「おい、清彦。どこに行くんだ?」 「トイレだよ、トイレ。すぐ戻る!」 清彦は友人の問いに早口で返し、急いでグラウンドをあとにした。全速力で校舎に戻り、目指すのはトイレだ。体育の授業の最中に尿意を催し、我慢の限界は目前に迫っていた。 このままでは漏らしてしまう──慌てふためく清彦だったが、廊下の角を曲がったところで、向こうから人影が飛び出してきたのに気がついた。 「わああっ !? どけ、ぶつかる!」 「キャアアアッ !?」 かん高い悲鳴と共に、強い衝撃が清彦を襲った。身体が大きく跳ね飛ばされる感覚を最後に、彼は意識を失った。 目を開けると、ぼんやりした視界に薄汚れた壁が映っていた。どうやら自分は床に横倒しになっているらしい。清彦は手をつき、うめき声をあげてその場に立ち上がった。 (いててて……いったい何が起きたんだ?) 肩の辺りが少々痛むが、怪我をしているわけではないようだ。両手で服についた埃を払い、きょろきょろと周囲を見回す。足元に、体操着を着た男子生徒がひとり横たわっていた。 おそらく、この少年とぶつかってしまったのだろう。清彦はかがみ込み、相手を乱暴に揺り起こした。 「まったく……ひとが急いでるときに、飛び出してくるんじゃない。おい、ケガはないか? 保健室にでも行くか?」 「ううん……わっと、はっぺんど……?」 清彦の呼びかけに男子生徒も意識を取り戻し、むくりと起き上がった。平凡な顔立ちの、どこにでもいるような男子高校生だ。 だが、その少年と視線を合わせた途端、清彦は飛び上がった。 「ひいいっ !? お、お前……!」 「おう、ゆーあーみー? いっつすとれいんじ……」 半ば焦点の合わない目をこちらに向ける男子生徒の顔に、清彦は仰天した。一瞬、これは夢ではないかと疑った。 清彦の目の前にいるのは、なんと清彦自身だったのだ。 「お、俺がいるっ !? ど、どうなってんだよ、これはっ!」 「わい、じゃぱにーず? なぜあなた、日本語ですか?」 床にへたり込んでいる「清彦」は、怪訝な表情で彼に問いかけてくる。清彦と同じ顔、同じ声、同じ体操着……相手の特徴は全て清彦と酷似していた。 異変はそれだけではなかった。 ふと自らの身体に違和感を覚えて、清彦は視線を下に向けた。なぜか清彦は女子の体操着を身に着けており、その胸元で二つの大きな膨らみが揺れていた。ずっしりと重い豊満な乳房が、清彦の胸に備わっているのだ。 「なんじゃこらあっ !? なんで俺の胸にこんなもんがっ !?」 そう叫んだ声も、自分のものとは思えないほどかん高い。さながら子供か女にでもなってしまったかのような錯覚を抱いた。いや、これは錯覚ではないのかもしれない。もしかすると本当に──。 (な、何だよこれは。俺の体、いったいどうなっちまったんだ?) 得体の知れない恐怖に駆られ、慌てて傍らの窓をのぞき込んだ。 壁と同じく薄汚れた安物の窓ガラスにうっすらと映っていたのは、見慣れた自分自身の姿ではなかった。そこにいたのは、明るい金色の髪を持つ白人の少女だった。清彦はその顔が誰のものかを知っていた。 「ア、アリサっ !? 俺、アリサになってるのか !?」 あろうことか、窓ガラスに映っているのはアリサだった。 彼の家でホームステイしている外国人留学生のアリサ=リチャードソン。そんな名前の女子高生が、汚れた窓ガラスの中で驚愕の表情を浮かべていた。 清彦はしばらく息を止めて、窓に映るアリサとにらみ合った。いくら食い入るように眺めても、清彦の顔が映ることはなかった。 「どうなってるんだよ。どうして俺がアリサに……」 自分のものではない女の声で清彦はつぶやく。やや長めの金髪を頭の後ろで束ねた碧眼の美少女が、今の清彦の姿だ。あまりにも摩訶不思議な事態に、ひたすら狼狽するしかない。 「あのう……あなた、誰ですか? 私ではないですか?」 おそるおそる話しかけてきた「清彦」の顔を眺めていると、口からため息が漏れた。 「はあ……俺がアリサになったってことは、まさかアリサは俺になってるのか? おい、アリサ。俺は清彦だ。わかる? 俺たち、どうやら体が入れ替わっちまったみたいだ」 「体が入れ替わった? わっとだずいっみーん?」 「つまり俺がアリサになって、アリサが俺になってるんだよ。俺についてきてくれ。トイレに鏡があるから、そこで自分の姿をよく確かめてみろよ」 清彦はアリサの手を取り、そばにある男子トイレに連れて行った。アリサの心が入った彼の体は、洗面所の鏡に両手をついて目を丸くした。 「おう、清彦? 私、清彦になってるですか?」 「そうだよ、アリサ。俺とお前の体が入れ替わっちゃったんだ。原因はよくわからないけど、もしかすると、さっき派手にぶつかったからかもしれない。だけど、まさかこんな漫画みたいなことが本当に起きるなんてな……」 深刻な口調で告げると、アリサは感心したようにぽんと手を叩いた。 「あんびりーばぼー! 私と清彦、ぼでぃを交換しましたか? すごいでーす! ぐぅれいとっ!」 「いや、何だよその反応は。もうちょっと慌ててくれよ……」 意外に楽しそうなアリサの態度に調子を狂わされたが、今はのんびりと話に興じている場合ではなかった。早くこの異常事態の原因を見つけて、元の体に戻らなくてはならない。 (でも、どうしたら元に戻れるんだ? やっぱり、さっきみたいに思いっきりぶつからないといけないのか?) 身体がぶつかるだけで中身が入れ替わってしまうなどと、にわかには信じがたい。しかし他に思い当たる原因もないため、やはり衝突時のショックでこうなってしまったとしか思えなかった。だとすると、もう一度強くぶつかれば元に戻れるかもしれない。 「よし、アリサ。もう一度ぶつかってみよう。そしたら元の体に戻れるかもしれん」 「ちょっと待って下さい、清彦。こんなときに悪いのですけど……」 「なんだ?」清彦はきょとんとしてアリサを見つめた。 「私、トイレに行ってきていいですか? 急に行きたくなりました……」 アリサは内股になってもじもじしている。清彦はなぜ先ほど自分が廊下を走っていたのかを思い出した。 「あっ、そうだ。そういえば俺、小便がしたくて急いでたんだった。今は俺とアリサの体が入れ替わってるから、俺の代わりにアリサが小便したくなったんだな」 「うう……私、おしっこしてきます。も、もう我慢できませんっ」 「おい、待てよ。俺の体でトイレに行く気か? なんか抵抗があるんだが……」 清彦はアリサの手を握って引き止めようとしたが、間近に迫った尿意をいつまでも我慢させておくわけにはいかなかった。