋人なら誰でもやってる事でしょ? 私は淫魔なんだから、恋人じゃなくてもヤるのが当たり前だし」
「な――」
「ほら。あなたも私の体になったんだから、わかるはずよ。体中がウズいてウズいてたまらないんじゃない?」
「そ、そんなわけ……」
 フレイアは否定しようとしたが、エレの言葉は止まらない。
「ほら見てよそのデカパイ。乳輪もでっかいし真っ黒だしエロいわねぇ。乳首もビンビンに立ってるじゃない。ミルク出てきちゃいそう。イヤらしい」
「やめて――」
「全身汗ばんでて、息もハァハァって発情しまくってるわよ。下のお口なんてもうビショビショ。ほら見て、汁垂れてるじゃない。サイテー」
 やめろやめろやめろ――。
 そう言いたかったが、エレが一言口にするたびに体が反応してしまう。相手の言うとおり、フレイアの淫魔の体は既に発情してしまっていたのだ。久方ぶりに発揮された淫魔の本能を、幼い少女の精神で抑えられるはずがない。
「ああ……」
 とうとうフレイアはくずれおち、ジャンの前に膝をついてしまった。
 勝ち誇るように邪悪な笑みを浮かべたエレが、それを楽しげに眺めている。
「――エ、エレ……?」
「ジャン……」
 少年を見つめる淫魔の瞳。それは既に愛欲に支配された雌の眼差しだった。
「ほら、早くそのおちんちんをくわえなさい。その子も楽しんでたんだから」
 先ほどの淫行でジャンはすっかり動けなくなっており、半裸で肉棒を硬く立たせたまま放置されていた。
「や……やっぱり、エレ……なのか?」
「ジャ、ジャン……あたし、変なの……体が熱くて、もじもじってなって……」
 フレイアはもはや恥じらいもなく、ジャンの下半身に覆いかぶさった。
「エ、エレ……やめ……」
「ここ、おしっこするところだよね? なめても汚くないのかな……?」
 先刻とはうってかわってたどたどしく、淫魔の口が肉棒をなめる。その横では楽しくてたまらないという顔の少女がアドバイスを始めていた。
「いい? 皮を剥いて、ここが亀頭……ほら、なめてみなさい。歯をたてちゃダメよ。優しく優しくなめてあげるの」
「ん……ちゅぱ……」
「タマタマへの刺激も効果的よ。もったいぶるように……そうよ。ちょっとぎこちないけど、まあいいわ」
 お手本を見せてあげる。少女の巧みな言葉に席を空けるフレイア。
「……うっ……あ、エレ……? ど、どっちだ……?」
「そう、私がエレよ。気持ちいいでしょ? うふ♪」
 ずっと一緒に過ごしてきた幼馴染が、大人顔負けの卓越したテクニックで自分のソレをなめ回している。今まで何とか耐えてきたジャンだったが、これにはもうたまらない。
「あぁあぁっ…… !!」
 我慢できずに、エレの顔に盛大に出してしまった。
「あは♪ 何年ぶりのせーえきかしら……」
 エレは至上の喜びを満面に浮かべ、自分の顔をなめ回した。その様子からは内気な大人しさなど、欠片も感じられない。横ではフレイアが驚いた様子で、飛び散った白い汁を眺めていた。
「何これ……おしっこ?」
 幾多の男の精を吸い尽くしてきた淫魔のセリフとしては全く不適切だろう。
「これはね、精液って言って、赤ちゃんの素になるの」
「え、赤ちゃん? これで赤ちゃんできるの?」
 少女は微笑みながら、淫魔に丁寧に解説してやった。
「そうよ。おちんちんを女の人のお股――おまんこっていうんだけど――に入れてかき回して、今の精液をたっぷりと入れてあげたら赤ちゃんができて、女の人は妊娠するの」
「おまんこって……おしっこするところ?」
「少し違うわ。正確には別の穴。あなた、ちょっと後ろ向いてお尻出してみなさい」  う、うんとうなずき、フレイアはうつ伏せから尻を突き出すような格好でエレとジャンに向けた。
「ジャンも見てみなさい。ここがおまんこ」
「……なんか、毛がぼーぼーで訳わかんない」
「ぼーぼーで悪かったわね。いいから指入れてみなさい。私が許したげるから」
 尻込みするジャンを横目に、エレは小さな手をフレイアの秘部に這わすと汁が滴っている淫唇に二本、指を突っ込んだ。
「――はぁあぁぁっ !?」
「どう、このコの反応、すごいでしょ? 女の人はね、ここにオチンチンを入れられるのが最高なのよ」
「……う、うん」
「ここ――クリトリスって言うんだけど――も重要ね。ただの小さなお豆に見えるけど、あなどっちゃいけないわ。この効き目ったら」
「ひぁああぁっ !!」
「肛門――アナルも場合によっては大切よ。訓練次第では前よりも感じる事も可能だから、汚いとか思わないでね」
「ぁあぁあああぁっ !!」
 淫魔の性的快楽は人間の比ではない。まして自慰も知らぬ少女の心である。数分間の手淫が、フレイアには数時間にも感じられた。
「――そろそろいいかしら」
「……ま、まだ何かするのか?」
 ごくり、とつばを飲んで問いかけるジャン。
 エレの講義によって肉棒はもうガチガチで、先走り液がじわりと漏れている。
「……何言ってるの。あなたのチンポをここに入れてやるのよ」
