少年梓 3

「……デート?」
 横向きに机に腰掛け、彼は聞き返した。
 二年C組、安井梓。ちょっと異常な男子中学生である。
 可愛らしいポニーテールの髪と繊細なつくりの顔はどう見ても女子だったが、着ているのは男子用の制服で、あるべき胸の膨らみもまったくない。
「うん、デート」
 こちらは椅子に座り、ウェーブの長い髪の眼鏡の少女が繰り返す。
 尾崎亜紀子。梓のクラスメートであり親友であり、また恋人でもある。
 窓の外を見ると、銀杏の葉が鮮やかな黄に色づいている。十月の日はやや短いものの、よく晴れて気持ちのいい気候と言えた。
「……セックスしろっていうんじゃなくて、デート?」
「うん――あ、もちろんセックスもしてもらうわ。デートした後で、その子の初めての相手になってあげてほしいの」
「……それって、女の子が恋人に向かって言うセリフ?」
 唖然とした口調で梓が問いかける。しかし、問われた方は梓の三分の一も慌ててはいなかった。
「大丈夫、初デートよりも初体験の方が女の子にはよっぽど大事よ。どうせしちゃうんだったら、その前にデートしてても問題ないわ。それに、当日は私も一緒だから安心だしね」
 訳の分からないことを言う亜紀子を、梓は絶句して見つめていた。
 付き合い始めて二年以上になるが、亜紀子については未だに理解できないことも多く、梓はしょっちゅう彼女に振り回されている。もう決めてしまったそうだから、梓では逆らえないだろう。
 彼はため息をついて亜紀子に質問した。
「……で、相手は誰?」
「ひ・み・つ♪ 当日になってからのお楽しみよ」
 嬉しそうに手を握りこむ彼女に、梓は黙って従うしかなかった。

 仲良しの女子を何人か引き連れて家に帰る梓。中学生になって身長が伸び、友達の皆よりも背が高い。顔は女でも首から下は健康な男子中学生の彼は一緒に歩いているグループの中で明らかな異分子だったが、周りの少女たちは誰も気にしておらず、梓を大事な仲間と思っている。
 それどころか、何人かはちらちらと梓に熱っぽい視線を送って、自然に歩きながらも傍にぴったり張りつこうとしていた。
「……みーちゃん、弟さんは元気してる?」
「え? あ、うん、元気よ」
 未由と梓の間に滑り込んだ亜紀子が笑顔で話しかける。いつもの人当たりのいい微笑みだったが、未由の目にはそうは見えなかった。
 ――私と梓の間に割り込まないでね。
 笑っているはずのその目が、眼鏡の奥から冷ややかに自分を射抜いている。
(あ、アキちゃん……)
 尾崎亜紀子。恋する中学生は、見えないところで努力を積み重ねていた。なお恋は障害があった方が燃えるもの、とは彼女の言である。

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 

 そして日曜日。待ち合わせ場所の公園に梓は予定より早め、昼前に到着した。
 フードつきの白のスウェットに黒の綿パンというやはりいつもの普段着で、誰か来ていないかと辺りをキョロキョロ見回している。今日は天気にも恵まれ、犬を連れた中年女や親子連れが散歩を楽しんでいた。
「アキ、まだかなぁ……相手の子って誰なんだろ……」
 亜紀子がまだ初めてだと言っていたから、未由や由紀ではない。
 しかし、梓は女友達の大部分の処女を奪ってしまったため、まだ残っている女生徒は、知り合いにはほとんどいないはずだ。亜紀子の知り合いだろうか。先輩や後輩に頼まれたこともあるが、デートの申し込みとなるとさすがに初対面では難しいだろう。
 ――誰だろう。梓が冴えない頭でうんうんうなっていると、公園の入り口から二人の女子がやってきた。
「あ、亜紀子と……あれ誰?」
 亜紀子は白いシャツの上に前が開いた濃灰色のジャケットを羽織り、クリーム色のフレアスカートという出で立ちだった。小柄な亜紀子の体は、何を着てもそれなりに似合って可愛らしく見えるが、それが本人のセンスか母親の助言のおかげかは悩むところである。