先にぶつかって元に戻り、自分の体で小便をすることも考えたが、肝心の膀胱が衝突の衝撃に耐えられない恐れがある。 結局は、このままアリサを便所に行かせるしかない。清彦はしぶしぶ手を放して、男子トイレに駆け込む彼女を見送った。 「やれやれ……まあ、しょうがないか。それにしてもアリサ、大丈夫か? 俺の体で小便なんてできるのかな」 その直後、悲鳴があがった。 「おおうっ !? 私のここに変なものがついてまーすっ! 何ですかーこれはっ !?」 「はあ、言わんこっちゃない……」 清彦はトイレにずかずかと足を踏み入れ、奥の個室のドアを叩いた。 「アリサ、ここを開けてくれ。俺が何とかしてやるから」 きい、と音をたてて木製のドアが内側から開いた。アリサは体操着のズボンとボクサーパンツを足首まで下ろし、洋式便器に腰かけて途方に暮れていた。 「おーう、わっとしゃらいどぅ? 清彦、私わかりません。この体でどんな風にしたらいいんでしょうか?」 内股になった脚の付け根に、中途半端に勃起した一物がそそり立っている。なよなよした情けない自分の姿に、アリサになった清彦は呆れ果てた。 「いいんだ、いいんだ。別にアリサは悪くない。男の小便の仕方なんてわからなくて当然だろ? 教えてやるから、ほら立って」 清彦はアリサの手を引いて立たせ、彼女を便器と向かい合わせにした。 「そーりー、清彦……」 「気にするなよ、困ったときはお互い様さ。いいか? 男は基本的に立ったまま小便するんだ。ほら、便器を狙って構えて」 と、アリサの下半身に手を伸ばし、自分のものだったペニスをつまみ上げる。 「おおうっ」と困惑の声があがり、アリサの頬に紅が散った。「な、なんでしょう、この感覚……おうっ、これがぺにすの感じですか?」 「おいおい……感心するのはいいけど、できたら自分で持ってくれよ。元は俺のものとはいえ、こうしてると他人のを触るみたいで、なんだか気持ち悪いんだ」 「の、のーっ。私、そんなことできません。お願いですから、このまま触ってて……おうっ、ううんっ」 アリサは男子高校生の体をくねらせて悶えた。自分の股間についているものが不気味で、触ることができないらしい。 「しょうがないな。じゃあ、このまま押さえててやるから出してくれ。アリサの手が汚れちまうかもしれないけど、そのくらいは勘弁な」 「は、はい……ああっ、なんだか変です。ぺにすが……清彦、日本語でこれはなんと呼ぶですか?」 「これ? 日本語ではチンポだな。でも下品な表現だから、あんまり外で言わない方がいいぜ」 アリサにそう言い聞かせ、男性器の先端を指でもてあそんだ。細長く形のいいアリサの指が自分のものを握っているのだと思うと、いくら他意がないとはいえ、どうしても妙な心地にさせられる。 「はい、わかりました。チンポ……ああっ。チンポがぴくぴくしてます」 「……いいから早く小便してくれ。俺まで変な気分になっちまう」 「は、はい。もう出ます。ううう……」 「よし、出してくれ。しっかりきばるんだぞ」 体育の授業で汗ばんだ「アリサ」の身体を「清彦」に密着させ、握った男性器の先端を便器に向けた。 アリサが下腹に力を込める。手の中の肉棒の内部を、生暖かいものが流れていくのを清彦ははっきりと感じた。 「おっ、出てきたな。アリサ、見ろよ。小便出てるぞ、ほら」 「ううっ、小便出てる。小便出てまーす……」 アリサの下腹部から放たれた黄色い液体が、放物線を描いて便器に流れ落ちていく。見慣れたはずのありふれた日常の現象に、今は不思議と見入ってしまう。 (アリサが俺の体で小便してる。考えてみたらすごい話だよな……) 体の芯がかあっと熱くなった。純真で素直な外国人の美少女が、自分の男の肉体で放尿しているのだ。清彦はごくりと唾をのみ込み、アリサが排泄を終えるまで、自分のものだったペニスをぐっと握りしめていた。 やがて水流は収まり、小便が終わった。清彦は男性器の先を軽く振り、雫を切ってやった。 「ほら、終わったぞ。早くしまって、パンツはいてくれ」 「お、終わりましたか? で、でも……チンポが熱くて変になりそうです」 繊細な手の中で、アリサのペニスがムクムクと膨張する。たくましい陰茎の表面に血管が浮きあがり、清彦は目を剥いた。 「おい、アリサ! なんで勃起してんだよ !?」 「ボ、ボッキ? 何のことかよくわかりません……」 アリサは困惑した目で清彦を見た。男の生理現象にどう対処していいかわからず、大いに戸惑っているようだ。 「いいから、これしまえっ! 教室に戻るぞ、ほら!」 「で、でも……清彦、お願いです。もうちょっとチンポ触っていて下さい」 「何ぃっ !? そんなことできるわけないだろう!」 あまりにも突拍子のない申し出に、清彦は度肝を抜かれた。慌てて一物から手を離し、再度アリサにそれをしまうよう促した。 (まったく、何を考えてるんだ。アリサのやつ……。それにしても、俺のチンポってあんなに大きくなるのか。やっぱり他人の視点から見ると全然違うな) 愛着のある己のペニスが鎌首をもたげ、こちらを威嚇しているようにも見える。今は自分が女で、アリサが男になっていることを強く意識させられた。 我知らず視線が下を向いて、先ほどから胸元でゆさゆさ揺れている、豊かな脂肪の塊に見入ってしまう。高校生とは思えない巨乳だった。 (これがアリサのおっぱい……重い。やっぱりすごいサイズだな。今はこれが俺のもの。いや、おっぱいだけじゃない。手も脚も顔も、アリサの体が全部俺のものなんだ……) 自分がアリサの身体を丸ごと所有している。常軌を逸した異様な状況に置かれて心臓の鼓動が速まり、体がますます熱を帯びた。そうするうちに、清彦は自分も尿意を催していることに気づいた。 (ヤバい、俺も小便したくなってきた。でも、これはアリサの体だぞ? そんなことをしたら、アリサの大事なところが見えちまうじゃないか……) 迷っている間にも、アリサの膀胱は一刻も早い開放を清彦に訴えてくる。清彦は困り果て、股間を押さえて赤面した。 「わっと? どうしましたか、清彦」 「ええっと……それが、俺も小便したくなって……」 「おう、それなら早く小便しなくてはいけません」 アリサは清彦の体を押さえて、強引に便器に座らせた。「お、おい……」とあげた抗議の声もお構いなしだ。 細い腕をアリサにぐっとつかまれると、満足に抵抗することができない。男と女の力の差を否応なく実感させられた。 