うちの姉さん 2

 穏やかで、少々眠たくなってくる昼下がり。
 しゃべる時の癖だろうか、眼鏡を手で押さえ、女が聞く。
「……ではジュリアン様、この『陛下』とはどなたを指していると思いますか?」
「えーと……」
 問われ、彼は必死で記憶の土を掘り起こしたが、目当てのものを発掘する事は出来なかった。
「ではアントワネット様、ご存知ですか」
 屋敷の外の人間は、この少女の事をそう呼ぶ。
「はい、この時代に王の座にあったエドモン四世です」
「よろしい」
 にこりと上品な笑みを浮かべるアン。小柄な体とは対照的な大きな瞳がくりくりと可愛らしい。
「…………」
 ジュリアンが視線を向けると、少女は一瞬だけ、勝ち誇った表情で口を動かす。
 ――当然よ。
 そう言っているようだった。

「ふう……疲れた」
 自室のベッドにゴロンと転がり、彼は息をついた。その背中にアンの叱り声がかかる。
「――なに疲れてんのよ。まったく、あんな問題もわからないなんて、こっちが恥ずかしいわ」
「僕は文学が苦手なの、姉ちゃんも知ってるだろ !?」
「男だったら文句言わないの。私を見なさい、何でもパーフェクトじゃない」
「う……」
 姉は昔から何でもできた。稽古事や学問だけでなく、剣や乗馬すらその辺の男など比べ物にならない。それがまたジュリアンが逆らえない理由でもある。
「――ほら、今お茶入れてあげるから起きなさい」
 アンは白いエプロンを身につけ、カチャカチャと用意を始めた。掃除、洗濯、ベッドメイク、お茶くみ、少女は一人で何でもこなす。
「今の私はあんたの専属メイドだからね。こんなのできて当然よ、と・う・ぜ・ん。ホホホ」
 甲斐甲斐しく世話をしてくれるアンの姿を見ていると、なぜかため息の出てしまうジュリアンだった。

 ジュリアンは伯爵家の長男、やがては爵位を継ぐ身である。貴族らしい見事な金髪碧眼に線の細い整った顔立ち。やや頼りないところもあるものの優しく真面目な性格で、将来有望な貴族の少年だ。今年で17歳になり、年下ながら許婚もちゃんといる。
 しかし、その許婚が最大の問題であった。
 ――ゴシゴシ、ゴシゴシ。
 座ったまま、布で強く背中をこすられる。湯気で満たされた空間は暑く、水分が肌から噴き出す感覚が心地よい。
「はい、前向いて」
 今でもアンは彼を子供扱いする。彼女が姉でなくなりメイド兼許婚になって二年が経つが、それは変わる事がなかった。胸や腹を丁寧にこすられる感覚にくすぐったくなり、ついアンの手から逃げようとしてしまう。
「こら、じっとしてなさい!」
 と、少女に叱られる。
 アンは一糸まとわぬ姿で白い肌を晒していた。結んでいた長めの黒髪も今は垂らし、濡れたひとふさが胸に張りついていた。平らだった胸もこの二年で少しは大きくなり、小ぶりながらもぷにぷにとした柔らかさが見てとれる。
 あれからこの少女とは毎日一緒に風呂に入っているが、アンの肉体がだんだんと色気づいてきている事に彼も気づいていた。
 だが必死に肉欲を抑え、平静を装う。この少女のこと、言えばこっちが押し倒されるのは間違いない。
「――ふう……」
 垢を落とし終わり、ジュリアンは湯船で快い息を吐いた。この辺では貴族や富豪にしか許されない贅沢ではあるが、湯につかるというのは実に気持ちがいい。
 ぴとりと背中に張りついた裸の少女がいなければ。
「…………」
 もはや何の感情も込めず、無機質な視線をアンに向ける。
 だがアンは、何かを勘違いしたらしい。笑みを浮かべ、湯船の中、力一杯抱きついてきた。
(――ああ、柔らかいなあ……)
 半ばのぼせた頭で、少年はぼんやりとそう思った。