 その亜紀子が手を引いているのは、彼女より少し背が高くためらいがちにおどおどと内股で歩いている女の子だ。袖なし、フリルつきのベージュのワンピースを着て胸元を開き気味にし、中学生のサイズを超えた乳房を精一杯強調している。足にはヒールの低いピカピカの薄桃色のミュールを履き、やや歩きにくそうに亜紀子に引っ張られていた。
 その彼女を、梓はよく知っている。
 いや、知っているどころか――。
「……健太郎っ !?」
 梓は驚いて、自分と体を交換した元少年の名を呼んだ。
 いつものスポーツ刈りの頭は丸く黒い広つば帽で覆われ、少しうつむいて顔を隠せばただのスタイルのいい少女にしか見えないだろう。
 その健太郎が今、亜紀子と共にここに来ている。
「よお、梓……」
「あ、あんたどうしたのそのカッコ !? すっごい可愛いじゃない!」
 はにかんで挨拶をしてくる少女に、梓が叫んだ。思わずまじまじと見つめ、自分のものだった体を観察する。
(肌は白いし、腕も脚も細くていい感じよね。昔は日焼けもしたもんだけど。あ。普段気にしてなかったけど、おっぱいこんなに大きくなってたの……?)
 顔を除けばかなり魅力的な女の子だった。道で後ろ姿を見かければ、梓もつい前に回りこんでしまうだろう。元は自分の体とはいえ、男としての興奮が抑えきれずに見入ってしまう。気がつけば梓の性器はトランクスの中でぴんと張り出していた。
(あ、い……いけない……)
 少し腰を引いて身をかがめ、何でもないフリをする。亜紀子の面白そうに細められた目が少し気になったが、今言っても始まらない。梓は高ぶった心を抑えようと二人と話し始めた。
「あれ、健太郎がここにいるってことは……もしかして、今日のデートの相手ってコイツ !?」
「……うふふ、正解よ。今日梓がお付き合いする女の子は二年C組代表、首から下は文句無しの美少女の、山田健太郎ちゃんで〜す!」
 テンションの高い亜紀子とは逆に、健太郎は梓の前で頬を染めてうつむいている。腹の前で両手を合わせて指を絡める仕草に、つい梓の頬がゆるんでしまった。
(なんだ、こいつも女の子してるじゃない……安心したわ)
「そういうことならまあいいわ。今日一日よろしくね。健太郎」
 自分だけが男の体を楽しんで入れ替わりを満喫しているのではないかと梓は今までずっと申し訳なく思っていたので、しっかり女の体に適応している今の健太郎の姿に安心したのだった。
「あ、ああ……よろしく。梓」
こうして、三人の休日が始まった。
「……それで、水族館だっけ?」
 梓が確認する。亜紀子が郊外にある水族館の券を安く仕入れたらしく、少し遠いが三人はバスでそこに向かうことになっていた。
 公園のすぐ近くのバス停で待つと、すぐにバスがやってくる。
「うん。ちゃんと時刻表も調べてあるから大丈夫よ」
 自信満々の声で亜紀子が言う。こういうところは本当に細かく、頼りになる娘だった。梓も少しは見習った方がいいのだろうが、男になってからというもの健太郎の体の影響だろうか、細々した下調べや根回しはすっかり苦手になっていた。
『……ご乗車ありがとうございます。このバスは市立水族館行きです』
 梓、亜紀子に続いて健太郎が乗り込む。
「一番後ろ、空いてるね」
 亜紀子の言う通り、バスの最後列の長椅子が空いている。三人は停車したバスの中をスタスタ歩き、後ろの席へ向かった。
(うぅ……)
 二人の後ろを歩く健太郎は、まじまじと見つめてくる乗客の視線を感じていた。胸元の開いたワンピースからのぞく胸は、大学生と言っても通るだろう。背はまだ亜紀子より少し大きいくらいでしかないが、長めで形の整った脚を見せつけるような健太郎の格好を、座席に座ったスーツ姿の壮年の男がじろじろ見やってくる。
“女の子……だよな?”