「私は清彦の体で小便しました。さあ、清彦も小便しなさい。それで私と清彦はお互い様です」 「おい、待ってくれ。俺はアリサの体で小便なんかしたくないぞ。それより早く元に戻る方法を探さないと──」 「今はそんなこと言ってられません。さあ、早く」 清彦は抵抗したが、聞く耳を持たないアリサによって、体操着の下とショーツをずり下ろされてしまう。隠すものの無くなった股間が空気に晒され、排泄の欲求が一気に高まった。 (ううっ、小便したい。でも駄目だ。アリサの体で小便なんかできない……) 清彦はアリサの身体を見てしまわないように目を閉じ、括約筋に力を込めた。小便を躊躇してしまうのには、もう一つ理由があった。女の肉体で放尿するなど男の矜持が許さないのだ。 「ダメです、清彦。我慢はよくありません」 排尿を拒み続ける清彦に苛立ちを覚えたのか、アリサは清彦の正面にかがみ込んだ。白く長い脚が無理やり開かれ、女の園に手が這わされる。生い茂った陰毛に指が絡み、清彦に未知の感覚をもたらした。 「ああっ、何をするんだ。やめてくれっ」 「我慢してはいけません。早く小便しないと私の体が困ります。さあ、出しなさい。それとも、こうしたら出ますか?」 アリサの爪が引っかくように割れ目を擦る。もどかしい感触に清彦の腰が浮き、小刻みに震えた。 「だ、駄目だっ。やめるんだ、アリサっ」 清彦は目を閉じたまま腕を振り回したが、力で勝るアリサに抗えるはずがなかった。追い詰められた清彦の女性器を男の手が這い回り、速やかな排泄を促した。 「やめろ、アリサっ。駄目だっ。あっ、ああっ、ヤバいっ」 尿意が背筋を駆け巡る感覚に襲われ、清彦は戦慄した。男と違い、女の体には蛇口がない。もう限界だった。 「ううっ、出るっ。小便が──あああっ」 とうとう決壊した尿道口から生暖かい黄金色の液体が溢れ出し、じょぼじょぼと音をたてて清彦の忍耐を押し流した。 「ああっ、出てる。俺、アリサの体で小便してる……」 どこかほっとした少女の声が聞こえた。鈴の鳴るような高く透き通った声。それは清彦自身の声だった。原始的な欲求が満たされた喜びに、全身の筋肉が弛緩するのがわかった。 (小便がアソコからこぼれてる。はあ……女の小便ってこんな感じなのか。すごい) 男のそれとは異なり、女性の陰部から勢いよく放たれる小便は「飛び散る」とでも表現するのがよいだろうか。自分の尿で肌が湿って少しばかり気持ち悪いが、それがかえって倒錯した興奮を与えてくれる。 清彦はペニスの存在しない股間から心行くまで小水を垂れ流し、生まれて初めて体験する異性のエクスタシーに酔いしれた。 トイレを出ると、清彦はアリサを連れて足早に教室に戻った。 最初は自分の席につこうとしたが、周囲のクラスメイトに指摘され、アリサの席に座らなくてはならないことに気がついた。 (はあ、なんでこんなことになっちまったんだ……) しぶしぶアリサの席に腰を下ろし、机に突っ伏してため息をついた。上半身を机に押しつけていると、アリサのものだった大きな乳房が身体と机とに挟まれ、豊かな弾力を感じる。 (胸が窮屈で落ち着かねえ。俺、本当にアリサの体になってるのか) 今の自分が男の体ではないのだということを改めて思い知らされ、清彦はますます沈んだ気分にさせられた。 しばらくすると次の授業を担当する教師が入ってきて、ぐるりと教室を見回した。 着替える時間がなかったため、清彦もアリサも体操着のままだ。若い男性教師は二人に棘のある視線を投げかけたが、幸いにも口に出して叱られることはなかった。 授業が始まり、清彦も教科書とノートを机上に広げた。汗ばんだ身体の火照りがまだ完全には収まっておらず、少々気持ちが悪い。加えて、時おり周りの男子生徒たちからちらちらと見られているような感覚を覚えて落ち着かなかった。 無理もない。抜群のプロポーションを誇る白人の巨乳美少女が、汗をたっぷり吸った体操着を着たまま、すぐ近くで授業を受けているのだ。うっすらと透けて見えるピンクのブラジャーや、むっちりと柔らかそうな太ももが、思春期の男子の関心を集めるのは当然のことだ。 着替えてくればよかったと清彦は後悔したが、今さらどうしようもなかった。 (どいつもこいつも俺の体をのぞいてやがる。いくらアリサの体でも、俺は男なんだぞ。気持ち悪い……くそっ、これからどうしたらいいんだ。本当に元に戻れるのか、俺たちは?) 漫画やアニメで登場人物の身体が入れ替わってしまうという内容の話は何度か見たことはあったが、まさか自分がそのような目に遭うとは夢にも思っていなかった。まるで現実の世界からフィクションの中へと唐突に迷い込んでしまった気分だった。 不快な環境が、清彦の想像を悪い方向へと誘導する。もしもこのまま元に戻れず、一生アリサの肉体でいなければならなくなったらと思うと寒気がした。 短期留学生のアリサは、来月には国に帰らねばならない。それまでに二人が元の体に戻らなければ、清彦がアリサの代わりに日本を離れることにもなりかねなかった。 (そんなの絶対にごめんだ。でも、どうすれば元に戻れるんだ? やっぱり、もう一度アリサと思い切りぶつかってみるしかないのか) 入れ替わったときの状況から、不意の衝突が原因なのは明らかだった。だが、もう一度あの現象を引き起こせるかと問われれば、何とも自信がなかった。 身体が勢いよくぶつかっただけで精神が入れ替わってしまうのならば、同じような事態が世界中で頻繁に起きていてもいいはずだ。しかし、そんなニュースは聞いたことがない。ということは、何か稀有な出来事が自分たちの身に起こったのだと考える方が自然だ。 (どうすれば元に戻れる? どうしたらいい。一体どうしたら……) じっと考え込んでいると、教師が清彦の名前を呼んだ。反射的にはい、と答えて顔を上げてから、清彦は今の自分の外見が本来の自分のものでないことを思い出した。 「アリサ、どうしてお前が返事をするんだ? 俺が今呼んだのは清彦だぞ」 「す、すいません。間違えました。あははは……」 愛想笑いで誤魔化し、自分の身体になったアリサの方を見やった。清彦の視線にアリサもようやく自分が呼ばれたことに気がついたようだ。ここは彼女に「清彦」のふりをして対応してもらうしかない。 「はい、てぃーちゃー。でぃすいずキヨヒコ。何かご用ですか?」 「何を言ってるんだ、お前は。ご用ですかじゃない。ほら、問三を答えてみろ」 「問三……ふーむ、いっつでぃふぃかると。そーりー、私カンジ読めマセーン」 「ふざけるな!」 