「えぇっ !?」
「さっきも言ったでしょ、赤ちゃん作る方法。私たち淫魔にはそれが養分として必要なのよ。ほら、早くしなさい」
 エレはジャンの腰を立たせ、後ろからいきり立った少年のものを握り締めた。そしてそれを、尻を突き出したままうつ伏せになっているフレイアへと導く。
「はい、準備OKね♪ それじゃ、思いっきりいけぇ !!」
 肉棒が勢いよく淫唇に突き刺さり、淫魔は悲鳴をあげた。
「どう、気持ちいいでしょ? ほらもっと腰を動かす!」
 エレは乱暴に少年の腰をつかみ、前後にピストン運動をさせた。
――ぶちゅっ……じゅ……ぶちゃっ……。
 汁で溢れていた結合部から、動くたびに激しい音が漏れる。
「俺……お、おまんこの……中……入ってる……」
 ジャンは初めて味わう快楽に夢中で、交わっている相手がエレなのかフレイアなのかも忘れていた。本能のままに腰を振り、自分のもので肉壷をかき回す。
 一方、フレイアも淫魔としての初めての交わりに理性が飛んでいた。少年の小ぶりな肉棒が自分の中を前後に、左右に、上下に動くたび、涙と共によがり声が当たり前のように口をついて飛び出してくる。
「……ひぁ……あぁ……ふぁあ……ぁあ……ひぃ……」
――いい。すごくいい。
 これほどまでの快感が得られるなら、もうどうなってもいい。自分が人間であった事など忘れ、最初から淫魔だった気すらしてくる。翼と角を生やし、男をだらしなくくわえ込む自分の方が正しいと思えてくる。
「……イイわね、その顔。すっかりサキュバスじゃな〜い。イヤらしい表情で、よだれなんて垂らしちゃって……。中身はただの子供なのに、今じゃ淫乱な雌そのものね」
 自分だった体の言う事が否定できなくなる。
 欲望のままに、自分の体よりはるかに小さな少年をくわえ込んで離さない。
 体が求めているから。本能が求めているから。
 今の自分は淫乱な悪魔だ。少年と仲の良い友達では、もはやない。
「いぃ……いぃ……これ――がっ !! いいのォ !!」
 何かに突き動かされるように、淫魔の性感は絶頂に達した。それと共に、ずっと淫魔の膣内で射精を我慢していた――いや、我慢させられていた少年も、やっとの事で精の汁を撒き散らした。
「――あぁ……」
 力尽きたように、並んで床に横たわるフレイアとジャン。
 仲良く抱き合って失神するその姿は、親子のようにも思われた。そして、それを見て複雑な表情をしている少女が一人。
「……はあ、数え切れないほどの男をモノにした私の体が、童貞の子供と一緒にイっちゃうなんてね……情けない」
 中身は性技を極めた淫魔とはいえ、まだ生理もあるか疑わしいような幼い少女の体では、何もできないに等しい。
「早く私の体を取り返さないと……」
 エレは薄暗い地下室を少し調べてみたが、ガラクタが多すぎて元に戻れる魔具がどれなのかわからない。
「ちぇ、あの魔導師から聞いとけばよかった……」
 ここに住んでいた魔導師は十年以上前、眠りについていた彼女を起こし自分の使い魔にしようとしたのだった。魔導師らしくかなりの強敵だったが、性技と誘惑の限りを駆使して何とか生命力と魔力を吸い尽くし返り討ちにした。
 これでまたしばらくは眠れると思ってたのだが――まさか、この子供たちのせいでこんな事になろうとは思ってもみなかった。
「起きてから聞いてみるしかないか……」
 もう日も沈む。薄暗かったこの部屋も、夜になれば真っ暗になるだろう。
 自分の体なら暗闇でも見えるのに――そう思いながら、エレは灯りを探しに部屋の外に出た。

「え゙……」
 明かりの灯った地下室で、エレは声ならぬ声をあげた。ジャンもフレイアも目を覚まし、三人で座り込んでいる。
「これ……が、原因……?」
 エレが手に持っているのは、飾りのついた棒のような道具である。半ばほどで真っ二つに折れ、ただのガラクタでしかないようだが――。
「それでフレイアさんを叩いたら……折れちゃって。その時……だと思います。あ、あたしとフレイアさんが入れ替わったの」
 フレイアが怯えた様子で少女に言う。原因はここの魔導師が作った魔具らしい。エレの見たところ、生物の魂を入れ替えてしまう効果があったようだ。しかし、こうも見事に折れていては、もう使えないだろう。
「じゃ、じゃあ……これが使えないと、私はずっとこのまま……? 人間なんかになって……私、数十年で死んじゃうの……?」
 あまりのショックだったのだろう。エレは気絶してしまった。
「フ……フレイアさん! しっかりしてください!」
「あ、あたしも……このままずっと、この体……? こんなツノ生やして、羽パタパタってして、寒いカッコして、悪魔のままでずっといないといけないの……?」
 一緒に失神するエレとフレイアを、ジャンは必死でなだめすかす事になった。


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