 そう言いたげな表情に顔をそむけ、彼女はようやく席にたどり着いた。
 恥ずかしそうにうつむいて帽子をかぶり、言葉を出そうとしない。
「健太郎……どしたの?」
「……何でもないっ……!」
 なぜかムキになって言い返してくる健太郎を、梓は不思議そうに見つめた。

「あ、これタコ !? こんなんなんだ〜」
 ゆらゆら水槽に浮かぶ謎の生物を指さし、梓が感嘆の声をあげる。
「こっちはナマコだって。うねうねしてて面白いわね」
 館内で楽しそうに笑う梓と亜紀子とは対照的に、健太郎はずっと黙ったまま二人の後ろをついてきている。
 “うん”とか“ああ”くらいは口にするのだが、心ここにあらずといった顔であまり展示を見ているようには見えない。
(変なの……どうしたんだろ?)
 梓が友達を心配していると、不意に亜紀子が横から囁いてきた。
「梓、ちょっとちょっと」
「何よ? アキ」
「山田君と手を繋いでやって」
「……はぁ?」
 いぶかしがる彼に、恋人は言葉を続けた。
「デートなんだから、男が女をリードするのは当たり前よ。さっきから山田君もずっと待ってるんだから」
「健太郎が……?」
 ふと後ろを振り返ると、顔を赤くした健太郎の顔が目に入った。
「な、なんだよ梓……」
「ふーん……?」
 少し考えていた梓だったが、一つうなずくと健太郎の細い手を握り、彼女を先導するようにずんずんと順路を歩き出した。
「わっ……な、何するんだよ……!」
「いいからいいから、行くわよ」
 健太郎は握られた手を振りほどくこともできず、黙って空いた手で帽子を深くかぶり、そのまま梓に引かれていった。
 その後に笑みを浮かべた亜紀子が続く。
 周りの客が興味深い目を向けてきたが、梓も健太郎もそれを無視して熱帯魚やイカの水槽を足早に通り過ぎていった。
 やがて三人がやってきたのは、水槽とパネルに囲まれた円形の部屋だ。
「あれ……?」
「おい梓。ここ行き止まりじゃないのか?」
 健太郎が周囲を見回して言う。彼らが入ってきた入り口以外に通路は見えない。どうやらここは、順路から外れた場所にある展示室のようだった。
「そうみたいね……ま、人もいないしこの辺で少しのんびりしよっか」
「別にいいけどな……ったく……」
 ぶつぶつ言いながら、二人は部屋の隅の長椅子に腰を下ろした。
「あ、ごめん。ちょっとお手洗い……」
 亜紀子がそう言ってまた順路に戻っていく。梓は椅子に座ったまま手をひらひらと振った。
「うん、言っトイレ〜」
「……梓、お前大丈夫か?」
 うるさいわね、と言って梓は長椅子に座り直した。
 健太郎と梓、二年前に首から下が入れ替わった二人が並んで座っている。ふと梓が顔を横に向けると、同じようにこちらを向いた健太郎と目が合った。
「な、何よ……?」
「お、お前こそ何だよ……!」
 何でもない、と口にして梓は視線を下げた。
 ワンピースを押し上げる大きな膨らみ、裾からのぞく白い太ももといった、自分のものだった女体のパーツが目に入り、思わず彼は唾を飲んだ。
「コ、コラ! どこ見てんだよ……!」
 両手で自分の体を抱きしめて隠し、健太郎が叫ぶ。
 顔を除けば、その仕草は完全に女らしいものになっていた。
「べ、別にいいじゃない。その体、元はあたしのだったんだし……」
「今は俺の体だっ!」
 少し顔を赤く染め、梓は座ったまま健太郎に近づいた。手を伸ばし、ワンピースに包まれた細い腰に指を這わす。
「今でも信じられないわ……あたしの体にあんたの首がくっついてるなんて」
「おい、どこ触って――」
 次の瞬間、梓は素早く健太郎の後ろに回りこみ、左手で彼女の口を塞いだ。
「………… !?」
 むーむー言って暴れようとする健太郎の胸を、右手で乱暴に揉みしだく。
 ――わし、わし……ぎゅっ……。
「ん……む、むぅぅっ!」
「まったく……まだ中学生なのに、こんなに大きくなっちゃって……。未由のよりデカいんじゃない? このおっぱい……」
 ブラジャーの中に手を入れ、彼の手が直接少女の肉をもてあそぶ。ワンピースの上から健太郎の尻に硬いモノが押し当てられ、彼女はハッとした。
(こ、こいつ勃ってるのか…… !?)