教師は教卓を激しく叩いてアリサを怒鳴りつけた。「そんな不真面目な態度が許されると思っているのか !? 何が『私カンジ読めマセーン』だ! 小学校からやり直せ!」 「わっどぅーゆーみーん !? カンジが読めないから読めないと正直に言っただけです。私は悪くありませーんっ!」 「なにぃっ !? 貴様、教師を馬鹿にしやがって! 許せんっ!」 (おいおい、アリサ。俺の体で何やってんだよ……) いきなり教師と口論を始めたアリサを、クラスメイトの皆がくすくす笑っている。自分の身体が笑いものにされていることに清彦は赤面した。穴があったら入りたかった。 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 放課後、二人は真っ直ぐ自宅に帰った。もし家に母親がいたら体が入れ替わったことを隠し通すのに苦労しただろうが、幸いにも今日は病気で入院している祖父の見舞いのため外出しており、帰りが遅くなると聞いている。 「あいむほーむ。ただいま帰りましたー」 「やれやれ、何とか帰ってこれたな。今日はめちゃくちゃ疲れた……」 清彦はアリサの声でぼやいて、階段をのぼり自分の部屋に向かった。その後ろにアリサがついて、清彦の部屋の中に入ってくる。 「あれ? 珍しいな、アリサ。お前、いつもはまず自分の部屋で着替えるのに」 「だって着替えが……私、清彦の部屋で着替えないといけませんから」 「そういやそうだな。ってことは、俺はアリサの部屋で着替えるのか? どうも気が進まないな……」 同い年の留学生のプライバシーを侵害してしまうことに気後れする。ところがアリサは嫌がるどころか、逆に嬉しそうに清彦の手をとって、彼女の部屋に行くよう促した。 「気にしないで下さい、清彦。着替えなら体育のときにもありましたし、それに清彦になら下着でも裸でも、何を見られたって構いません。信用していますから」 「アリサ……」 「その代わり、私も清彦の体を好き勝手させてもらいますね。ハアハア……さっきチンポをシコシコしてもらったあの感覚、もう忘れられませーん……」 「おいっ !? 何だよ、その不穏な発言は !?」 アリサに食ってかかったが、彼女は清彦の顔で怪しく笑いながら、着替えのためと称して彼を部屋から追い出してしまう。鍵のかかる無情な音がした。 「アリサ、ここを開けろっ。俺の体で変なことをするんじゃないっ」 「心配しなくても、着替えが終わったら開けてあげます。その間に清彦もあっちの部屋で着替えてきて下さいねー」 「くそっ。まったく、どうしてこんなことに……」 途方に暮れたが、今はアリサの言葉に従うほかない。アリサの部屋はこの隣だった。元々物置にしていた部屋だが、今回のホームステイに際して急遽アリサにあてがわれることになったのだ。元が物置とはいえ必要最小限の家具は揃っており、少々狭いのを我慢すれば、快適な空間と言っていい。 (さて……アリサの着替えはどこにあるんだ? この壁にかかってるやつか) 部屋に入って最初に目に入ったブラウスとスカートのセットを手に取る。本人の許可を得てはいるものの、今、自分が着ているセーラー服を脱いで、アリサの肌を剥き出しにするのにはやはり抵抗があった。 何気なく視線をやった先に大きな姿見があり、そこには金髪碧眼の少女が映っている。それはアリサになった清彦自身だった。清彦は姿見の前に立ち、変わり果てた己の姿に見入った。 「俺がアリサで、アリサが俺か。まるで漫画みたいな話だな……」 声だけでなく体も顔も、今の清彦の肉体全てがアリサ=リチャードソンという名前の女のものだった。自分が外国人の女子高生になって、代わりにアリサが日本人の男子高校生になっている。あまりにも奇怪な事態に、現実感を喪失してしまいそうになる。夢を見ているような気分だった。 (それにしても、やっぱり可愛いな、アリサの顔。ちょっと性格におかしなところはあるけど、明るくて優しいし……) 鏡に映るアリサを観察しながら、彼女がこの家にやってきた経緯を思い出す。 清彦の父は現在、海外に単身赴任をしており、現地での同僚の娘がアリサだった。彼女は日本に強い興味を持っていたらしく、その話を聞いた清彦の父が、それならばとアリサに自分の家でのホームステイを勧めたのだ。だが、そのアリサと息子の肉体が入れ替わってしまうなどとは、父もまさか想像しなかっただろう。 清彦は鏡の前で汗ばんだ制服を一枚ずつ脱ぎ捨てていく。アリサを汚しているように思えて落ち着かなかったが、着替えを始めた自分自身の姿から目が離せないのも事実だった。 平均的な日本人のものより明らかに白い手足はすらりと長く、体格もどちらかと言えば細身の印象を受ける。しかし尻や胸部のラインは充分に女性らしい丸みを帯びて、清彦の目にはとても魅力的に映った。 (これがアリサの胸……柔らかいけど弾力があってぷるぷるだ) ピンクのブラジャーに包まれた乳房を手のひらに載せ、肉の重みを確かめる。クラスメイトの女子の誰よりも大きなこのバストが自分のものだと思うと、無性に興奮してしまう。 「す、すごいな。女の子の胸って、こんな感じなのか」 貫禄のある乳房を握りしめていると、心臓の鼓動が速まる。鏡の中のアリサが頬を朱に染め、熱っぽい眼差しで清彦を見返していた。色っぽい少女の表情に、彼は動揺を隠せない。 (アリサがこんな顔をするなんて……中身は俺だってわかってるけどドキドキするよ) 呼吸が乱れ、抑えきれない興奮が体温を上昇させる。発情の対象は自分自身だった。女子高生の肉体に入った少年の心が、変容した自己の姿に誘惑されているのだ。 (下着も脱いでいいのかな? いや、いいわけないだろ。脱いでいいのは制服だけだ。下着を脱いでアリサの裸を拝むなんて、そんな破廉恥な真似ができるか。でも……) 白魚のような指が、ゆっくりとショーツに吸い寄せられる。薄い布地の上から股間に触れた。本来はそこにあったはずの大事な器官が無くなっていた。その代わり、わずかに盛り上がった肉の中央に窪みがあった。入れ替わった直後に小便を放出した場所だった。 (これがアリサのアソコの感触……このアソコも、今は俺のものなのか) ごくりと生唾をのみ込み、股間の割れ目を布越しに撫でた。今まで異性と肉体関係を持ったことのない清彦にとって、女性器が自分の身体に備わっているという事実はあまりにも強烈だった。 年頃の男子の好奇心は一度触っただけでは到底満足しなかった。