 アンはジュリアンの許婚で、たしか体は15歳だったか。わざわざ“体は”とつけたのは、この少女の体には別人の魂が入っているからだった。
 その名はエリザベート。幼い頃からジュリアンの面倒を見てきた姉である。
 だが、エリザベートの弟に対する愛情は常軌を逸していた。家でも外でもジュリアンについて回り、彼に近づく者は男であれ女であれ、容赦なく彼女の剣の錆となった。事あるごとに弟を抱きしめ自由を奪い、着る物から食べる物、靴下ひとつに至るまで姉が選んで与えるのだ。
 ジュリアンも薄々姉の異常さに気づいていたが、小さな頃からこの才色兼備の姉に抑えつけられていたため今さら逆らう気も起きず、黙って服従するしかない。何しろ、剣であれ学であれ、彼が勝てる要素がないのだから。
 しかしそんな姉も、突然舞い込んできた縁談話によって家を出る事が決まり、ジュリアンは生まれて初めて姉の手から解放されるはずだった。
 だがそれに対してエリザベートが打った手も、また常識外れだった。
 メイドの一人と体を入れ替え、血の繋がっていない娘としてジュリアンの許婚になるというのである。彼が反対する間もなく、彼女は父を説き伏せ話を認めさせた。
 そして今、アンの体を奪った姉はジュリアンの婚約者として、また彼専属のメイドとして、一日中彼にくっついている。
「……はあ」
 カップを手に、ジュリアンが息を吐いた。相変わらずアンの入れてくれた茶は美味い。ベッドはしわ一つなく整えられ、主を今か今かと待っている。静かな夜、既に屋敷の住人の大半が床についていた。
「――あら、もうこんな時間。さ、そろそろ寝なさい」
 黒い瞳のメイドはそう言うと、ティーセットを片付けだした。
 アンには以前使っていた立派な部屋があるが、最後に姉があそこで寝た日をジュリアンは覚えていない。小柄な体で彼のベッドにもぐりこみ、毎日一緒に寝るのである。
「アンの体になって良かったわ」
 と彼女も認める、意外な利点である。何しろエリザベートは、ジュリアンとほぼ同じ身長だったのだ。

 明かりの消えた暗い部屋、アンが声を漏らす。
「う……ん……」
 薄目を開けると、こちらを向いた少女の顔が至近にあった。
 だがその目は閉じられ、穏やかな寝息を立てている。
 どうやらただの寝言らしい。安心したジュリアンの視線がアンの顔に注がれる。
(アン……)
 記憶に残る、アンの姿を思い出す。
 内気で、彼以外とはあまり口をきかず、でも真面目で小さな体で一生懸命働いていた、黒いショートヘアのメイド。ジュリアンはそんなアンが好きだった。恋愛とかそういうのではなく、ただ姉から離れてあの可愛らしいメイドと二人でいると、どこか心が安らぐような、満たされた気分になるのだった。
 あの少女は今もすぐ傍にいる。黒いくりくりした瞳でこちらを見つめ、あれこれ世話を焼いてくれる。
 だが違うのだ。姿は同じでも、心が――。
「――ジュリアン」
「………… !?」
 いつの間にか目を開けてこちらを見つめているアンに気づき、ジュリアンは心臓を躍らせた。
「……いい子、寝ている時でも私を想ってくれてるのね」
「ち、違――」
 彼は弁明したが、アンはそう受け取らなかった。
「でも私たちは許婚なの。まだ肌を重ねる事はできないわ」
 ……あれだけ普段ベタベタしておいて、今さら何を言うか。
「あなたも私が好きで好きでたまらないでしょうけど、この体じゃまだあなたを受け入れられないの。いつか契りを交わす日を夢見て、今は眠りなさい」
「はいはい」
「あ、聞いてないわねこの馬鹿!」
 気のない返事をして目を閉じるジュリアンが気に入らないらしく、アンは狭い寝床の中でこちらに密着してきた。
「そりゃ、見目麗しい私の体の方が良かったわよね。でもそれは無理なの、今はこの貧相な体で我慢してちょうだい」
「貧相って……アンは可愛いよ」
 アンの体を悪く言われ、少し不愉快になる。
「そう? 私の体に比べればひどいもんよ。ああ……こんなちんちくりんになって、哀れな私……」
「――全部姉ちゃんがやったんじゃないか。アンだって別に姉ちゃんになりたかった訳じゃなかっただろ。なのに、勝手に体を取られて無理やり結婚させられてさ」
 輿入れを泣いて嫌がった、身代わりのエリザベートの姿が脳裏に浮かび、ジュリアンは姉を咎めだてた。一人の少女の人生を台無しにした自覚があるのだろうか。
「ふーん、随分とあの子の肩を持つのね……」
 しかしアンは細い目でこちらを見やり、言葉を続ける。
「まったく卑しい平民の分際でジュリアンを誘惑して、とんでもない娘だわ。しかも私の体で子供まで作っちゃって、さしずめ棚からぼたもちってところ――」