 それはつまり男になった梓が雄として、元の体に欲情しているということだ。健太郎の背筋に寒気が走り、何とか梓の手から逃れようと身をよじるが、今の二人の力の差は歴然で、彼女は逃げることができない。
 梓の指が健太郎の乳首をコリコリと挟み、激しく刺激してくる。
「むぅ……んんっ! んむぅっ……!」
「何嫌がってんのよ。あたしとこうなりたかったんでしょ? そんなカッコで誘ってきてさ、エッチな女よねー、あんたって」
 梓の言葉に反撃もできず嬲られ、健太郎は目に涙を浮かべていた。
(あ……あぁ、俺……俺……!)
 一方、梓も勃起した性器の扱いに困っていた。本音を言えば今すぐ健太郎を犯したいところなのだが、まさかこんな場所で本番に及ぶ訳にもいかない。
 仕方なく彼は健太郎の口を押さえる手をずらし、強引に彼女の唇を奪った。
 ――ちゅ、ちゅぱ……。
 後ろから首を伸ばし、少女の顔を横向きにして口唇を貪る。
(ん……健太郎、リップクリームなんてつけちゃって……)
 舌は入れずに、柔らかい唇の感触を味わう。
「は……んんっ……んむぅ、んんっ !!」
 口と乳房を同時に梓に犯され、彼女は顔を真っ赤にして喘ぐばかりだ。顔は相変わらずだけど、髪型も昔のままだけど、すごく可愛い。梓はその思いで一杯になって健太郎を責め抜いた。
 椅子の上で夢中になって接吻を続ける二人を、通路の陰から眼鏡の少女が見つめていた。
「うふふ……やってるやってる」
 二人のいる展示室に続く通路にはいつの間にか柵が置かれ、他の入館者が入れないようになっていた。
「やっぱり、元の自分の体同士、相性はいいみたいね……。いいわいいわ……さっすが梓。計画通りよ……うふふふ……」
 梓と健太郎の痴態に頬を朱に染め、亜紀子は陰で二人を見守っていた。
 ――コリッ !!
「……んんっ !!」
 乳首をきつくつままれ、とうとう健太郎はビクビク震えてぐったりと梓にもたれかかってきた。
(ありゃ……イッちゃったか……)
 彼は少女のワンピースから手を引き抜き優しく椅子に寝かせてやると、自分のポケットからハンカチを取り出して、唾で汚れた顔をふいてやった。
「はぁ、はぁ……」
 焦点の合わない目で暗い天井を見上げ荒い息を吐く健太郎は、梓が今まで見たことがないほど艶かしかった。
「ま、本番は後でってことで――」
 健太郎もそうだが、梓も高ぶった自分の体をしずめないといけない。彼は寝転んだ健太郎の横に座り、深呼吸をして落ち着こうとした。
(……でも――)
 ちらりと横目で自分の体を持った少女を見やる。
(でも――どうして、健太郎はあたしに……?)