中腰になって太ももを大きく開き、痒いところを掻くように長い爪で股ぐらを二度、三度となぞった。 「ああっ、駄目だ。こんなところを触ったら駄目なのに……あっ、ああっ」 アリサの声で清彦は喘いだ。真っ赤な顔で己の股間をいじくる半裸の白人少女の姿が、鏡に余すところなく映っていた。秘所から染み出した水分が指先を濡らし、心地よい刺激と高揚を彼にもたらす。他人の肉体で味わう背徳的な官能が、潔癖な少年を篭絡しようとしていた。 (いけない。このままじゃ、俺──) 心のリミッターが外れようとしていた。更なる刺激を欲した手が邪魔なショーツを剥ぎ取ろうとして、唐突に動きを止めた。 「清彦。着替えはまだですか? 私は先に下に行きますから、着替え終わったら下りてきて下さいね」 突然、部屋の外からかけられた声に、清彦は我に返った。声の主が廊下を横切り、階段を下りていく足音が聞こえた。アリサがリビングに向かったのだ。 (何やってんだよ、俺は。よりによって、アリサの体でこんなことを……) ようやく分別を取り戻すと、今まで自分がしていた浅ましい行為を思い出し、これ以上ない羞恥の念が湧き上がった。顔から火が出そうだった。ついさっき自分がアリサを怒鳴りつけたというのに、その自分がこのようないかがわしい行為に熱中してしまうとは思いもしなかった。 (はあ……俺、最低だ。こうなったら一刻も早く元の体に戻らないとな。このままじゃ俺の忍耐がもたねえ) 清彦は胸の内で己を激しく罵倒し、着替えを再開した。着慣れないブラウスとスカートを身に着け、アリサの部屋を後にした。 階段を下りると、リビングにコーヒーの香りが漂っていた。テーブルの上に湯気を立てるカップが二つ置かれている。アリサが淹れてくれたのだ。 「清彦、お菓子か何かないですか?」 「えーと、そこの棚にクッキーが入ってると思う」 「ああ、これですね。さんくす」 アリサは棚の上からクッキーの缶を取り出し、清彦と隣り合わせにソファに座った。 「それで、着替えはうまくできましたか?」 やましい心を見抜かれたような気がして顔が強張る。彼女の身体をもてあそんだことへの罪悪感で、目を合わせることができなかった。 「あ、ああ。そっちこそどうだった。俺の体に変なことはしなかっただろうな」 「おふこーすあいでぃど。する気まんまんだったんですけど、途中で無性にはんぐりぃになりまして、先に食べるものを食べてからにしようかと……」 「やっぱりするつもりだったのかよ !?」 「だって、せっかくぼでぃすわっぷしたんですから、清彦の体がどうなってるか興味あるじゃないですか。清彦もそうでしょう?」 と、アリサは白い歯を見せる。あまりに大胆な発言に、おどおどしている自分が馬鹿馬鹿しく思えてきた。 「いや、俺はそんなことはないけど……それにしても俺たち、一体どうしたら元に戻れるんだろうな」 清彦は沈鬱な顔をして、熱いコーヒーを喉に流し込んだ。今まで鏡の中でしか見たことのなかった自分の顔が、隣で旨そうにクッキーを頬張っている。そして清彦自身はか弱い少女の肉体になった。はたして元の体に戻れるのかという危機感が募り、非常に気弱になってしまう。 うつむいてコーヒーをすすっていると、突然アリサがこちらを向いた。 「清彦、キスしましょう」 「ぶっ !?」 思わず吹き出した。焦げ茶色の液体が白のブラウスに降りかかり、慌ててそれをハンカチで拭った。 「ア、アリサ……今お前、なんつった?」 聞き間違いかと思ったが、アリサは特に照れる様子もなく、清彦の目をじっとのぞき込んでくる。冗談ではなく、真面目に言っているようだ。 「キスしましょう、清彦。私が好きなふぇありーているには、王子が姫にキスをすると元に戻る話がたくさんあります。ひょっとしたら私たちも、キスをすれば体が元に戻るかもしれません」 「いや、それはおとぎ話だろ。そんなことで元に戻れるわけないって……」 清彦は首を振ったが、アリサは強情だった。両肩をつかんでゆっくり顔を近づけてくる。自分自身の顔をこれほど間近で見るのは初めてだった。 「お、落ち着け、アリサ。お前はそれでいいのかよ? 俺なんかとキスするなんて」 「大丈夫です。自分とキスをすると思えば、何ともありません。それに、清彦となら私はおーけいです」 「お、俺ならいいって、何だよそれ……んんっ」 アリサが清彦の口を自分ので塞いだ。二人の唇がぴったり触れ合っていた。アリサは清彦の背中に腕を回し、彼の細い身体を抱きしめた。 (俺、アリサとキスしてるのか。男の俺が女になって、男になったアリサとキスしてるなんて……) アリサの鼻息が顔にかかり、くすぐったさに震える。 相手が男だというのに、不思議と嫌悪は感じなかった。アリサの身体だからかもしれないが、細かい理屈はよくわからない。ただ一つ確かなのは、こうして目を閉じてアリサと繋がり合っていると、胸が高鳴ってどうしようもなく興奮してしまうということだ。 「……戻りませんね。私たちの体」 呼吸が苦しくなってきた頃、アリサはようやく口を離した。清彦の目に飛び込んできたのは可憐な白人少女の姿ではなく、平凡な日本人の男子高校生の顔だった。やはり入れ替わったままだった。 「ほら、だから言っただろ? キスしたくらいで元に戻るわけないって」 「そうですね。でも、もう一度……もう一度、キスをさせて下さい」 「ええっ?」 驚く清彦の唇が再び奪われる。今度はただ触れるだけではなく、繋がった口を通して舌が入ってきた。前歯を押しのけて口内に侵入してくるざらざらした粘膜の感触に、清彦は戦慄した。 (ううっ、舌が中で暴れてる。アリサのやつ、なんて大胆なんだ) 唾液に濡れた舌が蠢いて、口腔を隅々まで愛撫していた。歯茎や頬の裏までなめ回すアリサの動きに、清彦は翻弄されるばかりだ。頭にかあっと血がのぼり、正常な意識を少しずつ剥ぎ取っていく。 「ううんっ、んっ。ぷはあっ。はあっ、はあ……」 口内に押し込まれた唾液を嚥下し、赤ら顔でアリサを見上げる。アリサも彼と同じように酸欠と興奮で息を荒くしていた。 「ふふふ……清彦、可愛い。べりーきゅーとです」 「何だよそれ。これはアリサの体だろ? 自分の顔に向かって可愛いなんて……」 「でも本当です。清彦とこうしてると、すごくドキドキするんです。ほら、ここだってこんなになってます」 アリサは清彦の手を握り、己の股間を触らせた。ズボンの中で、硬い肉の塊が盛り上がっていた。 「馬鹿っ、なんてものを触らせるんだよ。女のお前が俺を相手にチンポおったてるなんて、絶対におかしいぞ」 「だって、今の私は男です。