「いい加減にしてよ !!」

 突然の大声にアンが目を見開く。
「どうしてそんなに勝手なのさ !! 何でもかんでも自分の思い通りにして !! 僕はまだいいけど、アンが可哀想すぎるよ !!」
 今まで見せた事のない、姉への反抗。あまりの驚きに少女は言葉を失い、動けずにいた。
 ジュリアンは起き上がると、寝ている少女に掴みかかった。
「ちょっ…… !?」
 仰向けのまま、両手首をがっちり押さえられる。元の体ならば押し返せただろうが、華奢なアンの体ではジュリアンにかないはしない。
「ジュリアン、何を――」
「うるさい !!」
 少女にのしかかって怒鳴りつけるジュリアン。初めて見る少年の態度に、アンは驚愕し、戸惑っていた。完全に彼女を組み伏せると、乱暴に少女の寝巻きの前を開く。
 ――ブチ、ブチブチッ……。
 ボタンの千切れる音と共に、白い肌が露になる。発展途上の膨らみかけた乳房を丸出しにさせると、ジュリアンは犬のように歯を立て、それにかぶりついた。
「……痛っ !!」
 悲鳴を無視し、荒い息を吐きながら少女の胸を貪る。その手が下に伸び、下着ごとアンの寝巻きを力任せに引きずり下ろす。アンは恐怖のこもった眼差しをこちらに向けていた。
「やめて、ジュリアン――」
「……やめろ、だって?」
 彼は口元を曲げニヤリと笑った。
「姉ちゃんは僕のメイドなんでしょ? なら、ご主人様に逆らっちゃダメじゃないか」
 指を少女の股に差し入れる。触れると、冷たさにアンの体がビクリと震えた。
「主人の言う事が聞けないメイドには、お仕置きが必要だよね」
 左手で小ぶりな乳房を、右手で硬く閉じた割れ目をこする。小柄な少女は抵抗もできず、触れるたびに声をあげ続けた。
「はぁっ……や、やめて、ジュリアン……」
「まだ言うの? そんなうるさい口はこうしてあげるよ」
「……んんっ !?」
「む……ちゅ……」
 小さな唇に吸い付き、舌を差し入れて暴れさせる。苦しげにあえぐアンの口内に彼が唾液を送り込むと、ゴクリと喉を鳴らして彼女はそれを飲み込んだ。
「ん……んん……」
 いつの間にか、いつも勝気な黒い瞳に涙がたまり、それが雫となって少女の頬を流れ落ちた。
 唇を塞がれ、悲鳴も上げられないアンの割れ目からはじっとりと汁がねばつき、ジュリアンの指を湿らせた。乳首も小さいながら一人前に立ち上がり、彼がつねり上げるたびに体が跳ねる。
「んんっ――む……はぁ……」
 たっぷりと口内を犯され、彼女の理性は半ば消えかけていた。
 焦点の合わぬ目がぼうっとジュリアンの碧眼と向かい合う。そこにはいつもの強気な姉の姿はなく、弱々しく犯されようとしているメイドの少女がいるだけだった。
「――ぷはあっ!」
 少年はようやくアンの口を解放すると、嗜虐心に満ちた笑みのまま少女を見下ろした。二人の口の間には唾液の架け橋が一筋、つうっと伸びている。
「それじゃあ、入れてあげるよ……」
 鼠を前にした猫の表情でジュリアンが言う。取り出された陰茎はガチガチに硬くなっており、先走りの汁が垂れてアンの細い太腿に白い線を描いた。
 少年は張り詰めたそれを手で押さえ、狙いを定めてメイドの濡れそぼった下の口に押し当てた。
「あ……あぁ……」
 アンはもはや半泣きで、ジュリアンに逆らう事もできない。その目には、硬く閉じた自分の女陰に侵入してくる弟の硬い肉棒が映っている。
「あ、あああ、ああ……!」
「ん……きつ……」
 呻く少女にも構わず、ジュリアンは割れ目の奥、抵抗を感じる部分に自分自身を突きこんだ。
――メリ、メリメリ……!
「あぐううう…… !!」
 歯を食いしばって痛みに耐えるアンだったが、少年は非情にもそんな彼女の中で前後に動き続ける。
「……ほら、入れてあげたよ」
 勝ち誇った顔のジュリアン。
「こうして欲しかったんでしょ? 僕のチンチンを思いっきり突っ込んで欲しかったんでしょ !? ほら、何とか言いなよ !! ほら !! ほら !?」
「うぁあ――痛い、痛いよぅ……」
「痛いとか言うな !! もっと喜べ !!」
「うぅ――うぅ……」
 ぽろぽろと大粒の涙を流し、姉が自分に犯されている。征服欲の満たされる快感にジュリアンの震えが止まらない。
 予想以上に少女の膣内は狭かった。強く締め付けられる陰茎を何とか前後させ、彼は血の滴るアンの中を存分に堪能していた。
「ああ……気持ちいいよ、姉ちゃん」
「うぅ――ううう…… !!」
「姉ちゃんも気持ちいいだろ、ほら? 僕と繋がってるんだよ、気持ちいいだろ?」
 言葉で嬲るジュリアンに、姉は泣いて首を振るばかりだ。
「やだ……こんなの、やだよう……」
「気持ちいいよね、姉ちゃん! ほら、いいって言えよ !!」
「――あ゙あ゙あ゙っ !?」
 アンの奥底に、根元まで乱暴に突き込む。そのはずみで汁と血の混合液が二人の肌に飛び散った。結合部は真っ赤に染まり、見るも痛々しい有様だ。
 だがジュリアンは責めをやめず、腰を突き込み怒鳴りつけ、散々にアンを嬲り続ける。
「う――はあ……あっ……くう……」
 歯を食いしばって苦しみながらも、少女はだんだん痛みに慣れてきたのかその呻き声が小さくなっていった。
「ん……く……うう……」
 一方のジュリアンもまた、初めての性交にそろそろ限界を迎えようとしている。
「ジュリアン……ああっ……う……」
「ね、姉ちゃん……うあ、く……」
 乱暴に犯される痛みに苛まれ続けるアンは感じるどころではなかったが、それでも激しくなる少年の動きについ声をあげてしまう。
 ジュリアンは少女の腰をつかむと、ラストスパートと言わんばかりに突き、引き、膣内をかき回した。
「くう……ああ、ああっ !!」
「あああああ―― !?」
 先に達したのは少年の方だった。奥まで突き込まれた陰茎の先から白い液がほとばしり、未熟な膣内に音を立てて注ぎ込まれてゆく。アンもまた、自分の中に入ってくる熱い感触に悲鳴をあげ、それが終わるとシーツの上に力なく横たわった。
「はあ……はあ……」
「ふ……はあ……」
 部屋にはしばらく荒い息だけが聞こえていたが、やがてそれも止み、館に真の夜が訪れた。