 今の健太郎は女生徒だが、男にくっつかれるのを非常に嫌っていた。それがなぜ、男になった自分に抱かれようなどと思ったのか。亜紀子のセッティングが常軌を逸しているのはいつものことだが、健太郎の心情の変化を梓は不思議に思った。
 それからすぐに戻ってきた亜紀子と合流し、三人は適当に水槽やパネルを見て楽しんだ。
 梓は健太郎の手を握り、おどおどする彼女を引っ張っていった。
 先ほど無理やりキスされたことには何も言わず黙ってついていったところを見ると、健太郎もあれを嫌だと思わなかったのかもしれない。
 前に立ってどんどん先に進んでいく梓と、その横でパンフレットを片手に楽しそうに彼に話しかける亜紀子と、顔を伏せて大人しく梓に手を引かれる健太郎。奇妙な組み合わせの三人は、こうして水族館から出てきた。

 昼食にはやや遅い時間だが、三人は近くでハンバーガーを食べ、それから公園を少し散策して帰りのバスに乗り込んだ。
 その足で向かったのは、いつものことながら亜紀子の家である。
「おかえりなさい亜紀子。いらっしゃい梓ちゃん。……そっちの子は新しいお友達? うふふ、いらっしゃい」
「こんにちは、おばさん。お邪魔します」
「あら、おばさんだなんてひどいわ。梓ちゃんだったらお義母さんって呼んでくれてもいいのに」
「と言われても……」
「はいはい、もういいでしょ、お母さん」
 お茶とお菓子を受け取った亜紀子は、部屋のドアに鍵をかけた。これで邪魔が入ることもない。梓と亜紀子はさっそく健太郎を裸にひん剥くことにした。
「……おい、いきなりかよ !?」
 と抗議する彼女のワンピースを脱がせる。
「うん――だって、さっきの健太郎を思い出したらもう我慢できなくなっちゃって……」
「私も見てたわよ? 二人とも激しかったじゃない♪」
 ブラを優しく取りながら、亜紀子はそっと健太郎の首筋に舌を這わせた。
 ――ぺろっ。
「……ひゃっ !?」
「またそんな声出しちゃって。困った子ねぇ……」
「そんなの、山田君は女の子なんだから当たり前よ」
 健太郎は全裸にされ、ベッドに押し倒されてしまった。
「綺麗な肌してるわね、健太郎?」
「……言うな」
 上になった梓に誉められ、そっぽを向く少女。梓は健太郎にのしかかって彼女をこちらに向かせ、その唇をぺろりと舐めた。
「んっ……!」
 健太郎は反射的に目を閉じたが、嫌がっていないのは明白だ。そのまま梓が口づけを始めると首を伸ばし、積極的に舌を絡めてくる。
「ん……ちゅぱっ、ちゅる……あ、あずさぁ……」
(――なんだ、こいつも結構やるんじゃん……)
 梓は健太郎を見直した。先ほどの水族館での様子から、やはり彼女が梓の男の体に嫌悪感を持っているのではないかと少し危惧していたのだが、どうやらそうでもなかったらしい。
 亜紀子はと言うと、こっそり健太郎の足や手をとってぺろぺろ舐め回している。
「はむ……ん、健太郎……かわいい……」
「馬鹿言え……ん、くそぅ……」
 ベッドで上下になって絡み合う三人の男女。梓も健太郎も亜紀子も、それぞれ肉の味を存分に味わっていた。
 そのうちに、健太郎の太ももに当たるものがあった。
「……おい、また当たってるぞ。チンコ」
「いいじゃない。元々あんたのでしょ?」
 健太郎の目はぴんと立ったたくましい男性器に注がれている。懐かしさと驚きが半々といった表情だ。
「へえ……俺の、デカくなったんだな……」
「大事に使わせてもらってるわ。これがないと、アキが満足しなくて」
「えへへ〜、ごめん山田君」
「……いや、謝ることじゃない。俺だって、もうすっかりこの体に馴染んじゃったからな……」
 そう言って、健太郎は大きな乳房を梓に見せつけるように揺らした。ボリュームがあり形のいい肉の塊に、ごくりと彼の喉が鳴る。
「さ、触ってもいいよね?」
「その目やめろ、ケダモノ。さっきも散々いじり回した癖に……」
 彼女は興奮する梓を咎め、彼の両手を自分の胸にあてがわせた。
「……ほら、揉めよ」
 頬を赤くして言ってくる健太郎に感謝し、梓は自分のものだった膨らみを上機嫌で揉み始めた。
「んー、この感触……たまんないわね♪ 未由のも良かったけど、やっぱこれには勝てないわぁ……!」
「おい……んっ、もうちょっと、優しく……」
 ――ぎゅっ、わしわし、ぎゅぎゅううっ……!