女の子の清彦にチンポ硬くするのは当たり前です」 「そ、それはそうかもしれないけどさ。でも、だからってこんなの……」 膝を擦り合わせて乙女のようにもじもじする清彦。アリサはそんな彼に体重をかけ、ソファに押し倒した。上になったアリサに両腕を押さえつけられ、清彦は仰天した。 「わっ !? な、何するんだよっ」 「そーりー、清彦。清彦があんまりきゅーとなので、つい……でも、多分私は悪くないです。不可抗力というやつです」 「そんな言葉、どこで覚えたんだよ。や、やめろっ。そんなところを触っちゃ駄目だっ」 アリサの手が清彦の豊かな胸をわしづかみにしていた。先端が硬くなり始めた乳房がブラウスとブラジャーの上から揉みしだかれ、身体が敏感になっている清彦を激しく喘がせる。 「だ、駄目だ、アリサ。こんなの──あっ、ああっ」 「心配しないで下さい、清彦。できるだけ優しくしますから」 「そ、そんな問題じゃない。お前、自分が何やってるかわかってんのか? 自分の体を襲ってるんだぞ。こんなのレイプじゃないか」 「いいえ。これは愛です、清彦。日本に来てあなたと初めて会ったときから、ずっとあなたのことが好きでした。もう我慢できません。これは正当な『らぶ』の行為なのです」 アリサは清彦の声でそう言い、清彦の胸に顔をうずめて口づける。思いもよらぬ発言に、清彦は目を丸くした。 「俺のことが好きって……アリサ、そうだったのか? それは嬉しいけど、こういうことは元の体に戻ってからにしようぜ。体が入れ替わったままでこんなの、俺は嫌だよ」 「いやあ、そんなこと言われても……可愛くなった今の清彦を見ていたら、無性にムラムラして、チンポの奥がムズムズするんです。ああ、これが愛なのですね……」 「愛じゃねえええっ! 単に欲情してるだけじゃねえかっ! 何がムラムラだよ! おっさんかお前はっ!」 「いけません、清彦。我慢はぽいずんです。優しくしてあげますから、私と一緒にらぶめいきんぐしましょう。ふぁっくと言い換えてもいいですけど」 「嫌だっ! 俺はこんなの絶対に──あっ、やめろっ。ああ、あふっ」 暴れる清彦のうなじを、アリサの指がつっと撫で上げた。小鳥がついばむような他愛のない口づけを首筋に浴びせかけられ、かん高い声を抑えられない。 「優しくする」というアリサの発言に嘘はなく、彼女は清彦の心を絡めとるように入念な愛撫を繰り返した。そのうちに、もがいていた清彦の体から少しずつ抵抗する力が抜けていく。 「や、やめろ、アリサ。もういい加減にしてくれ。あんっ、あっ、あああ……」 衣服を脱がされ、下着とソックスだけの姿にされた。アリサは彼の体じゅうに唾液を塗りたくり、巧みに女子高生の肉体を燃え上がらせた。太ももに押し当てられる硬い感触は、アリサが清彦を求めている証だった。 「清彦、愛してます。だから私を受け入れて下さい」 「ああんっ、駄目だ。流されちゃいけないのに……あっ、ああっ、あふっ」 清彦の口から熱い吐息がこぼれた。アリサの手がショーツの布地越しに女の園をまさぐっていた。二人で学校のトイレにこもり、互いの性器を慰め合った記憶が頭をよぎる。女の芯から蜜がとろりと染み出し、薄いショーツの布地を汚した。 (ああ……俺、アリサの体で気持ちよくなってる。こんなことしちゃ駄目なのに……) 駄目だ駄目だと己の理性が心の奥で訴えかけていたが、身体の奥から湧き上がるとろけるような官能の前では、何の歯止めにもならなかった。抵抗する意思と力を失った清彦から、最後の砦だったショーツが脚を伝って腰から引き抜かれた。アリサという名の裸体があらわになった。 「これが私の体……毎日見てるはずなのに、今はすごくドキドキします。清彦、ここは日本語でなんと呼ぶですか?」 と、アリサは清彦の秘所に手を当てて問う。指が陰毛をかきわけて肉の扉を撫で回していた。 「駄目だよ、アリサ。そこは女の子の大事な場所なんだから、そんな風に触っちゃ駄目だ……」 「教えて下さい、清彦。ここはなんて呼ぶんですか?」 アリサの指が陰唇をこじ開け、濡れそぼった膜を左右に押し広げた。綺麗な薄桃色の肉びらが指の腹で摩擦され、絹を裂くような悲鳴があがる。肉づきのいい白人少女の肢体がソファの上で跳ね回った。 「ああっ、そんな──はああっ、駄目。言えない……」 「清彦、教えて。教えてくれるまでやめません」 「わ、わかった。わかったからやめてくれ。そこはおマンコって言うんだ。ああっ、おマンコいじらないでっ」 「おマンコ? あいしー、ここはおマンコですか。清彦のおマンコ、ヌルヌルしてますよ。もう準備おーけいですね」 アリサは素早く服を脱ぐと、はち切れんばかりに膨れ上がった男性器を見せつけた。清彦は息をのんで自分のものだったペニスに見入る。硬い切っ先は先走りの汁で光り、黒々とした威容をさらしていた。 (アリサのやつ、本気で俺とするつもりなのか? 俺、まだ女の子としたことないのに……。でも、体が熱くておかしくなりそうだ。アリサ自身が望んでるわけだし、いっそのこと、このまましちゃってもいいか? でも、やっぱりそれは……) 混乱した頭の中で、ばらばらの思考が渦を巻く。恐怖は少なからずあったが、その一方で清彦の心の隅では、このまま状況に流されてしまおうと囁く声もあった。 困惑が収まらぬまま呆然としていると、両脚をMの字に曲げられ、正面からアリサがのしかかってくる。硬い穂先が女の入り口にあてがわれた。童貞の清彦がアリサに処女を奪われようとしていた。 「いきますよ、清彦。私の初めてをもらって下さい。一緒に愛を実らせましょう」 「ううう……わかった、もういいよ。どうにでもしてくれ」 諦めの言葉を了承と認識したらしく、アリサは微笑みを浮かべて腰をぐっと突き出した。しかし入れる場所がよくわからないようで、亀頭はぬるぬると表面を滑るだけだ。いっこうに膣内にもぐり込んでくる気配がない。 「あれ、入らない? 清彦、チンポが入らないです……」 途方に暮れるアリサを、清彦は呆れた顔で見上げた。 「何やってんだよ、お前は。多分この辺……んっ、そうそう。そのまま……あっ、ああっ、いつっ」 身体を串刺しにされて悶える清彦。破瓜の痛みはそれほどでもなかったが、腹の中にズンと異物を突き込まれる感覚に、動揺せずにはいられない。アリサのものが清彦の性器をみっちり埋め尽くし、内側から押し広げた。 (ううっ、きつい。これが女の感覚なのか……) 初めて牡の肉塊を受け入れる苦しさに、呼吸さえ満足にできない。