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 

 夜が明けると、アンは部屋から消えていた。
 ――おかしいな、どこに行ったんだろう。
 ジュリアンは久々に一人で起きると、一人で身支度を整え、汚れたベッドはそのままに一人で食堂に向かった。
「おはよう、ジュリアン」
「……おはようございます」
 父も母もいつも通り、何の変哲もない朝だ。ただ、いつもうるさいばかりに付きまとっていた黒髪のメイドの姿がどこにもない。
 ――カチャ、カチャ……。
 何の会話もなく、食器の音だけが鳴り続ける。そんな状況が十分ほど続いたろうか、やっと伯爵が口を開きジュリアンに話しかけた。
「――ジュリアン」
「はい」
 無表情な両親の様子に不安を感じる。父は表情を硬くした息子をしばらく見つめていたが、 やがて再び口を開いた。
「じきに私は隠居する。後はお前が爵位を継げ」
「――はい?」
 ……どうしてこの父は唐突な話ばかりするのだろう。理不尽さに怒る間もなく、父が話を続ける。
「お前とエリザベートの挙式は来月となった。まだ若いが、妻を持つ以上は爵位を継いでも問題あるまい。私が父の後を継いだのも結婚直後だったしな」
「……な !?」
「まさかお前からあれを手篭めにするとは思わなかったが、相思相愛だとわかり私もほっとしたよ。てっきり、お前は嫌がってるものだと思っていたからな」
「エリザベートをよろしくね、ジュリアン」
「――な、ななな、な」
 まともに言葉も出てこない少年をよそに、和やかな明るい雰囲気が両親を包み込んでいた。
「既に屋敷中がこの話で持ちきりだ。何しろあれが広め回ったので、な」
 ……ここに姉がいない理由がわかった。
 だが、わかってもジュリアンにはどうする事もできない。先ほどを上回る理不尽さに彼がおののいていると、食堂の扉が開いて黒髪のメイドが顔を見せた。
「――おはようジュリアン。それとも旦那様って呼んだ方がいいかしら」
「ね、ねねね、姉ちゃ――」
「予定よりちょっと早くなっちゃったけど、かえってちょうどいいくらいだわ。あんなに激しく愛してくれて、お姉ちゃん感激よ♪」
 頬を赤く染め、アンが両手を握り締める。こちらの言葉を聞く様子はどこにもない。
「これからもずっと二人一緒よ……。子供、何人でも産んじゃうから頑張ろうね!」
 夕べの半泣きでわめいていた姿はどこへやら、そこにはいつもの勝気な姉の姿があった。
 メイドの少女はそのままジュリアンに近づくと、グイっと腕を回して彼の首を挟み込んだ。
「――やってくれたじゃない」
 それは彼にしか聞こえないほど小さく、だがこれまで聞いた中で最も力強く凛とした声だった。
「でも見直しちゃったわ、あんたも男だったのね。またあんなふうに思いっきり愛し合いましょうね、ジュリアン♪」
 結局何も変わっていない。少年はガックリと肩を落とす。
 そんなジュリアンの顔に手を回し、アンはそっと口付けをした。
「ん……」
 今日の少女の唇は、思った以上に甘かった。


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