「んはっ! や、乳首……はあぁっ !!」
「うん、やっぱ健太郎、揉み心地サイコー♪」
 梓は至福の表情で健太郎の乳房を揉み続けている。
「良かったわねぇ梓。やっぱり私のじゃ小さい?」
「うん――あっ、そんなことないよ? アキ」
「ううん、別にいいよ? ……後で仕返しするけど」
 少し冷や汗をかいた梓だったが、今はそれどころではないと、右手を健太郎の腹部に動かし、さらにその下を狙う。
 ――ぴちゃっ。
 そっと触れた陰部は、汗ではない液体で濡れていた。自分の陰茎も興奮しきって、ギンギンに硬くなっている。
……でも、入れる前にもう一つ。
 梓は上から健太郎を見下ろして、上気した顔で言った。
「健太郎……あたしの、舐めてみない?」
 その言葉に少女は目を見開き、顔を硬くした。
 精一杯の虚勢を張って健太郎が唾を吐く。
「なっ――そ、そんなことできるかっ !!」
「別にいいじゃない。自分のチンチンでしょ? おしゃぶりしてよ〜」
「いーやーだっ!」
 ぶるぶる首を振り続ける健太郎を梓はじっと見つめていたが、やがて一つ息を吐いて横にいた亜紀子の方を向いた。
「んじゃアキ、やって」
「うん、いいわよ」
 ベッドの縁に腰かけた梓の前にひざまずき、亜紀子が彼のモノに顔を近づける。
「ほら健太郎、アキがお手本見せてくれるから、ちゃんと見ときなさいよ」
「だから俺はやらねーって……」
 そう言いながらも健太郎は二人から目をそらさず、一挙一動を見逃すまいとしている。亜紀子は白い手で梓の肉棒を持ち、アイスを舐めるように舌を這わせた。
「もう、こんなに硬くしちゃって……」
「だって健太郎見てたら、こうなっちゃったんだも〜ん」
「梓ったら……ん……」
 ――じゅる、ぞり……じゅるるっ……。
 蝶のようにすすり、蜂のように刺し、犬のように舐める。
 緩急自在の亜紀子のテクニックに健太郎は言葉も出ず、じいっと同級生の少女のフェラチオを見つめるばかりだった。
「あ……アキ、アキいぃっ !!」
「あら、まだダメよ?」
 たちまち絶頂寸前になった梓だったが、亜紀子は細い指で梓の性器をぎゅうっと握り締め、射精を許さなかった。彼は苦悶の表情を浮かべ、恨めしげに恋人を見やる。
「あ……やぁ、アキぃ……!」
「さっきの仕返しと、それにこれは山田君に残しておかなきゃ。……山田君、もういいよ?」
「……え? あ、ああ……」
 横から見ていただけなのに健太郎の息は荒く、股からは幾筋もの汁がしたたっていた。その彼女を、梓が獣のような目つきで捉えている。
「は、はぁ……健太郎……い、入れ、させてぇ……」
「あ、梓……」
 このままだと、無理やり犯されかねない。
 恐怖を感じた健太郎は、せめて主導権を握ろうとベッドに仰向けになって、自分から梓を誘うことにした。
「い、いいぜ……来いよ梓……」
「健太郎ぉっ…… !!」
 梓は健太郎に覆いかぶさり、勢いに任せて肉棒を突入させた。
 安井梓。
 山田健太郎。  入れ替わった二人はこうして一つになった。
 力いっぱい突きこませた梓が、欲望のままに健太郎の処女をえぐる。
 ――みち、みちみち……ブチブチッ…… !!