まるで下腹に太い杭を打ち込まれているようだった。 「大丈夫ですか、清彦?」 細められた視界の真ん中に「清彦」の心配そうな顔があった。一応、こちらを気遣ってくれているらしい。 「ちょっと待ってくれ。アソコがじんじんして……すまん、しばらく動かないでくれよ」 「おーけぃ。わかりました」 アリサは清彦を貫いたまま、彼の細い腰に腕を回して抱きしめてくる。本来は清彦がアリサを気遣う側なのに、身体が入れ替わっている今は立場も反対だった。そのうちに処女喪失の痛みも少しずつ収まり、強烈な圧迫感だけが残る。 「はあ、だんだんマシになってきたな……んっ、これなら大丈夫か? アリサ、少しだけなら動いていいぞ。じっとしてるのも辛いだろ」 「さんきゅー。じゃあお言葉に甘えて……」 我慢していたのだろう。アリサは慣れない様子で腰を前後に動かし、自分のものだった処女を貪る。男と女の粘膜が音をたてて擦れ合い、挿入のときとは異なる苦痛を清彦にもたらした。 「ううっ、中で擦れてる。痛いけど、なんか変な感じ──うんっ、ううんっ」 「おおう……清彦のおマンコ、とっても狭くてきついです。でも温かくて気持ちいい……」 アリサはうっとりした表情で何度も腰を打ちつける。肉体を交換した状態での清彦とのセックスが、可憐な少女を虜にしていた。 「あああっ。待ってくれ、アリサ。もうちょっと優しく……ああっ、あうっ」 「そーりー、でもこれ以上は──ああっ、何か出そうっ。あはああっ、出るっ」 歓喜の声をあげて震えるアリサ。血のにじむ結合部を通して、生暖かい何かが胎内に注ぎ込まれるのを感じた。 「おおう、わんだほうっ。私の愛が清彦の中に入っていきます。とても気持ちいいです……」 「お、おい。まさか出したのか? アリサ、お前中出しなんて……妊娠したらどうするんだよ」 青ざめて訊ねると、アリサは満ち足りた顔で清彦に笑い返した。 「のーぷろぶれむ、清彦。私の家は敬虔なクリスチャン・ホームで保守派です。熱心な共和党支持者です」 「……クリスチャンとか保守派とかよくわかんねーけど、それが何だってんだよ?」 「私のぺあれんつ、決して人工中絶は認めません。産むと言えば応援してくれます。だから安心して、元気なべぃびぃを産んで下さい」 「安心できるか、ボケえええっ !! 俺、お前の体で自分の子供を産まされるのかよ !? そんなの絶対嫌だぞっ! 早く俺の体を返せっ! そんでお前が産めっ! 妊娠してたらの話だけどっ!」 「いけません、清彦。私は男の子の快感を知ってしまいました。ああ……こんなに気持ちいいのに、今さらこの体を清彦に返すなんてできませーん」 「ふざけたこと言ってないで、俺の体を返せっ! なんで男の俺が痛い思いして、お前を満足させないといけないんだよ !? 普通は逆だろうが、普通はっ!」 清彦は激しく噛みついたが、彼の叫びがアリサを感銘させたようには見えなかった。アリサは早々に射精に至ったことを反省するでもなく、ペニスを清彦の中に埋めたまま、彼の身体に覆い被さってキスをしたり、巨乳に吸いついたりしてオーラルセックスの真似事を楽しんだ。積極的なアリサの愛撫に、処女を失ったばかりの清彦の体も、少しずつ苦痛以外の感覚を覚えて疼き始めた。 「うう……アリサ、もういい。お前も満足しただろ? いい加減にやめろよ。んっ、ああっ、あんっ」 「いいえ、まだです。清彦は気持ちよくなってませんし、それに私ももう一度……今度は清彦と一瞬に気持ちよくなりたいです」 若々しい男子高校生の肉体が、一度の射精で満足するはずがなかった。膣内に埋め込まれた陰茎が見る間に硬度を取り戻し、みなぎる活力を見せつける。清彦は驚きの目でアリサを見上げた。 「やめろ、アリサ。俺はこれ以上、お前の体でセックスなんかしたくないんだ。あっ、やだっ、ああんっ」 「嘘はいけません。清彦、すごくいやらしい顔をしてます。とってもせくしぃで可愛らしいです」 と言いながら、アリサは鼻の穴を膨らませて清彦を穿つ。先ほどに比べれば往復はスムーズだった。破瓜を済ませた膣内で男女の体液が混ざり合い、肉棒の動きをより滑らかにしていた。 (は、激しい。硬くて太いチンポが俺の中に出たり入ったり……ああ、こんなの耐えられねえ。おかしくなっちまう) 正常位で激しく打ちつけられる腰の動きが、物慣れない清彦に女の喜びを教え込む。力強いピストン運動にたくましさを感じた。 「はああっ、あんっ、ああんっ。す、すごい……」 「清彦、愛してます。清彦、清彦……」 「あうっ、あううっ。ア、アリサ、俺も……ああっ、あんっ、アリサ好きっ」 何度も繰り返される愛の囁きが、清彦の頑なな心を融かす。いつしか清彦はアリサの身体にしがみつき、倒錯した性交を自ずから受け入れていた。 (俺、アリサの体で気持ちよくなってる。男の俺が女になって、アリサに犯されてる。こんなことしちゃいけないのに。妊娠しちゃうかもしれないのに……ああっ、もう何も考えられないっ) アリサの先端が子宮の入り口を小突き、清彦の心に鮮烈な快感を植えつけた。本当に子供を孕んでしまいそうな錯覚を覚えて背中が震える。泡立った体液が亀頭と子宮口に押し潰され、卑猥な音色を奏でた。 「も、もうダメ……な、何かくる。おかしくなるっ。ああ、イクっ、イクっ」 色めいた女体がしなり、ペニスを千切れそうなほど締めつけた。視界に赤い光が明滅した。清彦は浅ましい声をあげて絶頂へと舞い上がる。だらしなく頬を緩ませ、アリサの肉体で感じるオルガスムスにのめり込んだ。 「おおうっ、締まる。清彦、私も──ああっ、出るっ。精子出ますっ」 アリサは清彦の体に腰をぐいぐい押しつけ、獣じみた声を放った。 二度目の膣内射精が清彦を襲った。胎内に注ぎ込まれる熱い樹液の感触が清彦を魅了し、妊娠の恐怖さえ忘れさせる。四肢をアリサの身体にきつく巻きつけ、燃え盛るようなエクスタシーに陶酔した。 「ああっ、アリサ。俺──ううん……」 心地よい余韻に包まれて、清彦は意識を失う。白人少女の肉体を得た少年は元の自分の体と抱き合い、これ以上ない幸福を味わいながら恍惚の闇に心を沈めた。 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 目を覚ました清彦は、突如として自分が上になっているのに気がついた。 「あれ? 俺、どうなったんだ……」 「ううん、重いです。誰ですか? どいて下さい」 「アリサ? おい、お前。アリサなのか?」 と、身体の下に横たわる金髪の少女に訊ねる。