「があぁっ…… !! あぐうぅぅ……っ !!」
 歯を食いしばって悲鳴をあげる彼女を気遣うこともなく、梓は乱暴に健太郎の体に腰を打ちつけた。血と汁でグチュグチュになった膣の中を梓の陰茎が激しく往復し、その苦痛に健太郎は泣きながら叫び続ける。
 主導権をとるどころか、健太郎は抵抗一つできずに責められ続けた。
「うわあ……今日の梓はすごいわね……激しいわ……」
 ――ジー……。
 二人の傍らでは亜紀子が感嘆の声をあげ、健太郎の初体験の様子をビデオカメラに納めている。
 梓も健太郎も撮影を注意するどころか、撮られていることにすら気づかず、ただ交わることに必死になっていた。
 ――ジュポッ、グジュグジュッ、ブチュッ……!
「……ひぃぃ……あ゙あ゙あ゙……!」
「け、けんたろー……き、きつ……うあっ……!」
 梓は苦しい締めつけに悶えながらも、女を犯す快感に酔いしれている。二年前に失った自分の女の体を、男になった自分が犯しているのだ。クラスメートの女子を抱くときとは違う奇妙な興奮を感じながら、梓は処女を失って泣きわめく健太郎を責め抜いた。
(う……あたしのアソコ、チンチンに絡みついて……。す、すごくきついけど……気持ちいい……!)
 性欲と征服欲を同時に満たされ、気持ちよさそうに目を細める梓。健太郎は両手で顔を覆い、声をあげて泣いている。
 その様子からは、彼女が元は男だったことなど想像もできないだろう。初めての痛さと苦しさに、健太郎は女々しく泣き叫ぶことしかできない。
 ――グジュグジュッ……ジュポッ、ジュポッ !!
「ぐう……あ゙あ゙あ゙……やああ……」
(やーね……こんなに泣いちゃって、健太郎ってば。でももしあのとき入れ替わってなかったら、今ごろあたしがこいつにヤられてたのかな……?)
 今はもう有り得ない、女としての自分。それは少し懐かしく切なく、そしてまだ女としては初めても済ませていなかったことを思い出し、梓は真っ直ぐに健太郎を見下ろした。
(そうだ……入れ替わっちゃったけど、これはあたしの体だったんだ……。だからちゃんと、あたしがセックスしてやらないと……)
 堅い意思と責任感から、梓はますます強く腰を振り続ける。
 ――ジー……。
「うふふ、二人ともいい顔よ……そろそろラストスパートかしら♪」
 亜紀子に言われるまでもなく、梓はもう限界だった。
 健太郎は初体験でただ苦しんでいるだけに見えたが、乱暴な梓の犯し具合を考えればそれも仕方ないといったところか。梓は健太郎の細い腰を抱え、ひたすら自分の腰を打ちつけていく。
 ――パァンッ! ジュプッ……パンパァンッ !!
「ゔあ゙あ゙……ゔあ゙あ゙あ゙あ゙……」
「う、あたし……もう、だめ……!」
 意識が遠くなり始めた梓は思いっきり深く突きこんで、肉棒の先に当たる何かに向けて白い子種を注ぎ込んだ。
 ――ビュルルッ !! ブシャアアアッ…… !!
(はあ……出てる、あたし、出してるよぅ……)
 言い知れぬ幸福を感じつつ、梓は健太郎と繋がったまま気を失ってドサリと彼女の上に横たわる。
 健太郎は辛うじて意識を保っていたが、初体験の苦痛と激しさ、自分の心の葛藤にスンスンとすすり泣いていた。
「……はい、お疲れ様」
 亜紀子は撮影をやめると、寝ている梓の体を回して健太郎から引き抜き、タオルを彼女に渡してやった。
「う、うう……お、俺……」
「おめでとう。これで山田君も立派な女よ♪」
 自分に向けられる裏のない笑顔に、健太郎は不思議な気分になった。
 元はと言えば、女の性欲を持て余し始めた健太郎が亜紀子に相談したのが、今日の騒動のきっかけだった。
 ――この体でセックスしてみたい。
 その言葉に亜紀子は嬉しそうにうなずき、梓とのデートを用意してくれた。服装の助言から二人っきりのセッティング、そして初体験の世話。
 なぜ彼女はここまでしてくれたのだろうか。今ごろそれが気になって、健太郎は半泣きながらも亜紀子に尋ねてみることにした。
「う、ひくっ……な、なぁ……尾崎」
「ん、どうしたの山田君? まだ痛む?」
「い、いや……そりゃ痛いけど……。尾崎はどうして、俺を手伝ってくれたんだ……?」
 健太郎の質問に、亜紀子はニコニコして言った。
「だって私、梓が大好きなんだもん。もちろん梓の体になった山田君も好きよ♪」
「……は、はあ……そ、そんなもんか……?」
 やっぱりこいつはよくわからない、と健太郎は首をかしげた。
 今いち納得のいかない顔の健太郎と、気持ちよさそうな顔でベッドに横たわる梓を交互に見つめながら、亜紀子は笑っている。
(この三人でずっと一緒にいること……それが私の願いだもん……)
 彼女は梓と結ばれた。もしこのまま恋人でいられたら、いつか二人は結婚し、家庭を持ち子供もできるだろう。
 亜紀子はそんな理想の将来像を胸に、ずっと梓と付き合ってきたのだ。

しかし。

 梓の首から下は健太郎の体であり、今の梓と亜紀子が子を作っても、それは遺伝的に見れば亜紀子と健太郎の子供である。
 元々梓は女だったから仕方がないのだが、自分の将来の生活に梓に似た子供がいないというのは、亜紀子にとっては少し寂しいものだった。
(……だから、山田君が必要なの)
 自分と梓の子に加え、やがては健太郎にも子を産んでもらって、どちらも仲良く育てていきたい。
 三人で幸せな家庭をつくり、梓と亜紀子と健太郎の子供を沢山もうけること。
 それが今の亜紀子の望みだった。
(うふふ……入籍さえしなきゃ、重婚にはならないわ……うふふふ……)
 いっそ、将来自分の子供と健太郎の子供に交わらせるのもいいかもしれない。果てしなく亜紀子の妄想は膨らんでいった。
「うふふふ……うふふ、うふふふふふふ……!」
「お、尾崎……?」
 ようやく目を覚ました梓が体を起こす。
「……ふああぁ……あ、健太郎タオル貸して。あたしもベトベトだから」
「あ、ああ……なぁ、なんか尾崎が変なんだけど……」
「ああ、あれ? いつものことよ、放っきゃいいわ」
「そ、そうなのか……?」
「……それにしても、健太郎」
 梓はにっこり笑って健太郎に顔を向けた。
「な、な、なんだよ……?」
「体が落ち着いたらまたやろうね♪ 今度は気持ちよくしたげるから」
 その言葉に、健太郎は顔を真っ赤にしてうつむいてしまった。
 精力に満ちたたくましい梓。恥じらう乙女の健太郎。一人で高笑いする亜紀子。
 三人の奇妙な幸せは、まだまだ続きそうだった。


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