先ほどまでとは反対に、清彦が柔らかな女体を組み伏せていた。 繊細な顔をじっとのぞき込むと、アリサはうっすら目を開いた。澄みきった深い湖の色の瞳が、清彦の顔を映していた。 「おう、清彦? あなた、清彦ですか?」 「ああ、そうだ。俺は清彦で、お前はアリサだ。どうやら俺たち、元に戻ったみたいだな。よかった……」 清彦は安堵の息をついた。もしかすると一生アリサの姿でいなければならないかもしれないと思っていただけに、喜びもひとしおだった。 「りありぃ? おおう、まいがっ。本当です。元に戻ってまーすっ」 アリサは胸や腹を触って自分の身体を確かめた。その口調が何となく不満そうに思えたので、ひょっとすると元に戻りたくなかったのかもしれない。感激している自分とは対照的なアリサの態度に、清彦は呆れるしかなかった。 「何言ってるんだ。元に戻ったんだから素直に喜べよ。まったく」 「はあ……あいむでぃさぽいんてぃ。私はずっと清彦の体のままでもよかったです。私になった清彦はべりぃきゅーとだったのに、元に戻ってしまうなんて……」 「うるさい、これでいいんだよ! 元々この体は俺のもんなんだから!」 「はうっ……!」 清彦が体を揺らすと、アリサは艶かしい声をあげて身をよじった。驚いて体を見下ろすと、いまだ二人の性器は繋がったままだった。 (アリサの中に俺のが入ってる。そういえば、これが俺の初体験なんだよな。あいにくロストバージンの記憶しかないけど……) ハプニングばかりの一日だったが、一応はこれで全て元通りということになる。安心すると、アリサと繋がっている実感が今さらのように湧き上がってきて、若い清彦の興奮を煽る。アリサの膣に埋まったペニスが、みたび膨張を始めた。 「おおうっ、清彦うぇいと。動かないで……ぬ、抜いて下さーいっ。あうちっ」 「悪い、アリサ。せっかく元に戻ったんだから、俺にもやらせてくれ。お前だって散々俺の体で好き勝手したじゃないか。だからいいよな?」 「そ、そんな……ダメです清彦。早く抜いて。あうっ、あうんっ」 「ううっ、これが女の子の中か……なんて気持ちがいいんだ。チンポが擦れて、アリサが絡みついてくる」 清彦はアリサのきゃしゃな腰をつかみ、取り戻したばかりの身体を激しく打ちつけた。充分にほぐれた膣の味わいが彼を魅了し、男女の感覚の違いをつぶさに教えてくれる。清彦は必死に腰を動かし、今まで自分のものだった白人少女の体を貪った。 「うおおっ、すげえ。熱くてトロトロだ。女の体も気持ちいいけど、男もたまんねえっ」 「ああっ、あんっ。な、何ですかこれは。おマンコが擦れて……はうっ、はああっ。いっつとぅはーどっ。こんなの、おかしくなっちゃいます……」 アリサの豊かな乳房が上下に揺れ動き、清彦の獣性を煽った。胎内に埋め込まれた肉棒がめいっぱい膨れ上がり、幾度目かの射精の準備を整える。腰ががくがく震えて、清彦は己の限界を悟った。 「ヤ、ヤバい。もう出る。イクぞ、アリサっ」 「そ、そんなっ。中で出したらダメです……ああ、ダメっ、ダメなのにっ。あーっ!」 「ううっ、出る……!」 脈動する男性器からまたしても多量の精があふれ出し、アリサの胎内に染み込んでいく。やっと男の本懐を遂げた気分で、清彦はひたすら子種を注ぎ込んだ。 本能を満たした達成感に包まれて、火照った陰部から抜け出した。精魂尽き果ててソファに倒れ込むと、アリサが涙目で彼をにらみつけてきた。 「清彦、ひどいです。私はやめてって言いましたのにぃ……」 「そんなことを言われてもな……第一、最初にやろうって言い出したのはアリサの方じゃないか。すごく痛かったんだぞ、俺」 「そ、そういえばそうでした。うーむ……まあ、しょうがないので細かいことはのーぷろぶれむにしておきます。でもこうなったからには、きちんと責任とってもらいまーす」 アリサは頬を赤くして、清彦の体にすがりついてくる。アリサの意図をはかりかねて清彦は首をかしげた。 「責任とれって言われても……一体どうしろって言うんだよ」 「おふこーす、私とつき合ってもらいます。今日から私たちは恋人同士でーす」 「ええっ、ホントか? お前はそれでいいのかよ。俺なんかとつき合うなんて……」 「いえす。さっきも言ったじゃないですか。私、もう清彦にベタボレのメロメロでーす。あなたがいないと生きていけませーん。清彦は私のことが好きではないですか?」 相変わらず本気なのか冗談なのか測りかねる奇妙な言い方だったが、本人は真剣に告白しているつもりなのだろう。同い年の美少女が、自分に本気で交際を申し込んでくれている。清彦は感極まって、アリサを優しく抱きしめた。 「俺もアリサのことが好きだ。つき合ってくれるのなら彼女になってほしいけど……でも、もうすぐ国に帰っちまうんだろ?」 自然と声のトーンが落ちる。しかしアリサは明るく笑って、清彦のたくましい胸に顔をうずめた。 「どんとうぉーりー。向こうに帰っても、またすぐにこっちに来ます。日本のハイスクールに通えれば一番いいですけど、それが無理でも何とかしてこっちの大学に入るつもりです。あっちは学費がバカになりませんし、それに日本のかるちゃーはとても面白いし、あと、何よりこっちには清彦がいますから」 思いもよらない返事だった。清彦はアリサの金髪を撫で、ふっと笑い返した。 「そうか、楽しみにしてる。また一緒に学校に通えるようになったらいいな」 「みーとぅー。私もそう思います」 無邪気な青い瞳が清彦の目をのぞき込んでいた。頭に血が上り、清彦は照れ隠しに顔を背けた。本気でこの少女に惚れてしまったことに、彼自身が驚いていた。 「まあ、そういうわけだから……これからもよろしくな、アリサ」 「はい、こちらこそ末永くよろしくお願いします。ついでにまた清彦のぼでぃを貸してくれると、べりぃはっぴぃでーす。あのチンポの快感、忘れることができません……」 「すまん、それは勘弁してくれ。ああいうのはもう耐えられん……」 ここに至るまでの顛末を思い出すと、激しい脱力感に見舞われる。今日は清彦が初めてアリサと交わった記念すべき日だが、同時に彼が処女を失った日でもあった。入れ替わった身体でセックスに及んだことは早く忘れてしまいたかった。 こうして、清彦はアリサ=リチャードソンと相思相愛の仲になった。だが、今回の事件をきっかけにして、自分がアリサと容易に中身が入れ替わる体質になってしまったことに、このときの清彦はまったく気づいていなかったのである。 一覧に戻る |